特許第5998110号(P5998110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5998110電磁コイル、電磁コイルの製造方法、及び電磁アクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998110
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】電磁コイル、電磁コイルの製造方法、及び電磁アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/06 20060101AFI20160915BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20160915BHJP
   H01F 7/14 20060101ALI20160915BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   H01F5/06 T
   H01F41/12 Z
   H01F7/14 Z
   H01F5/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-161360(P2013-161360)
(22)【出願日】2013年8月2日
(65)【公開番号】特開2015-32693(P2015-32693A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 雅之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一寿
(72)【発明者】
【氏名】細野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】武藤 定義
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平1−100901(JP,A)
【文献】 特開平2−142332(JP,A)
【文献】 特開平6−264947(JP,A)
【文献】 特開2000−232016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/06
H01F 5/00
H01F 7/14
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定軸線の周りに複数回巻かれた導体により形成された導体巻体と、
平坦な表面を有し、前記導体巻体における所定軸線方向の端部に位置する前記導体どうしの間のへこみを埋めているセラミック層と、
を備えることを特徴とする電磁コイル。
【請求項2】
前記セラミック層の厚さの最大値は、前記所定軸線方向の前記端において複数の前記導体により形成された段差の最大値の3倍以下に設定されている請求項1に記載の電磁コイル。
【請求項3】
前記セラミック層の厚さの最大値は、前記所定軸線方向の前記端において複数の前記導体により形成された段差の最大値の略2倍に設定されている請求項1又は2に記載の電磁コイル。
【請求項4】
所定軸線の周りに導体を複数回巻いて導体巻体を形成する工程と、
前記導体巻体における前記所定軸線方向の端面にセラミックを溶射してセラミック層を形成する工程と、
前記セラミック層の表面を研削して平坦化する工程と、
を備えることを特徴とする電磁コイルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁コイルと、
前記セラミック層に対向して配置された冷却部材と、
を備えることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記セラミック層と前記冷却部材との間に接着剤層が形成されており、
前記セラミック層の熱伝導率は、前記接着剤層の熱伝導率よりも高い請求項5に記載の電磁アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁アクチュエータ等で用いられる電磁コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁コイルにおいて、導体の線材を複数回巻いて形成した導体巻体の中心軸線方向に、金属製の冷却板を配置したものがある(特許文献1参照)。特許文献1に記載のものでは、冷却板の表裏面を、セラミック層からなる高熱伝導絶縁部材により被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−12645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のものでは、導体巻体における中心軸線方向の端面では、複数回巻かれた導体の線材同士の間にへこみが形成されたり、一部の線材が突出したりする。このため、導体巻体の中心軸線方向の端面に冷却板を当てた場合に、その端面と冷却板(詳しくは高熱伝導絶縁部材)との接触が不十分となり、導体巻体の放熱性が低下することとなる。
【0005】
本発明は、こうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、電磁コイルの軸線方向の端面からの放熱性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
第1の手段は、電磁コイルであって、所定軸線の周りに複数回巻かれた導体により形成された導体巻体と、前記導体巻体における前記所定軸線方向の端面に溶射により形成され、表面が平坦化されているセラミック層と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、所定軸線の周りに複数回巻かれた導体により、導体巻体が形成されている。導体巻体における所定軸線方向の端面(以下、「軸線方向端面」と称する)では、複数回巻かれた導体同士の間にへこみが形成されたり、一部の導体が突出したりする。このため、例えば導体巻体の軸線方向端面に冷却板を当てた場合に、導体巻体から冷却板への熱伝達性が低下することとなる。
【0009】
この点、導体巻体の軸線方向端面に溶射によりセラミック層が形成されている。このため、軸線方向端面の凹凸がセラミック層により埋められ、軸線方向端面からセラミック層へ熱を効率的に伝達することができる。そして、セラミック層の表面が平坦化されている。このため、平坦化されたセラミック層の表面に例えば冷却板を当てることにより、セラミック層から冷却板へ熱を効率的に伝達することができる。したがって、電磁コイルの軸線方向端面からの放熱性を向上させることができる。
【0010】
さらに、導体巻体の軸線方向端面がセラミック層により固められているため、電磁コイルの強度を向上させることができる。なお、セラミックは一般に絶縁体であるため、導体にセラミックを溶射したとしても、導体同士が短絡することを防ぐことができる。
【0011】
第2の手段では、前記セラミック層の厚さの最大値は、前記所定軸線方向の前記端面において複数の前記導体により形成された段差の最大値の3倍以下に設定されている。
【0012】
セラミック層が厚いほど確実に軸線方向端面の導体を絶縁することができる一方、セラミック層が薄いほど軸線方向端面から冷却板への熱伝達性が向上する。この点、上記構成によれば、セラミック層の厚さの最大値は、軸線方向端面において複数の導体により形成された段差の最大値の3倍以下に設定されている。このため、軸線方向端面の導体をセラミック層により絶縁しつつ、軸線方向端面から冷却板への熱伝達性が低下することを抑制することができる。
【0013】
第3の手段では、前記セラミック層の厚さの最大値は、前記所定軸線方向の前記端面において複数の前記導体により形成された段差の最大値の略2倍に設定されている。
【0014】
上記構成によれば、セラミック層の厚さの最大値は、軸線方向端面において複数の導体により形成された段差の最大値の略2倍に設定されている。このため、セラミック層の厚さを、軸線方向端面の導体を絶縁することのできる最小限の厚さにして、軸線方向端面から冷却板への熱伝達性を向上させることができる。
【0015】
第4の手段は、電磁コイルの製造方法であって、所定軸線の周りに導体を複数回巻いて導体巻体を形成する工程と、前記導体巻体における前記所定軸線方向の端面にセラミックを溶射してセラミック層を形成する工程と、前記セラミック層の表面を研削して平坦化する工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
上記工程によれば、所定軸線の周りに導体が複数回巻かれて導体巻体が形成される。このとき、導体巻体の軸線方向端面では、複数回巻かれた導体同士の間にへこみが形成されたり、一部の導体が突出したりする。
【0017】
そこで、導体巻体の軸線方向端面にセラミックが溶射されてセラミック層が形成される。これにより、軸線方向端面の凹凸がセラミック層により埋められるとともに、軸線方向端面の導体がセラミック層により絶縁される。この段階では、軸線方向端面の凹凸の影響を受けて、セラミック層の表面にも凹凸が形成されている。そして、セラミック層の表面を研削して平坦化することにより、第1の手段の電磁コイルを製造することができる。
【0018】
第5の手段は、電磁アクチュエータであって、第1〜第3のいずれか1つの手段の電磁コイルと、前記セラミック層に対向して配置された冷却部材と、を備えることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、電磁アクチュエータは第1〜第3のいずれか1つの手段の電磁コイルを備え、電磁コイルのセラミック層に対向して冷却部材が配置されている。このため、平坦化されたセラミック層の表面に冷却部材を当てることにより、セラミック層から冷却部材へ熱を効率的に伝達することができ、電磁コイルの軸線方向端面からの放熱性を向上させることができる。
【0020】
第6の手段では、前記セラミック層と前記冷却部材との間に接着剤層が形成されており、前記セラミック層の熱伝導率は、前記接着剤層の熱伝導率よりも高い。
【0021】
上記構成によれば、セラミック層と冷却部材との間に接着剤層が形成されており、セラミック層と冷却部材とが接着剤層により接着されている。ここで、セラミック層の熱伝導率は、接着剤層の熱伝導率よりも高いため、セラミック層を薄くするよりも接着剤層を薄くする方が、熱伝達性を向上させる上で有利である。
【0022】
この点、セラミック層の表面が平坦化されているため、接着剤層によりセラミック層の凹凸を埋める必要がなく、接着剤層の厚みが増すことを抑制することができる。その結果、セラミック層と冷却部材とを接着剤層により接着する場合であっても、導体巻体の軸線方向端面から冷却部材へ熱を効率的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】電磁弁及び流路ブロックを示す断面図。
図2】領域Aの拡大断面図。
図3】領域Aに対応する領域Abの部分の製造方法を示す拡大断面図。
図4】X線発生装置を示す断面図。
図5】領域Bの拡大断面図。
図6】領域Bに対応する領域Bbの部分の製造方法を示す拡大断面図。
図7】電磁弁の変更例を示す断面図。
図8】領域Cの拡大断面図。
図9】領域Cに対応する領域Cbの部分の製造方法を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、流体の流路を開閉する電磁弁として具体化している。
【0025】
図1に示すように、流路ブロック20は、ステンレスやアルミ等の金属により、直方体状に形成されている。流路ブロック20の内部には、流入通路21及び流出通路22が形成されている。流路ブロック20の上部には、弁室23が形成されている。弁室23は、流路ブロック20の上面に開口している。流入通路21の一端は流路ブロック20の所定の側面に開口しており、流入通路21の他端は弁室23に連通している。流入通路21が所定の側面に開口した部分は、流入ポート21aとなっている。流出通路22の一端は流路ブロック20の所定の側面に開口しており、流出通路22の他端は弁室23に連通している。流出通路22が所定の側面に開口した部分は、流出ポート22aとなっている。流入ポート21a及び流出ポート22aには、流体を流通させる配管等がそれぞれ接続される。
【0026】
流路ブロック20の上面には、電磁弁10が取り付けられている。電磁弁10(電磁アクチュエータ)は、筐体11、電磁コイル12、固定鉄心13、ヒートパイプ14、ガイド部15、可動鉄心16、ばね部材17、及びシール部材18を備えている。
【0027】
筐体11は、鉄等の強磁性体により、円筒状に形成されている。固定鉄心13は、鉄等の強磁性体により、円柱状に形成されている。電磁コイル12は、丸線の導体を固定鉄心13の外周に複数回巻くことにより円筒状に形成された導体巻体12aを備えている。丸線の導体の表面は、絶縁体により被覆されている。電磁コイル12は、固定鉄心13の軸線方向に並ぶように2つ設けられている。なお、固定鉄心13の軸線及び電磁コイル12の軸線が、所定軸線に相当する。
【0028】
上記ヒートパイプ14(冷却部材)は、固定鉄心13の外周に嵌合可能な環状部と、環状部に接続されたパイプ部とを備えている。ヒートパイプ14は、銅やアルミ等の熱伝導率の高い材質で形成され、内部に揮発性の液体が封入された公知のものである。ヒートパイプ14の環状部が、固定鉄心13の外周に嵌合されている。ヒートパイプ14は、上側の電磁コイル12の上方、上側の電磁コイル12と下側の電磁コイル12との間、及び下側の電磁コイル12の下方に設けられている。
【0029】
ガイド部15は、鉄等の強磁性体により、有底の円筒状に形成されている。上記筐体11の内部に、固定鉄心13、2つの電磁コイル12、3つのヒートパイプ14の環状部、及びガイド部15の上部が収容されている。そして、固定鉄心13の下面にガイド部15の上面(底面)が接合されており、筐体11の内周面にガイド部15の外周面が接合されている。
【0030】
可動鉄心16は、鉄等の強磁性体により、円柱状に形成されている。可動鉄心16は、ガイド部15の内部に形成された円柱状の空間よりも若干小さく形成されている。上記シール部材18(弁体)は、ゴム等の弾性体により、円板状に形成されている。上記ばね部材17は、アルミ等の非磁性体により、円板状に形成されている。
【0031】
可動鉄心16の下面において、中央にシール部材18が取り付けられ、シール部材18の外周にばね部材17が取り付けられている。ばね部材17の外縁部が、上記流路ブロック20とガイド部15とで挟持されている。ガイド部15の内部に、可動鉄心16が配置されている。シール部材18は、上記流入通路21が上記弁室23に連通する部分に対向している。シール部材18は、流入通路21と弁室23との連通を遮断するように、ばね部材17により付勢されている。
【0032】
こうした構成において、電磁コイル12に電流を流すと、ばね部材17の付勢力に抗して可動鉄心16(シール部材18)が固定鉄心13側へ引き付けられる。これにより、流入通路21と弁室23とが連通し、流入通路21から弁室23を通じて流出通路22へ流体が流通する。電磁コイル12に流れる電流を停止させると、ばね部材17によりシール部材18が固定鉄心13と反対側へ付勢される。これにより、シール部材18によって、流入通路21と弁室23との連通が遮断される。
【0033】
電磁コイル12に電流を流すと、上記導体巻体12aが発熱する。電磁コイル12の熱は、導体巻体12aの軸線方向の端面(軸線方向端面)から、ヒートパイプ14の環状部に伝達される。また、電磁コイル12の熱は、導体巻体12aの内周面から、固定鉄心13や筐体11を介してヒートパイプ14の環状部に伝達される。
【0034】
ここで、導体巻体12aにおける軸線方向端面では、複数回巻かれた丸線の導体同士の間にへこみが形成されたり、一部の丸線の導体が突出したりする。このため、導体巻体12aの軸線方向端面にヒートパイプ14の環状部を当てた場合に、導体巻体12aからヒートパイプ14の環状部への熱伝達性が低下することとなる。
【0035】
この点、本実施形態では、導体巻体12aの軸線方向端面に溶射によりセラミック層が形成されている。図2は、導体巻体12aの軸線方向端面の周辺である領域Aの拡大断面図である。
【0036】
同図に示すように、複数回巻かれた丸線の導体12bにより形成された導体巻体12aの軸線方向端面では、導体12b同士の間にへこみが形成されている。導体巻体12aの軸線方向端面には、導体12b同士の間のへこみを埋めるように、アルミナの溶射によりセラミック層12cが形成されている。これにより、導体巻体12aの軸線方向端面は、セラミック層12cにより覆われている。アルミナは、純度98%以上のものが使用されている。セラミック層12cの表面は、平坦化されており、所定の平滑度に仕上げられている。特に、アルミナの純度が98%以上であるため、セラミック層12cの表面を非常に平滑に仕上げることができる。
【0037】
セラミック層12cの厚さの最大値t12は、互いに隣接する導体12bにより形成される段差の最大値t11の略1.5倍(3倍以下)になっている。ここで、セラミック層12cが厚いほど確実に導体巻体12aの軸線方向端面の導体12bを絶縁することができる一方、セラミック層12cが薄いほど軸線方向端面からヒートパイプ14の環状部への熱伝達性が向上する。また、セラミック層12cの厚さの最小値t13は、段差の最大値t11よりも小さくなっている。
【0038】
そして、セラミック層12cの表面に、ヒートパイプ14の環状部が当接させられている。ヒートパイプ14の環状部の表面も、所定の平滑度に仕上げられている。このため、セラミック層12cの表面と、ヒートパイプ14の環状部の表面との接触面積が大きくなっている。
【0039】
このような電磁コイル12は、以下の製造方法で製造される。図3は、領域Aに対応する領域Abの部分の製造方法を示す拡大断面図である。
【0040】
まず、上記固定鉄心13の周りに丸線の導体12bを複数回巻いて、導体巻体12aを形成する。
【0041】
続いて、導体巻体12aにおける軸線方向端面にアルミナを溶射して、セラミック層12dを形成する。これにより、軸線方向端面の凹凸がセラミック層12dにより埋められるとともに、軸線方向端面の導体12bがセラミック層12dにより絶縁される。なお、本実施形態では、導体12bの表面に被覆された絶縁体によっても、導体12bが絶縁されている。この段階では、軸線方向端面の凹凸の影響を受けて、セラミック層12dの表面にも凹凸が形成されている。セラミック層12dの厚さは、導体12bにより形成される段差の最大値t11の略3倍になっている。なお、セラミック層12dにおいて、導体巻体12a寄りの部分がセラミック層12cである。
【0042】
続いて、セラミック層12dの表面を研削して平坦化し、セラミック層12cだけを残す。これにより、セラミック層12cの厚さの最大値t12は、段差の最大値t11の略1.5倍になる。さらに、セラミック層12cの表面を研磨して、所定の平滑度に仕上げる。以上の工程により、電磁コイル12が製造される。
【0043】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0044】
・導体巻体12aの軸線方向端面に溶射によりセラミック層12cが形成されている。このため、軸線方向端面の凹凸がセラミック層12cにより埋められ、軸線方向端面からセラミック層12cへ熱を効率的に伝達することができる。そして、セラミック層12cの表面が平坦化されている。このため、平坦化されたセラミック層12cの表面にヒートパイプ14の環状部を当てることにより、セラミック層12cからヒートパイプ14の環状部へ熱を効率的に伝達することができる。したがって、電磁コイル12の軸線方向端面からの放熱性を向上させることができる。
【0045】
・導体巻体12aの軸線方向端面がセラミック層12cにより固められているため、電磁コイル12の強度を向上させることができる。
【0046】
・セラミック層12cの厚さの最大値t12は、軸線方向端面において複数の導体12bにより形成された段差の最大値t11の略1.5倍(3倍以下)に設定されている。このため、軸線方向端面の導体12bをセラミック層12cにより絶縁しつつ、軸線方向端面からヒートパイプ14の環状部への熱伝達性が低下することを抑制することができる。さらに、セラミック層12cは、非磁性体のアルミナにより最小限の厚さで形成されているため、電磁コイル12が発生する磁束にセラミック層12cが影響を与えることを抑制することができる。
【0047】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、X線発生装置として具体化している。図4は、X線発生装置30を示す断面図である。
【0048】
同図に示すように、X線発生装置30(電磁アクチュエータ)は、筐体31、電磁コイル32、アパーチャ部33、及び標的34を備えている。
【0049】
筐体31(冷却部材)は、鉄等の強磁性体により形成されており、円錐状の先端部31a、大径の円筒状の外周部31b、円板状の底部31c、及び小径の円管状の内周部31dを有している。筐体31により磁気回路が形成されている。
【0050】
電磁コイル32は、帯状(フィルム状)の導体32bを筐体31の内周部31dの外周に複数回巻くことにより円筒状に形成された導体巻体32aを備えている。帯状の導体32bの表面は、絶縁体により被覆されている。導体巻体32aの先端部は、筐体31の先端部31aの形状に対応した円錐状に形成されている。なお、筐体31の内周部31dの軸線及び電磁コイル32の軸線が、所定軸線に相当する。
【0051】
アパーチャ部33は、真鍮や銅等の非磁性体により、円柱状に形成されている。アパーチャ部33の中心には、電子ビームBMの通路33aが形成されている。アパーチャ部33は、筐体31の内周部31dの先端に取り付けられている。筐体31の先端部31aの先端面には、標的34が取り付けられている。標的34は、タングステン等により形成されており、電子ビームBMが衝突することによりX線を発生させる。
【0052】
こうした構成において、電磁コイル32に電流を流すと磁束が発生し、この磁束が筐体31により形成された磁気回路を通過する。これにより、電子ビームBMがアパーチャ部33を通過する際に集束され、集束された電子ビームBMが標的34に衝突する。そして、標的34から発生したX線が資料Sに照射される。
【0053】
また、電磁コイル32に電流を流すと、導体巻体32aが発熱する。電磁コイル32の熱は、導体巻体32aから筐体31に伝達される。筐体31は、図示しない手段により冷却されている。
【0054】
ここで、導体巻体32aにおける軸線方向端面では、複数回巻かれた帯状の導体32b同士の間にへこみが形成されたり、一部の帯状の導体32bが突出したりする。特に、導体巻体32aの先端部は円錐状に形成されているため、互いに隣接する導体32bにより段差が形成され易い。このため、導体巻体32aの軸線方向端面に筐体31の先端部31aを当てた場合に、導体巻体32aから筐体31の先端部31aへの熱伝達性が低下することとなる。
【0055】
この点、本実施形態では、導体巻体32aの軸線方向端面(円錐状面)に溶射によりセラミック層が形成されている。図5は、導体巻体32aの軸線方向端面の周辺である領域Bの拡大断面図である。
【0056】
同図に示すように、複数回巻かれた帯状の導体32bにより形成された導体巻体32aの軸線方向端面では、導体32b同士の間にへこみが形成されている。導体巻体32aの軸線方向端面には、導体32b同士の間のへこみを埋めるように、アルミナの溶射によりセラミック層32cが形成されている。これにより、導体巻体32aの軸線方向端面は、セラミック層32cにより覆われている。セラミック層32cの円錐状面の表面は、平坦化されており、所定の平滑度に仕上げられている。
【0057】
セラミック層32cの厚さの最大値t22は、互いに隣接する導体32bにより形成される段差の最大値t21の略2倍(3倍以下)になっている。また、セラミック層32cの厚さの最小値t23は、段差の最大値t21と略等しくなっている。
【0058】
そして、セラミック層32cの表面に、筐体31の先端部31aが当接させられている。筐体31の先端部31aも、所定の平滑度に仕上げられている。
【0059】
このような電磁コイル32は、以下の製造方法で製造される。図6は、領域Bに対応する領域Bbの部分の製造方法を示す拡大断面図である。
【0060】
まず、上記筐体31の内周部31dの周りに帯状の導体12bを複数回巻いて、導体巻体32aを形成する。
【0061】
続いて、導体巻体32aにおける軸線方向端面(円錐状面)にアルミナを溶射して、セラミック層32dを形成する。この段階では、軸線方向端面の凹凸の影響を受けて、セラミック層32dの表面にも凹凸が形成されている。セラミック層32dの厚さは、導体32bにより形成される段差の最大値t21の略3倍になっている。なお、セラミック層32dにおいて、導体巻体32a寄りの部分がセラミック層32cである。
【0062】
続いて、セラミック層32dの円錐状面(曲面)の表面を研削して平坦化し、セラミック層32cだけを残す。これにより、セラミック層32cの厚さの最大値t22は、段差の最大値t21の略2倍になる。さらに、セラミック層32cの表面を研磨して、所定の平滑度に仕上げる。以上の工程により、電磁コイル32が製造される。
【0063】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0064】
・導体巻体32aの軸線方向端面(円錐状面)に溶射によりセラミック層12cが形成されている。このため、軸線方向端面の凹凸がセラミック層32cにより埋められ、軸線方向端面からセラミック層32cへ熱を効率的に伝達することができる。そして、セラミック層12cの円錐状面(曲面)の表面が平坦化されている。このため、平坦化されたセラミック層12cの表面に筐体31の先端部31aを当てることにより、セラミック層32cから筐体31の先端部31aへ熱を効率的に伝達することができる。したがって、電磁コイル32の軸線方向端面からの放熱性を向上させることができる。
【0065】
・導体巻体32aの軸線方向端面がセラミック層12cにより固められているため、電磁コイル32の強度を向上させることができる。
【0066】
・セラミック層32cの厚さの最大値t22は、軸線方向端面において複数の導体32bにより形成された段差の最大値t21の略2倍に設定されている。このため、軸線方向端面の導体32bをセラミック層32cにより絶縁しつつ、軸線方向端面から筐体31の先端部31aへの熱伝達性が低下することを抑制することができる。さらに、セラミック層32cは、非磁性体のアルミナにより最小限の厚さで形成されているため、電磁コイル32が発生する磁束にセラミック層32cが影響を与えることを抑制することができる。
【0067】
上記各実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。なお、上記各実施形態と同一の部材については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0068】
図7,8に示すように、電磁コイル52の導体巻体52aを、帯状(フィルム状)の導体52bと帯状(フィルム状)の接着層52eにより形成することもできる。この場合、帯状の導体52bの表面は絶縁体により被覆されておらず、互いに隣接する導体52bは接着層52eにより、接着及び絶縁されている。接着層52eは、樹脂等の絶縁体により形成されている。なお、接着層52eが、帯状の絶縁体と帯状の接着剤とにより構成されていてもよい。
【0069】
導体巻体52aの軸線方向端面には、導体52b同士の間のへこみを埋めるように、アルミナの溶射によりセラミック層52cが形成されている。これにより、導体巻体52aの軸線方向端面は、セラミック層52cにより覆われている。アルミナは絶縁体であるため、導体52bにアルミナを溶射したとしても、導体52b同士が短絡することを防ぐことができる。セラミック層52cの円錐状面の表面は、平坦化されており、所定の平滑度に仕上げられている。ここでも、アルミナの純度が98%以上であるため、セラミック層52cの表面を非常に平滑に仕上げることができる。
【0070】
セラミック層52cの厚さの最大値t32は、互いに隣接する導体52bにより形成される段差の最大値t31の略2倍(3倍以下)になっている。また、セラミック層52cの厚さの最小値t33は、段差の最大値t31と略等しくなっている。
【0071】
そして、セラミック層52cの表面と筐体11(冷却部材)の表面とが、接着剤層52fにより接着されている。筐体11は、図示しない手段により冷却されている。接着剤層52fの厚さは、セラミック層52cの厚さの最大値t32よりも薄くなっている。セラミック層52cの熱伝導率は、接着剤層52fの熱伝導率よりも高くなっている。
【0072】
図9は、領域Cに対応する領域Cbの部分の製造方法を示す拡大断面図である。導体巻体52aにおける軸線方向端面にアルミナを溶射して、セラミック層52dを形成する。セラミック層52dの厚さは、導体52bにより形成される段差の最大値t31の略4倍になっている。続いて、セラミック層52dの表面を研削して平坦化し、セラミック層52cだけを残す。なお、セラミック層52dにおいて、導体巻体52a寄りの部分がセラミック層52cである。
【0073】
上記構成によれば、セラミック層52cの厚さの最大値t32は、軸線方向端面において複数の導体52bにより形成された段差の最大値t31の略2倍に設定されている。このため、セラミック層52cの厚さを、軸線方向端面の導体52bを絶縁することのできる最小限の厚さにして、軸線方向端面から筐体11への熱伝達性を向上させることができる。特に、導体52bは帯状に形成されており、絶縁体により被覆されていないため、導体巻体52aの軸線方向端面(導体52bの端面)からセラミック層52cへ、熱を効率的に伝達することができる。この場合、導体巻体52a(電磁コイル52)の軸線方向の長さは、導体巻体52aの直径の1/2以下の長さ、望ましくは導体巻体52aの直径の1/3以下の長さであるとよい。これにより、導体巻体52aの軸線方向において中間部分からセラミック層52cまでの距離が短くなり、セラミック層52cへ熱を更に効率的に伝達することができる。さらに、セラミック層52cは、非磁性体のアルミナにより最小限の厚さで形成されているため、電磁コイル52が発生する磁束にセラミック層52cが影響を与えることを抑制することができる。また、導体巻体52aの軸線方向端面がセラミック層52cにより固められているため、互いに滑り易い帯状の導体52bと接着層52eとの滑りを抑制することができる。したがって、電磁コイル52のねじれを抑制することができ、電磁コイルの強度を向上させることができる。特に、電磁コイル52が、円柱状や楕円柱状、長円柱状である場合に、ねじりに対する強度を効果的に向上させることができる。
【0074】
セラミック層52cの熱伝導率は、接着剤層52fの熱伝導率よりも高いため、セラミック層52cを薄くするよりも接着剤層52fを薄くする方が、熱伝達性を向上させる上で有利である。この点、セラミック層52cの表面が平坦化されているため、接着剤層52fによりセラミック層52cの凹凸を埋める必要がなく、接着剤層52fの厚みが増すことを抑制することができる。その結果、セラミック層52cと筐体11とを接着剤層52fにより接着する場合であっても、導体巻体52aの軸線方向端面から筐体11へ熱を効率的に伝達することができる。
【0075】
図2において、丸線の導体12bに代えて、角線の導体を用いることもできる。
【0076】
・導体巻体12a,52aの形状は、円筒状に限らず、楕円筒状や多角形筒状等を採用することもできる。
【0077】
・電磁コイル12,32,52を、他の電磁アクチュエータに適用することもできる。
【0078】
・セラミック層12c,32c,52cを、ジルコニアやチタニア、マグネシア等のセラミックの溶射により形成することもできる。
【符号の説明】
【0079】
10…電磁弁(電磁アクチュエータ)、12…電磁コイル、12a…導体巻体、12b…導体、12c…セラミック層、14…ヒートパイプ(冷却部材)、30…X線発生装置(電磁アクチュエータ)、31…筐体(冷却部材)、32…電磁コイル、32a…導体巻体、32b…導体、32c…セラミック層、52…電磁コイル、52a…導体巻体、52b…導体、52c…セラミック層、52f…接着剤層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9