(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の意匠面金型及び非意匠面金型を型締めして形成した金型キャビティ内に、溶融した熱可塑性ポリプロピレン樹脂組成物を射出充填して成形する樹脂の射出成形方法であって、
前記熱可塑性ポリプロピレン樹脂組成物が、結晶性ポリプロピレン樹脂とゴム成分を含有し、前記ゴム成分の含有量が1〜40質量%であり、
射出充填前の前記意匠面金型及び前記非意匠面金型のキャビティ形成面の温度を60〜120℃とし、かつ前記意匠面金型のキャビティ形成面の温度を前記非意匠面金型のキャビティ形成面の温度よりも5〜50℃高くし、
前記熱可塑性ポリプロピレン樹脂組成物の射出充填の完了後7秒以内に樹脂圧力を負圧に到達させることを特徴とする樹脂の射出成形方法。
前記意匠面金型のキャビティ形成面の単位面積あたりの表面積が、前記非意匠面金型のキャビティ形成面の単位面積あたりの表面積よりも大きくなっている、請求項1に記載の樹脂の射出成形方法。
前記熱可塑性ポリプロピレン樹脂組成物の射出充填の完了後に、前記意匠面金型及び前記非意匠面金型の型締力(単位:N)を、前記金型キャビティの製品投影面積(単位:mm2)に圧力1〜20MPaを乗じた値まで低下させて、前記樹脂圧力を負圧に到達させる、請求項1又は2に記載の樹脂の射出成形方法。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂を用いて射出成形した射出成形品が広く用いられている。例えば、自動車内装品等においては、板状部の非意匠面(裏面)側に、製品としての剛性、構造強度等を付与するためのリブやボス、あるいは取り付けのためのクリップ等(以下、「リブ等」という。)を設けた射出成形品が用いられている。
このような射出成形品は、例えば、射出成形品の意匠面側を形成する意匠面金型と、非意匠面側を形成する非意匠面金型を型締めすることで形成される金型キャビティに、樹脂を射出充填して成形することで得られる。射出成形品の成形においては、金型キャビティ内に射出充填した樹脂の体積収縮によって、得られる射出成形品の表面にヒケが生じることがある。特に、板状部の非意匠面側に前記したリブ等を設ける射出成形品の場合、成形中に板状部におけるリブ等と接続した部分の樹脂がリブ等側に引き寄せられやすく、その部分の意匠面にヒケが発生しやすい。
【0003】
射出成形品の意匠面にヒケが生じることを抑制する方法としては、例えば、下記方法(i)〜(iv)が挙げられる。
(i)金型のキャビティ形成面を樹脂のガラス転移温度以上の温度に保持した状態で射出成形を行う方法(特許文献1)。
(ii)金型キャビティ内に樹脂を射出充填した後、該金型キャビティ内に非意匠面金型側からガスを注入し、そのガス圧によって樹脂を意匠面金型のキャビティ形成面に押し付けて成形する方法(特許文献2)。
(iii)樹脂のガラス転移温度以上又は熱変形温度以上の温度に加熱した金型の金型キャビティ内に樹脂を射出充填した後、意匠面金型、非意匠面金型の順に、金型の温度を前記ガラス転移温度以下又は熱変形温度以下まで低下させて成形する方法(特許文献3)。
(iv)意匠面金型のキャビティ形成面に断熱層が形成され、さらに該断熱層上に表面金属層が形成された金型を用いて射出成形を行う方法(特許文献4)。
【0004】
一方、自動車内装品等においては、射出成形に結晶性ポリプロピレン樹脂が用いられることが多い。結晶性ポリプロピレン樹脂は結晶化による体積収縮が大きい。そのため、結晶性ポリプロピレンを用いた射出成形品は、他の樹脂を用いたものに比べてヒケが生じやすい。例えば、前記方法(i)について見ると、ポリプロピレン樹脂の成形に於いては金型の表面温度は40℃程度で成形することが一般的である。また、ポリプロピレン樹脂のガラス転移温度は−20℃であることが知られている。すなわち一般的なポリプロピレン樹脂の成形条件は特許文献1に記載の条件に合致するが、このような条件で成形してもヒケを抑制できないことはよく知られた事実である。
同様に前記方法(ii)及び(iv)に於いても、ポリプロピレンの成形に於いては意匠面にヒケが発生することを充分に抑制することができない。
また、自動車内装品等の分野では、軽量化や省エネルギーの観点から射出成形品の薄肉化が進められている。板状部の非意匠面側にリブ等を設けた射出成形品を薄肉化すると、該射出成形品におけるリブ等を設けた部分とリブ等を設けない部分との肉厚比が大きくなる。これにより、成形時に板状部を形成する樹脂がリブ等に引き寄せられて、その部分の意匠面に目立つヒケが発生することが助長されるため、その抑制はさらに困難になる。
以上のことから、結晶性ポリプロピレン樹脂を用いた射出成形品においては、軽量化を目的として製品を薄肉化する際に製品設計の自由度が損なわれている。
【0005】
また、前記方法(iii)では、連続して射出成形品を製造する際に金型の加熱と冷却を繰り返すため、エネルギーロスが非常に大きいという問題もある。また、前記方法(iv)では、特殊な金型を使用する必要があり、金型のメンテナンスの面でも不利である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[樹脂の射出成形方法]
本発明の樹脂の射出成形方法は、一対の意匠面金型及び非意匠面金型を型締めして形成した金型キャビティ内に、溶融した熱可塑性ポリプロピレン樹脂組成物(以下、「熱可塑性PP樹脂組成物」という。)を射出充填して成形する方法である。以下、本発明の樹脂の射出成形方法の一例として、
図1に例示した金型100を用いた樹脂の射出成形方法について説明する。
金型100は、
図1に示すように、樹脂の射出成形品(以下、単に「射出成形品」ということがある。)の意匠面側を形成するための意匠面金型110と、射出成形品の非意匠面側を形成するための非意匠面金型112と、を有している。非意匠面金型112のキャビティ形成面112aには、射出成形品の非意匠面側のリブ等を形成するための複数の凹み部(
図1では簡素化して2つの凹部116,116と表現している。)が形成されている。金型100は、意匠面金型110と非意匠面金型112を型締めすることで金型キャビティ114が形成されるようになっている。金型キャビティ114は、板状部と、該板状部の両端の非意匠面側から垂直に延びる側壁部と、該板状部における一対の前記側壁部間の非意匠面側から垂直に延びる複数のリブ等と、を有する射出成形品と相補的な形状になっている。
また、非意匠面金型112には、射出成形後に射出成形品を押し出して脱型するためのエジェクターピン118,118が設けられている。
【0014】
金型100を用いた樹脂の射出成形方法としては、例えば、下記の射出充填工程、成形工程及び脱型工程を有する方法が挙げられる。
射出充填工程:意匠面金型110と非意匠面金型112を型締めして形成した金型キャビティ114内に、溶融した熱可塑性PP樹脂組成物を射出充填する工程。
成形工程:前記熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填の完了後7秒以内に樹脂圧力を負圧に到達させて成形し、
図2に示すように、射出成形品10を得る工程。
脱型工程:意匠面金型110と非意匠面金型112を開き、成形された射出成形品10を脱型する工程。
【0015】
(熱可塑性PP樹脂組成物)
本発明の樹脂の射出成形方法に使用する熱可塑性PP樹脂組成物は、結晶性ポリプロピレン樹脂(以下、「結晶性PP樹脂」という。)とゴム成分を含有する。
結晶性PP樹脂としては、公知のものを制限なく使用でき、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンと少量のエチレン等のα−オレフィンの共重合体等が挙げられる。
ゴム成分としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。
【0016】
熱可塑性PP樹脂組成物中のゴム成分の含有量は、1〜40質量%であり、5〜35質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。ゴム成分の含有量が下限値以上であれば、熱可塑性PP樹脂組成物の体積収縮がより小さくなり、成形中に熱可塑性PP樹脂組成物と意匠面金型110のキャビティ形成面110aとが密着した状態が維持されやすくなるので、射出成形品の意匠面にヒケが発生することが抑制されるが、下限値未満では熱可塑性PP樹脂組成物の体積収縮がより大きくなり、成形中に熱可塑性PP樹脂組成物と意匠面金型110のキャビティ形成面110aとが密着した状態が維持されにくくなるので、ヒケ抑制効果が発揮されない。一方、ゴム成分の含有量が上限値を超えると、ポリプロピレン樹脂としての物性を保持することが困難となるため、製品としての実用性が乏しくなる。
【0017】
本発明で使用する熱可塑性PP樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、結晶性PP樹脂及びゴム成分以外の他の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、例えば、タルクやガラス繊維等の補強材や、着色するための顔料、劣化を防止するための老化防止剤等が挙げられる。
【0018】
(射出充填工程)
射出充填工程では、熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填前における意匠面金型110のキャビティ形成面110aの温度T
1と、非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度T
2を60〜120℃とし、かつ意匠面金型110のキャビティ形成面110aの温度T
1を非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度T
2よりも5〜50℃高くしておく。そして、このように温度設定した状態の意匠面金型110と非意匠面金型112で形成される金型キャビティ114内に、溶融した熱可塑性PP樹脂組成物を射出充填する。
射出充填する前の前記温度T
1と前記温度T
2を前記の条件にすることで、得られる射出成形品の意匠面にヒケが発生することが抑制される。このような効果が得られる要因は以下のように考えられる。
【0019】
結晶性PP樹脂は成形時における体積収縮が大きいため、ヒケの発生しやすい樹脂である。特に結晶性PP樹脂を用いて薄肉化した射出成形品を製造する場合、前記温度T
1と前記温度T
2を同じ温度とする従来の方法では、
図3に示すように、得られる射出成形品210の意匠面210a側や非意匠面210b側にヒケの発生が顕著である。
これに対して、本発明の樹脂の射出成形方法では、意匠面金型110のキャビティ形成面110aよりも非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの方が温度が低いため、金型キャビティ114内に射出充填された熱可塑性PP樹脂組成物は、意匠面金型110側に比べて非意匠面金型112側が速く冷却される。これにより、金型キャビティ114内においては、熱可塑性PP樹脂組成物の体積収縮により非意匠面金型112側と樹脂成形品の隙間が発生しやすくなり、それによって、金型キャビティ114内での体積収縮による熱可塑性PP樹脂組成物の形状変化が、非意匠面金型112側から意匠面金型110側に向かって縮まるように起こると考えられる。さらに意匠面金型110のキャビティ形成面110aの温度が65〜120℃となっているため、通常の成形に比べて樹脂の冷却が遅い。そのため、成形中に熱可塑性PP樹脂組成物が意匠面金型110のキャビティ形成面110aに密着した状態が長時間維持されることで、
図2に示すように、体積収縮によって生じるヒケが射出成形品10の非意匠面10b側に集中し、射出成形品10の意匠面10a側にヒケが生じることが抑制されると考えられる。このように、本発明の樹脂の射出成形方法では、ヒケの発生が全体的に抑制されるわけではなく、発生するヒケが非意匠面側に集められることで、結果的に意匠面側でのヒケの発生が抑制される。射出成形品の非意匠面は、通常消費者等の目に触れる面ではないので、非意匠面側でヒケが発生する量が増えても製品としては全く問題がない。
【0020】
意匠面金型110のキャビティ形成面110aの温度T
1は、65〜120℃が好ましく、75〜118℃がより好ましく、80〜115℃がさらに好ましい。前記温度T
1が下限値以上であれば、射出成形品10の意匠面10aにヒケが発生することを抑制しやすい。また、前記温度T
1が上限値以下であれば、結晶性PP樹脂の結晶化が進行しやすく、冷却時間を延ばさなくても脱型の際に射出成形品10が変形することを抑制しやすい。
非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度T
2は、60℃以上で、かつ意匠面金型110のキャビティ形成面110aと非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度差(T
1−T
2)が+5〜+50℃となる範囲に適宜設定すればよい。
温度T
1及び温度T
2が60℃以上になっていることで、成形中の熱可塑性PP樹脂組成物の体積収縮が小さくなり、成形中において熱可塑性PP樹脂組成物が意匠面金型110のキャビティ形成面110aと密着した状態を長時間保持することが可能となり、意匠面にヒケが発生することが抑制される。また、得られる射出成形品のウェルド外観も向上する。
【0021】
意匠面金型110のキャビティ形成面110aと非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度差(T
1−T
2)は、+5〜+30℃がより好ましく、+5〜+20℃が更に好ましい。前記温度差(T
1−T
2)が+5℃以上であれば、射出成形品10の意匠面10aにヒケが発生することを抑制できる。前記温度差(T
1−T
2)が上限値以下であれば、非意匠面金型112側で結晶性PP樹脂の結晶化が急速に進行しすぎることを抑制しやすい。そのため、熱可塑性PP樹脂組成物が非意匠面金型112側から意匠面金型110側に向かって縮まりやすくなり、ヒケを非意匠面側に集中させることで、意匠面にヒケが発生することを抑制することが容易になる。
【0022】
意匠面金型110のキャビティ形成面110aの温度T
1と非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度T
2を制御する形態は、特に限定されず、意匠面金型110と非意匠面金型112のキャビティ形成面110a,112aの近傍のみを加熱して制御してもよく、意匠面金型110と非意匠面金型112を全体的に加熱して制御してもよい。また、加熱方法も特に限定されず、公知の加熱方法を制限なく採用できる。
射出充填する熱可塑性PP樹脂組成物の温度は、180〜240℃が好ましい。また、熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填時間は、0.1〜10秒が好ましい。射出充填時間とは、射出充填の開始から完了までの時間である。
【0023】
(成形工程)
成形工程では、熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填の完了後7秒以内に金型内の樹脂圧力を負圧に到達させて成形を行う。これにより、非意匠面側のスキン層が発達する前に自由表面となることができるため、ヒケを非意匠面側に充分に集めて、意匠面にヒケが発生することを抑制することができる。
射出充填の完了から樹脂圧力が負圧に到達するまでの時間t(以下、「負圧到達時間t」という。)は、5秒以内が好ましく、3秒以内がより好ましい。負圧到達時間tが短いほど、得られる射出成形品の意匠面にヒケが発生することを抑制しやすい。
なお、本発明において、樹脂圧力が負圧に到達するとは、射出充填の完了後に樹脂圧力が0になったときを意味するものとする。
【0024】
負圧到達時間tは、意匠面金型110と非意匠面金型112の型締力によって熱可塑性PP樹脂組成物の樹脂圧力を制御する、又は熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填量によって熱可塑性PP樹脂組成物の樹脂圧力を制御することで所望の範囲に調節することができる。なかでも、意匠面金型110と非意匠面金型112の型締力によって熱可塑性PP樹脂組成物の樹脂圧力を制御することで負圧到達時間tを所望の範囲に調節することが好ましい。
この場合、熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填の完了後に、意匠面金型110及び非意匠面金型112の型締力(単位:N)を、金型キャビティ114の製品投影面積(単位:mm
2)に圧力1〜20MPaを乗じた値まで低下させることで樹脂圧力が負圧に到達することを補佐することが好ましく、前記製品投影面積に圧力1〜10MPaを乗じた値まで低下させることで樹脂圧力が負圧に到達することを補佐することがより好ましい。これにより、射出成形品の意匠面にヒケが発生することを抑制することがより容易になる。特に製品の厚みが薄い場合に於いては、キャビティ内に溶融樹脂を充填するのに必要な圧力が高くなり、射出完了直後の樹脂圧力が高くなる。それに加え、厚み方向の収縮量も小さくなるため、樹脂の充填量の制御だけでは所定時間内に負圧に到達させることが困難となる場合がある。このような場合においても、型締力により樹脂圧力を制御することで、負圧到達時間を所望の時間内にすることが可能となるため、好都合である。尚、型締力を低下させた後の樹脂圧力が20MPa以上では、その後の樹脂の冷却収縮による圧力低下だけでは、所望の時間内に確実に樹脂圧力を負圧に到達させることが難しい場合があるので好ましくない。逆に1MPa以下では樹脂圧力が不均一になり、局部的に降圧動作により樹脂圧力が負圧に到達する場合がある。この場合、確実に非意匠面側に隙間を発生させることが難しく、意匠面側に隙間が発生し易い。意匠面側に隙間が発生すると、所望する意匠面にヒケの無い成形品を得ることが出来ないため好ましくない。
前記製品投影面積は、金型キャビティ114内の射出成形品10を意匠面金型110又は非意匠面金型112に投影したときの面積、すなわち金型キャビティ114内の射出成形品10を、意匠面金型110側又は非意匠面金型112側から見たときの面積である。
【0025】
熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填が完了する前の意匠面金型110及び非意匠面金型112の型締力(単位:N)は、金型キャビティ114の製品投影面積(単位:mm
2)に圧力20〜40MPaを乗じた値で成形されることが一般的であるが、この値に限定されるものではない。
【0026】
成形工程における意匠面金型110のキャビティ形成面110aの温度T
1と非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの温度T
2は、射出充填工程における条件を満たす範囲であれば変化させてもよいが、エネルギーロスを低減する観点から、射出充填工程時の温度のままで維持させることが好ましい。
【0027】
(脱型工程)
成形工程の後、意匠面金型110と非意匠面金型112を開き、エジェクターピン118によって射出成形品10を押し出して脱型する。
【0028】
本実施形態の樹脂の射出成形方法では、意匠面金型110のキャビティ形成面110aの単位面積あたりの表面積が、非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの単位面積あたりの表面積よりも大きくなっていることが好ましい。これにより、金型キャビティ114内に充填した熱可塑性PP樹脂組成物と意匠面金型110のキャビティ形成面110aとの接触面積が、該熱可塑性PP樹脂組成物と非意匠面金型112のキャビティ形成面112aとの接触面積よりも大きくなるので、該熱可塑性PP樹脂組成物が意匠面金型110のキャビティ形成面110aに密着しやすくなる。そのため、ヒケが射出成形品の非意匠面側に集中しやすくなり、より射出成形品の意匠面にヒケが発生し難くなる。
意匠面金型110のキャビティ形成面110aの単位面積あたりの表面積を、非意匠面金型112のキャビティ形成面112aの単位面積あたりの表面積よりも大きくする方法としては、加工容易性の点から、シボ加工や梨地加工が好ましい。
【0029】
以上説明したように、従来では、結晶性PP樹脂を用いると、射出成形品の意匠面にヒケが発生することが避けられなかった。また、板状部の非意匠面側にリブ等を設けた射出成形品を製造する場合、
図3に示すようにリブ214の大部分が凹部116に密着するため、リブ214の抜き抵抗が大きくなる。そのため、エジェクターピン118による脱型の際に射出成形品210の板状部212が変形することがあった。
これに対し、本発明の樹脂の射出成形方法によれば、結晶性PP樹脂を用いても、射出成形品の意匠面にヒケが発生することを充分に抑制でき、高品質な射出成形品が得られる。また、本発明では非意匠面側でヒケが多く発生するので、
図2に示すように、リブ14があまり凹部116に密着していない。そのため、エジェクターピン118による脱型時のリブ14の抜き抵抗が小さく、薄肉の板状部12を有する射出成形品10であっても変形が生じ難い。さらに、本発明では、特別な金型を使用する必要はなく、また金型を繰り返し加熱したり冷却したりする必要もないのでエネルギーロスも小さくできる。
なお、本発明の樹脂の射出成形方法は、前記した金型100を用いる方法には限定されない。
【0030】
[樹脂の射出成形品]
本発明の樹脂の射出成形品は、前述した本発明の樹脂の射出成形方法により製造される射出成形品である。本発明の樹脂の射出成形品は、意匠面と非意匠面を有し、前述した本発明の樹脂の射出成形方法により製造されたものであれば特に限定されない。
本発明の射出成形品の用途としては、自動車のピラー等の自動車内装品、洗濯機の天板等の家電製品、トイレの便座カバー等の住宅設備用品等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
熱可塑性PP樹脂組成物として、市販のポリプロピレン樹脂(ゴム分:1質量%/熱分解ガスクロマトグラフィーで分析)を使用し、肉厚1.5mmのピラー形状で、リブを有する射出成形品を製造するための金型を使用して射出成形品の製造を行った。リブは、厚み2.0mm、1.5mm、1.2mmの3種類とした。
使用する金型における意匠面金型のキャビティ形成面には、鏡面加工(#1200)を施した。
前記射出成形品の射出成形においては、熱可塑性PP樹脂組成物の射出充填前における意匠面金型のキャビティ形成面の温度T
1を115℃、非意匠面金型のキャビティ形成面の温度T
2を110℃とし、それらの温度差(T
1−T
2)を5℃とした。前記温度T
1と温度T
2は、射出充填直前の温度を接触式表面温度測定器により測定した。熱可塑性PP樹脂組成物を射出充填する際のバレル温度は200℃とし、射出充填時間を2秒とした。
また、射出充填前の、意匠面金型と非意匠面金型の型締力(単位:N)を、金型キャビティの製品投影面積(単位:mm
2)に圧力30MPaを乗じた値とした。そして、射出充填完了後に、意匠面金型と非意匠面金型の型締力(単位:N)を、金型キャビティの製品投影面積に圧力2MPaを乗じた値まで低下させることで樹脂圧力を負圧に到達させ、負圧到達時間tを3秒とした。樹脂圧力は金型に取り付けた樹脂圧力センサー(日本キスラー社製直圧式圧力センサー)により測定し、射出充填完了から樹脂圧力が0に到達したときまでの時間を負圧到達時間tとした。
【0032】
[実施例2〜15]
熱可塑性PP樹脂組成物の組成、意匠面金型のキャビティ形成面の加工法、意匠面金型と非意匠面金型のキャビティ形成面の温度T
1、T
2、及び負圧到達時間tを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして射出成形品を得た。
【0033】
[比較例1〜5]
熱可塑性PP樹脂組成物の組成、意匠面金型のキャビティ形成面の加工法、意匠面金型と非意匠面金型のキャビティ形成面の温度T
1、T
2、及び負圧到達時間tを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして射出成形品を得た。
【0034】
[意匠面の評価]
各例で得られた射出成形品の意匠面について、非意匠面側に厚み2.0mmのリブが形成された部分、非意匠面側に厚み1.5mmのリブが形成された部分、非意匠面側に厚み1.2mmのリブが形成された部分、及び非意匠面側にリブが形成されていない部分(一般部)におけるヒケの程度を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
「A」:ヒケが見られない。
「B」:ごくわずかにヒケが見られるが、ほとんど目立たず製品として問題ない。
「C」:多少のヒケが見られるが、あまり目立たず製品として問題ない。
「D」:目立つヒケが見られる。
【0035】
【表1】
【0036】
本発明の樹脂の射出成形方法で成形した実施例1〜15の射出成形品は、結晶性PP樹脂製であるが、比較例1、3〜5に比べて、非意匠面側にリブが形成された部分の意匠面のヒケの発生が抑制され、意匠面全体としてもヒケが抑制されていた。また、意匠面金型のキャビティ形成面を革シボ加工した実施例7〜11は、意匠面金型のキャビティ形成面を鏡面加工又はホーニング加工した実施例1〜4、6に比べて、意匠面のヒケの発生がより抑制されていた。
一方、ゴム成分を含有しない熱可塑性PP樹脂組成物を使用した比較例1では、意匠面における、厚み1.2mm、1.5mm、2.0mmのリブが設けられている部分にいずれも目立つヒケが発生した。
射出充填前における意匠面金型と非意匠面金型のキャビティ形成面の温度差(T
1−T
2)が+5℃未満の比較例2では、意匠面におけるリブが設けられた部分にはヒケが発生していなかったが、意匠面におけるリブの設けられていない部分に目立つヒケが発生し、全体として意匠性が低かった。また、温度差(T
1−T
2)が+50℃を超える比較例3では、意匠面における、厚み1.5mm、2.0mmのリブが設けられている部分に目立つヒケが発生した。
また、負圧到達時間tが7秒を超える比較例4、5では、意匠面における、厚み1.5mm、2.0mmのリブが設けられている部分に目立つヒケが発生した。