(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2.0〜6.0(w/v)%のトレハロース若しくはその誘導体又はそれらの塩と、4.0〜7.0(w/v)%のデキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩とを含む細胞移植用生理的水溶液中で、哺乳動物細胞を12時間以上72時間未満保存することを特徴とする哺乳動物細胞を保存する方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の哺乳動物細胞を保存する方法は、「細胞移植に用いるため」という用途が限定された、2.0〜6.0(w/v)%のトレハロース類と、4.0〜7.0(w/v)%のデキストラン類とを含む生理的水溶液(本件細胞移植用溶液)中で、哺乳動物細胞を保存する方法であり、より詳しくは、本件細胞移植用溶液は、トレハロース類とデキストラン類を細胞生存率低下抑制の有効成分として含むものである。本件細胞移植用溶液中に保存する哺乳動物細胞の密度は、通常10
3〜10
10個/mlの範囲内である。
【0018】
本件移植用細胞含有液においては、哺乳動物細胞が通常本件細胞移植用溶液中に含まれる。本件移植用細胞含有液は、本件細胞移植用溶液に哺乳動物細胞を添加することにより、或いは、哺乳動物細胞を含む生理的水溶液中に、2.0〜6.0(w/v)%となるようにトレハロース類を添加し、かつ、4.0〜7.0(w/v)%となるようにデキストラン類を添加することにより調製することができる。
【0019】
本発明の哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を例示することができ、中でも、マウス、ブタ、ヒトを好適に例示することができる。
【0020】
本件細胞移植用溶液や本件移植用細胞含有液に適用される生理的水溶液としては、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じになるようにナトリウムやカリウムなどによって塩濃度や糖濃度等を調整した等張水溶液であれば特に制限されず、具体的には生理食塩水や、緩衝効果のある生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水[Phosphate buffered saline;PBS]、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水等)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、5%グルコース水溶液、動物細胞培養用基礎培地(DMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199等)、等張剤(ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム等)などを挙げることができ、これらの中でも乳酸リンゲル液、生理食塩水、リンゲル液、及び酢酸リンゲル液からなる群から選択されるものが好ましく、特に乳酸リンゲル液又は生理食塩水を好適に例示することができる。生理的水溶液は、市販のものであっても、自ら調製したものであってもよい。市販のものとしては、大塚生食注(大塚製薬工場社製)(生理食塩液)、リンゲル液「オーツカ」(大塚製薬工場社製)(リンゲル液)、ラクテック(登録商標)注(大塚製薬工場社製)(乳酸リンゲル液)、ヴィーンF輸液(興和興和創薬社製)(酢酸リンゲル液)、大塚糖液5%(大塚製薬工場社製)(5%グルコース水溶液)、ビカネイト輸液(大塚製薬工場社製)(重炭酸リンゲル液)を挙げることができる。本明細書において「等張」とは、浸透圧が250〜380mOsm/lの範囲内であることを意味する。
【0021】
本件細胞移植用溶液や本件移植用細胞含有液には、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、キレート剤(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸、サリチレート)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン等の非必須アミノ酸)、ビタミン類(例えば、塩化コリン、パントテン酸、葉酸、ニコチンアミド、塩酸ピリドキサル、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、ビオチン、イノシトール等)、溶解補助剤、保存剤、酸化防止剤等の添加物を必要に応じて適宜補充してもよい。
【0022】
本件細胞移植用溶液中に哺乳動物細胞を保存するときの保存期間としては、細胞生存率低下を抑制し、生細胞の割合を高めることができる時間(期間)であればよく、例えば、12時間以上、1日以上、2日以上、3日以上、7日以上であり、また、哺乳動物細胞の保存期間が長すぎると細胞の生存に悪影響を及ぼす可能性があるため、細胞の生存率への悪影響を回避する観点から、通常は21日以下、より好ましくは16日以下、さらに好ましくは14日以下である。したがって、上記保存期間としては、通常、12時間〜21日、1〜21日、2〜21日、3〜21日、又は7〜21日であり、より好ましくは12時間〜16日、1〜16日、2〜16日、3〜16日、又は7〜16日であり、さらに好ましくは12時間〜14日、1〜14日、2〜14日、3〜14日、又は7〜14日であり、最も好ましくは3〜14日である。本件細胞移植用溶液中に保存した哺乳動物細胞について、細胞死が抑制されたことは、トリパンブルー(Trypan Blue)染色法、TUNEL法、Nexin法、FLICA法などの細胞死を検出できる公知の方法を用いて確認することができる。
【0023】
本件細胞移植用溶液中に哺乳動物細胞を保存するときの保存温度は、細胞移植用溶液が凍結せず、且つ細胞が生育可能である温度であればよく、通常0〜37℃、好ましくは0〜25℃(室温)の範囲内である。
【0024】
上記トレハロース類におけるトレハロースとしては、2つのα-グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であるα,α−トレハロースの他に、α-グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合した二糖類であるα,β−トレハロースや、2つのβ−グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であるβ,β−トレハロースを挙げることができるが、これらの中でもα,α−トレハロースが好ましい。これらトレハロースは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、α,α−トレハロース(株式会社林原社製)、α,α−トレハロース(和光純薬社製)などの市販品を挙げることができる。
【0025】
上記トレハロース類におけるトレハロース誘導体としては、二糖類のトレハロースに1又は複数の糖単位が結合したグリコシルトレハロース類であれば特に制限されず、グリコシルトレハロース類には、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロースなどが含まれる。
【0026】
上記トレハロース類におけるトレハロースやその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、トレハロースの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
上記デキストラン類におけるデキストランとしては、D−グルコースからなる多糖(C
6H
10O
5)
nであって、α1→6結合を主鎖とするものであれば特に制限されず、デキストランの重量平均分子量(Mw)としては、例えば、デキストラン40(Mw=40000)、デキストラン70(Mw=70000)などを挙げることができる。これらデキストランは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法で製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、低分子デキストランL注(大塚製薬工場社製)、デキストラン70(東京化成工業社製)などの市販品を挙げることができる。
【0028】
上記デキストラン類におけるデキストラン誘導体としては、デキストラン硫酸、カルボキシル化デキストラン、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストランなどが含まれる。
【0029】
上記デキストラン類におけるデキストランやその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、デキストランの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明の哺乳動物細胞としては、再生医療等に血管経由で投与される哺乳動物幹細胞の他に、I型糖尿病患者に経静脈投与される哺乳動物の膵島細胞や、がん患者に経静脈投与される哺乳動物の樹状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、アルファ・ベータ(αβ)T細胞、ガンマ・デルタ(γδ)T細胞、細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte;CTL)、ヘルパーT細胞等のT細胞、マクロファージ、好中球、好酸球などの白血球を例示することができ、好ましくは、T細胞である。これら細胞は、公知の一般的な方法で単離することができる。例えば、白血球、T細胞、ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、及びγδT細胞の単離は、溶血処理した末梢血又は臍帯血試料から、白血球の細胞表面マーカー(CD45)、T細胞の細胞表面マーカー(CD3)、ヘルパーT細胞の細胞表面マーカー(CD4)、細胞障害性T細胞(CD8)、γδT細胞の細胞表面マーカー(CD39)に対する抗体を用いた蛍光活性化セルソーター(FACS)や、蛍光物質やビオチン、アビジン等の標識物質で標識した上記細胞表面マーカーに対する抗体と、かかる標識物質に対する抗体とMACSビーズ(磁性ビーズ)とのコンジュゲート抗体とを用いた自動磁気細胞分離装置(autoMACS)により行うことができる。上記蛍光物質としては、アロフィコシアニン(APC)、フィコエリトリン(PE)、FITC(fluorescein isothiocyanate)、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 700、PE−TexasRed、PE−Cy5、PE−Cy7等を挙げることができる。
【0031】
また上記「幹細胞」とは、自己複製能及び分化・増殖能を有する未熟な細胞を意味する。幹細胞には、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem ce11)、複能性幹細胞(multipotent stem ce11)、単能性幹細胞(unipotent stem ce11)等の亜集団が含まれる。多能性幹細胞とは、それ自体では個体になることができないが、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。
【0032】
多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、EG細胞、iPS細胞等を挙げることができる。ES細胞は、内部細胞塊をフィーダー細胞上又はLIFを含む培地中で培養することにより製造することができる。ES細胞の製造方法は、例えば、WO96/22362、WO02/101057、US5,843,780、US6,200,806、US6,280,718等に記載されている。EG細胞は、始原生殖細胞をmSCF、LIF及びbFGFを含む培地中で培養することにより製造することができる(Ce11,70:841-847,1992)。iPS細胞は、体細胞(例えば線維芽細胞、皮膚細胞等)にOct3/4、Sox2及びKlf4(必要に応じて更にc−Myc又はn−Myc)等のリプログラミング因子を導入することにより製造することができる(Ce11,126:p.663-676,2006;Nature,448:p.313-317,2007;Nat Biotechno1,26;p,101-106,2008;Cel1 131:p.861‐872,2007;Science,318:p.1917-1920,2007;Ce11 Stem Cells 1:p.55-70,2007;Nat Biotechnol,25:p.1177-1181,2007;Nature,448:p.318-324,2007;Cell Stem Cells 2:p.10-12,2008;Nature 451:p.141-146,2008;Science,318:p.1917-1920,2007)。体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した幹細胞も、多能性幹細胞としてまた好ましい(Nature,385,810(1997);Science,280,1256(1998);Nature Biotechnology,17,456(1999);Nature,394,369(1998);Nature Genetics,22,127(1999);Proc.Nat1. Acad.Sci.USA,96,14984(1999))、Rideout IIIら(Nature Genetics,24,109(2000))。
【0033】
複能性幹細胞としては、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞等の細胞に分化可能な間葉系幹細胞、白血球、赤血球、血小板等の血球系細胞に分化可能な造血系幹細胞、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト等の細胞に分化可能な神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の体性幹細胞等を挙げることができる。複能性幹細胞は、好ましくは間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞とは、骨芽細胞、軟骨芽細胞及び脂肪芽細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞を意味する。複能性幹細胞は、自体公知の方法により、生体から単離することができる。例えば、間葉系幹細胞は、哺乳動物の骨髄、脂肪組織、末梢血、臍帯血等から公知の一般的な方法で採取することができる。例えば、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養、継代によりヒト間葉系幹細胞を単離することができる(Journal of Autoimmunity,30(2008)163-171)。複能性幹細胞は、上記多能性幹細胞を適切な誘導条件下で培養することによっても得ることができる。間葉系幹細胞は、好ましくはヒト骨髄由来の間葉系幹細胞である。
【0034】
本発明の哺乳動物細胞として、付着性の細胞を例示することができる。本明細書中、「付着性」細胞とは、足場に接着することで生存、増殖、物質の生産を行なうことができる足場依存性の細胞を意味する。付着性幹細胞としては、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等を挙げることができる。付着性幹細胞は、好ましくは、間葉系幹細胞又は多能性幹細胞である。
【0035】
本発明の哺乳動物細胞(集団)は、生体内から分離されたものであっても、インビトロで継代培養されたものであってもよいが、単離又は精製されていることが好ましい。本明細書中、「単離又は精製」とは、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製された哺乳動物細胞の純度(全細胞数に対する、哺乳動物幹細胞数等の目的とする細胞の割合)は、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上(例えば100%)である。
【0036】
本件細胞移植用溶液中に保存する哺乳動物細胞(集団)は、単一細胞(シングルセル)の状態であることが好ましい。本明細書において、「単一細胞の状態」とは、他の細胞と寄り集まって塊を形成していないこと(即ち、凝集していない状態)を意味する。単一細胞の状態の哺乳動物細胞は、インビトロで培養した哺乳動物細胞をトリプシン/EDTA等で酵素処理することにより調製することができる。哺乳動物細胞中に含まれる単一細胞の状態の哺乳動物細胞の割合は、通常70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上(例えば100%)である。単一細胞の状態の細胞の割合は、哺乳動物細胞をPBSに分散し、これを顕微鏡下で観察し、無作為に選択された複数個(例えば、1000個)の細胞について凝集の有無を調べることにより決定することができる。
【0037】
本件細胞移植用溶液中に保存する哺乳動物細胞(集団)は、好ましくは浮遊している。本明細書において、「浮遊」とは、細胞が、移植用溶液を収容した容器の内壁に接触することなく、移植用溶液中に保持されていることをいう。
【0038】
本件細胞移植用溶液中に保存した哺乳動物細胞が凝集又は沈殿している場合、移植前にピペッティングやタッピング等の当該技術分野における周知の方法により細胞を懸濁することが好ましい。
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
1.本件細胞移植用溶液が細胞生存率低下抑制の相乗効果を有することの確認1(トレハロースの濃度を3(w/v)%に固定し、デキストランの濃度変化と相乗効果の関係を評価)
1−1 材料
1−1−1 細胞移植用溶液
S :大塚生食注(大塚製薬工場社製)
LR :ラクテック(登録商標)注(大塚製薬工場社製)
LR+1%D :1(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+3%D :3(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+5%D :5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+7%D :7(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+3%T :3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+3%T+1%D:3(w/v)%トレハロース及び1(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+3%T+3%D:3(w/v)%トレハロース及び3(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+3%T+5%D:3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+3%T+7%D:3(w/v)%トレハロース及び7(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
【0041】
1−1−2 細胞移植用溶液の調製
1)3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注(「LR+3%T」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)をラクテック注(LR液)に添加・融解して調製した。
2)3(w/v)%トレハロース及び10(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LR+3%T+10%D」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)を低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有ラクテック注)(大塚製薬工場社製)(「LR+10%D」液)に添加・融解して調製した。
3)所定の濃度(1、3、5、及び7[w/v]%)のデキストラン含有ラクテック注(「LR+1、3、5、及び7%D」液)は、「LR+10%D」液をLR液で希釈して調製した。
4)3(w/v)%トレハロース及び所定の濃度(1、3、5、及び7[w/v]%)のデキストラン含有ラクテック注(「LR+3%T+1、3、5、及び7%D」液)は、「LR+3%T+10%D」液を「LR+3%T」液で希釈して調製した。
【0042】
1−1−3 哺乳動物細胞の調製
ヒト骨髄間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells from Bone Marrow[hMSC-BM])(Lonza社製)を、以下の〔1〕〜〔8〕に示す手順にしたがって調製し、本実験に用いた。
〔1〕hMSC-BMを、75cm
2フラスコを用いてヒト間葉系幹細胞専用培地キット(Lonza社)(以下、「MSC培地」という)存在下で37℃、5%CO
2インキュベーターにて培養を行った。顕微鏡下で細胞の状態を観察し、約80%程度コンフルエントになるまで培養した。
〔2〕MSC培地をアスピレーターで除き、フラスコ当たり8mLのPBS(Invitrogen社製)でhMSC-BMをリンスした。
〔3〕PBSをアスピレーターで除き、フラスコ当たり3.75mLのトリプシン−EDTA(Lonza社製)を加え、室温で5分間静置した。
〔4〕hMSC-BMが90%程度剥離するまで顕微鏡下で観察しながら、ゆっくりと揺らした。
〔5〕フラスコ当たり3.75mLのMSC培地を加え、トリプシン反応を停止させ、ピペッティングによりhMSC-BMを回収し、50mL遠心チューブに移した。
〔6〕600×g、5分間、25℃で遠心分離を行った。
〔7〕上清であるMSC培地をアスピレーターで除き、1フラスコ当たり4mLのPBS(Invitrogen社製)を加え、hMSC-BMペレット(沈殿物)を懸濁した。
〔8〕10μLのhMSC-BM懸濁液を採取し、細胞計数盤で細胞数を計測し、5×10
5cells/mLとなるようにPBS(Invitrogen社製)を添加し、氷冷した。
【0043】
1−2 方法
本件細胞移植用溶液が細胞生存率低下抑制の相乗効果を有することを確認するために、以下の〔1〕〜〔3〕に示す手順にしたがって実験を行った。
〔1〕上述の「1−1−3 哺乳動物細胞の調製」のステップ〔7〕で調製したhMSC-BM懸濁液を、FINPIPETTE(100−1000μL)を用いて15mLコニカル遠心チューブ(conical centrifuge tube)へ分注し、600×g、5分間、25℃で遠心処理した。
〔2〕遠心処理後の上清を吸引・除去し、上述の11種類の細胞移植用溶液に懸濁した後、冷蔵庫(4℃条件下)で14日間保存した。なお、保存前の細胞生存率を測定するために、遠心処理後の上清を吸引・除去した後、PBS(Invitrogen社製)に懸濁してすぐにその一部(20μL)を採取し、トリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLと混和後、顕微鏡下にてワンセルカウンターを用いて全細胞数と死細胞数の測定を行い、生細胞率の評価を行った(
図1の「P」参照)。
〔3〕hMSC-BMを細胞移植用溶液中に14日間保存した後、チップの先を底から目視で5mm程度の位置まで挿入した状態で、緩やかに攪拌(500μLの液量でのピペッティングを5回)して細胞が懸濁した状態で、その一部(20μL)を1.5mLマイクロチューブに採取し、トリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLと混和後、顕微鏡下にてワンセルカウンターを用いて全細胞数と死細胞数の測定を行い、生細胞率の評価を行った。
【0044】
1−3 結果
生細胞率の評価結果を表1及び
図1に示す。S液やLR液中でhMSC-BMを保存した場合、生存するhMSC-BMはほとんど認められなかったのに対して(S液では1%未満、LR液では1%)、「LR+1、3、5、及び7%D」液中でhMSC-BMを保存した場合、生存するhMSC-BMの割合は、それぞれ4%、9%、12%及び20%と上昇していた(表1、
図1)。また、「LR+3%T」液中でhMSC-BMを保存した場合においても、生存するhMSC-BMの割合は、4%と上昇していた(表1、
図1)。これらの結果は、生理食塩水や乳酸リンゲル液等の生理的水溶液中にhMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期保存すると、細胞はほとんど死滅するが、デキストランやトレハロースを含有する生理的水溶液を用いることにより、細胞死を抑制することができ、生細胞の割合を高めることができることを示している。
また、「LR+3%T+1、3、5、及び7%D」液中でhMSC-BMを保存した場合、生存するhMSC-BMの割合は、それぞれ11%、33%、57%及び50%であり、「LR+3%T」液中でhMSC-BMを保存した場合よりも上昇していた(表1、
図1)。さらに、「LR+3%T」及び「LR+1%D」液を用いた場合の細胞生存率は、それぞれ4%であり、両者の値を加算すると8%となるのに対して、「LR+3%T+1%D」液を用いた場合の細胞生存率は、11%と高い値(1.4倍)を示した。同様に、「LR+3%T」及び「LR+3%D」液を用いた場合の細胞生存率の値を加算すると13%となるのに対して、「LR+3%T+3%D」液を用いた場合の細胞生存率は、33%と高い値(2.5倍)を示し、また、「LR+3%T」及び「LR+5%D」液を用いた場合の細胞生存率の値を加算すると16%となるのに対して、「LR+3%T+5%D」液を用いた場合の細胞生存率は、57%と高い値(3.6倍)を示し、また、「LR+3%T」及び「LR+7%D」液を用いた場合の細胞生存率の値を加算すると24%となるのに対して、「LR+3%T+7%D」液を用いた場合の細胞生存率は、50%と高い値(2.1倍)を示した。これらの結果は、3%トレハロースと5%前後(4〜7%)のデキストランを併用することにより、hMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期間保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞の割合を相乗的に高めることができることを示している。
【0045】
【表1】
上記表中の「細胞生存率(%)」は、全細胞数に対する生細胞の割合を細胞生存率(%)として示す(平均値±標準偏差、[n=4])。なお、保存前の細胞生存率は「93 ± 2(%)」であった。上記表中の11種類の「細胞移植用溶液」については、実施例1の「1−1−1 細胞移植用溶液」参照。
【0046】
さらに、hMSC-BMの細胞移植用溶液中の保存期間を、14日間の他3日間や7日間で検討した。その結果を
図2に示す。14日間hMSC-BMを保存した場合と同様、3日間や7日間hMSC-BMを保存した場合においても、3%トレハロースと5%前後(4〜7%)のデキストランを併用することにより、hMSC-BMを長期間保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞の割合を相乗的に高めることができることが明らかとなった。
【実施例2】
【0047】
2.本件細胞移植用溶液が生存率低下抑制の相乗効果を有することの確認2(デキストランの濃度を5(w/v)%に固定し、トレハロースの濃度変化と相乗効果の関係を評価)
2−1 材料
2−1−1 細胞移植用溶液
S :大塚生食注(大塚製薬工場社製)
LR :ラクテック注(大塚製薬工場社製)
LR+1%T :1(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+3%T :3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+5%T :5(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+7%T :7(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+10%T :10(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+5%D :5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LR+5%D+1%T :5(w/v)%デキストラン及び1(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+5%D+3%T :5(w/v)%デキストラン及び3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+5%D+5%T :5(w/v)%デキストラン及び5(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+5%D+7%T :5(w/v)%デキストラン及び7(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LR+5%D+10%T:5(w/v)%デキストラン及び10(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
【0048】
2−1−2 細胞移植用溶液の調製
1)5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LR+5%D」液)は、低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有ラクテック注)(大塚製薬工場社製)(「LR+10%D液」)をラクテック注(LR液)で希釈して調製した。
2)10(w/v)%トレハロース含有ラクテック注(「LR+10%T」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)をLR液に添加・融解して調製した。
3)5(w/v)%デキストラン及び10(w/v)%トレハロース含有ラクテック注(「LR+5%D+10%T」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)を「LR+5%D」液に添加・融解して調製した。
4)所定の濃度(1、3、5、及び7[w/v]%)のトレハロース含有ラクテック注(「LR+1、3、5、及び7%T」液)は、「LR+10%T」液をLR液で希釈して調製した。
5)5(w/v)%デキストラン及び所定の濃度(1、3、5、及び7[w/v]%)のトレハロース含有ラクテック注(「LR+5%D+1、3、5、及び7%T」液)は、「LR+5%D+10%T」液を「LR+5%D」液で希釈して調製した。
【0049】
2−2 結果
hMSC-BMを、実施例1の「1−1−3 哺乳動物細胞の調製」に示した方法で調製した後、上述の13種類の細胞移植用溶液を用いて、実施例1の「1−2 方法」に示した手順にしたがって実験を行った。その結果を表2及び
図3に示す。実施例1の結果と同様S液やLR液中でhMSC-BMを保存した場合、生存するhMSC-BMはほとんど又は全く認められなかった(S液では1%、LR液では0%)。「LR+1、3、5、7、及び10%T」液中でhMSC-BMを保存した場合、生存するhMSC-BMの割合は、それぞれ2%、6%、7%、5%及び3%であるのに対して、「LR+5%D+1、3、5、7、及び10%T」液中でhMSC-BMを保存した場合、生存するhMSC-BMの割合は、それぞれ30%、48%、49%、30%及び14%であり、大幅に上昇していた(表2、
図3)。特に、「LR+5%D」及び「LR+1%T」液を用いた場合の細胞生存率は、それぞれ11%及び2%であり、両者の値を加算すると13%となるのに対して、「LR+5%D+1%T」液を用いた場合の細胞生存率は、30%と高い値(2.3倍)を示した。同様に、「LR+5%D」及び「LR+3%T」液を用いた場合の細胞生存率の値を加算すると17%となるのに対して、「LR+5%D+3%T」液を用いた場合の細胞生存率は、48%と高い値(2.8倍)を示し、また、「LR+5%D」及び「LR+5%T」液を用いた場合の細胞生存率の値を加算すると18%となるのに対して、「LR+5%D+5%T」液を用いた場合の細胞生存率は、49%と高い値(2.7倍)を示し、また、「LR+5%D」及び「LR+7%T」液を用いた場合の細胞生存率の値を加算すると16%となるのに対して、「LR+5%D+7%T」液を用いた場合の細胞生存率は、30%と高い値(1.9倍)を示した。これらの結果は、3%前後(2〜6%)のトレハロースと5%デキストランを併用することにより、hMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期間保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞の割合を相乗的に高めることができることを示している。
【0050】
【表2】
上記表中の「細胞生存率(%)」は、全細胞数に対する生細胞の割合を細胞生存率(%)として示す(平均値±標準偏差、[n=4])。なお、保存前の細胞生存率は「95 ± 2(%)」であった。上記表中の13種類の「細胞移植用溶液」については、実施例2の「2−1−1 細胞移植用溶液」参照。
【0051】
さらに、hMSC-BMの細胞移植用溶液中の保存期間を、14日間の他3日間や7日間で検討した。その結果を
図4に示す。14日間hMSC-BMを保存した場合と同様、3日間や7日間hMSC-BMを保存した場合においても、3%前後(2〜6%)のトレハロースと5%デキストランを併用することにより、hMSC-BMを長期間保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞の割合を相乗的に高めることができることが明らかとなった。
【0052】
実施例1及び2の結果をまとめると、3%前後(2〜6%)のトレハロースと5%前後(4〜7%)のデキストランを併用することにより、hMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期間(少なくとも14日間)保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞の割合を相乗的に高めることができることが明らかとなった。
【実施例3】
【0053】
3.デキストランと他の糖類とを併用した細胞移植用溶液を用いた場合の細胞生存率低下抑制効果の検討
3−1 材料
3−1−1 細胞移植用溶液
S :大塚生食注(大塚製薬工場社製)
LR :ラクテック注(大塚製薬工場社製)
LRD :5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LRTD :3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LRD+GL:5(w/v)%デキストラン及び1.6(w/v)%グルコース含有ラクテック注
LRD+SR:5(w/v)%デキストラン及び1.6(w/v)%ソルビトール含有ラクテック注
LRD+MN:5(w/v)%デキストラン及び1.6(w/v)%マンニトール含有ラクテック注
LRD+LC:5(w/v)%デキストラン及び3.0(w/v)%ラクトース含有ラクテック注
LRD+RF:5(w/v)%デキストラン及び4.8(w/v)%ラフィノース含有ラクテック注
LRD+ML:5(w/v)%デキストラン及び3.0(w/v)%マルトース含有ラクテック注
LRD+SC:5(w/v)%デキストラン及び3.0(w/v)%スクロース含有ラクテック注
【0054】
3−1−2 細胞移植用溶液の調製
1)5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRD」液)や3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRTD」液)は、実施例1の「1−1−2 細胞移植用溶液の調製」に記載された方法にしたがって調製した。
2)5(w/v)%デキストラン及び1.6(w/v)%グルコース含有ラクテック注(「LRD+GL」液)は、グルコース(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。
3)5(w/v)%デキストラン及び1.6(w/v)%ソルビトール含有ラクテック注(「LRD+SR」液)は、ソルビトール(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。
4)5(w/v)%デキストラン及び1.6(w/v)%マンニトール含有ラクテック注(「LRD+MN」液)は、マンニトール(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。
5)5(w/v)%デキストラン及び3.0(w/v)%ラクトース含有ラクテック注(「LRD+LC」液)は、ラクトース(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。
6)5(w/v)%デキストラン及び4.8(w/v)%ラフィノース含有ラクテック注(「LRD+RF」液)は、ラフィノース(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。
7)5(w/v)%デキストラン及び3.0(w/v)%マルトース含有ラクテック注(「LRD+ML」液)は、マルトース(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。
8)5(w/v)%デキストラン及び3.0(w/v)%スクロース含有ラクテック注(「LRD+SC」液)は、スクロース(和光純薬工業株式会社製)を「LRD」液に添加・融解して調製した。なお、上記7種類の糖類(グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、ラフィノース、マルトース、及びスクロース)は、3(w/v)%トレハロースと同じ浸透圧になるように濃度調整を行った。
【0055】
3−2 結果
hMSC-BMを、実施例1の「1−1−3 哺乳動物細胞の調製」に示した方法で調製した後、上述の11種類の細胞移植用溶液を用いて、実施例1の「1−2 方法」に示した手順にしたがって実験を行った。その結果を
図5に示す。実施例1や2の結果と同様、トレハロースをデキストランと併用すると、hMSC-BMを14日間保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞率が上昇することが示された(
図5の「LRTD」と「LRD」や「LR」や「S」との比較)。他方、トレハロースの代わりに7種類の糖類(グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、ラフィノース、マルトース、及びスクロース)をデキストランと併用した場合、細胞生存率は、デキストラン単独で用いた場合とほとんど変わらなかった(
図5の「LRD」と、「LRD+GL」や「LRD+SR」や「LRD+MN」や「LRD+LC」や「LRD+RF」や「LRD+ML」や「LRD+SC」との比較)。この結果は、上記7種類の糖類は、トレハロースと異なり、hMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期間保存したときの細胞死を抑制し、細胞移植用溶液中の生細胞率を高める効果を有さないことを示している。
【実施例4】
【0056】
4.トレハロースと他の糖類とを併用した細胞移植用溶液を用いた場合の細胞生存率低下抑制効果の検討
4−1 材料
4−1−1 細胞移植用溶液
S :大塚生食注(大塚製薬工場社製)
LR:ラクテック注(大塚製薬工場社製)
LRT :3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LRTD :3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LRT+GL:3(w/v)%トレハロース及び1.6(w/v)%グルコース含有ラクテック注
LRT+SR:3(w/v)%トレハロース及び1.6(w/v)%ソルビトール含有ラクテック注
LRT+MN:3(w/v)%トレハロース及び1.6(w/v)%マンニトール含有ラクテック注
LRT+LC:3(w/v)%トレハロース及び3.0(w/v)%ラクトース含有ラクテック注
LRT+RF:3(w/v)%トレハロース及び4.8(w/v)%ラフィノース含有ラクテック注
LRT+ML:3(w/v)%トレハロース及び3.0(w/v)%マルトース含有ラクテック注
LRT+SC:3(w/v)%トレハロース及び3.0(w/v)%スクロース含有ラクテック注
【0057】
4−1−2 細胞移植用溶液の調製
1)3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注(「LRT」液)や3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRTD」液)は、実施例1の「1−1−2 細胞移植用溶液の調製」に記載された方法にしたがって調製した。
2)3(w/v)%トレハロース及び1.6(w/v)%グルコース含有ラクテック注(「LRT+GL」液)は、グルコース(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。
3)3(w/v)%トレハロース及び1.6(w/v)%ソルビトール含有ラクテック注(「LRT+SR」液)は、ソルビトール(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。
4)3(w/v)%トレハロース及び1.6(w/v)%マンニトール含有ラクテック注(「LRT+MN」液)は、マンニトール(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。
5)3(w/v)%トレハロース及び3.0(w/v)%ラクトース含有ラクテック注(「LRT+LC」液)は、ラクトース(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。
6)3(w/v)%トレハロース及び4.8(w/v)%ラフィノース含有ラクテック注(「LRT+RF」液)は、ラフィノース(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。
7)3(w/v)%トレハロース及び3.0(w/v)%マルトース含有ラクテック注(「LRT+ML」液)は、マルトース(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。
8)3(w/v)%トレハロース及び3.0(w/v)%スクロース含有ラクテック注(「LRT+SC」液)は、スクロース(和光純薬工業株式会社製)を「LRT」液に添加・融解して調製した。なお、上記7種類の糖類(グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、ラフィノース、マルトース、及びスクロース)は、5(w/v)%デキストランと同じ浸透圧になるように濃度調整を行った。
【0058】
4−2 結果
hMSC-BMを、実施例1の「1−1−3 哺乳動物細胞の調製」に示した方法で調製した後、上述の11種類の細胞移植用溶液を用いて、実施例1の「1−2 方法」に示した手順にしたがって実験を行った。その結果を
図6に示す。実施例1〜3の結果と同様、デキストランをトレハロースと併用すると、細胞を14日間保存した場合の細胞生存率低下を相乗的に抑制し、生細胞率が上昇することが示された(
図6の「LRTD」と、「LRT」や「LR」や「S」との比較)。他方、デキストランの代わりに7種類の糖類(グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、ラフィノース、マルトース、及びスクロース)をトレハロースと併用した場合、細胞生存率は、トレハロース単独で用いた場合とほとんど変わらなかった(
図6の「LRT」と、「LRT+GL」や「LRT+SR」や「LRT+MN」や「LRT+LC」や「LRT+RF」や「LRT+ML」や「LRT+SC」との比較)。この結果は、上記7種類の糖類は、デキストランと異なり、hMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期間保存したときの細胞死を抑制し、細胞移植用溶液中の生細胞率を高める効果を有さないことを示している。
さらに、7種類の糖類(グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、ラフィノース、マルトース、及びスクロース)をトレハロースやデキストランと併用せず、単独で用いた場合の実験を行い、上記7種類の糖類は、hMSC-BM等の哺乳動物細胞を長期間保存したときの細胞死を抑制し、細胞移植用溶液中の生細胞率を高める効果を有さないことを確認した(
図7)。
【実施例5】
【0059】
5.本件細胞移植用溶液における生理的水溶液の検討
5−1 材料
5−1−1 細胞移植用溶液
LR :ラクテック注(大塚製薬工場社製)
LRTD :3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
S :大塚生食注(大塚製薬工場社製)
STD :3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有大塚生食注
5%糖 :大塚糖液5%(大塚製薬工場社製)
5%糖TD :3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有大塚糖液5%
リンゲル :リンゲル液「オーツカ」(大塚製薬工場社製)
リンゲルTD:3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有リンゲル液「オーツカ」
ヴィーン :ヴィーンF輸液(興和興和創薬社製)
ヴィーンTD:3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ヴィーンF輸液
【0060】
5−1−2 細胞移植用溶液の調製
1)5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRD」液)や3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRTD」液)は、実施例1の「1−1−2 細胞移植用溶液の調製」に記載された方法にしたがって調製した。
2)3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有大塚生食注(「STD」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)及びデキストラン40(名糖産業株式会社製)を、大塚生食注(大塚製薬工場社製)に添加・融解して調製した。
3)3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有大塚糖液5%(「5%糖TD」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)及びデキストラン40(名糖産業株式会社製)を、大塚糖液5%(大塚製薬工場社製)に添加・融解して調製した。
4)3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有リンゲル液「オーツカ」(「リンゲルTD」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)及びデキストラン40(名糖産業株式会社製)を、リンゲル液「オーツカ」(大塚製薬工場社製)に添加・融解して調製した。
5)3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ヴィーンF輸液(「ヴィーンTD」液)は、トレハロース(株式会社林原社製)及びデキストラン40(名糖産業株式会社製)を、ヴィーンF輸液(興和興和創薬社製)に添加・融解して調製した。
【0061】
5−2 結果
hMSC-BMを、実施例1の「1−1−3 哺乳動物細胞の調製」に示した方法で調製した後、上述の10種類の細胞移植用溶液を用いて、実施例1の「1−2 方法」に示した手順にしたがって実験を行った。その結果を
図8に示す。細胞移植用溶液における生理的水溶液として、大塚生食注(大塚製薬工場社製)やリンゲル液「オーツカ」(大塚製薬工場社製)やヴィーンF輸液(興和興和創薬社製)を用いた場合、ラクテック注(大塚製薬工場社製)を用いた場合と同様に、hMSC-BMを14日間保存したときの細胞死を抑制し、細胞移植用溶液中の生細胞率が上昇することが示された(
図8中の「S」と「STD」との比較、「リンゲル」と「リンゲルTD」との比較、「ヴィーン」と「ヴィーンTD」の比較)。他方、大塚糖液5%(大塚製薬工場社製)を用いた場合には、hMSC-BMを14日間保存したときの細胞死を抑制することは認められなかった(
図8中の「5%糖」と「5%糖TD」との比較)。以上の結果は、トレハロースとデキストラン併用による生細胞率低下抑制効果は、生理的水溶液として、少なくとも生理食塩液、乳酸リンゲル液、リンゲル液及び酢酸リンゲル液を用いた場合に認められることを示している。
【実施例6】
【0062】
6.本件細胞移植用溶液が細胞生存率低下抑制の相乗効果を有することの確認3(hMSC-BM以外の哺乳動物細胞を用いて評価)
本件細胞移植用溶液が有する細胞生存率低下の抑制効果が、hMSC-BM以外の他の哺乳動物細胞を用いた場合にも同様に認められることについて確認を行った。
6−1 材料
6−1−1 細胞移植用溶液
S :大塚生食注(大塚製薬工場社製)
LR :ラクテック注(大塚製薬工場社製)
LRT :3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注
LRD :5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
LRTD :3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注
【0063】
6−1−2 細胞移植用溶液の調製
3(w/v)%トレハロース含有ラクテック注(「LRT」液)や、5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRD」液)や、3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン含有ラクテック注(「LRTD」液)は、実施例1の「1−1−2 細胞移植用溶液の調製」に記載された方法にしたがって調製した。
【0064】
6−2 方法
〔1〕室温のRPMI培地(Gibco社製)18mLを50mLのコニカル遠心チューブに添加した。
〔2〕ヒト末梢血T細胞(Human Peripheral Blood T Cells;hPBT)(CELL APPLICATIONS, INC.社製)が凍結保存された保存容器(バイアル)のふたをゆるめて、圧をぬき、ふたを閉めた。
〔3〕37℃の恒温槽でかるく撹拌しながら融解した。
〔4〕融解した細胞を、上記RPMI培地を添加したコニカル遠心チューブに移した。
〔5〕400×g、5分間、25℃で遠心処理し、上清を吸引して細胞を回収し、バイアル当たり10mLのPBS(Invitrogen社製)に懸濁した。
〔6〕ワンセルカウンターを用いて細胞数を測定し、5×10
5cells/mLとなるようにPBS(Invitrogen社製)を添加し、氷冷した。
〔7〕FINPIPETTE(100−1000μL)を用いて12個の15mLコニカル遠心チューブに0.5mLずつ細胞懸濁液を分注し、400×g、5分間、25℃で遠心処理し、細胞を回収した。
〔8〕上清を吸引・除去し、上述の5種類の細胞移植用溶液にhPBTを懸濁した後、冷蔵庫(4℃条件下)で保存した。なお、保存前の細胞生存率を測定するために、遠心処理後の上清を吸引・除去した後、PBS(Invitrogen社製)に懸濁してすぐにその一部(20μL)を採取し、トリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLと混和後、顕微鏡下にてワンセルカウンターを用いて全細胞数と死細胞数の測定を行い、生細胞率の評価を行った(
図9の「P」参照)。
〔9〕細胞移植用溶液中にhPBTを保存後、1日目、3日目、7日目、及び14日目にチップの先を底から目視で5mm程度の位置まで挿入した状態で、緩やかに攪拌(250μLの液量でのピペッティングを5回)して細胞が懸濁した状態で、その一部(20μL)を1.5mLマイクロチューブに採取し、トリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLと混和後、顕微鏡下にてワンセルカウンターを用いて全細胞数と死細胞数の測定を行い、生細胞率の評価を行った。
【0065】
6−3 結果
生細胞率の評価結果を表3及び
図9に示す。S液及びLR液中にhPBTを1日間保存した場合の細胞生存率は、それぞれ18%及び29%まで低下していた(表3及び
図9の1日後の「S」及び「LR」)。また、LRT液及びLRD液中にhPBTを1日間保存した場合の細胞生存率は、それぞれ37%及び49%と改善されたものの、有意差は認められなかった(表3及び
図9の1日後の「LRT」及び「LRD」)。一方、LRTD液中にhPBTを1日間保存した場合の細胞生存率は、82%と高い値を示すとともに、LR液中で保存した場合と比べ、有意差が認められた(表3及び
図9の1日後の「LRTD」)。これらの結果は、トレハロースをデキストランと併用すると、hPBTの細胞生存率低下を効果的に抑制できることを示している。
【0066】
上記トレハロースとデキストランの併用による効果は、hPBTを3日間、7日間、及び14日間保存した場合、さらに顕著になった。すなわち、トレハロースやデキストランを単独で用いた場合と比べ、トレハロースとデキストランを併用した方が細胞生存率は2倍以上高く、また、トレハロースとデキストランの併用による相乗効果が認められた(表3及び
図9の3日後、7日後、及び14日後の「LRTD」)。特に7日間保存した場合、LRT液及びLRD液中で生存するhPBTの割合は、それぞれ13%及び17%であり、両者の値を加算すると30%となるのに対して、LRTD液中で生存するhPBTの割合は、57%と高い値(1.9倍)を示し、トレハロースとデキストランの併用による高い相乗効果が認められた。これらの結果は、トレハロースとデキストラン併用による生細胞率低下抑制効果は、hMSC-BM以外の哺乳動物細胞(hPBT)を用いた場合にも同様に認められることを示している。
【0067】
【表3】
上記表中の「細胞生存率(%)」は、全細胞数に対する生細胞の割合を細胞生存率(%)として示す(平均値±標準偏差、[n=6])。表中「*」及び「***」は、LRに対してDunnett検定で統計的に有意差(それぞれ、P<0.05及びP<0.001)があることを示す。なお、保存前の細胞生存率は「92 ± 3(%)」であった。上記表中の5種類の「細胞移植用溶液」については、実施例6の「6−1−1 細胞移植用溶液」参照。