(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備え、前記ナットの内周面に形成された凹溝により前記ボール循環路が構成されているボールねじを製造する方法であって、前記ナットの内周面の一部を塑性加工により凹化させて前記ねじ溝及び前記凹溝を形成し、
加工工具が有する凸部を前記ナットの内周面に押圧することにより塑性加工して前記ナットの内周面に窪みを形成する操作を複数回行い、前記操作を複数回行うことにより形成される複数の前記窪みを線状に連続させて前記ねじ溝を形成することを特徴とするボールねじの製造方法。
前記加工工具は前記凸部を複数個有し、1回の前記操作により複数の前記窪みを形成し、複数の前記窪みを形成する前記操作を複数回行うことにより、前記ねじ溝を形成することを特徴とする請求項1に記載のボールねじの製造方法。
前記加工工具は前記凸部を1個有し、1回の前記操作により1個の前記窪みを形成し、1個の前記窪みを形成する前記操作を複数回行うことにより、前記ねじ溝を形成することを特徴とする請求項1に記載のボールねじの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るボールねじの製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態であるボールねじの断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図1に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
【0013】
すなわち、ボール9は、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至り、そこでボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてボール循環路11内を通り、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能であり、例えば金属(鋼等),セラミック,樹脂があげられる。
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール9がボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
【0014】
ここで、ナット5の内周面に形成されたねじ溝5aについて詳細に説明する。ナット5のねじ溝5aは、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を鍛造等の塑性加工により凹化させて形成した螺旋状の溝を、ねじ溝5aとしている。
次に、ボール循環路11について、
図1〜3を参照しながら詳細に説明する。ボール循環路11は、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を鍛造等の塑性加工により凹化させて形成した凹溝22を、ボール循環路11としている(軸方向に直交する平面で切断したナット5の部分断面図である
図2を参照)。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路11を構成する別部材は取り付けられていない。
【0015】
また、ボール循環路11(凹溝22)は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部が直線状となっており、これら両端部の間に位置する中間部が曲線状となっている。この中間部の両端と前記両端部とが滑らかに接続されていて、ナット5の中心から内周面を見た場合のボール循環路11(凹溝22)の全体形状は略S字状をなしている。ただし、これは一例であって、ボール循環路11の全体形状は、略S字状に限定されるものではない。
【0016】
このようなボール循環路11を備えていることから、
図3に示すように、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至ったボール9は、ボール循環路11の一方の端部内に入り、この端部と中間部との境界部分近傍からボール循環路11(中間部)に掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11の中間部を通ってねじ軸3のランド部3b(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部に至り、そこからボール転走路7の始点に戻される。
【0017】
なお、ボール循環路11の断面形状(ボール循環路11の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ねじ溝3a,5aの断面形状(ねじ溝3a,5aの長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)も、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。さらに、ボール循環路11とボール転走路7とは、滑らかに接続されている。すなわち、ボール9と凹溝22の内面との接点の軌跡と、ボール9とねじ溝5aの内面との接点の軌跡とが、滑らかに連続するように、ボール循環路11とボール転走路7とが接続されている。その結果、前記ボール通路内をボール9が滑らかに循環する。
【0018】
このような本実施形態のボールねじ1は、ナット5のねじ溝5a及びボール循環路11を構成する凹溝22がいずれも、ナット5の内周面の一部を塑性加工により凹化させて形成したものであるので、切削加工によりねじ溝5aを形成する従来のボールねじと比べて、生産性が高いことに加えて製造コストが低い。
このような本実施形態のボールねじ1の用途は特に限定されるものではないが、自動車部品,位置決め装置,機械等に好適に使用可能である。
【0019】
次に、本実施形態のボールねじ1の製造方法の一例を、
図4を参照しながら説明する。
図4は、本発明に係るボールねじの製造方法の第一実施形態を説明する図であり、ブランクの一部分の図示を省略した斜視図である。
まず、図示しない円柱状の鋼製素材を冷間鍛造等の塑性加工により加工し、ナット5と略同一形状(略円筒形状)のブランク21を得た(粗成形工程)。このとき、塑性加工により、ブランク21の外周面にフランジも形成される。
【0020】
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす例えば略S字状の凹溝22を形成した(ボール循環路形成工程)。
凹溝22を形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、凹溝22に対応する形状の凸部を有する金型(図示せず)を、例えば円筒形状の受型(図示せず)の内部に収容されたブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型の凸部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型を強く押圧することにより塑性加工(鍛造)して、凹溝22を形成することができる。
【0021】
例えば、カムドライバ(図示せず)と、凹溝22に対応する形状の凸部を有するカムスライダ(図示せず)と、を有するカム機構の金型を用いて、凹溝22を形成してもよい。詳述すると、ブランク21内にカムドライバとカムスライダを挿入し、そのときカムスライダは、ブランク21とカムドライバとの間に配置するとともに、その凸部をブランク21の内周面に向けて配置する。ブランク21内に配されたカムスライダとカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型のカム機構を構成している。
【0022】
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダの凸部がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、鍛造によりブランク21の内周面に凹溝22が形成される。
【0023】
次に、凹溝22が形成されたブランク21の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ボール循環路11(凹溝22)の両最端部と接続するように螺旋状のねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。
ねじ溝5aを形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、ねじ溝5aの形状に対応する線状形状でねじ溝5aよりも短い凸部31を有する金型30(本発明の構成要件である加工工具に相当する)をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型30の凸部31を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型30を強く押圧することにより塑性加工(鍛造)する。すると、ブランク21の内周面に、凸部31の形状に対応する形状の窪み33が形成される。
【0024】
凸部31の形状は、ねじ溝5aの形状に対応する線状形状でねじ溝5aよりも短いので、ブランク21の中心から内周面を見た場合の窪み33の形状は略長方形をなしている。また、凸部31の断面形状(凸部31の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、ねじ溝5aの断面形状(ねじ溝5aの長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)に対応する形状、すなわち、円弧状(単一円弧状)又はゴシックアーク状となっているので、窪み33の断面形状(窪み33の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)も円弧状(単一円弧状)又はゴシックアーク状をなしている。
【0025】
金型30は凸部31を1個有しているので、前述した金型30の押圧を1回行うことにより1個の窪み33が形成される。よって、この窪み33を形成する操作を、各窪み33が線状に連続するように複数回行えば、ねじ溝5aを形成することができる。最初の窪み33Aの形成は凹溝22の一端に連続するように行い、2個目の窪み33Bの形成は最初の窪み33Aの端部に連続するように行って、溝を線状に延ばしていくように順次窪み33を形成していき、最後に凹溝22の他端に連続するように窪み33を形成すれば、完全に閉じた1つの回路が凹溝22とねじ溝5aとにより形成される(
図5を参照)。
【0026】
もちろん、複数の窪み33が最終的に線状に連続してねじ溝5aが形成されるならば、複数の窪み33を、溝を線状に延ばしていくように順次形成するのではなく、ランダムな順序で形成してもよい。
また、凹溝22を形成した後にねじ溝5aを形成してもよいが、これとは逆に、ねじ溝5aを形成した後に凹溝22を形成してもよい。
【0027】
さらに、完全に閉じた1つの回路によって前記ボール通路が構成されるため、循環するボール9に玉詰まりが生じにくい。このボール通路は、ブランク21の内周面に1個形成してもよいし、軸方向に複数個並べて形成してもよい。
さらに、窪み33を形成する金型30は、
図4に示すように、カムドライバ(図示せず)と、凸部31を有するカムスライダ35と、を有するカム機構の金型でもよい。カムスライダ35は略棒状の部材であり、一端に凸部31を備え、他端に傾斜面37を備えている。そして、カムスライダ35は、その凸部31をブランク21の内周面に向けて配置されている。一方、カムドライバは、カムスライダ35の傾斜面37に対向する傾斜面を備えている。カムスライダ35とカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型30のカム機構を構成している。
【0028】
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダ35がブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダ35の傾斜面37に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダ35を径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダ35の凸部31がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、鍛造によりブランク21の内周面に窪み33が形成される。
【0029】
この金型30は、ねじ又はボールねじを介して駆動装置39で駆動することにより、ブランク21の周方向に回転しつつブランク21の軸方向に移動することが可能となっている。駆動装置39としては、例えばサーボモータ、ロータリーアクチュエータ、回転式油圧シリンダがあげられる。駆動装置39を駆動すれば、ねじ又はボールねじの機能により、金型30の凸部31を周方向に回転移動させつつ、回転角に対応するリード量だけ軸方向に移動させることができる。よって、金型30の凸部31を前記のように移動させつつ窪み33を順次形成していけば、螺旋状のねじ溝5aを形成することができる。ただし、金型30は移動させず、ブランク21の方を移動させてもよい。
【0030】
最後に、所望の条件で浸炭,浸炭窒化,焼入れ,焼戻し,高周波焼入れ等の熱処理をブランク21に施し、さらに所望によりねじ溝5a等に研削仕上げを施すことにより、ナット5が得られた。熱処理が浸炭又は浸炭窒化である場合は、ナット5の材質は、炭素の含有量が0.10〜0.25質量%のクロム鋼又はクロムモリブデン鋼(例えばSCM420,SCM415)であることが好ましく、熱処理が高周波焼入れである場合は、炭素の含有量が0.4〜0.6質量%の炭素鋼(例えばS53C,SAE4150)であることが好ましい。
【0031】
このようにして製造されたナット5と、慣用の方法により製造されたねじ軸3及びボール9とを組み合わせて、ボールねじ1を製造した。
このようにして製造されたボールねじ1は、前述したように、ナット5のねじ溝5a及びボール循環路11を構成する凹溝22がいずれも、ナット5の内周面の一部を塑性加工により凹化させて形成したものであるので、切削加工によりねじ溝5aを形成する従来のボールねじと比べて、生産性が高いことに加えて製造コストが低い。
【0032】
また、ねじ溝形成工程を塑性加工(鍛造)により行ったので、ナット5のねじ溝5aが加工硬化により強化されている。
さらに、上記のような塑性加工でねじ溝5aを形成すると、ねじ溝5aを形成した際に生じた余肉が移動して、径方向内方に突出する突起がねじ溝5aの周囲に生じる場合がある。すなわち、ナット5の内周面のうちねじ溝5aの両縁部に、ねじ溝5aに沿う線状の突起が生じる場合がある。この突起により、ボール9がねじ溝5aに保持されやすくなるため、ねじ軸3のねじ溝3aの深さを浅くすることが可能である。一方、ブランク21の外周面のうちねじ溝5aを形成する部分に対応する部分に、予め凹部を形成しておき、塑性加工でねじ溝5aを形成した際に生じた余肉が流れ込む逃げ部を設けておけば、上記突起は生じにくい。この場合には、ボールねじ1が低トルク化される、潤滑油を保持しやすくなるなどのメリットがある。
【0033】
さらに、前述の粗成形工程、ボール循環路形成工程、及びねじ溝形成工程を塑性加工(鍛造)により行ったので、このボールねじ1の製造方法は、材料歩留まりが高いことに加えて、高精度のボールねじを安価に製造することができる。さらに、塑性加工(鍛造)により製造するため、鋼製素材が有するメタルフロー(鍛流線)がほとんど切断されないので、高強度のナット5が得られる。
【0034】
凹溝22及びねじ溝5aを形成する塑性加工の種類は特に限定されるものではないが、鍛造が好ましく、特に冷間鍛造が好ましい。熱間鍛造を採用することも可能であるが、冷間鍛造は熱間鍛造に比べて高精度な仕上げが可能であるので、後加工を施さなくても十分に高精度なナット5を得ることができる。よって、ボールねじ1を安価に製造することができる。粗成形工程、ボール循環路形成工程、及びねじ溝形成工程における塑性加工を全て冷間鍛造とすることが好ましいが、いずれか1つ又は2つの工程における塑性加工を冷間鍛造としてもよい。
【0035】
なお、ボール循環路形成工程及びねじ溝形成工程においては、凹溝22及び窪み33の形成される周方向位置は精密に制御される必要があるので、各工程において位相合わせが必要となる。位相合わせの方法としては、ブランク21の軸方向一端面に位相合わせ用の凹部を設けるとともに、この位相合わせ用の凹部に係合する凸部を受型に設けて、これら凹部と凸部とを係合させつつブランク21を受型に収容する方法があげられる。
【0036】
〔第二実施形態〕
本発明に係るボールねじの製造方法の第二実施形態を、
図6〜8を参照しながら説明する。
図6は、第二実施形態の製造方法を説明する断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。また、
図7は、第二実施形態の製造方法の第一の溝加工工程を説明する図であり、
図8は、第二実施形態の製造方法の第二の溝加工工程を説明する図である。
第二実施形態のボールねじの製造方法の構成、動作、及び作用効果等には、第一実施形態と同様の部分もあるので、同様の部分の説明は省略し、異なる部分のみ説明する。なお、
図6〜8においては、
図1〜5と同一又は相当する部分には、
図1〜5と同一の符号を付してある。
【0037】
第一実施形態においては、ねじ溝形成工程で使用する金型30は、1個の凸部31を有するものであったが、第二実施形態においては、金型30は複数個(
図6〜8に示す例では3個又は4個)の凸部31を有している。
まず、第一実施形態と同様にして製造したブランク21の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす例えば略S字状の凹溝22と、ねじ溝5aを形成するための複数の窪み33のうち一部とを形成した(第一の溝加工工程)。
【0038】
この第一の溝加工工程において使用する金型30は、
図6,7に示すように、ねじ溝5a(窪み33)を形成するための凸部31を3個有するとともに、凹溝22を形成するための凹溝22に対応する形状の凸部41を1個有している。凸部31の形状は、ねじ溝5aの形状に対応する線状形状でねじ溝5aよりも短い。詳述すると、略円柱状の部材に、第一実施形態と同様のカムスライダが4個設けられており、そのうち1個のカムスライダが凹溝22に対応する形状の凸部41を有し、残り3個のカムスライダがねじ溝5aの形状に対応する形状の凸部31を有している。そして、これら4個のカムスライダは、それぞれ90°の位相差を有しつつ周方向に等配に配置されている。また、凸部31を有する3個のカムスライダは、軸方向位置がそれぞれ異なっている。
【0039】
よって、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、カム機構により4個のカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。その結果、カムスライダの凸部31及び凸部41がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、鍛造によりブランク21の内周面に凹溝22及び3個の窪み33が同時に形成される。なお、凸部31の個数は3個に限定されないことは勿論である。
【0040】
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ねじ溝5aを形成するための複数の窪み33のうち残部を形成して、第一の溝加工工程において形成されていた凹溝22及び窪み33を全て線状に連続させてねじ溝5aを形成した(第二の溝加工工程)。
この第二の溝加工工程において使用する金型30は、
図8に示すように、ねじ溝5a(窪み33)を形成するための凸部31を4個有する。凸部31の形状は、ねじ溝5aの形状に対応する線状形状でねじ溝5aよりも短い。詳述すると、略円柱状の部材に、第一実施形態と同様のカムスライダが4個設けられており、各カムスライダが凸部31を有している。そして、これら4個のカムスライダは、それぞれ90°の位相差を有しつつ周方向に等配に配置されているとともに、軸方向位置がそれぞれ異なっている。
【0041】
よって、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、カム機構により4個のカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。その結果、カムスライダの凸部31がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、鍛造によりブランク21の内周面に4個の窪み33が同時に形成される。
この4個の窪み33により、第一の溝加工工程において形成されていた凹溝22及び窪み33が全て線状に連続されて、ねじ溝5aとなる。すなわち、3個の窪み33を形成する操作(第一の溝加工工程)と4個の窪み33を形成する操作(第二の溝加工工程)とを続けて行うことによってねじ溝5aが形成され、
図5と同様の完全に閉じた1つの回路が凹溝22とねじ溝5aとにより形成された。なお、第二の溝加工工程において使用する金型30に設けられる凸部31の個数が4個に限定されないことは勿論である。また、本実施形態においては、第一の溝加工工程及び第二の溝加工工程の2回の操作で全ての窪み33を形成したが、3回以上の操作で形成してもよい。
【0042】
なお、第一の溝加工工程及び第二の溝加工工程においては、凹溝22及び窪み33の形成される周方向位置は精密に制御される必要があるので、各溝加工工程において位相合わせが必要となる。位相合わせの方法としては、ブランク21の軸方向一端面に位相合わせ用の凹部を設けるとともに、この位相合わせ用の凹部に係合する凸部を受型に設けて、これら凹部と凸部とを係合させつつブランク21を受型に収容する方法があげられる。
【0043】
また、凹溝22については、上記のようにして窪み33と同時に形成しなくても差し支えなく、第一実施形態と同様の方法により窪み33とは別途形成してもよい。この場合には、最初に凹溝22を形成した後に全ての窪み33を形成して前記回路を完成させてもよいし、全ての窪み33を形成した後に最後に凹溝22を形成して前記回路を完成させてもよい。そして、窪み33の形成には、第一の溝加工工程で用いた金型30は凸部41を備えているため使用できないので、例えば、第一の溝加工工程で用いた金型30から凹溝22に対応する形状の凸部41を有するカムスライダを省いた金型、及び、第二の溝加工工程で用いた金型30と同様の金型を用いて、複数の操作で全ての窪み33を形成すればよい。
【0044】
さらに、上記の例のように、ボール通路が8個の溝(凹溝22及び7個の窪み33)で形成される場合には、これら8個の溝の周方向長さ(ナット5の周方向に沿う方向の長さ)は全て同一(全周の1/8に相当する周方向長さ)であることが好ましいが、凹溝22の周方向長さは、全周の1/8に相当する周方向長さであるとは限らない。例えば、凹溝22の周方向長さが全周の1/8に相当する周方向長さよりも短い場合には、凸部41の形状は以下のようにするとよい。
【0045】
すなわち、凹溝22の両端にねじ溝5aが連続する必要があるので、凸部41の形状は、短い凹溝22に対応する形状の短い凸部の両端に、窪み33と同一の断面形状の短い窪みを形成する凸部を連続して設けた形状にするとよい。そして、短い凹溝22に対応する形状の短い凸部と、両端の短い窪みを形成する凸部とを合わせた周方向長さが、全周の1/8に相当する周方向長さとなるように、短い窪みを形成する凸部の周方向長さを設定すればよい。もちろん、これに代えて、凹溝22の周方向長さに合わせて、凸部41の周方向長さを設定し、これに対応するように一部又は全部の凸部31の周方向長さを変えてもよい。
【0046】
さらに、第二実施形態において使用される2つの金型30はいずれも、第一実施形態において使用される金型30よりもやや大型となるので、第二実施形態の方法は比較的大径のボールねじの製造に好適であり、第一実施形態の方法は比較的小径のボールねじの製造に好適である。
さらに、完全に閉じた1つの回路によって構成されるボール通路は、ブランク21の内周面に1個形成してもよいし、軸方向に複数個並べて形成してもよい。ボール通路を複数個形成する場合には、前述の第一の溝加工工程及び第二の溝加工工程を異なる軸方向位置でそれぞれ行えばよい。あるいは、
図9に示すような金型30を用いれば、各ボール通路に対応する凸部31が異なる軸方向位置に設けられているので、加工を施す軸方向位置を変える作業を行うことなく、複数のボール通路を同時に形成することができる。
図9には、一例として、ボール通路を軸方向に2個並べて形成する場合に使用する金型を示す。
図9に示す金型30を用いる方法は、各ボール通路間のピッチが比較的大きいボールねじの製造に好適である。
【0047】
〔第三実施形態〕
本発明に係るボールねじの製造方法の第三実施形態を、
図10を参照しながら説明する。第三実施形態のボールねじの製造方法の構成、動作、及び作用効果等には、第一実施形態と同様の部分もあるので、同様の部分の説明は省略し、異なる部分のみ説明する。なお、
図10においては、
図1〜5と同一又は相当する部分には、
図1〜5と同一の符号を付してある。
第一及び第二実施形態においては、ねじ溝形成工程で使用する金型30は凸部31を有するものであったが、第三実施形態においては、金型30は円盤状のローラー45(本発明の構成要件である円盤状部材に相当する)を有している。
【0048】
詳述すると、第三実施形態の金型30は、ローラー45と、ブランク21の軸に対してリード角分だけ傾斜した傾斜軸まわりに回転可能にローラー45を支持する支持台48と、図示しない機構(例えばカムスライダ機構)により径方向に移動可能に支持台48が取り付けられた回転昇降台47と、を有している。
まず、第一実施形態と同様にして粗成形工程及びボール循環路形成工程を行い、凹溝22を有するブランク21を得た。次に、金型30を用いて、ブランク21の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ボール循環路11(凹溝22)の両最端部と接続するように螺旋状のねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。
【0049】
ねじ溝5aを形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、円盤状のローラー45を有する金型30をブランク21内に挿入し、支持台48を径方向外方に移動させて、ブランク21の内周面にローラー45の周縁部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型30を強く押圧することにより塑性加工(鍛造)する。すると、ブランク21の内周面に、ローラー45の周縁部の形状に対応する形状の窪みが形成される。
【0050】
そして、ブランク21の内周面に向かって金型30を強く押圧した状態を保ちつつ、円盤状のローラー45の中心軸を回転軸としてローラー45を回転させながら金型30を移動させる。すると、ローラー45の周縁部より連続的に塑性加工がなされ、ブランク21の内周面の一部が螺旋状に凹化されてねじ溝5aが形成される。
この金型30は、ねじ又はボールねじを介して駆動装置39で駆動することにより、ブランク21の周方向に回転しつつブランク21の軸方向に移動することが可能となっている。駆動装置39としては、例えばサーボモータ、ロータリーアクチュエータ、回転式油圧シリンダがあげられる。よって、駆動装置39を駆動すれば、ねじ又はボールねじの機能により、金型30を周方向に回転移動させつつ、回転角に対応するリード量だけ軸方向に移動させることができる。よって、金型30を前記のように移動させつつローラー45を回転させて塑性変形を行えば、螺旋状のねじ溝5aを形成することができる。ただし、金型30は移動させず、ブランク21の方を移動させてもよい。
【0051】
ローラー45の周縁部の断面形状(ローラー45の周方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、ねじ溝5aの断面形状(ねじ溝5aの長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)が円弧状(単一円弧状)又はゴシックアーク状となるように、略円弧状(単一円弧状)又は略ゴシックアーク状となっている。
なお、凹溝22を形成した後にねじ溝5aを形成してもよいが、これとは逆に、ねじ溝5aを形成した後に凹溝22を形成してもよい。
【0052】
〔第四実施形態〕
本発明に係るボールねじの製造方法の第四実施形態を説明する。第四実施形態のボールねじの製造方法の構成、動作、及び作用効果等は、第三実施形態とほぼ同様であるので、同様の部分の説明は省略し、異なる部分のみ説明する。
第三実施形態においては、ねじ溝形成工程で使用する金型30はローラー45を有するものであったが、第四実施形態においては、金型30はボール(本発明の構成要件である球状部材に相当する)を有している。
まず、第一実施形態と同様にして粗成形工程及びボール循環路形成工程を行い、凹溝22を有するブランク21を得た。次に、図示しないボールを有する金型30を用いてブランク21の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ボール循環路11(凹溝22)の両最端部と接続するように螺旋状のねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。
【0053】
ねじ溝5aを形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、ボールを有する金型30をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面にボールを接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型30を強く押圧することにより塑性加工(鍛造)する。すると、ブランク21の内周面に、ボールの形状に対応する球面状の窪みが形成される。そして、ブランク21の内周面に向かって金型30を強く押圧した状態を保ちつつ、ボールを回転させながら金型30を移動させることにより連続的に塑性加工して、ブランク21の内周面の一部を螺旋状に凹化させねじ溝5aを形成する。
【0054】
この金型30は、ねじ又はボールねじを介して駆動装置39で駆動することにより、ブランク21の周方向に回転しつつブランク21の軸方向に移動することが可能となっている。よって、駆動装置39を駆動すれば、ねじ又はボールねじの機能により、金型30を周方向に回転移動させつつ、回転角に対応するリード量だけ軸方向に移動させることができる。よって、金型30を前記のように移動させつつボールを回転させて塑性変形を行えば、螺旋状のねじ溝5aを形成することができる。ただし、金型30は移動させず、ブランク21の方を移動させてもよい。
【0055】
ボールの断面形状は円弧状(単一円弧状)となっているので、ねじ溝5aの断面形状(ねじ溝5aの長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)となる。
なお、凹溝22を形成した後にねじ溝5aを形成してもよいが、これとは逆に、ねじ溝5aを形成した後に凹溝22を形成してもよい。
【0056】
また、ボールを有する金型30は、仕上げ加工に転用することも可能である。すなわち、第一又は第二実施形態の方法で形成したねじ溝5aにボールを嵌め込み、ブランク21の内周面に向かって金型30を押圧した状態を保ちつつ、ボールを回転させながら金型30を移動させることにより、凹溝22と窪み33との境界部や窪み33と窪み33との境界部に形成される微小な段差を平坦化するための仕上げ加工、あるいは、ねじ溝5aの溝面全体の仕上げ加工を行うことも可能である。
【0057】
なお、これら第一〜第四実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は前記各実施形態に限定されるものではない。例えば、前記各実施形態のボールねじ1においては、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11をナット5に形成したナット循環方式のボールねじを例示したが、本発明は、ボール循環路11に相当するものをねじ軸に形成したねじ軸循環方式のボールねじにも適用可能である。