特許第5997768号(P5997768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOA株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000002
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000003
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000004
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000005
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000006
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000007
  • 特許5997768-スピーカー装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997768
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】スピーカー装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 29/00 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
   H04R29/00 310
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-521121(P2014-521121)
(86)(22)【出願日】2012年6月19日
(86)【国際出願番号】JP2012065586
(87)【国際公開番号】WO2013190632
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000223182
【氏名又は名称】TOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107847
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 聡
(72)【発明者】
【氏名】宮田 哲
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕司
【審査官】 菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−314008(JP,A)
【文献】 特開2006−254115(JP,A)
【文献】 特開2004−297368(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/087772(WO,A1)
【文献】 特開2008−154130(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0251265(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1533214(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 29/00
H04R 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカー筐体に配設された2以上のスピーカーユニットと、
上記2以上のスピーカーユニットの各々からの距離が互いに異なるように上記スピーカー筐体に配設され、集音信号を出力するセンサーマイクと、
上記2以上のスピーカーユニットの各々について上記センサーマイクとの物理距離を保持する物理距離記憶手段と、
1又は2以上の上記スピーカーユニットをターゲットユニットとして選択するターゲットユニット選択手段と、
入力音声信号を上記ターゲットユニットへ供給する音声信号供給手段と、
上記入力音声信号としてテスト用のインパルス信号を生成するテスト信号生成手段と、
上記集音信号に基づいて、上記インパルス信号に対するインパルス応答の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
上記遅延時間に基づいて、上記ターゲットユニット及び上記センサーマイク間の音波伝達距離を求める伝達距離算出手段と、
上記物理距離記憶手段に保持されている上記ターゲットユニットと上記センサーマイクとの物理距離と、上記伝達距離算出手段により求められた上記音波伝達距離との比較に基づいて、エラー出力を行うエラー検知手段とを備えたことを特徴とするスピーカー装置。
【請求項2】
上記センサーマイクは、上記2以上のスピーカーユニットの各々からの距離が互いに異なる位置として、上記スピーカーユニットにより形成される配列の延長線上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のスピーカー装置。
【請求項3】
外部音声信号が入力される外部入力端子と、
上記外部音声信号を上記スピーカーユニットへ供給するとともに、上記スピーカーユニットごとに上記外部音声信号の遅延時間を調整する指向性制御手段と、
上記伝達距離算出手段により求められた上記音波伝達距離と、上記物理距離記憶手段に保持されている上記ターゲットユニット及び上記センサーマイク間の物理距離との差分に基づいて、音速誤差を求める音速誤差算出手段とを備え、
上記指向性制御手段は、上記音速誤差に基づいて、上記遅延時間の補正を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のスピーカー装置。
【請求項4】
上記集音信号をフーリエ変換し、周波数ごとのパワーレベルを求めるパワーレベル算出手段と、
上記インパルス信号に対する上記ターゲットユニットのインパルス応答特性として、周波数ごとのパワーレベルからなる周波数特性を保持する周波数特性記憶手段とを備え、
上記エラー検知手段は、上記パワーレベル算出手段により求められた周波数ごとのパワーレベルと上記周波数特性とを比較し、当該比較結果に基づいて上記エラー出力を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスピーカー装置。
【請求項5】
スピーカー筐体に配設された2以上のスピーカーユニットと、
上記スピーカー筐体に配設され、集音信号を出力するセンサーマイクと、
1又は2以上の上記スピーカーユニットをターゲットユニットとして選択するターゲットユニット選択手段と、
入力音声信号を上記ターゲットユニットへ供給する音声信号供給手段と、
上記入力音声信号及び上記集音信号に基づいて、エラー出力を行うエラー検知手段と、
テスト帯域の周波数成分を減衰させることにより、上記入力音声信号から非ターゲット音声信号を生成する帯域除去フィルタと、
上記テスト帯域以外の周波数成分を減衰させることにより、上記入力音声信号からリファレンス音声信号を生成する第1の帯域通過フィルタと、
上記テスト帯域以外の周波数成分を減衰させることにより、上記集音信号から検出音声信号を生成する第2の帯域通過フィルタとを備え、
上記音声信号供給手段は、上記入力音声信号を上記ターゲットユニットへ供給するとともに、上記非ターゲット音声信号を上記ターゲットユニット以外の上記スピーカーユニットへ供給し、
上記エラー検知手段は、上記検出音声信号と上記リファレンス音声信号とを比較し、当該比較結果に基づいて上記エラー出力を行うことを特徴とするスピーカー装置。
【請求項6】
上記リファレンス音声信号のパワーレベルが一定レベル以上であるか否かを判別するパワーレベル判別手段を備え、
上記エラー検知手段は、上記パワーレベル判別手段の判別結果に基づいて、上記エラー出力を行うことを特徴とする請求項5に記載のスピーカー装置。
【請求項7】
上記スピーカーユニットとして、音域が異なる低音用ユニット及び高音用ユニットを備え、
上記帯域除去フィルタ、第1の帯域通過フィルタ及び第2の帯域通過フィルタは、いずれも上記低音用ユニットの音域に含まれる第1のテスト帯域と、上記高音用ユニットの音域に含まれる第2のテスト帯域とを切り替えることができ、上記ターゲットユニットの選択結果に基づいて、第1及び第2のテスト帯域を切り替えることを特徴とする請求項5又は6に記載のスピーカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー装置に係り、さらに詳しくは、2以上のスピーカーユニットがスピーカー筐体に配設されたスピーカー装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のスピーカーユニットをスピーカー筐体に配設したスピーカーシステムには、アレイスピーカー装置と呼ばれるものがあり、放送設備に用いられることがある。アレイスピーカー装置には、スピーカーユニットごとに遅延回路を設け、スピーカーユニットへ供給される音声信号について、スピーカーユニットごとの遅延時間を調整することにより、音波の指向性を制御することができるものもある(例えば、特許文献1)。
【0003】
上述したアレイスピーカー装置の各スピーカーユニットは、僅かな時間差をもって同じ音波を放出していることから、一部のスピーカーユニットが故障していても、その故障に気づきにくい。例えば、一部のスピーカーユニットが故障し、アレイスピーカー装置の指向性に異常が生じていた場合であっても、異常な音圧が生じている聴取点で観察しなければ、当該異常を発見することができなかった。また、音量の低下等により故障の発生に気づいたとしても、いずれのスピーカーユニットが故障しているのかを特定することは容易ではなかった。
【0004】
ここで、音声信号を増幅してスピーカーユニットへ供給するパワーアンプを内蔵したアレイスピーカー装置には、増幅回路内に生じた過電流や過電圧、回路素子の温度上昇などを検知することができるものが知られている。しかし、この様なパワーアンプ自体の検知機能を利用した故障検知では、スピーカーユニットの誤配線やスピーカーユニット自体の不具合を検知することができないという問題があった。
【0005】
例えば、音声信号の遅延調整がDSP(Digital Signal Processor)により行われるアレイスピーカー装置の場合、DSPは、スピーカー筐体上のユニット取付位置に対応づけられたチャンネルごとに遅延時間の調整を行う。このため、各スピーカーユニットは、スピーカー筐体上の位置に応じたチャンネルに接続する必要があるが、パワーアンプによる故障検知では、DSP及びスピーカーユニット間の接続ミスを検知することができなかった。また、スピーカーユニットがコーン紙を振動板として用いるユニットである場合、パワーアンプによる故障検知では、コーン紙の破れを検知することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−87590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アレイスピーカー装置を放送設備として用いる場合、アレイスピーカー装置を設置した後は、放送を中断させることなく、スピーカーユニットの故障を検知できることが望ましい。しかし、従来のアレイスピーカー装置では、放送中にスピーカーユニットの故障を検知できるものはなかった。
【0008】
また、チャンネルごとに音声信号の遅延調整を行う従来のアレイスピーカー装置では、スピーカーユニットが間違ったチャンネルに接続されているといった不具合を検知できるものはなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、スピーカーユニットの不具合を検知することができるスピーカー装置を提供することを目的とする。特に、スピーカーユニットの誤配線やスピーカーユニット自体の不具合を検知することができるスピーカー装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、音声放出を中断させることなく、スピーカーユニットの故障を検知することができるスピーカー装置を提供することを目的とする。さらに、放送中にスピーカーユニットの故障を検知することができるとともに、暗騒音の影響によって誤検知が発生するのを防止することができるスピーカー装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、スピーカーユニット自体の不具合を検知することができるとともに、スピーカーユニットの誤配線も検知することができるスピーカー装置を提供することを目的とする。さらに、スピーカーユニットの誤配線を検知することができるとともに、指向制御の精度を向上させることができるスピーカー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様によるスピーカー装置は、スピーカー筐体に配設された2以上のスピーカーユニットと、上記2以上のスピーカーユニットの各々からの距離が互いに異なるように上記スピーカー筐体に配設され、集音信号を出力するセンサーマイクと、上記2以上のスピーカーユニットの各々について上記センサーマイクとの物理距離を保持する物理距離記憶手段と、1又は2以上の上記スピーカーユニットをターゲットユニットとして選択するターゲットユニット選択手段と、入力音声信号を上記ターゲットユニットへ供給する音声信号供給手段と、上記入力音声信号としてテスト用のインパルス信号を生成するテスト信号生成手段と、上記集音信号に基づいて、上記インパルス信号に対するインパルス応答の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、上記遅延時間に基づいて、上記ターゲットユニット及び上記センサーマイク間の音波伝達距離を求める伝達距離算出手段と、上記物理距離記憶手段に保持されている上記ターゲットユニットと上記センサーマイクとの物理距離と、上記伝達距離算出手段により求められた上記音波伝達距離との比較に基づいて、エラー出力を行うエラー検知手段とを備えて構成される。
【0013】
この様な構成によれば、複数のスピーカーユニットが配設されたスピーカー筐体にセンサーマイクが配設されているので、スピーカーユニットから放出された音声をセンサーマイクで集音することにより、スピーカーユニットの不具合を検知することができる。また、テスト用のインパルス信号が入力音声信号として生成されるので、インパルス信号をターゲットユニットへ供給した際に得られる集音信号に基づいて、エラー出力が行われる。このため、集音信号を解析することにより、スピーカーユニット自体の不具合を検知することができる。また、インパルス信号に対するインパルス応答の遅延時間が検出され、この遅延時間からターゲットユニット及びセンサーマイク間の音波伝達距離を求めてターゲットユニットに関する不具合が検知される。つまり、音波伝達距離からターゲットユニットのスピーカー筐体上の位置を特定することにより、音声信号供給手段とスピーカーユニットとの間の接続ミスを検知することができる。
【0014】
本発明の第二の態様によるスピーカー装置は、上記構成に加え、上記センサーマイクが、上記2以上のスピーカーユニットの各々からの距離が互いに異なる位置として、上記スピーカーユニットにより形成される配列の延長線上に配設されているように構成される。
【0015】
この様な構成によれば、ターゲットユニットとしていずれのスピーカーユニットを選択した場合であっても、音波伝達距離からターゲットユニットの位置を特定することができるので、スピーカーユニットの誤配線を検知する際の検知精度を向上させることができる。
【0016】
本発明の第三の態様によるスピーカー装置は、上記構成に加え、外部音声信号が入力される外部入力端子と、上記外部音声信号を上記スピーカーユニットへ供給するとともに、上記スピーカーユニットごとに上記外部音声信号の遅延時間を調整する指向性制御手段と、上記伝達距離算出手段により求められた上記音波伝達距離と、上記物理距離記憶手段に保持されている上記ターゲットユニット及び上記センサーマイク間の物理距離との差分に基づいて、音速誤差を求める音速誤差算出手段とを備え、上記指向性制御手段が、上記音速誤差に基づいて、上記遅延時間の補正を行うように構成される。
【0017】
このスピーカー装置では、外部入力端子に入力された外部音声信号がスピーカーユニットへ供給されるとともに、スピーカーユニットごとに外部音声信号の遅延時間を調整することにより、指向性の制御が行われる。その際、テスト用のインパルス信号をターゲットユニットから放出させて得られた音波伝達距離とターゲットユニット及びセンサーマイク間の物理距離との差分から音速誤差を求めて遅延時間の補正を行うことにより、指向制御の精度を向上させることができる。
【0018】
本発明の第四の態様によるスピーカー装置は、上記構成に加え、上記集音信号をフーリエ変換し、周波数ごとのパワーレベルを求めるパワーレベル算出手段と、上記インパルス信号に対する上記ターゲットユニットのインパルス応答特性として、周波数ごとのパワーレベルからなる周波数特性を保持する周波数特性記憶手段とを備え、上記エラー検知手段が、上記パワーレベル算出手段により求められた周波数ごとのパワーレベルと上記周波数特性とを比較し、当該比較結果に基づいて上記エラー出力を行うように構成される。
【0019】
この様な構成によれば、テスト用のインパルス信号をターゲットユニットから放出させた際の集音信号から得られる周波数特性と予め保持される周波数特性とを比較してエラー出力を行うので、スピーカーユニット自体の不具合を確実に検知することができる。
【0020】
本発明の第五の態様によるスピーカー装置は、スピーカー筐体に配設された2以上のスピーカーユニットと、上記スピーカー筐体に配設され、集音信号を出力するセンサーマイクと、1又は2以上の上記スピーカーユニットをターゲットユニットとして選択するターゲットユニット選択手段と、入力音声信号を上記ターゲットユニットへ供給する音声信号供給手段と、上記入力音声信号及び上記集音信号に基づいて、エラー出力を行うエラー検知手段と、テスト帯域の周波数成分を減衰させることにより、上記入力音声信号から非ターゲット音声信号を生成する帯域除去フィルタと、上記テスト帯域以外の周波数成分を減衰させることにより、上記入力音声信号からリファレンス音声信号を生成する第1の帯域通過フィルタと、上記テスト帯域以外の周波数成分を減衰させることにより、上記集音信号から検出音声信号を生成する第2の帯域通過フィルタとを備え、上記音声信号供給手段が、上記入力音声信号を上記ターゲットユニットへ供給するとともに、上記非ターゲット音声信号を上記ターゲットユニット以外の上記スピーカーユニットへ供給し、上記エラー検知手段が、上記検出音声信号と上記リファレンス音声信号とを比較し、当該比較結果に基づいて上記エラー出力を行うように構成される。
【0021】
このスピーカー装置では、ターゲットユニットからはテスト帯域の周波数成分を含む音声が放出されるのに対し、ターゲットユニット以外のスピーカーユニットからはテスト帯域の周波数成分を減衰させた音声が放出される。そして、入力音声信号及び集音信号のテスト帯域を比較することにより、エラー出力が行われる。つまり、このスピーカー装置では、入力音声信号及び非ターゲット音声信号をスピーカーユニットへ供給した際に、テスト帯域の周波数成分がターゲットユニットからしか放出されないことを利用して、ターゲットユニットに関する不具合が検知される。このため、入力音声信号に基づく音声放出を中断させることなく、スピーカーユニットの故障を検知することができる。つまり、この様なスピーカー装置を放送設備として用いる場合には、放送中にスピーカーユニットの故障を検知することができる。また、入力音声信号及び集音信号のテスト帯域を比較するので、スピーカーユニット自体の不具合を検知することができる。
【0023】
本発明の第六の態様によるスピーカー装置は、上記構成に加え、上記リファレンス音声信号のパワーレベルが一定レベル以上であるか否かを判別するパワーレベル判別手段を備え、上記エラー検知手段が、上記パワーレベル判別手段の判別結果に基づいて、上記エラー出力を行うように構成される。
【0024】
この様な構成によれば、入力音声信号からテスト帯域以外の周波数成分を減衰させて得られるリファレンス音声信号のパワーレベルが一定レベル以上であるか否かに応じて、エラー出力が行われる。このため、入力音声信号のテスト帯域についてパワーレベルが低い場合に、暗騒音の影響により、集音信号のテスト帯域がノイズに埋もれ、ターゲットユニットの故障を誤検知するといったことを防止することができる。従って、放送中にスピーカーユニットの故障を検知することができるとともに、暗騒音の影響によって誤検知が発生するのを防止することができる。
【0025】
本発明の第七の態様によるスピーカー装置は、上記構成に加え、上記スピーカーユニットとして、音域が異なる低音用ユニット及び高音用ユニットを備え、上記帯域除去フィルタ、第1の帯域通過フィルタ及び第2の帯域通過フィルタが、いずれも上記低音用ユニットの音域に含まれる第1のテスト帯域と、上記高音用ユニットの音域に含まれる第2のテスト帯域とを切り替えることができ、上記ターゲットユニットの選択結果に基づいて、第1及び第2のテスト帯域を切り替えるように構成される。
【0026】
この様な構成によれば、ターゲットユニットが低音用ユニット又は高音用ユニットのいずれであるのかに応じてテスト帯域を切り替えることにより、ターゲットユニットが低音用ユニット又は高音用ユニットのいずれであっても故障を検知することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によるスピーカー装置では、複数のスピーカーユニットが配設されたスピーカー筐体にセンサーマイクが配設されているので、スピーカーユニットの不具合を検知することができる。特に、スピーカーユニットの誤配線やスピーカーユニット自体の不具合を検知することができる。
【0030】
また、本発明によるスピーカー装置では、入力音声信号又は非ターゲット音声信号を各スピーカーユニットへ供給した際に、テスト帯域の周波数成分がターゲットユニットからしか放出されないことを利用して、エラー出力を行うので、音声放出を中断させることなく、スピーカーユニットの故障を検知することができる。さらに、放送中にスピーカーユニットの故障を検知することができるとともに、暗騒音の影響によって誤検知が発生するのを防止することができる。
【0031】
また、本発明によるスピーカー装置では、スピーカーユニット自体の不具合を検知することができるとともに、スピーカーユニットの誤配線も検知することができる。さらに、スピーカーユニットの誤配線を検知することができるとともに、指向制御の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施の形態1によるアレイスピーカー装置1を含む拡声システム100の一構成例を示したシステム図である。
図2図1のアレイスピーカー装置1の一構成例を示した図である。
図3図2のDSP16内の機能構成の一例を示したブロック図である。
図4図3のノッチフィルタ22,狭帯域BPF23a及び23bの動作の一例を模式的に示した説明図である。
図5】本発明の実施の形態2によるアレイスピーカー装置1の構成例を示したブロック図であり、DSP16内の機能構成の一例が示されている。
図6図5のDSP16の動作の一例を模式的に示した説明図である。
図7】スピーカーユニット11の周波数特性の一例を示した図であり、周波数ごとのパワーレベルが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施の形態1.
<拡声システム100>
図1は、本発明の実施の形態1によるアレイスピーカー装置1を含む拡声システム100の一構成例を示したシステム図である。この拡声システム100は、2つのアレイスピーカー装置1と、信号源2及び増幅器3により構成され、信号源2において生成された放送信号が増幅器3により増幅され、増幅後の放送信号が各アレイスピーカー装置1へ伝送される。
【0034】
例えば、マイクロホンを信号源2とし、オーディオ帯域の周波数成分からなる集音信号がマイクロホンで生成され、増幅器3において増幅された後に放送信号として各アレイスピーカー装置1へ伝送される。つまり、マイクロホンで集音された放送信号が各アレイスピーカー装置1へ伝送され、外部音声信号として入力される。各アレイスピーカー装置1は、入力された放送信号に基づいて、放送音を出力する。
【0035】
アレイスピーカー装置1は、スピーカー筐体10と、2以上のスピーカーユニット11と、2つのセンサーマイク12を備えたスピーカーシステムであり、放送信号の遅延調整により放送音の指向性を制御することができる。
【0036】
スピーカーユニット11は、放送信号などの音声信号を音波に変換する拡声素子である。例えば、ダイナミック型スピーカーユニットの場合、コーン紙等の振動板と、振動板を振動させるためのボイスコイルにより構成される。
【0037】
スピーカー筐体10は、エンクロージャーと呼ばれる直方体形状の箱体である。各スピーカーユニット11は、スピーカー筐体10にアレイ状に配設される。例えば、各スピーカーユニット11は、スピーカー筐体10の前面に線状又は面状に配設される。
【0038】
このアレイスピーカー装置1では、スピーカー筐体10が縦長形状からなり、3以上のスピーカーユニット11が直線状に配設されている。すなわち、各スピーカーユニット11は、スピーカー筐体10の長尺方向に配列されている。
【0039】
センサーマイク12は、スピーカーユニット11からの音波を集音するマイクロホンであり、アレイスピーカー装置1は、少なくとも1つのセンサーマイク12を備えている。このセンサーマイク12は、各スピーカーユニット11から距離が互いに異なるように、スピーカーユニット11により形成される配列の一端に配置されたスピーカーユニット11よりもさらに一端側に配設されている。
【0040】
具体的に説明すれば、センサーマイク12は、スピーカーユニット11による配列の延長上、例えば、スピーカー筐体10の前面の端部近傍に配設されている。2以上のセンサーマイク12をスピーカー筐体10に配設することにより、故障検知の精度を向上させることができる。
【0041】
この様なアレイスピーカー装置1を縦長状態で設置すれば、仰俯角方向(上下方向)の指向性を制御することができる。例えば、上下方向の指向角を広げたり、狭めたりすることができる。また、上下方向についての指向方向を制御することができる。全く同様にして、アレイスピーカー装置1を横長の状態に設置すれば、方位角方向(左右方向)の指向性を制御することができる。例えば、左右方向の指向角を広げたり、狭めたりすることができる。また、左右方向についての指向方向を制御することができる。
【0042】
<アレイスピーカー装置1>
図2は、図1のアレイスピーカー装置1の一構成例を示した図である。この図には、8個のスピーカーユニット11と、8個のパワーアンプ18とを備えたアレイスピーカー装置1が示されている。このアレイスピーカー装置1は、放送用端子13、ADC14,15、DSP16及びDAC17を備えて構成されている。
【0043】
放送用端子13は、外部音声信号4が入力される外部入力端子であり、スピーカー筐体10に配設されている。ADC(アナログ−デジタルコンバータ)14及び15は、いずれもアナログ信号をデジタル信号に変換する変換素子であり、2チャンネル分の入力端子及び出力端子が設けられている。
【0044】
ADC14は、放送用端子13を経由して入力される外部音声信号4を所定の周期でサンプリングし、デジタルデータ化してDSP16へ出力するとともに、センサーマイク12から入力される集音信号6についても、外部音声信号4と同様にデジタルデータ化してDSP16へ出力する。ADC15は、センサーマイク12から入力される集音信号6をADC14と同様にデジタルデータ化してDSP16へ出力する。
【0045】
DSP16は、外部音声信号4の遅延調整と、集音信号6に基づいてスピーカーユニット11の故障検知を行う信号処理部である。DSP16は、放送用端子13に入力された外部音声信号4を各DAC17へ供給する場合に、スピーカーユニット11ごとに外部音声信号4の遅延時間を調整することにより、放送音の指向性を制御する。また、DSP16は、スピーカー筐体10上のユニット取付位置、若しくは、スピーカーユニット11の配列中における位置に対応づけられたチャンネルを有し、このチャンネルごとに遅延時間の調整を行う。
【0046】
DAC(デジタル−アナログコンバータ)17は、デジタル信号をアナログ信号に変換する変換素子であり、2チャンネル分の入力端子及び出力端子が設けられている。DAC17は、DSP16から入力される音声信号をアナログ信号に変換し、パワーアンプ18へ出力する。
【0047】
パワーアンプ18は、DAC17から入力される音声信号を増幅することにより、スピーカーユニット11を駆動するためのスピーカー駆動信号5を生成する増幅器である。パワーアンプ18は、スピーカーユニット11ごとに設けられ、スピーカーユニット11ごとに放送音の音量を調整することができる。
【0048】
<DSP16>
図3は、図2のDSP16内の機能構成の一例を示したブロック図である。この図では、外部音声信号4に基づく音声放出を中断させることなくスピーカーユニット11の故障検知を行う場合が示されている。DSP16は、ターゲットユニット選択部20、音声信号供給部21、ノッチフィルタ(notch filter)22、狭帯域BPF(バンドパスフィルタ)23a,23b、パワーレベル判別部24及びエラー検知部25により構成される。
【0049】
ターゲットユニット選択部20は、スピーカーユニット11のいずれか一つを故障検知のターゲットユニットとして選択し、その選択結果を音声信号供給部21へ出力する。このターゲットユニット選択部20は、各スピーカユニット11を順次にターゲットユニットとして選択する。ターゲットユニットの選択は、予め定められた順序で自動的に行われ、ターゲットユニットが選択されるごとに故障検知が行われる。ここでは、ターゲットユニット以外のスピーカーユニット11を非ターゲットユニットと呼ぶ。
【0050】
ノッチフィルタ22は、テスト帯域26の周波数成分を減衰させることにより、外部音声信号4から非ターゲット音声信号7を生成する帯域除去フィルタである。つまり、ノッチフィルタ22では、テスト帯域26の周波数成分を除去し、テスト帯域26以外の周波数成分は通過させる。
【0051】
テスト帯域26は、ターゲットユニットの故障を検知するための所定の周波数帯域であり、その中心周波数や帯域幅は、ターゲットユニットの音域や周波数特性に応じて予め定められる。例えば、テスト帯域26は、帯域幅が狭く、帯域内の上限周波数は、下限周波数の10倍程度である。
【0052】
狭帯域BPF23a及び23bは、いずれもテスト帯域26以外の周波数成分を減衰させる帯域通過フィルタである。つまり、狭帯域BPF23a,23bでは、テスト帯域26の周波数成分を通過させ、テスト帯域26以外の周波数成分は除去される。
【0053】
狭帯域BPF23aは、外部音声信号4からテスト帯域26以外の周波数成分を減衰させることにより、集音信号6と比較するためのリファレンス音声信号8を生成する。狭帯域BPF23bは、テスト帯域26以外の周波数成分を減衰させることにより、集音信号6から検出音声信号9を生成する。
【0054】
音声信号供給部21は、外部音声信号4をターゲットユニットへ供給するとともに、非ターゲット音声信号7を非ターゲットユニットへ供給する。つまり、ターゲットユニットからはテスト帯域26の周波数成分を含む音声が放出されるのに対し、非ターゲットユニットからはテスト帯域26の周波数成分を減衰させた音声が放出される。
【0055】
エラー検知部25は、信号比較部25a及び故障判別部25bにより構成され、検出音声信号9及びリファレンス音声信号8に基づいて、ターゲットユニットに関する不具合を検知し、エラー出力を行う。このエラー検知部25では、テスト帯域26の周波数成分がターゲットユニットからしか放出されないことを利用して、ターゲットユニットの故障を検知する。
【0056】
信号比較部25aは、検出音声信号9とリファレンス音声信号8とを比較し、その比較結果を故障判別部25bへ出力する。検出音声信号9及びリファレンス音声信号8の比較は、非ターゲット音声信号7の出力期間中に得られた集音信号6について行われる。故障判別部25bは、信号比較部25aの比較結果に基づいて、ターゲットユニットに故障が生じているか否かを判別し、その判別結果を検知情報として出力する。
【0057】
パワーレベル判別部24は、リファレンス音声信号8のパワーレベルが一定レベル以上であるか否かを判別し、その判別結果を信号比較部25aへ出力する。例えば、一定期間について、リファレンス音声信号8の振幅レベルを検知し、振幅レベルのピークが所定の閾値と比較される。或いは、サンプリング期間における振幅レベルの時間平均が所定の閾値と比較される。具体的には、センサーマイク12から定常的に集音される暗騒音(周りのノイズ)に対して、十分な振幅レベルでリファレンス音声信号8が存在するか否かが判別される。
【0058】
エラー検知部25は、リファレンス音声信号8のパワーレベルが一定レベル以上である場合に、ターゲットユニットの故障検知を行うことにより、暗騒音(background noise)に起因してターゲットユニットの故障を誤検知するのを防止している。すなわち、信号比較部25aは、パワーレベル判別部24の判別結果に基づいて、検出音声信号9及びリファレンス音声信号8の比較処理を行う。
【0059】
例えば、信号比較部25aは、検出音声信号9の振幅レベルとリファレンス音声信号8の振幅レベルとを比較する。故障判別部25bは、その比較結果に基づいて、DSP16及びターゲットユニット間の配線における断線や短絡と、パワーアンプ18の不具合と、ターゲットユニット自体の不具合を判別する。
【0060】
具体的には、振幅レベルが一定レベルを越えているピークの出現回数を計数し、検出音声信号9及びリファレンス音声信号8間で一致するか否かを判別することにより、ターゲットユニットの不具合を検知することができる。
【0061】
ここで、スピーカーユニット11として、音域が異なる低音用ユニット及び高音用ユニットを備える場合、ノッチフィルタ22、狭帯域BPF23a及び23bは、いずれも低音用ユニットの音域に含まれるテスト帯域26wと、高音用ユニットの音域に含まれるテスト帯域26tとを切り替える。このテスト帯域26の切替は、ターゲットユニット選択部20によるターゲットユニットの選択結果に基づいて行われる。
【0062】
この様にターゲットユニットの音域に応じてテスト帯域26を変更することにより、ターゲットユニットが低音用ユニット又は高音用ユニットのいずれであっても故障を検知することができる。
【0063】
図4は、図3のノッチフィルタ22,狭帯域BPF23a及び23bの動作の一例を模式的に示した説明図であり、図中の(a)には、ノッチフィルタ22の場合が示され、(b)には、狭帯域BPF23a,23bの場合が示されている。この図では、横軸を周波数とし、縦軸をパワーレベルとして周波数ごとのパワーレベルからなる周波数特性が示されている。
【0064】
ノッチフィルタ22の場合、周波数ごとのパワーレベルが概ね一定値pである音声信号を入力すれば、テスト帯域26の周波数成分だけが減衰された音声信号が出力される。テスト帯域26の中心周波数をfとし、周波数fにおける出力信号のパワーレベルをpとすれば、テスト帯域26の帯域幅は、出力信号のパワーレベルがp=p+3dBである周波数の範囲wにより規定される。
【0065】
一方、狭帯域BPF23a,23bの場合、周波数ごとのパワーレベルが概ね一定値pである音声信号を入力すれば、テスト帯域26以外の周波数成分が減衰された音声信号が出力される。テスト帯域26の中心周波数fは、f=fであり、周波数fにおける出力信号のパワーレベルをpとすれば、テスト帯域26の帯域幅は、出力信号のパワーレベルがp=p−3dBである周波数の範囲wにより規定される。このwは、概ねwと一致している。
【0066】
この様な周波数特性のノッチフィルタ22を用いることにより、ターゲットユニットからはテスト帯域26の周波数成分を含む音声が放出されるのに対し、非ターゲットユニットからはテスト帯域26の周波数成分を減衰させた音声を放出させることができる。また、狭帯域BPF23a,23bを用いて、外部音声信号4及び集音信号6からテスト帯域26以外の周波数成分を減衰させたリファレンス音声信号8及び検出音声信号9がそれぞれ生成される。つまり、外部音声信号4及び集音信号6のテスト帯域26を比較することにより、故障検知を行うので、外部音声信号4に基づく放送音の放出を中断させることなく、スピーカーユニット11の故障を検知することができる。
【0067】
本実施の形態によれば、、複数のスピーカーユニット11が配設されたスピーカー筐体10にセンサーマイク12が配設されているので、スピーカーユニット11から放出された音声をセンサーマイク12で集音することにより、スピーカーユニット11の故障を検知することができる。
【0068】
具体的には、外部音声信号4及び非ターゲット音声信号7をスピーカーユニット11へ供給した際に、テスト帯域26の周波数成分がターゲットユニットからしか放出されないことを利用して、ターゲットユニットの故障が検知される。このため、放送を中断させることなく、スピーカーユニット11の故障を検知することができる。また、テスト帯域26以外の周波数成分は各スピーカーユニット11から放出されるので、放送音の音質が劣化するのを抑制しつつ、スピーカーユニット11の故障を検知することができる。
【0069】
なお、本実施の形態では、スピーカーユニット11のいずれか一つをターゲットユニットとして選択し、ターゲットユニットが選択されるごとに故障検知を行う場合の例について説明したが、本発明はこの様な構成に限定されるものではない。例えば、複数のスピーカーユニット11をターゲットユニットとして選択し、これらのターゲットユニットについて、スピーカーユニット11ごとにテスト帯域26を異ならせることにより、複数のスピーカーユニット11について同時に故障検知を行うような構成であっても良い。つまり、この構成では、1つのターゲットユニットごとにテスト帯域が指定される。
【0070】
実施の形態2.
実施の形態1では、外部音声信号4に基づく音声放出を中断させることなくスピーカーユニット11の故障検知が行われる場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、テスト用のインパルス信号を用いてスピーカーユニット11の故障検知を行う場合について説明する。
【0071】
図5は、本発明の実施の形態2によるアレイスピーカー装置1の構成例を示したブロック図であり、DSP16内の機能構成の一例が示されている。このDSP16は、ターゲットユニット選択部20、音声信号供給部21、テスト信号生成部30、音声信号比較部31、エラー検知部32、周波数特性記憶部33、音速誤差算出部34、物理距離記憶部35及び指向性制御部36により構成される。
【0072】
ここでは、DSP16が、拡声モードと測定モードとを図示しない操作部からの入力信号に基づいて、切り替えるものとする。拡声モードは、放送用端子13に入力された外部音声信号4を各スピーカーユニット11から放出させる動作モードである。一方、測定モードは、テスト用のインパルス信号をターゲットユニットから放出させてインパルス応答を測定する動作モードである。
【0073】
ターゲットユニット選択部20は、測定モード時に、スピーカーユニット11のいずれか一つを故障検知のターゲットユニットとして選択し、その選択結果を音声信号供給部21へ出力する。例えば、ターゲットユニットは、一定の時間間隔TIで順次に選択される。例えば、時間間隔TIは、100ms程度である。
【0074】
テスト信号生成部30は、テスト用のインパルス信号を生成し、音声信号供給部21及び音声信号比較部31へ出力する。テスト用インパルス信号は、ターゲットユニットの故障を検知するための入力音声信号であり、無信号状態から立ち上がり、無信号状態へ立ち下がるまでに所定の時間長T1からなる。例えば、オーディオ帯域の様々な周波数成分を含むパルス状の信号がテスト用インパルス信号として生成される。
【0075】
ここでは、時間長T1が数ms程度のスイープ(sweep)信号がテスト用インパルス信号として用いられる。スイープ信号は、時間長T1内で周波数が連続的に高くなる正弦波信号である。例えば、テスト用インパルス信号について、時間長T1及び振幅レベルと、時間長T1内で周波数を変化させる際の変動幅、上限周波数及び下限周波数とは、ターゲットユニットの音域や周波数特性に応じて予め定められる。
【0076】
音声信号供給部21は、テスト信号生成部30から入力されたテスト用インパルス信号をターゲットユニットへ供給する。音声信号比較部31は、遅延時間検出部41、伝達距離算出部42及びパワーレベル算出部43により構成され、テスト用インパルス信号と集音信号6とを比較し、その比較結果をエラー検知部32へ出力する。テスト用インパルス信号及び集音信号6の比較は、テスト用インパルス信号と集音信号6とを同期させて行われる。
【0077】
遅延時間検出部41は、ターゲットユニットの誤配線を検知するために、集音信号6に基づいて、テスト用インパルス信号に対するインパルス応答の遅延時間T2を検出し、検出結果を伝達距離算出部42へ出力する。伝達時距離算出部42は、遅延時間検出部41により検出された遅延時間T2に基づいて、ターゲットユニットとセンサーマイク12と間の音波伝達距離Ldを求める。音波伝達距離Ldは、音速Vを用いて、Ld=V×T2により求められる。
【0078】
パワーレベル算出部43は、ターゲットユニット自体の不具合を検知するために、集音信号6をフーリエ変換し、周波数ごとのパワーレベルを求める。例えば、一定期間について得られた集音信号6の振幅データを高速フーリエ変換することにより、周波数ごとのパワーレベルからなる周波数特性が求められる。
【0079】
エラー検知部32は、音声信号比較部31の比較結果に基づいて、ターゲットユニットに関する不具合を検知し、エラー出力を行う。具体的には、音波伝達距離Ldに基づいて、ターゲットユニットの誤配線を検知し、その検知結果を検知情報として出力する。すなわち、ターゲットユニットが接続されるべきチャンネルに対応するスピーカー筐体10上のユニット取付位置とセンサーマイク12との距離を音波伝達距離Ldと照合することにより、DSP16及びターゲットユニット間の接続ミスが検知される。
【0080】
センサーマイク12をスピーカー筐体10の任意の位置に取り付ける場合、センサーマイク12の取付位置によっては、音波伝達距離Ldからターゲットユニットの取付位置を特定できない場合がある。これに対し、本実施の形態では、センサーマイク12がスピーカーユニット11の配列の延長上に配設されているので、ターゲットユニットがいずれのスピーカーユニット11であっても、音波伝達距離Ldからターゲットユニットの取付位置を特定することができる。
【0081】
周波数特性記憶部33には、ターゲットユニットの周波数特性が保持される。この周波数特性は、ターゲットユニットのインパルス応答特性であり、周波数ごとのパワーレベルからなる。この周波数特性記憶部33には、全てのスピーカーユニット11について、予め測定された周波数特性が保持される。
【0082】
エラー検知部32は、パワーレベル算出部43により求められた周波数ごとのパワーレベルと周波数特性記憶部33に保持されている周波数特性とを比較し、その比較結果に基づいてターゲットユニットの故障検知を行う。これにより、ターゲットユニットの状態を正確に識別することができ、コーン紙の破れといった振動板の不具合、音質の劣化や音域の変化を検知することができる。
【0083】
エラー検知部32では、テスト用インパルス信号に対するインパルス応答の極性に基づいて、ターゲットユニットが間違った極性に接続されているといった接続ミスを検知することができる。また、インパルス応答の有無により、DSP16及びターゲットユニット間の配線における断線や短絡、パワーアンプ18の不具合を検知することができる。
【0084】
物理距離記憶部35には、ターゲットユニット及びセンサーマイク12間の物理距離Lbが保持される。この物理距離Lbは、スピーカーユニット11とセンサーマイク12との間の実際の距離であり、音速Vと遅延時間T2とから推定される音波伝達距離Ldとの比較に用いられる。物理距離記憶部35には、全てのスピーカーユニット11について、物理距離Lbが予め保持されている。音速誤差算出部34は、音波伝達距離Ldと物理距離Lbとの差分に基づいて、音速誤差VEを求める。音速誤差VEは、(Ld−Lb)の絶対値とインパルス応答の遅延時間T2との除算により求められる。
【0085】
指向性制御部36は、拡声モード時に、外部音声信号4を各スピーカーユニット11へ供給するとともに、スピーカーユニット11ごとに外部音声信号4の遅延時間を調整する。この遅延時間の調整は、隣接するスピーカーユニット11間の位相差が所望の値となるように行われる。
【0086】
指向性制御部36では、所望の指向性を得るために、測定モード時に音速誤差算出部34により求められた音速誤差VEに基づいて、スピーカーユニット11ごとの遅延時間を補正する動作が行われる。つまり、音速誤差VEを用いて、隣接するスピーカーユニット11間の位相差が調整される。
【0087】
図6は、図5のDSP16の動作の一例を模式的に示した説明図であり、図中の(a)には、テスト信号が示され、(b)には、テスト信号に対するインパルス応答が示されている。この図では、横軸を時間とし、縦軸を振幅として信号波形が示されている。
【0088】
テスト信号は、スイープ信号であり、一定の振幅を維持しながら、時間長T1内で周波数が徐々に高くなっている。一方、インパルス応答は、テスト信号をターゲットユニットから放出させた際にセンサーマイク12で集音された応答信号であり、振幅が徐々に小さくなる減衰信号からなる。
【0089】
この様なインパルス応答の時間的遅れ、すなわち、テスト信号に対するインパルス応答の遅延時間T2を検出することにより、ターゲットユニットの誤配線を検知することができる。また、インパルス応答の極性をテスト信号と比較することにより、ターゲットユニットが正しい極性で接続されているか否かを判別することができる。
【0090】
図7は、スピーカーユニット11の周波数特性の一例を示した図であり、周波数ごとのパワーレベルが示されている。この図では、横軸を周波数とし、縦軸をパワーレベルとして予め測定された周波数特性が示されている。
【0091】
スピーカーユニット11の周波数特性は、振動板の構造や材質、スピーカー筐体10の構造等により規定される。周波数特性を示す特性曲線は、周波数が増加するのに従って、パワーレベルが徐々に低下し、カットオフ周波数fa付近では、急激に減少している。
【0092】
この様な周波数特性を測定モード時にテスト信号を放出させて得られた周波数特性と比較することにより、ターゲットユニット自体の不具合を検知することができる。特に、ウーハー用ユニットとツイーター用ユニットとでは、音域が異なり、特性曲線が大きく異なることから、ウーハー用ユニットやツイーター用ユニットが正しく接続されているか否か、或いは、音量や音域が正常であるか否かを検知することができる。
【0093】
本実施の形態によれば、テスト用インパルス信号に対するインパルス応答の遅延時間T2が検出され、この遅延時間T2からターゲットユニット及びセンサーマイク12間の音波伝達距離Ldを求めてターゲットユニットの誤配線が検知される。つまり、音波伝達距離Ldからターゲットユニットのスピーカー筐体10上の位置を特定することにより、スピーカーユニット11が間違ったチャンネルに接続されているといった接続ミスを検知することができる。
【0094】
また、スピーカーユニット11ごとに外部音声信号4の遅延時間を調整する際に、テスト信号をターゲットユニットから放出させて得られた音波伝達距離Ldとターゲットユニット及びセンサーマイク12間の物理距離Lbとの差分から音速誤差VEを求めて遅延時間を補正するので、指向制御の精度を向上させることができる。
【0095】
なお、本実施の形態では、スピーカーユニット11のいずれか一つをターゲットユニットとして選択し、ターゲットユニットが選択されるごとに故障検知を行う場合の例について説明したが、本発明はこの様な構成に限定されるものではない。例えば、複数のスピーカーユニット11をターゲットユニットとして選択し、これらのターゲットユニットからインパルス信号を出力させることにより、複数のスピーカーユニット11について同時に故障検知を行うような構成であっても良い。具体的には、インパルス信号に対する各インパルス応答からターゲットユニットごとに音波伝達距離Ldを求め、対応する物理距離Lbと比較する。そして、全てのターゲットユニットについて、音波伝達距離Ldと物理距離Lbとが一致するか否かを判別することにより、各ターゲットユニットの故障検知が行われる。
【0096】
また、実施の形態1及び2では、スピーカー筐体10内に設けられたDSP16が故障検知を行う場合の例について説明したが、本発明は、スピーカー筐体10とは別個のコントローラが故障検知を行うものにも適用することができる。
【0097】
また、実施の形態1及び2では、3以上のスピーカーユニット11がスピーカー筐体10に設けられたアレイスピーカー装置1に本発明を適用する場合の例について説明したが、本発明は、2個のスピーカーユニット11からなるスピーカー装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
100 拡声システム
1 アレイスピーカー装置
10 スピーカー筐体
11 スピーカーユニット
12 センサーマイク
13 放送用端子
14,15 ADC
16 DSP
17 DAC
18 パワーアンプ
20 ターゲットユニット選択部
21 音声信号供給部
22 ノッチフィルタ
23a,23b 狭帯域BPF
24 パワーレベル判別部
25 エラー検知部
25a 信号比較部
25b 故障判別部
26 テスト帯域
30 テスト信号生成部
31 音声信号比較部
32 エラー検知部
33 周波数特性記憶部
34 音速誤差算出部
35 物理距離記憶部
36 指向性制御部
41 遅延時間検出部
42 伝達距離算出部
43 パワーレベル算出部
2 信号源
3 増幅器
4 外部音声信号
5 スピーカー駆動信号
6 集音信号
7 非ターゲット音声信号
8 リファレンス音声信号
9 検出音声信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7