(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997707
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】電磁式リターダ
(51)【国際特許分類】
H02P 15/00 20060101AFI20160915BHJP
H02K 49/02 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
H02P15/00 H
H02K49/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-554711(P2013-554711)
(86)(22)【出願日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2013080801
(87)【国際公開番号】WO2015071993
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220712
【氏名又は名称】株式会社TBK
(74)【代理人】
【識別番号】100062982
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100102749
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 紀一
(72)【発明者】
【氏名】大場 光義
(72)【発明者】
【氏名】三好 章洋
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩一郎
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−125219(JP,A)
【文献】
特開2011−188585(JP,A)
【文献】
特開平11−056000(JP,A)
【文献】
特開平03−239200(JP,A)
【文献】
実開昭63−167303(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0205925(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102848926(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102678789(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0111691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 15/00
H02K 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子ヨークと、この固定子ヨークの円周方向に互に離間して配置した鉄心を有する複数個の電磁コイルと、上記固定子ヨークを中心として車輌のタイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とより成るリターダ本体部分と、制御装置と、制御装置からの駆動パルスによりオン、オフ制御される少くとも2個のトランジスタを有する駆動装置とより成り、上記電磁コイルにより多相結線が形成され、各相の電磁コイルが夫々コンデンサと共に共振回路を形成し、上記各トランジスタが夫々上記多相結線の少くとも2つの相結線に直列に介挿され、上記スチール回転体の回転により上記電磁コイルに誘起される回転磁界の回転速度が上記スチール回転体の回数速度より小さくなるようにした電磁式リターダにおいて、上記1つのトランジスタが直列に介挿されている1つの相結線の通電周期をこれに介挿されているトランジスタをオン、オフすることにより変えて制御トルクを制御することを特徴とする電磁式リターダ。
【請求項2】
上記オン、オフ制御が、上記相結線の相電流が零のタイミングでなされることを特徴とする請求項1記載の電磁式リターダ。
【請求項3】
上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比100%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の各サイクルの間オンとすることを特徴とする請求項1または2記載の電磁式リターダ。
【請求項4】
上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比75%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の3サイクルの間だけオンとし、その後1サイクル経過後再び3サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにすることを特徴とする請求項1または2記載の電磁式リターダ。
【請求項5】
上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比50%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の1サイクルの間だけとし、その後1サイクル経過後再び1サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにすることを特徴とする請求項1または2記載の電磁式リターダ。
【請求項6】
上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比25%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の1サイクルの間だけとし、その後3サイクル経過後再び1サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにすることを特徴とする請求項1または2記載の電磁式リターダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁式リターダ、特に、制動トルクを制御可能な電磁式リターダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流を利用して制動トルクを得る電磁式リターダは特許文献1に示すように既知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−125219号公報
【0004】
図8〜
図10は、特許文献1、特開2008−125219号公報に示すような従来の電磁式リターダを示し、図
8において1は車輌のタイヤ、2はエンジンスタータ、6は電磁式リターダ本体部分、8は作動信号7を処理する制御装置、10はこの制御装置8からの駆動パルス9によって夫々開閉制御されるトランジスタT1〜T3を有する駆動装置である。
【0005】
図9及び
図10に示すように上記リターダ本体部分6は、固定子ヨーク11と、この固定子ヨーク11の外周に円周方向に互いに離間して配置した鉄心を有する12個の電磁コイルL1〜L12より成る電磁コイルLと、上記固定子ヨーク11を囲む、上記タイヤ1の回転に応じて回転するスチール回転体(ドラム)13と、スチール回転体13の外周に設けたフィン14とより成る。上記各電磁コイルL1〜L12はA相、B相、C相の三相結線を形成する。
【0006】
なお、電磁コイルL1、L2、L3、L7、L8、L9に対し電磁コイルL4、L5、L6、L10、L11及びL12の極性は互に逆極性である。また、駆動装置10におけるトランジスタT1は、電磁コイルL1、L4、L7、L10より成るA相結線に直列に介挿され、トランジスタT2は、電磁コイルL2、L5、L8、L11より成るB相結線に直列に介挿され、トランジスタT3は電磁コイルL3、L6、L9、L12より成るC相結線に直列に介挿されている。
【0007】
この電磁式リターダでは、作動信号7をONにすると、制御装置8から駆動パルス9が出力され、駆動装置10のトランジスタT1〜T3がONし、コンデンサCと電磁コイルL1〜L12の共振回路が形成される。
【0008】
回転体13の回転数が上記コンデンサと電磁コイルの共振周波数で計算された回転磁界より早くなると、回転体13の残留磁気により発生した電磁コイルの電圧は、上記コンデンサと電磁コイルの共振回路の作用で特定周波数の三相交流電圧となる。この時、回転体13には、三相交流電圧による回転磁界Nsと回転体13の回転数Ndの差により、渦電流が流れる。回転体13に発生する渦電流は電磁コイルの電圧を高めるため、回転体13には更に大きな渦電流が流れる。この作用の繰り返しは、最終的にコイル電圧が上がっても磁界が増えない点で安定する。回転体内部の渦電流はジュール熱を発生し回転体13に従来より大きな制動力が発生する。この制動エネルギーは、熱に変換され、上記回転体13の外周に設けたフィン14より大気に発散される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の電磁式リターダにおいては制動トルクを制御するため電磁コイルL1〜L12に流す交流電流を増減せしめているが、具体的には電流のONされる時間の長さを変更する位相制御が一般的である。
然しながらこのような位相制御では電磁コイルに流れる電流中の高調波成分が多くなり、共振回路による共振が不安定となる欠点を有する。また、要求される制御トルクに正しく調整するのが困難であり、制御が強すぎる場合にはドラムや電磁コイルが過熱し、電磁式リターダの寿命が短くなる等の欠点があった。
【0010】
本発明はこのような欠点を除くようにしたものである。
【0011】
本発明者は種々実験研究の結果、従来の電磁式リターダでは3個のトランジスタT1、T2、T3をON/OFFすることでリターダの作動開始/作動停止を行なっていたが、例えばA相、B相用の2個のトランジスタT1、T2をOFFすることで回転磁界が無くなりリターダの作動を停止することが可能となることを見出した。また、3相のうちの1相、例えばB相コイルが通電されない期間でも他の2相の、A相コイル、C相コイルの通電で共振を継続し、電磁式リターダの出力電圧が、B相用のトランジスタT2のONとOFFの時間割合に比例した電圧に収束することで、制御トルクが調整されることを見出した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づいて得たものであって本発明においては安価にするため例えばC相用のトランジスタT3を用いず、A相、B相の2相制御によって電磁式リターダを作動せしめるようにすると共に、B相のみの1相制御によって電磁式リターダのトルク制御を行なうようにする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電磁式リターダは、固定子ヨークと、この固定子ヨークの円周方向に互に離間して配置した鉄心を有する複数個の電磁コイルと、上記固定子ヨークを中心として車輌のタイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とより成るリターダ本体部分と、制御装置と、制御装置からの駆動パルスによりオン、オフ制御される少くとも2個のトランジスタを有する駆動装置とより成り、上記電磁コイルにより多相結線が形成され、各相の電磁コイルが夫々コンデンサと共に共振回路を形成し、上記各トランジスタが夫々上記多相結線の少くとも2つの相結線に直列に介挿され、上記スチール回転体の回転により上記電磁コイルに誘起される回転磁界の回転速度が上記スチール回転体の回数速度より小さくなるようにした電磁式リターダにおいて、上記1つのトランジスタが直列に介挿されている1つの相結線の通電周期をこれに介挿されているトランジスタをオン、オフすることにより
変えて制御トルクを制御することを特徴とする。
【0014】
本発明の電磁式リターダは、上記1つの相結線のオン、オフ制御が、上記相結線の相電流が零のタイミングでなされることを特徴とする。
【0015】
本発明の電磁式リターダは、上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比(相電圧の周期に対するオン期間の比)100%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の各サイクルの間オンとすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の電磁式リターダは、上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比75%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の3サイクルの間だけオンとし、その後1サイクル経過後再び3サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにすることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の電磁式リターダは、上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比50%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の1サイクルの間だけオンとし、その後1サイクル経過後再び1サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにすることを特徴とする。
また、本発明の電磁式リターダは、上記1つの相結線に介挿されたトランジスタのオン期間を、デューティ比25%のときは相電圧がピークの値から次にピークの値となる迄の1サイクルの間だけとし、その後3サイクル経過後再び1サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電磁式リターダによれば下記のような効果が得られる。
【0019】
(1)本発明においては相結線のオン、オフ制御を上記相結線の相電流が零のタイミング(電圧がピーク時)で行なうので交流電流の歪が無く、即ち、高調波電流が発生しないので共振が安定した状態で得られる。
(2)同じく相電流零のタイミングでスイッチングするので、スイッチノイズの発生が少ない。
(3)3相交流の内の1相例えばC相用のトランジスタを用いずにトルク制御が可能であり安価にできる。
(4)要求される制御トルクを種々のデューティ比で無段階制御でき、適度な制御が可能となる。
(5)制御トルクを正しい値に調整でき、ドラムの過熱、電磁コイルの過熱を防止でき、電磁式リターダの寿命が長くなる。
(6)出力値が決まれば、OFFサイクル時間が短く、トルク変動の少ない、トルク制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明の電磁式リターダの操作を示すフローチャートである。
【
図3】本発明のデューティ比100%のときの電磁式リターダの相電圧波形図である。
【
図4】本発明のデューティ比75%のときの電磁式リターダの相電圧波形図である。
【
図5】本発明のデューティ比50%のときの電磁式リターダの相電圧波形図である。
【
図6】本発明のデューティ比25%のときの電磁式リターダの相電圧波形図である。
【
図7】本発明の電磁式リターダにおける各デューティ比における回転数とトルクの関係を示す線図である。
【
図9】
図8に示す電磁式リターダのリターダ本体の縦断側面図である。
【
図10】
図8に示す電磁式リターダのリターダ本体の縦断正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下図面によって本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の電磁式リターダの実施例を示し、
図8〜
図10に示す従来の電磁式リターダと同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
本発明の電磁式リターダは
図1に示すように固定子ヨーク11と、この固定子ヨーク11の外周に円周方向に互に離間して配置した鉄心を有する12個の電磁コイルL1〜L12より成る電磁コイルLと、上記固定子ヨーク11を囲む、タイヤ1の回転に応じて回転されるスチール回転体13とにより構成されたリターダ本体部分6と、作動信号7により制御される上記リターダ本体部分6の制御装置8と、この制御装置8からのA相及びB相パルスによって夫々開閉制御されるトランジスタT1とT2を有する駆動装置と10により構成し、上記電磁コイルL1〜L12はA相、B相、C相の三相結線を形成し各電磁コイルL1〜L12はコンデンサcと共に夫々共振回路を形成し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルL1〜L12に上記スチール回転体13の回転により誘起される三相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記スチール回転体13の回転数より小さくなるようにすると共に、駆動装置10におけるトランジスタT1は、電磁コイルL1、L4、L7、L10より成るA相結線に直列に介挿し、トランジスタT2は、電磁コイルL2、L5、L8、L11より成るB相結線に直列に介挿する。
【0023】
また、本発明においては上記A相とB相の三相結線のうちの1つの相、例えばB相の通電時間をトランジスタT2のオン、オフにより間欠的に制御せしめる。
即ち、デューティ比100%の場合、
図2及び
図3に示すようにB相電圧がピーク電圧に到達時、制御出力%が0でなければ、出力を積分(加算)し、積分値が100%に到達したとき、B相用トランジスタT2をオンとし、このオンの状態を継続せしめる。積分値が100%に到達しなければ、トランジスタT2をオフにする。なお、図
3ではA相及びC相電圧の波形を省略している。
【0024】
デューティ比75%のときは
図4に示すように積分値が100%になったときB相用トランジスタT2をオンし、このオン期間をB相電圧がピークのところから3サイクルの間だけとし、その後1サイクル経過後3サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにする。
デューティ比50%のときは
図5に示すように積分値が100%になったときB相用トランジスタT2のオン期間をB相電圧がピークのところから1サイクルの間だけとし、その後1サイクル経過後1サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようにする。
デューティ比25%のときは
図6に示すように積分値が100%になったときB相用トランジスタT2のオン期間をB相電圧がピークのところから1サイクルの間だけとし、その後3サイクル経過後1サイクルの間だけオンとし、以下これを繰り返すようになる。
【0025】
図7はスチール回転体13の回転
数(rpm)と電磁式リターダに発生する制御トルク(N・m)の関係を示す線図であり、線a〜dは夫々デューティ比100%、75%、50%、及び25%の場合を示す。
本発明によれば上記制御トルクを広いデューティ比において略無段階に制御できるようになる。
【符号の説明】
【0026】
1 タイヤ
2 スタータ
6 リターダ本体部分
7 作動信号
8 制御装置
9 駆動パルス
10 駆動装置
11 固定子ヨーク
12 固定子
13 スチール回転体
14 フィン