(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998051
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】皮膚を介した侵襲装置のための抗菌被覆
(51)【国際特許分類】
A61L 29/00 20060101AFI20160915BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20160915BHJP
A61L 101/32 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
A61L29/00 B
A61M25/06
A61L101:32
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-519725(P2012-519725)
(86)(22)【出願日】2010年7月8日
(65)【公表番号】特表2012-532681(P2012-532681A)
(43)【公表日】2012年12月20日
(86)【国際出願番号】US2010041358
(87)【国際公開番号】WO2011005951
(87)【国際公開日】20110113
【審査請求日】2013年7月8日
(31)【優先権主張番号】61/224,168
(32)【優先日】2009年7月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/831,880
(32)【優先日】2010年7月7日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン カール バークホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ミン クアン ホアン
【審査官】
常見 優
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−515838(JP,A)
【文献】
米国特許第4324237(US,A)
【文献】
特開2008−220633(JP,A)
【文献】
特開平05−220216(JP,A)
【文献】
特開平10−211272(JP,A)
【文献】
特開平04−020347(JP,A)
【文献】
特開2003−299726(JP,A)
【文献】
特開平11−099200(JP,A)
【文献】
特表2006−525089(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0008671(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0051737(US,A1)
【文献】
特表2009−528360(JP,A)
【文献】
特表2001−523122(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0202177(US,A1)
【文献】
特開平10−323386(JP,A)
【文献】
特表2008−517175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61F 2/00− 4/00
A61F13/00−13/14
15/00−17/00
A61B13/00−18/18
A61M25/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端、基端およびそれらの間の延在部を有するカテーテルであって、経皮表面および血管内表面を含む外表面をさらに有するカテーテルと、
前記カテーテルの患者への挿入後に、前記経皮表面と前記患者の皮膚との間と、前記患者の前記カテーテルの挿入部と、前記挿入部の近傍エリアを覆い前記挿入部を取り囲む位置と、に提供されるよう、前記外表面の前記経皮表面に適用され、前記カテーテルの患者への挿入後に、必要に応じて手で成形可能な量の抗菌物質と、前記挿入部と前記カテーテルとを覆うことで前記挿入部を保護する抗菌包帯剤と、を具えたことを特徴とする抗菌カテーテル装置。
【請求項2】
前記抗菌物質は、水溶性被覆、不溶性被覆、粘性ゲル被覆、成形可能なマトリックスおよび固体被覆の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記抗菌物質は、
ポリマー成分と、
不安定溶媒と、
前記不安定溶媒とは異なるアルコール成分と、
殺生物物質と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記殺生物物質が非アルコール性殺生物物質であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記ポリマー成分がカチオン変性されたポリマー成分であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記ポリマー成分が非水溶性であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記ポリマー成分が水溶性であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項8】
前記殺生物物質が存在する量が、0.01%(重量/体積)から10.0%(重量/体積)であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項9】
前記殺生物物質が存在する量が、0.01%(重量/体積)から5.0%(重量/体積)であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項10】
前記ポリマー成分が存在する量が、0.001%(重量/体積)から5.0%(重量/体積)であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項11】
前記ポリマー成分がセルロース系ポリマー、キトサン、ポリビニル・アルコール、ポリビニル・ピロリドン、ポリビニル・アセテート、ポリウレタンの少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項12】
前記殺生物物質がクロルヘキシジン二塩酸塩、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルヘキシジン・アセテート、クロルヘキシジン・ジアセテート、トリクロサン、クロロキシレノール、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムの少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項13】
前記アルコール成分が1および6の間の炭素原子を有する低級アルコールを含むことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項14】
前記抗菌物質内に前記アルコール成分が存在する量が、20%(重量/体積)にほぼ等しいことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項15】
前記アルコール成分はイソプロピル・アルコールおよびエタノールの混合物であり、前記抗菌物質内に存在する量が40%(重量/体積)から95%(重量/体積)であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項16】
前記不安定溶媒は、前記抗菌物質内に20%(重量/体積)から95%(重量/体積)の量だけ存在する有機溶媒を含むことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項17】
前記ポリマー成分はカチオン変性されたポリマーを含むことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を介した(dermally)侵襲装置のための被覆に関するものである。特に、本発明は、感染を防ぐためにカテーテル装置の外表面に抗菌被覆を適用する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、種々の注入治療のために広く使用されている。例えば、カテーテルは、正常食塩溶液、種々の薬物および非経口的栄養などの流体を患者に注入したり、患者から血液を引き抜いたり、患者の脈管系の様々なパラメータをモニタリングしたりするために用いられる。
【0003】
カテーテルは通常、静脈内カテーテルアセンブリの一部として患者の脈管構造内に導入される。カテーテルアセンブリは、概して、カテーテルを支持するカテーテルハブを含み、カテーテルハブは導入針を支持する針ハブに連結される。導入針は、その針の傾斜部がカテーテル先端を越えて露出するよう、カテーテル内で伸ばされて位置付けられる。針の傾斜部は患者の皮膚を穿孔して開口を設けることにより、患者の脈管構造内に針が挿入されるようにする。カテーテルの挿入および配置後、導入針がカテーテルから取り外されることにより、患者への静脈内アクセスが提供される。
【0004】
カテーテル関連血流感染症は、血管内カテーテルおよびIVアクセス装置によって患者内に微生物のコロニーが形成されることで引き起こされる。これらの感染症は疾病および医療費増大の重要な原因であり、米国では毎年約25万件のカテーテル関連血流感染症が発生している。貨幣原価(monetary costs)に加え、これらの感染症は毎年2万から10万人の死亡に関係している。
【0005】
医療関連感染(healthcare associated infections;HAI)の低減を助けるための指針があるにも拘らず、カテーテル関連血流感染は医療システムを苦しめ続けている。最も一般的な10病原体(HAIの84%の原因となっている)は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(15%)、黄色ブドウ球菌(15%)、エンテロコッカス属種(12%)、カンジダ属種(11%)、大腸菌(10%)、緑膿菌(8%)、肺炎桿菌(6%)、エンテロバクター属種(5%)、アシネトバクター・バウマニア(3%)およびクレブシエラ属オキシトカ(2%)であった。抗菌物質に耐性のある病原性分離株(pathogenic isolates)の統合平均比率(pooled mean proportion)は、いくつかの病原体−抗菌薬の組み合わせに対し、HAIの種類にわたって大きく変動した。全HAIの16%にも及ぶものが次の多剤耐性病原体に関連していた。すなわち、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(HAIの8%)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス属フェシウム(4%)、カルバペネム耐性緑膿菌(2%)、基質特異性拡張型(extended-spectrum)セファロスポリン耐性肺炎桿菌(1%)、基質特異性拡張型セファロスポリン耐性大腸菌(0.5%)、および、カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニア,肺炎桿菌,クレブシエラ属オキシトカおよび大腸菌(0.5%)の抗菌薬耐性病原体である。
【0006】
種々の抗菌物質を染み込ませたカテーテルは、これらの感染を防止するべき実施されている1つのアプローチである。しかしながらこれらのカテーテルは、満足できる結果をもたらしていない。加えて、数種の細菌類はシステムにおける種々の抗菌物質に対する耐性を発達させてきている。
【0007】
従って、当該分野においては、改善された抗菌能力を有する、皮膚を介した侵襲装置が要望されている。そのような方法およびシステムがここに開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した欠点を克服するために、本発明は、患者内へカテーテル装置が完全に挿入されたときに抗菌被覆がカテーテルと患者の皮層との間に介在するよう、カテーテルに適用される抗菌被覆マトリックスに関連する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
いくつかの完成品においては、抗菌処方(antimicrobial formulation)は、カテーテル装置の経皮領域、表面または部分に適用される不溶性の被覆物質として提供される。被覆材料は、患者の脈管構造に対して被覆が露出するのを防止するように適用される。従って、患者の血流は、抗菌処方に関連した毒性への曝露から保護される。
【0010】
いくつかの実施形(implementation)においては、抗菌処方はゲル被覆として備えられる。カテーテルの挿入時に、挿入部位は、過剰なゲル被覆をカテーテル装置から除去する払拭部(squeegee)として作用する。過剰な被覆物質は挿入部位の外に残るため、挿入部位近傍に抗菌物質の溜まりが形成される。いくつかの実施形においては、微量の抗菌物質がカテーテル装置の経皮部分に一体に残り、抗菌物質のいくらかが挿入部位内に移送されるようになっている。他の実施形においては、微量の抗菌物質がカテーテルの全外表面に一体に残り、多少の量の抗菌物質が患者の血流に曝されるようになっている。
【0011】
いくつかの実施形においては、抗菌処方は成形可能な被覆物質として提供される。カテーテルの挿入時に、挿入部位は、過剰な成形可能被覆物質をカテーテル装置から除去する払拭部として作用する。過剰な被覆物質は挿入部位の外に残るため、カテーテルおよびカテーテル挿入部位のまわりでこれを手で成形することで、物理的なバリアが形成される。いくつかの実施形においては、凝血の可能性の増大に対し、所望に応じてカテーテルの血管内表面がさらに変更され、抗血栓被覆または潤滑剤を含むようにされている。
【0012】
本発明の上述のおよび他の特徴並びに利点が得られる態様を容易に理解できるようにする目的で、添付の図面に示された本発明の具体的な実施形態を参照することにより、先に簡単に説明した本発明のより詳細な説明が提供される。図面は本発明の典型的な実施形態を示すものであり、従って本発明の範囲を限定するものとして考察されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抗菌被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の斜視図である。
【
図2】抗菌被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の斜視図である。
【
図3】抗菌被覆で被覆され、患者に挿入された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の斜視図である。
【
図4A】抗菌ゲル被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の斜視図である。
【
図4B】抗菌ゲル被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の、患者へのカテーテル挿入時の斜視図である。
【
図5】抗菌ゲル被覆で被覆され、患者に挿入された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の側面斜視図である。
【
図6】成形可能な抗菌被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の斜視図である。
【
図7】成形可能な抗菌被覆で被覆され、患者に挿入された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の側面斜視図である。
【
図8】抗菌ゲル被覆および抗血栓潤滑剤で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の側面斜視図である。
【
図9】カテーテル装置の経皮および血管内の表面に対応して抗菌ゲル被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の側面斜視図である。
【
図10】抗菌ゲル被覆で被覆された本発明の代表的な実施形態に係るカテーテル装置の、患者へのカテーテル挿入時の斜視図である。
【
図11】本発明の代表的な実施形態に従って抗菌性の包帯剤(dressing)および皮膚の予備処理剤(prep treatment)でさらに保護されて挿入されたカテーテル装置および挿入部位の上面図である。
【
図12】患者に挿入される抗菌ゲル被覆で被覆されたカテーテル装置の側面斜視図であり、本発明の代表的な実施形態に従って抗菌包帯剤および皮膚予備処理剤を含んでいるカテーテル装置が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の現在好適な実施形態は、図面を参照することによって最も良く理解され、ここで同様の参照番号は同一または機能的に同様のエレメントを示している。本発明のコンポーネントは、ここでは概して図面に説明され且つ例示されるように、広範な種々異なる構成に対して配置および設計できることが容易に理解される。よって、図面に表されたような以下のより詳細な説明は、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定することを企図したものではなく、本発明の現在好適な実施形態の代表的なものに過ぎない。
【0015】
図1を参照するに、カテーテル装置アセンブリシステム10が示されている。概して、本発明に係るカテーテル装置システム10は患者20の脈管構造22へのアクセスを提供するものである。いくつかの実施形態では、カテーテル装置システム10はカテーテルチューブ40を支持するカテーテルハブ30を備える。カテーテルチューブ40はカテーテルハブ30から外方に延在し、カテーテルハブ30と流体連通する。
【0016】
いくつかの実施形態では、カテーテル装置システム10はさらに、導入針60を支持する針ハブ50を備える。導入針60は、カテーテルハブ30およびカテーテルハブ40を通り抜けて位置付けられ、針60の傾斜した先端62がカテーテル先端42を越えて延在するようにされている。傾斜した先端62は切開面を備え、これによって患者の皮膚20が穿孔されるとともに、患者の脈管構造22へのアクセスが提供される。カテーテル40が完全に脈管構造22内に挿入されると、導入針60および針ハブ50が取り外され、これによりカテーテル40およびカテーテルアダプタ30を介した患者20への静脈内アクセスが提供される。
【0017】
挿入されたカテーテル40は、経皮領域すなわち表面42および血管内領域すなわち表面44を有するものとして特徴付けられる。経皮表面44は、カテーテル40が完全に患者20の脈管構造22内に挿入されたときに、患者20の1または複数の皮層24を横断するカテーテル40の部分として参照される。いくつかの実施形態においては、経皮表面44は、患者20の内部には位置しているが脈管構造22内には未挿入のカテーテル40の部分として参照される。さらに、いくつかの実施形態においては、経皮表面44は、患者20の脈管構造22内に挿入されていないカテーテル40の部分として参照される。血管内表面46は、カテーテル40の完全な挿入後に脈管構造22内に存在しているカテーテル40の部分として参照される。よって、表面44および46のそれぞれの長さは、カテーテル装置システム10の種類および予想される使用に従って変わり得る。
【0018】
例えば、カテーテルが患者の抹消脈管構造にアクセスするために用いられる場合には、経皮表面44はほぼ1mmからほぼ6mmまでの範囲の長さであり得る。しかしながら、カテーテルが患者の非抹消脈管構造にアクセスするために用いられる場合には、経皮表面44はほぼ6mmからほぼ700mmまでの範囲の長さであり得る。例えば、かかるカテーテルは中心血管カテーテルシステムを含み得る。
【0019】
いくつかの実施形態においては、カテーテル40の挿入に先立って、抗菌被覆70が経皮表面44に施される。被覆70は、カテーテル40が患者20内に配置された後においては被覆70が皮膚20の入口のポイントから静脈22の入口まで延在し、皮膚20の皮層24の近くにあるよう、カテーテル40に適用される。よって、被覆70は、カテーテル40と皮層24との間の保護バリアを提供する。被覆70はさらに、外部環境12と脈管構造22との保護バリアを提供し、それによって挿入部位14を介した細菌感染の可能性が最小化ないしは回避される。
【0020】
いくつかの実施形態において、被覆70は、
図2に示すように、経皮表面44上に配される可溶性もしくは不溶性の薄いポリマーマトリックス72を備える。先に述べたように、マトリックス72の位置は、
図3に示すように、装置10が配置された後においては経皮部分44が入口14のポイントから静脈22の入口まで延在するようにされる。
【0021】
いくつかの実施形態においては、被覆70は、
図4Aに示すように、経皮表面44上に配された粘性および潤滑性のあるゲルマトリックス74を備える。患者20へのカテーテル40の挿入時に、挿入部位14は、過剰なゲルマトリックス74を経皮表面44から除去する払拭部として作用する。過剰なマトリックス74は患者の外側に残るため、マトリックス74の溜まり76が挿入部位14の近傍に形成され、挿入部位14を取り囲む。
【0022】
溜まり76は抗菌被覆物質70の物理的バリアを提供し、それによってさらに、好ましくない微生物の挿入部位14内への導入が防止される。いくつかの実施形態においては、皮層24を通して微量のマトリックス74が経皮表面44と一体に残る。よって、マトリックス74は挿入部位14に対して外部および内部の双方の保護を提供する。いくつかの実施形態においては、挿入部位14の払拭機能がマトリックス74を除去することで、経皮表面44にわたる被覆70の勾配が提供される。他の実施形態においては、挿入部位14の払拭機能とマトリックス74の溶解性との組み合わせによって、経皮表面44にわたる被覆70の勾配が提供される。
【0023】
いくつかの実施形態においては、被覆70は、
図6に示すように、経皮表面44上に配された、適合可能な(conformable)パテ様のマトリックス78を備える。患者20へのカテーテル40の挿入時に、挿入部位14は、過剰なマトリックス78を経皮表面44から除去する払拭部として作用する。過剰なマトリックス78は、
図7に示すように、患者の外側に成形可能な塊80として残る。そして、所望に応じて成形可能な塊80を手で成形することで、挿入部位14およびその近傍のエリアを覆うようにすることが可能である。いくつかの実施形態においては、皮層24を通して微量のマトリックス78が経皮表面44と一体に残る。よって、マトリックス78は挿入部位14に対して外部および内部の双方の保護を提供する。
【0024】
図8を参照するに、いくつかの実施形態において被覆70は、継続する抗菌作用の色表示を提供する生体適合性のある染料物質90を含む。例えば、いくつかの実施形態において染料物質90は、微生物の活動がない状態では第1色を呈し、微生物の活動がある状態では第2色を呈する。概して染料物質90は、挿入部意14の近傍にあるようカテーテル40に位置付けられる。よって、挿入部位14の近傍での微生物の活動は染料90によって示されることになる。
【0025】
いくつかの実施形態においては、カテーテル40はさらに、血管内表面46に対応する抗血栓潤滑剤92を含む。抗血栓潤滑剤92は、カテーテル40の血管内表面46に対して凝結の可能性を低減する。従って、いくつかの実施形態において抗血栓潤滑剤92は、抗血栓特性の実効性および機動性を補助するために、少なくとも部分的に溶解可能なものである。目標とする組織、すなわち皮層24および脈管構造22にそれぞれが接触することになるカテーテルの部分に被覆70および潤滑剤92の配置を限定することにより、凝結の可能性を制限しつつ、被覆70から受ける毒性度が最小化される。
【0026】
図9を参照するに、いくつかの実施形態において、被覆70はカテーテル110の経皮表面44および血管内表面46の双方にわたって配される。カテーテル110の挿入時には、上述したように、また
図10に示すように、挿入部位14は過剰の被覆70を除去する払拭部として作用する。いくつかの実施形態において、残量分の被覆70がカテーテル110の経皮表面44および血管内表面46と一体に残り、これによりカテーテル110の全長にわたる抗菌保護が提供される。いくつかの実施形態では、被覆70は、被覆の機動性および実効性を補助するために、少なくとも部分的に溶解可能である。例えば、被覆70が少なくとも部分的に溶解可能である場合、患者20の体液と接触するに至ったときに被覆70は容易に流動する。いくつかの実施形態において、被覆70は、カテーテルハブ30からカテーテル先端42まで、高くまたは低くなる勾配をもつようカテーテル110の全長にわたって配される。さらに、いくつかの実施形態において被覆70は、抗菌物質、抗血栓潤滑剤および生体適合性のある染料物質の混合物を含む。
【0027】
いくつかの実施形態においては、
図11および
図12に示すように、カテーテル40および挿入部位14にはさらに、抗菌挿入部位調製剤(preparation)100および抗菌包帯剤102が組み合わされる。例えば、いくつかの実施形態においては、患者20の挿入見込み部位14に対し、まずヨウ素消毒剤(iodine scrub)などの抗菌調整剤100が下処理される。そして、カテーテル40および導入針60が挿入部位14に挿入される。いくつかの実施形態では、上述したように、被覆70は挿入部位14を取り囲む溜まり76を形成する。挿入後、針60は取り外され、抗菌包帯剤102はカテーテル40およびカテーテルアダプタ30に対する外部バリアとして備えられる。よって、いくつかの実施形態では、付加的な抗菌保護が提供され、挿入部位14が微生物の活動からさらに保護される。
【0028】
概して、本発明は、カテーテルおよび患者のカテーテル挿入部位を殺菌するのに用いられる抗菌物質を含む新規な抗菌処方部に関連する。先に述べたように、抗菌処方は種々の整合性(consistencies)および形態で備えることができ、所望に応じた種々の被覆方法を可能にする。医療装置の表面での抗菌物質(類)の被覆は望ましくない微生物の増殖を防ぐとともに、通常の使用時において医療装置上での微生物のコロニー形成を低減する。すなわち、患者の皮膚の細菌叢との接触に起因した、あるいは患者との接触に先立つ微生物への曝露に起因した雑菌混入を防止する。加えて、微生物のコロニー形成を低減することで、感染を生じさせることなく、より長い時間、医療装置を患者内にとどめておくことができる。
【0029】
いくつかの実施形態においては、複数回の適用後でも長持ちする抗菌効果が提供されるように選択された、抗菌物質の混合物を含むものとして提供される。例えば、いくつかの実施形態では、抗菌物質は非常に低い水溶性を有するポリマーマトリックスの中から選択および処方される。よって、抗菌処方は、採血,薬物注入,TPN処置などの複数の処置に耐えるとともに、生理食塩水フラッシュおよびヘパリンフラッシュに耐えるものとなる。
【0030】
いくつ管実施形態では、抗菌被覆70は1以上の抗菌物質のマトリックスを含む。被覆70の非限定的な例を表1に示す。
【0032】
例えば、いくつかの実施形態においては被覆70はアルコール成分を含む。適切なアルコール成分は、概して1および6の間の炭素(C
1〜C
6)を有する低級アルコールを含む。いくつかの実施形態では、被覆70は、エチル・アルコール、イソプロパノール、プロパノールおよびブタノールから成る群から選択されたアルコール成分を含む。他の実施形態では、例えば約1:10から約1:1の比率のイソプロピル・アルコールおよびエチル・アルコールの混合物など、2以上の低級アルコール成分を含むものである。さらに、いくつかの実施形態では、被覆70は3以上のアルコール成分を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、被覆70はその40%(重量/体積)にほぼ等しい量のアルコール成分を含む。他の実施形態では、被覆70はほぼ20%(重量/体積)からほぼ95%(重量/体積)のアルコール成分を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、被覆70はさらに、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)およびヘキサン類溶液などの1以上の不安定(fugitive)溶媒を含む。いくつかの実施形態では、被覆70はその40%(重量/体積)にほぼ等しい量の不安定溶媒を含む。他の実施形態では、被覆70は2以上の不安定溶媒を含む。
【0035】
抗菌被覆70は、概して、患者20に感染症を起こさせ得る種々の細菌の種類および株に対して効果のある抗菌ないしは殺菌物質を含む。「殺菌物質」または「殺生物剤」という用語は、ここでは好ましくない生物の繁殖(propagation)、増殖(growth)、コロニー形成(colonization)および増大(multiplication)を破壊、抑制および/または防止する物質に対して参照される。「生物」という用語は、微生物、細菌、波状細菌(undulating bacteria)、スピロヘータ類、芽胞類(spores)、芽胞形成性生物類、グラム陰性生物類、グラム陽性生物類、酵母菌類、糸状菌類、カビ類、ウィルス類、好気性生物類、嫌気性生物類、およびミコバクテリアを含むが、これらに限られるものではない。かかる生物の具体例には、黒色アスペルギルス、黄色アスペルギルス(Aspergillus flavus)、黒色クモノスカビ(Rhizopus nigricans)、クラドスポリウム・ヘルバリウム(Cladosprorium herbarium),有毛表皮糸状菌(Epidermophyton floccosum)、毛瘡白癬菌、ヒストプラズマ・カプスラーツムおよびその他の菌類;緑膿菌、大腸菌、プロテウス・ブルガリス、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermis)、大便連鎖球菌、クレブシエラ菌、アイロゲネス腸内菌(Enterobacter aerogenes)、ミラビリス変形菌、その他グラム陰性菌、およびその他グラム陽性菌、ミコバクチンおよびその他のバクテリア;サッカロミセス・セレヴィシエ、カンジダ・アルビカンスおよびその他の酵母菌を含む。加えて、微生物の芽胞類およびその他も本発明の範囲にある生物である。
【0036】
本発明において用いて好適な殺生物質は、殺生物剤を含有するグアジニン、フェノールおよび第4級アンモニウムを含むが、これらに限られるものではない。例えば、いくつかの実施形態では、被覆70はタウロリジン、パラクロロメタキシレノール、スルファジアジン銀、酸化銀および硝酸銀から選択された殺生物物質を含む。他の実施形態では、被覆70はピリジニウム殺生物剤、塩化ベンザコニウム、セトリミド、塩化ベンゼトニウム(benethonium chloride)、塩化セチルピリジニウム、デカリニウム・アセテート、塩化デカリニウムおよびクロロキシレノールから選択された殺生物物質を含む。
【0037】
さらに、いくつかの実施形態では、被覆70は、クロルヘキシジン基(chlorhexidine base)、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルヘキシジン・アセテート、塩酸クロルヘキシジン、クロルヘキシジン二塩酸塩、ジブロモプロパミジン(dibromopropamidine)、ハロゲン化ジフェニルアルカン類、カルバニリド、サリチルアニリド、テトラクロロサリチルアニド、トリクロロカルバニリドおよびそれらの混合物から選択された殺生物物質を含む。またさらに、いくつかの実施形態では、被覆70は、クロルヘキシジン二塩酸塩、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルヘキシジン・アセテート、クロルヘキシジン・ジアセテート、トリクロサン、クロロキシレノール、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムおよびそれらの組み合わせから選択された殺生物質を含む。
【0038】
いくつかの実施形態においては、被覆70は、1以上の殺生物物質を被覆70の約0.01%(重量/体積)から約10.0%(重量/体積)の量で含む。他の実施形態では、被覆70は、1以上の殺生物物質を被覆70の約0.01%(重量/体積)から約5.0%(重量/体積)の量で含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーを処方に加えることで、抗菌被覆の寿命が延びた。カチオン性ポリマーを抗菌物質に組み合わせることで、医療装置の表面に対する接着状態が形成された。よって、抗菌物質を医療装置に適用したとき、被覆の溶媒が蒸発することで、医療装置に抗菌物質およびカチオン性ポリマーが接着したまま残された。カチオン性ポリマーの非限定的な例には、セルロース系ポリマー(cellulosic polymer)、キトサン、ポリビニル・アルコール、ポリビニル・ピロリドン、、ポリビニル・アセテート、ポリウレタンおよび水溶性セルロースが含まれる。いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーは、アルコールには溶解性があるが水には不溶性であるものとして選択された。他の実施形態では、カチオン性ポリマーは、水に溶解性があるものとして選択された。
【0040】
いくつかの実施形態では、被覆70は種々の成分を室温で単に混合することで調製される。典型的には、有機溶媒またはアルコールおよび水がまず混合され、続いて他の成分の添加が任意の順序で行われる。表1の処方1〜11は、表2に示すような成分で調製された。
【0042】
本発明は、ここで広く説明され、添付の特許請求の範囲に記載されたような、その構造、方法またはその他の本質的な特徴から逸脱することなく、他の具体的な形態においても実施し得るものである。例えば、本発明は、針、外科用メス、套管針、内視鏡、痩孔器具およびその他の、いかなる経皮侵襲装置にも適用が可能である。説明した実施形態は、すべての点で例示的なものとして考察されるべきであり、限定のためのものとして考察されるべきではない。従って、本発明の範囲は、以上の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって表される。特許請求の範囲に記載された発明と等価な範囲および意義に至るすべての変更は、それらの範囲に包含される。