【実施例】
【0041】
実施例1:ヘリコバクター・ピロリの胃上皮細胞への付着に対する効果に合わせたL.ブルガリクス株の選択
Oleastro et al. (2008)で記載された方法を、H.ピロリの上皮細胞への付着特性に対する2種のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス株(CNCM I−4428及び1995年10月25日付けでCNCMにおいて寄託されたCNCM I−1632)の効果を評価するような修正を加えて使用した。
【0042】
1.1 材料及び方法
2種のH.ピロリ株:J99株(BabA2、ATCC番号:700824)及び09.193株(BabA1、日本の大分大学の山岡吉生教授によって単離された)を試験した。これらの株を50というMOI(Multiplicity Of Infection:感染多重度)で試験した。ピロリ寒天(Biomerieux, France)中での24時間の培養後、H.ピロリ細胞をPBSバッファーに移した。2種のH.ピロリ株の細菌懸濁液の濃度をそれぞれ、2×10
8cfu/mL(OD
600nm=1に相当する)で正規化した。
【0043】
2種のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス懸濁液を、50というMOI(ウェル毎に正規化されたL.ブルガリクス懸濁液25μLに相当する)で試験した。
【0044】
100000個の上皮AGS細胞(ATCC番号:CRL−1739)を、感染実験の前日に10%のウシ胎児血清を添加した500μLのDMEM培地F12中に接種した。
【0045】
H.ピロリ懸濁液の着色
1mLのH.ピロリ懸濁液を10000gで10分間遠心分離した。ペレットを1mLのDiluent A(PKH2 Green Fluorescent Cell Linker Kit、Sigma Aldrich, Saint-Louis)中に再懸濁して、2.5μLのPKH
2(Sigma Aldrich, Saint-Louis)を添加した。懸濁液を室温で2分30秒インキュベートした。着色を2mLのウシ胎児血清の添加によって停止した。次いで4mLのDMEM/F12培地を添加した後、懸濁液を10000gで10分間遠心分離した。ペレットを4mLの培養培地中に再懸濁して、10000gで10分間遠心分離した。この洗浄工程を2回繰り返して、余分な蛍光色素を取り除いた。
【0046】
付着の測定
上皮AGS細胞を、PBSにより3回洗浄して付着していない細菌を捨てた後、標準条件に従ってトリプシンによって剥離させた。蛍光発光をフローサイトメトリーによって分析した。蛍光を、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて測定した。各条件は三重反復で行った。
【0047】
H.ピロリによる感染は2つの条件で行った
感染前(前)条件:H.ピロリに感染させる1時間30分前に、試験対象のL.ブルガリクス懸濁液を上皮AGS細胞に添加した。細胞を感染の1時間30分後、フローサイトメトリーによって分析した(総インキュベーション時間3時間);
同時感染(同時)条件:試験対象のL.ブルガリクス懸濁液とH.ピロリ株とを上皮AGS細胞に同時に添加して、細胞を1時間30分のインキュベーション時間後にフローサイトメトリーによって分析した。
【0048】
対照
蛍光強度の対照値を、H.ピロリ株とともに1時間30分インキュベートした上皮AGS細胞で得る。
【0049】
付着パーセントの値は、100%に設定したL.ブルガリクスに曝露しないH.ピロリの上皮AGS細胞への付着に対して与えられる。
【0050】
結果を三重反復から得られた平均値により分析し、スチューデント検定に従って結果が有意に異なっていた場合にスコアを付けた(P<0.05)。
【0051】
1.2 結果
結果を下記の表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
結果から、CNCM I−4428株の細菌懸濁液は、2種のH.ピロリ株(J99及び09.193)の上皮AGS細胞への付着を2つの異なる条件(前インキュベーション及び同時インキュベーション)下で阻害するが、CNCM I−1632株の細菌懸濁液はこの特性を有しないことが示される。
【0054】
実施例2:マウスモデルにおけるH.ピロリの負荷に対するCNCM I−4428株の効果
2.1 材料及び方法
ヘリコバクター・ピロリ
マウス胃粘膜への非常に良好な定着能を有するH.ピロリSS1株(Lee et al., 1997)を使用した。株の同一性はglm遺伝子及びhspA遺伝子及びvacA遺伝子をシークエンシングすることによって確認した。
【0055】
ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス
2種の異なるL.ブルガリクス株(CNCM I−4428又はCNCM I−1632)で発酵させた乳製品を以下のように準備した:MRSn中で第1の培養物を凍結株から調製して、37℃で17時間インキュベートした。第2の培養物を、第1の培養物から1%接種することによって酵母抽出物(2g/L)を強化した脱脂乳中で調製して、37℃で17時間インキュベートした。第3の培養物を、第2の培養物から1%接種することによって酵母抽出物(2g/L)を強化した乳中で調製して、pHが4.7に達するまで37℃でインキュベートした。最後に製品を、pHが4.7に達するまで、酵母抽出物(2g/L)を強化した乳に1%の第3の培養物を接種することによって調製した。製品を−80℃で保存した。細菌のカウントを48時間のインキュベーション後、MRSn中で行った。細菌数はCNCM I−4428株及びCNCM I−1632株でそれぞれ6×10
8cfu/mL及び1.3×10
9cfu/mLであった。
【0056】
マウス
SPF(Specific Pathogen Free:特定病原体除去)として試験された5週齢のBALB/cBy/J雌マウス(Charles River, France)55匹を以下の群に分けた:15匹の3群のマウスを感染させ、10匹の1群のマウスを非感染対照として使用した。マウスにビタミン含量の少ない食物を与え、H.ピロリにより誘導される病変発生を促進した。
【0057】
感染(8週間)
6週齢のマウスに1日間、含水食餌(hydric diet)を与えた後、翌朝250μLのH.ピロリSS1株の濃縮懸濁液(5匹のマウスに対して1〜2皿のペトリ皿)を強制給餌した。マウスを通常の食餌とともにケージに入れた。次いで、再び夕方にマウスに含水食餌を与えた。このプロトコルを3日間繰り返した。
【0058】
処理(6週間)
感染の8週後、マウスを、L.ブルガリクス株を含有する乳製品で6週間処理した。水の代わりに1日に付き1ケージ当たり120gの乳製品を哺乳瓶で与えた。哺乳瓶は毎日交換した。動物1匹当たりの摂取した製品量を評価するために、哺乳瓶を秤量した。さらに、マウスを処理の直前、処理の3週間後、及び屠殺の直前に秤量した(結果を
図1に示す)。
【0059】
マウス対照群に酵母抽出物(2g/L)を強化した(すなわち全くL.ブルガリクス株を含まない)乳を与えた。
【0060】
屠殺
マウスを頸椎脱臼によって屠殺した。開腹を行った。胃を摘出し、胃粘膜を生理血清で洗浄した。
【0061】
胃を食道から十二指腸まで中心で切断した。胃の右半分で、噴門を取り除いた後、この胃の半分を生理血清中に入れ、分子研究に使用した。胃の左半分を組織学的検査に使用した。
【0062】
組織学的検査
胃の左半分を一晩3.7%ホルモールで固定し、70%エタノールで洗浄した後、パラフィン包埋して、3μm厚の切片を作製した。
【0063】
免疫組織学的検査を、抗H.ピロリ抗原抗体(antibody anti-H. pylori antigens):一次抗体:抗H.ピロリ抗体(Dako、Ref.B0471);二次抗体及びDAB:Dako EnVision+System−HRP(DAB)(Dako、Ref.K4011)を用いて行った。
【0064】
分子研究(qRT−PCR)
右側の胃を、Potter−Elvehjemを用いて0.2mlの生理血清中でホモジナイズした(破壊した)(胃組織を含む管と、胃組織を含まない管とを秤量して、組織重量を調べた)。
【0065】
総DNAを、メーカーの推奨に従ってArrow Stool DNAキット(NorDiag, Norvege)を用いて破砕した胃から抽出した。それぞれの破砕した胃で、総DNAを180μLのTRISバッファー(10mM)中に再懸濁した。
【0066】
H.ピロリのDNAの存在を、リアルタイムPCRによってDNA抽出物中で定量化した。増幅は、Oleastro et al. (2003)に記載の方法に従ってH.ピロリ中に2つのコピーで存在する23S rRNAを標的とするプライマーを用いて行った。20μlの混合物(MgCl
2 25mM、Menard et al., 2002に記載のプライマーHPY−A及びHPY−S 20μM、LC−Red 640で5’標識されているとともに、3’リン酸化されているセンサープローブ及びフルオレセインで3’標識されているアンカープローブ(両プローブともOleastro et al. 2003に記載されている)20μM、酵素を含有するバッファー(10×、FastStart DNA Master Hybridization Probesキット、Roche Diagnostics))に対して、200ng/μlのDNA 5μlを添加して、以下のプログラムを用いてLight Cycler(ROCHE)で増幅した:
変性: 95℃ 10分
増幅:50サイクル 20℃/秒
95℃ 0秒
60℃ 20秒
72℃ 12秒
融合:95℃ 0秒
38℃ 50秒 20℃/秒
【0067】
2.2 結果
L.ブルガリクス株CNCM I−4428及びCNCM I−1632(Lb 130)に関して免疫組織学的検査によって得られた感染スコアを
図2に示す。これらの結果から、CNCM I−4428株で発酵させた乳製品のH.ピロリに感染させたマウスへの投与は感染スコアを有意に低減するが、CNCM I−1632株で発酵させた乳製品による処理はH.ピロリの負荷を低減しないことが示される。
【0068】
L.ブルガリクス株CNCM I−4428及びCNCM I−1632(Lb 130)に関するリアルタイムPCRによって得られた結果を
図3に示す。これらの結果から、マウスにおいてCNCM I−4428株で発酵させた乳製品による処理はH.ピロリの負荷を有意に低減するが、CNCM I−1632株で発酵させた乳による処理はH.ピロリの負荷を低減しないことが示される。
【表2】