(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明の変速装置は、自動二輪車あるいはATV(All-Terrain Vehicle)等の車輌に搭載される。なお、本実施の形態では、自動二輪車に変速装置を搭載する場合について説明する。また、本実施の形態において前,後,左,右とは、上記自動二輪車のシートに着座した状態で見た場合の前,後,左,右を意味する。
【0017】
本実施の形態の変速装置は、奇数段と偶数段の変速ギア段の動力伝達をそれぞれ交互に行うことで、切れ目ない変速を実現する複数の摩擦伝動式のクラッチを備え、1基のエンジンとともに駆動ユニットとして自動二輪車に搭載されている。まず、変速装置を有する駆動ユニットが搭載された自動二輪車の概要について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る変速装置を備える自動二輪車の側面図である。なお、
図1に示す自動二輪車は、変速装置のクラッチを覆うクラッチカバーを外しており、クラッチカバーを外すことによって変速機構70(
図2参照)の第2クラッチ75が露出している。
【0019】
図1に示す自動二輪車10は、前端側にヘッドパイプ12が設けられ、後方に延びつつ下方に傾斜するとともに、エンジン20、変速機構70、モータ等を含む駆動ユニットが内部に配置されたメインフレーム14を備える。ヘッドパイプ12には、上部にハンドル15が取り付けられたフロントフォーク16が回動可能に設けられ、このフロントフォーク16の下端で回転自在に取り付けられた前輪17を支持している。
【0020】
このハンドル15には、操作量が電気信号に変換されて制御部に出力されることによってクラッチを制御するバイワイヤ式のクラッチレバー200が取り付けられている。
【0021】
図1に示すメインフレーム14内に配置されたエンジン20は、シリンダヘッドの下方にクランクシャフト60(
図2参照)を車両の前後方向に直交する方向(左右方向)に略水平に延在させて車両の略中央部分に設けられている。エンジン20の後方側には、クランクシャフト60(
図2参照)に接続され、クランクシャフト60を介して動力が入力される変速機160が設けられている。
【0022】
また、メインフレーム14において下方に傾斜する後端辺部から、リアアーム18が後方に延在して接合されている。リアアーム18は、後輪19及び図示しないドリブンスプロケットを回転可能に保持している。後輪19は、ドライブスプロケット76(
図2参照)との間に巻回されたドライブチェーン13を介してドリブンスプロケット76から動力が伝達される。なお、自動二輪車10では、駆動ユニットの上方にシート11及び燃料タンク11aが配置され、シート11及び燃料タンク11aと駆動ユニットとの間には、自動二輪車10の各部の動作を制御する制御部300が配設されている。この制御部300を介してツインクラッチ式の変速装置100では、1基のエンジンに対して、それぞれ奇数段と偶数段の変速ギア段(変速ギア機構)の動力伝達を行う動作が制御される。
【0023】
図2は、本実施の形態に係る変速装置の要部構成を示す模式図である。また、
図2では、エンジン本体は図示省略している。
【0024】
本実施の形態の変速装置は、DCT(Dual Clutch Automated Manual Transmission:デュアルクラッチ自動マニュアル変速機)の変速機160であり、複数のクラッチ(第1クラッチ74及び第2クラッチ75)を交互に切り替えることによって、奇数段或いは偶数段の変速ギアへの駆動力の伝達を可能とする。本実施の形態の変速装置は、DCTにおいてクラッチレバーを用いて運転者のクラッチ操作を可能とする。なお、AMT式又はDCT式の一方の変速機を有した変速装置であって、バイワイヤ式のクラッチレバー200によって、変速機160のクラッチ(第1クラッチ74、第2クラッチ75のクラッチ容量を調節できるものとしてもよい。
【0025】
まず、クラッチレバー200によって容量が調整されるクラッチ74、75を備えるDCTとしての変速機160について説明する。
【0026】
図2に示すように変速機160は、変速機構70と、 シフト機構140とを有する。
【0027】
変速機構70は、エンジンのクランクシャフト60に接続され、クランクシャフト60から伝達されるトルクを可変して後輪19(
図1参照)側に伝達する。また、 シフト機構140は、変速機160における可変動作を行う。なお、クランクシャフト60は、自動二輪車において、車両の前後方向と直交する方向に、且つ、略水平(横方向)に配置されている。
【0028】
クランクシャフト60は、複数のクランクウェブ61を有し、これら複数のクランクウェブ61のうち、クランクシャフト60の一端部及び他端部に配置されるクランクウェブ61a、61bは、それぞれの外周にはギア溝が形成された外歯歯車である。
【0029】
クランクウェブ61aは、第1クラッチ74における第1のプライマリドリブンギア(「第1入力ギア」ともいう)40と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の一端部のクランクウェブ61aから第1入力ギア40に伝達される動力は、第1クラッチ74を介して、クランクシャフト60の一端部側から変速機160の第1メインシャフト71に伝達される。
【0030】
また、クランクウェブ61bは、第2クラッチ75における第2のプライマリドリブンギア(「第2入力ギア」といもいう)50と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の他端部のクランクウェブ61bから第2入力ギア50に伝達される動力は、クランクシャフト60の他端部側から第2メインシャフト72に伝達される。
【0031】
第1メインシャフト(第1主軸部)71、第2メインシャフト(第2主軸部)72及びドライブシャフト(出力軸)73は、クランクシャフト60と平行に配置される。
【0032】
第1メインシャフト71と、第2メインシャフト72とは、同一軸線上に並べて配置されている。第1メインシャフト71は、第1クラッチ74に連結されており、第2メインシャフト72は、第2クラッチ75に連結されている。
【0033】
第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、第1メインシャフト71と第2メインシャフト72とを車両の両側方から挟むように、且つ、車両の前後方向と直交する方向(ここでは左右方向)に離間して配置されている。
【0034】
第1クラッチ74は、多板式構造の摩擦クラッチであり、締結状態において、クランクシャフト60を介したエンジンからの回転動力を第1メインシャフト71に伝達し、他方、解放状態においてエンジンから第1メインシャフト71への回転動力を遮断する。
【0035】
第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77の駆動によって締結状態と開放状態とに動作する。すなわち、第1クラッチアクチュエータ77の駆動によって、第1クラッチ74の伝達トルク容量(以下、「トルク容量」という)が変化する。
【0036】
ここでは、第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77の第1プルロッド77aに連結されており、この第1プルロッド77aの進退動によって締結状態及び開放状態となる。第1クラッチ74では、第1プルロッド77aが第1クラッチ74から離間する方向に引かれると、図示しない複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに離間する。これにより、第1クラッチ74は開放状態となって、第1入力ギア40から第1メインシャフト71へのトルクの伝達が切断、つまり、第1メインシャフト71への動力伝達が遮断されることになる。一方、第1プルロッド77aが第1クラッチ74側に移動すると、複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに密着していく。これにより、第1クラッチ74は締結状態となって、第1メインシャフト71へトルクが伝達される、つまり、奇数ギア(1速ギア81、3速ギア83及び5速ギア85)群を有する奇数ギア段の動力伝達が行われる。このように第1クラッチ74では、第1プルロッド77aの引き度合いに応じて、トルク容量が変化して第1メインシャフト71への伝達トルクが調整される。
【0037】
このように第1クラッチアクチュエータ77は、制御部300からの制御指令に基づいて、第1クラッチ74において、第1メインシャフト71に作用する係合力、つまり、第1クラッチ74から第1メインシャフト71への伝達トルクを調整する。これにより、エンジンから第1メインシャフト71への動力の伝達或いは遮断が行われて、車両は発進したり停止したりする。
【0038】
ここでは、第1クラッチアクチュエータ77は、油圧によって第1クラッチ74の伝達トルクを調整する。
【0039】
第1メインシャフト71に伝達されたトルクは、奇数段のギア(各ギア81、83、85、711、712、731)において所望のギア対(第1メインシャフト71上のギア711、85、712と、これらギアに対応するドライブシャフト73上のギア81、731、83の対)を介してドライブシャフト73から出力される。
【0040】
また、第2クラッチ75は、第1クラッチ74と同様に構成された多板式の摩擦クラッチである。第2クラッチ75は、締結状態において、クランクシャフト60を介したエンジンからの回転動力を第2メインシャフト72に伝達し、他方、解放状態においてエンジンから第2メインシャフト72への回転動力を遮断する。
【0041】
第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78の駆動よって締結状態と解放状態とに動作する。すなわち、第2クラッチアクチュエータ78の駆動によって、第2クラッチ75のトルク容量が変化する。
【0042】
ここでは、第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78の第2プルロッド78aに連結されており、この第2プルロッド78aの進退動によって締結状態及び開放状態となる。第2クラッチ75では、第2プルロッド78aが第2クラッチ75から離間する方向に引かれると、図示しない複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに離間する。これにより、第2クラッチ75は開放状態となって、第2入力ギア50から第2メインシャフト72へのトルクの伝達が切断、つまり、第2メインシャフト72への動力伝達が遮断されることになる。一方、第2プルロッド78aが第2クラッチ75側に移動すると、複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに密着していく。これにより第2クラッチ75は締結状態となって、第2メインシャフト72へトルクが伝達される、つまり、偶数ギア(2速ギア82、4速ギア84及び6速ギア86)群を有する偶数ギア段の動力伝達が行われる。このように第2クラッチ75では、第2プルロッド78aの引き度合いに応じて、トルク容量が変化して第2メインシャフト72への伝達トルクが調整される。
【0043】
第2クラッチアクチュエータ78は、制御部300からの制御指令に基づいて、第2クラッチ75において第2メインシャフト72に作用する係合力、つまり、第2クラッチ75から第2メインシャフト72への伝達トルクを調整する。これにより、エンジンから第2メインシャフト72への動力の伝達或いは遮断が行われて、車両は発進したり停止したりする。
【0044】
なお、第2クラッチアクチュエータ78は、第1クラッチアクチュエータ77と同様に構成され、第1クラッチアクチュエータ77が第1クラッチ74を駆動する動作と同様の動作で、第2クラッチ75を駆動する。
【0045】
さらに、第1クラッチアクチュエータ77及び第2クラッチアクチュエータ78は、走行中に、第1クラッチ74及び第2クラッチ75を動作させることによって、変速機内部のトルク伝達経路を切り替えて変速動作を行う。
【0046】
なお、これら第1クラッチアクチュエータ77及び第2クラッチアクチュエータ78は、ここでは、油圧式のものとしたが、クラッチに作用する係合力を調整する構成であれば、電気式等、どのように構成されてよい。
【0047】
第2メインシャフト72に伝達されたトルクは、偶数段のギア(各ギア82、84、86、721、722、732)において所望のギア対(第2メインシャフト72上のギア721、86、722と、これらギアに対応するドライブシャフト73上のギア82、732、84の対)を介してドライブシャフト73から出力される。
【0048】
このように第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72に伝達される動力は、適宜選択された変速段を構成する各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732を介して、車両後方に配置されたドライブシャフト73に伝達される。
【0049】
なお、ドライブシャフト73の一端部(左側端部)にはスプロケット76が固定されている。このスプロケット76に巻回されたドライブチェーン13(
図1参照)は、後輪19の回転軸に設けられたスプロケット76に巻回されており、スプロケット76が、ドライブシャフト73の回転に伴って回転することによって、ドライブチェーン13(
図1参照)を介して、駆動輪である後輪19に変速機160からの駆動力が伝達される。言い換えれば、エンジンで発生したトルクは、第1クラッチ74または第2クラッチ75、各変速段に対応した所定ギア列を経由して、ドライブシャフト73から出力されて、後輪(駆動輪)を回転させる。
【0050】
第1メインシャフト71において、奇数段のギア(各ギア81、83、85、711、712、731)を介してドライブシャフト73に出力する駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72において、偶数段のギア(各ギア82、84、86、721、722、732)を介してドライブシャフト73に出力する駆動力の伝達部位とは、略同径の外径である。また、第1メインシャフト71の駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72の駆動力の伝達部位とは、同心円上で重なることなく配置されている。この変速機構70では、互いに同径の外径を有する第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72が同一軸線上に左右に並べて配設され、それぞれ独立で回動する。
【0051】
第1メインシャフト71上には、奇数段を構成する変速ギア711、85、712が配設されている。具体的には、第1メインシャフト71上に、第1クラッチ74が接続される基端側から順に、固定ギア(1速対応ギア)711、5速ギア85及びスプラインギア(3速対応ギア)712が配設されている。
【0052】
固定ギア711は、第1メインシャフト71に一体的に形成され、第1メインシャフト71とともに回転する。固定ギア711は、ドライブシャフト73の1速ギア(被動側ギア)81に歯合しており、ここでは、1速対応ギアとも称する。
【0053】
5速ギア85は、第1メインシャフト71上において、1速対応の固定ギア711と、3速対応のスプラインギア712との間に互いに離間した位置に、軸方向への移動を規制された状態で、第1メインシャフト71の軸周りに回転自在に取り付けられている。
【0054】
5速ギア85は、ドライブシャフト73のスプラインギア(被動側ギアとしての5速対応ギア)731に歯合している。
【0055】
スプラインギア712は、第1メインシャフト71上に、当該第1メインシャフト71の先端側、つまり、第1クラッチ74から離間する側の端部側に、第1メインシャフト71の回転に伴い回転するとともに、軸方向に移動自在に取り付けられている。
【0056】
具体的には、スプラインギア712は、第1メインシャフト71における先端部の外周に軸方向に沿って形成されたスプラインによって、第1メインシャフト71に対して回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられ、ドライブシャフト73の3速ギア(被動側ギア)83に歯合している。このスプラインギア712は、シフトフォーク142に連結され、シフトフォーク142の移動によって第1メインシャフト71上を軸方向に移動する。なお、スプラインギア712は、ここでは、3速対応ギアとも称する。
【0057】
スプラインギア712は、第1メインシャフト71上を5速ギア85側に移動して5速ギア85と係合し、第1メインシャフト71上における5速ギア85の軸回りの回動(空転)を規制する。スプラインギア712が5速ギア85に係合することにより、5速ギア85を第1メインシャフト71に固定し、第1メインシャフト71の回転とともに一体的に回転可能にさせる。
【0058】
一方、第2メインシャフト72上には、偶数段を構成する変速ギア721、86、722が配置されている。具体的には、第2メインシャフト72上に、第2クラッチ75が接続される基端部側から順に、固定ギア(2速対応ギア)721、6速ギア86及びスプラインギア(4速対応ギア)722が配設されている。
【0059】
固定ギア721は、第2メインシャフト72に一体的に形成され、第2メインシャフト72とともに回転する。固定ギア721は、ドライブシャフト73の2速ギア(被動側ギア)82に歯合しており、ここでは、2速対応ギアとも称する。
【0060】
6速ギア86は、第2メインシャフト72上において、2速対応の固定ギア721と、4速対応ギアであるスプラインギア722との間に互いに離間した位置に、軸方向への移動を規制された状態で、第2メインシャフト72の軸周りに回転自在に取り付けられている。この6速ギア86は、ドライブシャフト73のスプラインギア732(被動側ギアとしての6速対応ギア)に歯合している。
【0061】
スプラインギア(「4速対応ギア」ともいう)722は、第2メインシャフト72上に、当該第2メインシャフト72の先端側、つまり、第2クラッチ75から離間する側の端部側に、第2メインシャフト72の回転に伴い回転するとともに、軸方向に移動自在に取り付けられている。
【0062】
具体的には、スプラインギア722は、第2メインシャフト72における先端部の外周に軸方向に沿って形成されたスプラインによって、第2メインシャフト72に対する回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられ、ドライブシャフト73の4速ギア(被動側ギア)84に歯合している。このスプラインギア722は、シフトフォーク143に連結され、シフトフォーク143の移動によって第2メインシャフト72上を軸方向に移動する。
【0063】
スプラインギア722は、第2メインシャフト72上を6速ギア86側に移動して6速ギア86と係合し、第2メインシャフト72上における6速ギア86の軸回りの回動(空転)を規制する。スプラインギア722が6速ギア86に係合することにより、6速ギア86を第2メインシャフト72に固定し、第2メインシャフト72の回転とともに一体的に回転可能にさせる。
【0064】
一方、ドライブシャフト73には、第1クラッチ74側から順に1速ギア81、スプラインギア(5速対応ギア)731、3速ギア83、4速ギア84、スプラインギア(6速対応ギア)732、2速ギア82及びスプロケット76が配置されている。
【0065】
ドライブシャフト73において、1速ギア81、3速ギア83、4速ギア84及び2速ギア82は、ドライブシャフト73の軸方向における移動が禁止された状態でドライブシャフト73を中心に回転自在に設けられている。
【0066】
スプラインギア(「5速対応ギア」ともいう)731は、ドライブシャフト73に対して、スプライン係合によって回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられている。すなわち、スプラインギア731は、ドライブシャフト73に対してスラスト方向に移動自在で且つ、ドライブシャフト73とともに回転するように取り付けられている。このスプラインギア731は、シフト機構140のシフトフォーク141に連結され、シフトフォーク141の可動によってドライブシャフト73上を軸方向に移動する。
【0067】
スプラインギア(「6速対応ギア」ともいう)732は、ドライブシャフト73に対して、スプライン係合によって回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられている。すなわち、スプラインギア(6速対応ギア)732は、ドライブシャフト73に対してスラスト方向に移動自在で且つ、ドライブシャフト73とともに回転するように取り付けられている。このスプラインギア732は、シフト機構140のシフトフォーク144に連結され、シフトフォーク144の可動によってドライブシャフト73上を軸方向に移動する。
【0068】
なお、スプロケット76は、ドライブシャフト73において、第2クラッチ75側に位置する端部に固定されている。
【0069】
これらスプラインギア712、722、731、732は、変速ギアとしてそれぞれ機能するとともにドグセレクタとして機能している。具体的には、スプラインギア712、722、731、732と、軸方向で隣り合う各変速ギアとの互いの対向面同士には、互いに嵌合する凹凸部が形成され、凹凸部が嵌合することによって両ギアは一体的に回動する。
【0070】
このように、スプラインギア712、722、731、732は、連結されたシフトフォーク141〜144の駆動によって軸方向に移動されることによって、軸方向で隣り合う各変速ギア(1速ギア81〜6速ギア86)のそれぞれにドグ機構により連結される。
【0071】
なお、変速機構70において各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732に対して行われるギアシフトは、シフト機構140におけるシフトカム14の回転によって可動するシフトフォーク141〜144によって行われる。
【0072】
シフト機構140は、シフトフォーク141〜144と、シフトカム14と、シフトカム14を回転駆動させるシフトカム駆動装置146と、モータ145と、モータ145とカム駆動装置146とを連結して、モータ145の駆動力をシフトカム駆動装置146に伝達する伝達機構41とを有する。
【0073】
シフトフォーク141〜144は、各スプラインギア731、712、722,732とシフトカム14との間に架設されており、互いに、第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73、シフトカム14の軸方向で離間して配置されている。これらシフトフォーク141〜144は互いに平行するように並べられ、それぞれがシフトカム14の回転軸の軸方向に移動自在に配置されている。
【0074】
シフトフォーク141〜144は、基端側のピン部を、シフトカム14の外周に形成された4本のカム溝14a〜14dにおけるそれぞれの溝内に、移動自在に配置させている。すなわち、シフトフォーク141〜144は、シフトカム14を原節とした従節をなしており、シフトカム14のカム溝14a〜14dの形状によって第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73の軸方向にスライド移動する。このスライド移動によって、先端部に連結される各スプラインギア731、712、722,732は、各々の内径に挿通されている各軸上を軸方向にそれぞれ移動する。
【0075】
シフトカム14は、円筒状をなし、回転軸が第1メインシャフト71、第2メインシャフト72及びドライブシャフト73と平行になるように配置されている。
【0076】
シフトカム14は、伝動機構41を介してシフトカム駆動装置146に伝達されるモータ145の駆動力によって回転駆動する。シフトカム14は、回転によって、カム溝14a〜14dの形状に応じてシフトフォーク141〜144のうち少なくとも一つを、シフトカム14の回転軸の軸方向に可動させる移動させる。
【0077】
このようなカム溝14a〜14dを有するシフトカム14の回転に追従して可動するシフトフォーク141〜144によって、その移動したシフトフォークに連結されるスプラインギアが移動して、変速機160(変速機構70)のギアシフトが行われる。言い換えれば、モータ145は、シフト機構140のシフトカム14を回転させることによってギアシフトを行う。
【0078】
変速機160では、エンジンの駆動力は、第1及び第2クラッチ74、75の動作とこれらに対応するシフト機構140の動作とによって、第1及び第2メインシャフト71、72をそれぞれ有する独立の2系統の一方を介してドライブシャフト73に伝達される。このドライブシャフト73の回転とともにドリブンスプロケット76が回転し、チェーンを介して後輪19を回転する。
【0079】
この変速機160における第1クラッチ74、第2クラッチ75及びシフト機構140は、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145を介して制御部300によって制御される。制御部300は、入力される信号に基づいて、所定のタイミングで、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145の動作を制御する。これら第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145の動作によって、第1クラッチ74、第2クラッチ75と各ギア段とが動作されてギアシフトが行われる。
【0080】
モード切替用スイッチ110は、ここではハンドル15において左側のハンドルバーに設けられている。モード切替用スイッチ110は、変速装置100における運転モードの切り替えを指示するモード切替信号を制御部300に出力する。
【0081】
シフトスイッチ120は、ここではハンドル15において左側のハンドルバーに設けられている。シフトスイッチ120は、シフトアップボタン(Up)及びシフトダウンボタン(Down)を有する。運転者がシフトスイッチ120のシフトアップボタンまたはシフトダウンボタンを押下することによって、そのことを示す信号(以下、「シフト信号」という)がシフトスイッチ120から制御部300へ出力される。
【0082】
クラッチレバー200は、
図1に示すように、ハンドル15の左側ハンドルバーに配置され、運転者が左手用のグリップとともに握持自在となっている。
【0083】
クラッチレバー200は、バイワイヤ式のクラッチレバー200である。レバー操作量検出部130は、運転者に握られるクラッチレバー200の操作量(
図3に示すレバー本体220の常態時と操作時との間の角度θ)を検出する。レバー操作量検出部130は、検出したクラッチレバー200の操作量を電気信号に変換して制御部300に出力する。
【0084】
制御部300は、モード切替用スイッチ110、シフトスイッチ120、レバー操作量検出部130及びセンサ群150から入力される信号に基づいて変速機160、エンジン20(
図1参照)等の車両の各部を制御する。なお、制御部300の内部構成及び制御の詳細な内容については後述する。
【0085】
また、制御部300は、センサ群150のうち、スロットル入力ポテンショメータから、アクセル開度信号が入力される。これにより、制御部300は、エンジン20(
図1参照)のスロットルバルブを制御して、エンジンシリンダ内への混合気の供給を制御する。
【0086】
図3は、クラッチレバー200の説明に供するハンドルにおける左側ハンドルバーの斜視図である。
【0087】
図3に示すように、クラッチレバー200は、ハンドル15の左側ハンドルバー15aにおいてグリップ15bに対向配置され、運転者に握られるレバー本体220を有する。レバー本体220の基端部221は、左側ハンドルバー15aの基部に、軸部223を介して回動自在に取り付けられている。
【0088】
レバー本体220が回動する、つまり、レバー本体220の先端部がグリップ15b側に接近するように移動することによって、レバーシリンダ230内に挿入されたワイヤ232の他端部232b(
図4参照)を牽引する。
【0089】
図4は、レバーシリンダの構成を示す図であり、
図4(a)は、レバーシリンダの右端面視図、
図4(b)は同レバーシリンダの断面図である。
【0090】
図4に示すように、ワイヤ232は、一端側が閉塞された有蓋円筒状のレバーシリンダ230内に挿通され、一端部232aで、レバーシリンダ230の底部側に配置される第1リテーナ233に固定され、他端部232bでレバー本体220に固定されている。
【0091】
第1リテーナ233は、第2リテーナ234内に、第1コイルバネ235を介して挿入され、挿入方向に第1コイルバネ235の付勢力に抗して移動自在である。第1リテーナ233の挿入方向側への移動は、フランジ部233aにより規制される。
【0092】
第2リテーナ234は、第2コイルバネ236内に挿入され、フランジ部234aで第2コイルバネ236の一端側で掛止している。第2コイルバネ236は、第2リテーナ234を外挿する長さよりも長く、その他端部は、レバーシリンダ230内に軸方向に移動自在に配置されたフリーピストン237に当接している。
【0093】
フリーピストン237は、レバーシリンダ230内で、第3コイルバネ(圧縮コイルバネ)238によってレバーシリンダ230の開口方向、つまり、第2コイルバネ236側に付勢された状態で配置されている。第3コイルバネ238は、レバーシリンダ230内において、第2コイルバネ236が収縮して所定の付勢力以上の付勢力を得た際に収縮するようにプリロードされた状態で配置されている。フリーピストン237は、レバーシリンダ230内からプリロードされた第3コイルバネ238の付勢力により飛び出さないように、サークリップ239によって規制されている。
【0094】
このように構成されたクラッチレバー200では、レバー本体220の基端部で、レバーシリンダ230の底面の軸心から導出される他端部232bが係合されている。
【0095】
レバー本体220が運転者に握持されて、グリップ15b側に握られることによって基端部側を中心に回動すると、常態時であるBの位置にある他端部232bは、A方向に引っ張られる。
【0096】
これにより、一端部232aは第1リテーナ233をA方向に引っぱり、第1リテーナ233を第1コイルバネ235の付勢力に抗してA方向に移動させる。
【0097】
A方向、つまり第2リテーナ234への挿入方向に移動する第1リテーナ233では、フランジ部233aが、第2リテーナ234のフランジ部234aを押圧し、第2リテーナ234自体を第2コイルバネ236の付勢力に抗してA方向に移動させる。
【0098】
第2リテーナ234のA方向の移動によってフリーピストン237もA方向への荷重がかかるが、フリーピストン237はプリロードされた第3コイルバネ238によってA方向とは逆方向に付勢されている。このため、第2リテーナ234の移動によって圧縮した第2コイルバネ236が所定の付勢力を得るまでは、第3コイルバネ238は、第2コイルバネ236と拮抗する。これにより、フリーピストン237自体は、第2コイルバネ236によるA方向への付勢力が第3コイルバネ238のA方向とは逆方向の付勢力より大きくなるまでA方向に移動しない。
【0099】
そして、第2コイルバネ236によるA方向への付勢力が第3コイルバネ238のA方向とは逆方向の付勢力より大きくなると、フリーピストン237は、A方向へ移動する。
【0100】
図5は、クラッチレバーの手応えと握り量との関係を示す図である。
【0101】
図5に示すように、握り始めて第1リテーナ233が第1コイルバネ235を収縮する部分Dよりも、第2コイルバネ236を収縮させる部分Eの方が傾きを大きくしている。つまり、第1コイルバネ235の付勢力よりも第2コイルバネ236の付勢力を大きくしており、この第2コイルバネ236を収縮させる部分を、クラッチの容量を変化させる部分として設定する。
【0102】
このようにクラッチレバー200では、レバー本体220の操作量に対する操作反力(手応え)の増加割合が少なくとも2段階に変化するように構成されている。これにより機械式のクラッチレバーの操作と同様の手応えを演出する、所謂、機械式のクラッチレバーの操作と同様の力覚呈示を行える。
【0103】
例えば、レバー操作量検出部130によって、レバー本体220において常態時から操作された際の開度を検出して制御部300に出力する。制御部300は、特に、第2コイルバネ236を収縮させる際のレバー本体220の開度が、クラッチのトルク容量と対応するように制御する。
【0104】
これにより、運転者に対して、MTで用いられるクラッチレバーと同様に、第1コイルバネ234を収縮させる部分、つまり、握り始めてから所定位置までは遊び部分として感覚を付与できる。よって、運転者は軽く握った後、レバー本体220を握る際に急に負荷が掛かり始める位置を認識することができ、これにより、急に負荷の掛かる範囲をクラッチのトルク容量を調整する範囲として認識できる。
【0105】
次に、制御部300の内部構成及び制御の詳細な内容について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施の形態に係る変速装置100の制御部を説明するためのブロック図である。
【0106】
図6に示す変速装置100において、制御部300は、TCU(Transmission Control Unit、「変速制御部」とも称する)の機能と、ECU(Engine Control Unit、「エンジン制御部」とも称する)の機能と、を有する。
【0107】
制御部300は、モード切替用スイッチ110、シフトスイッチ120、レバー操作量検出部130、及び、センサ群150から入力される情報を用いて、変速機160を制御する。
【0108】
なお、制御部300は、センサ群150から入力される情報によって車両の駆動状態を検出する。センサ群150から入力される情報としては、エンジン回転数、第1メインシャフト回転数、第2メインシャフト回転数、ドライブシャフト回転数、シフトカム位相、第1クラッチ位置、第2クラッチ位置及びアクセル開度などである。
【0109】
シフトカム位相は、シフト機構140のモータ145の動作によって回転するシフトカム14の位相角度を示す。制御部300は、シフトカム14の位相角度によって、変速段(1速から6速、N(ニュートラル))を取得することができる。
【0110】
また、第1クラッチ位置及び第2クラッチ位置は、第1クラッチアクチュエータ77による第1クラッチ74の係合状態及び第2クラッチアクチュエータ78による第2クラッチ75の係合状態を示すものである。これら第1クラッチ位置及び第2クラッチ位置は、センサ群150のうちのクラッチ位置センサにより検出される。具体的には、第1クラッチ位置とは、第1プルロッド77a(
図2参照)により調整される第1クラッチ74における複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートとの離間量、つまり、第1クラッチ74の係合状態を示す。第2クラッチ位置は、第2プルロッド78a(
図2参照)により調整される第2クラッチ75における複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートとの離間量、つまり、第2クラッチ75の係合状態を示す。これらクラッチ位置の変化によってクラッチを介して出力されるトルク量が変化する。
【0111】
制御部300は、モード選択部310と、クラッチ動作指令部320と、シフト動作指令部330と、を有する。
【0112】
モード選択部310は、モード切替用スイッチ110からモード切替信号を入力した際に、アクセル開度、クラッチレバー200の操作量及び車両の制御状態(発進制御中か否か)に基づいて変速方式の運転モード(ATモード、AMTモード、MTモードのいずれか)を選択し、選択した運転モードを示すモード信号をクラッチ動作指令部320及びシフト動作指令部330に出力する。なお、モード選択部310の選択制御の詳細については後述する。
【0113】
クラッチ動作指令部320は、MTモードの発進時/停止時において、クラッチレバー200の操作に応じてクラッチ(第1クラッチ74及び第2クラッチ75)における伝達トルク容量(以下、「クラッチトルク容量」という)を算出し、クラッチトルク容量に基づいて第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78の駆動を制御する。
【0114】
また、クラッチ動作指令部320は、ATモードの発進時/停止時及びAMTモードの発進時/停止時において、シフトスイッチ120の操作(N→1、1→N)応じて自動的にクラッチを切断するように第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78の駆動を制御する。
【0115】
また、クラッチ動作指令部320は、各運転モードの変速時において、センサ群150から入力される情報と、内部に格納した所定のプログラムやマップの情報とを用いて自動的にクラッチトルク容量を算出し、クラッチトルク容量に基づいて第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78の駆動を制御する。
【0116】
なお、クラッチ動作指令部320は、第1メインシャフト回転数、第2メインシャフト回転数、ドライブシャフト回転数をそれぞれ微分することによって第1メインシャフト71、第2メインシャフト72及びドライブシャフト73のトルクを算出する。なお、ドライブシャフト回転数は、車速に相当する。クラッチ動作指令部320は、予め設定された変速段毎のギア比に対応する第1メインシャフト71のトルク、第2メインシャフト72のトルク、ドライブシャフト73のトルク及びECUから提供されるエンジンの運転状態を示す情報を用いて、クラッチトルク容量を算出する。
【0117】
シフト動作指令部330は、MTモード、ATモードの発進時/停止時及びAMTモードにおいて、シフトスイッチ120から出力されたシフト信号に応じてシフト先のギア段を選択し、選択したギア段にシフトするように、シフト機構140(モータ145)の駆動を制御する。
【0118】
また、シフト動作指令部330は、ATモードの変速時において、センサ群150から入力される情報と、内部に格納した所定のプログラムやマップの情報とを用いてシフト先のギア段を自動的に選択し、選択したギア段にシフトするように、シフト機構140(モータ145)の駆動を制御する。
【0119】
クラッチ動作指令部320及びシフト動作指令部330の協調した制御によって、第1及び第2クラッチ74,75のいずれか一方、またはクラッチ74、75の両方が適宜切断されるとともにシフトカム14が回転し、変速機160(詳細には、変速機構70)はギアシフトを行う。
【0120】
この結果、変速装置100は、ATモードの変速時において、シフトスイッチ120及びクラッチレバー200の操作の有無にかかわらず、ギア段の選択、及び、クラッチ切断、ギアシフト、クラッチ接続の一連の動作(以下、「クラッチ/シフト動作」という)を全て自動的に行う(自動変速)。
【0121】
また、変速装置100は、MTモードの変速時及びAMTモードの変速時において、クラッチレバー200の操作の有無にかかわらず、シフトスイッチ120の操作に応じてシフト先のギア段を選択し、選択したギア段へ切り替えるクラッチ/シフト動作を行う(スイッチ変速)。
【0122】
なお、変速装置100は、ATモードで運転中にシフトスイッチ120が操作された場合、一時的な割り込みとしてシフトスイッチ120の操作に応じてシフト先のギア段を選択し、選択したギア段へ切り替えるクラッチ/シフト動作を行うとともに、モード選択部310に格納した所定のプログラムにより割り込みを解除して、ATモードで運転を継続する。
【0123】
なお、各運転モードにおいて、クラッチ/シフト動作の途中では、変速装置100は、シフトスイッチ120の操作を受け付けない。
【0124】
また、変速装置100は、MTモードの発進時/停止時において、クラッチレバー200の操作に応じてクラッチを切断し、その状態で、シフトスイッチ120の操作に応じてギアシフト(N→1、1→N)を行う(レバー発進/停止)。なお、MTモードの発進時/停止時において、クラッチが切断されていない状態で、シフトスイッチ120の操作があっても、ギア段のシフトチェンジをインタロック(禁止)する。
【0125】
また、変速装置100は、ATモードの発進時/停止時及びAMTモードの発進時/停止時において、クラッチレバー200の操作に依らず、シフトスイッチ120の操作(N→1、1→N)応じてクラッチを切断し、その状態で、ギアシフト(N→1、1→N)を行う(自動発進/停止)。
【0126】
なお、クラッチ動作指令部320は、変速時において、クラッチレバー200が操作された場合、クラッチレバー200の操作量(レバー操作量)を、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78を駆動させるクラッチトルク容量に反映させる。
【0127】
本実施の形態では、クラッチ動作指令部320は、自動的に算出したクラッチトルク容量(以下、「自動クラッチトルク容量」という)をレバー操作量に応じてカットオフする。
【0128】
クラッチレバー200の操作量に対応するクラッチトルク容量は、
図7に示すゲインマップを用いて変換して、
図8に示す関係を満たす値として決定される。
図7は、クラッチレバー200の握り角と補正後のレバー握り角とを示すゲインマップである。
図8はクラッチレバー200における補正後握り角(操作量)を用いて制御されるクラッチのレリーズ力(係合状態)を示す。
図8では、クラッチレバー200の補正後握り角と、クラッチレバーのレリーズ力との関係(実線)は、メカニカルのクラッチレバーの握り角とクラッチレリーズ力との非線形な関係(破線)となるように近似している。なお、
図8においてクラッチレリーズ力が60〜80%の範囲内でクラッチを繋ぐように設定される。
【0129】
図9は、レバー操作量とクラッチトルク容量との関係を示す図である。なお、
図9は、便宜上、第1クラッチ74及び第2クラッチ75の一方を駆動するために第1及び第2クラッチアクチュエータ77、78の一つ(単に「クラッチアクチュエータ」ともいう)にクラッチトルク容量を出力する場合を示している。また、
図9におけるレバー操作量は、レバー本体220を完全に離して解放した状態を開度100%、完全に握られた状態を開度0%とする。
【0130】
図9に示すように、変速時において、クラッチ動作指令部320は、クラッチトルク容量を自動的に算出する。クラッチレバー200の操作が無い場合は、クラッチ動作指令部320は、自動クラッチトルク容量に基づいてクラッチアクチュエータを制御する。クラッチレバー200が操作されると、クラッチ動作指令部320には、レバー操作量検出部130からレバー操作量が入力される。レバー操作量の度合い(握り度合い)によって、制限ライン(レバー操作量に対応して可変な、クラッチトルク容量の最大値を示すライン)はY軸上を上下する。この制限ラインが自動クラッチトルク容量よりも低い場合、この制限値がクラッチトルク容量の最大値となって、最終的なクラッチトルク容量となる。つまり、レバー操作量によってクラッチトルク容量の最大値を調整し、クラッチトルク容量を制限する。
【0131】
なお、クラッチ動作指令部320は、クラッチレバー200の操作に基づいて、第1クラッチ74及び第2クラッチ75におけるギア比を換算した後のトルク容量の合計或いは略合計を最終的なクラッチトルク容量として決定する。
【0132】
また、クラッチ動作指令部320は、クラッチレバー200の操作に基づいて、第1クラッチ74及び第2クラッチ75における、ギア比を換算した後のトルク容量の合計の最大値を最終的なクラッチトルク容量として決定してもよい。
【0133】
図10を用いて、ギア比を換算した後における第1クラッチ74及び第2クラッチ75のトルク容量の合計の操作について説明する。
図10は、レバー操作量とクラッチトルク容量の合計値との関係を示す図である。
図10におけるクラッチレバー操作量は、レバー本体220を完全に離して解放した状態を開度100%、完全に握られた状態を開度0%とする。
【0134】
図10に示す自動クラッチトルク容量は、ギア比の比率によって変更する傾きaにより仕切られた領域で図示される第1クラッチ74のクラッチ容量と第2クラッチ75のクラッチ容量の合計値に対応する。
【0135】
図10に示すように、変速時において、クラッチ動作指令部320は、第1クラッチ74及び第2クラッチ75の合計トルク容量であるクラッチトルク容量を自動的に算出する。自動クラッチトルク容量は、ギア比を換算した後、つまり、クランクシャフト60上或いはドライブシャフト73上に換算した際の第1クラッチ74及び第2クラッチ75のトルク容量の合計である。
【0136】
これらはセンサ群150から入力される情報に基づいて算出される。クラッチレバー200の操作が無い場合には、クラッチ動作指令部320は、自動クラッチトルク容量に基づいてクラッチアクチュエータを制御する。
【0137】
クラッチレバー200が操作されると、クラッチ動作指令部320には、レバー操作量検出部130からレバー操作量が入力される。入力されるレバー操作量の度合い(握り度合い)によって、制限ライン(レバー操作量に対応して可変な、クラッチトルク容量の最大値を示すライン)はY軸上を上下する。この制限ラインが、自動クラッチトルク容量よりも低い場合、この制限値がクラッチトルク容量の最大値となって、最終的なクラッチトルク容量となる。つまり、レバー操作量によってクラッチトルク容量の最大値を調整し、クラッチトルク容量を制限する。
【0138】
図11は、本実施の形態に係る変速装置100の各運転モードを示す図である。なお、
図12中、「●」は、「運転者の操作」を意味し、「●/時間」は、所定時間内に運転者の操作が無かった場合、自動的に操作されることを意味している。また、「◎」、「○」、「△」は、各項目の対応度の優、良、可、を意味する。
【0139】
「ATモード」
・発進について
運転者によってシフトスイッチ120が押されて「N→1速(図中「N→1」で示す)」が指示されると、変速装置100は、クラッチを切ってギア段をN→1速へ切り替えて待機する。運転者によってアクセルが開かれると、変速装置100は、アクセル開度に基づいてクラッチを繋いで発進する。
・変速について
変速装置100は、ギア段の選択及びクラッチ/シフト動作(クラッチ接続、ギアシフト、クラッチ切断)を自動的に行って変速する。なお、運転者によるクラッチレバー200とシフトスイッチ120の操作は不要である。
・停止について
変速装置100は、車速が低下すると自動的にシフトダウンを行い、停車以前に1速ギア段への変速を完了する。さらに車速が低下すると、変速装置100は、自動的にクラッチを切って停止させる。このとき、ギア段は1速の状態に維持される。この状態において、運転者によってシフトスイッチ120が押されて「1→N」が指示されると、変速装置100は、ギア段を「1→N」に切り替えた後、クラッチを繋ぐ。
【0140】
「AMTモード」
・発進及び停止については、ATモードと同様である。
・変速について
変速装置100は、運転者によってシフトスイッチ120が押されると、シフト先のギア段となるように、ギア段の選択及びクラッチ/シフト動作を行って変速する。なお、AMTモードにおいて、シフトダウンの場合には、AMモードと同様に、自動的に変速を行っても良い。
【0141】
「MTモード」
・発進について
運転者によってN(ニュートラル)の状態からクラッチレバー200が握られると変速装置100はクラッチを切断する。その後に運転者によってシフトスイッチ120が押されて「N→1速」が指示されると、変速装置100は、クラッチを切ってギア段をN→1速へ切り替えて待機する。その後に運転者によってアクセルが開かれた状態でクラッチレバー200が戻されると変速装置100はクラッチを繋いで発進する。
【0142】
・変速について
変速装置100は、運転者によってシフトスイッチ120が押されると、シフト先のギア段となるように、クラッチ/シフト動作を行って変速する。
【0143】
・停止について
運転者によってクラッチレバー200が握られると、変速装置100はクラッチを切断する。この状態でブレーキを掛けると停止する。
【0144】
なお、
図11に示すように、MTモードでは、運転者は、発進する際に、シフトスイッチ120操作、アクセル操作、クラッチレバー200操作の3つの操作が必要となる。これにより、ATモード或いはAMTモードと比較して、誤発進排除性の向上を図ることができる。
【0145】
加えて、バイワイヤ式クラッチレバー200によって第1クラッチ74及び第2クラッチ75の係合状態(クラッチトルク容量)を操作できることによって、発進時に加速する際の自由度の向上を図ることができる。
【0146】
また、MTモードにおいて、クラッチレバー200の操作量に閾値を設定して、ギア段によっては、クラッチレバー200を握ることなく変速できないように、シフト切替動作を禁止(インタロック)する。
【0147】
ここでは、MTモードにおいて、Nから1速にギア段を上げるとき、1速からNにギア段を下げるとき、それぞれクラッチレバー200の所定の操作量(握り)を必要とする。
【0148】
これにより、MTモードにおいて、発進時にクラッチが繋がったまま、Nから1速にギアが入って車両が走行することを防止することができる。また、MTモードにおいて、走行中に意識外で1速からNになることを防止することができる。
【0149】
次に、
図12を用いて、制御部300のモード選択部310におけるモード選択の詳細について説明する。
図12は、モード遷移の条件を示す図である。
【0150】
モード選択部310は、運転開始時(イグニションキーをOFFからONへ切り替えた時)には、AMTモードを選択する。また、モード切替用スイッチ110からモード切替信号を入力した場合、モード選択部310は、アクセル開度が規定値以下であるか否か、レバー操作量が閾値以上であるか否か、及び、発進制御中であるか否かを判定し、判定結果に応じて運転モードを選択する。なお、発進制御中であるか否かは、制御装置300のソフトウエアの中で、フラグで管理される。
【0151】
具体的には、モード選択部310は、AMTモードにおいてモード切替信号を入力した場合には、(a)アクセル開度が規定値以下であり(ASP開度制限)、且つ、レバー操作量が閾値以上であり(レバー握り)、且つ、発進制御中ではない(発進外)ときにはMTモードを選択し、(b)アクセル開度が規定値以下であり、且つ、レバー操作量が閾値未満であるか、あるいは、発進制御中であるときにはATモードを選択し、(c)アクセル開度が規定値より大きいときにはAMTモードを選択する(運転モードは遷移しない)。
【0152】
また、モード選択部310は、ATモードにおいてモード切替信号を入力した場合には、(d)アクセル開度が規定値以下であり、且つ、レバー操作量が閾値以上であり、且つ、発進制御中ではないときにはMTモードを選択し、(e)アクセル開度が規定値以下であり、且つ、レバー操作量が閾値未満であるか、あるいは、発進制御中であるときにはAMTモードを選択し、(f)アクセル開度が規定値より大きいときにはATモードを選択する(運転モードは遷移しない)。
【0153】
また、モード選択部310は、MTモードにおいてモード切替信号を入力した場合には、(g)アクセル開度が規定値以下であり、且つ、レバー操作量が閾値以上であり、且つ、発進制御中ではないときにはAMTモードを選択し、(h)それ以外のときにはMTモードを選択する(運転モードは遷移しない)。なお、本発明では、上記(g)において、ATモードを選択してもよい。
【0154】
このように、本実施の形態では、ATモード或いはAMTモードとMTモードとの間の遷移を行うには、少なくとも、運転者が、クラッチレバー200の操作量が所定の閾値以上となるレバー操作を行っている際にモード切替用スイッチ110を操作する必要があるようにモード選択制御を行う。
【0155】
これにより、クラッチが繋がったまま、意識外で、ATモード或いはAMTモードとMTモードとの間の遷移が起こること(誤動作)を防止することができる。
【0156】
また、ATモード或いはAMTモードとMTモードとの間の遷移を行う条件として、発進制御中ではないことを加えることにより、発進時に車両が唐突な挙動を起こすことを防ぐことができる。
【0157】
また、各運転モード間で遷移を行う条件として、アクセル開度が規定値以下であることを加えることにより、車両が唐突な挙動を起こすことを防ぐことができる。なお、規定値は、ギア比(例えば、1速用、2速用、3〜6速用)によって異なる値を設定してもよい。
【0158】
なお、制御部300は、計器板に現在の運転モードを表示させてもよい。例えば、モード表示ランプを、MTモードでは消灯させ、ATモードでは点灯させ、AMTモードでは点滅させる。これにより、運転者は、現在の運転モードを知ることができる。
【0159】
また、制御部300は、電源投入後、クラッチレバー200の操作量に、出力されるクラッチトルク容量指令値を対応させるため、レバー操作量検出部130から入力される信号レンジを学習する。
【0160】
すなわち、制御部300は、レバーの開閉動作に伴って、レバー操作量検出部130からレバー操作量として出力される信号レンジを用いて、クラッチレバー200の操作範囲の学習、つまり、レバーの握り位置、開放位置を学習し、最終クラッチトルク容量指令値に反映させる。
【0161】
なお、MTモードにおいて、制御部300に、レバー操作量検出部130からの信号の入力がなく、制御部300がレバー操作量検出部130の故障と判定した場合、AMTモードに移行する。これによりレバーフェイル時に機能を低下させることなく走行を継続できる。なお、制御部300におけるレバー操作量検出部130の故障の判定は、レバー操作量検出部(所謂ポテンショメータ)130との電気的な接続状態から判定する。
【0162】
図13は、制御部によるクラッチレバーの操作レンジの学習を説明するための図である。
【0163】
図13では、横軸を、クラッチレバー200の開閉範囲に対応させる最終クラッチトルク容量指令値0V〜5Vを示している。
【0164】
学習開始位置は、学習レバー稼動範囲の中心位置(学習開始点)であり、この位置を挟んで予め上限stepと下限stepとが設定される。制御部300は、中心位置から学習を開始し、クラッチレバー200が握られることによって学習上限操作範囲において予め設定された上限stepを越えた地点から学習を始め、レバーが実レバー稼動範囲の上限に至ると、学習を終了する。握られたレバーを開放することによって、同様に下限を学習できる。このように特定のstep単位でレバー稼動範囲を学習しているため、1回のクラッチレバー200の握りによって完全握り位置を学習できる。なお、
図13に示す学習上限余裕、学習下限余裕領域は、学習進み具合によって0%に戻らない開度、或いは100%に到達しない開度、になることを防ぐものである。
【0165】
変速装置100を備える車両では、走り始める際に、Nから1速に上げるために、確実に1回はクラッチレバー200を握る。その1回のクラッチレバー200の握りによって操作レンジを学習でき、次に運転者がクラッチレバー200を用いてクラッチ操作を行う際に好適な位置でクラッチアクチュエータを動作させることができる。
【0166】
図14は、クラッチレバー操作範囲の学習を説明するためのフローチャートである。なお、クラッチレバー200の稼動範囲を学習する際において現在レバー位置より+を下限学習側、−を上限学習側とする。
【0167】
図14に示すように、まず、電源が投入されることによって制御部300は、上限step及び下限stepを設定して、下記条件を満たすことによって学習値をstep分進めていく。つまり、クラッチレバー200の位置が学習上下限以内である(ステップS31)、クラッチレバー200のレバー位置の前回比が規定値以内である(ステップS32)、学習余裕込みレバー位置(現在レバー位置±学習余裕)が現在の学習値よりstep値以上進んでいる(ステップS33)、これら(ステップS31からステップS33)の条件が規定時間継続したか(ステップS34)を満たして学習値をstep分進めていく(ステップS35)。
【0168】
なお、本実施の形態では、DCTであっても、クラッチレバー200を操作することによって、変速時における駆動力の復帰の仕方を調整できる。例えば、子供、老人が同乗している場合、変速時においてクラッチを再び繋ぐ際に、ゆっくりとトルク容量を増加させて、出力される駆動力を徐々に増加させることができる。これにより同乗者に快適な乗車感を付与できる。また、ギア段の切り替えを伴うことなく駆動力を調整できる。例えば、変速装置100を搭載した車両が、渋滞中或いは歩行者と併走する場合において、ギア段の切り替えを行わずに半クラッチ状態で走行することができる。
【0169】
更に、発進時の駆動力を調整できる。例えば、アクセルを踏むことによってエンジンの回転数を先に上げておいた後でクラッチを繋ぐことで急発進できる。
【0170】
また、ウイリーした場合に運転者はとっさにクラッチを切ることができ、ウイリー走行の持続を防止できる。
【0171】
なお、本実施の形態では、運転者の操作によるギア段の切り替えを、シフトスイッチ120で行う構成としたが、本発明はこれに限られず、シフトペダル、シフトレバー、シフトパドルなどによって行うようにしてもよい。また、本実施の形態では、モード切替スイッチ110も同様に、運転者が運転モードを切り替える操作を行えるものであれば、どのように構成されてもよく、モード切替用レバー、モード切替用ペダル、モード切替用パドル、モード切替用ボタンなどでもよい。
【0172】
また、本実施の形態では、変速装置100は、複数のクラッチをバイワイヤ式クラッチレバー200によって操作するようにしたが、これに限らずシングルクラッチであってもよい。
【0173】
なお、上記本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、種々の改変をなすことができ、そして本発明が該改変させたものに及ぶことは当然である。