(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の蓄電デバイスとは、下記一般式(1)で表されるチオエーテルニトリル化合物を含むところに特徴を有する。
(NC)
m1−(R
1XR
2)
n−(CN)
m2 (1)
(式中、m1,m2は0又は1以上の整数であって、m1+m2は1以上であり、nは1以上の整数、R
1,R
2は同一又は異なって、ヘテロ原子、置換基を有していてもよい炭素数1以上の炭化水素基、XはO又はSを表し、少なくとも1つのXはSである。)
【0017】
本発明者等は、蓄電デバイスが、上記一般式(1)で表されるチオエーテルニトリル化合物を含む場合に、蓄電デバイスの放電容量と容量維持率が向上することを見出し、本発明を完成した。まず、本発明に係るチオエーテルニトリル化合物について説明する。
【0018】
1.チオエーテルニトリル化合物
本発明に係るチオエーテルニトリル化合物は、上記一般式(1);(NC)
m1−(R
1XR
2)
n−(CN)
m2(式中、m1,m2は0又は1以上の整数であって、m1+m2は1以上であり、nは1以上の整数、R
1,R
2は同一又は異なって、ヘテロ原子、置換基を有していてもよい炭素数1以上の炭化水素基、XはO又はSを表し、少なくとも1つのXはSである。)により表される化合物である。すなわち、本発明に係るチオエーテルニトリル化合物は、その分子構造中に、少なくとも1つのシアノ基(−CN)と、少なくとも一つのスルフィド結合(−S−)を有する。
【0019】
上記一般式(1)において、m1,m2は0又は1以上の整数であって、m1+m2は1以上であり、m1+m2は7以下であるのが好ましい。m1+m2は、より好ましくは2〜5であり、さらに好ましくは2〜3である。nは1以上の整数であり、好ましくは7以下であり、nは、より好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは1〜4である。
【0020】
一般式(1)中、R
1,R
2は同一又は異なって、炭素数1以上の炭化水素基を示す。nが2以上の場合、2以上のR
1は同一であっても、異なっていてもよく(R
2も同様)、また、R
1とR
2とはXを含む環を形成していてもよい。炭化水素基としては、飽和、不飽和のいずれでもよく、また、直鎖状、分岐鎖状、環式のいずれでもよい。さらに、炭化水素基はヘテロ原子(O、N、S等)や置換基を有していてもよく、また、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子が好ましく、より好ましくはフッ素原子である。炭化水素基を構成する炭素の数は1〜20であるのが好ましく、より好ましくは2〜16であり、さらに好ましくは4〜12である。具体的な炭化水素基としては、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基などの1価の基や、置換基を有してもよいアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基などの2価の基が挙げられる。置換基としては、カルボキシ基、シアノ基、N置換アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜20のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノアルキル基、シアノアルコキシ基等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)中、XはO又はSを表し、少なくとも1つのXはSである。分子構造中にSを含むチオエーテルニトリル化合物を使用することで、蓄電デバイスのサイクル特性を向上できる。なお、チオエーテルニトリル化合物に含まれるS原子に対するO原子の比率O/Sは特に限定されるものではないが、例えば、O/S(モル比)が0〜5であるのが好ましく、より好ましくは0〜4であり、さらに好ましくは0〜3である。
【0022】
具体的なチオエーテルニトリル化合物としては、下記式(1−1)〜(1−52)で表される化合物が挙げられる。なお、本発明に係るチオエーテルニトリル化合物はこれらに限定されるわけではない。
【0027】
チオエーテルニトリル化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
チオエーテルニトリル化合物の中でも、脂肪族基に結合したシアノ基を有するものが好ましく、また、チオエーテルニトリル化合物は、その分子構造中に芳香族基を含まないものが好ましい。上記例示の化合物の中でも、3−((2−(2−シアノエトキシ)エチル)チオ)プロピオニトリル(式1−19)、3,3'−(エチレンジチオ)ジプロピオニトリル(式1−22)、3,3'−(チオビスエチレンビスオキシ)ビスプロピオニトリル(式1−41)、3,3'−(オキシビスエチレンビスチオ)ビスプロピオニトリル(式1−42)、3,3'−((チオビス(エタン−2,1−ジイル))ビス(サルファンジイル))ジプロピオニトリル(3,3'−(チオビスエチレンビスチオ)ビスプロピオニトリル)(式1−43)、4,13−ジオキサ−7,10−ジチアヘキサデカン−1,16−ジニトリル(式1−50)がより好ましい。蓄電デバイスのサイクル特性をより向上させる観点からは、分子構造中にエーテル結合(−O−)を有するチオエーテルニトリル化合物が好適である。
【0029】
なお、蓄電デバイスの安全性を確保する観点からは、沸点の高いチオエーテルニトリル化合物を用いることが推奨される。例えば、沸点が120℃以上のチオエーテルニトリル化合物を用いるのが好ましく、より好ましくは沸点が150℃以上の化合物であり、さらに好ましくは沸点が200℃以上の化合物である。沸点の上限は特に限定されないが300℃程度であるのが好ましい。
【0030】
また、チオエーテルニトリル化合物としては、分子量が150以上のものを使用するのが好ましい。チオエーテルニトリル化合物の分子量は、150〜500であるのがより好ましく、さらに好ましくは170〜400である。分子量が大きすぎると、チオエーテルニトリル化合物を含む電解液の粘度が高くなり、所期の伝導度が得られ難くなる虞や、チオエーテルニトリル化合物の粘性により蓄電デバイスの製造が困難になる虞がある。一方、分子量が低すぎると臭気の問題が生じる虞があり、さらに蓄電デバイスの安全性を確保する観点からも好ましくない。なお、チオエーテルニトリル化合物の分子量は質量分析計等により測定できるが、製造業者の公称値を参照してもよい。
【0031】
2.チオエーテルニトリル化合物の存在態様
本発明の蓄電デバイスは、上記一般式(1)で表されるチオエーテルニトリル化合物を含むものであればよく、特に限定されるものではない。また、上記チオエーテルニトリル化合物の存在態様も限定されるものではなく、例えば、蓄電デバイスの構成材料として含まれていればよい。具体的には、(i)蓄電デバイスの電解液にチオエーテルニトリル化合物が含まれている態様;(ii)電解液以外の蓄電デバイス構成材料(電極、セパレーター又は外装等)にチオエーテルニトリル化合物が含まれている態様;(iii)上記(i)、(ii)を組み合わせた態様;等が挙げられる。
【0032】
(i)蓄電デバイスの電解液にチオエーテルニトリル化合物が含まれている態様
態様(i)では、蓄電デバイスに備えられる電解液の構成成分としてチオエーテルニトリル化合物を使用すればよく、電解液の調製も容易であるので好ましい(チオエーテルニトリル化合物と電解質や媒体など他の構成成分とを混合、又は、予め調製された電解液にチオエーテルニトリル化合物を添加等)。
【0033】
チオエーテルニトリル化合物の配合量は、電解液100質量部(電解質、媒体およびチオエーテルニトリル化合物の合計)に対して0.05質量部以上とするのが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、チオエーテルニトリル化合物の配合量はより好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下である。チオエーテルニトリル化合物の配合量が少なすぎると電極の劣化や電解液の分解を抑制する効果が得られ難くなる虞があり、一方、多量に使用しても使用量に比例する効果は得られ難く、また、電解液の粘度が上昇し、所期の伝導度が得られ難くなる虞がある。
【0034】
(ii)電解液以外の蓄電デバイスの構成材料にチオエーテルニトリル化合物が含まれている態様
チオエーテルニトリル化合物は、電極、セパレータ又は外装等、電解液以外の蓄電デバイスの構成材料に含まれていてもよい。なお、チオエーテルニトリル化合物が電極に含まれる場合には、電極近傍におけるチオエーテルニトリル化合物の濃度を向上させ易く、速やかに、また、継続的に電極表面に皮膜を形成できるので好ましい。
【0035】
この場合、電極は、電極活物質100質量部に対してチオエーテルニトリル化合物を0.01質量部以上含有することが好ましく、より好ましくは0.05質量部以上であり、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、チオエーテルニトリル化合物の含有量は、より好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは7質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下である。チオエーテルニトリル化合物の含有量が少なすぎると電極の腐食や溶媒の分解抑制効果が得られ難くなる虞があり、一方、多量に使用しても使用量に比例する効果は得られ難く、また、電極構成材料におけるチオエーテルニトリル化合物の比率が大きくなり、電極を製造し難くなる虞がある。
【0036】
チオエーテルニトリル化合物を電極に担持(保持)させる方法は特に限定されない。例えば、電極構成材料の一部としてチオエーテルニトリル化合物を使用し、従来公知の製造方法で電極を製造すれば、チオエーテルニトリル化合物を担持した電極が得られる。具体的には、チオエーテルニトリル化合物を、後述する電極活物質や、導電助剤、バインダー等の電極材料と混合して電極材料組成物を調製し、これを集電体に塗工し、乾燥する方法;チオエーテルニトリル化合物を含む電極材料組成物を混練成形し乾燥して得たシートを集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;電極材料組成物を集電体に塗工し、乾燥して得たシート状の電極にチオエーテルニトリル化合物を含む溶液を塗布又は噴霧し、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した液状又はスラリー状の電極材料組成物(チオエーテルニトリル化合物を含む)を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。
【0037】
3.蓄電デバイス
本発明の蓄電デバイスは、上記一般式(1)で表されるチオエーテルニトリル化合物を含むものであればよく、特に限定されるものではないが、具体的な蓄電デバイスとしては、例えば、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池等が挙げられる。また、これらの蓄電デバイスの構成についても特に限定はなく、本発明には、電解液、電極、セパレータなど、従来公知の蓄電デバイスの構成を採用することができる。
【0038】
上記蓄電デバイスに共通の構成である電解液について説明する。
【0039】
3−1.電解液
蓄電デバイスに用いられる電解液は、通常、電解質と媒体とを含む。本発明に係る電解液としては、チオエーテルニトリル化合物を含むものが好ましい(上記態様(i)、(iii))。
【0040】
3−1−1.電解質
本発明では従来公知の電解質を使用することができる。電解質としては、電解液中での解離定数が大きく、また、後述する非水系溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。具体的な電解質としては、LiCF
3SO
3、NaCF
3SO
3、KCF
3SO
3等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、LiN(FSO
2)
2等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミド又はフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF
6、NaPF
6、KPF
6等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO
4、NaClO
4、KClO
4等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF
4、NaBF
4、KBF
4等のテトラフルオロ硼酸塩;リチウムテトラシアノボレート、ナトリウムテトラシアノボレート、カリウムテトラシアノボレート等のシアノホウ酸のアルカリ金属塩;LiAsF
6、LiI、LiSbF
6、LiAlO
4、LiAlCl
4、LiCl、NaI、NaAsF
6、KI等のアルカリ金属塩;過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の第4級アンモニウム塩;(C
2H
5)
4NBF
4、(C
2H
5)
3(CH
3)NBF
4等のテトラフルオロ硼酸の第4級アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート等のシアノホウ酸のアンモニウム塩;(C
2H
5)
4NPF
6等の第4級アンモニウム塩;(CH
3)
4P・BF
4、(C
2H
5)
4P・BF
4等の第4級ホスホニウム塩;等が挙げられる。これらの電解質は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
上記電解質の中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適である。また、非水系溶媒中での溶解性、イオン伝導度の観点からは、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましく、耐還元性の観点からは、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましい。なお、アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましいのはリチウム塩である。
【0042】
電解質の濃度は、本発明に係る電解液中、0.5mol/L以上であるのが好ましく、より好ましくは0.7mol/L以上であり、さらに好ましくは0.9mol/L以上であり、好ましくは飽和濃度以下であり、より好ましくは2.0mol/L以下であり、さらに好ましくは1.8mol/L以下である。電解質量が少なすぎると所望の伝導度が得られ難い場合があり、一方、電解質量が多すぎると、イオンの移動が阻害される虞がある。
【0043】
3−1−2.媒体
媒体としては、チオエーテルニトリル化合物や電解質を溶解できるものであれば特に限定されず、非水系溶媒、ポリマー、ポリマーゲル等、蓄電デバイスに用いられる従来公知の媒体はいずれも使用できる。
【0044】
非水系溶媒としては、誘電率が大きく、チオエーテルニトリル化合物の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;フルオロエチレンカーボネート、trans−ジフルオロエチレンカーボネート、cis−ジフルオロエチレンカーボネート等のフッ素化環状炭酸エステル;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチルニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。
【0045】
これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、ラクトン類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がより好ましい。上記非水系溶媒は1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
媒体として用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系ポリマー、および、これらの共重合体等が挙げられる。また、これらのポリマーと他の有機溶媒とを混合したポリマーゲルも本発明に係る媒体として用いることができる。他の有機溶媒としては上述の非水系溶媒が挙げられる。
【0047】
上記ポリマーゲルを媒体とする場合は、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非水系溶媒にチオエーテルニトリル化合物を溶解させた溶液を滴下して、チオエーテルニトリル化合物並びに非水系溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーとチオエーテルニトリル化合物とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非水系溶媒を含浸させる方法(以上、ゲル電解質);予め有機溶媒に溶解させたチオエーテルニトリル化合物溶液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーとチオエーテルニトリル化合物とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0048】
3−1−3.添加剤
本発明に係る電解液は、蓄電デバイスの各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)等の不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩などのリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物等が挙げられる。
【0050】
上記添加剤は、本発明の電解液中の濃度が0.1質量%〜10質量%の範囲で用いるのが好ましい(より好ましくは0.2質量%〜8質量%、さらに好ましくは0.3質量%〜5質量%)。添加剤の使用量が少なすぎると、添加剤に由来する効果が得られ難い場合があり、一方、多量に他の添加剤を使用しても、添加量に見合う効果は得られ難く、また、電解液の粘度が高くなり伝導率が低下する虞がある。
【0051】
4.リチウムイオン二次電池
上記例示の蓄電デバイスの内、リチウムイオン二次電池についてさらに詳細に説明する。リチウムイオン二次電池とは、正極と、負極と、電解液とを有するものであり、より詳細には、上記正極と負極との間にセパレータが設けられており、且つ、電解液は、上記セパレータに含浸された状態で、正極、負極等と共に外装ケースに収容されている。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池は、チオエーテルニトリル化合物を含むものであり、好ましくは、電解液及び/又は電極にチオエーテルニトリル化合物を含む(上記態様(i)〜(iii))。
【0053】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、リチウムイオン二次電池の形状として従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V〜数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
【0054】
4−1.正極
正極は、正極活物質、導電助剤、結着剤及び分散用溶媒等を含む正極活物質組成物が正極集電体に担持されているものであり、通常、シート状に成形されている。
【0055】
正極の製造方法としては、例えば、正極集電体に正極活物質組成物をドクターブレード法等で塗工したり、浸漬した後に、乾燥する方法;正極活物質組成物を混練成形し乾燥して得たシートを正極集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した正極活物質組成物を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。なお、正極にチオエーテルニトリル化合物を担持させたい場合には(上記態様(ii)、(iii))、正極活物質組成物を構成する材料としてチオエーテルニトリル化合物を使用すればよい。
【0056】
4−1−1.正極集電体
正極集電体の材料としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、SUS(ステンレス鋼)、チタン等の導電性金属が使用できる。中でも、アルミニウムは、薄膜に加工し易く、安価であるため好ましい。
【0057】
4−1−2.正極活物質
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であれば良く、リチウム二次電池で使用される従来公知の正極活物質が用いられる。
【0058】
具体的には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、LiNi
1-x-yCo
xMn
yO
2やLiNi
1-x-yCo
xAl
yO
2(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される三元系酸化物等の遷移金属酸化物、LiAPO
4(A=Fe、Mn、Ni、Co)等のオリビン構造を有する化合物、遷移金属を複数取り入れた固溶材料(電気化学的に不活性な層状のLi
2MnO
3と、電気化学的に活性な層状のLiM’’O[M’’=Co、Ni等の遷移金属]との固溶体)等が正極活物質として例示できる。これらの正極活物質は、1種を単独で使用してもよく、又は、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
4−1−3.導電助剤
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、金属粉末材料、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0060】
4−1−4.結着剤
結着剤としては、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム等の合成ゴム;ポリアミドイミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリアクリル酸;カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂;等が挙げられる。結着剤は1種を単独で使用してもよく、複数種を混合して使用してもよい。また、結着剤は、使用の際に溶媒に溶けた状態であっても、溶媒に分散した状態であっても構わない。
【0061】
導電助剤及び結着剤の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性等を考慮して適宜調整することができる。
【0062】
正極の製造に際して、正極活物質組成物に用いられる溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、酢酸エチル、水等が挙げられる。これらの溶媒は組み合わせて使用してもよい。溶媒の使用量は特に限定されず、製造方法や、使用する材料に応じて適宜決定すればよい。
【0063】
4−2.負極
負極は、負極活物質、分散用溶媒、結着剤及び必要に応じて導電助剤等を含む負極活物質組成物が負極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
【0064】
4−2−1.負極集電体
負極集電体の材料としては、銅、鉄、ニッケル、銀、ステンレス鋼(SUS)等の導電性金属を用いることができる。なお、薄膜への加工が容易である観点からは、銅が好ましい。
【0065】
4−2−2.負極活物質
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池で使用される従来公知の負極活物質を用いることができ、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであればよい。具体的には、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛材料、石炭・石油ピッチから作られるメソフェーズ焼成体、難黒鉛化性炭素等の炭素材料、Si、Si合金、SiO等のSi系負極材料、Sn合金等のSn系負極材料、リチウム金属、リチウム−アルミニウム合金等のリチウム合金、チタン酸リチウムなどのチタン系化合物などを用いることができる。
【0066】
負極の製造方法としては、正極の製造方法と同様の方法を採用することができる。また、負極の製造時に使用する導電助剤、結着剤、材料分散用の溶媒も、正極で用いられるものと同様のものが用いられる。なお、負極にチオエーテルニトリル化合物を担持させたい場合には(上記態様(ii)、(iii))、負極活物質組成物を構成する材料としてチオエーテルニトリル化合物を使用すればよい。
【0067】
4−3.セパレータ
セパレータは正極と負極とを隔てるように配置されるものである。セパレータには、特に制限がなく、本発明では、従来公知のセパレータはいずれも使用することができる。具体的なセパレータとしては、例えば、非水電解液を吸収・保持するポリマーからなる多孔性シート(例えば、ポリオレフィン系微多孔質セパレータやセルロース系セパレータ等)、不織布セパレータ、多孔質金属体等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン系微多孔質セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質を有するため好適である。
【0068】
上記多孔性シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する積層体等が挙げられる。
【0069】
上記不織布セパレータの材質としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、アラミド、ガラス等が挙げられ、非水電解液層に要求される機械強度等に応じて、上記例示の材質を単独で、又は、混合して用いることができる。
【0070】
4−4.電池外装材
正極、負極、セパレータ及び電解液等を備えた電池素子は、リチウムイオン二次電池使用時の外部からの衝撃、環境劣化等から電池素子を保護するため電池外装材に収容される。本発明では、電池外装材の素材は特に限定されず従来公知の外装材はいずれも使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0072】
実施例1
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7(体積比)で混合した非水溶媒に、濃度が1.0mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウム(キシダ化学株式会社製)を溶解させて、非水電解液(1)を調製した。次いで、この非水電解液(1)1.96gに、当該非水電解液中の濃度が2質量%となるように3,3'−(チオビスエチレンビスオキシ)ビスプロピオニトリル0.04g(下記式1−41)を添加して、非水電解液(2)を調製した。
【0073】
【化5】
【0074】
[電池特性評価]
(電池の作製)
正極活物質層の面積がφ12mmの市販の正極シート(パイオトレック株式会社製、活物質:コバルト酸リチウム)と、負極面積がφ14mmの黒鉛負極シート(パイオトレック株式会社製)と、CR2032コイン型電池用部品(宝泉株式会社製)とを用いて、コイン型リチウム電池を作製した。具体的には、ガスケットを装着した負極キャップ、ウェーブワッシャー、スペーサー、負極、ポリエチレン系セパレータをこの順に重ねた後、上記非水電解液(2)70μLをセパレータに含浸させた。次いで、正極活物質層形成面が負極活物質層形成面と対向するように正極を載置し、さらにその上に正極ケースを重ね、カシメ機でかしめることによりコイン型リチウム電池(1)を作製した。
【0075】
(サイクル試験)
得られたコイン型リチウム電池(1)について、充放電試験装置(「ACD−01」、アスカ電子株式会社製)を使用して、充放電速度0.2C(定電流モード)、3.0V〜4.2Vの条件にて、各充放電時には10分の充放電休止時間を設けてサイクル試験を行った。各サイクルでの放電容量及び1サイクル目の放電容量を100%とした場合の放電容量維持率を表1に示す。
【0076】
実施例2
チオニトリルエーテル化合物として、下記式(1−42)で表される3,3'−(オキシビスエチレンビスチオ)ビスプロピオニトリルを使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、非水電解液(3)を調製した。また、非水電解液として非水電解液(3)を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行ってコイン型リチウム電池(2)を作製し、サイクル試験を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
【化6】
【0078】
比較例1
実施例1で調製した非水電解液(1)を用いて、実施例1と同様の操作を行い、電解液にチオエーテルニトリル化合物が含まれないコイン型リチウム電池(3)を作製し、サイクル試験を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2
エーテルニトリル化合物として、下記一般式(2)で表される3,3’−[オキシビス(2,1−エタンジイルオキシ)]ビスプロパンニトリル(エーテルニトリル化合物)を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、非水電解液(4)を調製した。また、非水電解液として非水電解液(4)を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行ってコイン型リチウム電池(4)を作製し、サイクル試験を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
【化7】
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、分子構造中にスルフィド結合を含むチオエーテルニトリル化合物を用いた実施例1および実施例2では、チオエーテルニトリル化合物を含まない比較例1と比較して、放電容量の低下が抑制され、放電容量維持率が大幅に改善することが判明した。
【0083】
加えて、分子構造中にスルフィド結合を含まないエーテルニトリル化合物を添加剤として用いた比較例2は、比較例1の場合よりも放電容量の低下が顕著であり、放電容量維持率も大幅に悪化することが判明した。この結果より、分子構造中にスルフィド結合を含むチオエーテルニトリル化合物を用いることでサイクル特性を改善できることが分かる。
【0084】
以上の通り、本発明によれば、上記一般式(1)で表されるチオエーテルニトリル化合物を含むことにより、経時的な特性の劣化が生じ難く、また、安定した駆動が可能な蓄電デバイスが期待できる。