特許第5997703号(P5997703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997703生物学的材料の保存及び分析のためのセルロース基材、組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997703
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】生物学的材料の保存及び分析のためのセルロース基材、組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20160915BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20160915BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20160915BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   G01N1/00 101H
   G01N1/28 J
   G01N27/62 X
   G01N27/62 V
   C08B15/06
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-543128(P2013-543128)
(86)(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公表番号】特表2014-500501(P2014-500501A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】SE2011051484
(87)【国際公開番号】WO2012078104
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年12月3日
(31)【優先権主張番号】12/964,363
(32)【優先日】2010年12月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】パディッラ・ド・ジーザス,オマイラ
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,デイヴィッド・アール
(72)【発明者】
【氏名】アルバーツ,ウィリアム・シー
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−066723(JP,A)
【文献】 特表2009−523458(JP,A)
【文献】 特表2010−519507(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/013735(WO,A2)
【文献】 Juho Sirvio et al.,"Periodate oxidation of cellulose at elevated temperatures using metal salts as cellulose activators",Carbohydrate Polymers,2011年 1月30日,Vol. 83, No. 3,pp. 1293-1297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 1/28
G01N 27/62
C08B 15/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式Iの構造単位を含むセルロース基材に生物学的試料を接触させることによって生物学的試料からの遺伝学的材料又は検体を保存する方法。
【化1】
式中、
X及びYは独立にN−O−L−A又はOであるが、YがOである場合にはXがN−O−L−Aであり、XがOである場合にはYがN−O−L−Aであることを条件とし、
Lは直接結合、脂肪族基、芳香族基、脂環式基又はこれらの組合せであり、
AはCOOH又はSO3ある。
【請求項2】
Lが−(CH2n−(式中、nは1〜20の整数である。)であるか、Lが直接結合であってAがSO3Hであるか、或いはLがヘテロ原子置換されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Lが−(CH2n−Z−(CH2m−であり、
nが0〜20の整数であり、
mが0〜20の整数であり、
ZがO、NH、C(O)NH、NHC(O)、N(CO)N、O(CO)O、N(CS)N、O(CS)O又はこれらの組合せに等し、請求項2記載の方法。
【請求項4】
生物学的試料が頬側試料、脳脊髄液、糞便、血漿、血液、リンパ液、尿、精液、膣液、腺分泌液、細胞又はウイルスの懸濁液、ウイルスプラーク、血清試料或いはこれらの組合せである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
さらに、セルロース基材上で生物学的試料を乾燥する段階、及びセルロース基材を乾燥した生物学的試料と共に24時間以上保存する段階を含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
さらに、遺伝学的材料又は1以上の検体をセルロース基材から抽出する段階含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
生物学的試料からの遺伝学的材料又は検体を保存するための物品であって、次の式Iの構造単位を含むセルロース基材を含む物品。
【化2】
式中、
X及びYは独立にN−O−L−A又はOであるが、YがOである場合にはXがN−O−L−Aであり、XがOである場合にはYがN−O−L−Aであることを条件とし、
Lは直接結合、脂肪族基、芳香族基、脂環式基又はこれらの組合せであり、
AはCOOH又はSO3ある。
【請求項8】
Lが−(CH2n−(式中、nは1〜20の整数である。)であるか、Lが直接結合であってAがSO3Hであるか、或いはLがヘテロ原子置換されている、請求項7記載の物品。
【請求項9】
セルロース基材の製造方法であって、
酸化C2−C3開環セルロースを次の式IIの置換アミノオキシに接触させ、式IIをセルロース基材に結合させるのに有効な時間及び温度に保つ段階と、
酸化C2−C3開環セルロースを洗浄して未反応の式IIの置換アミノオキシを除去する段階と
を含む方法。
【化3】
式中、
Lは直接結合、脂肪族基、芳香族基、脂環式基又はこれらの組合せであり、
Aは−COOH又は−SO3ある。
【請求項10】
Lが(CH2n−(式中、nは1〜20の整数である。)であるか、Lが直接結合であってAがSO3Hであるか、或いはLがヘテロ原子置換されている、請求項9記載の方法。
【請求項11】
Lが−(CH2n−Z−(CH2m−であり、
nが0〜20の整数であり、
mが0〜20の整数であり、
ZがO、NH、C(O)NH、NHC(O)、N(CO)N、O(CO)O、N(CS)N、O(CS)O又はこれらの組合せに等し、請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的材料の保存及び分析のためのセルロース基材、組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FTA(登録商標)紙(GE Healthcare,Whatman Inc.、ピスカタウェイ、米国ニュージャージー州)は、各種の生物学的試料からの遺伝学的材料(例えばDNA)を収集し、輸送し、保存し、保管するための信頼できる手段であることが判明している。FTA上に保存された試料の精製及び増幅のための簡単な技術が開発され、広く使用されている。また、薬物代謝及び毒物動態(TK)試験を含む薬物動態(DMPK)分析のようなFTA分子技術を用いる一層新しい技術も開発されている。多くの場合、分析は固定化DNA試料を含む紙上で直接に実施できる。他の場合には、DNAをまず紙から溶出することで、DNAを溶液(FTA Elute(登録商標))中に遊離させる。溶出は、DNAを可溶化し得る溶液を用いる様々な洗浄サイクルによって行うことができ、またかかるプロセスに熱、真空又は遠心分離を適用することもできる。
る。
【0003】
現行のFTA紙は魅力的な性質(例えば、興味ある成分の安定化及び低い安全性ガイドラインを可能にする抗菌特徴)を提供するものの、現行のFTA紙の欠点の1つは、DMPK及びTKタイプの試験に適用した場合に浸出し得る成分が紙上に存在することである。かかる成分は、薬物及び代謝産物或いは他の検体の下流分析を妨害することがある。
【0004】
FTA紙技術の使用を拡大するためには、妨害性の浸出分の問題なしに、かつ紙の抗菌性及び親水性/吸上げ性のような他の望ましい特徴を維持しながら、生物学的試料を紙上に保存する方法が必要である。
【0005】
欧州特許出願公開第1534269号は、例えば多糖に対するオキシムコンジュゲートを記載しているが、生物学的材料の保存及び分析用の基材として有用ないかなる紙処方物も開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
欧州特許出願公開第0815879号明細書
【発明の概要】
【0007】
一実施形態では、本発明は、次の式Iの構造単位を含むセルロース基材に生物学的試料を接触させることによって生物学的試料からの遺伝学的材料又は検体を保存する方法を提供する。
【0008】
【化1】
式中、X及びYは独立にN−O−L−A又はOであるが、YがOである場合にはXがN−O−L−Aであり、XがOである場合にはYがN−O−L−Aであることを条件とし、Lは直接結合、脂肪族基、芳香族基、脂環式基又はこれらの組合せであり、AはCOOH又はSO3ある。
【0009】
一実施形態では、本発明は、生物学的試料からの遺伝学的材料又は検体を保存するための物品であって、式Iの構造単位を含むセルロース基材を含む物品を提供する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、式Iの構造単位を含むセルロース基材及びその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読んだ場合に一層よく理解されよう。添付の図面中では、図面全体を通じて類似の部分は同一の符号で示されている。
図1図1は、陽性対照(現行のFTA紙)及び陰性対照(非修飾紙)の両方を含め、様々な表面化学及び処方を用いて処理した紙からの抽出分のLC−MSトレースである。
図2図2は、様々な化学的方法及び分子ファミリーを用いて処理した各種の紙の吸上げ性能のグラフ表示である。アミノオキシ/アミンファミリーに関しては、標準の陽性及び陰性対照に加えて、対応する酸化紙が対照として含まれている。
図3図3は、様々な紙処方物に関するパーセント回収率で表される複数モデル薬物の検体回収率を示している。
図4図4は、様々な紙処方物に関して抽出物中で定量された平均LPC(リソホスファチジルコリン)で表されるリン脂質保持性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
特許請求される発明の主題を一層明確で簡潔に記載しかつ指摘するため、以下の説明及び添付の特許請求の範囲中で使用される特定の用語に関して以下に定義を示す。
【0013】
脂肪族基は、1以上の炭素原子を有する原子価1以上の有機基であり、線状又は枝分れ原子配列であり得る。脂肪族基は、窒素、硫黄、ケイ素、セレン及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。脂肪族基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含み得る。例えば、4−メチルペント−1−イル基はメチル基を含むC6脂肪族基であり、メチル基がアルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロブト−1−イル基はニトロ基を含むC4脂肪族基であり、ニトロ基が官能基である。脂肪族基は、同一のもの又は相異なるものであってよい1以上のハロゲン原子を含むハロアルキル基であり得る。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1以上のハロゲン原子を有する脂肪族基には、ハロゲン化アルキルであるトリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2−ブロモトリメチレン(例えば、−CH2CHBrCH2−)などがある。脂肪族基のさらに他の例には、アリル、アミノカルボニル(−CONH2)、カルボニル、ジシアノイソプロピリデン(−CH2C(CN)2CH2−)、メチル(−CH3)、メチレン(−CH2−)、エチル、エチレン、ホルミル(−CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(−CH2OH)、メルカプトメチル(−CH2SH)、メチルチオ(−SCH3)、メチルチオメチル(−CH2SCH3)、メトキシ、メトキシカルボニル(CH3OCO−)、ニトロメチル(−CH2NO2)、チオカルボニル、トリメチルシリル((CH33Si−)、t−ブチルジメチルシリル、トリメトキシシリルプロピル((CH3O)3SiCH2CH2CH2−)、ビニル、ビニリデンなどがある。さらに他の例としては、「C1〜C30脂肪族基」は炭素原子数1以上30以下のものである。メチル基(CH3−)はC1脂肪族基の例である。デシル基(即ち、CH3(CH29−)はC10脂肪族基の例である。
【0014】
脂環式基は、環状であるが芳香族でない原子配列を有する原子価1以上の基である。脂環式基は1以上の非環式成分を含んでいてもよい。例えば、シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)は、シクロヘキシル環(環状であるが芳香族でない原子配列)及びメチレン基(非環式成分)を含む脂環式基である。脂環式基は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。脂環式基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの1以上の官能基を含み得る。例えば、4−メチルシクロペント−1−イル基はメチル基を含むC6脂環式基であり、メチル基がアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロシクロブト−1−イル基はニトロ基を含むC4脂環式基であり、ニトロ基が官能基である。脂環式基は、同一のもの又は相異なるものであってよい1以上のハロゲン原子を含み得る。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1以上のハロゲン原子を有する脂環式基には、2−トリフルオロメチルシクロヘキス−1−イル、4−ブロモジフルオロメチルシクロオクト−1−イル、2−クロロジフルオロメチルシクロヘキス−1−イル、ヘキサフルオロイソプロピリデン−2,2−ビス(シクロヘキス−4−イル)(−C610C(CF32610−)、2−クロロメチルシクロヘキス−1−イル、3−ジフルオロメチレンシクロヘキス−1−イル、4−トリクロロメチルシクロヘキス−1−イルオキシ、4−ブロモジクロロメチルシクロヘキス−1−イルチオ、2−ブロモエチルシクロペント−1−イル、2−ブロモプロピルシクロヘキス−1−イルオキシ(例えば、CH3CHBrCH2610O−)などがある。脂環式基のさらに他の例には、4−アリルオキシシクロヘキス−1−イル、4−アミノシクロヘキス−1−イル(H2NC610−)、4−アミノカルボニルシクロペント−1−イル(NH2COC58−)、4−アセチルオキシシクロヘキス−1−イル、2,2−ジシアノイソプロピリデンビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(−OC610C(CN)2610O−)、3−メチルシクロヘキス−1−イル、メチレンビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(−OC610CH2610O−)、1−エチルシクロブト−1−イル、シクロプロピルエテニル、3−ホルミル−2−テトラヒドロフラニル、2−ヘキシル−5−テトラヒドロフラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(−OC610(CH26610O−)、4−ヒドロキシメチルシクロヘキス−1−イル(4−HOCH2610−)、4−メルカプトメチルシクロヘキス−1−イル(4−HSCH2610−)、4−メチルチオシクロヘキス−1−イル(4−CH3SC610−)、4−メトキシシクロヘキス−1−イル、2−メトキシカルボニルシクロヘキス−1−イルオキシ(2−CH3OCOC610O−)、4−ニトロメチルシクロヘキス−1−イル(NO2CH2610−)、3−トリメチルシリルシクロヘキス−1−イル、2−t−ブチルジメチルシリルシクロペント−1−イル、4−トリメトキシシリルエチルシクロヘキス−1−イル(例えば、(CH3O)3SiCH2CH2610−)、4−ビニルシクロヘキセン−1−イル、ビニリデンビス(シクロヘキシル)などがある。「C3〜C30脂環式基」という用語は、炭素原子数3以上30以下の脂環式基を包含する。脂環式基2−テトラヒドロフラニル(C47O−)はC4脂環式基を代表する。シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)はC7脂環式基を代表する。
【0015】
芳香族基は、1以上の芳香族原子団を有する原子価1以上の原子配列である。これは、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。好適な芳香族基には、フェニル基、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、ナフチル基、フェニレン基及びビフェニル基がある。芳香族原子団は4n+2(式中、「n」は1以上の整数である。)の「非局在化」電子を有する環状構造であり、フェニル基(n=1)、チエニル基(n=1)、フラニル基(n=1)、ナフチル基(n=2)、アズレニル基(n=2)、アントラセニル基(n=3)などで例示される。芳香族基はまた、非芳香族成分を含んでいてもよい。例えば、ベンジル基はフェニル環(芳香族原子団)及びメチレン基(非芳香族成分)を含む芳香族基である。同様に、テトラヒドロナフチル基は芳香族原子団(C63)が非芳香族成分−(CH24−に縮合してなる芳香族基である。芳香族基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロ芳香族基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、チオ基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの1以上の官能基を含み得る。例えば、4−メチルフェニル基はメチル基を含むC7芳香族基であり、メチル基がアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロフェニル基はニトロ基を含むC6芳香族基であり、ニトロ基が官能基である。芳香族基は、トリフルオロメチルフェニル、ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(−OPhC(CF32PhO−)、クロロメチルフェニル、3−トリフルオロビニル−2−チエニル、3−トリクロロメチルフェン−1−イル(3−CCl3Ph−)、4−(3−ブロモプロプ−1−イル)フェン−1−イル(BrCH2CH2CH2Ph−)などのハロゲン化芳香族基を包含する。芳香族基のさらに他の例には、4−アリルオキシフェン−1−オキシ、4−アミノフェン−1−イル(H2NPh−)、3−アミノカルボニルフェン−1−イル(NH2COPh−)、4−ベンゾイルフェン−1−イル、ジシアノイソプロピリデンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(−OPhC(CN)2PhO−)、3−メチルフェン−1−イル、メチレンビス(フェン−4−イルオキシ)(−OPhCH2PhO−)、2−エチルフェン−1−イル、フェニルエテニル、3−ホルミル−2−チエニル、2−ヘキシル−5−フラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(フェン−4−イルオキシ)(−OPh(CH26PhO−)、4−ヒドロキシメチルフェン−1−イル(4−HOCH2Ph−)、4−メルカプトメチルフェン−1−イル(4−HSCH2Ph−)、4−チオフェニル(−S−Ph)、4−メチルチオフェン−1−イル(4−CH3SPh−)、3−メトキシフェン−1−イル、2−メトキシカルボニルフェン−1−イルオキシ(例えば、メチルサリチル)、2−ニトロメチルフェン−1−イル(−PhCH2NO2)、3−トリメチルシリルフェン−1−イル、4−t−ブチルジメチルシリルフェン−1−イル、4−ビニルフェン−1−イル、ビニリデンビス(フェニル)などがある。「C3〜C30芳香族基」という用語は、炭素原子数3以上30以下の芳香族基を包含する。芳香族基1−イミダゾリル(C322−)はC3芳香族基を代表する。ベンジル基(C77−)はC7芳香族基を代表する。
【0016】
本明細書中に記載される化合物の多くは、1以上の非対称中心を含むことがあり、したがって鏡像異性体、ジアステレオマー及び他の立体異性体を生じることがある。これらは絶対立体化学の観点から(R)−又は(S)−として定義できる。本発明は、すべてのかかる可能な異性体並びにこれらのラセミ体及び光学的に純粋な形態を包含するものとする。光学的に活性の(R)−及び(S)−異性体は、キラルシントン又はキラル試薬を用いて製造でき、或いは通常の技術を用いて分割できる。本明細書中に記載される化合物がオレフィン性二重結合又は他の幾何学的非対称中心を含む場合には、特記しない限り、かかる化合物はE及びZ幾何異性体の両方を包含することが意図されている。同様に、すべての互変異性形態も包含されるものとする。
【0017】
FTA紙は、細胞を溶解して核酸を保存する化学物質を含浸させたセルロース系マトリックスである。かかる化学物質は、生物学的流体が表面に接触すると活性化される。化学処理の追加の特徴は、細菌及びウイルスの不活性化である。これは生体試料を微生物増殖汚染から保護し、またユーザーを生体試料中に存在するバイオハザードから保護することもできる。したがってFTA紙は、各種の生物学的試料から収集し、輸送し、保存し、保管するためのDNAを保護しかつ安定化する好ましい媒体である。その後、生物学的試料を分析することができる。かかる分析は、特に限定されないが、遺伝学的分析或いは生物学的試料中に存在する検体の定性的又は定量的測定を含み得る。
【0018】
生物学的試料(遺伝学的試料ともいう)は植物及び動物組織試料の両方を含むことができ、特に限定されないが、頬側試料、脳脊髄液、糞便、血漿、血液、リンパ液、尿、精液、膣液、腺分泌液、細胞又はウイルスの懸濁液、ウイルスプラーク、或いは核酸を含む血清試料が挙げられる。試料は精製状態のもの又は細胞抽出物や培養物のような粗調製物からのものであってもよいし、或いは表面スワッビング又はスポッティングのような試料トランスファーで直接に得られたものであってもよい。核酸は、DNA及びRNA、リボソームRNA及びメッセンジャーRNA、並びに核酸プライマー及びアプタマーを包含し得る。ひとたび遺的試料をFTA紙又は同様なセルロース系材料上に保存すれば、いくつかのプロトコルを用いて分析に付すことができる。
【0019】
検体とは、生物学的試料中で測定すべき1種以上の物質をいう。乾燥血液試料(DBS)中の検体の測定は、循環する化学物質、薬物又は代謝産物の定量的又は定性的測定を含み得る。これには、特に限定されないが、各種の代謝性疾患の検出に関係する代謝産物スクリーニング、例えば薬物スクリーニング候補についての薬物動態(DMPK)分析に関係する薬物代謝産物、或いは毒物動態(TK)試験における化学物質及び毒物暴露が含まれる。
【0020】
遺伝学的材料の増幅又は制限酵素消化を含む分析は、抽出操作の必要なしに、FTA紙又は同様なセルロース系材料上で直接に実施することができる。他の場合には、分析に先立ち、紙からの遺伝学的材料の抽出及び精製を行うことができる。これは、紙の一部(例えば、打抜き試料)を抽出試薬で洗浄することで行うことができる。
【0021】
しかし、かかる分析とは関係なく、紙上には浸出性成分が存在し、これらが生物学的試料からの標的検体の下流分析(例えば、特に限定されないが、組成試験、薬物発見及び代謝産物)を妨害することがある。
【0022】
セルロースの構造は、平行なD−グルコース鎖からなっている。かかる構造は、それに繊維性を与える水素結合によって安定化される。セルロース基材は、紙シート、パルプ形態、タブレット、或いはα−セルロース、軟質又は硬質木材パルプ、精製木材パルプ、コットンリンターシート、コットンパルプなどの機械的又は化学的砕解によって製造されるセルロース粉末であり得る。他のセルロース源には、低結晶化度セルロース並びにミクロフィブリル化セルロース、粉末セルロース、再生セルロース及び微晶質セルロースのような市販のセルロース賦形剤がある。セルロース基材は、遺伝学的材料の固定化、保存、溶出及び以後の分析を容易にするために多孔質であることが好ましい。
【0023】
一実施形態に従えば、セルロース基材が開環酸化を受けてC2−C3位置にアルデヒド基を形成する方法が記載されている。若干の実施形態では、C2−C3位置での開環酸化に加えて、セルロースの表面に存在する1以上のヒドロキシル基の酸化も起こることがある。
【0024】
若干の実施形態では、セルロース基材の開環酸化は、特に限定されないが、ガス状塩素、過ヨウ素酸と水酸化ナトリウムの水溶液、過硫酸塩及び過マンガン酸塩のような酸化剤に基材を接触させることによって起こり得る。他の実施形態では、酸化は過ヨウ素酸ナトリウム及び亜塩素酸ナトリウムによる連続酸化からなっている。他の実施形態では、酸化は酵素が関与し得る。酸化セルロースは、未処理基材のヒドロキシル基に加えて、カルボン酸基、アルデヒド基、ケトン基又はこれらの組合せを含むことがある。酸化の量は、酸化剤の性質及び反応条件に依存する。
【0025】
セルロース基材は、それに続くアミノオキシ試薬との反応の直前に酸化することができる。他の実施形態では、ある程度の酸化を有するセルロース基材を以前の酸化処理又は商業的供給源から入手して保存しておき。それを使用することもできる。
【0026】
若干の実施形態では、酸化セルロース基材は続いて、末端スルフェート基(−OSO3H)、スルホネート基(−SO3H)又はカルボン酸基(−COOH)を有するアミノオキシ試薬で処理される。1以上のアルデヒド基のアミノオキシル化が起こって、セルロース表面にペンダントα−オキシモカルボキサミド基を生じる。アミノオキシル化は、C2位置、C3位置又はその両方で起こる。若干の実施形態では、アミノオキシル化はまた、セルロース表面のペンダントヒドロキシル基の酸化から生じた表面のアルデヒド基でも起こり得る。
【0027】
次のスキーム1は、C2及びC3の両位置におけるアミノオキシル化を示している。
【0028】
【化2】
これは、次の式Iの構造単位を含む修飾セルロース基材を生じる。
【0029】
【化3】
式中、X及びYは独立にN−O−L−A又はOであるが、YがOである場合にはXがN−O−L−Aであり、XがOである場合にはYがN−O−L−Aであることを条件とし、Lは直接結合、脂肪族基、芳香族基、脂環式基又はこれらの組合せであり、AはCOOH又はSO3ある。
【0030】
若干の実施形態では、アミノオキシ試薬は次の式IIの置換アミノオキシを含み得る。
【0031】
【化4】
式中、
Lは直接結合、脂肪族基、芳香族基、脂環式基又はこれらの組合せであり、
AはCOOH、SO3H又はこれらの組合せである。
【0032】
若干の実施形態では、Lは二置換(CH2n脂肪族基(式中、nは1〜20の整数である。)であり得る。脂肪族基は線状又は枝分れ原子配列であり得る。
【0033】
若干の実施形態では、Lはヘテロ原子置換されていてもよい。若干の実施形態では、Lは−(CH2n−Z−(CH2m−に等しくあり得る。この場合、nは0〜20の整数であり、mは0〜20の整数であり、Xがヘテロ原子含有部分である。若干の実施形態では、Zは特に限定されないがO、NH、C(O)NH、NHC(O)、N(CO)N、O(CO)O、N(CS)N、O(CS)O又はこれらの組合せに等しくある得る。各実施形態において、Lは、スルホネート基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)又は(Lが直接結合である場合には)末端スルフェート基をオキシモカルボキサミド基に連結する。例えば、ZはOであり、nは0であり、mは1であり、AはCOOHである。
【0034】
アミノオキシ試薬は、その塩の水溶液として使用できる。塩には、特に限定されないが、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化水素酸塩及びリン酸塩がある。若干の実施形態では、水溶液は0.05〜0.5mol%アミノオキシの範囲内にある。若干の実施形態では、アルコール補助溶媒が使用できる。別の実施形態では、水溶液は緩衝液を含むこともできる。他の実施形態では、水溶液は安定剤を含むこともできる。
【0035】
アミノオキシ試薬の適用方法は、酸化セルロースへのアミノオキシ試薬の結合を伴う化学反応が起こるようにして、アミノオキシ試薬を酸化セルロースに接触させることを含み得る。一実施形態では、酸化セルロース基材をアミノオキシ試薬の溶液中に浸漬することで、アミノオキシ試薬を酸化セルロース基材に接触させることができる。別の実施形態では、表面上への噴霧、湿潤又はプリントにより、アミノオキシ試薬を酸化セルロースに適用することができる。アミノオキシ試薬の溶液を使用する場合、それは溶媒を蒸発させるのに十分な揮発性を有する溶媒を含み得る。
【0036】
一実施形態では、酸化セルロース基材は粉末形態のものであり得る。接触及び結合を可能にするため、アミノオキシ試薬及び酸化セルロースの両方を含むスラリーが使用できる。スラリーのデカント、圧縮及び乾燥を行うことで、酸化粉末を得ることができる。

一実施形態では、結合は室温で開始させることができる。別の実施形態では、結合は加熱によって開始させることができる。若干の実施形態では、温度は約40〜約90℃の範囲内にある。
【0037】
試薬の結合は、式Iのアミノオキシ化合物を酸化セルロース基材上のアルデヒド基と反応させるのに十分な時間にわたって実施される。一実施形態では、反応は約1分から約30分までの範囲内の時間にわたって実施される。別の実施形態では、時間は約1分から約10分までの範囲内にある。
【0038】
本明細書中で上記に記載された組成物及び方法を用いて物品を作製することができる。一実施形態では、物品が提供される。物品は、結合部位を有する酸化セルロースとアミノオキシ試薬との反応生成物を含んでいる。一実施形態では、本明細書中に開示された組成物及び方法を用いて作製される物品は、約0.1ミリメートルより大きく、約0.5ミリメートルより大きく、約1ミリメートルより大きく、又は約0.5センチメートルより大きい厚さを有し得る。一実施形態では、物品は粉末形態であって、適当なサイズの試料バイアル内に収容することができる。さらに別の実施形態では、物品はタブレットの形状を有し得る。さらに他の実施形態では、物品はゲル又は溶液中に存在し得る。
【0039】
他の実施形態では、特に限定されないが、タンパク質変性剤及びフリーラジカル捕捉剤のような化学コーティング溶液の適用を含め、酸化セルロース基材の追加の処理を行うことができる。変性剤は、遺伝学的試料中のタンパク質及び病原性生物を変性させる界面活性剤又は陰イオン洗浄剤であり得る。変性剤はまた、遺伝学的材料を溶解するために働くと共に、遺伝学的材料を固定化して保存することを可能にする。若干の実施形態では、変性剤は、遺伝学的材料を含む細胞を溶解して興味ある検体を遊離させるために働く。化学溶液は、弱塩基、キレート化剤、及び陰イオン界面活性剤又は洗浄剤を含み得る。尿酸及び尿酸塩も使用できる。弱塩基は遊離塩基又は炭酸塩としてのTris(トリスヒドロキシメチルメタン)であり得る一方、キレート化剤はEDTAであり得る。同様な機能を有する他のコーティングも使用できる。例えば、若干の実施形態では、細胞を溶解し得るがタンパク質を変性させないコーティングが使用できる。他の実施形態では、コーティングは、例えば酵素機能のための補助因子として作用する金属をキレート化することで、変性させずに酵素を失活させるために働き得る。
【0040】
若干の実施形態では、コーティング溶液は、コーティングが酸化セルロースに対して配設され、収着され、又はその他のやり方で結合されるようにして基材に適用できる。若干の実施形態では、コーティングは化学結合によって基材に付着し得る一方、他の実施形態では、付着は(例えば、含浸によるような)物理的なものであり得る。
【0041】
若干の実施形態では、アミノオキシ試薬は他の化学処理に先立って適用される。他の実施形態では、アミノオキシ試薬は他の化学処理に続いて適用される。さらに他の実施形態では、アミノオキシ試薬は中間段階として適用される。
【0042】
修飾された酸化セルロース基材は、基材に接触した遺伝学的材料を保存するための方法として使用できる。若干の実施形態では、かかる方法は、遺伝学的材料を基材に接触させることを含んでいる。遺伝学的材料は植物及び動物組織試料の両方を含むことができ、特に限定されないが、頬側試料、脳脊髄液、糞便、血漿、血液、リンパ液、尿、細胞又はウイルスの懸濁液、ウイルスプラーク、或いは核酸を含む血清試料が挙げられる。
【0043】
修飾セルロース基材はまた、特に限定されないが、DMPKのような用途に組み込むことができる小薬物及び代謝産物の保存方法で使用することもできる。前臨床状況では、例えば乾燥血液スポット(DBS)アプローチを用いて生物学的媒体中に含まれる検体試料を保存できることは、実験ワークフローを簡略化し得る。これは必要な生物学的試料の量を減少さることで達成でき、結果として使用する動物被験体の数及びサイズが最小化されると同時に、検体は後の分析のために保存される。実験ワークフローの簡略化はまた、ヒューマンエラーの可能性を低下させることもできる。
【0044】
若干の実施形態では、保存方法はまた、セルロース基材上で生物学的試料を乾燥する段階、及びセルロース基材を乾燥した生物学的試料と共に24時間以上(例えば、1週間以上)保存する段階も含んでいる。乾燥は、例えば、乾燥空気流を基材に当てたり、或いは基材を適度の高温(例えば、25〜40℃)に暴露することによる能動的なものであり得る。乾燥はまた、受動的なものであってもよい。その場合には、試料を有する基材を例えばベンチ表面上に放置して乾燥させる。保存は乾燥条件下で(例えば、乾燥剤の存在下で)実施でき、室温(例えば、20〜35℃)、冷蔵下(例えば、0〜10℃)又は凍結条件下であってよい。
【0045】
若干の実施形態では、保存方法はさらに、遺伝学的材料又は1以上の検体をセルロース基材から抽出する段階を含んでいる。抽出は、水性液体(例えば、緩衝液)又は非水性液体(例えば、溶媒)、さらには超臨界ガス(例えば、二酸化炭素)を用いて行うことができる。生成した抽出物は、さらなる分離段階(例えば、クロマトグラフィー)に付すことができる。
【0046】
若干の実施形態では、保存方法はまた、例えば質量分析法によって1以上の検体を分析する段階を含んでいる。
【0047】
検体は、薬物又は薬物候補或いは薬物又は薬物候補の代謝産物であり得る。特に本方法は、例えば小さい血液試料を基材に適用してその上に保存し、薬物/薬物候補及び/又は薬物/薬物候補の代謝産物の濃度に関して分析するDMPK試験において使用できる。
【0048】
遺伝学的試料は精製状態のもの又は細胞抽出物や培養物のような粗調製物からのものであってもよいし、或いは表面スワッビング又はスポッティングのような試料トランスファーで直接に得られたものであってもよい。核酸は、特に限定されないが、DNA及びRNA、リボソームRNA及びメッセンジャーRNA、並びに核酸プライマー及びアプタマーを包含し得る。
【0049】
若干の実施形態では、修飾酸化セルロース基材は、遺伝学的材料の保存を容易にする物品に成形される。物品は紙、タブレット又は粉末の形態を有し得る。若干の実施形態では、カードストックのような紙形態が使用できる。この形態に接触させた試料は、以後に例えばカードストックの打抜きによって取り出すことができる。他の形態では、物品は試料管又はバイアル内に収容された粉末の形態を有し得る。試料管又はバイアルのサイズは、遺伝学的試料又は検体のサイズに整合すると共に、以後に試薬又は抽出技術を物品に直接作用させて遺伝学的インキュベーション、増幅又は他の試験を行い得るように決定すればよい。別の実施形態では、物品はタブレットの形態を有し得る。かかるタブレットは、相異なる成形圧力に基づき、相異なる物理的性質(例えば、孔径分布及び表面積)を有し得る。
【0050】
物品としては、生物学的試料を収集し、保存し、保存するために有用なセルロース基材の望ましい性質には、低い浸出性成分、抗菌性、抗ウイルス性及び効率的な吸上げ性がある。
【0051】
若干の実施形態では、修飾酸化セルロース基材は、他の同様に形成されたセルロース物品に比べて低レベルの浸出性を有し得る。浸出分とは、セルロース基材上又はその中に存在し得る残留化学物質であって、遺伝学的試料の以後の処理中に基材から浸出又は抽出され得る結果、単離された遺伝学的試料中に存在して下流の分析を妨害し得るものとして定義される。浸出分のレベルは、セルロース基材から物質を溶解又は抽出する溶剤による溶剤洗浄を用いてセルロース基材からの抽出分として測定できる。若干の実施形態では、浸出分のない基材は、洗浄液中の抽出分が200ppm未満、好ましくは100ppm未満、さらに好ましくは25ppm未満のものとして定義できる。したがって、浸出分のない組成物又は浸出分のない組成物から形成された物品とは、組成物が残留物をほとんど含まない結果、残留物が遺伝学的試料を汚染する可能性がないことを意味する。DMPK用途の場合、興味ある代謝産物又は検体の分析を妨害し得る浸出分及び抽出分は望ましくない。
【0052】
セルロース基材を修飾するために使用した様々な化学的方法及び処方を下記の表1に示す。Whatman 31ETFは処理されていない平滑なセルロース紙であり、[O]ETFはNaIO4でC2及びC3開環表面酸化を受けた31ETFである。FTA(登録商標)は遺伝学的試料収集のために使用される市販の紙であって、TRIS、EDTA、尿酸及びドデシル硫酸ナトリウムで処理されている。
【0053】
【表1】
セルロース紙又は酸化セルロースについて試験した、様々な化学的方法及び処方に関する浸出性の程度は、各種の紙を70%水性テトラヒドロフランで抽出することによって求めた。抽出物は、LC−MS方法を用いて同定しかつ定量化した。抽出分の分析結果は、他の化学的方法とは対照的に、アミノオキシ化学によって誘導体化されたセルロースがセルロース紙からの抽出分をほとんど示さないことを示した。この結果は、液体クロマトグラフィートレースとして図1に示した陰性対照(31ETF)と同等である。図示の通り、表面に含浸させた分子混合物を含み、代謝産物分析を妨害し得る抽出分を示す陽性対照(FTA紙)とは対照的に、31ETFは抽出分を示さない。アミノオキシ「S」とアミン分子「D」との組合せ(S−D)の使用を含む処方物は、酸化セルロース紙とオキシム結合を形成するアミノオキシ分子が抽出分を有しない(非浸出性)一方、第四級アミン塩から酸化セルロース紙とシッフ塩基を形成するアミン分子は抽出分を有することを示した。さらに、処方物中に存在するアミノオキシ分子(S、C、T)のみを有する試料は抽出分を示さない。
【0054】
これらの結果は、部分的には、シッフ塩基の可逆性に比べてオキシム結合が不可逆性であることによって説明できる。第四級アミンを含む処方物では、抽出分は使用するモノマー単位及び加水分解生成物の両方に対応していた。したがって、これらの結果は、オキシム修飾化学が非浸出性を与えるための好ましい方法であり得ることを示唆している。
【0055】
若干の実施形態では、修飾酸化セルロースは、市販のFTA紙と同等以上の抗菌性及び抗ウイルス性を有し得る。これらの性質は、生物学的試料の取扱いを含む手続きにおける高度に規制された安全性分類及びガイドラインの必要性を最小化する。これは、生物学的試料の使用、保存及び輸送を含み得る低コストで簡略化されたプロセスと言い換えることができる。加えて、紙の抗菌性は、保存後に生物学的試料を損なうことがある細菌増殖の可能性を最小化し得る。
【0056】
各種の修飾酸化セルロース処方物の抗菌性を、グラム陽性及びグラム陰性菌株並びに多剤耐性菌株を代表する3種の菌株に対して評価した。表2はレプリカプレーティングアッセイからの結果を要約したものであり、アミノオキシ/アミン部分で修飾した酸化紙は、非修飾セルロース基材並びにポリマー系又は第四級アミン系処方物を固定化するためのラジカル化学アプローチを用いて製造した処方物の代表例に比べて最高の抗菌活性を有することを示している。したがって、抗菌性は修飾段階の結果であって、先行する酸化段階によるものではない。ポリマー分子は抗菌性を全く示さなかった一方、第四級アミンファミリーは菌株依存性の結果を示したが、それも軽度であった。表2に示す通り、抗菌活性なしは(−)、細菌増殖のわずかな阻止は(+)、細菌増殖の部分的な阻止は(++)、細菌増殖の完全な阻止は(+++)で表わされている。
【0057】
【表2】
生物学的試料の収集を含む用途では、紙が生物学的試料を迅速かつ均一に吸い上げ、又は湿潤タイプの作用で生物学的試料を紙中に流す能力は、信頼可能かつ再現可能な試料読取りを保証するために重要である。若干の実施形態では、修飾酸化セルロースは市販のFTA紙と同等な所望の吸上げ性を有している。
【0058】
図2は、修飾紙の様々な例が10μLの全血をいかに速く吸収し得るかを示すグラフ表示である。対照セルロース紙(31ETF、FTA及び[O]31ETF)は、10μLの全血を3〜4秒の範囲内で吸収することが示されている。31ETF及び[O]31ETF紙は、先に表1に示したように、異なる分子ファミリー及び処方を用いて修飾された。ポリマー(SDS様)分子の使用を含む処方物は、ラジカル化学を含むアプローチを用いてセルロース紙上に固定化される前の分子が親水性及び水溶性を有するにもかかわらず、むしろ疎水性の表面を与えた。それでも、アミノオキシ及びアミン分子と反応させた酸化セルロース紙、並びに非酸化セルロース紙(31ETF)に対するラジカル化学を含む第四級アミン処方物は、対照と同等の結果を示した。
【0059】
実証されたように、アミノオキシ化学は、生物学的材料の保存及び分析の分野における使用の改善に役立つ吸上げ性、抗菌性及び非浸出性を有する基材を与えた。それは、現在市場で入手できる製品(例えば、FTA)における若干の望ましい性質を保持しながら、下流の分析を妨げることがある浸出分の源を最小化又は排除する。
【0060】
内部での試験によれば、極度のpH及び温度に暴露された場合、セルロース基材は褐色化及び脆化を生じ得ることが証明された。これは、大規模製造用途のためには実用的でなかろう。アミノオキシスルホン酸(S及びT)は、同等の濃度でアミノオキシ酢酸より5pH単位以上低い溶液を生成すると予想される。非浸出性かつ抗菌性の処方物S及びTに関するこの問題は処方及びプロセス条件の最適化によって回避されるが、DMPK用途と一層密接に関連する性能試験に対して試験するためには処方物Cを使用した。
【0061】
DMPK用途では、非常に低い濃度で存在する小薬物分子及びその代謝産物を保存しかつ分析する能力は決定的に重要である。体液(例えば、DBS用途での血液)中に存在するリン脂質を吸着する能力もまた、重要である。それは、これらの分子も界面活性剤と同様にして分析を妨害し、低い感度及び高い変動性をもたらすことがあるからである。これらの性質を実験的に試験したところ、処方物Cは市販のDMPK標準紙に比べて約40〜50%多くのリン脂質を紙上に保持しながら約25〜40%だけ低い量のモデル薬物を抽出する能力を有することが示された。このように妨害分子を顕著に保持することは、興味うる検体を一層再現可能であるばかりでなく一層低い濃度で良好に検出する能力を顕著に向上させることができる。これらの結果は、先に記載した他の性質に加えて、処方物Cが特にDMPK用途或いは同等な組合せの性能特性を要求し得る他の用途にとって好適な処方物であることを示唆している。
【0062】
本発明は、一般的には、分析、診断又は予後判定用途に適用し得る方法に関する実施形態を含んでいる。かかる用途には、特に限定されないが、法医学、トランスジェニック同定、トランスフュージョン医薬/HLAタイピング、プラスミドスクリーニング、食品及び農業試験、薬物発見、ゲノム学、STR分析、動物識別、全ゲノム増幅及び分子生物学がある。若干の実施形態では、本明細書中に開示された方法は特にDMPK分析に適用し得る。異なる実施形態の特徴を組み合わせてそらに別の実施形態を形成し得ることに注意すべきである。
【実施例】
【0063】
セルロースを酸化するための一般手順
GE Healthcare社から供給されたWhatmanグレード31ETFセルロースをNaIO4の水溶液中に浸漬し、所定の温度で所定の時間にわたり反応させた。温度は様々に変化したが、通例は50〜90℃で1〜5分間であった。次いで、完全に湿潤した膜を、水性洗液の導電率が3μS未満になるまで脱イオン水で洗浄した。次いで、試料を室温で一晩乾燥した。
【0064】
アミノオキシ化合物(AO)を酸化セルロースと反応させるための一般手順
酸化31ETFセルロース試料を予め秤量し、次いで室温でアミノオキシ化合物の水溶液中に浸漬した。完全な湿潤後、試料をピンセットで溶液から取り出し、過剰の溶液を十分に濡れた膜から排出させた。次いで、試料をヒートガンで部分的に乾燥し、結晶化皿内に配置して所定の温度及び時間で乾燥した。通例、試料は室温で又は50〜70℃の温風循環オーブン内で12〜24時間乾燥した。乾燥後に試料を秤量し、脱イオン水で洗浄し、溶液導電率を記録した。試料を同じ所定のオーブン温度で約1時間再乾燥し、脱イオン水で再洗浄した。このプロセスを、イオン導電率が3μS未満になるまで繰り返した。試料を同じ所定の温度で再乾燥し、最終重量を記録した。次の式によってパーセント重量増加を求めた。
パーセント重量増加=(最終重量−初期重量)/初期重量×100%
試料はまた、元素分析によっても特性決定した。元素状硫黄又は窒素含有量を求めることで、アミノオキシ(AO)官能化の程度を推定した。
【0065】
AO−CO2H DOEにおける試料4aに関する手順
14cm×14cmの31ETFセルロースシートを80℃でNaIO4の1.0M水溶液中に浸漬し、5分間反応させた。次いで、完全に湿潤した膜を、水性洗液の導電率が3μS未満になるまで脱イオン水で洗浄した。次いで、酸化31ETFセルロースを室温で一晩乾燥した。次いで、続くアミノオキシ試薬での処理のため、14cm×14cmのシートを複数の6cm×4cmシートに切断した。6cm×4cmのシートを室温でアミノオキシ試薬の0.2M水溶液中に浸漬した。完全な湿潤後、試料をピンセットで溶液から取り出し、過剰の溶液を十分に濡れた膜から排出させた。次いで、試料をヒートガンで部分的に乾燥し、結晶化皿内に配置して60℃で一晩乾燥した。一晩加熱した後、試料は褐色になった。乾燥した試料を秤量し、脱イオン水で洗浄し、溶液導電率を記録した。試料を60℃で1時間再乾燥し、脱イオン水で再洗浄した。このプロセスを、イオン導電率が3μS未満になるまで繰り返した。試料を窒素元素分析に付すことで、共有結合したアミノオキシ部分の量を求めた。窒素元素分析の結果は、分析した試料中のN%±95%信頼区間(CI)として表される。
【0066】
試料作製
各試料タイプについて、試料は約3/4インチ平方の2つの正方形として分析した。IPAで予め清浄にしたカミソリの刃で、試料を小さな正方形に切断した。マイクロ天秤を用いて、各々の反復試験試料を風袋測定済みの5×9mmスズカプセル中に秤取し、次いでそれを押しつぶしてカプセルで包囲された小さい球体とし、再び秤量した。各試料タイプの重量は概略窒素濃度に応じて変化した。2個のスズカプセルブランクについても分析を行った。
【0067】
標準
EA1108元素分析装置(Thermo Scientific社、ウォルサム、米国マサチューセッツ州)について、THAB(1.407%N)を標準物質として用いてCHN較正を実施した。8点較正(0.068mg、0.187mg、0.416mg、0.826mg、1.552mg、2.404mg、3.450mg、6.323mg)により、R2=99.98%の窒素曲線を作成した。THABに加えて、第2の標準物質(アトロピン、4.84%N)を未知物質として分析することで、較正曲線の正確さを確認した。THAB窒素回収率:97%〜109%。アトロピン窒素回収率:96%〜106%。
【0068】
実験技術
試料をCarlo Erba EA1108分析装置上でNについて4回分析した。その技術は、酸素富化雰囲気中において1000℃で試料を定量的フラッシュ燃焼させることで、窒素、炭素、水素及び硫黄からそれぞれCO2、H2O及びNOxを生成させることに基づいている。燃焼ガスを加熱した元素銅中に通すことで、あらゆる形態のNOxをN2に還元した。次いで、これらをキャリヤーガスでクロマトグラフィーカラムに通し、そこでこれらは分離され、熱伝導率検出器で検出されて定量化される。検体濃度は、一連の既知標準との比較によって算出される。較正曲線は検体の総mg数として作成されるが、これは分析する試料の重量に基づいて%に換算される。計器パラメーター:ヘリウム流量は150mL/分に設定、酸素流量は60mL/分に設定、試料当たり540秒。元素状硫黄分析の結果は、95%信頼区間(CI)でセルロース紙中のwt%金属を測定して表面修飾を確認することで判定した。
【0069】
試料作製
マイクロ波容器は、1マイクロ波サイクルを用いて10mLのHNO3酸で予め1回清浄にした。1組の0.06〜0.09g反復試験試料(1回の反復試験については分析する試料全体を使用した。)を差によって秤量し、テフロン(登録商標)XP1500マイクロ波ライナー中に配置した。10mlのHNO3酸を添加してライナーの壁を洗浄した。ライナーにキャップを付け、マイクロ波中に配置し、「紙」プログラム(10分で100℃に昇温、100℃で10分間保持、圧力を100psiに調節、10分で150℃に昇温、150℃で10分間保持、圧力を200psiに調節、分で180℃に昇温、180℃で10分間保持、圧力を300psiに調節、分で2000℃に昇温、200℃で10分間保持、圧力を400psiに調節、10分で2200℃に昇温、220℃で10分間保持、圧力を600psiに調節)を用いて運転した。加熱サイクル後、試料を室温まで完全に放冷した後に開放した。容器内容物をオレンジキャップ管に移し、5mLの10ppm Scを添加し、溶液を脱イオン水(DIW)で50mLに希釈した。ブランク及び試料スパイクについて、すべての手順を実施した。酸スパイク回収率:S:110%。Spex QC回収率:S:102%。標準:S:1 ppm Scを加えた20%HNO3を含むオレンジキャッププラスチック管中で0.05ppm〜10ppm。QC1:1ppm Spex4。すすぎ液:20%HNO3
【0070】
技術:Spectro Arcos ICP−AES
アルゴンガス流中に高周波電力を誘導結合することで高温プラズマを発生させる。噴霧器により、試料をプラズマ中に溶液エーロゾルとして導入すると、それぞれの元素はその固有放射を放出する。光学系では、130〜770nmの波長を同時記録するため、Arcosは最適化Paschen−RungeマウントORCA(最適化ローランド円整列)で32の線形CCD検出器を使用している(SPECTRO Analytical Instruments GmbH、ドイツ)。信号の大きさは試料中の元素の濃度に正比例する。試料信号強度を較正標準から生じるものと比較することで、定量的な結果が生み出される。
【0071】
レプリカプレーティングアッセイ(抗菌アッセイ)実験
グラム陰性細菌Pseudomonas aeruginosa(感染単離物09−010、Brooke Army Medical Center Molecular Biology Lab及びUS Army Institute of Surgical Research)、グラム陽性細菌MRSA USA300(メチシリン耐性Staphylococcus aureus感染単離物NRS384、Network on Antimicrobial Resistance in Staphylococcus aureus)及び実験菌株Escherichia coli(HB101)を用いて抗菌性を評価した。その際、培養密度は0.5McFarland標準を用いて推定した。グラフト31−ETF紙並びに陽性(FTA)及び陰性(31−ETF)対照紙の7mm打抜き片に約1〜2×107個の細胞(14〜20μLの培養物)を適用し、試料を10分間(臨床単離物)又は60〜90分間(実験菌株E.coli)風乾した。無菌鉗子を用いて、試料を新鮮なトリプチカーゼダイズ寒天(TSA)にレプリカプレーティングした。その際には、各打抜き片を寒天表面上に裏返して置き、静かに押し付けた。打抜き片試料を取り除いた後、プレートを37℃で一晩インキュベートし、12〜24時間後に細菌増殖を評価した。
【0072】
HPLC−エレクトロスプレーToFMSによる31−ETF酸化基材からの抽出性試薬の分析
1分間の渦動を用いて、紙円形打抜き片(直径7mm)を500μLの水中70THFで抽出した。抽出分のクロマトグラフィー分析は、Electro Sprayイオン化アクセサリを備えたAB Sciex Q Star Elite(登録商標)Quadropole Time of Flight Mass Spectrometerと直列に配置された、1200 Series Photo−Diode Array検出器を備えたAgilent 1200 Series HPLCシステムを用いて達成した。分離は、3μm粒子媒体からなるCadenza CL C18 1×50mm逆相カラムを用いて実施した。エレクトロスプレーイオン化質量スペクトルを正イオン化モードで取得した。定量分析結果は、それぞれの基準材料の既知質量の抽出質量クロマトグラムの積分ピークから求めた。方法パラメーターは次の通りであった。移動相:溶媒A,2mMギ酸アンモニウム(pH=4)、溶媒B,0.1%ギ酸を含む100%アセトニトリル、流量:0.2ml/分、ホトダイオードアレイ検出器取得:200〜800nm、カラム:Cadenza CL C18 3μm(1×50mm)、注入量:50μl、ESI条件:噴霧ガス:40,乾燥ガス:40,印加ニードル電圧:3000V、温度:400℃。
【0073】
本発明は、その技術思想又は本質的特徴から逸脱することなしに他の特定の形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はすべての点で、本明細書中に記載した本発明を限定するものではなく例示的なものと見なすべきである。かくして、本発明の技術的範囲は前述の記載ではなく添付の特許請求の範囲によって表され、したがって特許請求の範囲と同等の意味及び範囲に含まれる変更はすべて本発明に包含されるものとする。
【0074】
検体回収率及びリン脂質保持性
モデル薬物分子の原液をメタノール中に調製した。モデル分子は、異なる化学物質群、即ち塩基、第四級アミン、中性物質及び酸を代表していた。これらは、それぞれプログアニル、ハイアミン、シムバスチン及び2,4,6−トリイソプロピル安息香酸であった。最初の3者は100μg/mLの濃度に調製し、最後のものは200μg/mLに調製した。最終薬物濃度が元の濃度の1/10になり、かつ血液中に10%以下のメタノールしか存在しないようにして、ヒト全血をこれらの薬物溶液でスパイクした。各処方紙に各々の薬物−血液混合物10μLをスポットした。紙を乾燥室内で一晩乾燥した。7mmホールパンチャーを用いて全血スポットを打ち抜いて集め、500μlの70%メタノールでスポットを抽出した。理論上の100%最終回収量は、最初の3種の薬物に関しては200ng/mLであり、最後のものに関しては400ng/mLであった。検体回収率を得るためには、LC−MSを用いて各成分を定量し、同じ成分の較正標準と比較した。試験全体を通じて一定の信号を確保するため、ジノニルアミン(陽イオン)及びトリイソプロピル安息香酸(陰イオン)の内標準を使用した。クロマトグラフィー分析のために使用したシステム及び条件は、次のようにして使用した逆相HPLC−ToFMSを用いて実行された。使用した計測器は、Electro Sprayイオン化アクセサリを備えたAB Sciex Q Star Elite(登録商標)Quadropole Time of Flight Mass Spectrometerであった。分離は、3μm粒子媒体からなるCadenza CL C18 1×50mm逆相カラムを用いて実施した。エレクトロスプレーイオン化質量スペクトルを正イオン化モードで取得した。定量分析結果は、それぞれの基準材料の既知質量の抽出質量クロマトグラムの積分ピークから求めた。方法パラメーターは次の通りであった。移動相:溶媒A,2mMギ酸アンモニウム(pH=4)、溶媒B,0.1%ギ酸を含む100%アセトニトリル、流量:0.2ml/分、勾配プロファイル:10分で95〜0%A,100%Bに2分間保持,初期条件で10分間再平衡化、ホトダイオードアレイ検出器取得:200〜800nm、カラム:Cadenza CL C18 3μm(1×50mm)、注入量:5μl、ESI条件:G1 40,G2 30,CG 25、印加ニードル電圧:3000V、温度:400℃。
【0075】
リン脂質集団のクロマトグラフィー分析のために使用したシステム及び条件は逆相HPLC−ToFMSを用いて実行され、方法条件は次の通りであった。使用した計測器は、Electro Sprayイオン化アクセサリを備えたAB Sciex Q Star Elite(登録商標)Quadropole Time of Flight Mass Spectrometerであった。分離は、3μm粒子媒体からなるCadenza CW C18 1×50mm逆相カラムを用いて実施した。エレクトロスプレーイオン化質量スペクトルを正イオン化モードで取得した。定量分析結果は、それぞれの基準材料(アセトニトリル及びイソプロピルアルコール(50:50)に溶解したリソホスファチジルコリン(LPC)、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン)の既知質量の抽出質量クロマトグラムの積分ピークから求めた。方法パラメーターは次の通りであった。移動相:溶媒A,2mMギ酸アンモニウム(pH=4)+10%イソプロピルアルコール、溶媒B,0.1%ギ酸及び10%イソプロピルアルコールを含む100%アセトニトリル、流量:0.25ml/分、勾配プロファイル:10分で95〜0%A,100%Bに10分間保持,初期条件で10分間再平衡化、ホトダイオードアレイ検出器取得:200〜800nm、カラム:Cadenza CW C18 3μm(1×50mm)、注入量:5μl、ESI条件:G1 40,G2 30,CG 25、印加ニードル電圧:3000V、温度:450℃。
図1
図2
図3
図4