特許第5998210号(P5998210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998210
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】人工心臓弁配備システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
   A61F2/24
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-513134(P2014-513134)
(86)(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公表番号】特表2014-525760(P2014-525760A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】EP2012059819
(87)【国際公開番号】WO2012163820
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年2月12日
(31)【優先権主張番号】EP11168372
(32)【優先日】2011年6月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513301919
【氏名又は名称】エヌヴィーティー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】チェントラ,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】カヴァ,エミーリア
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−526609(JP,A)
【文献】 特表2011−509742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔(12)を含む第1チューブ(11)であって、その遠位部(11a)上に配置される拡張型人工心臓弁を運ぶように設計された第1チューブ(11)、
第1チューブの遠位端で第1チューブに固定して接続された先端部(13)であって、人工心臓弁(20)の遠位端(21)を着脱可能に収容し保持するように設計され、人工弁(20)より遠位に摺動して人工弁(20)の遠位端(21)を解放することが可能な先端部(13)、
人工弁(20)上に配置されて人工弁(20)を圧縮状態で保持するように設計されたシース(15)であって、人工弁(20)より近位に摺動して人工弁(20)を段階的に解放し拡張させることが可能なシース(15)、および
シース(15)に連結し、近位方向に摺動可能な、シース(15)を段階的に後退させるための第1作動機構(16)を含む、拡張型人工心臓弁を配備するための配備システム(10)であって、
該配備システム(10)がさらに
第1チューブ(11)の近位部(11b)に設けられた、先端部(13)に直結しているバイアス要素(19)と、
阻止機構(25)とを含み、該阻止機構(25)が、先端部(13)より近位方向への第1作動機構(16)の移動を、最大進路に制限できるように設計されていること
を特徴とする配備システム。
【請求項2】
先端部(13)を遠位方向に移動させて、人工弁(20)の近位端(21)を解放するための第2作動機構(27)をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の配備システム(10)。
【請求項3】
阻止機構(25)が、パンチ要素(26)、ばね式翼要素(28)および隣接要素(30)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の配備システム(10)。
【請求項4】
パンチ要素(26)が弾性翼要素(28)間に強制的に挿入され、弾性翼要素(28)を押し広げて、隣接要素(30)と隣接する応力のかかった位置に移行させることで、第1作動機構(16)の近位方向への進路を阻止することを特徴とする、請求項3に記載の配備システム(10)。
【請求項5】
第1作動機構(16)および隣接要素(30)が、人工心臓弁(20)の配備より前には、シース(15)の第1後退長さに対応する距離だけ離れており、シース(15)の第1後退長さが、人工弁(20)の中間部が解放され、人工弁(20)の近位端(21)が先端部によって覆われており、人工弁(20)の遠位端(22)がシース(15)によってまだ覆われているような長さであることを特徴とする、請求項3または4に記載の配備システム(10)。
【請求項6】
第1作動機構(16)が、レバー(17)およびグリップ(18)を有する、操作者が操作できるハンドルを含むことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の配備システム(10)。
【請求項7】
バイアス要素(19)が、パンチ要素(26)を介して阻止機構(25)に係合するように設計されていることを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の配備システム(10)。
【請求項8】
第1チューブ(11)がガイドワイヤ内腔(12)を含むことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の配備システム(10)。
【請求項9】
第1チューブ(11)の周囲に同心円状に並んで配置された、シース(15)と第1チューブ(11)との間に位置する非摺動のシャフト(32)をさらに含み、該シャフト(32)が人工弁(20)の遠位端(22)と係合するための接続手段(33)を含むことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の配備システム(10)。
【請求項10】
シース(15)の近位部の周囲に同心円状に並んで配置された、きざみ付きのチューブ状ロッド(36)をさらに含むことを特徴とする、請求項1ないし9のいずれかに記載の配備システム(10)。
【請求項11】
きざみ付きのチューブ状ロッド(36)が少なくとも1つの固定要素(37、38)を含み、該固定要素によってチューブ状ロッド(36)を隣接要素(30)に着脱可能に取り付けることができる、請求項10に記載の配備システム(10)。
【請求項12】
人工心臓弁(20)をさらに含む、請求項1ないし11のいずれかに記載の配備システム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己拡張型人工心臓弁を配備するための配備システムであって、第1チューブを含み、第1チューブの遠位部に配置される拡張型人工心臓弁を運ぶように設計された配備システムに関する。本配備システムはさらに、第1チューブの遠位端で第1チューブに固定して接続された先端部であって、人工心臓弁の遠位端を着脱可能に収容および保持するように設計され、人工弁より遠位に摺動して人工心臓弁の遠位端を解放することが可能な先端部を含む。さらに本配備システムは、人工弁上に配置されて人工弁を圧縮状態で保持するように設計されたシースであって、人工弁より近位に摺動して人工弁を段階的に解放し拡張させることが可能なシース、および近位方向に摺動可能で、シースに連結された、シースを段階的に後退させるための第1作動機構を含む。
【背景技術】
【0002】
心臓弁置換は、本来の心臓弁が損傷し、機能不良になったり機能しなくなったりした場合に必要とされる。心臓において心臓弁または「大動脈」弁は、両側にかかる圧力の差に基づいて開閉することにより一方向の血流を維持する。
【0003】
大動脈弁は様々な疾患によって冒される可能性があり、その結果、心臓弁置換、すなわち患者の大動脈弁を別の弁に置換することが必要となる場合がある。弁は漏出性、すなわち逆流したり不十分になる可能性があり、そうなると、大動脈弁は機能を果たせず、血液は誤った方向に受動的に流れて心臓に逆流する。また弁は部分的に閉鎖、すなわち狭窄する可能性があり、その場合、弁は完全には開かないので、心臓からの血流が妨げられる。この2つの症状は併発することが多い。
【0004】
人工心臓弁には、機械弁と生体弁の2種類がある。生体心臓弁は通常、動物心臓弁組織か動物心膜組織のいずれかである動物組織から作製され、これらには拒絶を防いだり石灰化を防いだりする処理がなされている。機械弁は一般に、患者をより長く生存させるように設計されているが、その材料に起因して血栓形成の危険性が高いという欠点がある。血栓形成は抗凝血薬を常用することによってのみ予防することができるが、そうすると患者は出血傾向になる。一般に機械心臓弁は、完全に合成材料または非生体材料で構成されているが、組織(または生体)心臓弁は合成材料と生体材料で構成されている。生体心臓弁は、レシピエントとは異なる種から採取された異種移植片、レシピエントと同じ種のドナーから採取された弁である同種移植片のいずれかが可能である。通常人工弁は、圧縮状態で血管内に導入され、圧縮構造を除くことにより拡張する拡張型ステントシステムを含む。
【0005】
大動脈弁置換は従来から胸骨正中切開、すなわち開心手術を必要とし、治療を受ける患者に大きな影響を与える。胸部の骨を半分に切開し、心膜を開いた後、患者に心肺バイパス装置を装着する。患者にバイパス装置を装着したところで、患者の患部大動脈弁を切除し、機械弁または生体弁をその場所に配置する。この手術に伴う物理的ストレス以外に、特に患者の健康状態や年齢によっては、開心手術による死や重篤な合併症の危険性がある。
【0006】
しかし最近、開心手術をせずに、カテーテルや配備システムを用いて移植することのできる弁が開発されており、逆行性、すなわち通常の血流に逆らって、または順行性、すなわち血流に乗って人工弁を配備することが可能になっている。
【0007】
国際特許出願WO2008/070797には、弁輪に固定された自己拡張型弁の経心尖的送達のためのシステムおよび方法が開示されている。ここに開示されているシステムは、外側シースと、細長い押し出し用チューブと、中央のチューブとを有するカテーテルアセンブリを含む。中央のチューブの遠位端に非侵襲的先端が設けられている。装填状態では、人工弁は、中央のチューブの先端部に隣接して保持され、シースにより圧縮されている。シースが引き戻されると、人工弁の遠位端、すなわち先端部に最も接近している部分が解放され、人工弁が拡張する。その後、シースを完全に引き戻して人工弁を完全に解放する。このとき、人工弁が自己拡張型人工弁であれば自ら完全に拡張するが、そうでなければ人工弁をバルーンを用いて拡張することができる。
【0008】
同様にWO2007/098232には、自己拡張型人工弁の配備装置であって、人工弁を数ステップで配備させることのできる分割シースを含む装置が開示されている。
【0009】
この技術分野において、多くの異なる配備システムや技術が公知であるにもかかわらず、一旦ある程度配備した人工弁を移動させることのできる正確な配備はまだ困難な段階にあり、現在利用可能なシステム、装置および方法ではその達成が難しい。さらに、自己拡張型弁を配備するために現在用いられているシステムの主な欠点は、最初に配備しなければならない人工弁の近位端が、配備時に広がって「パラシュート」を形成するため、血流を妨げることである。この事実により、外科医などの操作者は、時間的な制約のもと、速やかに人工弁を操作し配備して、通常の血流の途絶を避けることが要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この背景にかんがみ本発明の目的は、血流の閉塞、ひいては心臓そのものの機能の損傷を防ぐことができると同時に、操作が容易で、正確な位置づけ、ひいては誤配置された人工弁の修正が可能な改良された配備システムを提供することである。
【0011】
本発明によれば、この目的は請求項に詳細に記載されているような配備システムによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
詳細には、本発明によれば、内腔を含む第1チューブであって、その遠位部上に配置される拡張型人工心臓弁を運ぶように設計された第1チューブ;第1チューブの遠位端で第1チューブに固定して接続された先端部であって、人工心臓弁の遠位端を着脱可能に収容および保持するように設計され、人工弁より遠位に摺動して人工弁の遠位端を解放することが可能な先端部;人工弁上に配置されて人工弁を圧縮状態で保持するように設計されたシースであって、人工弁より近位に摺動して人工弁を段階的に解放し拡張させることが可能なシース;およびシースに連結し、近位方向に摺動可能な、近位方向にシースを段階的に後退させるための第1作動機構を含む配備システムであって、第1チューブの近位部に設けられた、先端部に連結しているバイアス要素と、阻止機構とをさらに含み、該阻止機構が、先端部より近位方向への第1作動機構の移動を、阻止機構の要素によって最大進路に制限できるように設計されている配備システムが提供される。
【0013】
先行技術および本出願において、弁を含む人工心臓弁(または「心臓弁」)の末端を通常「近位端」といい、これ以上弁材料が存在しない心臓弁の末端を「遠位端」という。
【0014】
一方、配備システムの末端または末端部の遠位および近位については、操作者に近い末端を「近位」、操作者から遠い別の末端を「遠位」とする。本明細書および本出願の全体において、「近位」という表現が方向の指定に関して用いられる場合、すなわち「近位方向」とは、操作者に向かう方向を指す。他方、「遠位」という表現が方向の記述に用いられる場合、すなわち「遠位方向」とは、操作者/外科医/実施者から遠ざかる方向を指す。また配備システムの部品の末端については、「近位端」とは外科医などの操作者に最も近い末端を指し、「遠位端」とは近位端の反対の末端を指し、治療を受ける患者により近い。
【0015】
本発明による配備システムによれば、人工弁を配備している間も血流が確保される。これは、人工弁が正しく位置づけされる前にその近位端が広がることが防止されているためである。また、人工弁の近位端を配備する前に人工弁の遠位端が配備されると血流が妨げられる可能性があるが、これも見事に防止される。これは、人工弁の近位端を収容する先端部と、近位端が解放された後も人工弁の遠位端は圧縮状態で取り付けられた状態のままであるという事実により達成される。
【0016】
またこれは、人工弁の中間部の配備、すなわち中間部の制御されたバルーン様解放によっても達成され、それにより、配備中の人工弁の正確な位置づけ、さらには修正、すなわち前後移動も可能になる。公知技術による配備システムでは人工弁の末端が広がることによって人工弁を通る血液の流れが妨げられるが、このバルーン様配備によって、人工弁を通る血液の流れが確保される。
【0017】
本発明による配備システムに含まれるような阻止機構によって、人工弁が正確な場所に配置される前に近位端が配備されることが防止されるので、このバルーン様配備を達成することができる。しかし、人工弁の部分的なバルーン様拡張によってのみ人工弁の寸法や位置、意図する場所を見積もることができるので、人工弁の部分的な解放は必要である。
【0018】
本配備システムはさらに、先端部を遠位方向に移動させて人工弁の遠位端を解放するための第2作動機構を含むことが好ましい。配備の目的位置に達すればすぐに、操作者はこの第2作動機構を作動してよい。第2作動機構を作動すると、先端部は遠位方向に移動して、人工弁の近位端を解放することができる。好ましくは、先端部はバイアス要素に係合しており、バイアス要素による弾性またはばねの力で放出される。すなわち先端部は応力が負荷されたばねによって一時的に遠位方向に押され、その後ばねから解放された応力によって、拡張した人工弁内に後退する。
【0019】
本発明の改良型において、阻止機構は、パンチ要素、ばね式翼要素および隣接要素を含む。
【0020】
本明細書において弾性要素または「ばね式翼要素」とは、やや長い基部と一直線に並び、その一端が基部に取り付けられている任意の縦長の要素を指し、別の端は基部から離れて、好ましくは力または圧力負荷がかけられた状態で、自由に可動し、他端は基部に取り付けられたままである。
【0021】
さらに本明細書において「パンチ要素」とは、弾性要素間に挿入された際に、弾性要素を押し広げる、または弾性要素同士を強制的に引き離すことができるように設計された任意の要素を指す。
【0022】
本明細書において「隣接要素」とは、該隣接要素に向かって移動する別の可動要素を面や壁を介して機械的に停止させることができるように設計された任意の要素を指す。
【0023】
本発明の実施形態によれば、翼要素は、基部に取り付けられたそれらの末端が近位に位置し、それらの自由可動端が遠位に位置するように設計される。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、バイアス要素は、ばね、圧縮ばね、または引張ばねである。
【0025】
さらにバイアス要素は、パンチを介して阻止機構に係合するように設計される。
【0026】
この実施形態によれば、第2作動機構を作動すると、バイアス要素は遠位方向に移動して人工弁の近位端を解放した後、人工弁内に移動するので、阻止機構は弾性圧力から解放される。阻止機構が解放されたところで、第1作動機構を再度作動して近位方向にさらに移動させ、人工弁を完全に配備してもよい。
【0027】
好ましい実施形態において、阻止機構のパンチ要素は、ばね式翼要素間に強制的に挿入され、翼要素の自由可動端を押し広げて応力のかかった位置に移行させることで、翼の自由可動端が翼要素より遠位に位置する隣接要素に接する状態になり、作動機構の近位方向への進路を阻止する。
【0028】
この特徴によれば、第1作動機構は近位方向へ制限なく移動することができなくなるので、人工弁が正しく位置づけられる前に完全に配備されることを防止することができる。阻止機構によって阻止されるまでに移動し得る第1作動機構の最大進路は、人工弁の近位端も遠位端も解放されていない状態で、バルーン様に拡張した人工弁の最大長に一致する。
【0029】
言い換えれば、本発明のさらに別の実施形態において、第1作動機構と隣接要素は、自己拡張型人工心臓弁を配備する前には、シースの第1後退長さに相当する距離だけ離れており、シースの第1後退長さとは、人工弁の中間部は解放されて、人工弁の近位端と遠位端がまだ先端部とシースによってそれぞれ覆われているような長さである。
【0030】
他の実施形態によれば、第1作動機構は操作者が操作できるハンドルを含む。
【0031】
「操作者が操作できるハンドル」において、ハンドルとは、操作者が直接握って操作/作動できるものを指し、弾性レバーまたはばね式レバーを含みうる。レバーは、ヒンジを介してその一端で作動機構の本体に接続しており、他端は自由に可動する。レバーを緩めた状態では、ばねの力により自由可動端が基部から角度を持って遠ざかり、他端は基部に接続されたままである。レバーまたはハンドルを、長軸に向かってばねの力に逆らって押さえることにより、作動機構を作動することができる。
【0032】
本発明の他の実施形態によれば、第1チューブはガイドワイヤ内腔を含む。
【0033】
第1チューブ内に設けられたガイドワイヤ内腔を用いれば、患者の血管に先に導入したガイドワイヤにそって配備システムを誘導することができるため、配備システムの導入が容易になる。
【0034】
本発明のさらに別の発展型によると、配備システムは、第1チューブの周囲に同心円状に並んで配置された、シースと第1チューブとの間に位置する非摺動のシャフトをさらに含み、該シャフトは人工弁の遠位端と係合するための接続手段を含む。
【0035】
本発明によるシャフトは、シースを人工弁から、すなわち近位方向に引き戻す際に人工弁の位置を保持する、押し出し用シャフトまたは「後退」シャフトである。本発明によるシャフトはその遠位端に、人工弁の遠位端をシャフトに接続し一時的に保持するための手段を含む。人工弁を圧縮しているシースを完全に除去すると、人工弁の遠位端はシャフトから解放される。シャフトの接続手段はシャフトの遠位部、好ましくはシャフトの最遠位端から特定の距離を置いて位置する円環状の突起であることが好ましい。この突起上に人工弁の遠位端を配置することができ、この一時的に引っ掛けた人工弁の末端上に、人工弁を圧縮するシースを配置して、シースを除去した時に一緒に人工弁の末端が移動することを妨げるようにしてもよい。
【0036】
さらに別の実施形態によれば、本配備システムは、シースの近位部の周囲に同心円状に並んで配置された、きざみ付きまたは歯付きのチューブ状ロッドをさらに含む。第1作動機構のレバーはチューブ状ロッドと係合するので、レバー/第1作動機構を作動すると、シースを段階的に後退させることができる。
【0037】
好ましい実施形態において、ロッドは少なくとも1つの固定要素を含み、該固定要素によって、好ましくはロッドの近位端で、ロッドを隣接要素内に着脱可能に取り付けることができる。チューブ状ロッドが隣接要素に係合すると、ロッドは隣接要素に対して移動できなくなり、また逆も同じである。
【0038】
好ましくは、ロッドの近位端は、ロッドの長軸に対して外向きの、隣接要素と係合する、少なくとも部分的に弾性を有する固定要素を2つ含む。ここでいう「弾性」とは、固定要素が隣接要素/隣接要素のハウジングに係合し、ロッドの長軸から離れる方向を向いている圧力のない/負荷のない位置から、固定要素がロッドの軸に向かって動かされることで、隣接要素との係合から外れるような、圧力のかかった位置へと移行できることを指す。従って固定要素は、チューブ状ロッドの長軸から離れるように外側に突き出した突起である。この固定要素を介して、ロッドが隣接要素に取り付けられ、その結果、この停止要素は隣接要素が近位方向に移動することを阻止する。従って、隣接要素内へのロッドの取り付けはさらなる安全手段であって、これにより早くに人工弁が開放されることが防止される。
【0039】
2つの固定要素が、ロッドの周囲の対向する位置にあることが好ましい。
【0040】
この方法によれば、シースの近位端を収容する、シースのための外側ハウジングが設けられる。また、シースの近位端に接続されている作動機構は、作動すると、第2チューブ上を摺動することができる。
【0041】
本配備システムが人工心臓弁を含んでいることが特に好ましく、それにより、人工心臓弁を、それを必要としている患者の、病変したまたは機能不全の本来の心臓弁と置換することができる。
【0042】
本発明はさらに、人体の本来の弁と置換するための人工心臓弁に関し、この人工心臓弁を、本発明による配備システムを用いて配備してもよい。本発明による人工心臓弁は、ダイヤモンド形で拡張可能な複数のセルを有し、近位端、近位部、中間部、遠位部および遠位端を有する、拡張可能で略円筒形のステント支持体を含み、ステント支持体の遠位端では、ダイヤモンド形で拡張可能なセルの、遠位方向を向いた最も外側に位置する自由縁のうち、少なくとも3つはT字形末端を有し、ステント支持体の中間部には放射線不透過マーカーを備え、遠位部におけるセルのサイズは近位部におけるセルのサイズより大きい。本発明による人工弁はまた、複数の弁葉を有する弁と、複数の交連点とを含み、弁がステント支持体の内部表面を形成し、近位部において密閉域が形成されるように、弁がステント支持体に取り付けられており、円筒形のステント支持体の内部表面は弁で裏打ちされており、弁は、遠位端と中間部との間の領域において、交連点を介してステント支持体に固定されており、ステント支持体は、遠位端と中間部との間の領域において、弁のない部分を有する。
【0043】
本発明による人工弁は、本発明による配備システムを用いて心臓に導入することに特に適している。人工弁のT字形末端に関連する人工弁の特定の形状により、容易かつ正確に人工弁を配備システムに装填することができ、また目的の位置に正しく正確に配備することができる。また、放射線不透過マーカーを用いれば、X線などにより、配備中に人工弁が正しく正確に位置づけされているかを容易に観察することができる。
【0044】
本発明による人工心臓弁は特に、本発明による配備システムを用いて配備することに適している。本人工心臓弁と本配備システムを共に利用すれば、装填した人工弁は配備システムの作動によりバルーン様の解放状態になり、本来の弁を通過することが可能であるため、極めて正確な位置づけが可能になる。また、人工弁の除去または置換が必要になった場合に人工弁をシース内に再び後退させることができるため、人工弁は完全に再装填可能である。
【0045】
さらに、人工弁が装填された状態で、先端部内に固定された人工弁の近位端が開放されると、人工弁の拡張した末端内に先端部を移動させることができる。その結果、人工弁を損傷する恐れのある先端部が弁材料と接触することが防止される。
【0046】
また、人工心臓弁の極めて特徴的な構造によれば、人工弁を所望の位置に正確に配置することができ、近位端が配備されたところで人工弁が完全に機能するため、血流を妨げる恐れのある「パラシュート」の形成が回避される。
【0047】
本発明による人工心臓弁の好ましい実施形態によると、遠位端における、弁のない部分のステント支持体の円筒形状の直径は、ステント支持体の他の部分の円筒形状の直径より小さい。
【0048】
好ましい実施形態において、人工心臓弁はウシ心膜を含む。
【0049】
また、本発明による人工弁の改良型において、ステント支持体の弁の交連点の固定位置におけるステント支持体の円筒形状の直径は、他の位置の円筒形状の直径と比較して最も大きい。
【0050】
この特徴により、挿入位置において人工心臓弁をしっかり取り付けることができる(挿入位置においてこのような取り付けは重要である)ため、人工弁がずれることが防止される。
【0051】
本発明はまた、配備システムに装填された人工心臓弁を解放するための方法であって、
本発明による拡張型人工心臓弁を含む、本発明による配備システムを準備する工程、
配備システムの第1作動機構を作動して、シースを段階的に後退させ、同時に作動機構が阻止機構に隣接するまで、作動手段を近位方向に移動させる工程であって、それによりパンチ要素が強制的に弾性翼要素間に挿入されるため、弾性翼要素が押し広げられ、作動機構のさらなる移動およびシースの後退が阻止される工程、
上記工程により人工弁の中間部を解放する工程であって、人工弁の近位端は先端部内に固定されたままで、人工弁の遠位端はシャフトの遠位端に固定されたままであることから人工弁がバルーン様に拡張する工程、
先端部を移動させて人工弁の近位端を解放する工程であって、それによりバイアス要素が圧力から解放され、パンチ要素が弾性翼要素間から引き出されることで、弾性翼要素が応力のない位置に解放される工程、および
シースを完全に後退させ、拡張型人工弁を完全に配備し解放する工程を含む方法に関する。
【0052】
本発明による方法によれば、人工弁を正確に位置づけることができる。また本発明の方法を用いると、実施者または外科医は、血流を妨げないように人工弁をタイミングよく配置するといった時間の制約を受けることなく、人工弁を慎重に配置したり再配置したりすることができる。本発明による方法によれば、人工弁を配備するバルーン様中間工程が設けられているため、人工弁を通過する血液の流れが確保され、従って人工弁を慎重に配備するための時間ができる。さらに本発明による方法によれば、人工弁の解放末端が広がることが防止される。
【0053】
本発明の改良型によれば、本発明の方法は、準備工程の後に、人工弁が、人工弁に置換される心臓弁の範囲に来るように、配備システムを位置づけする工程をさらに含む。
【0054】
本発明による方法において、先端部の遠位への移動は、第2作動機構を作動することにより行われることが好ましい。
【0055】
以上に説明した特徴および以下にさらに説明する特徴は、それぞれの特定の組合せだけでなく、異なった組合せやそれら自体も本発明の範囲内に含まれることが理解される。
【0056】
さらなる特徴は、説明および好ましい実施形態から明らかである。
【0057】
好ましい実施形態を図面に示し、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明による配備システムの一実施形態の、人工弁が配備システムに装填された状態の縦断面図であり、縮尺通りには描かれていない。
図2】(A)は、配備の中間段階において、人工弁が部分的に配備された状態の、図1の配備システムであり、縮尺通りには描かれていない。(B)は、図2(A)に示された状態の配備システムの近位部の拡大詳細図である。
図3】(A)は、人工弁がその近位端で配備された状態の、図1および2の配備システムを示す図であり、(B)は、図3(A)に示された状態の配備システムの近位部の拡大詳細図である。
図4】本発明による配備システムの別の実施形態の、近位端の拡大詳細図である。
図5】本発明による人工心臓弁の一実施形態の、拡張した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1において、本発明による配備システムの一実施形態は、全体として10として示される。配備システム10は、縮尺通りには描かれておらず、配備システムの近位部10aと遠位部10bとして示され、ガイドワイヤ(図示せず)を収容するために設計された内腔12を有する第1チューブ11を含む。図1において、配備システム10は人工弁20を装填しており、人工弁20はチューブ11の遠位部11aに装填されて運ばれる。チューブ11はその最遠位端に、非侵襲的先端である先端部13を有し、先端部13は近位方向を向いた側に、人工弁20の近位端21を収容し着脱可能に保持するための手段を有する。
【0060】
配備システム10は、第1チューブ11に装填された人工弁20を圧縮状態にして保持する外側シース15をさらに含む。人工弁を解放し拡張させるために、外側シース15は近位方向、すなわち操作者に向かって摺動可能/後退可能である。外側シース15は第1作動機構16に連結しており、作動機構16は近位方向に摺動可能で、シース15を段階的に後退させることができる。
【0061】
作動機構16はレバー17を含み、レバー17は管状グリップ18に連結しており、グリップ18は外側シース15の周囲に配置されている。グリップ18の内面で、外側シース15はグリップ18内に取り付けられている。レバー17は、ばね式機構(図示せず)によって、その一端17aとヒンジ(図示せず)を介してグリップ18に取り付けられている。他端17bは、レバー17がグリップ18に接近した状態である、応力のかかった閉じた位置から、ばね/ヒンジによってレバー17がグリップ18から角度を持って離れた状態にある、応力から解放された開いた位置へと自由に可動する。作動機構16を段階的に作動する、すなわちレバー17を繰り返し押さえることによって、グリップ18に取り付けられたシース15が段階的に後退する。
【0062】
図1に示すように、配備システム10は、配備システム10の近位部10Aに設けられた、先端部13に連結しているバイアス要素19をさらに含む。バイアス要素19は、近位保持要素23と遠位保持要素24の2つの保持要素間にしっかりと配置、設置されており、2つの保持要素は、第1チューブ11上で一定の距離を置いて配置されている。保持要素23は、後に説明する第2作動機構27である。
【0063】
配備システム10は阻止機構25をさらに含み、阻止機構25はパンチ要素26と、弾性またはばね式翼要素28と、隣接要素30とを有する。遠位保持要素24はパンチ要素26と弾性翼要素28に係合している。
【0064】
さらにシャフト32が、第1チューブ11の周囲に同心円状に並んで配置されている。シャフト32はシース15と第1チューブ11との間に位置する非摺動シャフトであり、人工弁20の遠位端22と係合するための接続手段33を含む。接続手段33は、図面に示した例示的な実施形態において、シャフト32の遠位部の周囲に、シャフト32の最遠位端から特定の距離をおいて配置されている円環状の突起である。人工弁20の遠位端22を、この突起/接続手段33に着脱可能に引っ掛けることができる。
【0065】
本発明による配備システム10には、さらに第2作動手段27が設けられ、図面に示した例示的な実施形態において第2作動手段27は、先端部に直結し、第1チューブの近位端に位置するノブである。このノブを近位方向に押して先端部13を作動させることによって、先端部13がまず遠位方向に押されて人工弁20の近位端21を解放し、次いで引き戻され、すなわち近位方向に動いて、開いて拡張した人工弁20の近位端21内に入る。先端部13のこの動きはバイアス要素19によってなされる。
【0066】
図1〜4において参照番号34は、ガイドワイヤ内腔のためのアダプターを示す。
【0067】
参照符号36はきざみ付きまたは歯付きのチューブ状ロッドを示し、該ロッドはシースの周囲に同心円状に位置し、作動機構16の作動によりシースが段階的に後退するように作動機構16と、特にレバー17と連携して働く。レバー17はその末端17aを介してきざみ付きロッドと係合している。ロッド36はその近位端(図5参照)で隣接要素30内に取り付けられている。わかりやすくするために、ロッド36は図1Aに示されるのみで、図2および3には示されていない。
【0068】
図2および3に、部分的ではあるが、人工弁を配備するための配備工程を示す。
【0069】
阻止機構25は、先端部13より近位方向の第1作動機構16の移動を、最大進路に制限できるように設計されている。このことは第1作動機構16と阻止機構25との相互作用によって達成され、図2Aに示されている。第1作動機構16を作動する、すなわちレバー17をグリップ18に向かって押し下げることにより、第1作動機構16が段階的に近位方向に移動し、安全止め具である隣接要素30に接触すると、作動機構16の近位方向への移動は停止する。
【0070】
これはまた、図2Bに示すように、隣接要素30に作動機構16が接触することで、バイアス要素19に応力が付加されるので、バイアス要素19とパンチ要素26との相互作用により、パンチ要素26に圧力がかかるためでもある。
【0071】
図2Aから明らかなように、作動機構が近位方向へ段階的に移動すると、人工弁20の中間部が段階的に解放されるが、その近位端21と遠位端22はそれぞれ先端部13とシャフト32の遠位端に固定されたままである。このようにして、人工弁20はバルーン様に拡張し、人工弁20を通る血液の流れを容易にするので、心臓への通常の血流を妨げない。
【0072】
さらに、人工弁20が完全には拡張せず、その近位端21および遠位端22でまだ固定されている状態であるので、人工弁20を正確に位置づけすることも可能で、すなわちバルーン様に拡張した人工弁20を動かしたりずらしたりして、人工弁20を正しく配置することができる。また、もし人工弁20を配備システム10に再装填することが必要とされるまたは求められる場合は、第1作動機構16を遠位方向に移動させることによって、シース15を人工弁20の中間部上に簡単に再配置することができる。
【0073】
図3に示される次の配備段階では、ノブ、すなわち第2作動機構27を作動することにより、先端部13をばね式で遠位方向に移動させて、人工弁20の近位端21を解放する。バイアス要素19とばねの力により、先端部13はその後、人工弁20の、開いて拡張した近位端21内に後退する。人工弁20は、弁を含むその近位端21が解放されたところで、完全に機能し、働き始める。このように、配備のいずれの時点においても、人工弁20の配備または導入によって血流が遮断されることはない。
【0074】
先端部13が人工弁20の内側に移動すると共に、パンチ要素26は最近位に移行して、ばね式翼要素28間から抜け出る。その結果、ばね式翼要素28はその基部に向かって中心に戻るため、隣接要素30を阻止しなくなる。このことは図3Bから詳細に理解できる。
【0075】
先端部13が人工弁20に、または人工弁20内で引っかかって、人工弁20内へまたは内部で移動できない場合は、パンチ要素26は最近位に移行せず、翼要素28は押し広げられて隣接要素30に押し付けられたままであるため、隣接要素30は阻止された状態のままである。このように、本発明による配備システム10は別の安全機構を提供し、人工弁20の近位端21が正しく解放されるまでは、人工弁20の遠位端22が配備できないようになっている。最終的に動かなくなった先端部13を解放するには、ノブすなわち第2作動機構27を、先端部13が再度引っかからないように注意しながら、改めて押せばいいだけである。
【0076】
次の配備段階として、先端部13が正しく位置付けられた場合は、隣接要素30を、隣接要素30に接触している第1作動機構16と共に、第1作動機構16によって近位方向に移動させることができる。それによってシース15は完全に後退して、人工弁20の遠位端22は解放されて自由になる。
【0077】
人工弁20を、必要としている患者(ヒトでもそれ以外の任意の哺乳動物であってもよい)の心臓に配備する本発明の方法は、図面の記載に関連した上記の配備工程を含む。
【0078】
一般に、第1ステップとして、ガイドワイヤを、血管を経由して導入し、心臓まで進める。次に、複数の要素によって人工弁20を圧縮状態で保持している配備システム10を、ガイドワイヤにそって導入する。その動きは例えばX線や他の放射線学的手段によって制御されている。人工弁20の最近位端21は先端部13に着脱可能に取り付けられており、最遠位端22はシャフト32の遠位部の接続手段33に着脱可能に固定されており、人工弁20全体は人工弁20を圧縮および拘束するシース15で覆われている。
【0079】
操作者/実施者/外科医は、人工弁20が正しく配置されたと判断したところで、第1作動機構16を作動して近位方向に移動させて、シース15を段階的に後退させ、人工弁20の中間部を拡張させる。第2配備段階において、第1作動機構16が隣接要素30に接し、先端部13に接続しているバイアス要素19がパンチ要素26を翼要素28間に強制的に押し込めて翼要素を押し広げ、第1作動機構16と隣接要素30のさらなる近位への移動を阻止する。この段階で、配備システム10の移動と、それによる人工弁20の前後移動により、人工弁20を正確に配置することができる(または必要であれば再装填してもよい)。
【0080】
第3配備段階において、人工弁20の近位端21を、先端部13に直接接続されている第2作動機構27/ノブを作動することにより解放する。その際、先端部13がばねの力で遠位方向に移動することで、人工弁20の近位端21を解放し、次いで近位方向に後退して、開いて拡張した人工弁20内に入る。
【0081】
ここで先端部13が人工弁20内に配置されると共に、パンチ要素26がその最近位に移動し、押し広げられた翼要素28間から抜け出ることにより、翼要素28は自らのばねの力で元の状態に戻って基部の方向に向かって並ぶ。その結果、隣接要素30は第1作動機構16と共に阻止されなくなり、これらを近位方向に移動させてシース15を後退させ、人工弁20を完全に解放することができる。
【0082】
従って、本発明の配備システム10によって提供される安全対策により、人工弁20の遠位端22より先に人工弁20の近位端21を配備すること、人工弁の末端が配備時に広がらないので、血流を遮断せず、より正確で制御可能な人工弁20の位置づけが可能であること、および部分的に配備された人工弁20がバルーン様形状であるので、本来の弁の前後に人工弁20を移動できることが保証される。
【0083】
さらにもし必要であれば、バルーン様の段階において、人工弁20を再装填してもよい。また、先端部13が人工弁20内に移動することで、先端部13が人工弁を引っ張ったりあるいは別の形で人工弁と接触したりして弁を損傷する恐れもなく、先端部13と共に配備システム10を滑らかに後退させ除去することができる。
【0084】
さらに、バルーン様に拡張した人工弁20を形成する配備工程により、人工弁20の心臓内でのより良好な方向づけと、より正確な位置づけが可能になる。
【0085】
図4に、本発明の別の実施形態を示す。図1〜3で示したものと同一の要素は同一の参照符号で示す。図4では配備システム10の近位端10aをより詳細に示す。図4に示すように、チューブ状ロッド36が隣接要素30のハウジング内に2つの固定要素37、38を用いて取り付けられている。図4に示す実施形態において固定要素37、38は、チューブ状ロッド36の周囲の対向する位置にある。固定要素37、38は突起形状であり、ロッドの長軸から離れるように外側に突き出している。固定要素37、38が隣接要素30に係合することで、隣接要素30の近位方向への移動が妨げられる。このように、別の安全機構を設けて、早くに人工弁が配備されることを防止している。
【0086】
操作者が、人工弁20がバルーン様形状に拡張するように、すなわちその近位端21がまだ先端部13に固定されており、遠位端22が外側シース15に覆われているように人工弁20を配置したとき、作動機構16は隣接要素30に隣接している。人工弁20の配備を進めるために、操作者は第2作動機構27を作動して近位端21を解放する。隣接要素30を移動させることができるように、操作者は2つの固定要素37、38をロッドの軸方向に押さえ、近位方向に引き寄せる。その結果、グリップ18を含む第1作動機構16は自由に近位に移動できるようになる。
【0087】
図5に、本発明による人工心臓弁20をより詳細に示す。
【0088】
人工弁20は、拡張可能で略円筒形のステント支持体102を有し、ステント支持体102は、縁111を有する、ダイヤモンド形で拡張可能な複数のセル110を含む。ステント支持体102は、近位端103、近位部104、中間部105、遠位部106および遠位端107を有する。ダイヤモンド形で拡張可能なセルはレーザー切断されているか、金属線の織り合わせまたは編組みにより形成されている。ステント支持体102の遠位端107では、セル110は自由縁112を有し、すなわちこの縁は、別のセルと接続も隣接もしておらず、また別のセルと一緒になって縁を形成してもいない。ダイヤモンド形で拡張可能なセル110の、遠位方向を向いた自由縁112のうち、少なくとも3つは、T字形末端114を有する。
【0089】
ここで、セル110の自由縁112の「T字形」形状または構造とは、「T」字の形を有する、すなわち(人工弁本体に対して直交する)1本のまっすぐな金属線部分と、この直交する金属線部分の最端部で垂直に配置される別の金属線部分とを有するものであればどのような形状または構造でもよいことを意味する。
【0090】
また図5から明らかなように、ステント支持体102の中間部105には放射線不透過マーカー116を備えており、これにより人工弁20の方向づけや位置づけが容易になる。さらに、ステント支持体102の遠位部106におけるセル110のサイズは、ステント支持体102の近位部104におけるセル110のサイズより大きい。
【0091】
人工弁20はまた、複数の弁葉119を有する弁118と、複数の交連点120とを含む。弁118は、弁118がステント支持体102の内部表面を形成し、近位部104において密閉域が形成されるようにステント支持体102に取り付けられており、円筒形のステント支持体102の内部表面は弁118で裏打ちされている。
【0092】
ステント支持体102の材料としては、ニチノールまたはそれ以外の形状記憶特性を有する任意の金属が好ましい。先に概説したように、弁は、哺乳動物の弁などのドナーの弁または人工弁であってよい。
【0093】
また、本発明による人工弁20において、弁118は、ステント支持体102の遠位端107と中間部105との間の領域108で、ステント支持体102に固定されており、すなわち交連点120を介して固定されている。ステント支持体102は、遠位端107と中間部105との間の領域108において、弁のない部分をさらに有する。
【0094】
本発明の種々の実施形態を説明したが、本発明の範囲内でさらに多くの実施形態および実例が可能であることは当業者に明らかであろう。また、本発明の範囲に関して種々の適用を示したが、本発明はこれらのいずれにも限定されるものではなく、これらを組み合わせた二種以上のものにも及びうる。したがって本発明は、添付の請求項およびそれらの等価物によってのみ制限される。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5