特許第5998411号(P5998411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5998411リチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998411
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】リチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20160915BHJP
   C04B 35/46 20060101ALI20160915BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160915BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20160915BHJP
   H01M 10/36 20100101ALN20160915BHJP
   H01M 6/18 20060101ALN20160915BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
   C04B35/50
   C04B35/46 Z
   H01B13/00 Z
   !H01M10/0562
   !H01M10/36 A
   !H01M6/18 A
   !H01B1/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-167456(P2012-167456)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-24725(P2014-24725A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595151958
【氏名又は名称】中島産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501086714
【氏名又は名称】学校法人 学習院
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】中島 護
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 宜之
(72)【発明者】
【氏名】中島 幹夫
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−169456(JP,A)
【文献】 特開2011−113795(JP,A)
【文献】 特表2012−507456(JP,A)
【文献】 特開2011−222415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/46−35/478
C04B 35/50−35/505
C01G 23/00−23/08
H01B 1/00
H01B 1/08
H01B 13/00
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン原料と、リチウム原料と、ランタン原料とを粉砕し混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉末を仮焼する仮焼工程と、
前記仮焼工程で有られた仮焼体を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で得られた粉末を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程とを備え、
前記混合粉末全体におけるClの濃度が550ppm以下であることを特徴とするリチウムランタンチタン酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記チタン原料におけるClの濃度が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムランタンチタン酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記チタン原料が酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムランタンチタン酸化物の製造方法。
【請求項4】
測定温度27℃でのリチウムイオン伝導度を3.0×10−4Scm−1以上にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムランタンチタン酸化物の製造方法。
【請求項5】
塩化チタンを気相酸化して、前記酸化チタンを得ることを特徴とする請求項3に記載のリチウムランタンチタン酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム一次電池、リチウム二次電池の固体電解質、例えば全固体リチウムイオン電池の固体電解質やリチウム空気電池の固体電解質として利用できるリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の情報機器や通信装置の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車業界においても、電気自動車やハイブリッド自動車の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。これらに利用される各種電池の中で、エネルギー密度と出力が高いことから、リチウムイオン二次電池が注目されている。一般的なリチウムイオン二次電池は、正極活物質層、負極活物質層と、これら正極活物質層と負極活物質の間の電解質から構成される。
【0003】
一方、空気電池は、高容量二次電池として着目されている。特許文献1には空気極側に水溶性電解液を用いたリチウム空気電池が提案されている。このリチウム空気電池は、負極、負極用の有機電解液、固体電解質からなるセパレータ、空気極用の水溶性電解液及び空気極の順に設けられたリチウム空気電池である。固体電解質には、水分、溶存ガス、プロトン(H)、水酸化イオン(OH)などを通さない物質が必要となる。
【0004】
また、全固体リチウムイオン電池は、電解質として固体電解質を用いたリチウムイオン電池である。全固体リチウムイオン電池は、電解液の漏液やガス発生の心配がないため、現在市販されている電解質に有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池に代わる電池として注目されている。
【0005】
前記空気電池や全固体リチウムイオン電池の固体電解質には、リチウムイオン伝導度の高い材料が必要である。このような材料として、リチウムイオン伝導度が高い材料として、リチウムランタンチタン酸化物が注目されている(例えば、特許文献2および3参照)。
【0006】
非特許文献1には、酸化ランタン、炭酸リチウム、酸化チタンを用いて、固相法により混合し、加熱処理を行い、リチウムランタンチタン酸化物を作製している。前記製造方法により得られたリチウムランタンチタン酸化物が7×10−5Scm−1と高いリチウムイオン伝導度を示すことが報告されている。また、非特許文献2では、硝酸リチウムと硝酸ランタンとテトラブチルタイタネートを原料に用いて、液相法により混合し、加熱処理を行い、リチウムランタンチタン酸化物を合成した後、オルトケイ酸テトラエチルを添加して、加熱処理を行い、SiO濃度が0.58〜2.89重量%であるリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製している。前記製造方法により得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体はリチウムイオン伝導度が、最大で8.9×10−5Scm−1(SiO濃度2.31重量%、測定温度30℃)に向上すると報告されている。
【0007】
また、特許文献4では、酸化ランタン、炭酸リチウム、酸化チタンを用いて、固相法により混合し、加熱処理を行い、リチウムランタンチタン酸化物を合成した後、Alを添加して、加熱処理を行い、Al濃度が11.1重量%であるリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製している。前記製造方法により得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体はリチウムイオン伝導度が粒内で伝導度9.33×10−4Scm−1、粒界で伝導度2.38×10−5Scm−1(測定温度30℃)に向上すると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−134628号公報
【特許文献2】特開2010−262876号公報
【特許文献3】特開2011−222415号公報
【特許文献4】アメリカ公開2011/0318650号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y.Inaguma,et al.,Solid State Comunications 689−693(1993) 86.
【非特許文献2】A.Mei,et al.,Solid State Ionics 2255−2259(2008)179.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電池の高出力化の観点から、よりリチウムイオン伝導度が高い固体電解質材料が求められている。本発明は、測定温度27℃でリチウムイオン伝導度を向上することができるリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、混合原料粉のClを特定量以下にすることで、リチウムランタンチタン酸化物焼結体のリチウムイオン伝導度を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法は、チタン原料と、リチウム原料と、ランタン原料とを粉砕し混合する混合工程と、混合工程で得られた混合粉末を仮焼する仮焼工程と、仮焼工程で有られた仮焼体を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉末を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程とを備え、混合粉末全体におけるClの濃度が550ppm以下であることを特徴とする。本発明においては、混合粉末全体におけるClの濃度を上記の範囲とすることにより、測定温度27℃でリチウムイオン伝導度を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法により、空気電池や全固体リチウムイオン電池用の固体電解質材料として適したリチウムイオン伝導度が3.0×10−4Scm−1以上のリチウムランタンチタン酸化物焼結体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法で製造されるリチウムランタンチタン酸化物焼結体は、一般式Lax−aLi2−3xTi1−b、一般式LaLi2−3x−aTi1−b、一般式(LaLi2−3x1−aTi1−b、一般式Lax−aLi2−3xTiO3−2a、一般式Lax−aLi2−3xTiO3−a、一般式LaLi2−3xTi1−b3−3b、一般式LaLi2−3xTi1−b3−2b、一般式LaLi2−3xTi1−b3−b(ここで、0.55≦x≦0.59、0≦a≦0.5、0≦b≦0.5、MはNa、K、Ca、Ba、Pb、Sr、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Y、Eu、Tb、Ce、Ag、Biから選択される少なくとも一種であり、MはMg、Co、Ni、Cu、Cr、Fe、Ga、Gd、In、Sc、Ge、Hf、Mn、Pr、Sn、Tb、Zn、Zr、W、Ru、Nb、Ta、Al、Yから選択される少なくとも一種である)で表される。
【0015】
特に、リチウムランタンチタン酸化物焼結体は、一般式(1−a)LaLi2−3xTiO―aSrTiO、一般式(1−a)LaLi2−3xTiO―aLa0.50.5TiO、一般式LaLi2−3xTi1−a3−a、一般式Srx−1.5aLaLi1.5−2xTi0.5Ta0.5(ここで、0.55≦x≦0.59、0≦a≦0.2、MはAl、Fe、Gaから選択される少なくとも一種)が好ましく、これにより、測定温度27℃でリチウムイオン伝導度が3.0×10−4Scm−1以上とすることができる。
【0016】
リチウムランタンチタン酸化物焼結体の組成(x、a、b)は以下の方法により決定する。リチウムランタンチタン酸化物とNaとNaOHをジルコニア坩堝に入れて、加熱して溶融する。その後放冷し、水とHClを加えて溶解する。溶解した液分を分取し、Tiについてはアルミニウム還元−硫酸アンモニウム鉄(III)滴定法により、その他の元素についてはICP発光分光法により定量を行った。
【0017】
また、リチウムランタンチタン酸化物焼結体は単相化率90%以上のリチウムランタンチタン酸化物の焼結体である。なお、単相化率は、以下の方法により定義されるものである。リチウムランタンチタン酸化物焼結体をアルミナ製の乳鉢で粉砕して測定試料とし、粉末X線回折装置(X線源:CuKα線)を用いて測定する。得られた回折パターンのリチウムランタンチタン酸化物と不純物のメインピークの高さから、単相化率を以下の計算式により求める。
【0018】
単相化率(%)=I/(I+S)×100
I:リチウムランタンチタン酸化物の2θ=0〜50°における最強ピークの高さ
S:全ての不純物のメインピークの高さの和
【0019】
なお、不純物としては、TiO、La、LiTi、LaTiなどがある。
【0020】
リチウムランタンチタン酸化物焼結体のリチウムイオン伝導度は、以下の方法により求める。板状(15mm×15mm×2.5mm)のリチウムランタンチタン酸化物焼結体の試料表面を#150のダイヤモンド砥石で研磨を行い、仕上げに#600のダイヤモンド砥石で研磨を行う。10mm×10mmの大きさに切り取った2枚のろ紙に、1Mの塩化リチウム水溶液を染み込ませ、板状のリチウムランタンチタン酸化物を挟むように貼り付ける。インピーダンスアナライザーを用いて測定周波数5〜13MHz、測定温度27℃でコール・コールプロットを測定し、測定データから粒内、粒界の抵抗値を読み取る。リチウムイオン伝導度は、以下の計算式より求めた。
【0021】
リチウムイオン伝導度(Scm−1)=1/(R+Rgb)×(L/S)
:粒内の抵抗値(Ω)
gb:粒界の抵抗値(Ω)
L:板状のリチウムランタンチタン酸化物の厚み(cm)
S:電極の面積(cm
【0022】
本発明のリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法は、チタン原料として酸化チタン、水酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸等のチタン化合物、あるいはこれらの混合物、リチウム原料として、水酸化リチウム及び炭酸リチウム等のリチウム化合物、ランタン原料として酸化ランタン、炭酸ランタン、水酸化ランタンを用いることができる。特に、酸化チタンはチタン原料の中で最も安価であるため好ましい。
【0023】
その他の元素(Na、K、Ca、Ba、Pb、Sr、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Y、Eu、Tb、Ce、Ag、Bi、Mg、Co、Ni、Cu、Cr、Fe、Ga、Gd、In、Sc、Ge、Hf、Mn、Pr、Sn、Tb、Zn、Zr、W、Ru、Nb、Ta、Al、Y)の原料も、酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩等を用いる。
【0024】
各原料を所望のモル比にて計量する。なお、リチウム原料は、仮焼と焼結の際のリチウム化合物の揮発を考慮して、リチウム原料に対して0〜15重量%のリチウム原料を過剰添加する。
【0025】
計量した各原料は、公知の方法にて混合する。例えば、容器回転式混合機(水平円筒、傾斜円筒、V型など)や機械攪拌式混合機(リボン、スクリュー、ロッドなど)等の混合機、媒体流動型混合粉砕機(ボールミル、遊星ミルなど)、攪拌型混合粉砕機(塔式粉砕機、攪拌曹型ミル、流通管型ミルなど)、乳鉢(瑪瑙乳鉢、アルミナ乳鉢、らいかい機など)等の混合粉砕機を用いることができる。混合粉砕機を使用する場合、湿式、乾式の混合方法があり、湿式の場合は分散媒として水や有機溶媒(アルコール、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、アセトンなど)等を用いることができ、純水とエタノールの混合分散媒が特に好ましい。また、必要に応じて界面活性剤等の分散媒を加え、粉砕を行なう。ボールミル粉砕した混合粉は、引き続き乾燥し、一次乾燥粉を得る。このとき、混合粉末(一次乾燥粉)に含まれるCl濃度の合計が550ppm以下となるように各原料を選択する。これにより、測定温度27℃でリチウムイオン伝導度を3.0×10−4Scm−1以上とすることができる。特にClの含有量が1000ppm以下であるチタン原料を選択することが好ましく、塩化チタンの気相酸化により得られた酸化チタンがより好ましい。
【0026】
乾燥方法には特に制限は無く、例えば、スプレードライヤー乾燥機、或いは流動層乾燥機、或いは転動造粒乾燥機、或いは凍結乾燥機、或いは熱風乾燥機による乾燥を用いることができる。スプレードライヤー乾燥での乾燥条件は、熱風入口温度が200〜250℃、排風温度が90〜120℃である。
【0027】
なお、本発明のリチウムランタンチタン酸化物焼結体の製造方法の混合原料粉、チタン化合物のClの濃度は、波長分散型蛍光X線装置を用い求める。
【0028】
次いで、CLの濃度が550ppm以下の混合原料粉の仮焼を行ない、仮焼粉を得る。仮焼条件としては、酸素雰囲気中、大気中、或いは不活性雰囲気中(窒素雰囲気中や不活性ガス雰囲気中)で1000〜1200℃、1〜12時間にて仮焼を行う。
【0029】
得られた仮焼粉は、必要に応じてボールミルに投入し粉砕を行なってもよい。分散媒として純水とアルコール(例えばエタノール)の混合分散媒、必要に応じて界面活性剤等の分散媒を加え、粉砕を行なう。粉砕時間は1〜6時間である。粉砕装置は、ウレタンライニングボールミル、ナイロン製ボールミル、或いは天然ゴムライニングボールミルを用いる。
【0030】
続いて仮焼粉を成形する。成形方法は、例えば、CIP成形、金型成形、キャスティング成形、押し出し成形、グリーンシートキャスティング成形等の成形方法を用い、所望形状に成形を行ない、成形体とする。金型成形の際の成形条件としては、例えば、成形圧力400〜1500kg/cmである。また、スプレードライヤー乾燥のように乾燥と同時に顆粒状に成形を行なっても良い。なお、成形はスプレードライヤー乾燥を行なった粉末を用いても良い。
【0031】
得られた成形体を焼結し、本発明のリチウムランタンチタン酸化物を得る。1000〜1200℃、1〜4時間で一次焼結を行った後、1200〜1500℃、4〜20時間にて二次焼結を行う。
【0032】
本発明においては、チタン原料、リチウム原料、ランタン原料の混合原料粉のClの濃度を550ppm以下にすることにより、仮焼粉の結晶性が向上し、高温での焼結によるリチウムの揮発を抑制することができる。その結果、リチウムイオン伝導度が3.0×10−4Scm−1以上のリチウムランタンチタン酸化物焼結体を得ることができると考えられる。
【0033】
本発明の製造方法により得られるリチウムランタンチタン酸化物焼結体は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の間に備えられた固体電解質層からなる全固体リチウムイオン電池の固体電解質層や、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層を有し、負極活物質層と固体電解質層の間及び正極活物質層と固体電解質層の間に電解液を備える空気電池の固体電解質層等に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0035】
1.リチウムランタンチタン酸化物焼結体の評価方法
(組成式のx、a、bの決定方法)
リチウムランタンチタン酸化物焼結体とNaとNaOHをジルコニア坩堝に入れて、加熱して溶融する。その後放冷し、水とHClを加えて溶解する。溶解した液分を分取し、Tiについてはアルミニウム還元−硫酸アンモニウム鉄(III)滴定法により、その他の元素ついてはICP発光分光法により定量を行い、Lax−aLi2−3xTi1−b、LaLi2−3x−aTi1−b、(LaLi2−3x1−aTi1−b、Lax−aaLi2−3xTiO3−2a、Lax−aaLi2−3xTiO3−a、LaLi2−3xTi1−b3−3b、LaLi2−3xTi1−b3−2b、LaLi2−3xTi1−b3−bのx、a、bの値を決定した。
【0036】
(Clの定量方法)
混合原料粉、チタン化合物を分析用セルに直接入れ、その試料表面を波長分散型蛍光X線装置 型式名:LIX3000(株式会社リガク製)を用いて定性・定量分析を行い、Cl濃度を算出した。
【0037】
(リチウムイオン伝導度測定方法)
板状(15mm×15mm×2.5mm)のリチウムランタンチタン酸化物焼結体の試料表面を#150のダイヤモンド砥石で研磨を行い、仕上げに#600のダイヤモンド砥石で研磨を行った。10mm×10mmの大きさに切り取った2枚のろ紙に、1Mの塩化リチウム水溶液を染み込ませ、板状のリチウムランタンチタン酸化物焼結体を挟むように貼り付けた。インピーダンスアナライザー 型式名:4192A(ヒューレットパッカード社製)を用いて測定周波数5Hz〜13MHz、測定温度27℃でコール・コールプロットを測定し、測定データから粒内、粒界の抵抗値を読み取り、リチウムイオン伝導度を以下の計算式より求めた。
【0038】
リチウムイオン伝導度(Scm−1)=1/(R+Rgb)×(L/S)
:粒内の抵抗値(Ω)
gb:粒界の抵抗値(Ω)
L:板状のリチウムランタンチタン酸化物の厚み(cm)
S:電極の面積(cm
【0039】
(単相化率の測定方法)
得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体をアルミナ製の乳鉢で粉砕して測定試料とし、X線回折装置(X線源:CuKα線) 型式名:X’Part−ProMPD(パナリティカル社製)を用いて測定した。得られたX線回折パターンより、リチウムランタンチタン酸化物焼結体と不純物のメインピークの高さから、単相化率を以下の計算式により求めた。
【0040】
単相化率(%)=I/(I+S)×100
I:リチウムランタンチタン酸化物の2θ=0〜50°における最強ピークの高さ
S:全ての不純物のメインピークの高さの和
【0041】
[実施例1]
1.原料
原料として炭酸リチウム(Sociedad
Quimica y Minera de Chile S.A.製、純度99.2%以上)、酸化ランタン(宣興新威利成稀土有限公司製、純度99.99%以上)、酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製、純度99.99%以上)を使用した。ぞれぞれの原料の重量と酸化チタンのCl濃度を表1に示し、炭酸リチウムの過剰添加量は7.5重量%とした。
【0042】
2.一次粉砕
ウレタンライニングボールミル(容量200L)に、秤量した原料、アルミナメディア(径3mm)200kg、イオン交換水35L及びエタノール35L投入し、粉砕・混合30分行った後、15時間ボールミル内で放置し再度30分粉砕を行い、一次粉砕粉を得た。
【0043】
3.一次乾燥
一次粉砕粉をスプレードライヤーにより乾燥を行い、一次乾燥粉を得た。スプレードライヤーの条件は以下である。
原料供給量:10〜30L/h
熱風入口温度:150〜250℃
排風温度:90〜120℃
また、一次乾燥粉のCl濃度を表1に示す。
【0044】
4.仮焼
一次乾燥粉をコウジライトムライト材質の匣鉢にいれ、電気炉にて仮焼を行い、仮焼粉を得た。仮焼条件は、大気中、仮焼温度1150℃、仮焼時間2時間にて行った。
【0045】
5.二次粉砕
ウレタンライニングボールミル(容量200L)に、仮焼粉70kg、ジルコニアメディア(径3mm)200kg、イオン交換水60L、分散剤(ポリアクリル酸アンモニウム塩)700gを投入し、粉砕を6時間行った。その後、アクリル樹脂系バインダー4.5kgを投入し、15分間混合を行い、二次粉砕粉を得た。
【0046】
6.二次乾燥
二次粉砕粉をスプレードライヤーにより乾燥し、二次乾燥粉を得た。スプレードライヤーの条件は以下である。
原料供給量:10〜30L/h
熱風入口温度:200〜250℃
排風温度:90〜120℃
【0047】
7.成形
二次乾燥粉15gを、金型成形(成形圧力・1000kg/cm)により40mm×40mm×厚み3mmの平板状に成形し、成形体を得た。
【0048】
8.焼結
成形体を電気炉にて、大気中で1100℃、2時間で一次焼結を行った後、1460℃、6時間にて二次焼結を行い、リチウムランタンチタン酸化物焼結体を得た。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0049】
[実施例2]
「1.原料」の酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製、純度99.99%以上)を100Lの純水で水洗した後、乾燥した酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製、純度99.99%以上)に変更した以外は実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0050】
[実施例3]
「2.一次粉砕」で、原料と共に、10重量%の塩酸を0.18kg投入した以外は実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0051】
[実施例4]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0052】
[実施例5]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0053】
[実施例6]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更し、さらにSrCOを3.751kg添加した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0054】
[実施例7]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更し、さらにSrCOを11.25kg添加した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0055】
[実施例8]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更し、さらにFeを2.029kg添加した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0056】
[実施例9]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更し、さらにFeを6.087kg添加した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0057】
[実施例10]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更し、さらにSrCOを37.14kg、Taを56.13kg添加した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0058】
[実施例11]
実施例1のそれぞれの原料の重量を表1に示したとおりに変更し、さらにSrCOを25.88kg、Taを56.13kg添加した以外は、実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0059】
[比較例1]
「2.一次粉砕」で、原料と共に、10重量%の塩酸を0.44kg投入した以外は実施例1と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0060】
[比較例2]
「2.一次粉砕」で、原料と共に、10重量%の塩酸を0.44kg投入した以外は実施例5と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0061】
[比較例3]
「2.一次粉砕」で、原料と共に、10重量%の塩酸を0.44kg投入した以外は実施例7と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0062】
[比較例4]
「2.一次粉砕」で、原料と共に、10重量%の塩酸を0.44kg投入した以外は実施例9と同じ方法でリチウムランタンチタン酸化物焼結体を作製した。得られたリチウムランタンチタン酸化物焼結体の単相化率、リチウムイオン伝導度を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
一次乾燥粉(混合粉)におけるClの濃度が550ppmを上回る比較例1〜4では、いずれもリチウムイオン伝導度が3.0×10−4Scm−1未満であった。これに対して、一次乾燥粉(混合粉)におけるClの濃度が550ppm以下の実施例1〜11では、リチウムイオン伝導度が3.0×10−4Scm−1以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造方法は、リチウム一次電池、リチウム二次電池の固体電解質、例えば全固体リチウムイオン電池の固体電解質やリチウム空気電池の固体電解質として利用できるリチウムランタンチタン酸化物焼結体を提供でき、有望である。