(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997955
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】車両用サスペンションのスプリング
(51)【国際特許分類】
F16F 1/02 20060101AFI20160915BHJP
B60G 11/14 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
F16F1/02 Z
B60G11/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-155610(P2012-155610)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2013-185708(P2013-185708A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年7月1日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0022597
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】慶 宇 敏
(72)【発明者】
【氏名】姜 鉉 旻
(72)【発明者】
【氏名】韓 道 錫
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−184238(JP,A)
【文献】
特表2010−526261(JP,A)
【文献】
特開平09−303457(JP,A)
【文献】
実開昭56−127438(JP,U)
【文献】
特開2000−329181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00−6/00
B60G 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションに設置されたロアシートと車体との間に支持されて設けられ、内部が中空の蛇腹管形状に形成されて弾性力を提供するスプリングを含み、
前記スプリングは、非線形特性を付与するために外部側に溝形状にスリットが形成され、
前記スリットは、前記スプリングの軸線方向に対して垂直な方向に形成され、スプリングの山の端部分に形成されたことを特徴とする車両用サスペンションのスプリング。
【請求項2】
前記スプリングは、異種の材質の材料で製造されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンションのスプリング。
【請求項3】
前記スプリングは、内層と外層とからなり、内層と外層とが互いに異なる材質の材料で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンションのスプリング。
【請求項4】
前記スプリングは、前記内層が弾性材質の材料で形成され、前記外層が剛性材質の材料で形成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両用サスペンションのスプリング。
【請求項5】
前記スリットは、前記スプリングの山部分ごとに形成され、前記スリットは軸線方向を基準に同一線上に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンションのスプリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンションのスプリングに係り、より詳しくは、サスペンションの金属材スプリングを異なる材質の材料を組合わせた蛇腹管形状のスプリングで代替した車両用サスペンションのスプリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車の車体はタイヤと連結されるサスペンションによって支持される。
サスペンションは車両の走行中に発生する各種振動と衝撃を吸収して乗り心地を向上させ、路面状態に応じて車体の全体的なバランスを調整する。また、旋回時には遠心力に対抗して運転者の安定的な操縦性を確保して、遠心力による一方向への傾き現象を防止する役目をする。
【0003】
一方、サスペンションに設置されるスプリングは、上下方向の運動に対して反力を提供してサスペンションの機構学的動きに最も大きな影響を与える核心部品である。このようなサスペンションに使用されるスプリングには、スプリング鋼を積層して使用するリーフスプリング(leaf spring)と、コイル状に巻いたコイルスプリング(coil spring)がある。
【0004】
図1は、従来技術によるサスペンションのコイルスプリング装着構成を示した斜視図である。図示したとおり、コイルスプリング10が使用されるサスペンション1の場合、コイルスプリング10の上端には車体に結合されるインシュレーター12が設けられ、コイルスプリング10の下端はストラットの一部に支持され固定されたロアシート14の上面に装着される。
このようなコイルスプリング10は、通常金属材質で製造されており、車両に装置される構造の特性上外部に露出することから、腐食を防止するために表面を塗装して使用される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図2は、従来技術によるコイルスプリングの塗膜剥離及び破断現象を示した図面である。
図2に示したとおり、車両の走行環境によっては塗装がはげて内部金属が露出する場合、腐食等による損傷や破断がおき、耐久性に問題が発生することがある。
また、サスペンション機構の軽量化のために高張力鋼でスプリング鋼を使用する場合、シリコーン系の添加によってスプリングの脆性が強まって急激に破断が発生する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−299737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、荷重を減らし、振動を低減するようにした車両用サスペンションのスプリングを提供するところにある。
また他の目的とするところは、スプリングの剛性及び非線形性を向上させた車両用サスペンションのスプリングを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の車両用サスペンションのスプリングは、サスペンションに設置されたロアシートと車体との間に支持されて設けられ、内部が中空の蛇腹管形状に形成されて弾性力を提供するスプリングを含むことを特徴とする。
【0009】
スプリングは、異種の材質の材料で製造されたことを特徴とする。
スプリングは、内層と外層とからなり、内層と外層とが互いに異なる材質の材料で構成されたことを特徴とする。
スプリングは、内層が弾性材質の材料で形成され、外層が高剛性材質の材料で形成されたことを特徴とする。
スプリングの外部側に溝形状にスリットを形成して、スプリングに非線形特性を付与したことを特徴とする。
【0010】
スリットは、スプリングの軸線方向に対して垂直な方向に形成されたことを特徴とする。
スリットは、スプリングの山の端部分に形成されたことを特徴とする。
スリットはスプリングの山部分ごとに形成され、スリットは軸線方向を基準に同一の垂直線上に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、スプリングの内層と外層が互いに異なる材質の材料で製造されたことにより、スプリングの減衰係数が高くなり、金属材スプリングに比べてサスペンションの振動がさらに早く減衰して乗り心地を向上させることができ、スプリングを通じて伝達されるホイールの振動もさらに早く減衰させる効果がある。
さらに、蛇腹型のスプリングの重量が金属材のコイルスプリングの重量よりずっと軽いので、スプリングの固有振動数が金属スプリングに比べて高周波数帯域に現われるようになり、車両の走行中に伝達される低周波数帯域の荷重との共振が発生する恐れが減少してNVH性能が優れる効果もある。
また、スプリングにスリットを形成したり、スプリングの外径、蛇腹角等の断面構造を変更してスプリングの剛性及び非線形性を任意に調節することができるため、サスペンションが要求するスプリングの特性を満足するようにスプリングを設計して車両の操縦安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来技術によるサスペンションのコイルスプリング装着構成を示した斜視図である。
【
図2】従来技術によるコイルスプリングの塗膜剥離及び破断現象を示した図面であり、(a)は塗膜剥離及びショットピーニング部の損傷、(b)は塗膜損傷部と破断部を示した。
【
図3】本発明による蛇腹型のスプリングの形状を図示した正面図である。
【
図4】本発明によるスプリングの断面図であり、内層と外層の構造を拡大して示した。
【
図5】(a)は、本発明によるスプリングにスリットが形成された形態を示した斜視図であり、(b)はその平面図である。
【
図6】本発明による蛇腹型のスプリングと従来の金属スプリングの振動減衰の程度を比較して示した図面である。
【
図7】本発明による蛇腹型のスプリングと従来の金属スプリングの固有振動数とそれに伴うスプリングの形状を比較して示した図面であり、(a)は従来のスプリングの上下動と曲りを示し、(b)は本発明のスプリングの曲りと上下動を示す。
【
図8】本発明によるスプリングの荷重とスプリング変位の特性を比較した図であり、(a)は、蛇腹角、(b)は谷部分の外径及び(c)は山部分の外径の変化を示した。
【
図9】本発明によるスプリングでスリットの有無及び形成個数に伴うスプリングの非線形特性を比較して示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の望ましい実施例を添付した図面に基づいて詳しく説明する。
図3は、本発明による蛇腹型のスプリング100の形状を図示した正面図である。図示したとおり、本発明のスプリング100は、内部が中空の蛇腹管の形状(蛇腹型)に形成され、サスペンションに設置されたロアシート300と車体200の間に設けられて弾性力を提供する。
【0014】
具体的には、スプリング100の上端は、インシュレーター(図示しない)等によって車体200に支持され、スプリング100の下端は、サスペンションのストラットに設置されたロアシート300の上面に固定され、スプリング100を支持するように設置される。
すなわち、従来のコイル型スプリングに替えて蛇腹型のスプリング100がサスペンションに設置される。蛇腹型のスプリング100構造は、上下方向の荷重に対して蛇腹構造の端部で弾性変形による反力が発生し、荷重が除去されると元の形状に復元するスプリングの役目をする。
また、荷重が一定以上の荷重で作用する場合、蛇腹型構造の上下面が互いに接触して高い反力を維持し、既存の金属製のスプリングと同等の作動をする。
【0015】
図4は、本発明によるスプリングの断面図であり、内層と外層の構造を拡大して示した。図示したとおり、本発明のスプリング100は、異種の材料を組合せて製造することができる。具体的に、スプリング100は、内層110と外層120からなり、内層110と外層120が互いに異なる材質の材料で構成される。望ましくは、内層110は弾性材質の材料で形成され、外層120が高剛性材質の材料で形成される。この時、高剛性材質の材料は、合金または単一金属である。
すなわち、本発明は、内層110と外層120の二重構造に製造することにより、内層110は振動低減のための弾性がある素材を適用してスプリング100の圧縮に伴う内径部分の接触時の衝撃を低減し、高い振動減衰力を利用してサスペンションのNVH性能を向上させる。
また、外層120は高剛性材料で成形してスプリング100に剛性特性を与える。
【0016】
図5(a)は、本発明によるスプリングにスリットが形成された形態を示した斜視図であり、(b)はその平面図である。図示したとおり、スプリング100の外部側に溝形状にスリット130を形成して、スプリング100に非線形特性を付与するすることができる。
具体的に、スリット130は、スプリング100の軸線方向に対して垂直な方向に形成される。すなわち、スプリング100の長さ方向の中心の軸線を基準とする時、この中心軸に向かってスプリングの外周より一定の深さと幅を持ったスリット130が形成され、その結果、スリット130が蛇腹型スプリング100に放射状に形成される。
【0017】
この時、スリット130は、一つまたは複数形成されることができ、スリット130の個数に応じて非線形の特性が変わるため、使用者の要求条件に適した非線形性を付与するようにスリット130の個数を調節する。
スリット130は、スプリング100の山140の端部分に形成される。また、スリット130は、スプリング100の山140部分ごとに形成され、スリット130は中心軸線を基準に同心円上に形成される。
すなわち、蛇腹型のスプリング100の形状が山140部分と谷150部分が繰り返される構造からなり、スリット130は、スプリング100の山140の端部分に形成される。そして、スプリング100の形成されたそれぞれの山140部分には、スリット130を同一の垂直線上に形成することができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
以下に、本発明の蛇腹型のスプリング100の作用及び効果を詳細に説明する。
図6は、本発明による蛇腹型のスプリングと従来の金属スプリングの振動減衰の程度を比較して示した図面である。一般的に、蛇腹型のスプリングは単一金属材質のスプリングに比べて材質の減衰係数(damping coefficient)が高いので同一の振動が発生した場合、振動をさらに早く減衰させる。すなわち、複数の材料で形成された本発明の蛇腹型のスプリング100の場合、金属材のコイルスプリングに比べてサスペンションの振動をさらに早く減らせるので乗り心地を向上させることができ、スプリング100を通じて伝達されるホイールの振動もまたさらに早く減衰させて車両に伝達する。
【0019】
図7は、本発明による蛇腹型のスプリングと従来の金属スプリングの固有振動数とそれに伴うスプリングの形状を比較して示した図面であり、(a)は従来のスプリングの上下動と曲りを示し、(b)は本発明のスプリングの曲りと上下動を示す。図示したとおり、同一の剛性を示すスプリング100構造で、本発明の蛇腹型のスプリング100の重量が金属材のコイルスプリングの重量よりずっと軽いので、スプリング100の固有振動数が金属スプリングに比べて高く現われる(49.9Hz→70.9Hz)。したがって、車両の走行中に入力される低周波数帯域(50Hz以下)の荷重と共振が発生する恐れが少ないためNVH関連性能が高くなる。
【0020】
図8は、本発明によるスプリングの荷重とスプリング変位の特性を比較した図であり、(a)は、蛇腹角、(b)は谷部分の外径及び(c)は山部分の外径の変化を示した。ここで、蛇腹角は外層の山部分の尖り角度を示し、スプリング100で蛇腹角θと谷150部分の外径D1及び山140部分の外径D2の変化に伴うスプリング100の特性を比較すると、蛇腹角θと、谷150部分の外径D1と、山140部分の外径D2または内層110及び外層120の厚さを変化させると、荷重に対するスプリング100変位の特性が
図8に図示したとおりに変更される。したがって、上記のスプリング100の設計変数の変更によって使用者の要求条件に合うスプリング100特性を設計することができる。
【0021】
図9は本発明によるスプリングでスリットの有無及び形成個数に伴うスプリングの非線形特性を比較して示した図面である。
図示したとおり、スプリング100に非線形特性が付与される。したがって、これを利用して使用者の要件条件に適したスプリング100の非線形特性が付与されるようにスプリング100を設計することができる。
【0022】
以上、本発明に関する好ましい実施例を説明したが、本発明の範囲は特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって解釈されなければならない。また、この技術分野で通常の知識を有する者なら、本発明の技術的範囲内で多くの修正と変形ができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0023】
1:サスペンション
10:コイルスプリング
12:インシュレーター
14,300:ロアシート
100:スプリング
110:内層
120:外層
130:スリット
140:山
150:谷
200:車体
D1:谷150部分の外径
D2:山140部分の外径
θ:蛇腹角