特許第5997970号(P5997970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997970トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997970
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20160915BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20160915BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
   A23L7/10 Z
   A61K31/575
   !A61P3/06
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-176669(P2012-176669)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34547(P2014-34547A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】福原 真平
(72)【発明者】
【氏名】小松 利照
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−257064(JP,A)
【文献】 特開2012−206958(JP,A)
【文献】 特開2013−000008(JP,A)
【文献】 特開2013−046611(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015377(WO,A1)
【文献】 ANIL KUMAR H.G. et al.,Effect of Cooking of Rice Bran on the Quality of Extracted Oil,Journal of Food Lipids,2006年12月,Vol.13, No.4,pp.341-353
【文献】 榎本鼓 他,米ぬかの水熱処理物から機能性物質の抽出,平成22年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集,2010年,Vo.54th N-27,pp.1181-1182
【文献】 VIRAKTAMATH C S,Large scale trials for stabiliaztion of rice bran with steam,Journal of Food Science and Technology,1974年,Vol.11, No.4,pp.191-193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米糠に水を0.3質量倍以上5質量倍以下添加した後、110℃以上200℃以下で60分以上300分以下熱処理する工程を含む、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法。
【請求項2】
熱処理を水蒸気の存在下で行う、請求項1記載のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法。
【請求項3】
水蒸気が飽和水蒸気である、請求項記載のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法。
【請求項4】
原料米糠に水を添加した後、熱処理する前に5〜35℃に2分以上12時間以下保持する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法。
【請求項5】
トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠が、原料米糠に対してシクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計の含有量が40質量%以上増加した米糠である、請求項1〜4のいずれか1項記載のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法。
【請求項6】
シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールを合計で米糠100g中に95mg以上含むトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠、又は請求項記載のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠に、炭化水素類、ケトン類、及びエーテル類から選ばれる少なくとも1種の溶剤を接触させて抽出を行う、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油の製造方法。
【請求項8】
炭化水素類が、ヘプタン、ヘキサン、及びシクロヘキサンから選ばれる1種以上である、請求項記載のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠及びその製造方法、並びにトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリテルペンアルコールは、炭素数30又は31の四環性の化合物で、米糠油等の穀類の糠油中に含まれる成分である。また、トリテルペンアルコールは、γ−オリザノールを構成するアルコール部分の主要な成分でもある。トリテルペンアルコールの生理機能に関しては様々な報告があり、例えば、血中コレステロール低下作用、脂質吸収抑制作用、アディポネクチン分泌促進作用等が報告されている(非特許文献1、特許文献1及び2)。
【0003】
近年の健康指向を背景に、これらトリテルペンアルコールの生理作用を効果的に得ることが求められている。その要望を満たすには、油のような日常の調理等を通して容易に無理なく摂取できる形態が望ましい。さらに、トリテルペンアルコールを遊離体として摂取するのが望ましい。
しかしながら、通常の米糠油中のトリテルペンアルコールの多くはフェルラ酸エステル或いは脂肪酸エステルとして存在し、遊離体は僅か0.2質量%程度占めるに過ぎない。
従来、トリテルペンアルコール遊離体を得るには、米糠油からγ−オリザノールを分離する工程、及び分離されたγ−オリザノールをアルカリで加水分解する工程が必要であった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−257064号公報
【特許文献2】特開2005−68132号公報
【特許文献3】特開2012−41304号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】動脈硬化 Vol.13,No.2 June(1985)273−278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、トリテルペンアルコール遊離体を高濃度に含む米糠及び米糠油を製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、米糠に一定量の水を添加した後、熱処理を施すと、米糠中のトリテルペンアルコール遊離体の含有率が高まることを見出した。即ちγーオリザノールを分離することなくトリテルペンアルコール遊離体の濃度を高めることができることを見出した。
また、斯かる米糠より油脂を抽出することで、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、原料米糠に水を0.3質量倍以上5質量倍以下添加した後、100℃以上200℃以下で熱処理する工程を含む、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠を提供するものである。
また、本発明は、上記製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠に、炭化水素類、ケトン類、及びエーテル類から選ばれる少なくとも1種の溶剤を接触させて抽出を行う、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、米糠中のトリテルペンアルコール遊離体含有率を高めることができ、トリテルペンアルコール遊離体を高含有する米糠及び米糠油を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠は、原料として用いる米糠(原料米糠)に比べてトリテルペンアルコール遊離体の含有率が高まった米糠である。
【0011】
本発明で用いられる原料米糠は、玄米を精白する際に得られる。玄米は、種皮、果皮、胚乳及び胚芽からなり、胚乳組織の外層には糊粉層がある。玄米を精白する際、その度合いにも因るが通常糊粉層までが米糠(生糠)となる。すなわち、米糠は、取り除かれる胚乳以外の部分、すなわち、種皮、果皮、糊粉層及び胚芽の全部或いは一部を含む混合物であるが、さらに胚乳部分を含んでいてもよい。玄米の分類・種類は特に限定されず、例えばジャポニカ種、インディカ種、ジャバニカ種の糯米、粳米、赤米、紫黒米等いずれも用いることができる。
【0012】
原料米糠に対する水の添加量は0.3質量倍(以下、単に「倍」とする)以上5倍以下であるが、水を原料米糠全体に均一に接触させる点から、0.4倍以上が好ましく、更に0.5倍以上が好ましい。また、使用するエネルギーを抑制する観点より、3倍以下が好ましく、更に2倍以下、更に1.5倍以下が好ましい。
水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、井戸水等いずれのものでもよい。使用する水の温度は常温、すなわち5〜35℃が好ましい。
【0013】
本発明においては、水を原料米糠に十分に吸収させるという観点より、原料米糠に対し水を添加した後、熱処理する前に5〜35℃に保持することが好ましい。保持時間は、2分以上が好ましく、5分以上がより好ましい。保持時間の上限は特に規定されないが、12時間以下が好ましく、更に2時間以下、更に1時間以下が好ましい。
【0014】
本発明における熱処理は、100℃以上200℃以下で行う。トリテルペンアルコールの遊離体を十分に遊離させる観点より、110℃以上が好ましく、更に120℃以上、更に130℃以上、更に140℃以上、更に150℃以上が好ましい。また、得られた米糠の着色を抑制する観点より、180℃以下が好ましく、175℃以下がより好ましい。
【0015】
また、熱処理の時間は、トリテルペンアルコールを十分に遊離させる点から、原料米糠が設定温度に達してから5分以上が好ましく、更に15分以上、更に30分以上、更に60分以上が好ましい。時間の上限は求めるトリテルペンアルコールの収率によって適宜設定することができ、300分以下が好ましく、更に240分以下、更に180分以下が好ましい。
加熱手段は公知の方法を適用でき、例えば、水蒸気、電気が挙げられる。
【0016】
熱処理は、原料米糠に添加した水が米糠中に十分に保持され、原料米糠と水分の接触が十分に行われるという観点より、水蒸気の存在下で行うことが好ましい。水蒸気を含有する雰囲気中で加熱を行うことを湿熱処理という。湿熱処理には、飽和水蒸気を用いる処理、過熱水蒸気を用いる処理、水以外の不活性ガスを含有する水蒸気を用いる処理等が挙げられ、原料米糠中の水分の減少を防ぐという観点より、飽和水蒸気を用いる方法が好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム等を例示することができる。
【0017】
熱処理は、例えば、バッチ式のレトルト殺菌機、ナウタミキサ(ホソカワミクロン製)、リボコーン(大河原製作所)、連続式のエクストルーダー等の機器を用いて行うことができる。
【0018】
熱処理後、米糠を乾燥するのが好ましい。乾燥により、ハンドリング性が向上し、米糠から米糠油を抽出する際の効率が向上する。乾燥方法は、例えば熱風乾燥、凍結乾燥等の公知の方法を適用することができる。過剰な分解を防ぎ米糠品質を保持する為に、125℃以下の温度で乾燥させるのが好ましい。乾燥後の米糠中の水分は、20質量%(以下、単に「%」とする)以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。下限は特に規定されるものではないが、エネルギー節約の観点から2%以上が好ましい。
また、米糠は必要に応じて粉砕してもよい。粉砕は、例えば、ターボミルやブレードミル等の粉砕機を用いる方法等により行うことができる。
【0019】
このような処理の結果、米糠中のトリテルペンアルコール遊離体が増加し、トリテルペンアルコール遊離体の含有率が高い米糠が得られる。
本明細書においてトリテルペンアルコールとは、炭素数30又は31の四環性トリテルペンアルコールを云う。これらトリテルペンアルコールは、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール等の炭素数28又は29の4−デスメチルステロールとは明確に相違する化合物である。トリテルペンアルコールは、遊離型のトリテルペンアルコールと脂肪酸エステル型のトリテルペンアルコールを含む。遊離型とはステロイド核のC−3位に水酸基をもつものを指し、脂肪酸エステル型とは、前記遊離型のC−3位の水酸基に脂肪酸がエステル結合したものを指す。
遊離型のトリテルペンアルコールには、例えば、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール、パルケオール等が含まれる。
【0020】
本発明のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠は、原料米糠に対してトリテルペンアルコール遊離体の含有量が20%以上、更に30%以上、更に40%以上、更に50%以上、更に60%以上増加したものが好ましい。また、当該増加率の上限は、特に制限されないが、200%以下であるのが好ましい。
中でも、シクロアルテノールと24−メチレンシクロアルタノールの合計の含有量が原料米糠に対して20%以上、更に30%以上、更に40%以上、更に50%以上、更に60%以上増加したものが好ましい。また、当該増加率の上限は、特に制限されないが、200%以下であるのが好ましい。トリテルペンアルコール遊離体の増加率は、後記実施例記載の方法で求めることができる。
【0021】
また、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠中、トリテルペンアルコール遊離体の含有量は、当該米糠100g中に60mg以上、更に80mg以上、更に95mg以上、更に120mg以上であるのが好ましい。トリテルペンアルコール遊離体の含有量の上限は、特に制限されないが、当該米糠100g中200mg以下が好ましい。なかでも、シクロアルテノールと24−メチレンシクロアルタノールの合計の含有量が当該米糠100g中に60mg以上、更に80mg以上、更に95mg以上、更に120mg以上であるのが好ましい。また、シクロアルテノールと24−メチレンシクロアルタノールの合計の含有量の上限は、特に制限されないが、当該米糠100g中200mg以下が好ましい。
【0022】
本発明のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠から油分を取り出すことにより、トリテルペンアルコール遊離体の含有率が高いトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油が得られる。
トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油を得る方法は、公知の方法を適用でき、例えば、米糠に溶剤を接触させて抽出を行う溶剤抽出法、米糠を圧搾する圧搾法等が挙げられる。なかでも、溶剤抽出法が好ましい。
【0023】
抽出に用いる溶剤としては、例えば、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;ケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、水との混合系で使用してもよい。なかでも、炭化水素類が好ましく、ヘプタン、ヘキサンがより好ましく、ヘキサンがさらに好ましい。
【0024】
溶剤の使用量は、使用する溶剤により適宜設定することができ、溶剤を米糠に均一に接触させる点から、米糠に対し2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上が更に好ましい。また、20倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましい。
抽出の温度は使用する溶剤、装置により適宜設定することができ、10〜80℃が好ましく、15〜70℃がより好ましく、20〜60℃が更に好ましい。10℃以上で抽出効率を高めることができ、80℃以下において熱変化を避け、熱不安定成分の生成を抑制することができる。
【0025】
本発明のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油は、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、脱ガム工程、脱ロウ工程、脱酸工程、脱色工程、脱臭工程等を挙げることができる。
【0026】
本発明のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油中、トリテルペンアルコール遊離体は、生理効果の点から0.3%以上であるのが好ましく、更に0.4%以上、更に0.45%以上、更に0.5%以上、更に0.55%以上、更に0.6%以上が好ましい。
中でも、シクロアルテノールと24−メチレンシクロアルタノールの合計の含有量が当該米糠油中に0.3%以上であるのが好ましく、更に0.4%以上、更に0.45%以上、更に0.5%以上、更に0.55%以上、更に0.6%以上が好ましい。また、その含有量の上限は、特に制限されないが2%以下が好ましい。
【0027】
本発明のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油は、一般の食用油と同様に使用でき、油を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。
【0028】
本発明の態様及び好ましい実施態様を以下に示す。
【0029】
<1>原料米糠に水を0.3質量倍以上5質量倍以下添加した後、100℃以上200℃以下で熱処理する工程を含む、トリアルペンアルコール遊離体高含有米糠の製造方法。
<2>原料米糠に対する水の添加量が、米糠に対し0.4質量倍以上、好ましくは0.5質量倍以上であり、3質量倍以下、好ましくは2質量倍以下、さらに好ましくは1.5質量倍以下である<1>の製造方法。
<3>原料米糠に水を添加した後、熱処理する前に5〜35℃に2分以上12時間以下保持する工程を含む<1>又は<2>の製造方法。
<4>保持時間が、5分以上であり、2時間以下、好ましくは1時間以下である<3>の製造方法。
<5>熱処理の温度が、110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、180℃以下、好ましくは175℃以下である<1>〜<4>のいずれかの製造方法。
<6>熱処理の時間が、原料米糠が設定温度に達してから5分以上、好ましくは15分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは60分以上であり、300分以下、好ましくは240分以下、より好ましくは180分以下である<1>〜<5>のいずれかの製造方法。
<7>熱処理を水蒸気の存在下で行うものであり、好ましくは水蒸気が飽和水蒸気である<1>〜<6>のいずれかの製造方法。
<8>熱処理後、米糠を乾燥する工程を含む<1>〜<7>のいずれかの製造方法。
<9>トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠が、原料米糠に対してトリテルペンアルコール遊離体の含有量が20質量%以上、好ましくは30質量%以上、好ましくは40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上増加した米糠である<1>〜<8>のいずれかの製造方法。
<10>トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠が、原料米糠に対してシクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計の含有量が20質量%以上、好ましくは30質量%以上、好ましくは40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上増加した米糠である、<1>〜<8>のいずれかの製造方法。
<11>トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠が、トリテルペンアルコール遊離体を、当該米糠100g中に60mg以上、好ましくは80mg以上、より好ましくは95mg以上、さらに好ましくは120mg以上含有するものである<1>〜<10>のいずれかの製造方法。
<12>トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠が、シクロアルテノールと24−メチレンシクロアルタノールを合計で、当該米糠100g中に60mg以上、好ましくは80mg以上、より好ましくは95mg以上、さらに好ましくは120mg以上含有するものである<1>〜<10>のいずれかの製造方法。
<13><1>〜<12>のいずれかの製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠。
<14>シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールを合計で米糠100g中に95mg以上含む、<13>のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠。
<15><1>〜<12>のいずれかの製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠に、溶剤を接触させて抽出を行う、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油の製造方法。
<16>抽出に用いる溶剤が、炭化水素類、ケトン類及びエーテル類から選ばれる少なくとも1種である<15>の製造方法。
<17>炭化水素類が、ヘプタン、ヘキサン、及びシクロヘキサンから選ばれる1種以上である<16>の製造方法。
<18><1>〜<12>のいずれかの製造方法により得られるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠より抽出されるトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油。
<19>トリテルペンアルコール遊離体を米糠油中に0.3質量%以上、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.45質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.55質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上含有する<18>のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油。
<20>シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールを合計で米糠油中に0.3質量%以上、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.45質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.55質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上含有する<18>のトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油。
【実施例】
【0030】
<分析方法>
常法により米糠から米糠油を抽出後、固相抽出カラムにより油とトリテルペンアルコールを分離する。分離したトリテルペンアルコールを約25mgとり、クロロホルムで10mLにメスアップした。これをGCに1μL注入し分析し、シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールを定量した。GC分析の条件は下記のとおりである。なお、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノールの定量値は、各成分精製品(花王にて調製)を用いて検量線を作成し、絶対定量法により求めた。
固相抽出カラム:Sep−Pak syika 5g
カラム:キャピラリーGCカラム DB−1(J&W)、30mx0.25mm、膜厚
0.25μm
キャリアガス:He、2.30mL/min
インジェクター:Split(40:1)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:150℃で1.5分間保持、15℃/分で250℃まで昇温、5℃/分
で320℃まで昇温、3分間保持
【0031】
<シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計値の増加率の算出>
シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計値の増加率は次式(1)により算出した。
シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計値の増加率(質量%)=[{(米糠中のシクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノール質量の合計値)−(原料米糠中のシクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノール質量の合計値)}/原料米糠中のシクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノール質量の合計値]×100 (1)
なお、表1及び表2においては、「シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計値」を単に「TTA遊離体」と表記した。
【0032】
実施例1
新潟産コシヒカリの米糠を原料米糠とした。原料米糠100g中のトリテルペンアルコール(TTA)遊離体の含有量を測定したところ、シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計値が49.6mgであった。
原料米糠1kgに対して25℃の水を0.5質量倍添加し、5分吸水した。次いで、レトルト殺菌機を用いて150℃の飽和水蒸気で180分間熱処理を施した。次いで、凍結乾燥し、処理米糠を得た。乾燥後の米糠中の水分は8%であった。
水の添加量、熱処理条件及び結果を表1に示す。
【0033】
(米糠油の抽出)
実施例1で得られた処理米糠200gに対し1000gのヘキサンを添加し、60℃還流下、150r/min攪拌条件で60分間米糠油のバッチ抽出を行った後、2号濾紙で米糠を濾過した。続けて40℃、2.7kPaでヘキサンを留去しトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油36.1gを得た。米糠油中のトリテルペンアルコール遊離体分析結果を表1に示す。
【0034】
実施例2〜8
原料米糠に対して表1に示す量の水を添加し、且つ表1に示す条件で熱処理を行った以外は実施例1と同様にして米糠を得た。水の添加量、熱処理条件及び結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、トリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油を得た。米糠油中のトリテルペンアルコール遊離体分析結果を表1に示す。
尚、実施例4、6及び7は参考例である。
【0035】
比較例1
原料米糠に対して水を添加することなく表1に示す条件で熱処理を行った以外は実施例1と同様にして米糠を得た。熱処理条件及び結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、米糠油を得た。米糠油中のトリテルペンアルコール遊離体分析結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例9
佐賀県産ヒノヒカリの米糠を原料米糠とした。原料米糠100g中のトリテルペンアルコール(TTA)遊離体の含有量を測定したところ、シクロアルテノール及び24−メチレンシクロアルタノールの合計値が90.4mgであった。
原料米糠1kgに対して25℃の水を1質量倍添加し、5分吸水した。次いで、レトルト殺菌機を用いて150℃の飽和水蒸気で180分間熱処理を施した。次いで、凍結乾燥し、処理米糠を得た。さらに、実施例1の「(米糠油の抽出)」と同様の条件にてトリテルペンアルコール遊離体高含有米糠油を得た。
水の添加量、熱処理条件及び結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表1及び表2から明らかなように、本発明方法によれば、米糠中のトリテルペンアルコール遊離体が増加し、トリテルペンアルコール遊離体含有率が高い米糠を得ることができた。また、本発明方法により処理された米糠からはトリテルペンアルコール遊離体含有率が高い米糠油を得ることができた。
他方、水の添加なしに湿熱処理した比較例1では、米糠中のトリテルペンアルコール遊離体は増加しなかった。