特許第5997769号(P5997769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997769H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能な新規のL.ブルガリクス株
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997769
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能な新規のL.ブルガリクス株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20160915BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20160915BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160915BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20160915BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20160915BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160915BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160915BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C12N1/21
   C12N15/00 A
   A23C9/123
   A61K35/74 A
   A61P31/04
   A61P1/04
   C12N1/20 A
   C12R1:225
   C12N1/21
   C12R1:225
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-524456(P2014-524456)
(86)(22)【出願日】2011年8月9日
(65)【公表番号】特表2014-522667(P2014-522667A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】IB2011053552
(87)【国際公開番号】WO2013021239
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2014年7月11日
【微生物の受託番号】CNCM  CNCM I-4428
【微生物の受託番号】CNCM  I-1632
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506213289
【氏名又は名称】コンパニ・ジェルベ・ダノン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガロー ペギー
(72)【発明者】
【氏名】クエール ガエル
(72)【発明者】
【氏名】ブルデ−シカール ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】メグロー フランシス
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−135804(JP,A)
【文献】 LETTERS IN APPLIED MICROBIOLOGY,2009年 5月,Vol. 48, No. 5,pp. 579-584
【文献】 JOURNAL OF APPLIED MICROBIOLOGY,2009年 2月,Vol. 106, No. 2,pp. 692-701
【文献】 J Sci Food Agric.,2011年 3月,Vol. 91, No. 8,pp. 1424-1431
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
C12N 1/21
C12N 15/09
A23C 9/123
A61K 35/74−35/747
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス(L.ブルガリクス)株であって、CNCMに番号I−4428で寄託されていることを特徴とする、L.ブルガリクス株。
【請求項2】
ヘリコバクター・ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能なL.ブルガリクス株を得る方法であって、
(i)請求項1に記載のL.ブルガリクス株の突然変異誘発又は遺伝子形質転換の工程、及び
(ii)工程(i)の突然変異誘発又は遺伝子形質転換をした株のうち、ヘリコバクター・ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能な株を選択する工程
を含む、方法。
【請求項3】
H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能な細胞画分を得る方法であって、
a)請求項に記載のL.ブルガリクス株を培養する工程と、
b)工程a)の培養物から前記細胞画分を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載のL.ブルガリクス株の細胞画分であって、H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能であることとを特徴とする、細胞画分。
【請求項5】
請求項に記載のL.ブルガリクス株又は請求項に記載の細胞画分を含む組成物。
【請求項6】
乾燥重量1グラム当たり少なくとも10cfuの請求項に記載のL.ブルガリクス株を含むことを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
栄養組成物であることを特徴とする、請求項又はに記載の組成物。
【請求項8】
酪農製品であることを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
薬剤として使用される、請求項に記載の株又は請求項若しくはに記載の組成物。
【請求項10】
前記薬剤がH.ピロリ感染症を治療又は予防することを特徴とする、請求項に記載の株又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロバイオティクス分野に関するものである。特に本発明はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症の治療又は予防に有用な新規のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)株に関する。
【背景技術】
【0002】
米国ヨーグルト協会(National Yogurt Association:NYA)又は米国にある国際生命科学研究所(International Life Science Institute:ILSI)により近年承認された定義によると、プロバイオティクスは十分量摂取した際に基本栄養分を超える健康上の利点をもたらす生きた微生物である。プロバイオティクス細菌は、乳業において一般的に用いられるラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属及びラクトコッカス属に属する種内にあると説明されている。プロバイオティクスは病原微生物の発生を妨げることによって及び/又は免疫系により直接的に作用することによって腸内細菌叢のレベルで介入すると考えられている。
【0003】
ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ(H. pylori))は、世界の人口の50%を超える人の胃粘液層に定着している螺旋状のグラム陰性菌である。H.ピロリに感染した個体の大部分は無症候性であるが、その胃上皮には炎症の兆候が見られ、H.ピロリに感染した個体の15%〜20%が疾患を発症する。実際、H.ピロリは、慢性活動性胃炎、消化性潰瘍疾患、萎縮症、異形成、形成異常、胃がん及び胃粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫の主な原因物質である(非特許文献1及び非特許文献2のレビューを参照されたい)。
【0004】
感染の際、H.ピロリは、細菌によって産生される幾つかの付着分子(アドヘシン)、例えばBabAタンパク質及びSabAタンパク質を通じて胃上皮の(lining)胃上皮細胞に特異的に結合する。胃上皮細胞への付着によって、細菌が液体流、蠕動運動及び粘液層の脱落から保護される。H.ピロリの胃粘膜への付着は、胃上皮細胞内のシグナル伝達経路を誘導し、酸化ストレスを介した胃上皮細胞の損傷及び萎縮、アポトーシス及び/又は自食機構を引き起こす。したがって、H.ピロリの胃上皮細胞への付着は、胃粘膜の感染の確立において重要な工程である。
【0005】
H.ピロリに感染した患者における標準的な治療は、プロトンポンプ阻害剤(Proton Pump Inhibitor:PPI)を伴う2つの抗生物質、いわゆる三剤療法(triple therapy)である。しかしながら、三剤療法によるH.ピロリの除菌率は抗生物質耐性又は低コンプライアンスのために低い。さらに、幾つかが臨床試験中ではあるものの、未だに市販されている有効なワクチンはない。
【0006】
上述から、H.ピロリ感染症の治療又は予防のための三剤療法の代替療法又は補完療法が必要とされていると考えられる。
【0007】
代替療法としては、乳酸、バクテリオシン及び他の抗菌物質を産生するプロバイオティクス乳酸菌(Lactic Acid Bacteria:LAB)が提唱されている。非特許文献3において、抗生物質耐性株を含むH.ピロリ株の成長をin vitroにおいて(寒天拡散法(agar-well diffusion method)を用いて)株依存的に阻害する幾つかのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス(L.ブルガリクス(L. bulgaricus))が見出されている。しかしながら、研究されたL.ブルガリクス株ははっきりとは特定されておらず、公的に入手することはできない。非特許文献4では、バクテリオシンを産生する乳酸菌が幾つかスクリーニングされている。次いで、Simova et al.は、これらの株の無細胞上清(Cell-Free Supernatant:CFS)の抗菌活性を2つのin vitro法:寒天拡散法並びにBarefoot及びKlaenhammerの臨界希釈アッセイによって分析することで、上記株の抗菌活性を決定している。Simova et al.は、L.ブルガリクスBB18株のCFSが、その抗菌活性からH.ピロリ株を含む広範な病原微生物(細菌又は酵母)の成長を阻害することを見出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fox and Wang, 2007
【非特許文献2】Polk and Peek, 2010
【非特許文献3】Boyanova et al. (2009)
【非特許文献4】Simova et al. (2009)
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、新規のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス株を単離し、この株がH.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することをin vitro及びin vivoにおいて見出している。そのためこのL.ブルガリクス株(DN_100_0602又はCNCM I−4428と称される)は、H.ピロリ感染の確立における主要工程を標的とすることで、すなわちH.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することによって、H.ピロリ感染症の治療又は予防に使用することができる。
【0010】
したがって本発明の主題は、ブダペスト条約に準拠して、国立微生物寄託機関(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes:CNCM、25 rue du Docteur Roux, Paris)において2011年2月3日付けでアクセッション番号CNCM I−4428で寄託されたラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス株である。
【0011】
このCNCM I−4428株は以下の特徴を有する:
形態:グラム陽性微生物であり、有胞子性(with granulations)、非運動性、棒状の長桿菌、
代謝:ホモ発酵性、カタラーゼ(−)、
糖類の発酵(37℃で48時間のMRS培地中でのAPI 50 CH試験によって得られた結果):グルコース、フルクトース、マンノース及びラクトース。
【0012】
さらにこの株はin vitro及びin vivoにおいてH.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能である。
【0013】
本明細書で使用される場合、「H.ピロリ株の上皮細胞への付着の阻害」という用語は、H.ピロリ株の上皮細胞への付着の顕著な阻害(すなわち全体的な又は部分的な阻害)を指す。H.ピロリ株の上皮細胞への付着の阻害は、下記の実施例1に示されるようにin vitroで測定することができる。
【0014】
本発明は、H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能であることを条件とする、親株CNCM I−4428から誘導される突然変異株又は遺伝子形質転換株も包含する。これらの突然変異株又は遺伝子形質転換株は、例えば親株の1つ又は複数の内因性遺伝子が突然変異して、その代謝性(例えばその糖発酵能、その酸耐性、その胃腸管での移動に対する生存性、その後酸性化性(post-acidification properties)又はその代謝産物産生)が一部変化した株とすることができる。これらの株は、対象となる1つ又は複数の遺伝子による親株CNCM I−4428の遺伝子形質転換によって生じる、例えば上記遺伝子形質転換株に更なる生理学的性質を与えるような又は上記株を通じて投与されることが望まれる治療対象若しくはワクチン対象のタンパク質を発現するような株とすることもできる。これらの株は、Gury et al. (2004)若しくはPerea Velez et al., 2007に記載された技法のようなラクトバチルスのランダム若しくは部位特異的な突然変異誘発及び遺伝子形質転換における従来技法を用いて又は「ゲノムシャッフリング」として知られる技法(Patnaik et al., 2002及びWang et al., 2007)を用いてCNCM I−4428株から得ることができる。
【0015】
さらに本発明の主題は、H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能なラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス株を得る方法であって、CNCM I−4428株の突然変異誘発又は遺伝子形質転換の工程を含む、方法である。
【0016】
さらに本発明の主題は、H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能であることを条件とする、上に規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株から得ることができる細胞画分である。特に細胞画分は、上記株の培養物から得られるDNA調製物又は細菌壁調製物である。細胞画分は培養上清又はこれらの上清の画分でもあり得る。例としては、CNCM I−4428株の無細胞上清(CFS)を、非特許文献4に開示される別のL.ブルガリクス株からCFSを得る方法を用いて得ることができる。
【0017】
さらに本発明の主題は、H.ピロリ株の上皮細胞への付着を阻害することが可能な細胞画分を得る方法であって、
a)上に規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株を培養する工程と、
b)工程a)の培養物から細胞画分を得る工程と、
を含む、方法である。
【0018】
さらに本発明の主題は、本発明によるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428又は本発明による上記株から得られる細胞画分を含む組成物である。
【0019】
本発明の組成物では、上記株を全細菌の形態で使用することができる。該全細菌は生死を問わない。代替的には、上記株を細菌溶解物の形態で又は細菌画分の形態で使用することができ、この使用に適した細菌画分は、例えばH.ピロリ株の上皮細胞への付着に対する特性を試験することによって選ぶことができる。細菌細胞は生存細胞(living, viable cells)として存在することが好ましい。
【0020】
本発明の組成物は投与、特に経口投与に適した任意の形態とすることができる。これには例えば固体、半固体、液体及び粉末が含まれる。液体組成物は一般的に、例えば飲料として投与がより容易であることから好ましい。
【0021】
組成物は、乾燥重量1g当たり少なくとも10コロニー形成単位(Colony Forming Units:cfu)、好ましくは少なくとも10cfuの上述される少なくとも1つの細菌株を含むことができる。
【0022】
組成物は、本発明による株以外の細菌株、特にラクトバチルス株、ビフィドバクテリウム株、ストレプトコッカス株又はラクトコッカス株(複数の場合もある)等のプロバイオティクス株(複数の場合もある)を更に含むことができる。
【0023】
細菌が生存細菌の形態である場合、組成物は典型的に組成物の乾燥重量1g当たり10cfu〜1013cfu、好ましくは少なくとも10cfu、より好ましくは少なくとも10cfu、更により好ましくは少なくとも10cfu、最も好ましくは少なくとも10cfuを含み得る。液体組成物の場合、これは概して、10cfu/ml〜1012cfu/ml、好ましくは少なくとも10cfu/ml、より好ましくは少なくとも10cfu/ml、更により好ましくは少なくとも10cfu/ml、最も好ましくは少なくとも10cfu/mlに相当する。
【0024】
組成物は、食品、補助食品及び機能性食品を含む栄養組成物とすることができる。「補助食品」は、通常食料品に使用される化合物から作製されるが、錠剤、粉末剤、カプセル剤、頓服水剤の形態又は通常栄養物(aliments)とは関連のない任意の他の形態であり、健康に有益な効果を有する製品を指す。「機能性食品」も健康に有益な効果を有する栄養物である。特に、補助食品及び機能性食品は、疾患、例えば慢性疾患に対する生理的効果、すなわち保護効果又は治癒効果を有することができる。
【0025】
本発明による栄養組成物には、離乳食、乳児用調合乳又は乳児用フォローオン調合乳(infant follow-on formula)も含まれる。本組成物は栄養補給食品若しくは医薬品、栄養補助食品又はメディカルフードであるのが好ましい。
【0026】
組成物は酪農製品、好ましくは発酵酪農製品とすることができる。発酵製品は液体の形態で存在していても又は発酵液を乾燥することによって得られる乾燥粉末の形態で存在していてもよい。酪農製品の例としては、凝固、撹拌又は飲用形態の発酵乳及び/又は発酵ホエー、チーズ、並びにヨーグルトが挙げられる。
【0027】
発酵製品は、発酵野菜、例えば凝固、撹拌又は飲用形態の発酵大豆、発酵シリアル及び/又は発酵果物とすることもできる。
【0028】
好ましい実施の形態では、発酵製品は生鮮製品である。厳しい熱処理工程に供されていない生鮮製品には、細菌株が生存形態で存在するという利点がある。
【0029】
さらに本発明の主題は、薬剤として使用される、上で規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株又は上で規定される組成物である。
【0030】
さらに本発明の主題は、ヘリコバクター・ピロリ感染症を治療又は予防する薬剤として使用される、上で規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株又は上で規定される組成物である。
【0031】
さらに本発明の主題は、薬剤、好ましくはH.ピロリ感染症を治療又は予防する薬剤としての上で規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株又は上で規定される組成物の使用である。
【0032】
さらに本発明の主題は、薬剤、好ましくはH.ピロリ感染症を治療又は予防する薬剤の製造への上で規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株又は上で規定される組成物の使用である。
【0033】
さらに本発明の主題は、H.ピロリ感染症の治療又は予防を必要とする被験体においてH.ピロリ感染症を治療又は予防する方法であって、上記被験体に治療的に有効な量の上で規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株又は上で規定される組成物を投与することを含む、方法である。
【0034】
治療的に有効な量の決定は、特に本明細書で与えられる詳細な開示を鑑みて当業者にとって既知である。
【0035】
さらに本発明の主題は、薬剤、好ましくはH.ピロリ感染症を治療又は予防する薬剤を製造する方法であって、上で規定されるL.ブルガリクス株、好ましくはCNCM I−4428株又は上で規定される組成物を、少なくとも1つの薬学的に許容可能な希釈剤、担体又は賦形剤に組み込むことを含む、方法である。
【0036】
本明細書で使用される場合、治療又は予防は、とりわけ感染症の予防、H.ピロリの負荷の安定化及び/又はH.ピロリの負荷の低減を包含する。治療又は予防は、下記に言及されるH.ピロリに関連する症状の少なくとも1つへの対処も包含する。
【0037】
H.ピロリ感染症を診断する方法は当該技術分野において既知である。例としては、H.ピロリ感染症の診断は、血液抗体試験、便中抗原試験又は炭素尿素呼気試験によって為され得る。診断は内視鏡検査での生検後のウレアーゼ試験、組織学的検査又は微生物培養によっても為され得る。
【0038】
H.ピロリ感染症に関連する症状又は疾患は、胃痛、胸焼け、酸の逆流、腹痛、吐出し、嘔吐、おくび、鼓腸、吐き気、慢性活動性胃炎等の胃炎、消化性潰瘍疾患、萎縮症、異形成、形成異常、胃がん及び胃粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫である。
【0039】
本発明は、CNCM I−4428株の抗感染性を説明する実施例に関する下記の更なる説明及び添付の図面からより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】処理の直前(第1の棒グラフ)、処理の3週間後(第2の棒グラフ)及び屠殺の直前(第3の棒グラフ)に測定された、H.ピロリSS1に感染させて対照製品を与えたマウス、又はH.ピロリSS1に感染させてL.ブルガリクスCNCM I−4428で処理したマウス、又はH.ピロリSS1に感染させてL.ブルガリクスCNCM I−1632(Lb 130)で処理したマウスの体重の漸進的変化(単位グラム)を示す図である。
図2】(i)H.ピロリに非感染のマウス、(ii)H.ピロリSS1に感染させて対照製品(非発酵乳)を与えたマウス、(iii)H.ピロリSS1に感染させてL.ブルガリクスCNCM I−1632(Lb 130)で処理したマウス、及び(iv)H.ピロリSS1に感染させてL.ブルガリクスCNCM I−4428で処理したマウスにおける抗H.ピロリ抗体を用いた免疫組織学的検査によって得られた感染スコアを示す図である。スコアの規定:0:腺の感染なし、1:稀な腺の感染、2:25%の腺の感染、3:25%〜50%の腺の感染、4:50%を超える腺の感染。
図3】(i)H.ピロリに非感染のマウス、(ii)H.ピロリSS1に感染させたが対照製品(非発酵乳)を与えたマウス、(iii)H.ピロリSS1に感染させてL.ブルガリクスCNCM I−4428で処理したマウス、及び(iv)H.ピロリSS1に感染させてL.ブルガリクスCNCM I−1632(Lb 130)で処理したマウスにおけるリアルタイムPCRによって得られたH.ピロリSS1 DNAの定量結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0041】
実施例1:ヘリコバクター・ピロリの胃上皮細胞への付着に対する効果に合わせたL.ブルガリクス株の選択
Oleastro et al. (2008)で記載された方法を、H.ピロリの上皮細胞への付着特性に対する2種のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス株(CNCM I−4428及び1995年10月25日付けでCNCMにおいて寄託されたCNCM I−1632)の効果を評価するような修正を加えて使用した。
【0042】
1.1 材料及び方法
2種のH.ピロリ株:J99株(BabA2、ATCC番号:700824)及び09.193株(BabA1、日本の大分大学の山岡吉生教授によって単離された)を試験した。これらの株を50というMOI(Multiplicity Of Infection:感染多重度)で試験した。ピロリ寒天(Biomerieux, France)中での24時間の培養後、H.ピロリ細胞をPBSバッファーに移した。2種のH.ピロリ株の細菌懸濁液の濃度をそれぞれ、2×10cfu/mL(OD600nm=1に相当する)で正規化した。
【0043】
2種のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス懸濁液を、50というMOI(ウェル毎に正規化されたL.ブルガリクス懸濁液25μLに相当する)で試験した。
【0044】
100000個の上皮AGS細胞(ATCC番号:CRL−1739)を、感染実験の前日に10%のウシ胎児血清を添加した500μLのDMEM培地F12中に接種した。
【0045】
H.ピロリ懸濁液の着色
1mLのH.ピロリ懸濁液を10000gで10分間遠心分離した。ペレットを1mLのDiluent A(PKH2 Green Fluorescent Cell Linker Kit、Sigma Aldrich, Saint-Louis)中に再懸濁して、2.5μLのPKH(Sigma Aldrich, Saint-Louis)を添加した。懸濁液を室温で2分30秒インキュベートした。着色を2mLのウシ胎児血清の添加によって停止した。次いで4mLのDMEM/F12培地を添加した後、懸濁液を10000gで10分間遠心分離した。ペレットを4mLの培養培地中に再懸濁して、10000gで10分間遠心分離した。この洗浄工程を2回繰り返して、余分な蛍光色素を取り除いた。
【0046】
付着の測定
上皮AGS細胞を、PBSにより3回洗浄して付着していない細菌を捨てた後、標準条件に従ってトリプシンによって剥離させた。蛍光発光をフローサイトメトリーによって分析した。蛍光を、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて測定した。各条件は三重反復で行った。
【0047】
H.ピロリによる感染は2つの条件で行った
感染前(前)条件:H.ピロリに感染させる1時間30分前に、試験対象のL.ブルガリクス懸濁液を上皮AGS細胞に添加した。細胞を感染の1時間30分後、フローサイトメトリーによって分析した(総インキュベーション時間3時間);
同時感染(同時)条件:試験対象のL.ブルガリクス懸濁液とH.ピロリ株とを上皮AGS細胞に同時に添加して、細胞を1時間30分のインキュベーション時間後にフローサイトメトリーによって分析した。
【0048】
対照
蛍光強度の対照値を、H.ピロリ株とともに1時間30分インキュベートした上皮AGS細胞で得る。
【0049】
付着パーセントの値は、100%に設定したL.ブルガリクスに曝露しないH.ピロリの上皮AGS細胞への付着に対して与えられる。
【0050】
結果を三重反復から得られた平均値により分析し、スチューデント検定に従って結果が有意に異なっていた場合にスコアを付けた(P<0.05)。
【0051】
1.2 結果
結果を下記の表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
結果から、CNCM I−4428株の細菌懸濁液は、2種のH.ピロリ株(J99及び09.193)の上皮AGS細胞への付着を2つの異なる条件(前インキュベーション及び同時インキュベーション)下で阻害するが、CNCM I−1632株の細菌懸濁液はこの特性を有しないことが示される。
【0054】
実施例2:マウスモデルにおけるH.ピロリの負荷に対するCNCM I−4428株の効果
2.1 材料及び方法
ヘリコバクター・ピロリ
マウス胃粘膜への非常に良好な定着能を有するH.ピロリSS1株(Lee et al., 1997)を使用した。株の同一性はglm遺伝子及びhspA遺伝子及びvacA遺伝子をシークエンシングすることによって確認した。
【0055】
ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリクス
2種の異なるL.ブルガリクス株(CNCM I−4428又はCNCM I−1632)で発酵させた乳製品を以下のように準備した:MRSn中で第1の培養物を凍結株から調製して、37℃で17時間インキュベートした。第2の培養物を、第1の培養物から1%接種することによって酵母抽出物(2g/L)を強化した脱脂乳中で調製して、37℃で17時間インキュベートした。第3の培養物を、第2の培養物から1%接種することによって酵母抽出物(2g/L)を強化した乳中で調製して、pHが4.7に達するまで37℃でインキュベートした。最後に製品を、pHが4.7に達するまで、酵母抽出物(2g/L)を強化した乳に1%の第3の培養物を接種することによって調製した。製品を−80℃で保存した。細菌のカウントを48時間のインキュベーション後、MRSn中で行った。細菌数はCNCM I−4428株及びCNCM I−1632株でそれぞれ6×10cfu/mL及び1.3×10cfu/mLであった。
【0056】
マウス
SPF(Specific Pathogen Free:特定病原体除去)として試験された5週齢のBALB/cBy/J雌マウス(Charles River, France)55匹を以下の群に分けた:15匹の3群のマウスを感染させ、10匹の1群のマウスを非感染対照として使用した。マウスにビタミン含量の少ない食物を与え、H.ピロリにより誘導される病変発生を促進した。
【0057】
感染(8週間)
6週齢のマウスに1日間、含水食餌(hydric diet)を与えた後、翌朝250μLのH.ピロリSS1株の濃縮懸濁液(5匹のマウスに対して1〜2皿のペトリ皿)を強制給餌した。マウスを通常の食餌とともにケージに入れた。次いで、再び夕方にマウスに含水食餌を与えた。このプロトコルを3日間繰り返した。
【0058】
処理(6週間)
感染の8週後、マウスを、L.ブルガリクス株を含有する乳製品で6週間処理した。水の代わりに1日に付き1ケージ当たり120gの乳製品を哺乳瓶で与えた。哺乳瓶は毎日交換した。動物1匹当たりの摂取した製品量を評価するために、哺乳瓶を秤量した。さらに、マウスを処理の直前、処理の3週間後、及び屠殺の直前に秤量した(結果を図1に示す)。
【0059】
マウス対照群に酵母抽出物(2g/L)を強化した(すなわち全くL.ブルガリクス株を含まない)乳を与えた。
【0060】
屠殺
マウスを頸椎脱臼によって屠殺した。開腹を行った。胃を摘出し、胃粘膜を生理血清で洗浄した。
【0061】
胃を食道から十二指腸まで中心で切断した。胃の右半分で、噴門を取り除いた後、この胃の半分を生理血清中に入れ、分子研究に使用した。胃の左半分を組織学的検査に使用した。
【0062】
組織学的検査
胃の左半分を一晩3.7%ホルモールで固定し、70%エタノールで洗浄した後、パラフィン包埋して、3μm厚の切片を作製した。
【0063】
免疫組織学的検査を、抗H.ピロリ抗原抗体(antibody anti-H. pylori antigens):一次抗体:抗H.ピロリ抗体(Dako、Ref.B0471);二次抗体及びDAB:Dako EnVision+System−HRP(DAB)(Dako、Ref.K4011)を用いて行った。
【0064】
分子研究(qRT−PCR)
右側の胃を、Potter−Elvehjemを用いて0.2mlの生理血清中でホモジナイズした(破壊した)(胃組織を含む管と、胃組織を含まない管とを秤量して、組織重量を調べた)。
【0065】
総DNAを、メーカーの推奨に従ってArrow Stool DNAキット(NorDiag, Norvege)を用いて破砕した胃から抽出した。それぞれの破砕した胃で、総DNAを180μLのTRISバッファー(10mM)中に再懸濁した。
【0066】
H.ピロリのDNAの存在を、リアルタイムPCRによってDNA抽出物中で定量化した。増幅は、Oleastro et al. (2003)に記載の方法に従ってH.ピロリ中に2つのコピーで存在する23S rRNAを標的とするプライマーを用いて行った。20μlの混合物(MgCl 25mM、Menard et al., 2002に記載のプライマーHPY−A及びHPY−S 20μM、LC−Red 640で5’標識されているとともに、3’リン酸化されているセンサープローブ及びフルオレセインで3’標識されているアンカープローブ(両プローブともOleastro et al. 2003に記載されている)20μM、酵素を含有するバッファー(10×、FastStart DNA Master Hybridization Probesキット、Roche Diagnostics))に対して、200ng/μlのDNA 5μlを添加して、以下のプログラムを用いてLight Cycler(ROCHE)で増幅した:
変性: 95℃ 10分
増幅:50サイクル 20℃/秒
95℃ 0秒
60℃ 20秒
72℃ 12秒
融合:95℃ 0秒
38℃ 50秒 20℃/秒
【0067】
2.2 結果
L.ブルガリクス株CNCM I−4428及びCNCM I−1632(Lb 130)に関して免疫組織学的検査によって得られた感染スコアを図2に示す。これらの結果から、CNCM I−4428株で発酵させた乳製品のH.ピロリに感染させたマウスへの投与は感染スコアを有意に低減するが、CNCM I−1632株で発酵させた乳製品による処理はH.ピロリの負荷を低減しないことが示される。
【0068】
L.ブルガリクス株CNCM I−4428及びCNCM I−1632(Lb 130)に関するリアルタイムPCRによって得られた結果を図3に示す。これらの結果から、マウスにおいてCNCM I−4428株で発酵させた乳製品による処理はH.ピロリの負荷を有意に低減するが、CNCM I−1632株で発酵させた乳による処理はH.ピロリの負荷を低減しないことが示される。
【表2】
図1
図2
図3