(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第三工程は、前記接続部に設けられて前記軸線を中心として捩れる第一ネジ部と、前記第二杭本体部に設けられて前記接続部を該第二杭本体部に対して前記軸線方向に相対移動可能とする第二ネジ部とを螺合して、前記接続部を介して前記第一杭本体部と前記第二杭本体部とを接続し、
前記第一ネジ部と前記第二ネジ部との螺合の状態を調節する第四工程を、前記第三工程の後にさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の地滑り防止杭の設置方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されたものを含め、従来の地滑り防止杭においては、支圧板のみによって、地盤に圧縮力を付与するような構造となっており、この支圧板の強度を確保する必要があり、寸法が大きくなってしまう。また、支圧板に代えてブロック状の部材が用いられることもあり、コストアップは避けられない。さらに、例えば支圧板を設置する地盤面の風化が進行していたり、地盤面の状態が凸凹であったりすると、支圧板を確実に設置して、地盤の安定化を確実に図ることは難しい。そして、支圧板が地盤面に剥き出しの状態で設置されると、山肌が支圧板によって覆われた状態となるため、景観上好ましくない。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、コストを抑えて景観の向上を図りながら、確実に地盤の安定化が可能な地滑り防止杭、及び地滑り防止杭の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る地滑り防止杭は、地盤内の滑り面を境に表層側に位置する移動層と下層側に位置する不動層とにわたって、埋設される地滑り防止杭であって、軸線を中心とした鋼管よりなる杭本体部と、前記杭本体部の外周面に設けられて前記軸線を中心とした螺旋状をなして前記不動層内に配置された第一羽根部と、前記杭本体部の外周面に設けられて前記軸線を中心とした螺旋状をなして前記移動層内に配置された第二羽根部と、を備
え、前記杭本体部は、前記第一羽根部が設けられた第一杭本体部と、前記第二羽根部が設けられた第二杭本体部とで分割されて構成され、前記第一杭本体部に設けられた接続部をさらに備え、前記接続部が有する第一ネジ部と前記第二杭本体部が有する第二ネジ部とが螺合して、前記接続部が前記第二杭本体部に対して前記軸線方向に相対移動可能となることを特徴とする。
【0008】
このような地滑り防止杭によると、全体が地盤内に埋設されるとともに、第一羽根部が不動層に、第二羽根部が移動層に位置することで、例えば地滑りによって、移動層が不動層に対して相対的に移動しようとすると、第一羽根部と第二羽根部とがこの移動を防止するように作用する。この際、例えば第一羽根部及び第二羽根部の羽根の設置枚数や寸法を適宜変更することで、不動層と第一羽根部との間、移動層と第二羽根部との間の接触面積を調節して、地盤の状態に合わせて移動層を保持するのに十分な機能を持たせることができる。従って、地盤の地表面に大きな支圧部材を別途設置することなく、移動層の移動を確実に防止可能となり、また、地滑り防止杭の設置ピッチを大きくしても地滑りの防止効果を十分に得ることが可能となる。
さらに、杭本体部は鋼管よりなり、また第一羽根部及び第二羽根部は軸線を中心に螺旋状に形成されているため、杭本体部を地盤内に回転させながら貫入させることができる。
このため事前に掘削穴を設ける必要が無く、設置が容易であるとともに確実に地盤内に固定して保持することができる。
また、杭本体部が分割されていることで、仮に第一羽根部と第二羽根部の羽根ピッチが異なっていたとしても、容易に地盤内に貫入することができる。
【0011】
さらに、前記接続部は、前記第一杭本体部と一体に形成された鋼管よりなっていてもよい。
【0012】
このような接続部によって、第一杭本体部と第二杭本体部とを確実に接続して、移動層を保持することができる。
【0013】
また、前記杭本体部には、該杭本体部の内外を前記軸線の径方向に連通する第一連通部が形成され、前記接続部には、該接続部の内外を前記径方向に連通する第二連通部、及び、前記地盤の外部に向かって開口して前記接続部の内外を連通する第三連通部が形成されていてもよい。
【0014】
このような第一連通部、第二連通部、第三連通部によって、地盤内の地下水位が高い等で、地盤内に水分が含まれている場合に、第一連通部から杭本体部の内部へ、また第二連通部から接続部の内部へ水分を導入し、第三連通部によって杭本体部の内部へ導入された水分を地盤の外部へ排水することができる。従って、地盤の滑り面において、移動層と不動層との間に作用する摩擦力を増大させることができる。また杭本体部の外周面、及び第一羽根部及び第二羽根部に地盤から作用する摩擦力を増大させて地盤を引き止める効果を向上できる。
【0015】
また、前記接続部は、前記第一杭本体部と別体で設けられた棒状部材よりなっていてもよい。
【0016】
このような接続部によって、第一杭本体部と第二杭本体部とを確実に接続して、移動層を保持することができる。
【0017】
また、前記第一杭本体部には、該第一杭本体部の内外を前記軸線の径方向に連通する第一連通部が形成され、前記第二杭本体部には、該第二杭本体部の内外を前記径方向に連通する第二連通部、及び、前記地盤の外部に向かって開口して前記第二杭本体部の内外を連通する第三連通部が形成され、前記接続部は、鋼管よりなり、一端が前記第一杭本体部の内部に向かって開口するとともに、他端が前記地盤の外部に向かって開口していてもよい。
【0018】
このような第一連通部及び第二連通部によって、第一杭本体部及び第二杭本体部の内部に地盤内の水分を導入できる。さらに第一杭本体部の内部に導入された水分は、接続部を介して地盤の外部へ排水することができる。また、第二杭本体部の内部の水分は第三連通部を介して地盤の外部へ排水することができる。従って、地盤の滑り面での摩擦力を増大させ、第一杭本体部の外周面、第二杭本体部の外周面、及び第一羽根部及び第二羽根部に地盤から作用する摩擦力を増大させることが可能となる。
【0019】
さらに、本発明に係る地滑り防止杭は、前記第一杭本体部と前記第二杭本体部とにプレストレスを導入するプレストレス導入手段をさらに備えていてもよい。
【0020】
このようにプレストレスを導入することで、このプレストレスの反力によって第一羽根部と第二羽根部とが接近しようとする方向に力が作用し、即ち、移動層と不動層との間に圧縮力を生じさせることができる。
【0021】
また、前記接続部は、前記軸線を中心として捩じれる第一ネジ部を有し、前記第二杭本体部は、前記接続部を該第二杭本体部に対して前記軸線方向に相対移動可能となるように前記第一ネジ部に螺合される第二ネジ部を有するとともに、該第二ネジ部が前記第一ネジ部に螺合されることで前記接続部を介して前記第一杭本体部に接続され、前記プレストレス導入手段は、前記第一ネジ部と前記第二ネジ部とから構成されて、前記第一ネジ部と前記第二ネジ部の螺合状態の調節によって前記プレストレスが導入されてもよい。
【0022】
このように、接続部を第二杭本体部に対して軸線方向に相対移動可能としたことで、第一ネジ部と第二ネジ部との螺合部分を締緩して、第一杭本体部が第二杭本体部に接近するようにすることができる。即ち、第一杭本体部を移動層側に向かって引っ張ることができ、この場合、第一杭本体部は第二本体部との螺合部分からの反力を受けて引っ張り状態が維持され、第一杭本体部にプレストレスが導入される。従って、地盤内に第一杭本体部及び第二杭本体部を埋設した状態で、螺合部分を締緩することのみによってプレストレスを導入できる。この結果、このプレストレスの反力によって第一羽根部と第二羽根部とが接近しようとする方向に力が作用し、即ち、移動層と不動層との間に圧縮力を生じさせることができる。
【0023】
さらに、前記プレストレス導入手段は、前記第二杭本体部と前記接続部との間に打ち込まれたクサビ部材であってもよい。
【0024】
このようなクサビ部材によって、第一杭本体部を移動層側に向かって引っ張った状態で、第一杭本体部と第二杭本体部とを固定でき、即ちプレストレスの導入が可能となる。従って、移動層と不動層との間に圧縮力を生じさせることができる。
【0025】
また、前記杭本体部は、一本の鋼管よりなっていてもよい。
【0026】
このような構造とすることで、構造をシンプルとすることができ、地滑りの防止効果を得ることができるとともに、さらなるコスト低減につながる。
【0027】
さらに、前記杭本体部には、該杭本体部の内外を前記軸線の径方向に連通する第一連通部と、前記地盤の外部に向かって開口して前記杭本体部の内外を連通する第二連通部とが形成されていてもよい。
【0028】
このような第一連通部によって、杭本体部の内部に地盤内の水分を導入でき、杭本体部の内部に導入された水分は、第二連通部によって地盤の外部へ排水することができる。従って、地盤の滑り面での摩擦力を増大させ、杭本体部の外周面、第一羽根部、第二羽根部に地盤から作用する摩擦力を増大させることが可能となる。
【0029】
また、本発明に係る地滑り防止杭は、前記地盤の地表面に設けられて、該杭本体部からの伝達力を前記地盤に伝達する支圧部材をさらに備えていてもよい。
【0030】
このように支圧部材を設けることで、地表面から地盤を押え付け、地滑り防止の効果をさらに向上することができる。さらに、第二羽根部と支圧部材とを併設することによって、支圧部材のみで移動層の移動を防止する場合と比較し、この支圧部材の寸法を小さくできる。
【0031】
さらに、本発明に係る地滑り防止杭の設置方法は、地盤内の滑り面を境に表層側に位置する移動層と下層側に位置する不動層とにわたって、地滑り防止杭を埋設する地滑り防止杭の設置方法であって、軸線を中心とした鋼管よりなる第一杭本体部の外周面に設けられて該軸線を中心とした螺旋状をなす第一羽根部が前記不動層内に配置されるように、該第一杭本体部を回転貫入して埋設する第一工程と、前記軸線を中心とした鋼管よりなる第二杭本体部の外周面に設けられて該軸線を中心とした螺旋状をなす第二羽根部が前記移動層内に配置されるように、該第二杭本体部を回転貫入して埋設する第二工程と、前記第二工程で埋設された前記第二杭本体部を、該第一杭本体部と該第二杭本体部との間に配された接続部を介して、前記軸線と同心軸上に前記第一杭本体部に接続する第三工程とを備えることを特徴とする。
【0032】
このような地滑り防止杭の設置方法によると、地盤の地表面に大きな支圧部材を別途設置することなく、事前に掘削穴を設ける必要も無く、また仮に第一羽根部と第二羽根部の羽根ピッチが異なっていたとしても回転貫入によって地滑り防止杭を容易に設置できる。従って、確実に地盤内に固定して地滑り防止杭を保持し、地滑りの防止効果を十分に得ることができる。
【0033】
また、本発明に係る地滑り防止杭の設置方法においては、前記第三工程は、前記接続部に設けられて前記軸線を中心として捩れる第一ネジ部と、前記第二杭本体部に設けられて前記接続部を該第二杭本体部に対して前記軸線方向に相対移動可能とする第二ネジ部とを螺合して、前記接続部を介して前記第一杭本体部と前記第二杭本体部とを接続し、前記第一ネジ部と前記第二ネジ部との螺合の状態を調節する第四工程を、前記第三工程の後にさらに備えていてもよい。
【0034】
このような第三工程、第四工程によって、地盤内に第一杭本体部及び第二杭本体部を埋設した状態でプレストレスを導入でき、このプレストレスによって、移動層と不動層との間に圧縮力を生じさせることができる。
【0035】
さらに、本発明に係る地滑り防止杭の設置方法は、地盤内の滑り面を境に表層側に位置する移動層と下層側に位置する不動層とにわたって、地滑り防止杭を埋設する地滑り防止杭の設置方法であって、軸線を中心とした鋼管よりなる
第一杭本体部の外周面に設けられて前記軸線を中心とした螺旋状をなす第一羽根部が前記不動層内に配置されるように、
該第一杭本体部を回転貫入して埋設する第一工程と、前記軸線を中心とした鋼管よりなる第二杭本体部の外周面に設けられて前記軸線を中心とした螺旋状をなす第二羽根部が前記移動層内に配置されるように、
該第二杭本体部を回転貫入して埋設する
第二工程と、前記第一杭本体部に設けられた接続部が有する第一ネジ部と前記第二杭本体部が有する第二ネジ部とを螺合させて、前記第二杭本体部に対して前記接続部を前記軸線方向に相対移動させる第三工程と、を備えることを特徴とする。
【0036】
このような地滑り防止杭の設置方法によると、地盤の地表面に大きな支圧部材を別途設置することなく、事前に掘削穴を設ける必要も無く、回転貫入によって地滑り防止杭を容易に設置できる。従って、確実に地盤内に固定して地滑り防止杭を保持し、地滑りの防止効果を十分に得ることができる。
【発明の効果】
【0037】
請求項1の地滑り防止杭によると、第一羽根部及び第二羽根部を地盤内に配置したことで、地表面に大きな支圧部材を設置することがなく、設置ピッチも大きくできるため、コストを抑えて景観の向上を図り、確実に地盤の安定化が可能となる。
また、杭本体部の分割により、さらに設置を容易化できる。
【0039】
また、
請求項2の地滑り防止杭によると、設置を容易化するとともに、より確実に地盤の安定化が可能となる。
【0040】
また、
請求項3の地滑り防止杭によると、地盤からの排水によって、さらなる地盤の安定化が可能となる。
【0041】
さらに、
請求項4の地滑り防止杭によると、設置を容易化するとともに、より確実に地盤の安定化が可能となる。
【0042】
また、
請求項5の地滑り防止杭によると、地盤からの排水によって、さらなる地盤の安定化が可能となる。
【0043】
また、
請求項6の地滑り防止杭によると、プレストレスの導入によって、地盤の安定化が可能となる。
【0044】
また、
請求項7の地滑り防止杭によると、第二杭本体部と接続部とが螺合して接続されていることで、プレストレスを容易に導入でき、さらなる地盤の安定化が可能となる。
【0045】
さらに、
請求項8の地滑り防止杭によると、クサビ部材によって、プレストレスを容易に導入でき、さらなる地盤の安定化が可能となる。
【0046】
また、
この地滑り防止杭によると、シンプルな構造としたことで、コスト低減が可能である。
【0047】
さらに、
請求項9の地滑り防止杭によると、地盤からの排水によって、さらなる地盤の安定化が可能となる。
【0048】
また、
請求項10の地滑り防止杭によると、支圧部材を併設することでさらなる地盤の安定化を可能としながら、支圧部材の寸法縮小による景観の向上を図ることができる。
【0049】
さらに、
請求項11の地滑り防止杭の設置方法によると、第一羽根部及び第二羽根部を地盤内に配置することで、コストを抑え、また景観の向上を図り、確実に地盤の安定化が可能となる。
【0050】
また、
請求項12の地滑り防止杭の設置方法によると、第三工程で第二杭本体部と接続部とが螺合して接続され、また第四工程をさらに備えることで、プレストレスを容易に導入でき、さらなる地盤の安定化が可能となる。
【0051】
さらに、
請求項13の地滑り防止杭の設置方法によると、第一羽根部及び第二羽根部を地盤内に配置することで、コストを抑え、また景観の向上を図り、確実に地盤の安定化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の第一実施形態に係る地滑り防止杭1について説明する。
図1に示すように、地滑り防止杭1は、地盤10内の滑り面5を境に表層側に位置する移動層11と下層側に位置する不動層12とにわたって地盤10内に埋設され、地滑りを防止する部材である。
【0054】
そして、この地滑り防止杭1は、不動層12中に埋設されるアンカー部(第一杭本体部)21と、移動層11中に埋設される支圧部(第二杭本体部)26とによって構成された杭本体部20を備えている。さらに、これらアンカー部21と支圧部26とを接続する接続部23と、アンカー部21に設けられた第一羽根部22と、支圧部26に設けられた第二羽根部28とを備えている。
ここで、上記軸線P1方向の不動層12側を内側、移動層11側を外側とする。
【0055】
杭本体部20におけるアンカー部21は、鋼管よりなる。
【0056】
第一羽根部22は、アンカー部21の外周面21cに軸線P1を中心に螺旋状に設けられ、不動層12の内部に位置する羽根部材である。この第一羽根部22は、アンカー部21と一体に製作されてもよいし、別体で製作して溶接等によって取り付けてもよい。
なお、この第一羽根部22は、アンカー部21の軸線P1方向の内側の端部21a寄りの位置における外周面21cに設けられているが、不動層12の内部に位置するように設けられていればよく、上述の位置には限定されない。
【0057】
接続部23は、アンカー部21の外側の端部21bにアンカー部21と一体に形成された鋼管よりなり、軸線P1方向の外側の端部23bが地盤10の地表面10aより外側に突出するように設けられている。また、この接続部23は、上記端部23b寄りの位置における外周面23cに雄ネジが形成された雄ネジ部(第一ネジ部)23aを有している。
【0058】
杭本体部20における支圧部26は、アンカー部21同様、鋼管よりなり、接続部23を外周から覆うように、また、軸線P1方向の外側の端部26bが地盤10の地表面10aより外側に突出して設けられている。この端部26bには軸線P1方向の外側から支圧部26に当接するように設けられたナット27を有し、このナット27の雌ネジ部(第二ネジ部、プレストレス導入手段)27aが接続部23の雄ネジ部23aと螺合して、アンカー部21を支圧部26に対して相対移動可能となるように保持している。
【0059】
第二羽根部28は、支圧部26の外周面26cに軸線P1を中心に螺旋状に設けられ、移動層11の内部に位置する羽根部材である。この第二羽根部28は、支圧部26と一体に製作されてもよいし、別体で製作して溶接等によって支圧部26に取り付けてもよい。
なお、この第二羽根部28は、支圧部26の軸線P1方向の内側の端部26a寄りの位置における外周面26cに設けられているが、移動層11の内部に位置するように設けられていればよく、上述の位置には限定されない。
【0060】
次に、本実施形態における地滑り防止杭1の設置方法の手順について説明する。
図2に示すように、地滑り防止杭1の設置方法は、アンカー部21を埋設するアンカー部埋設工程(第一工程)S1と、支圧部26を埋設する支圧部埋設工程(第二工程、第三工程)S2と、アンカー部21と支圧部26との螺合状態を調節するネジ調節工程(第四工程)S3とを備えている。
【0061】
まず、
図2(a)に示すように、アンカー部埋設工程S1を実行する。即ち、第一羽根部22が不動層12の内部に配置されるように、アンカー部21を回転させながら貫入して設置する。そしてアンカー部21と同時に接続部23が設置され、この際、接続部23の軸線P1方向の外側の端部23bが地表面10aから突出するように設置する。
【0062】
次に、
図2(b)に示すように、支圧部埋設工程S2を実行する。即ち、第二羽根部28が移動層11の内部に配置されるように、支圧部26が接続部23を外周から覆った状態で、支圧部26を回転させながら貫入して設置する。そしてこの際、接続部23の雄ネジ部23aにナット27の雌ネジ部27aを螺合させて、アンカー部21に支圧部26を接続する。
【0063】
そして次に、
図2(c)に示すように、ネジ調節工程S3を実行する。即ち、ナット27を回すことで、支圧部26を軸線P1方向の内側へ押し込むとともにアンカー部21を接続部23を介して軸線P1方向の外側に引っ張る。例えば雌ネジ部27a及び雄ネジ部23aが右ネジであれば、軸線P1方向の外側から見てナット27を右回りに回転させることとなる。そしてこの際、アンカー部21は支圧部26との螺合部分から反力を受けて引っ張り状態が維持され、即ちアンカー部21及び支圧部26にプレストレスが導入される。
【0064】
このような地滑り防止杭1においては、アンカー部21、支圧部26がともに地盤10内に埋設され、第一羽根部22が不動層12に、第二羽根部28が移動層11に位置する。このため、地滑りによって、移動層11が不動層12に対して相対的に移動しようとすると、第一羽根部22と第二羽根部28とがこの移動を防止するように移動層11を不動層12に押し付けるように作用する。
【0065】
この際、例えば第一羽根部22及び第二羽根部28の羽根の設置枚数や寸法を適宜変更することで、不動層12と第一羽根部22との間、移動層11と第二羽根部28との間の接触面積を調節して、地盤10の状態に合わせて移動層11を保持するのに十分な機能をアンカー部21及び支圧部26に持たせることができる。従って、地表面10aに大きな支圧部材を別途設置することなく、移動層11の移動を確実に防止可能となるため、コストを抑えるとともに、景観向上が可能となる。
【0066】
さらに、地滑り防止杭1の設置ピッチを大きくしても、地滑りの防止効果を十分に得ることができるため、この点においてもコスト抑制につながる。
【0067】
そして、アンカー部21及び支圧部26は鋼管よりなり、また第一羽根部22及び第二羽根部28は軸線P1を中心に螺旋状に形成されているため、アンカー部21と支圧部26とを地盤10内に回転させながら貫入することができる。従って、地盤10内の土砂を取り除く必要が無くなり、即ち事前に掘削穴を設ける必要が無く設置が容易であるとともに、これらアンカー部21及び支圧部26を確実に地盤10内に固定して保持することができる。この結果、地滑りの防止効果を向上できる。
【0068】
さらに、アンカー部21と支圧部26とを別々に貫入するため、第一羽根部22と第二羽根部28との羽根ピッチは異なっていても貫入は可能である。
【0069】
また、雄ネジ部23aと雌ネジ部27aとを締緩することのみで、アンカー部21及び支圧部26にプレストレスを導入することができる。
従って、地盤10内にアンカー部21及び支圧部26を埋設した状態で、螺合部分を締緩することのみによってプレストレスを導入でき、このプレストレスの反力によって第一羽根部22と第二羽根部28とが接近しようとする方向に力を作用させることが可能となる。即ち、移動層11と不動層12との間に圧縮力を生じさせることができ、確実に地滑りの防止が可能となる。
【0070】
本実施形態の地滑り防止杭1によると、アンカー部21及び支圧部26を共に地盤10内に埋設したことで、コストを抑えるとともに景観を向上し、また、第一羽根部22と第二羽根部28とによって確実に地盤10の安定化を図ることができる。
【0071】
次に、本発明の第二実施形態に係る地滑り防止杭31について説明する。
なお、第一実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態の地滑り防止杭31は、アンカー部41、接続部43、及び支圧部46の形状が第一実施形態のものとは異なっている。
図3に示すように、地滑り防止杭31は、不動層12中に埋設されるアンカー部(第一杭本体部)41と、移動層11中に埋設される支圧部(第二杭本体部)46とによって構成された杭本体部35を備えている。さらに、これらアンカー部41と支圧部46とを接続する接続部43と、アンカー部41に設けられた第一羽根部42と、支圧部46に設けられた第二羽根部48とを備えている。
【0072】
杭本体部35におけるアンカー部41は、鋼管よりなる。
【0073】
第一羽根部42は、アンカー部41の外周面41cに軸線P2を中心に螺旋状に設けられ、不動層12の内部に位置する羽根部材である。
【0074】
接続部43は、アンカー部41の軸線P2方向の外側の端部41bに設けられたナット44によってアンカー部41に接続され、軸線P2方向の外側に向かって延在する鉄筋等よりなる棒状の部材である。また、この接続部43の軸線P2方向の外側の端部43bは地表面10aから突出して設けられ、端部43bにおける外周面43cに雄ネジが形成された雄ネジ部(第一ネジ部、プレストレス導入手段)43aをさらに有している。なお、この接続部43は、アンカー部41に溶接等の他の方法によって接続されていてもよいし、鉄筋に限らずアンカー部41よりも細い鋼管であってもよい。
【0075】
杭本体部35における支圧部46は、アンカー部41同様、鋼管よりなり、接続部43を外周から覆うように、また、軸線P2方向の外側の端部46bが地表面10aより外側に突出して設けられている。そしてこの端部46bには軸線P2方向の外側から支圧部46に当接するように設けられたナット47を有し、ナット47の雌ネジ部(第二ネジ部、プレストレス導入手段)47aが接続部43の雄ネジ部43aと螺合して、アンカー部41を支圧部46に対して相対移動可能となるように保持している。
【0076】
さらに本実施形態では、支圧部46の軸線P2方向の外側の端部46bを塞ぐ外側塞ぎ板50が接続部43を貫通させた状態で設けられ、この外側塞ぎ板50の上部にナット47が設置されている。またこの支圧部46には、軸線P2方向の内側の端部46aを塞ぐ内側塞ぎ板51が接続部43を貫通させた状態で設けられている。
【0077】
第二羽根部48は、支圧部46の外周面46cに軸線P2を中心に螺旋状に設けられ、移動層11の内部に位置する羽根部材である。
【0078】
次に、本実施形態における地滑り防止杭31の設置方法の手順について説明する。
図4に示すように、地滑り防止杭31の設置方法は、アンカー部41を埋設するアンカー部埋設工程(第一工程)S11と、支圧部46を埋設する支圧部埋設工程(第二工程、第三工程)S12と、アンカー部41と支圧部46との螺合状態を調節するネジ調節工程(第四工程)S13とを備えている。
【0079】
まず、
図4(a)に示すように、アンカー部埋設工程S11を実行する。即ち、第一羽根部42が不動層12の内部に配置されるように、アンカー部41を回転させながら貫入して設置する。この際、接続部43の軸線P2方向の外側の端部43bが地表面10aから突出するように設置する。
【0080】
次に、
図4(b)に示すように、支圧部埋設工程S12を実行する。即ち、第二羽根部48が移動層11の内部に配置されるように、支圧部46が接続部43を外周から覆った状態で、また、内側塞ぎ板51及び外側塞ぎ板50を接続部43が貫通するように、支圧部46を回転させながら貫入して設置する。そしてこの際、接続部43の雄ネジ部43aにナット47の雌ネジ部47aを螺合させて、アンカー部41と支圧部46とを接続する。
【0081】
そして次に、
図4(c)に示すように、ネジ調節工程S13を実行する。即ち、ナット47を回すことで、支圧部46を軸線P1方向の内側に押し込むとともにアンカー部41を接続部43を介して軸線P2方向の外側に引っ張る。例えば雌ネジ部47a及び雄ネジ部43aが右ネジであれば、軸線P2方向の外側から見てナット47を右回りに回転させることとなる。そしてこの際、アンカー部41は支圧部46との螺合部分から反力を受けて引っ張り状態が維持され、即ちアンカー部41にプレストレスが導入される。
【0082】
このような地滑り防止杭31においては、例えば地滑りによって、移動層11が不動層12に対して相対的に移動しようとすると、第一羽根部42と第二羽根部48とがこの移動を防止するように移動層11を不動層12に押し付けるように作用する。従って、地表面10aに大きな支圧部材を別途設置する必要がなく、また、地滑り防止杭31の設置ピッチを大きくしても、移動層11を保持するのに十分な機能をアンカー部41及び支圧部46に持たせることができる。この結果、コストを抑えるとともに、景観向上が可能となる。
【0083】
そして、アンカー部41及び支圧部46は鋼管よりなり、また第一羽根部42及び第二羽根部48は、軸線P2を中心に螺旋状に形成されているため、アンカー部41と支圧部46とを地盤10内に回転させながら貫入させ、確実に地盤10内に固定して保持することができ、地滑りの防止効果を向上できる。
【0084】
さらに、アンカー部41と支圧部46とを別々に貫入するため、第一羽根部42と第二羽根部48との羽根ピッチは異なっていても貫入は可能である。
【0085】
また、雄ネジ部43aと雌ネジ部47aとを締緩することのみで、アンカー部41及び支圧部46にプレストレスが導入され、これによって移動層11と不動層12との間に圧縮力を生じさせることができ、確実に地滑りの防止が可能となる。
【0086】
本実施形態の地滑り防止杭31によると、アンカー部41及び支圧部46を共に地盤10内に埋設したことで、コストを抑えるとともに景観を向上し、また、確実に地盤10の安定化を図ることが可能となる。
【0087】
なお、例えばアンカー部21(41)と支圧部26(46)とを螺合して接続せずに、締まり嵌めや、溶接によって接続してもよく、さまざまな手法を用いて接続することができる。また、
図5に示すように、地盤10内に圧縮力を作用させるプレストレスは、例えばアンカー部70の埋設後に、軸線P3方向の外側に引っ張り力を与えた状態で支圧部75と接続部73との間にクサビ部材(プレストレス導入手段)60を打ち込むことによっても導入することができる。
【0088】
次に、本発明の第三実施形態に係る地滑り防止杭81について説明する。
なお、第一実施形態及び第二実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態の地滑り防止杭81は、アンカー部21(41、70)及び支圧部26(46、75)の形状が第一実施形態及び第二実施形態のものとは異なっている。
【0089】
図6に示すように、地滑り防止杭81は、アンカー部21(41、70)と支圧部26(46、75)とが一体となったような、即ち、軸線P4を中心とした鋼管よりなる杭本体部90を備えている。さらにこの地滑り防止杭81は、杭本体部90の外周面90aにおいて、不動層12の内部に位置する第一羽根部92と、移動層11の内部に位置する第二羽根部98とを備えている。
【0090】
このような地滑り防止杭81によると、事前に掘削穴を設ける必要も無く、回転貫入によって杭本体部90を地盤10内に設置でき、確実に地盤内に固定して地滑り防止杭を保持し、地滑りの防止効果を十分に得ることが可能となる。従って、地表面10aに大きな支圧部材を設置することがなく、設置ピッチも大きくできるため、コストを抑えて景観の向上を図り、確実に地盤の安定化が可能となる。
【0091】
なお、本実施形態の場合には、他の実施形態のようにプレストレスは導入されないが、よりシンプルな構造となっているため、コストの低減が可能となる。
【0092】
ここで、第一羽根部92と第二羽根部98については、羽根ピッチが同一となっている。
【0093】
次に、本発明の第四実施形態に係る地滑り防止杭101について説明する。
なお、第一実施形態から第三実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態の地滑り防止杭101においては、第一実施形態の地滑り防止杭1を基本構成として、杭本体部105、及び接続部108が第一実施形態とは異なっている。
【0094】
杭本体部105は鋼管よりなり、アンカー部106と支圧部107とを備えている。
【0095】
図7に示すように、アンカー部106には、外周面106cにおいて内外を径方向に連通するように周方向及び軸線P5の方向に間隔をあけて複数の第一貫通孔(第一連通部)106Aが形成されている。この第一貫通孔106Aは、地盤10内の水分をアンカー部106の内部に導く。
さらにこのアンカー部106には、軸線P5方向の内側の端部106aの開口を閉塞するように塞ぎ板109が設けられている。なおこの塞ぎ板109は、端部106a、即ち、先端部に設けられていなくともよい。
【0096】
支圧部107には、アンカー部106と同様に、外周面107cにおいて内外を径方向に連通するように周方向及び軸線P5の方向に間隔をあけて複数の第二貫通孔(第一連通部)107Aが形成され、地盤10内の水分を支圧部107の内部に導く。
【0097】
接続部108は、アンカー部106の外側の端部106bに一体に形成されており、アンカー部106及び支圧部107と同様に、外周面108cにおいて内外を径方向に連通するように周方向及び軸線P5の方向に間隔をあけて複数の第三貫通孔(第二連通部)108Aが形成されている。そして、この第三貫通孔108Aは、地盤10内の水分を、支圧部107の第二貫通孔107Aを介して、また、支圧部107と接続部108との隙間を介して内部に導く。
【0098】
さらにこの接続部108は、支圧部107に設けられたナット27に螺合して、端部108bが地表面10aよりも外側に突出して地盤10から露出しており、外側の端部108bでの開口部(第三連通部)108Bが、地盤10の外部に向かって開口して形成されている。
【0099】
このような地滑り防止杭101によると、地盤10内の地下水位が高い等で、地盤10内に水分が含まれている場合に、この水分をまず、第一貫通孔106Aからアンカー部106の内部へ、また第二貫通孔107Aから支圧部107の内部へ導入する。さらに、地盤内からの水分、アンカー部106及び支圧部107の内部に導入された水分を、第三貫通孔108Aから接続部108の内部に導入し、これを開口部108Bから地盤10の外部へ排水することができる。
【0100】
ここで、塞ぎ板109をアンカー部106に設けたことで、アンカー部106を貫入する際に、内部に地盤10からの土砂が流入することがなくなり、第一貫通孔106からアンカー部106内部への水分の導入を妨げてしまうことがない。
【0101】
よって、地盤10の滑り面5において、移動層11と不動層12との間に作用する摩擦力を増大させることができ、またアンカー部106部の外周面106c、支圧部107の外周面107c、及び第一羽根部22及び第二羽根部28に地盤10から作用する摩擦力を増大させて地盤10を引き止める効果を向上でき、地滑り防止の効果を向上できる。この結果、地盤10のさらなる安定化を達成することができる。
【0102】
なお、接続部108における開口部118Bに代えて、接続部108がナット27よりも軸線P5方向の外側に突出する部分の外周面108cに内外を径方向に連通する貫通孔(第三連通部)を形成することで、接続部108の内部と地盤10の外部とを連通し、接続部108の内部の水分を地盤10の外部へ排水することも可能である。即ち、開口部108Bは少なくとも地盤10の外部に向かって開口していれば、形成位置は本実施形態の場合に限定されない。
【0103】
ここで、
図8に示すように、
図5に示すクサビ部材60を用いた場合にも、本実施形態の第一貫通孔106A、第二貫通孔107A、第三貫通孔108Aを適用することが可能である。
【0104】
次に、本発明の第五実施形態に係る地滑り防止杭111について説明する。
なお、第一実施形態から第四実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態の地滑り防止杭111においては、第二実施形態の地滑り防止杭31を基本構成として、杭本体部115、及び接続部118が第二実施形態とは異なっている。
【0105】
杭本体部115は鋼管よりなり、アンカー部116と支圧部117とを備えている。
図9に示すように、アンカー部116には、外周面116cにおいて内外を径方向に連通するように周方向及び軸線P6の方向に間隔をあけて複数の第一貫通孔(第一連通部)116Aが形成され、地盤10内の水分をアンカー部116の内部に導く。
さらにこのアンカー部116には、軸線P6方向の内側の端部116aの開口を閉塞するように塞ぎ板119が設けられている。なおこの塞ぎ板119は、端部116a、即ち、先端部に設けられていなくともよい。
【0106】
支圧部117には、アンカー部116と同様に、外周面117cにおいて内外を径方向に連通するように周方向及び軸線P6の方向に間隔をあけて複数の第二貫通孔(第一連通部)117Aが形成され、地盤10内の水分を支圧部117の内部に導く。
【0107】
さらに、この支圧部117には、外側の端部117bを軸線P6方向から塞ぐように外側塞ぎ板113が設けられており、外側塞ぎ板113の上部のナット47に干渉しないように、ナット47よりも軸線P6の径方向外側となる位置で、支圧部117の内外を軸線P6方向に連通するように第三貫通孔(第三連通部)113Aが形成されている。即ち、この第三貫通孔113Aによって、支圧部117は、地盤10の外部に向かって開口している。
【0108】
接続部118は、棒状をなすとともに内部が中空となっており、内側の端部118aでアンカー部116の内部に向かって開口し、外側の端部118bで地盤10の外部に向かって開口しており、これにより、アンカー部116の内部と地盤10の外部とを連通している。
【0109】
このような地滑り防止杭111によると、地盤10内の水分をまず、第一貫通孔116Aによってアンカー部116の内部に導入し、また、第二貫通孔117Aによって支圧部117の内部に導入する。アンカー部116内に導入された水分は、接続部118を介して外側の端部118bの開口より地盤10の外部に排水できる。さらに、支圧部117内に導入された水分は、外側塞ぎ板113の第三貫通孔113Aを通じて、地盤10の外部に排水することができる。
【0110】
ここで、塞ぎ板119をアンカー部116に設けたことで、アンカー部116を貫入する際に、内部に地盤10からの土砂が流入することがなくなり、第一貫通孔116Aからアンカー部116内部への水分の導入を妨げてしまうことがない。
【0111】
よって、地盤10の滑り面5での摩擦力を増大させ、アンカー部116の外周面116c、支圧部117の外周面117c、及び第一羽根部42及び第二羽根部48に地盤10から作用する摩擦力を増大させることが可能となり、さらなる地盤10の安定化が可能となる。
【0112】
なお、本実施形態では、接続部118の外周面118cには貫通孔が形成されていないが、第四実施形態と同様に貫通孔を形成してもよい。
【0113】
次に、本発明の第六実施形態に係る地滑り防止杭121について説明する。
なお、第一実施形態から第五実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態の地滑り防止杭121においては、第三実施形態の地滑り防止杭81を基本構成として、杭本体部125が第三実施形態とは異なっている。
【0114】
図10に示すように、杭本体部125には、外周面125cにおいて内外を径方向に連通するように周方向及び軸線P7の方向に間隔をあけて複数の第一貫通孔(第一連通部)125Aが形成され、地盤10内の水分を杭本体部125の内部に導く。
さらにこの杭本体部125には、軸線P7方向の内側の端部125aの開口を閉塞するように塞ぎ板129が設けられている。なおこの塞ぎ板129は、端部125a、即ち、先端部に設けられていなくともよい。
【0115】
また、この杭本体部125は、外側の端部125bが地表面10aよりも外側に突出して地盤10から露出しており、外側の端部125bでの開口部(第二連通部)125Bが、地盤10の外部に向かって開口して形成されている。
【0116】
このような地滑り防止杭121によると、第一貫通孔125Aによって、杭本体部125の内部に地盤10内の水分を導入でき、この内部に導入された水分は、開口部125Bによって地盤10の外部へ排水することができる。
【0117】
従って、地盤10の滑り面5での摩擦力を増大させ、杭本体部125の外周面、第一羽根部92、第二羽根部98に地盤から作用する摩擦力を増大させることが可能となり、地盤10のさらなる安定化が可能となる。
【0118】
なお、開口部125Bに代えて、杭本体部125が地盤10の外側に突出する部分の外周面125cに内外を径方向に連通する貫通孔(第二連通部)を形成することで、杭本体部125の内部と地盤10の外部とを連通し、杭本体部125の内部の水分を地盤10の外部へ排水することも可能である。即ち、開口部125Bは少なくとも地盤10の外部に向かって開口していれば、形成位置は本実施形態の場合に限定されない。
【0119】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。
例えば、上述の実施形態では、地盤10内に埋設した第一羽根部22(42、72、92)と第二羽根部28(48、78、98)のみによって地滑りを防止するようにしている。しかし従来から行われているように、地表面10aに、接続部23(43、73)又は杭本体部90を支持する不図示の支圧部材をさらに設けてもよい。この場合には、地表面10aから地盤10を押さえつけて地盤10へ力を伝達し、地盤10の安定化をさらに向上できる。そして、第二羽根部28(48、98)と上記支圧部材とを併設したことで、この支圧部材を単独で用いる場合と比較して、この支圧部材の寸法を小さくできるため、景観向上が可能となる。
【0120】
さらに、第一羽根部22(42、72、92)、第二羽根部28(48、78、98)については、羽根枚数や羽根寸法は地盤10の状態に合わせて適宜選択可能であり、また、不連続に設けられていてもよい。
【0121】
また、第四実施形態から第六実施形態の地滑り防止杭101、111、121においては、各貫通孔、各開口部によって地盤10内の水分を地盤10の外部に排水する機能を有しているが、各貫通孔は杭本体部105、115、125の貫入時の強度を十分に維持可能とするような位置に形成することが好ましい。特に滑り面5の近傍では大きな強度が必要であるため、この位置を避けて形成することが好ましい。または、杭本体部105、115、125の鋼管の肉厚を増大させて強度維持を図ってもよい。
【0122】
さらに、排水する機能を有する第四実施形態から第六実施形態の地滑り防止杭101、111、121と、排水機能を有しない第一実施形態から第三実施形態の地滑り防止杭1、31、81とを並存させて地盤10に設置してもよい。この場合には、移動層11の保持効果を維持しながら地盤10内からの排水も可能となるため、さらなる地盤10の安定化を図ることができる。
【0123】
さらに
図11に示すように、第四実施形態から第六実施形態の地滑り防止杭121(101、111)の地盤10への設置角度は、排水効果と地滑り防止効果とのバランスを考えて決定すればよく、ほぼ水平に設置することも可能である。
【0124】
なお、第四実施形態から第六実施形態において各貫通孔は、孔状ではなくスリット状に形成されていてもよく、各部材の内外を連通可能に形成されていればよい。
【0125】
さらに、上述の実施形態では、アンカー部21(41、70、106、116)、支圧部26(46、75、107,117)、杭本体部90(125)、接続部23(43、73、108、118)については、各々が一本の鋼管等の部材によって形成されている。しかし例えば、地滑り防止杭1(31、81、101、111、121)を長くする必要がある場合には、これらの部材は継手を介して複数の鋼管等を継ぐことで構成された分割構造となっていてもよい。ここでこの継手には、例えば溶接や、嵌合、ネジによる締結、機械式継手等が適用可能である。
また、第四実施形態から第六実施形態の地滑り防止杭101(111、121)においてこのような継手を用いる際には、水分を通過可能な構造とする必要がある。