特許第5997940号(P5997940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997940路面振動によるタイヤ判定装置、タイヤ判定方法およびタイヤ判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997940
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】路面振動によるタイヤ判定装置、タイヤ判定方法およびタイヤ判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20160915BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20160915BHJP
【FI】
   B60C19/00 H
   G01M99/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-126709(P2012-126709)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-249023(P2013-249023A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000243881
【氏名又は名称】名古屋電機工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners 特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100117466
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 渉
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 友男
(72)【発明者】
【氏名】野村 英之
(72)【発明者】
【氏名】谷嵜 徹也
(72)【発明者】
【氏名】中村 香織
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 純二
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】岡本 隆
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−058808(JP,A)
【文献】 特開平05−079898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行による路面の振動を取得する路面振動取得手段と、
前記路面の振動の周波数特性が、冬タイヤが装着された前記車両の走行による路面の振動の周波数特性である場合に前記車両に冬タイヤが装着されていると判定するタイヤ判定手段と、
を備えるタイヤ判定装置。
【請求項2】
前記タイヤ判定手段は、前記路面の振動の特性が、特定のタイヤの種類に応じた特性である場合に前記車両に前記特定のタイヤが装着されていると判定する、
請求項1に記載のタイヤ判定装置。
【請求項3】
前記タイヤ判定手段は、前記路面の振動の強度のピーク周波数が予め決められた冬タイヤの周波数域に含まれる場合に前記車両に冬タイヤが装着されていると判定する、
請求項1または請求項2のいずれかに記載のタイヤ判定装置。
【請求項4】
前記タイヤ判定手段は、前記路面の振動の強度のピーク周波数に速度依存性があることが検出された場合に前記車両に冬タイヤが装着されていると判定する、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタイヤ判定装置。
【請求項5】
前記速度依存性は、前記車両の車速が小さくなるほど前記ピーク周波数が低くなる依存性である、
請求項4に記載のタイヤ判定装置。
【請求項6】
車両の走行による路面の振動を取得する路面振動取得手段と、
前記路面の振動として所定の強度以上の振動が取得された場合に前記車両に冬タイヤが装着されていると判定するタイヤ判定手段と、
を備えるタイヤ判定装置。
【請求項7】
車両の走行による路面の振動を取得する路面振動取得工程と、
前記路面の振動の周波数特性が、冬タイヤが装着された前記車両の走行による路面の振動の周波数特性である場合に前記車両に冬タイヤが装着されていると判定するタイヤ判定工程と、
を含むタイヤ判定方法。
【請求項8】
車両の走行による路面の振動を取得する路面振動取得機能と、
前記路面の振動の周波数特性が、冬タイヤが装着された前記車両の走行による路面の振動の周波数特性である場合に前記車両に冬タイヤが装着されていると判定するタイヤ判定機能と、
をコンピュータに実行させるタイヤ判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ判定装置、タイヤ判定方法およびタイヤ判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車専用道路など、高速で走行可能な道路においては、天候の状態に応じて走行規制が行われることがある。走行規制には各種の規制が存在し、その一つにタイヤの規制が存在する。例えば、天候の悪化や温度の低下に伴うスリップを防止する等のため、夏タイヤを取り付けた車両の走行を許可しない規制がなされることがある。
【0003】
また、タイヤの騒音性能を予測するために、タイヤモデルと路面との間に形成される空間を音響管モデルとして音響特性をシミュレートする技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、走行中の車両から発生する惰行騒音(以下、走行音という。)は、図6に示すようにタイヤ道路騒音と車両騒音に大別され、タイヤ道路騒音が騒音全体の70%〜80%を占めると言われている(株式会社ブリヂストン著、「自動車用タイヤの基礎と実際」、初版、株式会社山海堂、2006年1月、p.190等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−237752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、道路を走行する車両に取り付けられたタイヤの種類は目視で確認されていたが、目視による確認は不正確であるといった問題があった。また、目視による確認は時間を要するため、交通渋滞を引き起こす原因となっていた。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、車両の走行中であっても当該車両に取り付けられたタイヤの種類を自動で正確に判定することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明においては、車両の走行による路面の振動に基づいて車両に装着されているタイヤの種類を判定する。すなわち、車両が走行した場合における路面の振動はタイヤの種類に依存した振動となるため、当該路面の振動を解析することによって車両に装着されているタイヤの種類を判定することができる。
【0007】
ここで、路面振動取得手段においては、走行中に車両から路面に伝達される路面の振動を取得することができればよく、例えば、料金所から所定距離以内の区間に路面に取り付けられた振動センサ等によって車両毎に取得されればよい。振動センサを路面に対して取り付ける手法としては、種々の手法を採用可能であり、振動センサを路面に接触させることによって振動を取得可能に構成しても良いし、振動センサを路面に埋設することによって振動を取得可能に構成しても良い。
【0008】
タイヤ判定手段は、車両の走行による路面の振動に基づいてタイヤの種類を判定することができれば良く、路面の振動が車両に装着されているタイヤの種類を反映していることを特定することによってタイヤの種類を判定すれば良い。路面の振動の解析は種々の手法によって行うことが可能であり、振動の強度、周波数、プロファイル(波形)等を解析対象としても良いし、所定の特性の振動の有無を確認しても良く種々の手法を採用可能である。
【0009】
また、例えば、路面の振動を解析し、路面の振動の特性が特定のタイヤの種類に応じた特性であると確認できた場合に車両に特定のタイヤが装着されていると判定する構成としても良い。すなわち、車両の走行による路面の振動に特定の種類のタイヤに応じた振動成分が含まれる場合に当該特定の種類のタイヤが車両に装着されていると判定する構成を採用可能である。
【0010】
また、タイヤの種類としては各種の定義が可能であり、種類が異なることによって走行時に路面に伝達される振動が異なり得るタイヤ同士を異なる種類のタイヤとして定義すれば良い。このような定義が可能なタイヤの種類としては、例えば、夏タイヤと冬タイヤとが挙げられる。従って、例えば、夏タイヤおよび冬タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の特性を予め定義しておけば、実測した車両の走行による路面の振動の特性と予め定義された車両の走行による路面の振動の特性とを比較することによってタイヤの種類を判定することができる。
【0011】
さらに、路面の振動を解析し、路面の振動の周波数特性が、冬タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性である場合に車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成としても良い。ここで、周波数特性は振動の物理特性と周波数との関係であって、夏タイヤおよび冬タイヤの特徴が区別可能に現れる関係であればよい。従って、振動の強度等と周波数との関係を定義し、夏タイヤおよび冬タイヤの特徴が現れる場合にそれぞれの特徴を夏タイヤおよび冬タイヤの周波数特性として定義すればよい。
【0012】
なお、夏タイヤおよび冬タイヤの周波数特性は、夏タイヤおよび冬タイヤの双方について定義されていても良いし、一方のみについて定義されていても良い。前者であれば、路面の振動の周波数特性が、夏タイヤが装着された車両の周波数特性であるか否かを判定し、さらに、冬タイヤが装着された路面の振動の周波数特性であるか否かを判定する構成となる。後者であれば、路面の振動の周波数特性が、冬タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性であるか否かを判定し、冬タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性でない場合には夏タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性であると判定する構成を採用可能である。むろん、夏タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性であるか否かを判定し、夏タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性でない場合には冬タイヤが装着された車両の走行による路面の振動の周波数特性であると判定する構成を採用してもよい。
【0013】
なお、通常の車両の走行音の大半はパターン主溝共鳴音とパターン加振音とから構成されることが知られている。これらのパターン主溝共鳴音とパターン加振音はタイヤの形状に起因した走行音の成分であり、パターン主溝共鳴音とパターン加振音とについて夏タイヤと冬タイヤとを比較すると、それぞれのトレッドパターンの相違に起因して騒音における各成分の比率が異なる。すなわち、夏タイヤは接地部分におけるリブパターンと路面とが形成する気柱管から発生するパターン主溝共鳴音成分が大きくなり、冬タイヤはタイヤ表面のブロックが路面と接触する際の衝撃に起因する音であるパターン加振音成分が大きくなる。
【0014】
そして、このような冬タイヤの表面のブロックと路面との接触に際しての衝撃は路面に伝達されるが、夏タイヤにおいてはこのように路面に伝達される衝撃は少ない。従って、パターン加振音と同等の振動が路面に伝達されるがパターン主溝共鳴音と同等の振動は路面に伝達されない。そこで、路面の振動からパターン加振音と同等の周波数特性の振動を特定する構成とすれば、パターン加振音と同等の周波数特性の振動が特定された場合に冬タイヤ、パターン加振音と同等の周波数特性の振動が特定されない場合に夏タイヤが装着されていると判定することができる。
【0015】
さらに、路面の振動の解析を行う際に、路面の振動の強度のピーク周波数の特性を周波数特性とする構成としても良い。例えば、路面の振動の強度のピーク周波数が予め決められた冬タイヤの周波数域に含まれる場合に車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成としても良い。むろん、この場合、路面の振動の強度のピーク周波数が予め決められた夏タイヤの周波数域に含まれる場合に車両に夏タイヤが装着されていると判定する構成としても良いし、路面の振動の強度のピーク周波数が予め決められた冬タイヤの周波数域に含まれない場合に夏タイヤが装着されていると判定しても良い。
【0016】
すなわち、パターン加振音は、車両の車速や冬タイヤの周方向のブロックの個数等に依存した周波数となり、パターン加振音と同等の成分を含む振動においては、当該周波数にピークを持つプロファイルとなる。そこで、パターン加振音の周波数域に対応する周波数域にピーク周波数が存在するか否かを解析すれば、車両に冬タイヤが装着されているか否かを判定することができる。
【0017】
さらに、パターン加振音は、タイヤの回転軸を中心とした円周に沿って延びる溝と当該溝に交差する溝とに囲まれたタイヤ表面のブロックが路面と接触する際の衝撃に起因する音であり、周波数は車両の車速に依存する(車速が小さいほど低い周波数となる)。そこで、パターン加振音の周波数が車速に依存することに着目し、路面の振動の強度のピーク周波数に速度依存性があることを利用してタイヤの種類を判定しても良い。例えば、路面の振動の強度のピーク周波数に速度依存性があることが検出された場合に車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成としても良い。なお、ここで車両の速度を厳密に特定する構成は必須ではなく、車両の速度が変化している場合に路面の振動の強度のピーク周波数が変動することに基づいて路面の振動の強度のピーク周波数に速度依存性があることを検出する構成であっても良い。例えば、車両が加減速する道路上の複数の位置において車両の走行による路面の振動を検出すれば、路面の振動の強度のピーク周波数が変動する場合に路面の振動の強度のピーク周波数に速度依存性があると結論づけることができる。なお、パターン加振音は車速が小さいほど低い周波数となる特性を持つため、車両の車速が小さくなるほど路面の振動の強度のピーク周波数が低くなることを検出した場合に車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成であっても良い。
【0018】
さらに、路面の振動として所定の強度以上の振動が取得された場合に車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成としても良い。すなわち、冬タイヤを装着している車両からパターン加振音と同等の振動が路面に伝達され、夏タイヤを装着している車両からパターン主溝共鳴音と同等の振動が路面に伝達されない場合、冬タイヤを装着している車両の走行による路面の振動の強度は大きく、夏タイヤを装着している車両の走行による路面の振動の強度は小さい。そこで、路面の振動として所定の強度以上の振動が取得された場合、車両に冬タイヤが装着されていると見なすことが可能である。この構成によれば、振動の簡易な解析によってタイヤの種類を判定することができる。
【0019】
以上は、本発明が装置として実現される場合について説明したが、かかる装置を実現する方法やプログラム、当該プログラムを記録した媒体としても発明は実現可能である。また、以上のようなタイヤ判定処理装置は単独で実現される場合もあるし、ある方法に適用され、あるいは同方法が他の機器に組み込まれた状態で利用されることもあるなど、発明の思想としてはこれに限らず、各種の態様を含むものである。また、ソフトウェアであったりハードウェアであったりするなど、実現態様は適宜、変更可能である。また、ソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であっても良いし光磁気記録媒体であっても良いし、今後開発されるいかなる記録媒体においても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(1A)は夏タイヤのトレッドパターンを示す図、(1B)は冬タイヤのトレッドパターンを示す図、(1C)は車両の走行音の周波数特性を示すグラフである。
図2】(2A)(2B)は車両の走行音の周波数特性を示すグラフである。
図3】(3A)(3B)は車両の走行による路面の振動の周波数特性を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態を示すブロック図である。
図5】タイヤ判定処理を示すフローチャートである。
図6】走行中の車両から発生する走行音を説明するための図である。
図7】タイヤ判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)タイヤ判定の原理:
(2)タイヤ判定システムの構成およびタイヤ判定処理:
(3)他の実施形態:
【0022】
(1)タイヤ判定の原理:
図6は、車両の走行音の主な成分を示しており、車両の走行音の大半を占めるタイヤ道路騒音は、主にパターン主溝共鳴音とパターン加振音とから構成されることが知られている。夏タイヤと冬タイヤとを比較すると、それぞれのトレッドパターンの相違に起因して騒音における各成分の比率が異なる。すなわち、夏タイヤは接地部分におけるリブパターンと路面とが形成する気柱管から発生するパターン主溝共鳴音成分が大きくなり、冬タイヤはタイヤ表面のブロックが路面と接触する際の衝撃に起因する音であるパターン加振音成分が大きくなる。
【0023】
さらに、図6に示されるように、パターン加振音は振動音に分類され、パターン主溝共鳴音は振動音には分類されていない。すなわち、パターン加振音の原因となるタイヤブロックと路面との衝突は路面振動を生じさせるが、パターン主溝共鳴音の原因となる気柱管は路面振動を生じさせる原因とはならない。従って、パターン加振音と同等の周波数成分の振動は路面に伝達され、パターン主溝共鳴音と同等の周波数成分の振動は路面に伝達されない。
【0024】
図1Aは典型的な夏タイヤのトレッドパターン、図1Bは典型的な冬タイヤのトレッドパターンを示す図である。図1Bに示すように、冬タイヤにおいては、タイヤの回転軸Aを中心とした円周に沿って延びる溝Grと当該溝に交差する溝Glとに囲まれたブロックBが複数個並べられるようにしてトレッドパターンが形成されている。そして、冬タイヤのトレッドパターンにおいては、図1Bに示すように溝Grと溝Glの幅が近似しており、深さも近似している。さらに、冬タイヤの溝Glは図1Aに示す夏タイヤのラグパターンGlと比較して、幅が広く深い。従って、冬タイヤを装着した走行音においてはブロックBに起因して発生するパターン加振音成分の比率が大きくなり、路面の振動にもパターン加振音と同等の振動成分が多く含まれる。
【0025】
ここで、パターン加振音の周波数は、以下の式(1)に示すとおりである。
【数1】
なお、式(1)において、fはパターン加振音の周波数(Hz)、Vは車両の車速(km/h)、nは周方向のブロックBの個数、Rはタイヤの半径(m)である。式(1)に示すように、パターン加振音の周波数は、車両の車速に依存し、車速が小さいほど低い周波数となる。例えば、車速=40km/h、n=60、R=0.27m程度の状態を想定すると、パターン加振音の周波数は400Hz程度の周波数域になり、車速以外の値を固定するとパターン加振音の周波数は車速に比例する。また、車速30km/h、50km/h程度の状態を想定すると、パターン加振音の周波数はそれぞれ300Hz,500Hz程度の周波数域になる。
【0026】
図1Cは40km/h、図2A,2Bは30km/h,50km/hで走行中の車両の走行音を測定し、縦軸を走行音の強度、横軸を周波数の対数表示として周波数特性を示したグラフである。ここでは、走行音の強度の積分値が1になるように全周波数域で規格化している。これらのグラフに示すように、冬タイヤを装着した車速30km/h,40km/h,50km/hで走行する車両の走行音の強度を実測して得られる周波数特性を解析するとパターン加振音のピーク周波数が300Hz、400Hz,500Hz付近に現れることが確認され、ピーク周波数が車速に依存することが確認された。
【0027】
そこで、当該パターン加振音が現れる周波数域を予め定義しておけば、走行音の強度のピーク周波数が当該周波数域に含まれる場合や、走行音の強度のピーク周波数に車速依存性がある場合に、車両に冬タイヤが装着されていると判定することが可能になる。ただし、図1C,2A,2Bに示すように、パターン加振音のピークは明瞭であるものの、ピークの裾は明瞭ではなく種々のノイズが含まれている。さらに、走行音にはパターン加振音とパターン主溝共鳴音とが含まれ、これらのパターン加振音とパターン主溝共鳴音とが同時に測定されてしまう。
【0028】
そこで、本実施形態においては、走行音ではなく路面の振動を解析対象とすることで、実質的にパターン主溝共鳴音と同等の振動を排除し、パターン加振音と同等の振動を抽出して解析を行うように構成している。図3Aは夏タイヤが装着された車両が路面を30km/h、40km/h、50km/hで走行した場合の路面の振動の周波数特性、図3Bは冬タイヤが装着された車両が路面を30km/h、40km/h、50km/hで走行した場合の路面の振動の周波数特性を示している。なお、図3A、3Bにおいて縦軸は路面の振動の強度を示す値、横軸は周波数である。また、図3Aおよび図3Bにおいて、実線が30km/h、一点鎖線が40km/h、破線が50km/hの場合の路面の振動である。さらに、図3Aおよび図3Bにおいて、路面や車両、振動センサ、天候など、タイヤの種類以外の条件は共通である。
【0029】
これらの路面の振動が測定された車両において、30km/hで走行した場合のパターン加振音のピーク周波数は230Hz程度、40km/hで走行した場合のパターン加振音のピーク周波数は310Hz程度、50km/hで走行した場合のパターン加振音のピーク周波数は400Hz程度である。従って、図3Bに示すように、冬タイヤを装着した車両が走行した路面の振動において、当該パターン加振音と同等の振動は明瞭に現れている。一方、図3Aに示すように、夏タイヤを装着した車両が走行した路面の振動において、パターン加振音と同等の振動は現れていない。そこで、本実施形態においては、車両の走行による路面の振動を取得して解析することにより、タイヤの種類を判定する構成となっている。この構成によれば、高精度にタイヤの種類を判定することができる。
【0030】
(2)タイヤ判定システムの構成およびタイヤ判定処理:
図4は本発明のタイヤ判定システムの一実施形態を示すブロック図であり、図5はタイヤ判定システムで実行されるタイヤ判定処理を示すフローチャートである。本実施形態にかかるタイヤ判定装置10には図示しないインタフェースを介して各種の機器を接続可能であり、本実施形態においては、増幅器41および表示部42がタイヤ判定装置10に接続されている。また、増幅器41には振動センサ40が接続されている。
【0031】
また、タイヤ判定装置10は、制御部20と記録媒体30を備えている。制御部20は、図示しないCPU,RAM,ROM等によって構成され、記録媒体30やROMに記録されたプログラムを実行することができる。本実施形態においては、当該プログラムの一つとしてタイヤ判定プログラム21を実行可能である。また、記録媒体30には予めパターン加振音の周波数域を示す周波数情報30aが記録されている。
【0032】
タイヤ判定プログラム21は、路面振動取得部21aとタイヤ判定部21bとを備えている。路面振動取得部21aは、車両の走行による路面の振動を取得する機能を制御部20に実現させるモジュールである。すなわち、振動センサ40は車両が路面Rを走行することによって生じる路面Rの振動を取得できるように、路面Rに対して埋設されまたは路面Rに対して接触するように取り付けられており、車両が振動センサ40の周辺の路面を走行することによって当該車両の走行による路面の振動を示す信号が振動センサ40から出力される。振動センサ40から路面の振動を示す信号が出力されると、当該信号が増幅器41によって増幅される。増幅器41から増幅後の信号が出力されると、制御部20は、路面振動取得部21aの処理により、当該増幅後の信号を取得する(ステップS100)。
【0033】
タイヤ判定部21bは、路面の振動の周波数特性に基づいて車両に装着されたタイヤの種類が夏タイヤと冬タイヤとのいずれであるのかを判定する機能を制御部20に実現させるモジュールである。本実施形態において、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、車両の走行による路面の振動の周波数解析を行って路面の振動の強度の周波数特性を取得する(ステップS110)。すなわち、車両の走行による路面の振動の強度と周波数との対応関係を取得する。
【0034】
次に、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、パターン加振音のピーク周波数が存在する周波数域(例えば、200Hz〜600Hz)において、路面の振動の強度のピーク周波数を特定する(ステップS120)。すなわち、制御部20は、路面の振動の強度に極大値が存在し、極大値よりも周波数が高い帯域および低い帯域においては強度が減少傾向にあるようなプロファイルを特定する。例えば、ピークの大きさおよび幅が所定の条件を満たすプロファイルやピークの大きさおよび幅から特定される指標(例えば、(大きさ/幅)×大きさ)が所定の値以上となるプロファイルを特定し、特定されたプロファイルにおけるピークの周波数をピーク周波数とする。
【0035】
次に、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、当該ピーク周波数がパターン加振音の周波数域に含まれるか否かを判定する(ステップS130)。すなわち、制御部20は、記録媒体30に記録された周波数情報30aを参照し、車両の走行による路面の振動の強度のピーク周波数が、周波数情報30aの示すパターン加振音の周波数域に含まれるか否かを判定する。
【0036】
ステップS130にて、ピーク周波数がパターン加振音の周波数域に含まれると判定されない場合(ピークが不明瞭であることによってピーク周波数が特定されない場合も含む)、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、車両に夏タイヤが装着されていると判定し、表示部42に対して制御信号を出力して当該判定結果を表示部42に表示させる(ステップS140)。一方、ステップS130にて、ピーク周波数がパターン加振音の周波数域に含まれると判定された場合、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、車両に冬タイヤが装着されていると判定し、表示部42に対して制御信号を出力して当該判定結果を表示部42に表示させる(ステップS150)。以上の処理によれば、タイヤの種類を目視に頼らずに自動で正確に判定することが可能である。
【0037】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、車両の走行による路面の振動に基づいて車両に装着されたタイヤの種類を判定する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、図1A、1Bに示すタイヤのトレッドパターンは1例であり、どのようなトレッドパターンであっても夏タイヤにおいてパターン主溝共鳴音成分の比率が大きく、冬タイヤにおいてパターン加振音成分の比率が大きいことを利用してタイヤの種類を判定可能である。
【0038】
さらに、図1C,2A,2Bに示すように、パターン加振音が車両の車速に依存し、パターン主溝共鳴音が車両の車速に依存しないことを利用してタイヤの種類を判定することも可能である。このようにパターン加振音の車速依存性を利用した実施形態は、例えば、図4に示す構成において、周波数情報30aを省略するとともに路面Rを走行する車両の走行による路面の振動を取得可能な複数の位置に複数の振動センサを設置し、制御部20にて図7に示すフローチャートを実行することによって実現可能である。なお、本実施形態においては、振動センサが設置される各位置における車両の車速を変化させるために、各位置の間での加減速を誘発することが好ましい。加減速を誘発するための構成としては種々の構成を採用可能であり、例えば、路面上に段差を設けたり、加減速を誘発する視覚効果を有するペイントを路面上に施すなどして、各位置における車両の車速が変化するように促す構成を採用可能である。
【0039】
図7に示す処理において車両が路面Rを走行すると、制御部20は、路面振動取得部21aの処理により、振動センサが設置されたn個(nは2以上の整数)の位置のそれぞれにおいて同一の車両の走行による路面の振動を取得する(ステップS200)。次に、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、n個の位置のそれぞれの路面の振動について周波数解析を行って路面の振動の強度の周波数特性を位置毎に取得する(ステップS210)。
【0040】
次に、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、路面の振動の強度のピーク周波数を位置毎に特定する(ステップS220)。ここで、n個の位置のそれぞれのピーク周波数をf(n)と表記する。次に、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、位置毎のピーク周波数f(n)が一致するか否かを判定する(ステップS230)。すなわち、f(1)≠f(2)・・・≠f(n)であるか否かを判定し、f(1)≠f(2)・・・≠f(n)である場合にピーク周波数に速度依存性があるとみなす。
【0041】
そして、ステップS230にて、位置毎のピーク周波数f(n)が一致すると判定された場合、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、車両に夏タイヤが装着されていると判定し、表示部42に対して制御信号を出力して当該判定結果を表示部42に表示させる(ステップS240)。むろん、位置毎のピーク周波数f(n)が一致するか否かの判定は、測定誤差やパターン主溝共鳴音の変動範囲に対応したマージンを設けて判定する構成とすることが可能である。一方、ステップS230にて、位置毎のピーク周波数f(n)が一致すると判定されない場合、制御部20は、タイヤ判定部21bの処理により、車両に冬タイヤが装着されていると判定し、表示部42に対して制御信号を出力して当該判定結果を表示部42に表示させる(ステップS250)。以上の処理によれば、タイヤの種類を目視に頼らずに自動で判定することが可能である。
【0042】
なお、ステップS230においては、位置毎のピーク周波数f(n)が一致するか否かを判定したが、むろん、位置毎のピーク周波数f(n)が車両の車速に応じて変化すること、例えば、車速が小さくなるほどピーク周波数が低くなることを検出する構成であっても良い。
【0043】
さらに、路面の振動として所定の強度以上の振動が取得された場合に車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成としても良い。すなわち、図3Bに示すように冬タイヤを装着している車両からパターン加振音と同等の振動は路面に伝達され、図3Aに示すように夏タイヤを装着している車両からパターン主溝共鳴音と同等の振動は路面に伝達されない。従って、冬タイヤを装着している車両の走行による路面の振動の強度は大きく、夏タイヤを装着している車両の走行による路面の振動の強度は小さくなる。そこで、図4と同等の構成において、車両が路面を走行した場合の路面振動を取得し、パターン加振音と同等の周波数帯域に所定の強度以上の振動が取得された場合、車両に冬タイヤが装着されていると判定する構成等を採用しても良い。なお、所定の強度の値としては、例えば、図3Aに示す振動の強度の全てが当該値以下となるような値を選択すれば良い。
【符号の説明】
【0044】
10…タイヤ判定装置、20…制御部、21…タイヤ判定プログラム、21a…路面振動取得部、21b…タイヤ判定部、30…記録媒体、30a…周波数情報、40…振動センサ、41…増幅器、42…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7