特許第5997804号(P5997804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5997804
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20160915BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20160915BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20160915BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160915BHJP
   B08B 7/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   B23K26/36
   B23K26/08 Z
   B23K26/03
   B23K26/00 G
   B08B7/00
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-112719(P2015-112719)
(22)【出願日】2015年6月3日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 初美
(72)【発明者】
【氏名】久住 智勇
(72)【発明者】
【氏名】平田 賢輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸三
(72)【発明者】
【氏名】大脇 桂
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−245235(JP,A)
【文献】 特開平11−285868(JP,A)
【文献】 特開2012−240099(JP,A)
【文献】 特開2008−254006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
B08B 7/00
B23K 26/00
B23K 26/03
B23K 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突起物を有する構造物の表面に配置され、前記突起物の表面にレーザ光を照射して前記突起物の表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置において、
前記突起物を囲うように前記構造物の表面に配置されるハウジングと、
前記レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記ハウジングの上部に配置され前記レーザ光を前記ハウジング内に照射するように偏向させるスキャナユニットと、
前記ハウジング内に配置され前記スキャナユニットにより偏向されたレーザ光を前記突起物に向かって反射させる反射ミラーと、
前記反射ミラーを前記突起物の外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置と、を備え
前記ハウジングは、前記構造物の表面に対する垂直軸方向に伸縮可能に構成されている、
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
突起物を有する構造物の表面に配置され、前記突起物の表面にレーザ光を照射して前記突起物の表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置において、
前記突起物を囲うように前記構造物の表面に配置されるハウジングと、
前記レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記ハウジングの上部に配置され前記レーザ光を前記ハウジング内に照射するように偏向させるスキャナユニットと、
前記ハウジング内に配置され前記スキャナユニットにより偏向されたレーザ光を前記突起物に向かって反射させる反射ミラーと、
前記反射ミラーを前記突起物の外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置と、を備え、
複数の突起物が一列に配置されている場合に、前記複数の突起物の配列方向に沿って配置される支持台と、該支持台上を走行可能に配置された台車と、を備え、前記台車に前記ハウジングが固定されている、
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項3】
突起物を有する構造物の表面に配置され、前記突起物の表面にレーザ光を照射して前記突起物の表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置において、
前記突起物を囲うように前記構造物の表面に配置されるハウジングと、
前記レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記ハウジングの上部に配置され前記レーザ光を前記ハウジング内に照射するように偏向させるスキャナユニットと、
前記ハウジング内に配置され前記スキャナユニットにより偏向されたレーザ光を前記突起物に向かって反射させる反射ミラーと、
前記反射ミラーを前記突起物の外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置と、を備え、
前記ハウジングは、その外周面に隣接した突起物に係止可能な係止部を有する、
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項4】
前記スキャナユニットは、前記レーザ光を一方向に偏向させる第一スキャナユニットと、前記レーザ光を他方向に偏向させる第二スキャナユニットと、を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記レーザ光の焦点を調整する焦点調整ユニットを含み、前記突起物の前記構造物の表面に近い部分を処理する場合に前記焦点調整ユニットにより前記レーザ光の焦点を絞り、前記突起物の前記構造物の表面から離れた部分を処理する場合に前記焦点調整ユニットにより前記レーザ光の焦点をぼかすようにした、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記突起物を撮像可能なカメラを備えた、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記突起物の中心を計測可能な計測装置を備えた、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記構造物は、橋梁を含む鋼構造物である、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置に関し、特に、ボルトヘッド等の突起物の表面における塗膜や付着物等の除去に適した表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、橋梁等の鋼構造物の接合部には、締結具としてボルトを使用することが多い。かかるボルトは、一般に、風雨に晒されることから、表面に防錆等の塗装が施されることが多い。また、長期間の使用により、塗膜が劣化したり、表面に酸化物や汚れが付着したりすることから、定期的に洗浄や塗装の塗り替え等のメンテナンスが必要となる。なお、塗装を塗り替える際には、古い塗膜を剥離(ケレンを含む)してから新しい塗装を施すのが一般的である。
【0003】
ところで、ボルトヘッドは、鋼構造物の表面から突出した略六角柱形状を有する突起物であり、その表面の塗膜を剥離する作業はそれ自体が面倒である。加えて、ボルトヘッドと鋼構造物の表面とにより形成される角隅部に入り込んだ塗膜の剥離は特に困難である。
【0004】
かかる塗膜の剥離等には、一般に、電動工具を用いた手作業のほか、鉄粒や砂粒等の投射体を構造物の表面に吹き付けるショットブラスト等が用いられる。また、特許文献1に記載されたように、レーザ光を用いた方法も既に提案されている。特許文献1に記載された発明では、ボルトヘッドが突出した構造物表面に先端内周面にミラーを備えたアタッチメントを配置し、レーザ光をミラーに反射させてボルトヘッドの側面に照射するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5574354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電動工具を用いた手作業では作業時間が長くなりやすく、ショットブラストを用いた方法では大量の廃棄物や騒音を生じるという問題があった。また、特許文献1に記載された方法では、回転基準軸を中心にレーザ光を回転させながら照射していることから、剥離の容易なボルトヘッドの表面と剥離の困難なボルトヘッドの側面との両方に交互にレーザ光が照射されることとなり、作業効率が悪いという問題があった。また、特に剥離の難しいボルトヘッドの角隅部にレーザ光を集中的に照射することができず、結局、作業時間が長くなってしまうという問題があった。
【0007】
なお、かかる問題は、ボルトヘッドに限定される課題ではなく、リベットヘッド、ナット、構造物の形状等、構造物の表面に突出したその他の突起物においても同様に生じ得る課題である。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、突起物を有する複雑な表面であっても、廃棄物や騒音の発生を抑制しつつ作業効率の向上を図ることができる、表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、突起物を有する構造物の表面に配置され、前記突起物の表面にレーザ光を照射して前記突起物の表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置において、前記突起物を囲うように前記構造物の表面に配置されるハウジングと、前記レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記ハウジングの上部に配置され前記レーザ光を前記ハウジング内に照射するように偏向させるスキャナユニットと、前記ハウジング内に配置され前記スキャナユニットにより偏向されたレーザ光を前記突起物に向かって反射させる反射ミラーと、前記反射ミラーを前記突起物の外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置と、を備え、前記ハウジングは、前記構造物の表面に対する垂直軸方向に伸縮可能に構成されている、ことを特徴とする表面処理装置が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、突起物を有する構造物の表面に配置され、前記突起物の表面にレーザ光を照射して前記突起物の表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置において、前記突起物を囲うように前記構造物の表面に配置されるハウジングと、前記レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記ハウジングの上部に配置され前記レーザ光を前記ハウジング内に照射するように偏向させるスキャナユニットと、前記ハウジング内に配置され前記スキャナユニットにより偏向されたレーザ光を前記突起物に向かって反射させる反射ミラーと、前記反射ミラーを前記突起物の外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置と、を備え、複数の突起物が一列に配置されている場合に、前記複数の突起物の配列方向に沿って配置される支持台と、該支持台上を走行可能に配置された台車と、を備え、前記台車に前記ハウジングが固定されている、ことを特徴とする表面処理装置が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、突起物を有する構造物の表面に配置され、前記突起物の表面にレーザ光を照射して前記突起物の表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置において、前記突起物を囲うように前記構造物の表面に配置されるハウジングと、前記レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記ハウジングの上部に配置され前記レーザ光を前記ハウジング内に照射するように偏向させるスキャナユニットと、前記ハウジング内に配置され前記スキャナユニットにより偏向されたレーザ光を前記突起物に向かって反射させる反射ミラーと、前記反射ミラーを前記突起物の外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置と、を備え、前記ハウジングは、その外周面に隣接した突起物に係止可能な係止部を有する、ことを特徴とする表面処理装置が提供される。
【0012】
前記スキャナユニットは、前記レーザ光を一方向に偏向させる第一スキャナユニットと、前記レーザ光を他方向に偏向させる第二スキャナユニットと、を含んでいてもよい。
【0013】
前記表面処理装置は、前記レーザ光の焦点を調整する焦点調整ユニットを含み、前記突起物の前記構造物の表面に近い部分を処理する場合に前記焦点調整ユニットにより前記レーザ光の焦点を絞り、前記突起物の前記構造物の表面から離れた部分を処理する場合に前記焦点調整ユニットにより前記レーザ光の焦点をぼかすようにしてもよい。
【0014】
また、前記表面処理装置は、前記突起物を撮像可能なカメラを備えていてもよいし、前記突起物の中心を計測可能な計測装置を備えていてもよい。
【0015】
た、前記構造物は、例えば、橋梁を含む鋼構造物である。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明の表面処理装置によれば、反射ミラーを突起物の外周に沿って回転移動させながらレーザ光を突起物の側面に照射するようにしたことから、塗膜等の被膜や酸化物等の付着物を除去したい部分にレーザ光を集中させることができる。また、レーザ光を使用して表面処理を行うようにしたことから、鉄粒や砂粒等の投射体を物体の表面に衝突させる必要がない。したがって、本発明によれば、突起物を有する複雑な表面であっても、廃棄物や騒音の発生を抑制しつつ作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一実施形態に係る表面処理装置を示す概略全体構成図である。
図2図1に示した表面処理装置の表面処理手順を示す説明図であり、(a)は始点及び走査方向を示す突起物の側面図、(b)は突起物の側面に照射されるレーザ光を示す側面図、(c)は反射ミラーの移動軌跡を示す平面図、を示している。
図3】本発明の他の実施形態に係る表面処理装置を示す側面断面図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、を示している。
図4】本発明の第四実施形態に係る表面処理装置を示す側面断面図であり、(a)はハウジングの収縮状態、(b)はハウジングの伸張状態、を示している。
図5】本発明の第五実施形態に係る表面処理装置を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は図5(a)におけるB−B矢視断面図、を示している。
図6】本発明の第六実施形態に係る表面処理装置を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図1図6(b)を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る表面処理装置を示す概略全体構成図である。図2は、図1に示した表面処理装置の表面処理手順を示す説明図であり、(a)は始点及び走査方向を示す突起物の側面図、(b)は突起物の側面に照射されるレーザ光を示す側面図、(c)は反射ミラーの移動軌跡を示す平面図、を示している。
【0019】
本発明の第一実施形態に係る表面処理装置1は、図1に示したように、突起物Pを有する構造物Sの表面に配置され、突起物Pの表面にレーザ光Lを照射して突起物Pの表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置であって、突起物Pを囲うように構造物Sの表面に配置されるハウジング2と、レーザ光Lを発振するレーザ発振器3と、ハウジング2の上部(例えば、天井部21)に配置されレーザ光Lをハウジング2内に照射するように偏向させるスキャナユニット4と、ハウジング2内に配置されスキャナユニット4により偏向されたレーザ光Lを突起物Pに向かって反射させる反射ミラー5と、反射ミラー5を突起物Pの外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置6と、を備えている。
【0020】
構造物Sは、例えば、橋梁等の鋼構造物である。また、突起物Pは、例えば、構造物Sの接合部等に使用されるボルトのボルトヘッドである。ここで、突起物Pは、ボルトヘッドに限定されるものではなく、リベットヘッド、ナット、構造物Sの形状等、構造物Sの表面に突出した種々の突起物を含む趣旨である。また、構造物Sは、鋼構造物に限定されるものではなく、コンクリート構造物等の他の構造物であってもよい。
【0021】
ハウジング2は、例えば、図1に示したように、構造物Sの表面に突出した一つの突起物Pを囲う容器である。具体的には、略円筒形状を有し、一端(図の下側)が開放されており、他端(図の上側)には略中心部に開口部21aを備えた天井部21が形成されている。また、ハウジング2の外周面には、表面処理装置1を運搬したり固定したりするための把持部22が配置されていてもよい。ハウジング2の形状は、図示した形状に限定されるものではなく、角筒形状や円錐台形状等であってもよい。
【0022】
また、ハウジング2には、バキューム管23が配置されていてもよい。バキューム管23には、例えば、フレキシブルホース等が接続され、フレキシブルホース等は図示しないバキュームタンクに接続される。表面処理装置1の使用時に、ハウジング2内の空気をバキュームタンクに引くことにより、突起物Pの表面から剥離した被膜等を拡散することなく、バキュームタンクに回収することができる。また、本実施形態では、鉄粒や砂粒等の投射体を使用していないことから、ハウジング2からバキュームタンクに回収する廃棄物の分量を低減することができ、バキュームタンクの小型化を図ることもできる。なお、バキュームタンクは、例えば、作業場から離隔した場所に配置される。
【0023】
レーザ発振器3は、例えば、COレーザ、ファイバーレーザ、YAGレーザ等である。レーザ発振器3は、市販されているものから、構造物S及び突起物Pの種類や表面処理の対象に応じて任意に選択して使用することができる。レーザ発振器3により生成されたレーザ光Lは、例えば、光ファイバー31を介して、ハウジング2の天井部21に配置されたビームエキスパンダ32に伝送される。ビームエキスパンダ32は、レーザ光Lのビーム径を調整する装置である。なお、本実施形態では、ハウジング2から離隔した位置にレーザ発振器3を配置する場合について図示しているが、かかる配置に限定されるものではない。例えば、小型のレーザ発振器3を使用する場合には、レーザ発振器3をハウジング2に据え付けるようにしてもよい。
【0024】
また、ビームエキスパンダ32の下流側には、レーザ光Lの焦点を調整する焦点調整ユニット33を配置するようにしてもよい。焦点調整ユニット33は、例えば、ハウジング2の天井部21に配置される。焦点調整ユニット33は、例えば、ビームエキスパンダ32からレーザ光Lを受け入れる入射レンズ33aと、外部にレーザ光Lを射出する射出レンズ33bと、を備え、入射レンズ33aと射出レンズ33bとの距離を調整することにより、レーザ光Lの焦点(例えば、焦点距離、焦点深度等)を調整するように構成されている。
【0025】
スキャナユニット4は、例えば、レーザ光Lを一方向(例えば、X軸方向)に偏向させる第一スキャナユニット41と、レーザ光Lを他方向(例えば、Y軸方向)に偏向させる第二スキャナユニット42と、第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42を支持するカバー部材43と、を有している。カバー部材43は、ハウジング2の天井部21に形成された開口部21aを封止するように配置される。なお、図1において、第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42の支持構造については、説明の便宜上、図を省略してある。
【0026】
第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42は、いわゆる2軸のスキャナユニット4を構成しており、レーザ光LをX軸方向及びY軸方向に走査可能に構成されている。例えば、第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42は、それぞれ、レーザ光Lを反射するガルバノミラーと、ガルバノミラーを回転又は往復回動させる駆動モータと、を有している。
【0027】
かかるスキャナユニット4によれば、焦点調整ユニット33から射出されたレーザ光Lを第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42を介して、ハウジング2内に向かってレーザ光Lを容易に照射することができる。レーザ光Lは、突起物Pの上面に直接照射するようにスキャナユニット4により偏向してもよいし、反射ミラー5に向かって照射するようにスキャナユニット4により偏向してもよい。
【0028】
反射ミラー5は、突起物Pの側面に対してスキャナユニット4に向かって所定の傾斜角度で傾斜するようにミラー支持部材51に固定されたミラーである。傾斜角度は、表面処理装置1の構成や突起物Pの種類等に応じて任意に設定することができる。ミラー支持部材51は、例えば、一端に反射ミラー5が固定され、他端が反射ミラー駆動装置6に固定されたアームである。なお、ミラー支持部材51は、反射ミラー5を固定可能、かつ、反射ミラー5と反射ミラー駆動装置6とを接続可能な形状であればよく、図示した形状に限定されるものではない。
【0029】
反射ミラー駆動装置6は、例えば、ハウジング2の天井部21の内面に回転可能に支持された駆動ギア61と、駆動ギア61を回転させる駆動モータ62と、駆動ギア61の端部に形成されたフランジ部63と、有している。駆動ギア61は、中心部に開口部21aと連通する開口部61aを有し、外周に歯が形成されている。また、駆動ギア61は、例えば、天井部21の開口部21aの外縁に立設された円筒壁に軸受を介して回転可能に支持される。
【0030】
駆動モータ62は、ハウジング2の天井部21に本体部が配置され、先端に駆動ギア61と噛合するピニオンギアが配置されている。駆動モータ62の先端は、天井部21に形成された開口部からハウジング2内に挿入される。なお、図1では、説明の便宜上、駆動モータ62の支持部材の図を省略してある。
【0031】
フランジ部63は、駆動ギア61とミラー支持部材51とを接続する部品である。フランジ部63は、中心部に開口部61aと連通する開口部63aを有し、例えば、駆動ギア61よりも大きな径を有している。フランジ部63を形成することにより、ミラー支持部材51の形状をI字形状やL字形状のように簡略化することができる。なお、図示しないが、ミラー支持部材51をクランク状に形成して、駆動ギア61に直接接続し、フランジ部63を省略するようにしてもよい。
【0032】
上述した反射ミラー駆動装置6の構成は、単なる一例であり、図示した構成に限定されるものではない。例えば、反射ミラー駆動装置6は、ハウジング2の内面(側面又は天井部)に接触して転動するローラにより構成されていてもよいし、ベルト駆動機構により構成されていてもよい。また、反射ミラー駆動装置6は、駆動ギア61と駆動モータ62との間に減速歯車機構を有していてもよい。
【0033】
また、表面処理装置1は、突起物Pを撮像可能なカメラ7を備えていてもよい。カメラ7は、例えば、図1に示したように、突起物Pの上面に正対するようにスキャナユニット4のカバー部材43に配置されている。この位置にカメラ7を配置する場合、第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42は、カメラ7の視野を阻害しないように、中心部にカメラ7の視野を形成可能な空間を確保するように配置される。
【0034】
かかるカメラ7を配置することにより、ハウジング2を突起物Pに被せた状態で、突起物Pを撮像することによって、ハウジング2と突起物Pとの軸合わせを容易に行うことができる。カメラ7とハウジング2とは、既に同軸上に配置されていることから、突起物Pを撮像し、その外形から中心点を算出することにより、突起物Pがハウジング2と同軸上に位置しているか否かを容易に把握することができる。突起物Pが中心に位置しているか否かは、例えば、音、ランプ、液晶表示等の外部出力手段により作業員に通知される。
【0035】
また、表面処理装置1は、突起物Pの中心を計測可能な計測装置8を備えていてもよい。計測装置8は、例えば、レーザポインタであるが、赤外線や超音波を利用したものであってもよい。計測装置8は、例えば、カメラ7に近接した位置に配置されており、突起物Pにレーザ光を照射し、その反射光の光量によって突起物Pの中心を計測する。かかる計測装置8を配置することにより、例えば、ハウジング2の内部の照度が不十分である場合であっても、突起物Pの中心を容易に計測することができる。なお、計測装置8は必要に応じて省略することができる。
【0036】
また、表面処理装置1は、カメラ7の出力に応じて、ビームエキスパンダ32、焦点調整ユニット33、第一スキャナユニット41、第二スキャナユニット42、駆動モータ62等を制御する制御装置9を備えていてもよい。制御装置9は、例えば、突起物Pに対するハウジング2の位置決め(軸合わせ)を完了した後、以下の手順によって、突起物Pの表面にレーザ光Lを照射して被膜や付着物の除去を行う。
【0037】
まず、制御装置9は、カメラ7を使用して突起物Pの形状を認識し、表面処理を行う対象面Pを決定する。制御装置9は、図2(c)に実線で示したように、対象面Pに対峙する位置に反射ミラー5を移動させる。
【0038】
次に、制御装置9は、カメラ7により取得した突起物Pの形状及び予め制御装置9に記憶された突起物Pに関する形状データ(径の大きさ、側面の幅、高さ等)から対象面Pにおける始点Qを決定する。制御装置9は、反射ミラー5から反射したレーザ光Lが始点Qに照射されるように、第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42のガルバノミラーの姿勢を制御する。始点Qは、例えば、図2(a)に示したように、対象面Pのエッジ部であって、対象面Pと構造物Sの表面とにより形成される角隅部に位置するように決定される。ただし、始点Qの位置は任意に設定することができる。
【0039】
始点Qに照射されたレーザ光Lは、例えば、図2(a)及び図2(c)に点線の矢印で示したように、XY平面内で往復移動される。このとき、制御装置9は、第一スキャナユニット41及び第二スキャナユニット42のガルバノミラーの姿勢を制御する。
【0040】
また、制御装置9は、レーザ光LをZ軸方向に移動させる場合には、レーザ光Lのビーム径や焦点を調整する。具体的には、制御装置9は、突起物Pの構造物Sの表面に近い部分(例えば、角隅部)を処理する場合にレーザ光Lの焦点を絞り、突起物Pの構造物Sの表面から離れた部分を処理する場合にレーザ光Lの焦点をぼかすように、焦点調整ユニット33を制御する。このとき、焦点に合わせて、ビーム径を調整したい場合には、制御装置9によりビームエキスパンダ32を制御するようにしてもよい。
【0041】
一般に、突起物Pと構造物Sの表面とにより形成される角隅部に入り込んだ塗膜等は剥離することが難しいことから、図2(b)に実線の矢印で示したように、レーザ光Lの焦点を絞ってエネルギー密度の高いレーザ光Lを照射することが好ましい。一方、突起物Pの上面に近い部分は、塗膜等を剥離しやすいことから、レーザ光Lの焦点をぼかしてエネルギー密度の低いレーザ光Lを照射した場合であっても、必要な表面処理を行うことができる。
【0042】
このように、レーザ光Lの焦点をぼかすことにより、図2(a)に点線の円で示したように、反射ミラー5によって反射されるレーザ光Lの照射範囲を徐々に又は段階的に拡大することができ、対象面Pに照射されるレーザ光LのZ軸方向成分を増大させることができる。例えば、最大限にレーザ光Lの焦点をぼかした場合には、図2(b)に灰色で塗り潰した範囲にレーザ光Lを照射することができ、対象面Pの全面にレーザ光Lを照射することができる。
【0043】
本実施形態では、突起物Pの表面に形成された塗膜や付着物の性質に応じて、レーザ光Lの焦点を制御することによって、対象面Pに照射されるレーザ光Lのエネルギー密度を制御することができ、XY平面内でレーザ光Lを走査させつつ焦点を調整するだけで、対象面Pの全面の表面処理を行うことができる。したがって、本実施形態によれば、Z軸方向にレーザ光Lを走査させるガルバノミラーを配置する必要がなく、XY平面内でレーザ光Lを走査させつつZ軸方向に走査させる複雑な制御を行う必要もない。
【0044】
次に、制御装置9は、対象面Pの表面処理が完了した後、図2(c)に実線の矢印で示したように、対象面Pに隣接する側面に対峙する位置に反射ミラー5を回転移動させ、上述した手順と同様にして表面処理を行う。以下、この手順を繰り返すことにより、制御装置9は、突起物Pの各側面の表面処理を行う。なお、突起物Pの上面を表面処理する場合には、例えば、図1に示したように、反射ミラー5を介さずに、スキャナユニット4(例えば、第二スキャナユニット42)からレーザ光Lを直接照射するようにすればよい。
【0045】
上述した本実施形態に係る表面処理装置1によれば、反射ミラー5を突起物Pの外周に沿って回転移動させながらレーザ光Lを突起物Pの側面に照射するようにしたことから、塗膜等の被膜や酸化物等の付着物を除去したい部分にレーザ光Lを集中させることができる。また、レーザ光Lを使用して表面処理を行うようにしたことから、鉄粒や砂粒等の投射体を物体の表面に衝突させる必要がない。したがって、本実施形態に係る表面処理装置1によれば、突起物Pを有する複雑な表面であっても、廃棄物や騒音の発生を抑制しつつ作業効率の向上を図ることができる。
【0046】
次に、本発明の他の実施形態に係る表面処理装置1について、図3(a)〜図6(b)を参照しつつ説明する。ここで、図3は、本発明の他の実施形態に係る表面処理装置を示す側面断面図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、を示している。図4は、本発明の第四実施形態に係る表面処理装置を示す側面断面図であり、(a)はハウジングの収縮状態、(b)はハウジングの伸張状態、を示している。図5は、本発明の第五実施形態に係る表面処理装置を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は図5(a)におけるB−B矢視断面図、を示している。図6は、本発明の第六実施形態に係る表面処理装置を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、を示している。なお、上述した第一実施形態に係る表面処理装置1と同じ構成部品については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0047】
図3(a)に示した第二実施形態に係る表面処理装置1は、カメラ7の代わりに、作業員がハウジング2の内部を目視するための監視窓24をハウジング2に配置したものである。このとき、作業員は、監視窓24からハウジング2の内部を監視しながら、制御装置9に接続されたリモートコントローラ91を操作し、ハウジング2や反射ミラー5の位置決めを行うようにしてもよい。このように、カメラ7は必要に応じて省略することができる。なお、図3(a)において、説明の便宜上、レーザ発振器3、把持部22等の図を省略してある。
【0048】
図3(b)に示した第三実施形態に係る表面処理装置1は、レーザ発振器3をハウジング2の上方(具体的には、カバー部材43の上部)に配置したものである。ハウジング2に対して小型のレーザ発振器3を使用することができる場合には、図示したように、レーザ発振器3をハウジング2に搭載することにより、表面処理装置1の小型化及び省スペース化を図ることができる。このとき、カバー部材43の上部にカメラ7を配置することができない場合には、図示したように、カメラ7をハウジング2の側面に配置するようにしてもよい。なお、図3(b)において、説明の便宜上、把持部22等の図を省略してある。
【0049】
図4(a)及び図4(b)に示した第四実施形態に係る表面処理装置1は、ハウジング2を構造物Sの表面に対する垂直軸方向に伸縮可能に構成したものである。具体的には、ハウジング2は、例えば、スキャナユニット4等を搭載した本体部2aと、本体部2aの先端に配置されたスライド部2bと、により構成される。本体部2aの外周面には、スライド部2bの上限を規定するストッパ2c及び下限を規定するストッパ2dが形成されていてもよい。スライド部2bは、例えば、本体部2aの外周面に沿って挿通可能な筒形状を有しており、ストッパ2c,2dに係止可能な爪2eを有している。
【0050】
図示しないが、ハウジング2は、本体部2aに対するスライド部2bの位置決めを行うロック機構(例えば、ロックピン等)を有していてもよい。また、アクチュエータやラック・ピニオン機構等の駆動手段により、スライド部2bを本体部2aに沿って移動させるようにしてもよい。なお、図4(a)及び図4(b)において、説明の便宜上、レーザ発振器3、把持部22等の図を省略してある。
【0051】
本実施形態に係る表面処理装置1では、スライド部2bを構造物Sの表面に接触させた状態で、本体部2aをZ軸方向に移動させることができ、突起物Pに対する反射ミラー5のZ軸方向位置を調整することができる。したがって、例えば、突起物Pの構造物Sの表面から離れた部分においても、レーザ光Lの焦点を絞ってエネルギー密度の高いレーザ光Lを照射することができる。
【0052】
図5(a)及び図5(b)に示した第五実施形態に係る表面処理装置1は、複数の突起物Pが一列に配置されている場合に、複数の突起物Pの配列方向に沿って配置される支持台11と、支持台11上を走行可能に配置された台車12と、を備え、台車12にハウジング2を固定したものである。なお、図5(a)及び図5(b)において、説明の便宜上、レーザ発振器3、光ファイバー31等の図を省略してある。
【0053】
支持台11は、例えば、構造物Sの表面に接地される少なくとも四本の脚部11aと、脚部11aの上部に配置される枠体11bと、を有している。枠体11bの上面は、台車12を走行するレール面を形成している。なお、図示しないが、支持台11を垂直面に配置する場合には、構造物Sの一部に支持台11を固定する固定治具を使用すればよい。
【0054】
台車12は、例えば、ハウジング2の上部を挿通可能な枠体12aと、枠体12aの両側に配置された車輪12bと、ハウジング2の把持部22を拘束可能な拘束部12cと、により構成される。なお、台車12を駆動させる電源及びケーブルについては、図を省略してある。かかる支持台11及び台車12を用いることにより、例えば、一方向に複数の突起物Pが配列している場合に、表面処理装置1の移動を容易かつ迅速に行うことができ、作業効率の向上を図ることができる。なお、支持台11及び台車12の構成は、図示した構成に限定されるものではなく、例えば、拘束部12cは把持部22以外の部分でハウジング2を拘束するようにしてもよい。
【0055】
本実施形態では、突起物Pに干渉しないように表面処理装置1を移動させる必要があることから、例えば、図4(a)及び図4(b)に示した第四実施形態に係る表面処理装置1を使用することが好ましい。突起物Pの表面処理を行う場合には、例えば、図5(b)において一点鎖線で示したように、ハウジング2のスライド部2bを構造物Sの表面に接触させておく。そして、突起物Pの表面処理が完了し、隣接する突起物Pの表面処理を行う場合には、例えば、図5(b)において実線で示したように、ハウジング2のスライド部2bを本体部2a側に移動させた状態で、台車12を移動させる。なお、ハウジング2が伸縮機構を有しない場合には、図示しないが、台車12にハウジング2を昇降させる昇降機構を配置するようにしてもよい。
【0056】
図6(a)及び図6(b)に示した第六実施形態に係る表面処理装置1は、ハウジング2の外周面の両側に隣接した突起物Pに係止可能な係止部25をハウジング2に形成したものである。例えば、橋梁等の構造物Sに使用されるボルトは、行方向及び列方向に所定の間隔で複数配置されていることが多く、ボルト径に応じてボルト間距離もほぼ同じ数値である。
【0057】
したがって、表面処理を行う場所のボルトの配置に対応した係止部25をハウジング2の外周面に取り付けることにより、係止部25を隣接するボルト(突起物P)に係止させるだけでハウジング2の位置決めを容易に行うことができる。また、図示しないが、表面処理を行う突起物Pに対するハウジング2の位置決め(軸合わせ)を行うための目印をハウジング2の表面や係止部25に表示するようにしてもよい。なお、係止部25の形状は、図示したようなロッド形状に限定されるものではなく、L字形状であってもよいし、環状に形成されていてもよい。
【0058】
上述した第一実施形態〜第六実施形態に係る表面処理装置1を使用することにより、例えば、突起物Pの表面に形成された塗膜・酸化物(錆び)・舗装・コンクリート・樹脂材・ライニング・ゴム材・接着剤・化学生成物・汚れ等の除去を効率よく行うことができる。また、突起物Pは、水平面に突出した部分であってもよいし、垂直面に突出した部分であってもよいし、傾斜面に突出した部分であってもよい。
【0059】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 表面処理装置
2 ハウジング
2a 本体部
2b スライド部
2c,2d ストッパ
2e 爪
3 レーザ発振器
4 スキャナユニット
5 反射ミラー
6 反射ミラー駆動装置
7 カメラ
8 計測装置
9 制御装置
11 支持台
11a 脚部
11b 枠体
12 台車
12a 枠体
12b 車輪
12c 拘束部
21 天井部
21a 開口部
22 把持部
23 バキューム管
24 監視窓
25 係止部
31 光ファイバー
32 ビームエキスパンダ
33 焦点調整ユニット
33a 入射レンズ
33b 射出レンズ
41 第一スキャナユニット
42 第二スキャナユニット
43 カバー部材
51 ミラー支持部材
61 駆動ギア
61a 開口部
62 駆動モータ
63 フランジ部
63a 開口部
91 リモートコントローラ

【要約】
【課題】突起物を有する複雑な表面であっても、廃棄物や騒音の発生を抑制しつつ作業効率の向上を図ることができる、表面処理装置を提供する。
【解決手段】突起物Pを有する構造物Sの表面に配置され、突起物Pの表面にレーザ光Lを照射して突起物Pの表面に形成された被膜又は付着物を除去する表面処理装置1は、突起物Pを囲うように構造物Sの表面に配置されるハウジング2と、レーザ光Lを発振するレーザ発振器3と、ハウジング2の天井部21に配置されレーザ光Lをハウジング2内に照射するように偏向させるスキャナユニット4と、ハウジング2内に配置されスキャナユニット4により偏向されたレーザ光Lを突起物Pに向かって反射させる反射ミラー5と、反射ミラー5を突起物Pの外周に沿って回転移動させる反射ミラー駆動装置6と、を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6