(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベルト背面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、かつ少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有する圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えた摩擦伝動ベルトであって、
少なくとも前記圧縮層が、ポリマー成分、短繊維及び界面活性剤を含有するゴム組成物で構成されており、
前記ポリマー成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーを含み、
前記短繊維が吸水性繊維の短繊維を含み、
前記界面活性剤が非イオン界面活性剤を含み、
前記吸水性繊維の短繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の比が2000〜100000であり、
伝動面の少なくとも一部の表面に、前記短繊維と前記界面活性剤とが露出して存在し、かつ露出した短繊維の少なくとも一部の表面に前記界面活性剤が付着している摩擦伝動ベルト。
ゴム組成物のポリマー成分100重量部に対して、界面活性剤の割合が0.1〜12重量部、吸水性繊維の短繊維の割合が1〜20重量部である請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品の一つとして摩擦伝動ベルトがあり、この摩擦伝動ベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータなどの補機駆動の動力伝動に広く用いられている。
【0003】
この種のベルトとしては、リブをベルト長手方向に沿って設けたVリブドベルトが知られている。そして、近年、このVリブドベルトとして、静粛性(乾燥時及び注水時の耐発音性)や省燃費性、特にこれら双方の性能を兼ね備えたVリブドベルトが求められている。
【0004】
静粛性(静音性)に関し、例えば、特開2006−316812号公報(特許文献1)には、圧縮層にベースゴムとしてエチレン−α−オレフィン共重合ゴムが用いられ、ベースゴム100重量部に対してカーボンブラックが50重量部以上(50〜100重量部)含まれており、このカーボンブラックには、ヨウ素吸着量40mg/g以下の大粒子カーボンブラックが、ゴム100重量部に対して30重量部以上含まれている伝動ベルトが開示されている。特許文献1の伝動ベルトは乾燥時の静粛性に特化されており、注水時の静粛性は一切考慮されておらず、注水時に発音する欠点を有している。
【0005】
特開2008−185162号公報(特許文献2)には、少なくとも摩擦伝動面が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、界面活性剤を1〜25重量部配合したゴム組成物で構成された摩擦伝動ベルトが開示されている。この文献2の摩擦伝動ベルトは、界面活性剤を配合することで摩擦伝動面を形成するゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)と水との親和性を高めることができ、ミスアライメントのような擦れによる異音を低減して静粛性を向上できる。しかし、水との親和性を高めても摩擦伝動面とプーリとの間には水膜が持続的に形成されるため、ベルトは依然としてスリップしやすい状態にあり、注水時の静粛性や伝達性能としては十分であるとはいえない。
【0006】
特開2001−165244号公報(特許文献3)には、圧縮層に綿短繊維及びパラ系アラミド短繊維を含有するとともにリブ側面から突出させ、さらに突出したパラ系アラミド短繊維がフィブリル化しているVリブドベルトが開示されている。この文献でのVリブドベルトでは、圧縮層中に埋没する綿短繊維がプーリ表面と圧縮ゴム面との間に介在する水を吸水すると同時に、フィブリル化したパラ系アラミド短繊維がプーリ表面と圧縮ゴム面との間に介在する水を掃き飛ばすことにより、両方の短繊維が水を除去して注水時の微小滑りを抑制している。しかし、綿短繊維はそれ自体が天然撚りされているため、ゴム組成物中に分散し難い傾向にあり、特に多量に綿短繊維を配合すると、分散不良が生じて、この部分を起点にして亀裂が発生する虞がある。また、このような綿短繊維の分散不良はゴム組成物中の内部発熱のバラツキ(綿短繊維の凝集部分と分散している部分とで内部発熱が異なる)を発生させる要因となり、ベルト走行時の省燃費性が低下する虞もある。このような問題に対し、従来は混練時間を長くする方法、例えば、特開2008−274466号公報(特許文献4)に記載のように、界面活性剤を0.5〜15重量%の範囲で水中に含んだ分散液に綿短繊維を投入して攪拌し、その後脱水乾燥させた繊維をゴム中に配合して分散させる方法が知られている。この文献には、アニオン系界面活性剤が好ましいことが記載されている。しかし、これらの方法は、時間と手間を要し、生産性を著しく低下させる要因となる。
【0007】
省燃費性に関し、例えば、特開2010−276127号公報(特許文献5)には、圧縮層を形成するゴム組成物がエチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とし、初期歪0.1%、周波数10Hz、歪0.5%の条件で動的粘弾性を測定したとき、40℃におけるTanδ(損失正接)が0.150未満の圧縮層を有するVリブドベルトが開示されている。特許文献5のVリブドベルトは、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率が45質量%以上、カーボンブラック含有比率が35質量%未満のゴム組成物を用いて圧縮層を形成することにより、40℃でのTanδを低くして内部損失を低減し、省燃費性を向上できる。しかし、ポリマー分率を高くすると、圧縮層の摩擦伝動面における摩擦係数は高くなる傾向があり、スティックスリップが発生して発音(乾燥時、注水時)する虞がある。
【0008】
このように、特許文献1〜3及び5の摩擦伝動ベルトは、静粛性及び省燃費性のうちいずれか一方の特性を満足するものの、両方の特性を兼ね備えることができない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の摩擦伝動ベルトは、伸張層と、この伸張層の一方の面に形成された圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えており、圧縮層は、プーリと接触可能な伝動面を有している。また、本発明の圧縮層を構成するゴム組成物は伝達効率を高めるのに有用であり、ポリマー成分とともに、吸水性繊維の短繊維と界面活性剤とを含有している。なお、前記のように、圧縮層に界面活性剤だけを添加しても、注水時に形成される水膜が持続され、静粛性や伝達性能が低下し、吸水性繊維だけを添加しても、短繊維の分散性が低下し、省燃費性を損ないやすい。これに対して、吸水性繊維と界面活性剤とを併用すると、注水時に形成される水膜を有効に除去できるとともに、短繊維の分散性を高めることができる。特に、伝動面において吸水性繊維と水との接触効率及び吸水効率を向上でき、吸水性短繊維の吸水速度を相乗的に改善できる。
【0024】
[圧縮層]
ポリマー成分
ポリマー成分としては、公知のゴム成分及び/又はエラストマー、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)など)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのポリマー成分は単独又は組み合わせて使用することができる。これらのポリマー成分のうち、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDMなど)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。
【0025】
本発明では、圧縮層のゴム組成物中のポリマー成分の含有量が多くても、静粛性(静音性)を向上できる。ゴム組成物中のポリマー成分の含有量は、例えば、40〜65重量%(例えば、42〜60重量%)、好ましくは45〜55重量%(例えば、47〜53重量%)程度であってもよい。
【0026】
吸水性繊維の短繊維
吸水性繊維としては、例えば、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ビニロンなど)、セルロース系繊維[セルロース繊維(植物、動物又はバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維]などが例示できる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);羊毛、絹、ホヤセルロースなど動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨンなど)などが挙げられる。
【0027】
これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、特に、セルロース系繊維(綿繊維などのセルロース繊維、レーヨンなどのセルロース誘導体繊維)、例えば、木材パルプや種子毛繊維(コットンリンターなど)を含むことが好ましい。吸水性繊維(例えば、綿繊維)は、織布又は不織布、例えば、デニム、綿帆布、ポプリン、コール天、白木綿、クレープ、金巾、ブロード、ボイル、ローンなどの形態でポリマー成分に添加してもよく、吸水性繊維は撚糸の形態でポリマー成分に添加してもよい。なお、吸水性繊維はフィブリル化していてもよい。
【0028】
吸水性繊維は短繊維の形態で圧縮層に含まれている。吸水性繊維の平均繊維径(数平均繊維径)は、例えば、10nm〜10μm(例えば、20nm〜1μm)程度の範囲から選択でき、通常、50nm〜0.7μm(例えば、100nm〜0.5μm)、好ましくは200nm〜0.4μm(例えば、200nm〜0.3μm)程度であってもよい。吸水性繊維の平均繊維長は、例えば、100μm〜30mm程度の範囲から選択でき、通常、0.1〜20mm、好ましくは0.5〜10mm、さらに好ましくは0.7〜5mmであり、0.5〜4mm(例えば、0.7〜4mm)程度であってもよい。さらに、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(平均アスペクト比)は、例えば、2000以上(例えば、2000〜100000)であり、好ましくは5000〜50000、さらに好ましくは10000〜40000(例えば、20000〜35000)程度であってもよい。
【0029】
なお、吸水性繊維は、必要であれば、他の繊維(補強繊維)と併用してもよい。補強繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC
2−4アルキレンC
6−14アリレート系繊維など]、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;炭素繊維などの無機繊維が例示できる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。補強繊維としては、アラミド繊維などのポリアミド繊維、ポリエステル繊維などから選択された少なくとも一種の補強繊維を用いることが好ましい。補強繊維はフィブリル化していてもよい。補強繊維も短繊維の形態で圧縮層に含有させることができ、短繊維の平均長さは、例えば、0.1〜20mm、好ましくは0.5〜15mm、より好ましくは1〜10mmであり、1〜5mm(例えば、2〜4mm)程度であってもよい。
【0030】
吸水性繊維と補強繊維との重量割合は、前者/後者=5/95〜70/30程度の広い範囲から選択でき、好ましくは10/90〜50/50、より好ましくは20/80〜45/55、さらに好ましくは30/70〜40/60程度であってもよい。
【0031】
これらの短繊維(吸水性繊維及び補強繊維の短繊維)は、必要であれば、界面活性剤、シランカップリング剤、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などで表面処理してもよいが、本発明では特に表面処理しなくても短繊維を均一かつ効率よく分散できる。
【0032】
吸水性繊維の短繊維の割合は、ゴム組成物のポリマー成分100重量部に対して、1〜20重量部(例えば、5〜20重量部)、好ましくは3〜17重量部、さらに好ましくは5〜15重量部(例えば、8〜12重量部)程度であってもよい。短繊維の含有量が少なすぎると、摩擦伝動面で突出する短繊維の本数が減り、注水時の水膜除去効果が低下し、注水時の静粛性や伝達性能が低下する虞がある。一方、短繊維の含有量が多すぎると、一部の短繊維の分散不良により内部発熱のバラツキが生じて省燃費性が低下しやすい。
【0033】
界面活性剤
界面活性剤とは、水となじみ易い親水基と、油となじみ易い疎水基(親油基)とを分子内に持つ物質の総称であり、極性物質と非極性物質とを均一に混合する働きを有する以外に、表面張力を小さくして濡れ性を高めたり、物質と物質との間に界面活性剤が介在して界面の摩擦を小さくしたりする作用がある。
【0034】
界面活性剤の種類は特に限定されず、イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤などが使用できる。非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤および多価アルコール型非イオン界面活性剤であってもよい。
【0035】
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤は、高級アルコール、アルキルフェノール、高級脂肪酸、多価アルコール高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリプロピレングリコールなどの疎水基を有する疎水性ベース成分にエチレンオキシドが付加して親水基が付与された非イオン界面活性剤である。
【0036】
疎水性ベース成分としての高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、オクタデシルアルコール、アラルキルアルコールなどのC
10−30飽和アルコール、オレイルアルコールなどのC
10−26不飽和アルコールなどが例示できる。アルキルフェノールとしては、オクチルフェノール、ノニルフェノールなどのC
4−16アルキルフェノールなどが例示できる。
【0037】
疎水性ベース成分の高級脂肪酸としては、飽和脂肪酸[例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸などのC
10−30飽和脂肪酸、好ましくはC
12−28飽和脂肪酸、さらに好ましくはC
14−26飽和脂肪酸、特にC
16−22飽和脂肪酸など;ヒドロキシステアリン酸などのオキシカルボン酸など]、不飽和脂肪酸[例えば、オレイン酸、エルカ酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などのC
10−30不飽和脂肪酸など]などが例示できる。これらの高級脂肪酸は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0038】
多価アルコール高級脂肪酸エステルは、多価アルコールと前記高級脂肪酸とのエステルであって、未反応のヒドロキシル基を有している。多価アルコールとしては、アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのC
2−10アルカンジオールなど)、アルカントリオール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなど)、アルカンテトラオール(ペンタエリスリトール、ジグリセリンなど)、アルカンヘキサオール(ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビットなど)、アルカンオクタオール(ショ糖など)、これらのアルキレンオキサイド付加体(C
2−4アルキレンオキサイド付加体など)などが例示できる。
【0039】
以下に、「オキシエチレン」、「エチレンオキサイド」又は「エチレングリコール」を「EO」で表し、「オキシプロピレン」、「プロピレンオキサイド」又は「プロピレングリコール」を「PO」で表すと、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリEO高級アルコールエーテル(ポリEOラウリルエーテル、ポリEOステアリルエーテルなどのポリEOC
10−26アルキルエーテル)、ポリEOポリPOアルキルエーテルなどのC
10−26高級アルコール−EO−PO付加体;ポリEOオクチルフェニルエーテル、ポリEOノニルフェニルエーテルなどのアルキルフェノール−EO付加体;ポリEOモノラウレート、ポリEOモノオレエート、ポリEOモノステアレートなどの脂肪酸−EO付加体;グリセリンモノ又はジ高級脂肪酸エステル−EO付加体(グリセリンモノ又はジラウレート、グリセリンモノ又はジパルミテート、グリセリンモノ又はジステアレート、グリセリンモノ又はジオレートなどのグリセリンモノ又はジC
10−26脂肪酸エステルのEO付加体)、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル−EO付加体(ペンタエリスリトールジステアレート−EO付加体などのペンタエリスリトールモノ乃至トリC
10−26脂肪酸エステル−EO付加体など)、ジペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル−EO付加体、ソルビトール高級脂肪酸エステル−EO付加体、ソルビット高級脂肪酸エステル−EO付加体、ポリEOソルビタンモノラウレート、ポリEOソルビタンモノステアレート、ポリEOソルビタントリステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル−EO付加体、ショ糖高級脂肪酸エステル−EO付加体などの多価アルコール脂肪酸エステル−EO付加体;ポリEOラウリルアミノエーテル、ポリEOステアリルアミノエーテルなどの高級アルキルアミン−EO付加体;ポリEO椰子脂肪酸モノエタノールアマイド、ポリEOラウリン酸モノエタノールアマイド、ポリEOステアリン酸モノエタノールアマイド、ポリEOオレイン酸モノエタノールアマイドなどの脂肪酸アミド−EO付加体;ポリEOヒマシ油、ポリEO硬化ヒマシ油などの油脂−EO付加体;ポリPO−EO付加体(ポリEO−ポリPOブロック共重合体など)などが挙げられる。これらのポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
多価アルコール型非イオン界面活性剤は、前記多価アルコール(特に、グリセロール、ペンタエリスリトール、ショ糖、ソルビトールなどのアルカントリオール乃至アルカンヘキサオール)に高級脂肪酸などの疎水基が結合した非イオン界面活性剤である。多価アルコール型非イオン界面活性剤としては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリストールモノステアレート、ペンタエリストールジ牛脂脂肪酸エステルなどのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトールモノステアレートなどのソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、椰子脂肪酸ジエタノールアマイドなどのアルカノールアミン類の脂肪酸アミド、アルキルポリグリコシドなどが挙げられる。これらの多価アルコール型非イオン界面活性剤も単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、前記ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤と組み合わせて使用してもよい。
【0041】
なお、イオン界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、長鎖脂肪酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリEOアルキルエーテル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、アルキルベタイン、イミダゾリン誘導体などの両性界面活性剤などであってもよい。
【0042】
好ましい界面活性剤は、非イオン界面活性剤、特に、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤(例えば、ポリEOC
10−26アルキルエーテル、アルキルフェノール−EO付加体、多価アルコールC
10−26脂肪酸エステル−EO付加体など)である。
【0043】
界面活性剤の水と油への親和度の程度は、HLB(Hydrophile-Lipophile-Balance)値で表すことができ、HLBは0〜20の範囲であり、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。本発明において、界面活性剤のHLB値は、8.7〜17(例えば、8.8〜16)程度であることが好ましく、より好ましくは9〜15(例えば、9〜14.5)、さらに好ましくは9.5〜14(例えば、10〜13.5)程度である。HLB値が小さすぎると、界面活性剤とポリマー成分(特にEPDM)との相溶性が過剰に高くなり、界面活性剤が摩擦伝動面に殆どブリードしないため静粛性が低下する虞がある。一方、HLB値が高すぎると、ポリマー成分との相溶性が低下し、界面活性剤が摩擦伝動面に過剰にブリードして摩擦係数を下げるため、伝達ロスが生じて省燃費性が低下する虞がある。なお、本発明では、HLB値は、グリフィン法によって算出された値である。
【0044】
さらに、HLB値以外に界面活性剤の沸点及び融点は特性に大きな影響を及ぼす。界面活性剤の沸点は、常圧において、高いほど好ましく、ゴム混練温度や加硫温度よりも高いことが好ましい。界面活性剤の沸点は、例えば、180℃以上が好ましく、より好ましくは185℃以上、さらに好ましくは190℃以上である。界面活性剤の沸点の上限は、特に限定されず、例えば、230℃以下であってもよく、220℃以下、215℃以下、又は210℃以下であってもよく、通常、220℃程度である。界面活性剤の融点は、低いほど好ましく、室温以下であることが好ましい。界面活性剤の融点は、例えば、20℃以下が好ましく、より好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは5℃以下、さらに好ましくは0℃以下であり、特に−5℃以下が好ましい。界面活性剤は、通常、室温(20〜25℃)において液状である。界面活性剤の融点の下限は、特に限定されず、例えば、−35℃以上であってもよく、−30℃以上であってもよい。界面活性剤の沸点がゴム混練温度や加硫温度よりも低いと、ゴム混練時や加硫時に界面活性剤が気化していまい、短繊維の分散性が不十分となって省燃費性が低下したり、摩擦伝動面に界面活性剤が殆どブリードしないため、静粛性が低下したりする虞がある。また、界面活性剤の融点が室温より高いと、室温において界面活性剤が固化しており、摩擦伝動面に界面活性剤が適度にブリードしないため、乾燥時及び注水時の静粛性が低下する。
【0045】
なお、界面活性剤は、ゴム中で混練することにより、前記短繊維を分散しつつ処理するのに有用である。特に有効な界面活性剤は、前記特定のHLB値、融点及び/又は沸点を有する界面活性剤である。
【0046】
界面活性剤の含有量は、ゴム組成物のポリマー成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜12重量部(例えば、0.1〜10重量部)、より好ましくは0.5〜10重量部(例えば、1〜10重量部)、さらに好ましくは2〜8重量部(例えば、3〜7重量部)程度であってもよい。界面活性剤の含有量が少なすぎると、短繊維の分散性に伴って、省燃費性が低下するとともに、静粛性(乾燥時、注水時)も不十分となる虞がある。一方、界面活性剤の含有量が多すぎると、界面活性剤が摩擦伝動面に過剰にブリードし、摩擦係数が大きく低下して省燃費性(内部発熱ではなく伝達ロスに起因して省燃費性)が低下したり、ベルトの摩擦伝動面がスリップしてプーリと過度に擦れあい、摩擦伝動面の摩耗が増大(耐摩耗性低下)したりする虞がある。
【0047】
吸水性繊維の短繊維と界面活性剤との重量割合は、吸水性繊維の短繊維の分散性を高めて省燃費性を向上できるとともに、乾燥時及び注水時の静粛性をより高めることができる範囲で選択でき、例えば、前者/後者=15/1〜0.8/1(例えば、12/1〜0.9/1)、好ましくは10/1〜1/1(例えば、8/1〜2/1)程度であってもよい。
【0048】
さらに、短繊維全体に対する界面活性剤の重量割合は、前者/後者=1/1〜50/1、好ましくは2/1〜40/1、さらに好ましくは3/1〜30/1(例えば、5/1〜25/1)程度であってもよい。
【0049】
添加剤又は配合剤
ゴム組成物は、必要により、公知の添加剤又は配合剤を含んでいてもよい。配合剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤[例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)など]、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。これらの配合剤は単独又は組み合わせて使用でき、ポリマー成分の種類や用途、性能に応じて適宜選択して用いられる。
【0050】
カーボンブラックは、圧縮層を形成するゴム組成物の内部発熱を低く抑えて省燃費性を向上させるため、粒子径の大きいカーボンブラック、特にヨウ素吸着量が40mg/g以下の大粒子径カーボンブラックを含むのが好ましい。大粒子径カーボンブラックとしては、FEF、GPF、APF、SRF−LM、SRF−HMなどが例示できる。これらのカーボンブラックは単独で又は組み合わせて使用できる。大粒子径カーボンブラックの平均粒子径は、例えば、40〜200nm、好ましくは45〜150nm、さらに好ましくは50〜125nm程度であってもよい。
【0051】
大粒子径カーボンブラックは補強効果が小さく耐摩耗性に劣るため、粒子径が小さく補強効果の高い小粒子径カーボンブラック(ヨウ素吸着量が40mg/gより高い)を併用するのが好ましい。粒子径の異なる少なくとも2種のカーボンブラックを用いることで、省燃費性(大粒子径カーボンブラックによる効果)と耐摩耗性(小粒子径カーボンブラックによる効果)とを両立させることができる。小粒子径カーボンブラックとしては、SAF、ISAF−HM、ISAF−LM、HAF−LS、HAF、HAF−HSなどが例示できる。これらのカーボンブラックは単独又は組み合わせて使用できる。小粒子径カーボンブラックの平均粒子径は、40nm未満、例えば、5〜38nm、好ましくは10〜35nm、さらに好ましくは15〜30nm程度であってもよい。なお、大粒子径カーボンブラックの平均粒子径と小粒子径カーボンブラックの平均粒子径との比率は、前者/後者=1.5/1〜3/1、好ましくは1.7/1〜2.7/1、さらに好ましくは1.8/1〜2.5/1程度であってもよい。
【0052】
上記カーボンブラックの使用量は、ポリマー成分100重量部に対して40重量部以上(例えば、45〜100重量部、好ましくは50〜80重量部、さらに好ましくは50〜70重量部、特に55〜65重量部程度)の割合である。また、大粒子径カーボンブラックと小粒子径カーボンブラックとの重量比率は、省燃費性と耐摩耗性とを両立可能な範囲、例えば、前者/後者=20/80〜55/45、好ましくは25/75〜50/50、さらに好ましくは30/70〜50/50程度であってもよい。なお、カーボンブラックのうち、小粒子径カーボンブラックの割合が多すぎると、ゴム組成物(圧縮層)の内部発熱(Tanδ)が大きくなって省燃費性が低下し、大粒子径カーボンブラックが多すぎると、補強不足により耐摩耗性が低下する。
【0053】
Tanδ
Tanδとは、損失弾性率(E”)を貯蔵弾性率(E’)で除したものであり、振動1サイクルの間に熱として散逸(ロス)されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比として表され、エネルギー損失の尺度とる。すなわち、Tanδにより、ゴム組成物に加えられる振動エネルギーが熱として散逸される指標を数値化して表すことができる。従って、Tanδが小さいほど散逸される熱は小さい(すなわち、内部発熱が小さくなり省燃費性が向上する)。本発明の好ましい態様では、ベルトが通常走行する温度(例えば、40〜120℃の温度範囲)におけるTanδに着目し、このTanδを低く設定している。具体的には、例えば、40℃及び周波数10Hzでの圧縮層のtanδは、省燃費性を向上させるため、0.130〜0.155程度の範囲から選択でき、通常、0.14〜0.15(例えば、0.140〜0.147)程度であってもよい。
【0054】
摩擦伝動ベルトの構造
本発明の摩擦伝動ベルトは、外周面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、内周面を形成する圧縮層と、前記伸張層と圧縮層との間に長手方向に延びて介在する心線とを備えており、前記伸張層はベルト背面を形成し、圧縮層は、少なくとも一部がプーリと接触可能な伝動面を有している。また、本発明の摩擦伝動ベルトは、伸張層と圧縮層との間に介在する接着ゴム層(接着層)をさらに有していてもよく、前記心線は、前記接着ゴム層内に埋設してもよい。
【0055】
摩擦伝動ベルトの種類は特に限定されず、Vベルト[ローエッジベルト(断面V字形状などの形態のローエッジベルト)、ローエッジコグドベルト(ローエッジベルトの内周側又は内周側及び外周側の双方にコグが形成されたローエッジコグドベルト)]、Vリブドベルト、平ベルトなどが例示できる。これらのベルトのうち、伝動効率の高いVリブドベルトが好ましい。
【0056】
Vリブドベルトの形態は、特に制限されず、例えば、
図1に示す形態が例示される。
図1は本発明の摩擦伝動ベルトの一例を示す概略断面図である。この形態は、ベルト下面(内周面)からベルト上面(背面)に向かって順に、圧縮層2、ベルト長手方向に心線1を埋設した接着層5、カバー帆布(織物、編物、不織布など)で構成された伸張層6を積層した形態を有しており、圧縮層2には短繊維4が主にベルト幅方向に配向して埋設されている。圧縮層2には、ベルト長手方向に伸びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形(逆台形)の複数のリブ3(
図1に示す例では4個)が形成されおり、このリブ3の二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。
【0057】
本発明の摩擦伝動ベルトはこの形態に限定されず、伸張層と圧縮層と、その間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えていればよく、例えば、伸張層6をゴム組成物で形成してもよく、接着層5を設けることなく伸張層6と圧縮層2との間に心線1を埋設してもよい。さらに、接着層5を圧縮層2又は伸張層6のいずれか一方に設け、心線1を接着層5(圧縮層2側)と伸張層6との間、もしくは接着層5(伸張層6側)と圧縮層2との間に埋設する形態であってもよい。また、リブ3の表面(特に、摩擦伝動面)にパウダー状繊維(例えば、綿、ナイロン、アラミドなど)を植毛した形態でもよく、潤滑剤などをスプレー塗布する形態であってもよい。
【0058】
また、
図2に示すように、圧縮層2を形成するゴム組成物に短繊維4を配合し、この短繊維4をリブの断面形状に沿って流動させて配向させた状態(リブ表面近傍においては、短繊維4はリブ3の外形に沿って配向した状態)に配向させてもよい。この例では、心線1は接着層のうち伸張層6側に埋設されている。
【0059】
なお、少なくとも前記圧縮層が前記ゴム組成物で形成されていればよく、前記伸張層及び接着層は、前記圧縮層の前記ゴム組成物で形成されていなくてもよい。なお、伸張層及び接着層を形成するゴム組成物は、前記短繊維及び/又は界面活性剤を含んでいる必要はない。
【0060】
心線は、高モジュラスな繊維、例えば、前記ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、エチレンナフタレート系繊維)、アラミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸、例えば、繊度2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度のマルチフィラメント糸であってもよい。
【0061】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、単数又は複数の心線がベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されていてもよい。
【0062】
ポリマー成分との接着性を改善するため、心線は、前記短繊維と同様に、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などによる種々の接着処理を施した後に、伸張層と圧縮層との間(特に接着層)に埋設してもよい。
【0063】
さらに、伸張層は補強布、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)を有していてもよい。補強布は、必要であれば、前記接着処理を施し、伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0064】
圧縮層の伝動面の表面形態
圧縮層の伝動面は、平滑であってもよいが、少なくとも伝動面の表面(前記Vリブドベルトではリブ部の両側部(又は傾斜部))では、少なくとも吸水性繊維の短繊維が露出又は存在(好ましくは起毛状に突出)しているのが好ましい。また、伝動面の表面には、前記界面活性剤がブリードアウトなどにより露出して存在するのが好ましい。なお、短繊維と界面活性剤は、プーリーと接触可能な伝動面の少なくとも一部の表面(プーリーとの接触面又はプーリーと接触する伝動面)に存在していればよく、圧縮層の内周面全体に存在していてもよく、前記のように、長手方向に延びるリブ部の断面両側部に限らず、リブ部の頂部を含めリブ部全体に存在していてもよい。
【0065】
さらに、前記界面活性剤は、短繊維の吸水性をさらに向上させるため、短繊維に付着しているのが好ましい。前記界面活性剤は、例えば、伝動面の表面で露出した短繊維の少なくとも一部の表面(例えば、起毛した短繊維の基部や途中部又は先端部、起毛した短繊維全体など)に付着していてもよい。
【0066】
なお、短繊維は、必要であれば、伝動面を研磨又は研削することにより伝動面に露出させることができ、界面活性剤はブリードアウトなどにより伝動面の表面に滲出させることができる。界面活性剤は、必要であれば、塗布することにより、伝動面に存在させてもよく、短繊維に付着させてもよい。
【0067】
[ベルトの製造方法]
摩擦伝動ベルトの製造方法は特に制限されず、公知又は慣用の方法が採用できる。例えば、圧縮層と、心線が埋設された接着層と、伸張層とを、それぞれ未加硫ゴム組成物で形成して積層し、この積層体を成形型で筒状に成形し、加硫してスリーブを成形し、この加硫スリーブを所定幅にカッティングすることにより形成できる。より詳細には、以下の方法でVリブドベルトを製造できる。
【0068】
(第1の製造方法)
先ず、表面が平滑な円筒状の成形モールドに伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に心線(処理ロープなど)を螺旋状にスピニングし、さらに接着層用シート、圧縮層用シートを順次巻き付けて成形体を作製する。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せて金型(成形型)を加硫缶内に収容し、所定の加硫条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得る。そして、この加硫ゴムスリーブの外表面(圧縮層)を研削ホイールにより研磨して複数のリブを形成した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。なお、カットしたベルトを反転させることにより、内周面にリブ部を有する圧縮層を備えたVリブドベルトが得られる。
【0069】
(第2の製造方法)
先ず、内型として外周面に可撓性ジャケットを装着した円筒状内型を用い、外周面の可撓性ジャケットに未加硫の伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に心線を螺旋状にスピニングし、さらに未加硫の圧縮層用シートを巻き付けて積層体を作製する。次に、前記内型に装着可能な外型として、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型を用い、この外型内に、前記積層体が巻き付けられた内型を、同心円状に設置する。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて積層体(圧縮層)をリブ型に圧入し、加硫する。そして、外型より内型を抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型から脱型した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。この第2の製造方法では、伸張層、心線、圧縮層を備えた積層体を一度に膨張させて複数のリブを有するスリーブ(又はVリブドベルト)に仕上げることができる。
【0070】
(第3の製造方法)
第2の製造方法に関連して、例えば、特開2004−82702号公報に開示される方法(圧縮層のみを膨張させて予備成形体(半加硫状態)とし、次いで伸張層と心線とを膨張させて前記予備成形体に圧着し、加硫一体化してVリブドベルトに仕上げる方法)を採用してもよい。
【0071】
これらの製造方法のうち、圧縮層を研磨して摩擦伝動面に短繊維を十分に突出可能な第1の製造方法が好ましい。なお、第2及び第3の製造方法では、圧縮層をリブ型に圧入してリブを形成するため、短繊維の突出量が少なくなるが、これらの方法で形成された圧縮層の伝動面を研磨又は研削して短繊維を突出させてもよい。また、圧縮層の上に短繊維を植毛して植毛層を形成させてもよいが、この植毛方法だけでは、短繊維の多くは圧入時にゴム(圧縮層)の流動により圧縮層の内部(摩擦伝動面近傍の内部)に取り込まれるため短繊維の突出量(又は起毛量)が依然として少ない。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0073】
ゴム組成物
表1に示すゴム組成物をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシート(圧縮層用シート)を作製した。また、表1に示すゴム組成物において、ナイロン短繊維、綿短繊維及び界面活性剤を含まないゴム組成物を用い、上記と同様にして、接着層用シート及び伸張層用シートを作製した。
【0074】
なお、表1に示すゴム組成物中の各成分の割合は質量部である。また、ゴム組成物中の成分は以下の通りである。
【0075】
EPDM:三井化学(株)製「EPT2060M」
ナイロン短繊維:66ナイロン、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
綿短繊維:デニム、平均繊維径13μm、平均繊維長6mm
老化防止剤1:ジフェニルアミン系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」)
老化防止剤2:メルカプトベンゾイミダゾール系老化防止剤(大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB」)
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」、平均粒子径28nm
カーボンブラックGPF:東海カーボン(株)製「シーストV」、平均粒子径62nm
有機過酸化物:ジクミルペルオキシサイド
ジベンゾイル・キノンジオキシム:大内新興化学工業(株)製「バルノックDMG」
【0076】
界面活性剤として、以下のポリオキシアルキレン アルキルエーテルを用いた。
界面活性剤1:「ニューコール2308−LY」HLB値12.3、沸点193℃、融点−7℃
界面活性剤2:「ニューコール2303−Y」HLB値9.1、沸点182℃、融点−28℃
界面活性剤3:「ニューコール2308−Y」HLB値14.2、沸点201℃、融点10℃
【0077】
ベルト製造方法
ベルトは、前記第1の製造方法を用いて作製した。すなわち、先ず、表面が平滑な円筒状成形モールドに伸張層用シートを巻きつけ、この伸張層用シート上に処理ロープを螺旋状にスピニングし、接着層用シート、圧縮層用シートを順次巻き付けて成形体を形成した。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せて金型を加硫缶に設置し、所定の加硫条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得た。そして、この加硫ゴムスリーブの外面(圧縮層)を研削ホイールにより所定の間隔で研磨して複数のリブを形成した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅でカットして、幅方向のリブ数が6個、周長が1100mmのVリブドベルトに仕上げた。
【0078】
ベルト物性の測定
(a)粘弾性(Tanδ)の測定
Vリブドベルトのリブ部をスライサーでスライスして1本のリブを採取し、試験片(短繊維はリブ幅方向に配向)とした。試験片は断面形状が略台形(上辺2.3mm、底辺1.6mm、高さ2.0mm)、長さは40mmである。そして、粘弾性測定装置(上島製作所製「VR−7121」)のチャックに、チャック間距離15mmで試験片をチャックして固定し、初期歪(静的歪)2.0%を与え、周波数10Hz、動的歪1.0%(すなわち、前記初期歪2.0%を中心位置又は基準位置として長手方向に±1.0%の歪みを付与しつつ)、昇温速度1℃/分で40℃でのTanδ(損失正接)を求めた。
【0079】
(b)接触角の測定
ベルトの摩擦伝動面と水との接触角θ(水滴の接線と摩擦伝動面とがなす角)は、
図3に示すように、摩擦伝動面に水を滴下した水滴の投影写真から、θ/2法を用いて以下の式より求めることができる。
【0080】
θ=2θ
1 …(1)
tanθ
1=h/r → θ
1=tan
−1(h/r) …(2)
(式中、θ
1は、摩擦伝動面に対して、水滴の端点(
図3では左端点)と頂点とを結ぶ直線の角度であり、hは水滴の高さ、rは水滴の半径を示す。)
式(2)を式(1)に代入して、以下の式(3)が得られる。
【0081】
θ=2tan
−1(h/r) …(3)
接触角の測定は、全自動接触角計(協和界面科学社製、CA−W型)を用いて滴下した水滴の投影写真からrとhを測定し、式(3)を用いて算出した。測定は滴下直後(1秒後)の接触角を算出した。接触角θが小さいほど摩擦伝動面は水との親和性に優れており、接触角θが70°以下であれば濡れ性に優れていると判断した。
【0082】
(c)トルクロス測定
図4に示すように、直径55mmの駆動(Dr)プーリと、直径55mmの従動(Dn)プーリとで構成される2軸走行試験機にVリブドベルトに懸架し、450〜950N/ベルト1本の張力範囲でVリブドベルトに所定の初張力を付与し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを2000rpmで回転させたときの駆動トルクと従動トルクとの差をトルクロスとして算出した。なお、この測定で求まるトルクロスは、Vリブドベルトに起因するトルクロス以外に、試験機の軸受けに起因するトルクロスも含まれている。そのため、ベルトとしてのトルクロスが実質0と考えられる金属ベルト(材質:マルエージング鋼)を予め走行させ、駆動トルクと従動トルクとの差が軸受けに起因するトルクロス(軸受け損失)とし、Vリブドベルトを走行させて算出したトルクロス(ベルトと軸受けの二つに起因するトルクロス)から、軸受けに起因するトルクロス(軸受け損失)を差し引いた値を、ベルト単体に起因するトルクロスとして求めた。なお、上記トルクロス(軸受け損失)は所定の初張力で金属ベルトを走行させたときのトルクロス(例えば、初張力500N/ベルト1本でVリブドベルトを走行させた場合、この初張力で金属ベルトを走行させたときのトルクロスが軸受け損失となる)である。このVリブドベルトのトルクロスが小さいほど省燃費性に優れており、トルクロスが0.37Nm以下であれば省燃費性は良好と判断した。
【0083】
(d)ミスアライメント発音試験
図5に示すように、直径125mmの駆動(Dr)プーリと、直径125mmの従動(Dn)プーリと、直径60mmのテンション(T)プーリとで構成され、駆動プーリと従動プーリとの軸間距離を212mmとした3軸走行試験機に、テンションプーリへの巻き付け角度が90°でVリブドベルトを懸架し、従動プーリを他のプーリ(駆動プーリ、テンションプーリ)に対してプーリ軸方向に変位させて所定角度のミスアライメントに調節した。そして、ベルト張力が6kgf/リブとなるように駆動プーリに荷重を付与し、駆動プーリの回転数を1000rpmとして、室温条件下で駆動プーリと従動プーリとの間に注水(200cc)を行ない、ミスアライメントでの走行において発音が発生したときの角度(発音限界角度)を求めた。この発音限界角度が大きいほど静粛性に優れており、角度が2.2°以上であれば静粛性は良好と判断した。
【0084】
(e)TS摩耗試験
Vリブドベルトを、案内ローラ(直径60mm)にVリブドベルトの巻き付け角度90度で掛け、Vリブドベルトの一方の端部を固定し、他方の端部に1.75kgf/3リブのウェイトを垂下させ、案内ローラを43rpmで回転させ、ロードセルの値を検出することにより、張り側の張力T1と緩み側の張力T2とを検出し、張力比(T1/T2)から摩擦係数μ=(1/2π)ln(T1/T2)を求めた。摩擦係数は、乾燥時(DRY時)と60cc/分での注水時(WET時)とで評価した。
【0085】
(f)高温低張力屈曲疲労試験
図6に示されるように、駆動プーリ(Dr,直径120mm)、アイドラープーリ(I,直径85mm)、従動プーリ(Dn,直径120mm)、そしてテンションプーリ(T,直径45mm)を順に配置して構成した試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、Vリブドベルトのテンションプーリへの巻き付け角度を90度に、アイドラープーリへの巻き付け角度を120度にして雰囲気温度120℃、駆動プーリの回転数4900rpm、ベルト張力40kgf/3リブの試験条件で、駆動プーリに荷重を付与してVリブドベルトを走行させ、また従動プーリには負荷12PSを与えて走行させた。走行時間を400時間とし、心線に達する亀裂が6個発生するまでの時間を調べた。
【0086】
結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、比較例1では、界面活性剤を含まないため、短繊維の分散性が低下してtanδが増大し、伝達ロスが増大した。特許文献2に相当する比較例2では、綿短繊維を含まず界面活性剤を含んでおり、tanδが低下して伝達ロスは低下するものの、水膜除去効果がないため耐発音性が低下した。
【0089】
これに対して、実施例1〜5では、40℃の伝達損失(tanδ)が0.150未満、接触角が70°未満、伝達ロスが0.38未満、注水時発音限界角度が2.3°以上、乾燥時TS摩擦係数が0.95未満、注水時TS摩擦係数が0.65未満、高温低張力屈曲疲労試験での走行時間が400時間であり、静粛性(静音性)及び省燃費性の双方の特性を両立でき、耐久性の高い摩擦伝動ベルトが得られた。特に、比較例1及び比較例2と、実施例2との対比から、吸水性繊維の短繊維と界面活性剤とを組み合わせることにより、伝達損失(tanδ)及び水との接触角を大きく低減できる。
【0090】
さらに、実施例2の吸水性繊維(綿短繊維)の割合を変化させた実施例6〜8の結果から、次のような傾向が見られた。すなわち、吸水性繊維の含有量が少ないと、注水時の水膜除去効果が低下し、注水時の静粛性や伝達性能が低下した。一方、吸水性繊維の含有量が多いと、一部の短繊維の分散不良により内部発熱のバラツキが生じて40℃の損失正接(tanδ)が大きくなり、その結果、伝達ロスが大きくなり省燃費性が低下した。なお、このような傾向が見られたものの、実施例6及び7では、実施例2と同等の性能であった。一方、実施例8は、短繊維の含有量が比較的多いため、実施例2と比べると、若干tanδ(内部発熱)が増加し、伝達ロスも大きくなった。しかし、実施例8も実用的には問題ないレベルであった。