(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0024】
(1)全体構成
図1に示す本発明の実施形態に係る車両搭載エンジン1は、4サイクル火花点火式ガソリンエンジンであり、シリンダヘッド10及びシリンダブロック11を有する。前記エンジン1は、
図2に示すように、エンジン1の一端側から順に、1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、及び4番気筒12Dが形成されている。
図1に示すように、各気筒12A〜12Dの内部に、図示しないコネクティングロッドによりクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿され、前記ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。各気筒12A〜12Dのピストン13は、クランクシャフト3の回転に伴い、相互にクランク角で180°(180°CA)の位相差で上下に往復運動する。
【0025】
本実施形態では、1番気筒12A、3番気筒12C、4番気筒12D、2番気筒12Bの順に、吸気、圧縮、膨張、排気の各行程が行われる。
【0026】
シリンダヘッド10に点火プラグ15及び燃料噴射弁16が設けられている。前記点火プラグ15の電極は、燃焼室14の頂部で燃焼室14を臨んでいる。前記点火プラグ15は点火装置27で駆動される。前記燃料噴射弁16は、燃焼室14の側方から燃焼室14に燃料を直接噴射する。前記燃料噴射弁16は、図示しないニードル弁及びソレノイドを内蔵し、
図5に示すエンジン制御ユニット100から入力されるパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ開弁する。これにより、前記燃料噴射弁16の開弁時間に応じた量の燃料が前記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射される。
【0027】
シリンダヘッド10に、燃焼室14に開口する吸気ポート17及び排気ポート18が設けられている。前記吸気ポート17及び前記排気ポート18に吸気通路21及び排気通路22が接続され、前記吸気ポート17及び前記排気ポート18と燃焼室14との連結部分に吸気バルブ19及び排気バルブ20が配設されている。
【0028】
図2に示すように、吸気通路21は、上流側から順に、共通吸気通路21c、サージタンク21b、及び各気筒12A〜12D毎の独立吸気通路21aを含んでいる。前記共通吸気通路21cにスロットルボディ24が設けられ、前記スロットルボディ24に、各気筒12A〜12Dに流入する空気量を調整可能なスロットル弁24a、及び前記スロットル弁24aを駆動するアクチュエータ24bが備えられている。前記スロットルボディ24の近傍に、アイドリング回転速度制御装置(ISC:Idling Speed Control device)24cが配設されている。ISC24cは、
図5に示すエンジン制御ユニット100によって開弁量が変更可能な電磁駆動式のものである。スロットル弁24aの上流に、吸気流量を検出するエアフローセンサ25が配設され、スロットル弁24aの下流に、吸気圧力を検出する吸気圧センサ26が配設されている。
【0029】
図1に示すように、前記エンジン1は、タイミングベルト等の巻き掛け部材によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ28を具備している。前記オルタネータ28は、図示しないフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調整することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを有する。前記オルタネータ28は、
図5に示すエンジン制御ユニット100から前記レギュレータ回路28aに入力される制御信号に基き、
図5に示す車両電気負荷82や、図示しないバッテリの電圧等に対応した量の電気を発電する。
【0030】
図1に示すように、前記エンジン1は、エンジン1の始動に用いられるスタータ36を具備している。前記スタータ36は、電気モータ36a及びピニオンギア36dを有している。ピニオンギア36dの回転軸は、モータ36aの出力軸と同軸で、前記回転軸に沿って往復移動可能である。クランクシャフト3に図示しないフライホイールが連結され、前記フライホイールにリングギア35が固定されている。前記スタータ36を用いてエンジン1を始動するときは、ピニオンギア36dが所定の噛合位置に移動し、前記リングギア35に噛合することにより、クランクシャフト3が回転駆動(クランキング)される。
【0031】
前記スタータ36でエンジン1を始動させる形態は2つに大別される。1つは、運転者が
図5に示すイグニションキースイッチ(IGキースイッチ)38を操作してスタータ36を駆動させ、これによりエンジン1を始動させる形態である。これは「キー始動」と称される。もう1つは、アイドルストップ機能において、エンジン1の自動停止後の再始動時に、
図5に示すエンジン制御ユニット100が自動的にスタータ36を駆動させ、これによりエンジン1を始動させる形態である。これは「自動再始動」又は単に「再始動」と称される。
【0032】
図1に示すように、前記エンジン1は、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角度センサ30,31を具備している。一方のクランク角度センサ30から出力される検出信号(パルス信号)に基いてエンジン回転(すなわちエンジン回転数又はエンジン回転速度)が検出される。両クランク角度センサ30,31から出力される相互に位相のずれた検出信号(パルス信号)に基いてクランクシャフト3の回転角度が検出される。
【0033】
図1に示すように、前記エンジン1は、吸気側カムシャフトの回転位置を検出するカム角度センサ32、エンジン1の冷却水の温度を検出する水温センサ33、及び運転者のアクセル操作に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34を具備している。
【0034】
図3に示すように、本実施形態に係る車両は、エンジン1の出力軸(クランクシャフト3)が車体幅方向に延びるように配置されたエンジン横置きのフロントエンジン・フロントドライブ(FF)車両である。また、本実施形態に係る車両は、エンジン1の出力軸に自動変速機2が接続されたAT車両である。エンジン1の回転は、自動変速機2及び差動装置2aを介して左右の前輪4,5に伝達される。
【0035】
(2)ブレーキ系統
図3は、本実施形態に係る車両のブレーキ系統110の全体構成図である。次に、
図3を参照して、前記車両に搭載されたヒルホルダ機能を説明する。
【0036】
図3に示すように、本実施形態に係るブレーキ系統110は、運転者により踏込操作されるブレーキペダル111、前記ブレーキペダル111に入力された踏込力(ブレーキ踏込力)を助勢するブレーキブースタ112、前記ブレーキブースタ112に接続されて前記ブレーキ踏込力(ブレーキ踏込量)に応じたブレーキ油圧を生成するマスタシリンダ113、及び前記マスタシリンダ113に接続された2つの油圧回路114,115を含んでいる。
【0037】
前記マスタシリンダ113は、吐出口を2つ有するタンデム型である。前記油圧回路114,115は、クロス方式(X配管方式)である。前記油圧回路114,115は、マスタシリンダ113の各吐出口からそれぞれ延びて途中で2つに分岐し、一方の油圧回路114は、車両の右前駆動輪4及び左後従動輪7に設けられたキャリパ118に接続され、他方の油圧回路115は、車両の左前駆動輪5及び右後従動輪6に設けられたキャリパ118に接続されている。なお、油圧回路は、クロス方式に限らず、例えば、一方の油圧回路が左右の前輪に、他方の油圧回路が左右の後輪に接続される前後分割方式でもよい。
【0038】
前記油圧回路114,115上にヒルホールド制御弁116,117が配設されている。前記ヒルホールド制御弁116,117は、DCソレノイドを用いたノーマルオープン型のオンオフ電磁弁であり、電気が供給されない非通電時は油圧回路114,115を開き、電気が供給される通電時は油圧回路114,115を閉じる。ブレーキペダル111が踏み込まれ、各油圧回路114,115内のブレーキ油圧が高まっている状態で前記ヒルホールド制御弁116,117を閉じると、その後のブレーキペダル111の踏込量(ブレーキ踏込量)に拘わらず、前記ヒルホールド制御弁116,117と前記キャリパ118との間の油圧回路114,115(「下流側回路」という)内のブレーキ油圧が保持され、キャリパ118による車輪4〜7のディスク挟圧力が保持され、車両の制動力が保持される。これにより、車両が坂道にあるときにアイドルストップ機能が作動してエンジン1が自動停止した場合の車両のずり下がりが防止される。これがヒルホルダ機能である。このヒルホルダ機能により、自動停止中のエンジン1が再始動したときの車両の飛び出しも防止できる。これは特に発進補助機能(SLA:Smart Launch Assistance)と称される。
【0039】
(3)ヒルホルダ機能とアイドルストップ機能との関係
本実施形態に係るヒルホルダ機能の動作とアイドルストップ機能の動作とを絡めて説明する。
【0040】
運転者がブレーキペダル111を踏み込んだ状態で車速が略ゼロになる等、自動停止条件が成立すると、アイドルストップ機能が作動して、エンジン1が自動停止する。また、アイドルストップ機能が作動すると、ヒルホールド制御弁116,117が閉じられ、ヒルホルダ機能が作動して、車両の制動力が保持される。
【0041】
この状態で、運転者がブレーキペダル111の踏込力を緩め、前記マスタシリンダ113と前記ヒルホールド制御弁116,117との間の油圧回路114,115(「上流側回路」という)内のブレーキ油圧が、所定の自動停止解除油圧以下になると、アイドルストップ機能が解除されて、エンジン1が再始動する。前記上流側回路内のブレーキ油圧が、さらに、ヒルホルダ解除油圧以下になると、ヒルホルダ機能が解除されて、ヒルホールド制御弁116,117が開けられ、車両の制動力が解放される。このように、アイドルストップ機能が解除される時点では、ヒルホルダ機能がまだ作動しているので、エンジン1が再始動したときの車両の飛び出しが防止される。そして、運転者がアクセルペダル(図示せず)を踏み込んで発進する頃までには、ヒルホルダ機能が解除されて、車両は引きずり感なく良好に発進する。そのため、アイドルストップ機能の解除の判定に用いる前記自動停止解除油圧は、ヒルホルダ機能の解除の判定に用いる前記ヒルホルダ解除油圧よりも高い油圧に設定されている。
【0042】
図4に示すように、ブレーキ踏込量とブレーキ油圧とは相関関係にある。基本的に、ブレーキ踏込量の増大に伴いブレーキ油圧が増大する。ここで、前記ブレーキ油圧は、前記マスタシリンダ113と前記ヒルホールド制御弁116,117との間の油圧回路114,115内のブレーキ油圧、すなわち上流側回路内のブレーキ油圧である。
【0043】
アイドルストップの作動前、運転者がブレーキペダル111を踏み込むと、矢印(i)で示すように上流側回路内のブレーキ油圧が増大し、アイドルストップ機能が作動する。仮に、ヒルホルダ機能が作動しない場合、運転者がブレーキペダル111の踏込力を緩めると、矢印(ii)で示すように、前記ブレーキ油圧は、最初多少のヒステリシスを伴うものの、相対的に緩やかに低下する。そして、前記ブレーキ油圧が前記自動停止解除油圧α以下になった時点でアイドルストップ機能が解除される。これに対し、ヒルホルダ機能が作動する場合は、運転者がブレーキペダル111の踏込力を緩めると、矢印(iii)で示すように、上流側回路内のブレーキ油圧は、最初相対的に急激に低下する。そして、前記ブレーキ油圧が前記自動停止解除油圧α以下になった時点でアイドルストップ機能が解除され、さらに前記ヒルホルダ解除油圧β以下になった時点でヒルホルダ機能が解除される。
【0044】
したがって、ヒルホルダ機能が作動する場合は、作動しない場合(ヒルホルダ機能を搭載しない場合を含む)に比べて、ブレーキ踏込量が少し減っただけで、上流側回路内のブレーキ油圧が大きく低下し、前記自動停止解除油圧α以下になる可能性が大きくなり、エンジン1が再始動する可能性が大きくなる。ヒルホルダ機能が作動する場合は、作動しない場合に比べて、上流側回路内のブレーキ油圧がブレーキ操作に対してより大きく変動する理由は、上流側回路(マスタシリンダ113とヒルホールド制御弁116,117との間の油圧回路114,115)内に存在するブレーキオイルの量が、上流側回路内と下流側回路(ヒルホールド制御弁116,117とキャリパ118との間の油圧回路114,115)内とに存在するブレーキオイルの量よりも少ないため、ブレーキ油圧の変動がより鋭敏となるからである。
【0045】
上流側回路(マスタシリンダ113とヒルホールド制御弁116,117との間の油圧回路114,115)内のブレーキ油圧は、
図5に示すブレーキ油圧センサ40(ブレーキ油圧検出手段)により検出される。
【0046】
(4)制御系
(4−1)システム構成
図5は、本実施形態に係る車両のエンジン制御ユニット100を中心とする制御システム図である。
【0047】
エンジン制御ユニット100は、前述した、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角度センサ30,31、カム角度センサ32、水温センサ33、アクセル開度センサ34、及びIGキースイッチ38等から信号を入力する。エンジン制御ユニット100は、さらに、車両の車速を検出する車速センサ39、及び選択されたレンジを検出するレンジセンサ41等からも信号を入力する。
【0048】
エンジン制御ユニット100は、前述した、燃料噴射弁16、スロットル弁24aのアクチュエータ24b、点火装置27、オルタネータ28、スタータ36、及び車両電気負荷82等に制御信号を出力する。エンジン制御ユニット100は、さらに、アイドルストップ可能表示ランプ85等にも制御信号を出力する。
【0049】
前記アイドルストップ可能表示ランプ85(報知手段)は、
図6に示すように、運転席の前方のインスツルメントパネル9に配置されている。このランプ85が点灯することにより、ブレーキの踏込操作をすることによりエンジン1を自動停止させること(すなわちアイドルストップ)が可能であることが運転者に報知される。
【0050】
図5に戻り、エンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース、及びこれらを接続するバスを有するマイクロプロセッサで構成されている。エンジン制御ユニット100は、燃焼制御部101、ピストン位置判定部102、スタータ制御部103、電気負荷制御部105、及びアイドルストップ制御部106を論理的に構成している。
【0051】
燃焼制御部101は、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角度センサ30,31、カム角度センサ32、水温センサ33、及びアクセル開度センサ34からの信号に基き、エンジン1の適正なスロットル開度(吸気量)、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、及び点火時期を設定し、その制御信号を燃料噴射弁16、スロットル弁24aのアクチュエータ24b、点火装置27に出力する。
【0052】
ピストン位置判定部102は、クランク角度センサ30,31からの信号に基き、ピストン13の位置を演算し、エンジン1が自動停止しているときの各ピストン13の停止位置を判定する。
【0053】
スタータ制御部103は、キー始動及びエンジン1の再始動において、スタータ36に制御信号を出力し、スタータ36を駆動させる。
【0054】
電気負荷制御部105は、運転者や搭乗者のスイッチ操作に基いて、又は自動的に、車両電気負荷82を作動させ、又は車両電気負荷82の作動状態を変化させる。車両電気負荷82は、例えば、エアバッグコントロールユニット、電子油圧式パワーステアリングコントロールユニット、ナビゲーションシステム、オーディオ、各種メータ類、各種ライト、デフォッガ等が挙げられる。電気負荷制御部105は、スタータ36の駆動時に、スタータ36への電力供給をより多く確保するために、必要に応じて車両電気負荷82への電力供給を制限する。
【0055】
アイドルストップ制御部106は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジン1を再始動させるアイドルストップ機能を実現する。
【0056】
本実施形態では、前述したブレーキ系統110を用いてヒルホルダ機能を実現するヒルホルダ制御ユニット200がエンジン制御ユニット100に付設されている。エンジン制御ユニット100とヒルホルダ制御ユニット200とは、相互に信号を交換可能に電気的に接続されている。
【0057】
ヒルホルダ制御ユニット200は、前述した、クランク角度センサ30,31、及びブレーキ油圧センサ40等から信号を入力し、前述したヒルホールド制御弁116,117等に制御信号を出力する。ヒルホルダ制御ユニット200は、クランク角度センサ30,31からの信号に基き、エンジン回転を認識し、ブレーキ油圧センサ40からの信号に基き、ブレーキ系統110における上流側回路(マスタシリンダ113とヒルホールド制御弁116,117との間の油圧回路114,115)内のブレーキ油圧を認識する。
【0058】
エンジン制御ユニット100は、特許請求の範囲の「停止制御手段」及び「再始動制御手段」を構成し、ヒルホルダ制御ユニット200は、特許請求の範囲の「ヒルホルダ手段」を構成する。
【0059】
(4−2)特徴的動作
前記エンジン制御ユニット100が行う特徴的動作を説明する。
図7は、本実施形態に係るアイドルストップ機能の1シーンにおけるタイムチャートである。
【0060】
運転者がブレーキペダル111を踏み込んだ状態で車速が略ゼロになる等、自動停止条件が成立すると(時点t1)、アイドルストップ機能が作動して(時点t2)、エンジン1が自動停止する(時点t3)。また、ヒルホルダ機能も作動する。
【0061】
このエンジンの自動停止中に、例えば運転者が姿勢を変えた拍子にブレーキ踏込力が緩み、上流側回路内のブレーキ油圧が前記自動停止解除油圧α以下になって(時点t4)、アイドルストップ機能が解除され、エンジン1が再始動したとする。従来のアイドルストップ機能では、渋滞中に車両が停止する度にエンジン1が停止する煩わしさや、右折待ちで右折のタイミングを計っているときにエンジン1が停止する不便さを解消するために、いったんエンジン1が再始動した後は、車両が所定車速(例えば3km/h)以上で走行しない限り、一律に、エンジン1の自動停止を規制していた。しかし、この場合のように、運転者に発進や加速の意図がないのに、思わずエンジン1が再始動してしまったときは、渋滞や信号待ちあるいは踏切待ち等が解消するまでエンジン1が意に反して稼動し続けることになり、アイドルストップの意義が損なわれていた。
【0062】
そこで、本実施形態では、意図せずエンジン1が再始動したときは、運転者は車両の動き出しを防ぐために自然とブレーキを相対的に大きく、速く踏込操作する傾向があることに着目し、エンジン1の再始動後に、少なくとも、ブレーキ踏込量が所定の自動停止許可踏込量以上になったとき(上流側回路内のブレーキ油圧が所定の自動停止許可油圧以上になったとき)、又は、ブレーキ踏込速度が所定の自動停止許可踏込速度以上になったとき(上流側回路内のブレーキ油圧の増大速度が所定の自動停止許可増大速度以上になったとき)は(時点t5)、運転者に発進や加速の意図がないのにエンジン1が再始動してしまったものと認め、車両が所定車速以上で走行しなくても、車両が停止状態(車速がゼロの状態だけでなく車両がクリープ力で微小速度で動いている状態を含む)のままで、エンジン1の自動停止を許可するようにしたものである。これにより、運転者の幅広い要求にさらに良好に応えることが可能で、商品性に優れたアイドルストップ機能が実現される。
【0063】
(4−3)制御動作
次に、フローチャートを参照して、エンジン制御ユニット100が行うアイドルストップ制御の具体的動作を説明する。なお、一部にヒルホルダ制御ユニット200の制御動作も記す。
【0064】
[自動停止制御]
エンジン1の自動停止制御は、
図8に示すフローチャートに従って実行される。この制御が開始すると、エンジン制御ユニット100は、ステップS1で、各種センサ値を読み込んだ後、ステップS2で、エンジン1の自動停止条件が成立したか否かを判定する。
【0065】
本実施形態では、エンジン制御ユニット100は、IGキースイッチ38がオンであること、Dレンジ等の走行レンジが選択されていること、車速が所定車速以下(車速がゼロの状態や車両がクリープ力で動いている状態を含む)であること、及びブレーキ踏込量が所定の踏込量以上(上流側回路内のブレーキ油圧が所定の油圧以上)であることの全てが満足されたときに、前記自動停止条件が成立したと判定する。ここで、前記ブレーキ踏込量の所定の踏込量(前記ブレーキ油圧の所定の油圧)は、
図7のタイムチャートの説明の際に述べた前記自動停止許可踏込量(前記自動停止許可油圧)と同じでも異なっていてもよい。
【0066】
その結果、前記自動停止条件が成立したと判定したとき(時点t1)は、エンジン制御ユニット100は、ステップS3で、燃料噴射弁16からの燃料噴射を停止する燃料カットを開始する(時点t2)と共に、主として掃気のためにスロットル弁24aを開弁する(スロットル弁24aの開度をそれまでの開度よりも大きくする)。
【0067】
次いで、エンジン制御ユニット100は、ステップS4で、エンジン回転が所定回転以下か否かを判定する。その結果、エンジン回転が所定回転以下と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS5で、スロットル弁24aを閉弁する(スロットル弁24aの開度をそれまでの開度よりも小さくする)。
【0068】
次いで、エンジン制御ユニット100は、ステップS6で、エンジン1が完全に停止したか否かを判定する。その結果、エンジン1が完全に停止したと判定したとき(時点t3)は、エンジン制御ユニット100は、ステップS7で、クランク角度センサ30,31からの信号に基き、各ピストン13の停止位置を記憶する。そして、この制御が終了する。
【0069】
[再始動制御]
エンジン1の再始動制御及びそれに続く制御は、
図9〜
図11に示すフローチャートに従って実行される。この制御が開始すると、エンジン制御ユニット100は、ステップS11で、各種センサ値を読み込んだ後、ステップS12で、エンジン1の再始動条件が成立したか否かを判定する。
【0070】
本実施形態では、エンジン制御ユニット100は、IGキースイッチ38がオンであること、Dレンジ等の走行レンジが選択されていること、車速が所定車速以下であること、及びブレーキ踏込量が所定の自動停止解除踏込量以下(上流側回路内のブレーキ油圧が前記自動停止解除油圧α以下)であることの全てが満足されたときに、前記再始動条件が成立したと判定する。
【0071】
その結果、前記再始動条件が成立したと判定したとき(時点t4)は、エンジン制御ユニット100は、ステップS13で、再始動制御を実行する。
【0072】
この再始動制御は、
図10に示すフローチャートに従って実行される。この制御が開始すると、エンジン制御ユニット100は、ステップS31で、停止時膨張行程気筒(エンジン1の自動停止中に膨張行程にある気筒のこと)にピストン13の停止位置を考量して設定した量の燃料を噴射し、ステップS32で、スタータ36を駆動させ、ステップS33で、噴射した燃料の気化時間を考慮して設定したタイミングで前記停止時膨張行程気筒に対して点火を行う。
【0073】
次いで、エンジン制御ユニット100は、ステップS34で、順次他の気筒に対して圧縮行程で継続して燃焼を行い、ステップS35で、エンジン回転が完爆回転(エンジン1が完爆したと認められる回転のこと)以下の所定回転(例えば500rpm)以上か否かを判定する。その結果、エンジン回転が完爆回転以下の所定回転以上と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS36で、スタータ36を停止させる。そして、この制御が終了する。
【0074】
エンジン制御ユニット100が行う前記ステップS11〜S13により、エンジン1の自動停止後、ブレーキペダル111の踏込量が所定の自動停止解除踏込量以下になったという要件を少なくとも含む再始動条件が成立したときに、エンジン1を自動的に始動させる再始動制御手段が提供される。
【0075】
図9に戻り、次いで、ヒルホルダ制御ユニット200は、ステップS14で、ヒルホルダ機能を解除するため、ヒルホールド制御弁116,117を開いて、ブレーキ油圧をリリース(解放)する。
【0076】
次いで、エンジン制御ユニット100は、ステップS15で、車速が所定車速(例えば3km/h)以上か否かを判定する。つまり、車両が所定車速以上で走行しているか否かを判定するのである。
【0077】
その結果、車速が所定車速以上と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS16で、車両が停止状態(車速がゼロの状態だけでなく車両がクリープ力で微小速度で動いている状態を含む)か否かを判定する。
【0078】
その結果、車両が停止状態と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS17で、上流側回路内のブレーキ油圧が第1所定油圧以上か否かを判定する。ここで、前記第1所定油圧は、
図8のステップS2の自動停止条件における前記ブレーキ油圧の所定の油圧と同じである。
【0079】
その結果、上流側回路内のブレーキ油圧が第1所定油圧以上と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS19で、自動停止制御を実行する。この自動停止制御は、
図8のステップS3〜S7と同じであるので、ここでは説明を省略する。そして、ステップS11に戻る。
【0080】
一方、前記ステップS17の判定の結果、上流側回路内のブレーキ油圧が第1所定油圧未満と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS18で、アイドルストップ可能表示を行う。すなわち、エンジン制御ユニット100は、インスツルメントパネル9のアイドルストップ可能ランプ85を点灯させて、エンジン1を自動停止させること(アイドルストップ)が可能であることを運転者に報知し、ブレーキを踏み足すことを運転者に促す。そして、ステップS17に戻る。なお、運転者への報知は、ランプ85の点灯に限らず、例えば、音声やディスプレイへの文字表示等でもよい。
【0081】
これに対し、前記ステップS15の判定の結果、車速が所定車速未満と判定したとき、つまり、車両が所定車速以上で走行していないと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、
図11のステップS20で、制動力(ブレーキ油圧)がクリープ力より大きいか否かを判定する。
【0082】
その結果、制動力がクリープ力より大きいと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS21で、エンジン1の再始動後、つまりステップS13から、所定時間(例えば1〜2秒程度)が経過したか否かを判定する。
【0083】
その結果、エンジン1の再始動後、所定時間が経過したと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS22で、アイドルストップ可能表示を行う。すなわち、エンジン制御ユニット100は、インスツルメントパネル9のアイドルストップ可能ランプ85を点灯させて、エンジン1を自動停止させること(アイドルストップ)が可能であることを運転者に報知し、ブレーキを踏み足すことを運転者に促す。なお、運転者への報知は、ランプ85の点灯に限らず、例えば、音声やディスプレイへの文字表示等でもよい。
【0084】
次いで、エンジン制御ユニット100は、ステップS23で、上流側回路内のブレーキ油圧の増大速度が所定速度以上か否かを判定する。ここで、前記所定速度は、
図7のタイムチャートの説明の際に述べた前記自動停止許可増大速度と同じである。
【0085】
その結果、前記ブレーキ油圧の増大速度が前記自動停止許可増大速度以上と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS19で、自動停止制御を実行する。
【0086】
一方、前記ステップS23の判定の結果、前記ブレーキ油圧の増大速度が前記自動停止許可増大速度未満と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS24で、上流側回路内のブレーキ油圧が第2所定油圧以上か否かを判定する。ここで、前記第2所定油圧は、
図7のタイムチャートの説明の際に述べた前記自動停止許可油圧と同じである。
【0087】
その結果、前記ブレーキ油圧が前記自動停止許可油圧以上と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS19で、自動停止制御を実行する。
【0088】
エンジン制御ユニット100が行う前記ステップS1〜S7及びS15〜S24により、車両が停止状態にあり且つ車両のブレーキペダル111が踏み込まれているという要件を少なくとも含む自動停止条件が成立したときに、エンジン1を自動停止させると共に、エンジン1の再始動後、車速が所定車速(例えば3km/h)以上になった場合に、前記自動停止条件の成立の有無を判定し、成立すればエンジン1を自動停止させる一方、エンジン1の再始動後、車速が所定車速以上にならないときは、運転者は発進や加速の意図がないと考えられるので、少なくとも、上流側回路内のブレーキ油圧が所定の自動停止許可油圧以上になったとき、又は、上流側回路内のブレーキ油圧の増大速度が所定の自動停止許可増大速度以上になったとき(時点t5)に、エンジン1を停止させたい意図が明確に読み取れるから、エンジン1を自動停止させる停止制御手段が提供される。
【0089】
これに対し、前記ステップS24の判定の結果、前記ブレーキ油圧が前記自動停止許可油圧未満と判定したときは、渋滞中や右折待ち等で運転者は発進や加速の意図があると考えられるので、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS19の自動停止制御を実行せずに、この制御を終了させる。
【0090】
また、前記ステップS20の判定の結果、制動力がクリープ力より大きくないと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS25で、エンジン1の再始動後、つまりステップS13から、所定時間(例えば1〜2秒程度)内に車両の動き出しを検知しないか否かを判定する。
【0091】
その結果、エンジン1の再始動後、所定時間内に車両の動き出しを検知しないと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS22に進む。この場合は、運転者は発進や加速の意図がないと考えられるので、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS23,S24を経由して、前記ステップS19の自動停止制御を実行する可能性が大きい。
【0092】
一方、前記ステップS25の判定の結果、エンジン1の再始動後、所定時間内に車両の動き出しを検知したと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS26で、車両が停止状態(車速がゼロの状態だけでなく車両がクリープ力で微小速度で動いている状態を含む)か否かを判定する。
【0093】
その結果、車両が停止状態と判定したときは、エンジン制御ユニット100は、ステップS27で、車両の停止後、所定時間(例えば3〜4秒程度)が経過したか否かを判定する。
【0094】
その結果、車両の停止後、所定時間が経過したと判定したときは、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS22に進む。この場合は、運転者は渋滞中や右折待ち等で発進や加速の意図があると考えられるので、エンジン制御ユニット100は、前記ステップS23,S24を経由して、前記ステップS19の自動停止制御を実行せずに、この制御を終了させる可能性が大きい。
【0095】
(5)本実施形態の作用及び効果
本実施形態では、エンジン制御ユニット100が前記ステップS1〜S7及びS15〜S24を行うことにより停止制御手段が提供され、この停止制御手段により、エンジン1の再始動後は、車両が所定車速(例えば3km/h)以上で走行しない限り、エンジン1の自動停止が規制される。また、同じく停止制御手段により、エンジン1の再始動後に、車両が所定車速以上で走行しなくても、少なくとも、上流側回路内のブレーキ油圧が所定の自動停止許可油圧以上になったとき、又は、上流側回路内のブレーキ油圧の増大速度が所定の自動停止許可増大速度以上になったときは、エンジン1の自動停止が許可される。
【0096】
そのため、渋滞中や右折待ち等では、運転者は、少なくとも、ブレーキ踏込量を所定の自動停止許可踏込量未満とすること(前記ステップS24でNO)によって、又は、ブレーキ踏込速度を所定の自動停止許可踏込速度未満とすること(前記ステップS23でNO)によって、再始動後のエンジン1を稼動させ続けることができ、車両が停止する度にエンジン1が停止する煩わしさや、右折のタイミングを計っているときにエンジン1が停止する不便さが解消される。
【0097】
一方、意図せずエンジン1が再始動したときは、運転者は、少なくとも、ブレーキ踏込量を所定の自動停止許可踏込量以上とすること(前記ステップS24でYES)によって、又は、ブレーキ踏込速度を所定の自動停止許可踏込速度以上とすること(前記ステップS23でYES)によって、車両を所定車速以上で走行させなくても(前記ステップS15でNO)、車両が停止状態(車速がゼロの状態だけでなく車両がクリープ力で微小速度で動いている状態を含む)のままで、エンジン1を自動停止させることができ(前記ステップS19)、再始動後のエンジン1を意に反して稼動させ続けるという問題が解消される。
【0098】
本実施形態では、前記ステップS24で運転者がブレーキを相対的に大きく踏み込んだ場合や、前記ステップS23で運転者がブレーキを相対的に速く踏み込んだ場合は、運転者がエンジン1を停止させたい意図が明確に読み取れ、エンジン1の再始動が運転者の意図しない再始動であったことが合理的に検知されて、運転者の要求通り、エンジン1が車両停止状態のままで前記ステップS19で自動停止される。
【0099】
本実施形態では、ブレーキ系統110における上流側回路(マスタシリンダ113とヒルホールド制御弁116,117との間の油圧回路114,115)内のブレーキ油圧を検出することにより、運転者のブレーキ操作が精度よく検知され、アイドルストップ制御の信頼性が向上する。
【0100】
本実施形態では、ブレーキ系統110において、ブレーキ踏込量に応じたブレーキ油圧を生成するマスタシリンダ113と車輪4〜7のキャリパ118との間の油圧回路114,115上にヒルホールド制御弁116,117を配設し、このヒルホールド制御弁116,117を閉じることにより、ブレーキ系統110における下流側回路(ヒルホールド制御弁116,117と車輪4〜7のキャリパ118との間の油圧回路114,115)内のブレーキ油圧を保持するヒルホルダ機能を車両に搭載した。そのため、前述した理由により、ヒルホルダ機能が作動する場合は、作動しない場合(ヒルホルダ機能を搭載しない場合を含む)に比べて、ブレーキ踏込量が少し減っただけで、上流側回路内のブレーキ油圧が大きく低下し、エンジン1が再始動する可能性が大きくなる。しかし、それでも、本実施形態では、運転者が、少なくとも、ブレーキ踏込量を所定の自動停止許可踏込量以上とすること(前記ステップS24でYES)によって、又は、ブレーキ踏込速度を所定の自動停止許可踏込速度以上とすること(前記ステップS23でYES)によって、車両を所定車速以上で走行させなくても(前記ステップS15でNO)、車両が停止状態のままで、エンジン1を自動停止させることができ(前記ステップS19)、再始動後のエンジン1を意に反して稼動させ続けるという問題が解消される。
【0101】
本実施形態では、エンジン1の再始動後に、車速が所定車速以上にならないとき(前記ステップS15でNO)は、インスツルメントパネル9のアイドルストップ可能ランプ85を点灯させることにより、ブレーキの踏込操作をすることによりエンジン1を自動停止させること(アイドルストップ)が可能であることを運転者に報知する(前記ステップS22)。そのため、意図せずエンジン1が再始動したときに、運転者に、少なくとも、ブレーキ踏込量を所定の自動停止許可踏込量以上とすること、又は、ブレーキ踏込速度を所定の自動停止許可踏込速度以上とすることが促される。また、ブレーキが踏み込まれて車両が停止状態のときは、ブレーキを踏み足すことが運転者に促される。そのため、再始動後のエンジン1を意に反して稼動させ続けるという問題がより一層確実に解消される。
【0102】
(6)他の変形例
ヒルホルダ機能は必ずしも必要ではない。車両にヒルホルダ機能を搭載しなくてもよく、また搭載しても、状況に応じて、アイドルストップ機能を作動させるときにヒルホルダ機能を作動させなくてもよい。
【0103】
前記実施形態では、前記ステップS23と前記ステップS24とのいずれか一方がYESのときに、前記ステップS19に進んで、エンジン1を自動停止させるようにしたが、これに代えて、前記ステップS23と前記ステップS24との両方がYESのときに、前記ステップS19に進んで、エンジン1を自動停止させるようにしてもよい。
【0104】
エンジンは、ガソリンエンジンに限らず、圧縮自己着火式エンジンでも構わない。圧縮自己着火式エンジンの例として、軽油を自己着火により燃焼させるディーゼルエンジンや、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自己着火させる予混合圧縮着火(HCCI:Homogeneous-Charge Compression Ignition)型エンジン等が挙げられる。