【課題を解決するための手段】
【0012】
詳細には、本発明によれば、内腔を含む第1チューブであって、その遠位部上に配置される拡張型人工心臓弁を運ぶように設計された第1チューブ;第1チューブの遠位端で第1チューブに固定して接続された先端部であって、人工心臓弁の遠位端を着脱可能に収容および保持するように設計され、人工弁より遠位に摺動して人工弁の遠位端を解放することが可能な先端部;人工弁上に配置されて人工弁を圧縮状態で保持するように設計されたシースであって、人工弁より近位に摺動して人工弁を段階的に解放し拡張させることが可能なシース;およびシースに連結し、近位方向に摺動可能な、近位方向にシースを段階的に後退させるための第1作動機構を含む配備システムであって、第1チューブの近位部に設けられた、先端部に連結しているバイアス要素と、阻止機構とをさらに含み、該阻止機構が、先端部より近位方向への第1作動機構の移動を、阻止機構の要素によって最大進路に制限できるように設計されている配備システムが提供される。
【0013】
先行技術および本出願において、弁を含む人工心臓弁(または「心臓弁」)の末端を通常「近位端」といい、これ以上弁材料が存在しない心臓弁の末端を「遠位端」という。
【0014】
一方、配備システムの末端または末端部の遠位および近位については、操作者に近い末端を「近位」、操作者から遠い別の末端を「遠位」とする。本明細書および本出願の全体において、「近位」という表現が方向の指定に関して用いられる場合、すなわち「近位方向」とは、操作者に向かう方向を指す。他方、「遠位」という表現が方向の記述に用いられる場合、すなわち「遠位方向」とは、操作者/外科医/実施者から遠ざかる方向を指す。また配備システムの部品の末端については、「近位端」とは外科医などの操作者に最も近い末端を指し、「遠位端」とは近位端の反対の末端を指し、治療を受ける患者により近い。
【0015】
本発明による配備システムによれば、人工弁を配備している間も血流が確保される。これは、人工弁が正しく位置づけされる前にその近位端が広がることが防止されているためである。また、人工弁の近位端を配備する前に人工弁の遠位端が配備されると血流が妨げられる可能性があるが、これも見事に防止される。これは、人工弁の近位端を収容する先端部と、近位端が解放された後も人工弁の遠位端は圧縮状態で取り付けられた状態のままであるという事実により達成される。
【0016】
またこれは、人工弁の中間部の配備、すなわち中間部の制御されたバルーン様解放によっても達成され、それにより、配備中の人工弁の正確な位置づけ、さらには修正、すなわち前後移動も可能になる。公知技術による配備システムでは人工弁の末端が広がることによって人工弁を通る血液の流れが妨げられるが、このバルーン様配備によって、人工弁を通る血液の流れが確保される。
【0017】
本発明による配備システムに含まれるような阻止機構によって、人工弁が正確な場所に配置される前に近位端が配備されることが防止されるので、このバルーン様配備を達成することができる。しかし、人工弁の部分的なバルーン様拡張によってのみ人工弁の寸法や位置、意図する場所を見積もることができるので、人工弁の部分的な解放は必要である。
【0018】
本配備システムはさらに、先端部を遠位方向に移動させて人工弁の遠位端を解放するための第2作動機構を含むことが好ましい。配備の目的位置に達すればすぐに、操作者はこの第2作動機構を作動してよい。第2作動機構を作動すると、先端部は遠位方向に移動して、人工弁の近位端を解放することができる。好ましくは、先端部はバイアス要素に係合しており、バイアス要素による弾性またはばねの力で放出される。すなわち先端部は応力が負荷されたばねによって一時的に遠位方向に押され、その後ばねから解放された応力によって、拡張した人工弁内に後退する。
【0019】
本発明の改良型において、阻止機構は、パンチ要素、ばね式翼要素および隣接要素を含む。
【0020】
本明細書において弾性要素または「ばね式翼要素」とは、やや長い基部と一直線に並び、その一端が基部に取り付けられている任意の縦長の要素を指し、別の端は基部から離れて、好ましくは力または圧力負荷がかけられた状態で、自由に可動し、他端は基部に取り付けられたままである。
【0021】
さらに本明細書において「パンチ要素」とは、弾性要素間に挿入された際に、弾性要素を押し広げる、または弾性要素同士を強制的に引き離すことができるように設計された任意の要素を指す。
【0022】
本明細書において「隣接要素」とは、該隣接要素に向かって移動する別の可動要素を面や壁を介して機械的に停止させることができるように設計された任意の要素を指す。
【0023】
本発明の実施形態によれば、翼要素は、基部に取り付けられたそれらの末端が近位に位置し、それらの自由可動端が遠位に位置するように設計される。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、バイアス要素は、ばね、圧縮ばね、または引張ばねである。
【0025】
さらにバイアス要素は、パンチを介して阻止機構に係合するように設計される。
【0026】
この実施形態によれば、第2作動機構を作動すると、バイアス要素は遠位方向に移動して人工弁の近位端を解放した後、人工弁内に移動するので、阻止機構は弾性圧力から解放される。阻止機構が解放されたところで、第1作動機構を再度作動して近位方向にさらに移動させ、人工弁を完全に配備してもよい。
【0027】
好ましい実施形態において、阻止機構のパンチ要素は、ばね式翼要素間に強制的に挿入され、翼要素の自由可動端を押し広げて応力のかかった位置に移行させることで、翼の自由可動端が翼要素より遠位に位置する隣接要素に接する状態になり、作動機構の近位方向への進路を阻止する。
【0028】
この特徴によれば、第1作動機構は近位方向へ制限なく移動することができなくなるので、人工弁が正しく位置づけられる前に完全に配備されることを防止することができる。阻止機構によって阻止されるまでに移動し得る第1作動機構の最大進路は、人工弁の近位端も遠位端も解放されていない状態で、バルーン様に拡張した人工弁の最大長に一致する。
【0029】
言い換えれば、本発明のさらに別の実施形態において、第1作動機構と隣接要素は、自己拡張型人工心臓弁を配備する前には、シースの第1後退長さに相当する距離だけ離れており、シースの第1後退長さとは、人工弁の中間部は解放されて、人工弁の近位端と遠位端がまだ先端部とシースによってそれぞれ覆われているような長さである。
【0030】
他の実施形態によれば、第1作動機構は操作者が操作できるハンドルを含む。
【0031】
「操作者が操作できるハンドル」において、ハンドルとは、操作者が直接握って操作/作動できるものを指し、弾性レバーまたはばね式レバーを含みうる。レバーは、ヒンジを介してその一端で作動機構の本体に接続しており、他端は自由に可動する。レバーを緩めた状態では、ばねの力により自由可動端が基部から角度を持って遠ざかり、他端は基部に接続されたままである。レバーまたはハンドルを、長軸に向かってばねの力に逆らって押さえることにより、作動機構を作動することができる。
【0032】
本発明の他の実施形態によれば、第1チューブはガイドワイヤ内腔を含む。
【0033】
第1チューブ内に設けられたガイドワイヤ内腔を用いれば、患者の血管に先に導入したガイドワイヤにそって配備システムを誘導することができるため、配備システムの導入が容易になる。
【0034】
本発明のさらに別の発展型によると、配備システムは、第1チューブの周囲に同心円状に並んで配置された、シースと第1チューブとの間に位置する非摺動のシャフトをさらに含み、該シャフトは人工弁の遠位端と係合するための接続手段を含む。
【0035】
本発明によるシャフトは、シースを人工弁から、すなわち近位方向に引き戻す際に人工弁の位置を保持する、押し出し用シャフトまたは「後退」シャフトである。本発明によるシャフトはその遠位端に、人工弁の遠位端をシャフトに接続し一時的に保持するための手段を含む。人工弁を圧縮しているシースを完全に除去すると、人工弁の遠位端はシャフトから解放される。シャフトの接続手段はシャフトの遠位部、好ましくはシャフトの最遠位端から特定の距離を置いて位置する円環状の突起であることが好ましい。この突起上に人工弁の遠位端を配置することができ、この一時的に引っ掛けた人工弁の末端上に、人工弁を圧縮するシースを配置して、シースを除去した時に一緒に人工弁の末端が移動することを妨げるようにしてもよい。
【0036】
さらに別の実施形態によれば、本配備システムは、シースの近位部の周囲に同心円状に並んで配置された、きざみ付きまたは歯付きのチューブ状ロッドをさらに含む。第1作動機構のレバーはチューブ状ロッドと係合するので、レバー/第1作動機構を作動すると、シースを段階的に後退させることができる。
【0037】
好ましい実施形態において、ロッドは少なくとも1つの固定要素を含み、該固定要素によって、好ましくはロッドの近位端で、ロッドを隣接要素内に着脱可能に取り付けることができる。チューブ状ロッドが隣接要素に係合すると、ロッドは隣接要素に対して移動できなくなり、また逆も同じである。
【0038】
好ましくは、ロッドの近位端は、ロッドの長軸に対して外向きの、隣接要素と係合する、少なくとも部分的に弾性を有する固定要素を2つ含む。ここでいう「弾性」とは、固定要素が隣接要素/隣接要素のハウジングに係合し、ロッドの長軸から離れる方向を向いている圧力のない/負荷のない位置から、固定要素がロッドの軸に向かって動かされることで、隣接要素との係合から外れるような、圧力のかかった位置へと移行できることを指す。従って固定要素は、チューブ状ロッドの長軸から離れるように外側に突き出した突起である。この固定要素を介して、ロッドが隣接要素に取り付けられ、その結果、この停止要素は隣接要素が近位方向に移動することを阻止する。従って、隣接要素内へのロッドの取り付けはさらなる安全手段であって、これにより早くに人工弁が開放されることが防止される。
【0039】
2つの固定要素が、ロッドの周囲の対向する位置にあることが好ましい。
【0040】
この方法によれば、シースの近位端を収容する、シースのための外側ハウジングが設けられる。また、シースの近位端に接続されている作動機構は、作動すると、第2チューブ上を摺動することができる。
【0041】
本配備システムが人工心臓弁を含んでいることが特に好ましく、それにより、人工心臓弁を、それを必要としている患者の、病変したまたは機能不全の本来の心臓弁と置換することができる。
【0042】
本発明はさらに、人体の本来の弁と置換するための人工心臓弁に関し、この人工心臓弁を、本発明による配備システムを用いて配備してもよい。本発明による人工心臓弁は、ダイヤモンド形で拡張可能な複数のセルを有し、近位端、近位部、中間部、遠位部および遠位端を有する、拡張可能で略円筒形のステント支持体を含み、ステント支持体の遠位端では、ダイヤモンド形で拡張可能なセルの、遠位方向を向いた最も外側に位置する自由縁のうち、少なくとも3つはT字形末端を有し、ステント支持体の中間部には放射線不透過マーカーを備え、遠位部におけるセルのサイズは近位部におけるセルのサイズより大きい。本発明による人工弁はまた、複数の弁葉を有する弁と、複数の交連点とを含み、弁がステント支持体の内部表面を形成し、近位部において密閉域が形成されるように、弁がステント支持体に取り付けられており、円筒形のステント支持体の内部表面は弁で裏打ちされており、弁は、遠位端と中間部との間の領域において、交連点を介してステント支持体に固定されており、ステント支持体は、遠位端と中間部との間の領域において、弁のない部分を有する。
【0043】
本発明による人工弁は、本発明による配備システムを用いて心臓に導入することに特に適している。人工弁のT字形末端に関連する人工弁の特定の形状により、容易かつ正確に人工弁を配備システムに装填することができ、また目的の位置に正しく正確に配備することができる。また、放射線不透過マーカーを用いれば、X線などにより、配備中に人工弁が正しく正確に位置づけされているかを容易に観察することができる。
【0044】
本発明による人工心臓弁は特に、本発明による配備システムを用いて配備することに適している。本人工心臓弁と本配備システムを共に利用すれば、装填した人工弁は配備システムの作動によりバルーン様の解放状態になり、本来の弁を通過することが可能であるため、極めて正確な位置づけが可能になる。また、人工弁の除去または置換が必要になった場合に人工弁をシース内に再び後退させることができるため、人工弁は完全に再装填可能である。
【0045】
さらに、人工弁が装填された状態で、先端部内に固定された人工弁の近位端が開放されると、人工弁の拡張した末端内に先端部を移動させることができる。その結果、人工弁を損傷する恐れのある先端部が弁材料と接触することが防止される。
【0046】
また、人工心臓弁の極めて特徴的な構造によれば、人工弁を所望の位置に正確に配置することができ、近位端が配備されたところで人工弁が完全に機能するため、血流を妨げる恐れのある「パラシュート」の形成が回避される。
【0047】
本発明による人工心臓弁の好ましい実施形態によると、遠位端における、弁のない部分のステント支持体の円筒形状の直径は、ステント支持体の他の部分の円筒形状の直径より小さい。
【0048】
好ましい実施形態において、人工心臓弁はウシ心膜を含む。
【0049】
また、本発明による人工弁の改良型において、ステント支持体の弁の交連点の固定位置におけるステント支持体の円筒形状の直径は、他の位置の円筒形状の直径と比較して最も大きい。
【0050】
この特徴により、挿入位置において人工心臓弁をしっかり取り付けることができる(挿入位置においてこのような取り付けは重要である)ため、人工弁がずれることが防止される。
【0051】
本発明はまた、配備システムに装填された人工心臓弁を解放するための方法であって、
本発明による拡張型人工心臓弁を含む、本発明による配備システムを準備する工程、
配備システムの第1作動機構を作動して、シースを段階的に後退させ、同時に作動機構が阻止機構に隣接するまで、作動手段を近位方向に移動させる工程であって、それによりパンチ要素が強制的に弾性翼要素間に挿入されるため、弾性翼要素が押し広げられ、作動機構のさらなる移動およびシースの後退が阻止される工程、
上記工程により人工弁の中間部を解放する工程であって、人工弁の近位端は先端部内に固定されたままで、人工弁の遠位端はシャフトの遠位端に固定されたままであることから人工弁がバルーン様に拡張する工程、
先端部を移動させて人工弁の近位端を解放する工程であって、それによりバイアス要素が圧力から解放され、パンチ要素が弾性翼要素間から引き出されることで、弾性翼要素が応力のない位置に解放される工程、および
シースを完全に後退させ、拡張型人工弁を完全に配備し解放する工程を含む方法に関する。
【0052】
本発明による方法によれば、人工弁を正確に位置づけることができる。また本発明の方法を用いると、実施者または外科医は、血流を妨げないように人工弁をタイミングよく配置するといった時間の制約を受けることなく、人工弁を慎重に配置したり再配置したりすることができる。本発明による方法によれば、人工弁を配備するバルーン様中間工程が設けられているため、人工弁を通過する血液の流れが確保され、従って人工弁を慎重に配備するための時間ができる。さらに本発明による方法によれば、人工弁の解放末端が広がることが防止される。
【0053】
本発明の改良型によれば、本発明の方法は、準備工程の後に、人工弁が、人工弁に置換される心臓弁の範囲に来るように、配備システムを位置づけする工程をさらに含む。
【0054】
本発明による方法において、先端部の遠位への移動は、第2作動機構を作動することにより行われることが好ましい。
【0055】
以上に説明した特徴および以下にさらに説明する特徴は、それぞれの特定の組合せだけでなく、異なった組合せやそれら自体も本発明の範囲内に含まれることが理解される。
【0056】
さらなる特徴は、説明および好ましい実施形態から明らかである。
【0057】
好ましい実施形態を図面に示し、以下に詳細に説明する。