特許第5997986号(P5997986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5997986構造部材、構造部材の製造方法及び構造部材の補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5997986
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】構造部材、構造部材の製造方法及び構造部材の補強方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20160915BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20160915BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   E01D19/04 101
   E01D21/00 Z
   E04G21/12 105Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-197728(P2012-197728)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-51834(P2014-51834A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】512233363
【氏名又は名称】創造技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭一
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−052293(JP,A)
【文献】 特開平09−202242(JP,A)
【文献】 特開2003−253761(JP,A)
【文献】 特開2005−256599(JP,A)
【文献】 特開2005−161852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の母材と、
所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートで構成され、前記母材に取り付けられる補強層と、
前記補強層と前記母材との間に取り付けられ、前記補強層と前記母材との電位差による前記母材の電解腐食を防止する電解腐食防止層と、を有することを特徴とする構造部材。
【請求項2】
前記母材の軸方向と前記炭素繊維の束の所定方向とが平行であることを特徴とする請求項1に記載の構造部材。
【請求項3】
前記炭素繊維の束の所定方向に交差する方向に並んだ炭素繊維の束が、前記補強層の前記母材と反対側に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の構造部材。
【請求項4】
前記電解腐食防止層はガラス繊維又は樹脂のみのプリプレグからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造部材。
【請求項5】
構造部材を構成する金属製の母材に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートを配置する電解腐食防止工程と、
前記構造部材に取り付けられた前記電解腐食防止シートの前記母材と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートを配置する補強工程と、
前記炭素繊維シート及び前記電解腐食防止シートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする構造部材の製造方法。
【請求項6】
前記補強工程と前記加熱工程との間に、
前記炭素繊維シートと前記電解腐食防止シートとを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程を有することを特徴とする請求項5に記載の構造部材の製造方法。
【請求項7】
前記補強工程において、前記炭素繊維シートの炭素繊維が配列される所定方向が前記母材の軸方向と平行になるように前記炭素繊維シートを前記母材に配置することを特徴とする請求項5又は6に記載の構造部材の製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に係る構造部材の製造方法により製造されたことを特徴する構造部材。
【請求項9】
構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートを配置する電解腐食防止工程と、
前記電解腐食防止シートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートを配置する補強工程と、
前記炭素繊維シートと前記電解腐食防止シートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、
前記炭素繊維シート及び前記電解腐食防止シートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする構造部材の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設物等の構造物に用いられる構造部材、その構造部材の製造方法及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁に用いられるアンカーバー等の構造物に用いられる構造部材として鋼材が使用されている。
近年、構造部材の軽量化が求められてきているものの、構造部材に対する設計強度は変わらないため、鋼製の構造部材の軽量化を図ることは困難である。
【0003】
そのような状況を踏まえて、繊維強化樹脂製の構造部材、好ましくは比強度、比弾性率の高い炭素繊維強化樹脂製の構造部材が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2681553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、炭素繊維強化樹脂は高価であるため、構造部材を全て炭素繊維強化樹脂製で構成させるとコストが増大する。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができる構造部材、構造部材の製造方法、及び、構造部材の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る構造部材は、金属製の母材と、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートで構成され、前記母材に取り付けられる補強層と、前記補強層と前記母材との間に取り付けられ、前記補強層と前記母材との電位差による前記母材の電解腐食を防止する電解腐食防止層と、を有することを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材は、前記母材の軸方向と前記炭素繊維の束の所定方向とが平行であることを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材は、前記炭素繊維の束の所定方向に交差する方向に並んだ炭素繊維の束が、前記補強層の前記母材と反対側に取り付けられていることを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材は、前記電解腐食防止層はガラス繊維又は樹脂のみのプリプレグからなることを特徴とする。
本発明に係る構造部材の製造方法は、構造部材を構成する金属製の母材に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートを配置する電解腐食防止工程と、前記構造部材に取り付けられた前記電解腐食防止シートの前記母材と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートを配置する補強工程と、前記炭素繊維シート及び前記電解腐食防止シートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材の製造方法は、前記補強工程と前記加熱工程との間に、前記炭素繊維シートと前記電解腐食防止シートとを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程を有することを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材の製造方法は、前記補強工程において、前記炭素繊維シートの炭素繊維が配列される所定方向が前記母材の軸方向と平行になるように前記炭素繊維シートを前記母材に配置することを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材の補強方法は、構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートを配置する電解腐食防止工程と、前記電解腐食防止シートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートを配置する補強工程と、前記炭素繊維シートと前記電解腐食防止シートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、前記炭素繊維シート及び前記電解腐食防止シートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
構造部材が、金属製の母材と、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートで構成された補強層と、補強層と母材との間に取り付けられ、母材の電解腐食を防止する電解腐食防止層と、を有するため、軽量化を図ると共に、コストの増加を抑えることができる。さらには、電解腐食防止層によって母材の電解腐食を防止し、製品寿命の短縮を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は構造部材としてのアンカーバーの斜視図、(b)は図1(a)のアンカーバーの構造を説明するための平面図である。
図2図1のアンカーバーが使用されている状況を説明するための概略図である。
図3図1のアンカーバーの製造方法を説明するための説明図である。
図4】(a)は構造部材として鋼管の斜視図、(b)は図4(a)の端面図である。
図5】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
図6】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
図7】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
図8】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
図9】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
図10】本発明に係る構造部材の補強方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示すように、本発明に係る構造部材が橋梁の落橋防止構造、横変位拘束構造あるいは変位制限装置としてのアンカーバー1に適用されている例を説明する。アンカーバー1は、母材11と、母材11に接着されている電解腐食防止層12と、電解腐食防止層12に接着されている第1補強層13と、第1補強層13に接着されている第2補強層14と、第2補強層14に設けられている定着層15とを有している。
【0011】
母材11は、直径25mmの断面円形状の鋼棒で構成されており、アンカーバー1の芯材として機能する。
【0012】
電解腐食防止層12は、数ミリメートルの厚さのガラス繊維のプリプレグで構成されている。電解腐食防止層12は、母材11の長さ方向の一部の範囲で巻き付け成型されて一体化されている。その結果、母材11は一方の端部のみが露出している。この露出している側が橋桁B2に挿入され、露出せずに電解腐食防止層12に覆われている側が橋脚B1に埋設される(図2参照)。
【0013】
第1補強層13は、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。
【0014】
第1補強層13は、電解腐食防止層12の上から電解腐食防止層12の両端部が露出するように母材11に巻き付け成型されている。なお、本実施の形態では、電解腐食防止層12の母材11が被覆されていない側、すなわち、橋脚B1に埋設される側の端部は母材11の軸方向に5mm程度露出しており、他方の端部は5〜10cm程度露出している。
【0015】
また、第1補強層13を構成する炭素繊維は、母材11の軸に平行な方向、すなわち、母材11の軸方向に直交する向きの荷重が作用したときに母材11に作用する引張力及び圧縮力の方向(母材11の軸方向を基準として0°方向)を向いている。第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグの断面積及び断面形状は、アンカーバー1に作用する最大曲げモーメントに応じて適宜に設定される。
【0016】
第2補強層14は、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第2補強層14を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。
【0017】
第2補強層14は、第1補強層13の上から母材11に巻き付け成型されており、第1補強層13を完全に被覆している。すなわち、第1補強層13の長さと第2補強層14の長さとは同一である。
【0018】
また、第2補強層14を構成する炭素繊維は、母材11の軸に直交する方向、すなわち、母材11の軸方向に直交する向きの荷重がかかったときに第1補強層13の炭素繊維がばらけ易い(分解し易い)方向(母材11の軸方向を基準として90°方向)を向いている。第2補強層14を構成する炭素繊維のプリプレグの断面積及び断面形状は、アンカーバー1に作用する最大曲げモーメントに応じて適宜に設定される。
【0019】
定着層15は、将来的に橋脚B1の上面から設けられた穴h1に埋設される部分であり、第2補強層14の中で穴h1に埋設される部分にピールプライ等の所定の繊維部材で所定の処理を施されることにより形成されている。これによって、表面が粗くなり摩擦係数が高くなるため、上記の穴h1に充填されるモルタルmとの付着力が高くなり、アンカー効果が高くなる(図2参照)。
【0020】
図2に示すように、アンカーバー1が橋梁Bに用いられた場合、アンカーバー1の定着層15が橋脚B1に埋設され、アンカーバー1の橋脚B1から突出する部分は橋桁B2に設けられた穴h2に挿入されることとなる。その結果、アンカーバー1が橋梁Bの落橋防止構造、横変位拘束構造あるいは変位制限装置として機能する。ここで、例えば、橋桁B2が水平方向に動くと、橋桁B2がアンカーバー1に荷重を作用させ、アンカーバー1の断面に曲げモーメント(引張力及び圧縮力)が作用する。
【0021】
アンカーバー1が第1補強層13を具備しなければ、母材11の断面形状のみで引張力及び圧縮力に抵抗しなければならないが、第1補強層13に係る炭素繊維の方向が引張力及び圧縮力の方向と略平行になるように第1補強層13が設けられ、第1補強層13が引張力及び圧縮力に対して配置されているため、母材11の断面を縮小させることができる。この結果、母材11の軽量化を図ることができると共に、アンカーバー1の設置作用が容易になる。また、橋脚B1及び橋桁B2に設ける穴h1、h2の掘削長及び掘削径が小さくなり、橋脚B1の穴h1に充填させるモルタルの量も軽減することができる。さらには、アンカーバー1を全て炭素繊維で構成させず、鋼製の母材11と炭素繊維のプリプレグの第1補強層13とで構成させることにより、コストの増加を抑えることができる。
【0022】
また、鋼製の母材11と炭素繊維のプリプレグからなる第1補強層13及び第2補強層14との間に、ガラス繊維のプリプレグからなる電解腐食防止層12が介在し、母材11と第1補強層13及び第2補強層14とを遮断しているため、電位差による母材11の電解腐食を防止し、アンカーバー1の製品寿命の短縮を抑えることができる。
【0023】
さらに、第1補強層13を構成する炭素繊維の方向に直交する方向に配置された炭素繊維のプリプレグで構成された第2補強層14が第1補強層13の上に全周を覆った状態で接着されているので、曲げモーメント等によるアンカーバー1の変形によって第1補強層13を構成する炭素繊維がばらける(分解する)ことを防止し、補強することができる。
【0024】
アンカーバー1の橋桁B2に埋設される側の端部は、曲げモーメントが作用しても長さ方向の中央部に比べると低いため、その端部には第1補強層13を取り付けず、母材11のみで曲げモーメントに抵抗できるようにすることで、第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグの量を削減し、製品コストを抑えることができる。
【0025】
なお、本実施の形態では、アンカーバー1の芯材として断面円形状の鋼材を用いているが、母材11の断面形状はこれに限られず、楕円、三角形等の多角形、又は、星形等にすることもできる。また、定着層15において、摩擦係数を一層高くするために、スパイラル状、縦節状又は横節状の突起を設けることもできる。
【0026】
次に、図3を用いて工場等におけるアンカーバー1の製造方法について説明する。最初に、図3(a)、図3(b)に示すように、製造する対象となるアンカーバー1を構成し、ブラスト処理された母材11の所定箇所に、電解腐食防止層12を構成するシート状のガラス繊維のプリプレグを直接巻き付ける(電解腐食防止工程)。なお、ガラス繊維のプリプレグの母材11の軸方向長さは、作用する最大曲げモーメントに基づいて予め設定される第1補強層13の母材11の軸方向長さより長くしておく。
【0027】
次に、図3(c)に示すように、電解腐食防止層12の所定箇所に、電解腐食防止層12の両端部が露出するように、第1補強層13を構成するシート状の炭素繊維のプリプレグを巻き付ける(補強工程)。ここで、第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグは、その繊維の方向と母材11の軸(長さ)方向とが平行となるように電解腐食防止層12の上から母材11に巻き付ける。さらに、第1補強層13の所定箇所に、第1補強層13の両端と一致するように、第2補強層14を構成するシート状の炭素繊維のプリプレグを巻き付ける(補強工程)。ここで、第2補強層14を構成する炭素繊維のプリプレグは、その繊維の方向と母材11の軸方向、換言すれば、炭素繊維の繊維方向とが直交するように第1補強層13の上から母材11に巻き付ける。
【0028】
次に、図3(d)に示すように、第2補強層14上に定着層15を形成させるために、第2補強層14における定着層15を形成させる範囲に、ピールプライ5等の所定の繊維部材を巻き付ける。
【0029】
次に、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5を一体的に母材11に向けて加圧する(加圧工程)。具体的には、図3(e)に示すように、第1補強層13や第2補強層14等の母材11の軸方向長さより短い幅のテーピング6で、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5の上から母材11の略周方向に螺旋状に加圧しながら母材11に締め付ける。この結果、母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5が強固に一体化される。
【0030】
次に、図示しないが、上記の加圧工程により一体化された母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5を全体的に加熱する(加熱工程)。具体的には、オートクレープ等の加熱可能な釜に、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5と一体化された母材11を投入して、アンカーバー1を全体的に加熱する。この結果、母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5が強固に一体化される。
【0031】
そして、加熱処理が完了すると、図3(f)に示すように、テーピング6を除去し、ピールプライ5を剥がすことで第2補強層14の所定範囲に対して定着層15が形成され、アンカーバー1が完成する。
【0032】
以上のようにアンカーバー1を製造するが、当該製造方法においては、母材11を型として利用し、アンカーバー1の製造のためだけに使用される専用の型を必要としないため、製造コストを軽減すると共に、製造工程を短縮することができる。さらに、第1補強層13を炭素繊維のプリプレグで構成させて、母材11の全周に亘って巻き付けるので、第1補強層13は母材11の周方向において縁が切れていない。この結果、当該製造方法により製造されたアンカーバー1は、その周方向に対して均等に引張力及び圧縮力に抵抗することができる。
【0033】
また、電解腐食防止層12を形成させる際に、母材11の橋桁B2に挿入される方の端部は、橋脚B1に挿入される方の端部と同程度露出させれば足りるが、大気中にさらされるため、母材11を露出させると最終的には防食処理を施す必要があるところ、電解腐食防止工程において端まで電解腐食防止層12を形成させることで防食処理も施されることになる。これによりアンカーバー1の製造工程を短縮することができる。
【0034】
なお、加圧工程及び加熱工程についてオートクレープなどの加圧可能な釜で加圧処理と加熱処理とを同時に行うようにすることもできる。さらには、シリコンラバーヒーター等を電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5の全体を覆って加熱する等、所定の加熱器具を用いて加熱工程を行うこともできる。また、電解腐食防止層12乃至第2補強層14を構成する各プリプレグは、ロール状のプリプレグを母材11に巻き付けて所望の位置で切断して成形するようにしても、予め所定の長さに成形されたシート状のプリプレグを母材11に巻き付ける又は貼り付けるようにしてもよい。
【0035】
(実施の形態2)
次に、本発明に係る構造部材が、鋼管2に適用されている例を説明する。図4に示すように、鋼管2は、鋼管2の基体をなす母材21と、母材21に取り付けられた電解腐食防止層22と、電解腐食防止層22の上から取り付けられて母材21に一体化している第1補強層23と、第1補強層23の上から取り付けられて母材21に一体化している第2補強層24と、第2補強層24の上から取り付けられて母材21に一体化している第3補強層25と、第3補強層25の上から取り付けられて母材21に一体化している第4補強層26と、を有する。なお、鋼管2は、アンカーバー1と同様に製造されているものとする。
【0036】
母材21は、断面ロ字状を呈した長さL1の管状の鋼材であり、断面の肉厚は母材21の周方向及び長さ方向に一定となっている。
【0037】
電解腐食防止層22は、母材21の長さL1より短い長さL2の樹脂のみのプリプレグで構成されている。このプリプレグは、母材21の周方向に母材21の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。
【0038】
第1補強層23乃至第3補強層25はそれぞれ、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。
【0039】
第1補強層23を構成するプリプレグは、電解腐食防止層22の上から母材21の周方向に母材21に巻き付いた電解腐食防止層22の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。電解腐食防止層22の長さL2は第1補強層23の長さL3より1〜2cm程度長く、電解腐食防止層22の両端部が第1補強層23の両端から同程度露出している。このように電解腐食防止層22が第1補強層23の両端から露出することによって母材22の電位差による電解腐食を確実に防止することができる。
【0040】
第2補強層24を構成するプリプレグは、第1補強層23の上から母材21の周方向に母材21に巻き付いた第1補強層23の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。第2補強層24の長さL4は第1補強層23の長さL3より30cm程度短く、第1補強層23の両端部が第2補強層24の両端から同程度露出している。
【0041】
第3補強層25を構成するプリプレグは、第2補強層24の上から母材21の周方向に母材21に巻き付いた第2補強層24の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。第3補強層25の長さL5は第2補強層24の長さL4より30cm程度短く、第2補強層24の両端部が第3補強層25の両端から同程度露出している。
【0042】
第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維は、略一方向を向いて平行に揃えられている。母材21に一体化されている第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維は、母材21の軸に平行な方向、すなわち、母材21の軸方向に直交する向きの荷重が作用したときに母材21の断面に作用する引張力及び圧縮力の方向(母材21の軸方向を基準として0°方向)を向いている。第1補強層23乃至第3補強層25の引張力及び圧縮力に対する抵抗力は、第1補強層23乃至第3補強層25に含まれる炭素繊維のプリプレグの断面積及び断面形状に基づいて算出されるため、これらの断面積及び断面形状は、鋼管2に作用する引張力及び圧縮力に応じて適宜に設定される。
【0043】
第4補強層26は、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。第4補強層26の長さL5は第3補強層25の長さL4より30cm程度短く、第4補強層26は、第3補強層25の上から第3補強層25の両端部が同程度露出するように、全長に亘って第3補強層25の全周を覆った状態で接着されている。
【0044】
第4補強層26を構成する炭素繊維は、略一方向を向いて平行に揃えられている。母材21に一体化されている第4補強層26の炭素繊維は、母材21の軸に直交する方向、すなわち、母材21に一体化された第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維がばらけ易い(分解し易い)方向(母材21の軸方向を基準として90°方向)を向いている。
【0045】
上述のように、鋼管2の第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維の方向は母材211の軸方向に平行となっている。よって、鋼管2に、その軸方向に直交する力が作用した場合、第1補強層23乃至第3補強層25は、鋼管2に作用する引張力及び圧縮力に抵抗する。ここで、第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維の引張強度及び圧縮強度は強いため、母材21の断面積及び断面形状は、第1補強層23乃至第3補強層25に引張強度及び圧縮強度を考慮して設計することが望ましい。母材21の断面を縮小させ、母材21の軽量化を図ることができるからである。
【0046】
具体的には、母材21の断面形状は、鋼管2に作用する最小曲げモーメント(せん断力)に抵抗できるよう設計することが望ましい。この場合、最小曲げモーメント以上の曲げモーメントが母材21に作用すると、最小曲げモーメントを越える分は第1補強層23乃至第3補強層25が負担することになる。よって、母材21に作用し得る最大曲げモーメントから、母材21が負担する最小曲げモーメントを差し引いた分に基づく引張力及び圧縮力を第1補強層23乃至第3補強層25で抵抗できるように、第1補強層23乃至第3補強層25の断面積及び断面形状等を適宜に設定すればよい。このように、母材21と第1補強層23乃至第3補強層25とで母材21に作用する曲げモーメント(引張力及び圧縮力)の許容範囲に適合するように設計すればよい。
【0047】
ここで、最大曲げモーメントに対しては、第1補強層23乃至第3補強層25で、母材21の不足分を補うこととなるが、発生し得る最大曲げモーメントは鋼管2の長さ方向に対する位置によって異なる。具体的には、最大曲げモーメントは、母材21の長さ方向の中央で最も高く、端にいくほど小さくなっていく。よって、第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維に基づく引張強度及び圧縮強度、すなわち、第1補強層23乃至第3補強層25の断面積も、母材21の長さ方向中央部から端に向かって減少するように設定すると、鋼管2の断面設計の効率化を図ることができる。その一例として、第1補強層23乃至第3補強層25のように、母材21の長さ方向中央部に向かって段階的に積層させる。この結果、炭素繊維の量を抑え、製品コストの増加を抑えることができる。特に、炭素繊維のプリプレグは高価であるため、製品コストの増加を抑えることは有効になる。しかしながら、母材21に取り付けられる補強層の構造はこれに限定されるものではなく、最大曲げモーメントに基づいて単層で構成させることもできる。この場合は、段階的に積層させる場合に比べて製造工程を減少させることができる。
【0048】
また、実施の形態1の場合と同様に、第1補強層23と母材21との間に、樹脂のプリプレグからなる電解腐食防止層22が介在し、第1補強層23と母材21との電気的な接触が軽減されるため、鋼製の母材21と炭素繊維の第1補強層23乃至第4補強層26との電位差による電解腐食を防止することができる。さらに、第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維の向きに直交する向きの炭素繊維で構成された第4補強層26が第3補強層25の上から巻き付いて全周をまたいで接着されているので、曲げモーメント等による鋼管2の変形によって第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維がばらける(分解する)ことを防止することができる。なお、本実施の形態では、第4補強層26の長L5が第3補強層25の長さL4より短く、第4補強層26の体積、すなわち、炭素繊維のプリプレグの量が抑えられているので、製品コストの増加を抑えることができる。
【0049】
なお、本実施の形態の鋼管2は、図3に示すアンカーバー1の製造方法と同様な方法で製造されている。すなわち、電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25及び第4補強層26はそれぞれ、シート状のプリプレグが母材21の全周に亘って巻き付かれて一体化されている。このように、シート状のプリプレグで電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25及び第4補強層26を構成することによって、母材21の周方向に対する切れ目がなくなり、母材21等の劣化などを防止することができる。さらに、本実施の形態のように、第1補強層23乃至第3補強層25の断面形状に折曲部を有する場合であっても、母材21の周方向に縁を切らせないことで、折曲部においても引張力及び圧縮力に対する抵抗力が発生し、第1補強層23乃至第3補強層25全体としての引張力抵抗機能及び圧縮力抵抗機能を高めることができる。
【0050】
(その他の実施の形態)
実施の形態1及び実施の形態2では、本発明の構造部材の補強層に係る第1補強層13、23等は電解腐食防止層12、22を介して母材11、12に巻き付かれて、加圧・加熱により母材11、21と一体化されているが、例えば、所定の接着剤により母材11、21と第1補強層13、23とを一体化するようにすることも可能である。すなわち、接着剤によって母材11、21と第1補強層13、23とを一体化させると共に、電位差による電解腐食を防止させることも可能である。
【0051】
また、実施の形態2では、第1補強層23乃至第3補強層25等がシート状の炭素繊維プリプレグで構成されて母材21等の周方向に巻き付かれているが、図5に示すように、母材21の各外面の幅で所定の長さに成形された炭素繊維強化プラスチック板を所定の接着剤で貼り付けて一体化することもできる。すなわち、複数の炭素繊維強化プラスチック板を母材21の周方向に連続的に並設することもできる。また、図6に示すように、母材21の各外面の幅より狭い幅に成形された炭素繊維強化プラスチック板を所定の接着剤で貼り付けて、母材21の周方向に対して所定間隔をおいて間欠的に並設することもできる。
【0052】
また、図7に示すように、一部の面にのみ第1補強層23乃至第3補強層25として炭素繊維強化プラスチック板を所定の接着剤で貼り付けることもできる。特に、母材21のように鋼製の場合、変形量が小さいことから、力が作用する位置を考慮して、所定値以上の引張力及び圧縮力が発生する範囲にのみ重点的に第1補強層23を貼り付けることもできる。これにより、炭素繊維強化プラスチック板の量を減少させ、構造部材のコストの増加を抑えることができる。さらには、底面に取り付けられる第1補強層23乃至第3補強層25を天面に取り付ける第1補強層23乃至第3補強層25より幅広にして炭素繊維強化プラスチック板の量を増やすようにすることもできる。
【0053】
また、第4補強層26の構造は、実施の形態2に限られず、図8に示すように、第4補強層26を複数で構成させ、母材21の長さ方向に所定間隔をおいて並設するようにすることもできる。さらには、第4補強層26を炭素繊維のプリプレグ以外の物質で構成させることもできる。この場合、第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維がばらけることを防止できればよい。
【0054】
さらに、実施の形態2のように、母材21が中空構造からなる場合、図9に示すように、母材21の内面に電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25を取り付けることも可能である。この場合、電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25の摩耗や裂傷による損傷を防止し、製品寿命の短縮を抑えることができる。また、中空構造の母材21の外面と内面の双方に電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25を取り付けることも可能である。
【0055】
なお、図5乃至図9に示す鋼管2については、所定の接着剤が電解腐食防止層22を構成している。よって、所定の接着剤からなる電解腐食防止層22は露出せず、第1補強層23の底面と一致することとなる。
【0056】
また、実施の形態2では、第1補強層23乃至第3補強層25が同一の炭素繊維プリプレグで構成されているが、異なる特性の炭素繊維プリプレグで構成させることも可能である。さらに、異なる物質で構成させることも可能である。また、実施の形態1及び実施の形態2において、各層を構成する物質の特性も限定されない。
【0057】
さらに、実施の形態1及び実施の形態2では、補強層の炭素繊維として、母材11、21の長さ方向に平行な炭素繊維と直交する炭素繊維とが別個に分離して補強層として取り付けられているが、単一の補強層の中で両方の向きの炭素繊維が含まれるようにすることもできる。また、第2補強層14及び第4補強層26の炭素繊維の方向も実施の形態1及び実施の形態2に限られず、母材11、21の軸方向に交差していればよい。
【0058】
また、本発明の構造部材に係る母材11、21、電解腐食防止層12、22、及び、補強層13、14、23〜26の形状・形態は実施の形態1及び実施の形態2に限られない。さらに、実施の形態1及び実施の形態2では、本発明に係る構造部材が、建設物の構造部材に適用されているが、例えば、家具などの建設物以外の物の構造部材にも適用することが可能である。なお、母材11、21として鋼製以外の金属、例えばアルミ製のものを用いることもできる。
【0059】
また、実施の形態1では、本発明に係る構造部材の製造方法について説明したが、例えば、当該製造方法は現場などで既に設置されている構造部材の補強方法に適用することもできる。例えば、図10(a)に示すように、鋼棒からなる母材31が既に設置されていると仮定する。ここで、一部が腐食などによる断面損傷が生じたとする。この場合、最初に損傷部分Kを研磨などによって腐食を除去する。
【0060】
次いで、図10(b)に示すように、損傷部分Kを覆うようにガラス繊維のプリプレグを巻き付けて電解腐食防止層32を形成させる(電解腐食防止工程)。次に、図10(c)に示すように、図4に示す製造方法と同様に、電解腐食防止層32の所定箇所に第1補強層33及び第2補強層34を形成させる(補強工程)。
【0061】
次に、図10(d)に示すように、テーピング6で電解腐食防止層32、第1補強層33及び第2補強層34を一体的に母材31に向けて加圧する(加圧工程)。
【0062】
次に、図10(e)に示すように、シリコンラバーヒーター7によって電解腐食防止層32、第1補強層33及び第2補強層34の全体を覆って加熱する等、所定の加熱器具を用いて、第2補強層34、第1補強層33、又は電解腐食防止層32の何れかが露出している全範囲を一度にまとめて加熱する(加熱工程)。この結果、母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13及び第2補強層14が強固に一体化される。
【0063】
そして、図10(f)に示すように、テーピング6を除去すると、母材31が補強されることとなる。
【0064】
このような方法で既存の構造部材を補強することで、当該構造部材を交換する必要がなくなるため、コストを削減することができる。なお、当該補強方法は、構造部材に腐食などによる断面損傷が生じた場合だけでなく、裂傷又は設計荷重の変更などによる後発的な断面欠損に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 アンカーバー
2 鋼管
6 テーピング
7 シリコンラバーヒーター
11、21、31 母材
12、22、32 電解腐食防止層
13、23、33 第1補強層
14、24、34 第2補強層
15 定着層
25 第3補強層
26 第4補強層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10