(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃焼室を有するエンジンと、該燃焼室に連通され該燃焼室から排出される排出ガスにより回転するタービン、該タービンと一体的に回転し吸入空気を加圧して該燃焼室に送出するコンプレッサ、および、該タービンの排出ガス流路に設けられ該排出ガスの流路面積を変化させる可変ノズルを有する過給機と、を含むエンジンシステムの制御装置であって、
前記エンジンシステムが搭載される車両の運転状態を特定する運転状態特定部と、
特定された前記車両の運転状態と前記エンジンの運転状態とに基づいて、サージ音の発生条件となるサージ条件を満たすか否か判定するサージ判定部と、
前記サージ条件を満たすと、前記車両の運転状態および前記エンジンの運転状態に基づいて、前記可変ノズルの開度を開方向に制御する可変ノズル制御部と、
を備え、
前記車両の運転状態として、停止中の運転状態と走行中の運転状態とを有することを特徴とするエンジンシステムの制御装置。
前記サージ判定部は、前記エンジンの運転状態を示すパラメータを所定値と比較して前記サージ条件を満たすか否か判定するとともに、前記車両の運転状態に基づいて前記所定値を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンシステムの制御装置。
前記エンジンの運転状態を示すパラメータは、前記燃焼室に連通されたインテークマニホールドの圧力、および、該燃焼室に燃料を噴射するインジェクタの燃料噴射量変化率を含み、
前記サージ判定部は、前記インテークマニホールドの圧力が所定の圧力以上であり、かつ、前記インジェクタの燃料噴射量変化率が所定の変化率以上の場合に前記サージ条件を満たすと判定することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のエンジンシステムの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(エンジンシステム100)
図1は、エンジンシステム100の概略的な構成を示した図である。ここでは、エンジン108として、筒内直噴4気筒ディーゼルエンジンを挙げて説明し、流体の流れを白抜き矢印で示している。エンジン108は、例えば、車両などに搭載されて車両に駆動力を供給する。エンジン108には、シリンダブロック110と、シリンダブロック110の上部に設けられたシリンダヘッド112と、シリンダブロック110内で摺動可能にコネクティングロッド114に支持されたピストン116とが設けられる。そして、シリンダブロック110と、シリンダヘッド112と、ピストン116の上面とによって囲まれた空間が燃焼室118として形成される。
【0018】
シリンダヘッド112には、インテークマニホールド120およびエキゾーストマニホールド122が燃焼室118に連通するように設けられている。インテークマニホールド120と燃焼室118との間には、吸気弁124の先端が位置する。吸気弁124は、他端に吸気弁用カム126が当接されており、吸気弁用カム126が回転することにより、インテークマニホールド120と燃焼室118との間を開閉する。エキゾーストマニホールド122と燃焼室118との間には、排気弁128の先端が位置している。排気弁128は、他端に排気弁用カム130が当接されており、排気弁用カム130が回転することにより、エキゾーストマニホールド122と燃焼室118との間を開閉する。
【0019】
シリンダヘッド112には、先端が燃焼室118内に位置するようにインジェクタ(燃料噴射弁)132が設けられ、インジェクタ132は、燃焼室118に燃料を噴射する。燃焼室118では、ピストン116によって圧縮加熱された空気にインジェクタ132から噴射された燃料が接触することで自然発火が生じ、ピストン116が往復運動する。このようなピストン116の往復運動はコネクティングロッド114を通じてクランクシャフト134の回転運動に変化する。
【0020】
また、エアクリーナ136を通って過給機138のコンプレッサ138aで圧縮された空気は、インタークーラ140で冷却された後、吸気管142からインテークマニホールド120に流入し、エンジン108の燃焼室118に供給される。スロットル弁144は、吸気管142に設けられ、吸気管142の流路幅(開度)を調整することで、吸入空気の流量を制御する。
【0021】
また、エキゾーストマニホールド122には排気管146が連通しており、排気管146を流通する排出ガスは、排気管146に連結された過給機138のタービン138bを回転させ、触媒が収容された触媒ユニット148で浄化されて排出される。
【0022】
また、過給機138では、タービン138bと一体的にコンプレッサ138aが回転し、コンプレッサ138aの回転により吸入空気が加圧され、エンジン108の燃焼室118に過給空気が送出される。かかる過給機138により、吸入空気の流動性を高め、加速性能や燃焼効率(燃費)の向上を図ることができる。
【0023】
また、本実施形態では、過給機138として、可変ノズル式ターボ(VNT:Variable Nozzle Turbo)を採用しており、タービン138bのハウジングの排出ガス流路に設けられた可変ノズル138cが、排出ガスの流路面積(開度)を変化させて過給圧を調整する。
【0024】
EGR流路150は、排気管146におけるタービン138bの上流と、吸気管142におけるスロットル弁144の下流とを連通させる。EGR流路150には、EGRクーラ152が設けられており、EGRクーラ152で冷却された排出ガスが、インタークーラ140で冷却された吸入空気とともに燃焼室118に還流する。EGRバルブ154は、EGR流路150に設けられ、EGR流路150の流路幅を調整することで、燃焼室118に環流させる排出ガスの流量を制御する。このように、排出ガスを吸入空気と共に燃焼室118に供給することで、酸素濃度を低下させて、燃料の燃焼温度を低減してNOx(窒素酸化物)などの生成を抑えることが可能となる。
【0025】
インマニ圧センサ160は、インテークマニホールド120の圧力(以下、単にインマニ圧という)を検出する。クランク角センサ162は、クランクシャフト134のクランク角を検出する。シフトポジションセンサ164は、エンジン108の出力が伝達されるトランスミッションのシフトポジションを検出する。車速センサ166は、車両の速度を検出する。駆動軸回転数センサ168は、車両の駆動軸の回転数を検出する。これら各センサは、ECU(Engine Control Unit)170に接続されており、検出した値を示す信号をECU170に出力する。
【0026】
ECU170は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータでなり、エンジン108全体を統括制御する。ECU170には、インジェクタ132、可変ノズル138c、スロットル弁144が接続されており、それぞれにECU170からの指令信号が入力される。また、ECU170は、信号取得部180、燃料制御部182、可変ノズル制御部184、スロットル制御部186、運転状態特定部188、サージ判定部190としても機能する。各機能部については、以下に詳述する。
【0027】
信号取得部180は、インマニ圧センサ160、クランク角センサ162、シフトポジションセンサ164、車速センサ166、駆動軸回転数センサ168が検出した検出値を示す信号を取得する。また、信号取得部180は、クランク角センサ162から取得したクランク角を示す信号に基づいてエンジン108の回転数を導出する。
【0028】
燃料制御部182は、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)に基づいて、燃料噴射時期マップを参照し、クランク角に対応する所定の位相、例えば、圧縮行程の下死点以降の所定の角度で、アクセル開度に応じた量(期間)だけ燃料を噴射する。また、燃料制御部182は、単位時間あたりの燃料の噴射量の差分に基づいて、その変化率(燃料噴射量変化率)を導出する。かかる燃料噴射に伴い、吸気弁124は、吸気弁用カム126の回転に応じ、吸気行程において、ピストン116の上死点以降に開き、下死点以降で閉じる。排気弁128は、排気弁用カム130の回転に応じ、排気行程において、ピストン116の下死点以降に開き、上死点以降で閉じる。
【0029】
可変ノズル制御部184は、可変ノズル138cの開度を調整し、排出ガスの流路面積を変化させることで、タービンホイールに導入される排出ガスの流速を制御する。かかる可変ノズル138cと可変ノズル制御部184の構成により、排気管146における排出ガスの流速に拘わらず、タービン138bおよびコンプレッサ138aの回転速度を高めることができ、ひいては、コンプレッサ138aの出口の圧力、すなわち、燃焼室118に導入される吸入空気の圧力(吸気圧)を高めることが可能となる。
【0030】
スロットル制御部186は、スロットル弁144の開度を調整し、吸入空気の流量を制御する。ディーゼルエンジンでは、空燃比の調整が不要なので、スロットル制御部186は、通常、スロットル弁144を開弁状態に維持する。ただし、DPF(Diesel Particulate Filter)の粒子状物質を燃焼再生するためや、エンジン108の始動直後におけるEGR流路150の流量を増やしてNOxを低減するため、そのようなタイミングにおいて、スロットル制御部186は、排出ガスの温度を高めるべく、スロットル弁144をエンジン108の回転数に基づく開度に絞る。
【0031】
図2は、コンプレッサマップにおけるサージ領域を説明するための説明図である。ここでは、横軸にコンプレッサ138aの流量、縦軸にコンプレッサ138aの入口と出口の圧力比が示されている。上述したように、エンジンシステム100においては、可変ノズル138cを絞ることで、排気管146における排出ガスの流速が低い場合であっても、コンプレッサ138aの出口における圧力(入口と出口の圧力比)を高めることができる。しかし、可変ノズル138cが絞られた(コンプレッサ138aの圧力比が高い)まま、アクセル開度を緩めた場合、
図2に実線矢印で示したように、コンプレッサ138aを通過する吸入空気の流量が著しく低下し、コンプレッサマップ上のサージ領域に入ってしまう(
図2にハッチングで示す)。すなわち、可変ノズル138cを絞って加速性能や燃焼効率を維持することのトレードオフとしてサージ音の問題が生じ易くなることとなる。
【0032】
また、上述したように、DPFの再生時やエンジン108の始動時においては、スロットル弁144が絞られる場合があり、コンプレッサ138aを通過する吸入空気の流量はより低くなる。かかる状況下においては、コンプレッサマップ上のサージ領域に入り易くなり、また、サージ領域から抜け出し難くなる。
【0033】
そこで、本実施形態では、エンジンシステム100が搭載される現在の車両の運転状態を特定し、車両の運転状態(以下、単に「車両運転状態」と言う)とエンジン108の運転状態(以下、単に「エンジン運転状態」と言う)とに基づいて、サージ音が発生する可能性が高いかどうかを判定し、サージ音が発生する可能性が高いと判定した場合に、サージ音の発生を抑制する処理を行う。こうして、過給機138の特に可変ノズル138cによって加速性能や燃焼効率の向上を図りつつ、
図2で破線の矢印で示したように、サージ音の発生を抑制することが可能となる。以下、サージ音の発生条件となるサージ条件の判定と、その後のサージ音の発生を抑制する処理について詳述する。
【0034】
運転状態特定部188は、相異なる複数の車両運転状態のうち現在の車両運転状態を特定する。ここでは、複数の車両運転状態として、それぞれに対応する車両運転条件(レーシング条件、シフトチェンジ条件、コースト条件、非ロックアップ時駆動軸接続条件)を満たしたレーシング状態、シフトチェンジ状態、コースト状態、非ロックアップ時駆動軸接続状態の4つの車両運転状態を含んでいる。
【0035】
レーシング状態は、所謂、エンジン108の空ぶかしに相当し、例えば、トランスミッションのシフトポジションがニュートラルポジションに位置し、かつ、車両が停止している(車速≒0)といったレーシング条件を満たしている状態を言う。運転状態特定部188は、シフトポジションセンサ164および車速センサ166の出力に基づき、車両運転状態がレーシング状態であるか否か判定する。
【0036】
また、シフトチェンジ状態は、シフトポジションを変更している状態であり、例えば、トランスミッションのシフトポジションがニュートラルポジションに位置し、かつ、車両が走行している(車速≠0)といったシフトチェンジ条件を満たしている状態を言う。運転状態特定部188は、シフトポジションセンサ164および車速センサ166の出力に基づき、車両運転状態がシフトチェンジ状態であるか否か判定する。
【0037】
また、コースト状態は、所謂、慣性走行に相当し、例えば、車両がCVT(Continuously Variable Transmission)等を含むAT(Automatic Transmission)車であれば、ロックアップクラッチがロックアップしているか、車両がMT(Manual Transmission)車であれば、トランスミッションのシフトポジションがニュートラルポジション以外(前進ポジション、後進ポジション)に位置しているといったコースト条件を満たしている状態を言う。運転状態特定部188は、ECU170が保持している車両情報(AT車であるかMT車であるか)と、シフトポジションセンサ164の出力とに基づき、車両運転状態がコースト状態であるか否か判定する。
【0038】
また、非ロックアップ時駆動軸接続状態は、所謂、ストール状態(AT車でブレーキを踏んだままアクセルを踏み込んで、エンジン回転数が高くなっている状態)を想定したものであり、例えば、車両がAT車であり、かつ、ロックアップクラッチがロックアップしておらず、トランスミッションのシフトポジションがニュートラルポジション以外に位置しているといった非ロックアップ時駆動軸接続条件を満たしている状態を言う。運転状態特定部188は、ECU170が保持している車両情報(AT車であるかMT車であるか)と、シフトポジションセンサ164の出力と、信号取得部180で導出したエンジン108の回転数と、駆動軸回転数センサ168の出力とに基づき、車両の運転状態が非ロックアップ時駆動軸接続状態であるか否か判定する。なお、ロックアップクラッチがロックアップしているか否かは、エンジン108の回転数と、駆動軸回転数センサ168で取得した駆動軸回転数(ロックアップクラッチよりも下流側の駆動軸の回転数)との差分が0あるいは所定の回転数以下であるか否かによって判定する。また、非ロックアップ時駆動軸接続状態であるか否かの判定には、上記の条件に加え、車速センサ166で取得した車速やブレーキの踏み込み状態を勘案してもよい。すなわち、上記の条件に加え、車速が0であり、ブレーキが踏み込まれているときに非ロックアップ時駆動軸接続状態と判定するようにしてもよい。
【0039】
運転状態特定部188は、上記の車両運転条件(レーシング条件、シフトチェンジ条件、コースト条件、非ロックアップ時駆動軸接続条件)を満たした場合に、現在の車両運転状態が、その車両運転条件に対応する車両運転状態であると特定し、満たしていない場合、他の車両運転状態であると特定する。
【0040】
サージ判定部190は、運転状態特定部188が特定した車両運転状態と、エンジン運転状態とに基づいて、サージ音の発生条件(発生する可能性が高い)となるサージ条件を満たすか否か判定する。本実施形態では、エンジン運転状態を示すパラメータとして、エンジン108の負荷を示すインマニ圧、および、アクセル操作の変化度合いを示す燃料噴射量変化率(アクセルを急に緩めると高くなる)を含んでいる。したがって、サージ判定部190は、運転状態を示すパラメータを所定値と比較して、具体的に、インマニ圧や燃料噴射量変化率を、車両運転状態それぞれに対応した閾値(インマニ閾値、燃料閾値)と比較し、インマニ圧がインマニ閾値(所定の圧力)以上であり、絶対値で表される燃料噴射量変化率が燃料閾値(所定の変化率:より具体的には、燃料噴射量が減少方向である所定の変化率)以上であれば、サージ条件を満たすと判定する。
【0041】
ここで、サージ音が生じる条件は、車両運転状態に基づいて変化する。そこで、インマニ閾値や燃料閾値を、車両運転状態に応じて異なる値に設定するようにした。また、これに加え、インマニ閾値は、車両運転状態によっては、エンジン回転数に応じて異ならせるようにし、燃料閾値は、インマニ圧に応じて異ならせるようにした。
【0042】
図3は、インマニ閾値および燃料閾値を説明するための説明図である。
図3(a)では、横軸にエンジン108の回転数、縦軸にインマニ閾値、
図3(b)では、横軸にインマニ圧、縦軸に燃料閾値が示され、レーシング状態、シフトチェンジ状態、コースト状態、非ロックアップ時駆動軸接続状態が、それぞれ、実線、破線、一点鎖線、二点鎖線で示されている。
【0043】
図3(a)に示すように、車両運転状態それぞれに対応してインマニ閾値が設けられている。このうち、シフトチェンジ状態、および、コースト状態に関しては、インマニ閾値をエンジン108の回転数に応じて変化させている。シフトチェンジ状態およびコースト状態は走行中であり、停止中を想定しているレーシング状態や非ロックアップ時駆動軸接続状態に比し、後述するサージ音の発生を抑制する処理による排出ガスへの影響が生じ易い可能性がある。また、走行中はロードノイズ等が発生するため、停止中に比してサージ音が聞こえ難い。そこで、
図3(a)に示すように、シフトチェンジ状態およびコースト状態のインマニ閾値を、レーシング状態や非ロックアップ時駆動軸接続状態のインマニ閾値に比して高く設定することで、サージ条件を満たし難いようにし、排出ガスに影響を与えないようにした。また、コースト状態は、シフトチェンジ状態に比べ、アクセルを緩めたときの単位時間当たりのコンプレッサ通過流量の減少が遅いため、サージ領域に入り難い。そのため、コースト状態のインマニ閾値はシフトチェンジ状態のそれよりも高く設定した。
【0044】
また、
図3(b)に示すように、車両運転状態それぞれに対応して燃料閾値が設けられ、その車両運転状態それぞれの燃料閾値を、インマニ圧に応じて変化させている。具体的には、サージ音の発生が最も懸念されるシフトチェンジ状態(特に加速時のシフトチェンジ状態)の燃料閾値を他の車両運転状態の燃料閾値よりも小さくし、サージ条件を満たし易いようにした。
【0045】
したがって、サージ判定部190は、現在の車両運転状態およびエンジン108の回転数に基づき、
図3(a)からインマニ閾値を抽出するとともに、現在の車両運転状態およびインマニ圧に基づき
図3(b)から燃料閾値を抽出し、現在のインマニ圧が、抽出したインマニ閾値以上であり、かつ、現在の燃料噴射量変化率が、抽出した燃料閾値以上であれば、サージ条件を満たすと判定する。かかる構成により、排出ガスといった他の性能への影響を低減しつつ、サージ条件を満たすか否か適切に判定することが可能となる。
【0046】
また、サージ条件を満たすか否かの判定においてヒステリシス特性を設けることもできる。例えば、サージ判定部190は、インマニ圧がインマニ閾値以上であり、燃料噴射量変化率が燃料閾値以上であれば、サージ条件を満たすと判定し、インマニ圧または燃料噴射量変化率がそれぞれの閾値より低下すれば、サージ条件を満たさなくなったと判定する。しかし、インマニ圧がインマニ閾値未満となったり、または、燃料噴射量変化率が燃料閾値未満となっても、直ちにサージ条件を満たさないと判定せず、インマニ圧が、インマニ閾値より小さな所定の閾値となって、または、燃料噴射量変化率が燃料閾値より小さな所定の閾値となって、はじめてサージ条件を満たさないと判定する。こうして、インマニ閾値や燃料閾値近傍でのチャタリングを防止することができる。
【0047】
可変ノズル制御部184は、サージ判定部190がサージ条件を満たすと判定すると、現在の車両運転状態およびエンジン108の回転数に基づいて、可変ノズル138cの開度を開方向(開度を高める方向)に制御する。
【0048】
上述したように、可変ノズル制御部184は、コンプレッサ138aの出口における圧力を高めるべく(加速性能を高めるべく)、通常、可変ノズル138cを絞っていることが多い。ここで、サージ判定部190がサージ条件を満たすと判定すると、可変ノズル制御部184は、サージ音の発生を回避すべく、可変ノズル138cの開度を高める。
【0049】
図4は、サージ条件を満たすと判定された場合の可変ノズル138cの開度を説明するための説明図である。具体的に、例えば、現在の車両運転状態が、シフトチェンジ状態またはコースト状態であった場合、
図4(a)に破線で示されているように、エンジン108の回転数に基づいて、
図4(a)中に白抜き矢印で示したように、可変ノズル138cを閉弁状態からその開度を高める。また、現在の車両運転状態が、レーシング状態または非ロックアップ時駆動軸接続状態であった場合、
図4(b)に破線で示したように、エンジン108の回転数に拘わらず、
図4(b)中に白抜き矢印で示したように、可変ノズル138cを閉弁状態からその開度を高める。また、レーシング状態または非ロックアップ時駆動軸接続状態のときの方が、シフトチェンジ状態およびコースト状態のときよりも可変ノズル138cの開度が高く設定される。これは、走行中であるシフトチェンジ状態およびコースト状態では、ドライバビリティの低下を抑制するため、可変ノズル138cの開度に制限を設けているのに対し、停止中を想定しているレーシング状態または非ロックアップ時駆動軸接続状態ではドライバビリティの低下を気にする必要はないので、可変ノズル138cの開度に制限を設けていない(全開とする)からである。
【0050】
また、
図4(a)、
図4(b)に示したように、外部環境によって、例えば、通常環境と、高地や低温の高地環境とで、可変ノズル138cの開度を異なる値に設定した。具体的には、高地環境における可変ノズル138cの開度を、通常環境におけるそれよりも大きくした。これは、高地では空気密度が低くタービン回転数が上昇し易いこと、また、低温では空気密度が低く筒内圧が上がり易いことを考慮したものである。なお、高地環境であるか否かは、ECU170によって例えば大気圧センサ(図示せず)の出力に基づいて判定される。また、高地環境であるか否かは、ECU170によって例えば吸気温センサ(図示せず)の出力に基づいて判定される。
【0051】
また、可変ノズル制御部184は、サージ判定部190がサージ条件を満たすと判定していた状態から、インマニ圧や燃料噴射量変化率の低下により、サージ条件を満たさなくなったと判定した場合、可変ノズル138cの開度を閉方向に制御し、サージ条件を満たすと判定する直前の開度に戻す。このとき、開度を一度に変化させず、所定の変化率(傾斜)を伴った漸減曲線によって徐々に変化させてもよい。かかる漸減曲線としては1次または複数次の曲線を用いることができる。かかる構成により、通常の制御にスムーズに移行することができ、可変ノズル138cの開度が急変することによるサージ音の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0052】
スロットル制御部186は、サージ条件を満たすと、エンジン108の回転数に基づいて、燃焼室118に連通された吸気管142の流路幅を調整するスロットル弁144の開度を開方向に制御する。
【0053】
上述したように、スロットル制御部186は、DPFの粒子状物質を燃焼再生するためや、EGR流路150の流量を増やしてNOxを低減するため、スロットル弁144をエンジン108の回転数に応じた開度に調整することがある。このような状況下で、サージ判定部190がサージ条件を満たすと判定すると、サージ音の発生を回避すべく、スロットル弁144を開方向に制御する。
【0054】
図5は、スロットル弁144の開度を説明するための説明図である。具体的に、例えば、DPFの再生やEGRの増量のために、
図5に破線で示したようにスロットル弁144が比較的閉弁状態にあったとしても、サージ条件を満たすと判定されると、エンジン108の回転数に基づいて、
図5中に白抜き矢印で示したように、スロットル弁144の開度を高める。このとき、
図4同様、外部環境によって、例えば、通常環境と、高地環境とではスロットル弁144の開度が異なる値に設定される。具体的には、高地環境におけるスロットル弁144の開度を、通常環境におけるそれよりも大きくした。これは、高地では空気密度が低いことを考慮したものである。
【0055】
また、スロットル制御部186は、サージ判定部190がサージ条件を満たすと判定していた状態から、インマニ圧や燃料噴射量変化率の低下により、サージ条件を満たさなくなったと判定した場合、スロットル弁144の開度を閉方向に制御し、サージ条件を満たすと判定する直前の開度に戻す。このとき、可変ノズル138c同様、スロットル弁144も開度を一度に変化させず、所定の変化率(傾斜)を伴った漸減曲線によって徐々に変化させてもよい。
【0056】
(サージ音抑制方法)
以下に、エンジンシステム100を用いたサージ音抑制方法の具体的な処理を説明する。
【0057】
図6は、サージ音抑制方法の処理の流れを示したフローチャートである。ここでは、所定の時間間隔毎に生じる割込処理によってサージ音抑制方法が繰り返し遂行される。
【0058】
まず、信号取得部180は、インマニ圧センサ160、クランク角センサ162、シフトポジションセンサ164、車速センサ166、駆動軸回転数センサ168が検出した検出値を示す信号を取得し、エンジン108の回転数を導出する(S200)。続いて、燃料制御部182は、噴射した燃料に基づいて燃料噴射量変化率を導出する(S202)。次に、運転状態特定部188は、複数の車両運転条件(レーシング条件、シフトチェンジ条件、コースト条件、非ロックアップ時駆動軸接続条件)のいずれかを満たすか否か判定し、車両運転条件を満たした場合、その車両運転条件に対応する車両運転状態(レーシング状態、シフトチェンジ状態、コースト状態、非ロックアップ時駆動軸接続状態)を現在の車両運転状態として特定する(S204)。
【0059】
サージ判定部190は、車両運転状態として、所定の車両運転状態(レーシング状態、シフトチェンジ状態、コースト状態、非ロックアップ時駆動軸接続状態)が特定されたか否か判定し(S206)、所定の車両運転状態が特定されていなければ、すなわち、他の車両運転状態と特定されていれば(S206におけるNO)、当該サージ音抑制方法を終了する。また、所定の車両運転状態が特定されていれば(S206におけるYES)、サージ判定部190は、特定された車両運転状態とエンジン運転状態(インマニ圧、燃料噴射量変化率)とに基づいてサージ条件を満たすか否か判定する(S208)。
【0060】
続いて、サージ条件を満たしていると判定されたか否か確認され(S210)、サージ条件を満たしていると判定されていなければ(S210におけるNO)、当該サージ音抑制方法を終了する。また、サージ条件を満たしていると判定されていれば(S210におけるYES)、可変ノズル制御部184は、車両運転状態およびエンジン108の回転数に基づいて、可変ノズル138cの開度を開方向に制御し(S212)、スロットル制御部186は、エンジン108の回転数に基づいて、スロットル弁144の開度を開方向に制御し(S214)、当該サージ音抑制方法を終了する。
【0061】
以上、説明したように、本実施形態におけるエンジンシステム100によれば、排出ガスやドライバビリティといった他の性能への影響を抑制しつつ、サージ音の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0062】
また、サージ音の発生を抑制すべく、可変ノズル138cの開度やスロットル弁144の開度を高める場合であっても、車両運転状態やエンジン108の回転数に基づいて、その開度を適切に設定しているので、サージ音発生の抑制とともに、加速性能や燃焼効率を維持したり、排出ガスの温度を維持することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態では、別途、コンプレッサ138a通過後の圧力を逃がす機構等のハードウェアの追加を要さず、既存の可変ノズル138cやスロットル弁144を利用してサージ音の発生を抑制しているので、機構の重量、占有体積、費用の他、設計変更に要する費用の増大を回避することが可能となる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0065】
例えば、上述した実施形態においては、エンジン108として、ディーゼルエンジンを例に挙げて説明したが、かかる場合に限らず、アクセル操作の変化度合いを、燃料噴射量変化率に代えて、スロットル弁144の開度変化率等とすることで、当然、ガソリンエンジンにも適応することができる。