【文献】
Glucose-responsive micelles from self-assembly of poly(ethylene glycol)-b-poly(acrylic acid-co-acrylamidophenylboronic acid) and the controlled release of insulin.,Langmuir,2009年,vol.25,no.21,pp.12522-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ベシクル組成物の一実施形態を図示する。
【
図2】
図2は、ベシクル組成物の一実施形態を図示する。
【
図3】
図3は、ベシクル組成物の一実施形態を図示する。
【
図4】
図4は、NF−κBの核または細胞質の局在化に対するボロン酸誘導体処理の効果を示しているHeLa細胞の代表的な画像を示す。
【
図5A】
図5Aは、未処理のコントロール(untreated control)(UTC)およびリポポリサッカライド(LPS)と比較した、遊離の(暗いバー)4−アミノカルボニルフェニルボロン酸を用い、およびそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質の画分との間のピアソンの相関係数(Pearson’s correlation coefficient)(PCC)を示す。
【
図5B】
図5Bは、未処理のコントロール(UTC)およびリポポリサッカライド(LPS)と比較した、遊離の(暗いバー)3−アミノフェニルボロン酸を用い、およびそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質の画分との間のピアソンの相関係数(PCC)を示す。
【
図5C】
図5Cは、未処理のコントロール(UTC)およびリポポリサッカライド(LPS)と比較した、遊離の(暗いバー)5−アミノ−2,4−ジフルオロフェニルボロン酸を用い、およびそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質の画分との間のピアソンの相関係数(PCC)を示す。
【
図5D】
図5Dは、未処理のコントロール(UTC)およびリポポリサッカライド(LPS)と比較した、遊離の(暗いバー)3−フルオロ−4−アミノメチルフェニルボロン酸を用い、およびそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質の画分との間のピアソンの相関係数(PCC)を示す。
【
図5E】
図5Eは、未処理のコントロール(UTC)およびリポポリサッカライド(LPS)と比較した、遊離の(暗いバー)および4−アミノピリミジンボロン酸を用い、およびそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質の画分との間のピアソンの相関係数(PCC)を示す。
【
図6A】
図6Aは、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)4−アミノカルボニルフェニルボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞の生残画分を示す。
【
図6B】
図6Bは、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)3−アミノフェニルボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞の生残画分を示す。
【
図6C】
図6Cは、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)5−アミノ−2,4−ジフルオロフェニルボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞の生残画分を示す。
【
図6D】
図6Dは、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)3−フルオロ−4−アミノメチルフェニルボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞の生残画分を示す。
【
図6E】
図6Eは、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)4−アミノピリミジンボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞の生残画分を示す。
【
図7】
図7は、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸の結合定数算出のための代表的なプロットを示す。
【
図8】
図8は、種々のボロン酸誘導体の、構造、グルコース結合親和性、80nMでのHeLa細胞生残パーセント、および80nMでの、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質画分との間のPCCを示す。
【
図9】
図9は、4つの代表的なボロン酸−糖ベシクル組成物についての累積的な放出プロットを図示する。
【
図10A】
図10Aは、5mM、7mM、および10mMのPBSで誘発することに比較して、5mM、7mM、および10mMのグルコースで誘発された、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸−糖ベシクル組成物からのインスリンの放出についての累積的プロットを図示する。
【
図10B】
図10Bは、5mM、7mM、および10mMのPBSで誘発することに比較して、5mM、7mM、および10mMのグルコースで誘発された、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸−糖ベシクル組成物からのインスリンの放出についての異なるプロットを図示する。
【
図11A】
図11Aは、10mM、30mM、および40mMのグルコースで誘発された、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸−糖ベシクル組成物(「4−アミノカルボニルフェニルボロン酸AVT」)およびコンカナバリンAベシクル組成物(「ConA−AVT」)からのインスリンの放出のための累積的プロットを図示する。
【
図11B】
図11Bは、10mM、30mM、および40mMのグルコースで誘発された、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸−糖ベシクル組成物(「4−アミノカルボニルフェニルボロン酸AVT」)およびコンカナバリンAベシクル組成物(「ConA−AVT」)からのインスリンの放出のための異なるプロットを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、本開示の一部を形成する、添付の図面および実施例と関係してなされた以下の詳細な説明を参照することによって、さらに容易に理解され得る。本発明は、本明細書に記載および/または示される、特定の装置、方法、適用、条件またはパラメーターに限定されない。本明細書において用いられる専門用語は、例示のためにのみ特定の実施形態を記載する目的であって、限定を意図するものではない。本明細書および特許請求の範囲で用いられるとおり、単数形である「1つの、ある(不定冠詞:a、an)」および「この、その(定冠詞:the)」は、複数を包含する。しかし、「複数」という用語は、2つ以上を意味する。特定の数値の言及には、文脈上明確に他を示すのでない限り、少なくともその特定の値を含む。ある値が表現される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から、および/または他の特定の値までを包含する。その特定の値は別々の実施形態を構成する。「約」という用語がある数と組み合わせて用いられる場合、その数の±10%を包含するものとする。例えば、「約10」とは、9〜11を意味する場合がある。
【0013】
「含む、包含する、備える(includes)」または「含んでいる、包含している、備えている(including)」という用語が本明細書または特許請求の範囲で用いられる限りでは、その用語が特許請求の範囲で伝統的な言葉として使用される場合に解釈されるとおり、「含んでいる、包含している、備えている(comprising)」という用語と同様の方式で包含されることを意図する。さらに、「または」という用語が使用される(例えば、AまたはB)範囲内では、「AもしくはBまたはその両方」を意味することが意図される。本出願が、「AまたはBだけ、ただし両方ではない(only A or B but not both)」を示す意図であるならば、「AまたはBだけ、ただし両方ではない」という用語が使用される。従って、「または」という用語の使用は本明細書においては、包含的であって、排他的な使用ではない。
【0014】
別の実施形態の状況で本明細書において、明確にするために記載される、本発明の特定の特徴はまた、単一の実施形態中で組み合わせて提供されてもよい。逆に、単一の実施形態の文脈で、簡潔にするために記載される、本発明の種々の特徴はまた、別々に提供されても、または任意のサブコンビネーションで提供されてもよい。
【0015】
本発明は、
図1、
図2および
図3を参照すれば容易に理解され得る。
図1では、ベシクル組成物1の一実施形態の模式図が示される。
図1に示されるとおり、ベシクル組成物1は、複数の生体適合性ベシクル2を含む。一実施形態では、複数の生体適合性ベシクル2は、例えば、非毒性であり、かつ生分解性であってもよい。
図1に示されるとおり、ベシクル組成物1はさらに、1つ以上の化学的な検出性部分3を含む。一実施形態では、1つ以上の化学的な検出性部分3は、例えば、コンジュゲート部分と可逆的に結合し得る1つ以上の化学的部分であってもよい。
図1に示されるとおり、ベシクル組成物1はさらに、1つ以上の検知部分4を含む。一実施形態では、1つ以上の検知部分4は、例えば、化学的な検出性部分、例えば、3と可逆的に結合し得る化学的部分であってもよい。本明細書において用いる場合、「検知部分」という句は、生体適合性ベシクルに結合される結合した検知部分(
図1に示されるとおり)、および生体適合性ベシクルに結合しない検知部分であるが生理学的な環境(すなわち、患者の体内の環境)に存在する検知部分の両方を包含し得る。
図1を振り返れば、第一の生体適合性ベシクル2は、化学的な検出性部分3に結合されるが、第二の生体適合性ベシクル2は、検知部分4に結合される。化学的な検出性部分3および検知部分4は、一緒に結合された場合、架橋5を形成する。
【0016】
図2は、ベシクル組成物1の別の実施形態を図示する、第一の生体適合性ベシクル2は、ポリマーリンカー6に結合され、このポリマーリンカー6が、化学的な検出性部分3に結合される。第二の生体適合性ベシクル2は、検知部分4に結合される。化学的な検出性部分3および検知部分4は、一緒に結合される場合、架橋5を形成する。
【0017】
図3は、ベシクル組成物1のさらに別の実施形態を図示する。生体適合性ベシクル2は、第一のポリマーリンカー6に結合され、この第一のポリマーリンカー6は、第一の化学的な検出性部分3に結合される。第二の生体適合性ベシクル2は、第二のポリマーリンカー6に結合され、この第二のポリマーリンカー6は、第二の化学的な検出性部分3に結合される。2つの検知部分4が、一緒に結合されて、各々の化学的な検出性部分3は、検知部分4に結合される。この化学的な検出性部分3および検知部分4は、一緒に結合された場合、架橋5を形成する。
【0018】
生体適合性ベシクルは、治療用化合物を担持し得る、任意の生体適合性粒子であってもよい。この生体適合性ベシクルは、内部部分を有する形状で、ほぼ球状であり得る。この治療用化合物は、ベシクルの内部部分に、ベシクルの壁に担持されても、ベシクルの外面に結合されてもよく、または任意の他の適切な手段で担持されてもよい。この生体適合性ベシクルは、ポリマー、脂質、タンパク質、炭水化物、他の高分子、水、および塩、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。例えば、この生体適合性ベシクルは、複数の脂質から構成されるリポソームを含んでもよい。この脂質は、飽和脂質を含んでもよい。一実施形態では、この生体適合性ベシクルは、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、またはそれらの任意の組み合わせから構成されてもよい。この生体適合性ベシクルは、治療用化合物のための送達系として適切であるために十分な保存期間を有し得る。一実施形態では、この生体適合性ベシクルは、約2℃〜約8℃で少なくとも6カ月という保存期間の安定性、または室温で少なくとも7日間という保存期間の安定性を有し得る。
【0019】
適切なベシクル組成物は、治療用化合物を含んでもよい。一実施形態では、この治療用化合物は、生体適合性ベシクルに位置してもよいし、またはその上に位置してもよい。一実施形態では、このベシクル組成物は、患者の生理学的環境中に治療用化合物を放出し得る。患者の生理学的な環境とは、通常は血流であるが、ベシクル組成物が送達される患者の身体内の任意の環境であってもよい。一実施形態では、この治療用化合物は、生理学的環境中で遊離の検知部分の存在に応答してベシクル組成物から放出される。一実施形態では、治療用化合物の放出を誘発する生理学的環境中の遊離の検知部分は、治療用化合物によって処置を目指す条件の兆候である。ベシクルが患者への注射に適切である処方物では、このベシクル組成物の総重量に基づく治療用化合物の重量パーセンテージは、約0.1%〜約30%、または約0.2%〜約20%、または約1%〜約10%の範囲であり得る。この治療用化合物は、患者に対して、対症的な、治療的な、そうでなければ有益的な効果を提供するために投与される任意の化合物であってもよい。治療用化合物の例としては、インスリンおよびシプロフロキサシンが挙げられる。治療用化合物がインスリンであるいくつかの実施形態では、インスリンは、0.1mg/mL〜10mg/mL、または約0.5mg/mL〜約5mg/mL、または約1mg/mL〜3mg/mL、例えば、2mg/mLの範囲の濃度で存在してもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、放出される治療用化合物の量は、患者の生理学的環境に存在する検知部分の量に関する。例えば、環境中の放出される治療用化合物の量および検知部分の量は、直線的に比例してもよく、または非線形関数に関連してもよい。従って、生理学的な環境における遊離の検知部分の濃度の増大は、ベシクル組成物から放出される治療用化合物の量の増大を誘発し得る。例えば、ベシクル組成物は、生理学的環境における糖である遊離の検知部分の存在に応答して、治療用化合物インスリンを放出し得る。糖の遊離の検知部分の濃度が増大する場合、放出されたインスリンの濃度もまた増大し得る。糖の例としては、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロースまたはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。一実施形態では、インスリンの放出は、生理学的な環境におけるグルコースの存在によって誘発され得る。別の実施形態では、糖類を用いて、インスリン以外の治療用化合物の放出を誘発してもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、化学的な検出性部分は、生体適合性ベシクルに直接結合されてもよい。リンカー部分は、化学的な検出性部分と生体適合性ベシクルとの間に位置し得る。生体適合性ベシクルがリポソームである実施形態では、このリンカー部分は、リポソームの一部である脂質に結合されてもよい。このリンカー部分は、生分解性ポリマー部分、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などであってもよい。このリンカー部分は、生体適合性ベシクルと化学的な検出性部分との間に可塑性を提供し得る。リンカー部分の可塑性を特徴付ける1方法は、ポリマー部分の各々の反復単位における不飽和結合の密度である。一実施形態では、リンカー部分を含んでいるポリマーの各々の反復単位は、少なくとも1つの不飽和結合を含んでもよい。リンカー部分の可塑性を特徴付ける別の方法は、その長さによる。リンカー部分がPEGである場合、各々のPEG部分は独立して、約100〜約10,000Daの範囲、例えば、約500〜約5,000Daの範囲などの分子量を有し得る。一実施形態では、PEGリンカー部分は、約10〜100個のエチレングリコール反復単位を含む。別の実施形態では、このPEGリンカー部分は、約30〜60個のエチレングリコール反復単位を含む。
【0022】
この検知部分は、化学的な検出性部分に対して、共有結合などによって、結合され得る。検知部分は、化学的な検出性部分と一緒になって、ベシクル組成物中に架橋を形成する、生体適合性ベシクルに結合される結合された検知部分であってもよい。あるいは、この検知部分は、遊離の検知部分であって、化学的な検出性部分との結合について結合した検知部分と競合する、遊離の検知部分であってもよい。一実施形態では、生理学的な環境における遊離の検知部分は、化学的な検出性部分と競合的に結合し、それによって生体適合性のベシクルの間の架橋を切断することによって、治療用化合物を放出する誘発因子として機能し得る。
【0023】
検知部分は、治療用化合物によって処置が目指される疾患または状態に関連し得る。例えば、治療用化合物によって処置が目指され状態が糖尿病または高血糖症を生じる別の代謝障害であるいくつかの実施形態では、治療用化合物の放出を誘発する遊離の検知部分は糖である。糖の例としては、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。一実施形態では、この糖はグルコースである。処置される状態が糖尿病または高血糖症を生じる別の代謝障害であり、かつ遊離の検知部分が糖である実施形態では、治療用化合物はインスリンであり得る。処置が目指される状態が炎症であるいくつかの実施形態では、治療用化合物の放出を誘発する化合物は、一酸化窒素であってもよい。いくつかの実施形態では、アミロイドβ42は、潜在的なプラーク形成を処置するための治療用化合物の放出を誘発し得る。他の実施形態では、アルブミン、アルカリホスファターゼ、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(AST)、血中尿素窒素(BUN)、カルシウム、塩化物、二酸化炭素、クレアチニン、直接ビリルビン、γグルタミルトランスペプチダーゼ(γGT)、グルコース、乳酸脱水素酵素(LDH)、リン、カリウム、ナトリウム、総ビリルビン、総コレステロール、総タンパク質、尿酸またはそれらの任意の組み合わせが、遊離の検知部分として機能し得る。
【0024】
化学的な検出性部分および検知部分は、お互いと可逆的に結合し得る化学基である。この結合は、共有結合のような化学結合であってもよい。化学的な検出性部分と検知部分との間の共有結合は、環境中の競合する遊離の検知部分の存在下で切断され得る。ベシクル組成物が、患者に送達された場合、化学的な検出性部分と検知部分との間の共有結合は、生理学的な環境における遊離の検知部分の存在下で切断され得る。異なる化学的な検出性部分が、各々の生体適合性ベシクルに結合される場合、異なる化学的な検出性部分および検知部分によって形成される架橋は、異なる強度を有し得る。架橋の切断の程度および治療用化合物の放出の速度は、存在する強い架橋、弱い架橋および中度の架橋の数に依存し得る。
【0025】
適切な化学的な検出性部分としては、ボロン酸またはボロン酸誘導体を挙げることができる。ボロン酸誘導体の例としては、フェニルボロン酸塩、ピリジルボロン酸塩、およびシクロヘキシルボロン酸塩を挙げることができる。一実施形態では、このボロン酸誘導体としては、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルボロン酸;2,4−ジクロロフェニルボロン酸;4−アミノカルボニルフェニルボロン酸;3−クロロフェニルボロン酸;4−ヒドロキシフェニルボロン酸;4−プロピルフェニルボロン酸;3−[(E)−2−ニトロビニル)フェニルボロン酸;4−クロロカルボニルフェニルボロン酸無水物;シクロペンテン−1−イルボロン酸;2−ブロモピリジン−3−ボロン酸;2,4−ジtert−ブトキシピリミジン−5−イルボロン酸;2,4−bis(ベンジルオキシ)ピリミジン−5−ボロン酸;5−フェニル−2−チエニルボロン酸;5−ホルミルチオフェン−3−ボロン酸;またはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0026】
検知部分は、化学的な検出性部分がボロン酸またはボロン酸誘導体である実施形態では糖であってもよい。適切な糖類としては、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、またはそれらの任意の組み合わせを挙げてもよい。一実施形態では、この検知部分は、化学的な検出性部分がボロン酸またはボロン酸誘導体である場合、グルコースであってもよい。いくつかの実施形態では、各々の生体適合性ベシクルは、それに結合されたただ一種のボロン酸またはボロン酸誘導体を有し得る。他の実施形態では、各々の生体適合性ベシクルは、それに結合された一種のボロン酸もしくはボロン酸誘導体、またはその表面に結合された2種以上のボロン酸のいずれかを有し得る。種々のボロン酸誘導体が各々の生体適合性ベシクルに結合される場合、異なるボロン酸誘導体によって形成される架橋は、異なる強度を有し得る。架橋の切断の程度および治療用化合物の放出の速度は、存在する強い架橋、弱い架橋および中度の架橋の数に依存し得る。
【0027】
ベシクル組成物を形成する、生体適合性ベシクル、化学的な検出性部分、検知部分、および架橋は、多数の方法で配置され得る。この生体適合性ベシクルは各々が、結合された複数の部分を有してもよく、この部分とは、化学的な検出性部分、検知部分、またはその両方である。あるいは、生化学的ベシクルは各々が、結合された唯一の部分、化学的な検出性部分または検知部分のいずれかを有し得る。また、生体適合性ベシクルは各々が、結合された1つの部分を有するいくつかの生体適合性ベシクル、および結合された2つ以上の部分を有する他の生体適合性ベシクルと結合された多数の部分を有してもよい。いくつかの実施形態では、この生体適合性ベシクルは、同じ生体適合性ベシクルに結合された化学的な検出性部分および検知部分の両方を有し得る。一実施形態では、この生体適合性ベシクルは各々が、結合された唯一の化学的な検出性部分または唯一の検知部分を有する。適切なベシクル組成物は、2つ程度の少ない生体適合性ベシクルから構成されてもよい。適切なベシクル組成物はまた、約10〜約10
8個の生体適合性ベシクルを含んでもよい。一実施形態では、このベシクル組成物は、約10
2〜約10
7個の生体適合性ベシクルを含んでもよい。一実施形態では、このベシクル組成物は、約10
3〜約10
7個の生体適合性ベシクルを含んでもよい。生体適合性ベシクルに結合されたこの部分は、化学的な検出性部分と検知部分との間で架橋が形成されかつ切断されることを可能にする任意の形状に配置されてもよい。この化学的な検出性部分または検知部分は、任意の形状で生体適合性ベシクル上に配置されてもよい。いくつかの実施形態では、この部分は、生体適合性ベシクルに対して等しく空間を空けている。他の実施形態では、この部分は、無作為な方式で生体適合性ベシクルに結合される。生体適合性粒子、結合した部分および架橋が形成する形状にかかわらず、ベシクル組成物は、折り畳まれたか、そうでなければ凝集された形状を想定し得る。いくつかの実施形態では、このベシクル組成物は、約0.1マイクロメートル〜約50マイクロメートルの範囲の直径を有し得る。一実施形態では、このベシクル組成物は、約0.5マイクロメートル〜約30マイクロメートルの範囲の直径を有し得る。一実施形態では、このベシクル組成物は、約1マイクロメートル〜約20マイクロメートルの範囲の直径を有し得る。
【0028】
このベシクル組成物は、患者への注射に適切であり得る。注射のための適切性を測定するための1方法は、化学的検出性部分を備えるPEG脂質組成物によって生じる炎症の程度について試験することである。炎症の程度に関する1測定は、NF−κβタンパク質アッセイである。一実施形態では、NF−κβアッセイを用いて試験される化学的な検出性部分を含むPEG−脂質組成物は、約0.2未満というPCCを生じる。一実施形態では、化学的な検出性部分を含んでいるPEG−脂質組成物の濃度が約40nM〜160nM、例えば、約80nMの範囲である場合、NF−κβ分子の核と細胞質画分との間のPCCは、約0.2未満、例えば、約0.1未満である。一実施形態では、化学的な検出性部分を含んでいるPEG−脂質組成物は、NF−κβ転位アッセイによって測定される、化学的な検出性部分の単一分子より生じ得る炎症が少ない場合がある。
【0029】
ベシクル組成物の注射のための適切性を測定する別の方法は、化学的な検出性部分の細胞毒性を測定することである。このベシクル組成物は、化学的な検出性部分が、MTT細胞増殖アッセイによって測定されるような約82%を超える細胞生残を生じると特徴づけられる場合、注射に適切である。この化学的な検出性部分は、化学的な検出性部分が、約40nM〜約160nMの範囲の濃度で投与される場合、MTT細胞増殖アッセイによって測定される82%を超える細胞生残を生じると特徴づけられ得る。
【0030】
別の実施形態では、その必要な患者に対して治療用化合物を投与するための方法が提供され、この方法は、ベシクル組成物を患者に非経口的に注射することと(このベシクル組成物は、治療用化合物を含んでいる)、この治療用化合物を誘発性の事象に応答して患者中へ放出することとを包含する。このベシクル組成物は、治療用化合物、生体適合性ベシクル、1つ以上の化学的な検出性部分、1つ以上の検知部分、および化学的な検出性と検知部分との間の架橋から構成され得る。一実施形態では、この誘発性の事象は、治療用化合物によって処置が目指される状態の兆候である。一実施形態では、この誘発性の事象は、生理学的な環境における遊離の検知部分の存在であり得る。いくつかの実施形態では、生理学的な環境における遊離の検知部分の濃度の増大は、治療用化合物の放出を生じ得る。
【0031】
一実施形態では、この方法は、化学的なセンサーがボロン酸またはボロン酸誘導体であり、この検知部分が糖であり、かつ治療用化合物がインスリンであるベシクル組成物を投与することを包含してもよい。一実施形態では、ボロン酸誘導体としては、フェニルボロン酸塩、ピリジルボロン酸塩、およびシクロヘキシルボロン酸塩を挙げることができる。一実施形態では、このボロン酸誘導体は、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルボロン酸;2,4−ジクロロフェニルボロン酸;4−アミノカルボニルフェニルボロン酸;3−クロロフェニルボロン酸;4−ヒドロキシフェニルボロン酸;4−プロピルフェニルボロン酸;3−[(E)−2−ニトロビニル)フェニルボロン酸;4−クロロカルボニルフェニルボロン酸無水物;シクロペンテン−1−イルボロン酸;2−ブロモピリジン−3−ボロン酸;2,4−ジtert−ブトキシピリミジン−5−イルボロン酸;2,4−bis(ベンジルオキシ)ピリミジン−5−ボロン酸;5−フェニル−2−チエニルボロン酸;5−ホルミルチオフェン−3−ボロン酸;またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。化学的な検出性部分がボロン酸またはボロン酸誘導体である実施形態では、この検知部分は糖であってもよい。糖類の例としては、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。化学的な検出性部分がボロン酸またはボロン酸誘導体である一実施形態では、この検知部分はグルコースである。いくつかの実施形態では、各々の生体適合性ベシクルは、それに結合されるただ一種類のボロン酸またはボロン酸誘導体を有する。他の実施形態では、各々の生体適合性ベシクルは、それに結合された1種類のボロン酸もしくはボロン酸誘導体、またはそれに結合された2種類以上のボロン酸のいずれかを有する。異なるボロン酸誘導体が、各々の生体適合性ベシクルに結合される場合、異なるボロン酸誘導体によって形成される架橋は、異なる強度を有し得る。架橋の切断の程度および治療用化合物の放出の速度は、存在する強い架橋、弱い架橋および中度の架橋の数に依存し得る。
【0032】
一実施形態では、誘発性の事象は、患者の高血糖症である場合がある。いくつかの実施形態では、患者の生理学的な環境におけるグルコース濃度の増大は、治療用化合物の放出を誘発し得る。他の実施形態では、患者の生理学的な環境における糖濃度の増大は、ベシクル組成物から放出される治療用化合物の増大を誘発し得る。さらに他の実施形態では、生理学的な環境における糖の存在は、治療用化合物の放出を糖の放出に対して量的に比例して誘発し得る。一実施形態では、この糖とは、ルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。一実施形態では、この糖はグルコースである。いくつかの実施形態では、この誘発性の事象は、患者の生理学的な環境における糖の濃度が約100mg/dLより大きい場合であり得る。
【0033】
一実施形態では、ベシクル組成物は、1日2回〜週に1回まで、不定期の日数にわたって投与されてもよい。一実施形態では、ベシクル組成物は、1日に1回、不定期の日数にわたって投与されてもよい。いくつかの実施形態では、このベシクル組成物はさらに、凝集したベシクルから構成されるとして特徴付けられてもよい。
【0034】
一実施形態では、医学的状態を処置するための方法が提供され、この方法は、処置の必要な患者にベシクル組成物(このベシクル組成物は、その必要な患者の処置のための治療用化合物を充填されている)を投与すること、および治療用化合物を、誘発性の事象に応答して患者中に放出することを包含する。このベシクル組成物は、生体適合性ベシクル、1つ以上の化学的な検出性部分、1つ以上の検知部分、および化学的な検出性部分と検知部分との間の架橋を含んでもよい。このベシクル組成物は、生体適合性ベシクルの凝集を含んでもよい。このベシクル組成物は、例えば、注射による手段を含む、任意の適切な手段で投与され得る。あるいは、このベシクル組成物は、ポンプまたは吸入によって投与されてもよい。一実施形態では、このベシクル組成物は、1日に2回〜週に1回まで、不定期の日数にわたって投与されてもよい。一実施形態では、このベシクル組成物は、1日に1回、不定期の日数にわたって投与されてもよい。
【0035】
本明細書に記載される方法は、化学的なセンサーがボロン酸またはボロン酸誘導体であり、検知部分が糖であり、かつ治療用化合物がインスリン.であるベシクル組成物を投与することを包含し得る。ボロン酸誘導体としては、フェニルボロン酸塩、ピリジルボロン酸塩、およびシクロヘキシルボロン酸塩を挙げることができる。一実施形態では、ボロン酸誘導体としては、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルボロン酸;2,4−ジクロロフェニルボロン酸;4−アミノカルボニルフェニルボロン酸;3−クロロフェニルボロン酸;4−ヒドロキシフェニルボロン酸;4−プロピルフェニルボロン酸;3−[(E)−2−ニトロビニル)フェニルボロン酸;4−クロロカルボニルフェニルボロン酸無水物;シクロペンテン−1−イルボロン酸;2−ブロモピリジン−3−ボロン酸;2,4−ジtert−ブトキシピリミジン−5−イルボロン酸;2,4−bis(ベンジルオキシ)ピリミジン−5−ボロン酸;5−フェニル−2−チエニルボロン酸;5−ホルミルチオフェン−3−ボロン酸;またはそれらの任意の組み合わせを挙げてもよい。化学的な検出性部分がボロン酸またはボロン酸誘導体である実施形態では、検知部分は糖を含んでもよい。糖類の例としては、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、またはそれらの任意の組み合わせを挙げてもよい。化学的な検出性部分がボロン酸またはボロン酸誘導体である一実施形態では、検知部分はグルコースを含む。いくつかの実施形態では、各々の生体適合性ベシクルは、それに結合されたただ1種類のボロン酸またはボロン酸誘導体を有し得る。他の実施形態では、各々の生体適合性ベシクルは、それに結合された1種類のボロン酸もしくはボロン酸誘導体、またはそれに結合された2種類以上のボロン酸のいずれかを有し得る。異なるボロン酸誘導体が、各々の生体適合性ベシクルに結合される場合、異なるボロン酸誘導体によって形成される架橋は、異なる強度を有し得る。架橋の切断の程度および治療用化合物の放出の速度は、存在する強い架橋、弱い架橋および中度の架橋の数に依存し得る。
【0036】
ベシクル組成物はまた、標的機構を備えてもよい。この標的機構は、患者の身体内の特定の目標に対してベシクル組成物を指向する任意の方法であり得る。一実施形態では、この標的機構は、細胞レセプター、抗体、バイオマーカー、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、このベシクル組成物は、造影剤、診断剤またはその両方を含んでもよい。
【0037】
多数の医学的状態は、代謝性障害を含めて本発明によって処置され得る。代謝性障害の例としては、体の代謝、特に糖尿病に関連する任意の医学的状態が挙げられる。糖尿病を処置するための治療用化合物(例えば、インスリンおよびその改変体)は、24〜72時間にわたって正常な血糖値を維持し得る。血流中の糖の正常な血糖値は典型的には約126mg/dLである。
【0038】
本発明の方法はまた、肺疾患を処置するためにも用いられ得る。本発明の方法が、肺の感染の処置である場合、治療用化合物は、抗生物質であってもよい。この抗生物質は、肺感染を処置するために適切な任意の抗生物質であってもよい。処置されている医学的状態が肺の感染である実施形態では、この治療用化合物は、例えば、シプロフロキサシンであってもよい。
【0039】
実施例
実施例1
炎症に関するNF−κBアッセイ
種々のボロン酸化合物の炎症性の能力は、免疫細胞化学およびハイスループットの高接触顕微鏡(high throughput high contact microscopy)により、HeLa細胞のNF−κBの核転位を測定することによって研究した。15,000個のHeLa細胞を、実験の前夜96ウェルのプレートにプレートした。実験の当日、その細胞を、ボロン酸(下の表1)を用いて、3つの異なる濃度(40nM、80nM、および160nM)で2時間処理した。インキュベーションの終わりに、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、4%のパラホルムアルデヒド中で15分間固定し、0.01%のTriton X−100が含有されるPBSの中で10分間透過させた。この細胞を、PBSを用いて3回洗浄した。非特異的な部位は、5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含有されるPBSでブロックして、抗−NF−κBを用いて1時間インキュベートし、続いて、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識した二次抗体とともにインキュベーションした。インキュベーションの終わりに細胞を洗浄した後、その細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて1分間処理して、さらに分析するまで4℃で保管した。細胞の画像は、Beckman−Coulter 100自動化ハイスループット顕微鏡システム(automated high−throughput microscope system)を用いて得て、Cytseerソフトウェア(Vala Sciences,CA)を用いて分析した。NF−κBの共存は、NF−κB分子の核と細胞質画分との間でPCCを測定することによって定量した。PCCは、同じ細胞の核とNF−κBの画像の画素の強度の間の重複の指標である。PCC値は、−1〜1におよんでもよい。正の相関(PCC値)は、NF−κBの核転位を示す。負の相関(負のPCC値)は、核の転位が無いことを示す。
【0040】
図4は、NF−κBの核または細胞質の局在に対するボロン酸処置の効果を図示するHeLa細胞の代表的な画像を示す。DAPIは、白丸で示すが、NF−κBは、薄い灰色で示す。薄い灰色で囲まれた白丸は、細胞質NF−κBを示すが、核の中で灰色のシグナルで白丸が閉塞されると核NF−κBを示す。(A)UTC、細胞質NF−κB;(B)陽性コントロール、LPSで処理された細胞中のNF−κBの転位;(C)2,4−ジ(tert−ブトキシ)ピリミジン−5−イル−ボロン酸(80nM、2時間)、大部分は細胞質NF−κBでの処理;および(D)5−イソキノリンボロン酸(80nM、2時間)、大部分は核NF−κBでの処理。
【0041】
図5は、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)4−アミノカルボニルフェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、5−アミノ−2,4−ジフルオロフェニルボロン酸、3−フルオロ−4−アミノメチルフェニルボロン酸、および4−アミノピリミジンボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞中のNF−κB分子の核と細胞質の画分との間のPCCを示す。驚くべきことに、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸コンジュゲートは、遊離の4−アミノカルボニルフェニルボロン酸よりも炎症性が少なかった。
【0042】
表1および
図8は、種々のボロン酸誘導体についてのPCCの結果を列挙する。
【表1】
【0043】
実施例2
細胞毒性に関するMTTアッセイ
表1のボロン酸誘導体の細胞毒性を、MTTアッセイで研究した。150,000個のHeLa細胞を、実験前夜に96ウェルのプレートにプレートした。実験の当日、その細胞を、ボロン酸誘導体を異なる濃度(40nM、80nMおよび160nM)で2時間用いて処理した。インキュベーションの終わりに、MTTアッセイ(インビトロ・トキシコロジー・MTT・ベースド・アッセイ・キット(In−Vitro toxicology MTT based assay kit),Sigma Aldrich,MO)を、製造業者のプロトコールに従って行った。
【0044】
図6は、UTCおよびLPSと比較した、遊離の(暗いバー)4−アミノカルボニルフェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、5−アミノ−2,4−ジフルオロフェニルボロン酸、3−フルオロ−4−アミノメチルフェニルボロン酸、および4−アミノピリミジンボロン酸を用い、ならびにそれらのボロン酸誘導体の各々を、DSPE−PEG−COOHのコンジュゲートとして(明るいバー)用いて処理した、HeLa細胞の生残画分を示す。驚くべきことに、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸コンジュゲートは、遊離の4−アミノカルボニルフェニルボロン酸よりも細胞毒性が低かった。
【0045】
表1および
図8は、種々のボロン酸誘導体についての細胞生存率を列挙する。
【0046】
実施例3
結合アッセイ
グルコースに対するボロン酸誘導体の結合親和性は、Concanavalin(コンカナバリン)A(ConA)を競合の標準として、および種々の濃度のボロン酸誘導体を用いて競合アッセイによって決定した。カルボキシ末端の磁気ビーズは、100mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH4.5)中にビーズを懸濁することによって活性化した。グルコサミン(100mg/mL)を、活性化した磁気ビーズに対して、架橋剤として1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とのカルボジイミドカップリングを用いてコンジュゲートした。このコンジュゲーション反応は、96ウェルのプレートで行った。この反応は、24時間行った。このビーズは、磁気セパレーター上にマイクロプレートを置くことによって分離し、pH7.2でPBSを用いて徹底的に洗浄して、未結合のグルコース、過剰のEDC、およびN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)を除去した。
【0047】
グルコース末端のビーズを、フルオレセインイソチオシアナートを用いて蛍光的にタグ付けした2.4μMのConA(炭水化物の公知の結合因子)(ConA−FITC)とともに1時間インキュベートして、試験した各々のボロン酸誘導体の2.5μM〜20μMにおよぶ濃度で滴定した。以下のコントロールを用いた:(A)カルボキシ末端磁気ビーズ(グルコースに対してコンジュゲートしていない)を、ConA−FITCで処理して、非特異的な結合を決定した;および(B)グルコースコンジュゲートしたビーズを、高濃度の非蛍光ConAで処理して、最大結合を決定した。
【0048】
このウェルを、PBSを用いてpH7.2で3回洗浄して、未結合のボロン酸誘導体およびFITC−ConAを除去した。このビーズを、PBS中で再懸濁して、室温で15分間撹拌した後、FITC蛍光を測定した(励起:495nm、トップ発光:520nm;1ウェルあたり6フラッシュ;ボロン酸に対して結合するグルコースの量を定量するためのFlexstationII
384マイクロプレートリーダー中で平均n=3ウェル)。蛍光強度を測定して、ビーズの表面に結合したConAの量の指標、すなわち[ConAs]として用いた。このConA−糖の相互作用は、糖分子に結合して、結合したConA−FITCを置き換え、それによって混合物の蛍光強度を減少し得る、ボロン酸誘導体によって阻害されると予想された。
【0049】
ボロン酸誘導体の結合定数は、蛍光強度から算出した。蛍光強度の低下は、等式2による[ConAs]に関連する。
【数1】
[ConAs]とボロン酸の量[BA]との間の関係は、等式3によって得られる。
等式3
【数2】
単純な置き換えによって等式4が得られ、これから2つの平衡定数の比(K
conA/K
BA)が誘導され得る。
【数3】
糖部位の濃度(S1)は、1/[ConAs]対1/[BA]のプロットの解釈から算出できる。
【0050】
図7は、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸の結合定数算出のための代表的なプロットを示す。
【0051】
表1は、ConAに比較した、種々のボロン酸誘導体の相対的な糖結合親和性(log(K
ConA/KB
A))を列挙する。
【0052】
図8は、種々のボロン酸誘導体についての構造およびグルコース結合親和性(M
−1)を示す。
【0053】
実施例4
脂質−PEG−リンカー−ボロン酸コンジュゲート類の合成
全ての脂質−PEG−リンカー−ボロン酸および糖コンジュゲート類を、カルボジイミド化学を用いて、ボロン酸−リンカーまたは糖部分のアミン誘導体と、DSPE−PEG−COOHとのカップリングによって調製した。一般には、50mgのDSPE−PEG−COOHを、2mLの無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解し、続いてEDC(2.0当量)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(3.0当量)を添加し、その混合物を室温で30分間撹拌させた。ボロン酸または糖のアミン誘導体を添加して、その反応混合物を、一晩撹拌させた。アンモニウム塩の形態で得られたアミンについて、これらは、反応混合物への添加の前に、室温で30分間、500μLのDMFおよび35μLのトリエチルアミン中で撹拌することによって、脱塩した。これらの反応混合物を、4mLのMES緩衝液(50mM、pH4.18)で希釈して、3K MWCO透析カセットに移し、2Lの同じ緩衝液に対して2回、次いで2Lの水に対して2回透析し、続いて、凍結乾燥して、所望のコンジュゲートを得た。最終生成物の同一性および純度は、1H NMR分光分析によって確認した。
【0054】
実施例5
糖/ボロン酸およびそれらのコンジュゲートで官能化したリポソームの合成
リン脂質−ポリエチレングリコール−グリコシル(gyclosyl)コンジュゲート類の合成。脂質PEG−グリコシル(Glycosyl)種は、参照によって本明細書に援用される、G.T.Hermanson,Bioconjugate Techniques,Academic Press,Elsevier Science USA(1996)169−185に記載のカルボジイミドカップリング化学を用いて、グルコサミン、ガラクトサミンおよびマンノピラノシドのアミノ基に対してDSPE−PEG−COOHのカルボキシル基をコンジュゲートすることによって合成した。このカップリングは、糖分子のC2位置で行い、それによって、C3、C4およびC5位置は不変で維持した。
【0055】
インスリンを用いたリポソームのローディング。ヒト組み換えインスリンを、クエン酸塩緩衝液(100mM、pH2.5)に、15mg/mLの濃度まで溶解した。脂質(56.4モル%のDPPC、40モル%のコレステロール、および各々1.2モル%のDSPE−PEG−グルコース、DSPE−PEG−ガラクトース、DSPE−PEG−マンノピラノシド)を、エタノールに溶解し、インスリン溶液を用いて50℃で15分間水和した。最終の脂質濃度は、50mMであった。この水和した混合物を、100psiの圧力で、50℃で400nmのNucleoporeトラック・エッチ(track−etch)膜を8回通過させた。この親のリポソームは、244.1nmという平均直径(適切な平均のリポソーム直径は、約100nm〜約300nmであり得る)および約50mMという脂質濃度を有した。インスリンは、受動的なローディングによってカプセルに封入した。リポソームの処方物のpHは、5.6(インスリンの等電点)に維持した。リポソームは、クエン酸塩緩衝液(100nM、pH5.6)に対して透析して、カプセルに封入されていないインスリンを除去した。この例では、カプセルに封入されていないインスリンは、生理学的な環境の際の即時的でかつおそらく不必要な影響をインスリンが有することを軽減または防ぐために除去される。いくつかの実施形態では、ベシクル組成物は、患者が高血糖状態を経験した場合など、その患者の生理学的環境(すなわち、「グルコース応答性」効果を有している)におけるグルコースの閾値の存在に対して主にまたは排他的に応答して、インスリンを放出および/または提供することを意図する。本実施例では、カプセルに封入されたインスリンは、約15mg/mLの濃度で存在するが、カプセルに封入されたインスリンの濃度は、インスリンの出発濃度とほぼ同じであってもよいし、またはそれよりも小さくてももしくは大きくてもよいと考えられる。カプセルに封入されていないインスリンは、カプセルに封入されたインスリンの約0%〜5%、または最大で約0.75mg/mLの濃度で存在してもよいが、カプセルに封入されていないインスリンの濃度がより高いことは、患者の必要性およびベシクル組成物が患者の生理学的な環境に導入される培地次第で、許容されるか、または好ましい場合もある。
【0056】
リン脂質−ポリエチレングリコール−ボロン酸誘導体コンジュゲート類の合成。脂質−PEG−ボロン酸は、参照によって本明細書に援用される、G.T.Hermanson,Bioconjugate Techniques,Academic Press,Elsevier Science USA(1996)169−185に記載のカルボジイミドカップリング化学を用いて、アミノ官能化ボロン酸部分に対してDSPE−PEG−COOHのカルボキシル基をコンジュゲートすることによって合成した。このボロン酸官能化リポソームについての脂質組成は以下であった:56.4モル%のDPPC、40モル%のコレステロール、および3.6モル%のDSPE−PEG−ボロン酸。
【0057】
代表的な脂質−PEG−ボロン酸誘導体コンジュゲート種としては以下が挙げられる:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0058】
インスリンローディング、押し出し成型および精製のプロセスは、上記の糖リポソームについて用いたものと同様であった。このリポソームは、184±0.162nmという平均値を有した(適切な平均リポソーム直径は、約100nm〜約300nmであり得る)。カプセルに封入されたインスリンは、約15mg/mLの濃度で存在した。
【0059】
ベシクル組成物の調製。2種類のインスリンロードされたリポソームの処方物(糖分子、またはボロン酸誘導体のいずれかで官能化された)を、混合して、室温で撹拌し、ベシクル組成物を形成した。その混合物は、1:2〜1:50におよぶ、リポソームの外部表面上のボロン酸種に対する糖種のいくつかのモル比を用いて調製して、ベシクル組成物の処方に必要な過剰のボロン酸を決定した。混合物のpHはまた、生理学的なpHで形成されるベシクル組成物を選択するために、7〜11の間で変化させた。
【表2】
【0060】
ボロン酸および糖部分の化学的架橋の確認。ベシクル組成物が、ボロン酸および糖部分の化学的な架橋によって形成されたことを確認するために、凝集体を、10mMのグルコースに曝した。この凝集体は、遊離のグルコースとのボロン酸の競合的結合に起因して、グルコースの存在下で容易に切断された。これは、グルコースとのインキュベーションの際に、1μm未満にサイズ決めされた粒子の頻度が13%〜37%と増大したことによって示された。
【0061】
実施例6
ボロン酸塩−糖ベシクル組成物からのインスリンのインビトロ放出
小容積の(500μL)の凝集体を、管状透析膜(100,000MWCO)の内側に充填して、クリップでシールして、PBS溶液(pH7.4)に対して30分間透析した後に、グルコースで切断して、誘発因子なしでインスリンの受動拡散をモニターした。これに続いて、一定の間隔で膜の内側の凝集体にグルコース溶液を添加して、ベシクル組成物を切断して、インスリンの放出を誘発した。アリコートを15分ごとに、外部相から取り出して、インスリン濃度を、214nmで吸光度を読むことによってアッセイした。このアッセイを数時間続けて、カプセルに封入されたインスリンの放出の中止を確認した。
【0062】
図9は、4つの異なるボロン酸塩−グルコースベシクル組成物、(4−アミノカルボニルフェニルボロン酸、3−アミノフェニルボロン酸、3−フルオロ−4−アミノエチルフェニルボロン酸、および5−アミノ−2,4−ジフルオロフェニルボロン酸)についての累積的放出プロットを、グルコース誘発因子の非存在下で図示する。3−アミノフェニルボロン酸ベシクル組成物および4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物は、それぞれ、それらのインスリン含量のうち12%および17%を放出した。
【0063】
種々の濃度のグルコース誘発因子の添加の際の、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物からのインスリンの放出を、数時間アッセイした。誘発因子の濃度は、正常血糖および高血糖の状態の血糖値を模倣するように選択した。コントロールのアッセイもまた行い、ここでは、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物は、グルコースの代わりにPBSで誘発した。4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物は、グルコース誘発因子の導入後2分内にインスリンの爆発的放出を示した。この放出速度は、グルコースの追加投与が加えられる(これは、爆発的放出の新しいエピソードを誘発した)まで経時的に遅くなる。本実施例では、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物を切断し、インスリンを放出するために必要なグルコースの最少濃度は、10mmol/Lであって、これは、180mg/dLという血糖値に相当する。インスリンの爆発的放出は、4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物が、低血糖症(約9mg/dL)または正常血糖症(約126mg/dL)と類似したグルコース濃度で誘発された場合、観察されず、このことは、本実施例の4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物が、正常な血糖値を維持するために適切であることを示している。また、これらのベシクル組成物からのインスリン放出速度は、グルコース濃度に依存し、それによって、インスリン過剰症を軽減または回避するのに有用な本発明の実施形態が行われる。
【0064】
図10は、5mM、7mM、および10mMのPBSを用いた誘発に比較して、5mM、7mM、および10mMのグルコースで誘発された4−アミノカルボニルフェニルボロン酸ベシクル組成物(4−アミノカルボニルフェニルボロン酸AVT)からのインスリンの放出についての(a)累積的な、および(b)示差的なプロットを図示する。
【0065】
図11は、10mM、30mM、および40mMのグルコースで誘発された4−アミノカルボニルフェニルボロン酸およびConAベシクル組成物からのインスリンの放出についての(a)累積的な、および(b)示差的なプロットを図示する。
【0066】
当業者は、多数の変化および改変が、本明細書に開示される実施形態に対してなされてもよいこと、ならびにこのような変化および改変が、本発明の趣旨から逸脱することなくなされ得ることを理解する。従って、添付の特許請求の範囲は、全てのこのような等価な変化型を、本発明の真の趣旨および範囲内におさまるものとして、包含するものとする。