(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997948
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】構造物間の狭隘部表面劣化調査方法、およびその装置
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20160915BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20160915BHJP
E01D 2/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/02
E01D2/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-139414(P2012-139414)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-1606(P2014-1606A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509077200
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・メンテナンス東北
(73)【特許権者】
【識別番号】509274441
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・エンジニアリング東北
(73)【特許権者】
【識別番号】000112196
【氏名又は名称】株式会社ピーエス三菱
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079175
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 佳男
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(74)【代理人】
【識別番号】100122758
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】曽田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】武田 弘次
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信雄
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 克敏
(72)【発明者】
【氏名】大林 敦裕
(72)【発明者】
【氏名】神谷 清志
(72)【発明者】
【氏名】木元 大輔
【審査官】
石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−289585(JP,A)
【文献】
特開2005−030961(JP,A)
【文献】
特開2003−119722(JP,A)
【文献】
特開2011−237283(JP,A)
【文献】
特開2013−129049(JP,A)
【文献】
特開2010−285769(JP,A)
【文献】
特開平06−294221(JP,A)
【文献】
特開2011−032641(JP,A)
【文献】
特開2003−111073(JP,A)
【文献】
特開2010−122291(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0044509(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0120246(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物間の狭隘部の構造物表面に沿ってX方向に移動自在な移動体フレームと、
前記移動体フレームに取り付けられたY方向移動片と、
前記Y方向移動片に先端を取り付け動画撮影部本体に他端を結合したスコープと、
前記移動体フレームのX方向移動量を検知するX方向移動量検知部と、
前記Y方向移動片のY方向移動量を入力するY方向移動量入力手段と、
前記X移動量データ及び前記Y方向移動量データと、前記動画撮影部本体に記録した2次元動画像データとから、前記構造物表面の静止画像データを生成する静止画像データ生成部と、
を備えたことを特徴とする構造物間の狭隘部表面劣化調査装置。
【請求項2】
前記移動体フレームの倒れを防止し、該移動体フレームと前記構造物表面との間の距離を保持する距離保持部材を備えたものであることを特徴とする請求項1記載の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置。
【請求項3】
前記狭隘部が、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部、あるいは、対向する該桁端間に形成された狭隘部であって、
前記移動体フレームが、前記狭隘部の前記桁端及び前記橋台パラペットの表面に沿ってX方向に移動自在なものであり、
前記静止画像データ生成部が、前記桁端あるいは前記橋台パラペットの表面の静止画像データを生成するものであることを特徴とする請求項1または2記載の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項記載の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置の、前記スコープの先端が取り付けられている前記Y方向移動片を取り付けた移動体フレームを、構造物間の狭隘部に挿入して、該狭隘部の構造物表面の2次元動画を撮影させ、静止画像データ生成部に前記構造物表面の静止画像データを生成させることを特徴とする構造物間の狭隘部表面劣化調査方法。
【請求項5】
前記狭隘部が、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部、あるいは、対向する該桁端間に形成された狭隘部であることを特徴とする請求項4記載の構造物間の狭隘部表面劣化調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物間の狭隘部表面劣化調査方法、およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の維持管理では、目視による表面劣化調査が行われている。しかしながら、例えば、住宅密集地の家屋間や家屋と外壁との間、機械等設備と壁との間、橋梁上部工の桁端部などといった、複数の構造物が近接している狭隘部には、人が直接立ち入ることができない場合がある。このような場合、目視による狭隘部の表面劣化調査が困難である。
【0003】
ここで、狭隘部には、水分や塩分や土砂や塵などといった劣化因子が浸入して構造物表面や構造物内部に蓄積されやすく、劣化因子が蓄積されると、例えば鉄筋の腐食やコンクリートの剥離等の劣化・損傷が進行することが懸念されるという問題がある。
【0004】
例えば、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部や対向する桁端間に形成された狭隘部(以下、これらの狭隘部を桁端狭隘部と称する。)では、桁端狭隘部の上部に設置されて桁端狭隘部を塞ぐ伸縮装置や地覆の止水不良から凍結防止剤を含む漏水の作用を受け、塩害や凍害等による複合劣化の事例が多数確認されている。
【0005】
また、プレストレストコンクリート橋梁上部工では、桁端狭隘部に緊張材の定着体が配置されており、定着体は鋼製であるため、定着体の塩害による腐食が生じ、定着体の劣化による緊張材のプレストレス減少や定着体の腐食による構造物の劣化進行のおそれがある。緊張材の定着性能は構造物に導入されているプレストレスの維持に重要であり、プレストレスの維持は構造物全体の機能を保持する上で重要であるため、桁端狭隘部は構造物の機能保全上重要な部位であるといえる。
【0006】
桁端狭隘部の補修方法として、桁端狭隘部に挿入したはつり装置のノズルからウォータージェットを噴射することによって桁端狭隘部の端面のコンクリートをはつり、はつり面を補修する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、桁端狭隘部への漏水の浸入を防止する構造として、桁端狭隘部の道路ジョイントの下方側で、橋桁の幅方向に延在させて配設した止水のうを、膨満姿勢で桁端狭隘部の対向端面に密着させた橋桁止水構造が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
また、桁端狭隘部の劣化を防止する技術として、ポリブタジエンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリカーボネートポリオールからなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオールおよびジイソシアネートを主成分とする発泡ポリウレタン用配合物と、発泡剤とを含んでなる、コンクリート製あるいは鋼製構造物の端面の防水用組成物を、これら構造物の端面に塗布発泡させて被覆する防水工法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−218048号公報
【特許文献2】特開2008−095299号公報
【特許文献3】特開2006−298970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば上述した特許文献1のように、桁端狭隘部の補修方法は知られているものの、桁端狭隘部の橋軸方向の幅は狭く、桁端狭隘部に人が直接立ち入って劣化状況を事前に確認することが困難である。
【0011】
また、例えば上述した特許文献2や特許文献3のように、構造物の劣化対策の技術は多く開示されているが、狭隘部という特殊な条件下での効果的な構造物の表面劣化調査方法は知られていない。より詳細には、狭隘部の一端から狭隘部にビデオスコープを挿入して構造物表面の画像を撮影することは実施されていたものの、この調査方法では正確な撮影場所が特定できないため、正確な劣化状況の把握が困難であった。
【0012】
従って、正確な劣化状況の把握が困難な状況下で実施されることとなる特許文献1の補修方法では、補修が不要な部分まではつるおそれや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になるおそれがあるため、劣化状況や補修状況によっては不経済になることがあるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、構造物間の狭隘部の表面劣化状況を正確に把握できる、構造物間の狭隘部表面劣化調査方法、およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置は、
構造物間の狭隘部の構造物表面に沿ってX方向に移動自在な移動体フレームと、
上記移動体フレームに取り付けられたY方向移動片と、
上記Y方向移動片に先端を取り付け動画撮影部本体に他端を結合したスコープと、
上記移動体フレームのX方向移動量を検知するX方向移動量検知部と、
上記Y方向移動片のY方向移動量を入力するY方向移動量入力手段と、
上記X移動量データ及び上記Y方向移動量データと、上記動画撮影部本体に記録した2次元動画像データとから、上記構造物表面の静止画像データを生成する静止画像データ生成部と、
を備えたことを特徴とする。
【0019】
ここで、本発明にいう「スコープ」とは、例えばビデオスコープやファイバースコープをいう。
【0020】
本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置は、移動体フレームが、構造物間の狭隘部の構造物表面に沿ってX方向に移動自在なものであり、その移動体フレームに取り付けられたY方向移動片に上記スコープの先端が取り付けられているため、本発明によれば、人が直接立ち入ることが困難な狭隘部の表面劣化調査を、狭隘部に人が直接立ち入ることなく実現可能である。また、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置は、上記X移動量データ及び上記Y方向移動量データと、上記2次元動画像データとから、静止画像データを生成する装置であるため、本発明によれば、X移動量データ及びY方向移動量データに基づいて正確な撮影場所を特定することができ、構造物間の狭隘部の表面劣化状況を正確に把握することができる。また、本発明によれば、補修の必要な部分が補修実施前に明らかになるので、その後の補修で、補修が不要な部分まではつることや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になることを回避することができ、不経済になることがない。さらに、本発明によれば、補修を実施した後に再度2次元動画を撮影して静止画像データを生成することにより、実施した補修の効果を直接確認することもできる。
【0021】
ここで、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置は、上記移動体フレームの倒れを防止し、その移動体フレームと上記構造物表面との間の距離を保持する距離保持部材を備えたものであることが好ましい。
【0022】
このような距離保持部材を備えた構造物間の狭隘部表面劣化調査装置によれば、撮影距離が所定の距離に保たれるため、精度良く静止画像データを生成することができる。
【0023】
また、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置は、
「上記狭隘部が、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部、あるいは、対向する桁端間に形成された狭隘部であって、
上記移動体フレームが、上記狭隘部の上記桁端及び上記橋台パラペットの表面に沿ってX方向に移動自在なものであり、
上記静止画像データ生成部が、上記桁端あるいは上記橋台パラペットの表面の静止画像データを生成するものである」
ことが好ましい。
【0024】
上述したように、このような狭隘部では、凍結防止剤を含む漏水の作用を受け、塩害や凍害等による複合劣化の事例が多数確認されているものの、人が直接立ち入って劣化状況を事前に確認することが困難であり、また、正確な劣化状況の把握が困難であった。ところが、このような好ましい形態によれば、上記狭隘部の表面劣化状況を正確に把握することができるため、その後の補修で、補修が不要な部分まではつることや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になることを回避することができ、不経済になることがない。
また、上記目的を達成する本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査方法は、本願発明のいずれかの態様の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置の、スコープの先端が取り付けられているY方向移動片を取り付けた移動体フレームを、構造物間の狭隘部に挿入して、その狭隘部の構造物表面の2次元動画を撮影させ、静止画像データ生成部にその構造物表面の静止画像データを生成させることを特徴とする。
本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査方法によれば、人が直接立ち入ることが困難な狭隘部の表面劣化調査を、狭隘部に人が直接立ち入ることなく実現可能である。また、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査方法は、上記位置データと上記2次元動画像データとから静止画像データを生成するため、本発明によれば、位置データに基づいて正確な撮影場所を特定することができ、構造物間の狭隘部の表面劣化状況が正確に把握される。また、本発明によれば、補修の必要な部分が補修実施前に明らかになるので、その後の補修で、補修が不要な部分まではつることや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になることを回避することができ、不経済になることがない。さらに、本発明によれば、補修を実施した後に再度2次元動画を撮影して静止画像データを生成することにより、実施した補修の効果を直接確認することもできる。
ここで、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査方法は、上記狭隘部が、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部、あるいは、対向する桁端間に形成された狭隘部に適用すると好適である。
上述したように、このような狭隘部では、凍結防止剤を含む漏水の作用を受け、塩害や凍害等による複合劣化の事例が多数確認されているものの、人が直接立ち入って劣化状況を事前に確認することが困難であり、また、正確な劣化状況の把握が困難であった。ところが、このような好ましい形態によれば、上記狭隘部の表面劣化状況が正確に把握されるため、その後の補修で、補修が不要な部分まではつることや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になることを回避することができ、不経済になることがない。
【発明の効果】
【0025】
本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査
装置、およびその装置
を用いた構造物間の狭隘部表面劣化調査方法によれば、構造物間の狭隘部の表面劣化状況を正確に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置についての一実施形態を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す狭隘部表面劣化調査装置の平面図である。
【
図3】コンクリート橋梁上部工を橋軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
図1は、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置についての一実施形態を示す正面図である。また、
図2は、
図1に示す狭隘部表面劣化調査装置の平面図である。尚、
図2では、倒れ防止用ワイヤ131の図示が省略されている。
【0029】
ここで、
図1,
図2における左右方向をX方向とし、
図1における上下方向であって
図2における紙面に垂直な方向をY方向とする。
【0030】
図1,
図2に示すように、狭隘部表面劣化調査装置100には、移動体フレーム110と、Y方向移動片120と、倒れ防止用ワイヤ131と、距離保持プレート132と、移動体フレーム移動装置140と、ビデオスコープ150と、X方向移動量検知部160と、Y方向移動量入力手段170と、静止画像データ生成部180とが備えられている。
【0031】
移動体フレーム110は、構造物間の狭隘部の構造物表面に沿ってX方向に移動自在なフレームである。移動体フレーム110は、間隔を空けてX方向に並べられてそれぞれがY方向に延在する2枚の鋼板111,112と、これら2枚の鋼板111,112を連結するとともに移動体フレーム110の剛性を確保する、間隔を空けてY方向に並べられてそれぞれがX方向に延在する複数枚の補強板113とを有する。また、2枚の鋼板111,112それぞれの下部には、車輪114が設けられている。移動体フレーム110の下方には、X方向に延在するレール200が設けられており、車輪114はレール200上に載せられている。これにより、移動体フレーム110はX方向に移動自在とされている。また、2枚の鋼板111,112それぞれの上部には、倒れ防止用ワイヤ131と係合する、Y方向に隣接した一対の滑車115,116が設けられている。移動体フレーム110が、本発明にいう移動体フレームの一例に相当する。
【0032】
Y方向移動片120は、移動体フレーム110に取り付けられた、X方向に延在するプレートである。Y方向移動片120は、2枚のプレートからなるものであって、移動体フレーム110の2枚の鋼板111,112を挟み込んでボルトで締結されることにより移動体フレーム110に取り付けられている。Y方向移動片120は、鋼板111,112を挟み込む位置を変更することにより、Y方向の位置を所望の位置に変更することができる。また、Y方向移動片120には、ビデオスコープ150の先端151が取り付けられる取付部121を有する。Y方向移動片120が、本発明にいうY方向移動片の一例に相当する。
【0033】
倒れ防止用ワイヤ131は、移動体フレーム110の倒れを防止するとともに、移動体フレーム110のX方向への移動を案内する部材である。倒れ防止用ワイヤ131は、緊張した状態で狭隘部内をX方向に張られ、両端が狭隘部外の構造物表面に固定されている。また、倒れ防止用ワイヤ131のX方向に張られた部分では、移動体フレーム110の2枚の鋼板111,112それぞれの上部に設けられた一対の滑車115,116間を通されている。
【0034】
距離保持プレート132は、移動体フレーム110と構造物表面との間の距離を保持する部材である。距離保持プレート132は、X方向およびY方向と交わる方向に突出した状態で、移動体フレーム110の2枚の鋼板111,112それぞれの上部および下部に設けられている。
【0035】
倒れ防止用ワイヤ131と距離保持プレート132との組み合わせが、本発明にいう距離保持部材の一例に相当する。
【0036】
移動体フレーム移動装置140は、移動体フレーム110をX方向に移動させる装置である。移動体フレーム移動装置140は、移動体フレーム110の2枚の鋼板111,112それぞれに中間部分が固定されて狭隘部内をX方向に延在するベルト141と、狭隘部を挟んで両側の狭隘部外でベルト141の両端側それぞれに設けられてベルト141を巻き取る2つの巻き取りドラム1421,1422と、タイミングベルト143を介して巻き取りドラム1421,1422を駆動するモータ1441,1442とを備えている。また、巻き取りドラム1421,1422には、モータ1441,1442による巻き取りに替えて手動でベルト1421,1422を巻き取るためのハンドル145が設けられている。巻き取りドラム1421,1422およびモータ1441,1442は、狭隘部を挟んで両側の狭隘部外の構造物上に固定された鋼製架台1461,1462上に載置されている。また、一方の鋼製架台1461には、Y方向に延在するパイプ147が固定されており、このパイプ147上には、Y方向に移動自在なテーブル1471が設けられている。
【0037】
ビデオスコープ150は、可撓性を有するスコープである。ビデオスコープ150は、狭隘部の構造物表面を捉える撮像素子(図示省略)を先端151に有し、この先端151がY方向移動片120の取付部121に取り付けられている。これにより、移動体フレーム110のX方向への移動に追従してビデオスコープ150の先端151が移動し、狭隘部の構造物表面の2次元動画が撮影されることとなる。また、ビデオスコープ150の他端152は、動画撮影部本体300に結合されている。動画撮影部本体300には、撮像素子から読み出された2次元動画像データが入力され、記録される。ビデオスコープ150が、本発明にいうスコープの一例に相当し、動画撮影部本体300が、本発明にいう動画撮影部本体の一例に相当する。
【0038】
X方向移動量検知部160は、移動体フレーム110のX方向移動量を検知するものである。X方向移動量検知部160は、狭隘部外に固定されている。本実施形態では、X方向移動量検知部160は、上述したパイプ147上に設けられたテーブル1471に固定されている。また、X方向移動量検知部160は、貫通孔161を有し、貫通孔161にはビデオスコープ150が通されている。そして、移動体フレーム110のX方向への移動に追従してビデオスコープ150の先端151が移動することに伴って、X方向移動量検知部160の貫通孔161を通されたビデオスコープ150が貫通孔161内を通過すると、X方向移動量検知部160によってその通過量が測定される。この通過量は移動体フレーム110のX方向への移動量に等しいため、X方向移動量検知部160で通過量を測定することは、移動体フレーム110のX方向移動量を測定することと等価である。すなわち、本実施形態では、ビデオスコープ150が貫通孔161内を通過する通過量をX方向移動量検知部160で測定することで、間接的に、移動体フレーム110のX方向移動量を検知している。X方向移動量検知部160と動画撮影部本体300との間は、X方向移動量検知部160で検知されたX方向移動量を表すX移動量データを伝送する伝送ケーブル162で繋がれており、X移動量データは伝送ケーブル162を介して動画撮影部本体200に入力され、記録される。X方向移動量検知部160が、本発明にいうX方向移動量検知部の一例に相当する。
【0039】
Y方向移動量入力手段170は、Y方向移動片120のY方向移動量を入力するものである。Y方向移動量入力手段170は、動画撮影部本体300に備えられている。Y方向移動量入力手段170で入力されたY方向移動量は、Y方向移動量データとして動画撮影部本体300に記録される。Y方向移動量入力手段170が、本発明にいうY方向移動量入力手段の一例に相当する。
【0040】
静止画像データ生成部180は、X移動量データ及びY方向移動量データと、動画撮影部本体300に記録した2次元動画像データとから、構造物表面の静止画像データを生成するものである。静止画像データ生成部180が、本発明にいう静止画像データ生成部の一例に相当する。
【0041】
本実施形態の狭隘部表面劣化調査装置100は、移動体フレーム110が、構造物間の狭隘部の構造物表面に沿ってX方向に移動自在なものであり、移動体フレーム110に取り付けられたY方向移動片120にビデオスコープ150の先端が取り付けられているため、人が直接立ち入ることが困難な狭隘部の表面劣化調査を、狭隘部に人が直接立ち入ることなく実現可能である。
【0042】
また、本実施形態の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置は、X移動量データ及びY方向移動量データと、2次元動画像データとから、静止画像データを生成する装置であるため、X移動量データ及びY方向移動量データに基づいて正確な撮影場所を特定することができ、構造物間の狭隘部の表面劣化状況を正確に把握することができる。また、本実施形態の狭隘部表面劣化調査装置100は、倒れ防止用ワイヤ131および距離保持プレート132を備えているため、撮影距離が所定の距離に保たれ、精度良く静止画像データを生成することができる。
【0043】
また、本実施形態の狭隘部表面劣化調査装置100によれば、補修の必要な部分が補修実施前に明らかになるので、その後の補修で、補修が不要な部分まではつることや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になることを回避することができ、不経済になることがない。さらに、本実施形態の狭隘部表面劣化調査装置100によれば、補修を実施した後に再度2次元動画を撮影して静止画像データを生成することにより、実施した補修の効果を直接確認することもできる。
【0044】
尚、上述した実施形態では、本発明にいうスコープが、ビデオスコープである例を挙げて説明したが、本発明にいうスコープは、これに限られるものではなく、例えばファイバースコープであってもよい。
【0045】
以上で、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査装置についての一実施形態の説明を終了する。
【0046】
次に、本発明の構造物間の狭隘部表面劣化調査方法についての一実施形態を説明する。尚、本実施形態では、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部の表面劣化調査方法を説明する。
【0047】
図3は、コンクリート橋梁上部工を橋軸方向から見た図である。
【0048】
以下、
図1,
図2を参照して説明した狭隘部表面劣化調査装置100を用いた表面劣化調査方法を、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0049】
まず、コンクリート橋梁上部工400の桁端410と橋台パラペット510との間に形成された狭隘部600の表面劣化調査に先立ち、狭隘部600のゴミを撤去し、狭隘部600を水洗浄する。
【0050】
次に、狭隘部表面劣化調査装置100を設置する。より詳細には、まず、レール200を、狭隘部600における橋台天端520上に敷設する。また、倒れ防止用ワイヤ131の両端を狭隘部600外の橋台パラペット510表面に固定し、倒れ防止用ワイヤ131を緊張状態とする。その後、狭隘部600外の橋台天端520上に移動体フレーム移動装置140を固定する。また、移動体フレーム110の車輪114をレール200上に載せて移動体フレーム110を狭隘部600に挿入し、移動体フレーム110を狭隘部600の桁端410表面に沿ってX方向に移動自在とする。このとき、移動体フレーム110の一対の滑車115,116間に倒れ防止用ワイヤ131を通す。また、取付部121にビデオスコープ150の先端151が取り付けられたY方向移動片120を、移動体フレーム110の所望の位置に固定する。また、Y方向移動量入力手段170で、方向移動片120のY方向移動量を入力し、Y方向移動量データとして動画撮影部本体300に記録する。
【0051】
このようにして設置された狭隘部表面劣化調査装置100における移動体フレーム110を、移動体フレーム移動装置140のモータ1441,1442を駆動させることで、狭隘部600の桁端410表面に沿ってX方向に一定速度で移動させるとともに、ビデオスコープ150の先端151の撮像素子(図示省略)で狭隘部600の桁端410表面を捉えて、その表面の2次元動画を撮影する。そして、撮像素子から読み出された2次元動画像データが動画撮影部本体300に入力され、記録される。また、X方向移動量検知部160によって移動体フレーム110のX方向移動量が検知され、X方向移動量を表すX移動量データが、伝送ケーブル162を介して動画撮影部本体200に入力され、記録される。
【0052】
尚、移動体フレーム110は、巻き取りドラム1421,1422に設けられたハンドル145を手動で回すことによって移動させてもよい。
【0053】
取付部121にビデオスコープ150の先端151が取り付けられたY方向移動片120の取付位置を変更して2次元動画を撮影するといった工程を繰り返し、狭隘部600の桁端410表面全体に亘る2次元動画像データを取得する。
【0054】
動画撮影部本体200に記録されたX移動量データ及びY方向移動量データと、動画撮影部本体200に記録された2次元動画像データとから、狭隘部600の桁端410表面の静止画像データを生成する。この静止画像データの生成は、2次元動画像データを解析して自動的に静止画像データを作成する技術を用いてもよく、あるいは、例えば2次元動画像データから一秒間に2コマ程度抜き出して合成することによって静止画像データを作成してもよい。
【0055】
上述したように、コンクリート橋梁上部工400の桁端410と橋台パラペット510との間に形成された狭隘部600では、凍結防止剤を含む漏水の作用を受け、塩害や凍害等による複合劣化の事例が多数確認されているものの、人が直接立ち入って劣化状況を事前に確認することが困難であり、また、正確な劣化状況の把握が困難であった。
【0056】
ところが、本実施形態の狭隘部表面劣化調査方法は、狭隘部600内を2次元走行自在な狭隘部表面劣化調査装置100を用いる方法であるため、人が直接立ち入ることが困難な狭隘部600の表面劣化調査を、狭隘部600に人が直接立ち入ることなく実現可能である。また、本実施形態の狭隘部表面劣化調査方法は、位置データと2次元動画像データとから静止画像データを生成する方法であるため、位置データに基づいて正確な撮影場所を特定することができ、狭隘部600の表面劣化状況が正確に把握される。また、本実施形態の狭隘部表面劣化調査方法によれば、補修の必要な部分が補修実施前に明らかになるので、その後の補修で、補修が不要な部分まではつることや、補修が必要な部分が補修されずに再補修が必要になることを回避することができ、不経済になることがない。また、狭隘部600の表面劣化状況に応じて補修方法を決定することができる。さらに、本実施形態の狭隘部表面劣化調査方法によれば、補修を実施した後に再度2次元動画を撮影して静止画像データを生成することにより、実施した補修の効果を直接確認することもできる。
【0057】
尚、上述した実施形態では、本発明にいう狭隘部が、コンクリート橋梁上部工の桁端と橋台パラペットとの間に形成された狭隘部である例を挙げて説明したが、本発明にいう狭隘部は、これに限られるものではなく、例えば対向する桁端間に形成された狭隘部であってもよく、さらには、例えば住宅密集地の家屋間や家屋と外壁との間、機械等設備と壁との間などといった、複数の構造物が近接している狭隘部であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
100 狭隘部表面劣化調査装置
110 移動体フレーム
111,112 鋼板
113 補強板
114 車輪
115,116 滑車
120 Y方向移動片
121 取付部
131 倒れ防止用ワイヤ
132 距離保持プレート
140 移動体フレーム移動装置
141 ベルト
1421,1422 巻き取りドラム
143 タイミングベルト
1441,1442 モータ
145 ハンドル
1461,1462 鋼製架台
147 パイプ
1471 テーブル
150 ビデオスコープ
151 先端
152 他端
160 X方向移動量検知部
161 貫通孔
162 伝送ケーブル
170 Y方向移動量入力手段
180 静止画像データ生成部
200 レール
300 動画撮影部本体
400 コンクリート橋梁上部工
410 桁端
510 橋台パラペット
520 橋台天端
600 狭隘部