(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(変形例:modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0015】
<レーザープリンタの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用された画像形成装置であるレーザープリンタ1の概略構成を示す側断面図である。このレーザープリンタ1は、その内部にて、シート状の記録媒体である用紙Pを用紙搬送経路PP(paper path)に沿って搬送しつつ、当該用紙P上に非磁性一成分現像剤(トナー)による像(以下、「トナー像」と称する。)を形成するように構成されている。
【0016】
なお、以下の説明では、
図1における用紙搬送経路PPに沿って用紙Pが搬送される方向(すなわち用紙搬送経路PPの任意の位置における接線方向)を、「用紙搬送方向」と称する。また、図中右側(y軸正方向側)を「後側」と称し、図中左側(y軸負方向側)を「前側」と称する。よって、
図1における左右方向がレーザープリンタ1の前後方向となる。さらに、
図1における左右方向(上述の前後方向)及び上下方向(レーザープリンタ1の高さ方向:図中z軸方向)と垂直な方向である、レーザープリンタ1の幅方向を、「用紙幅方向」と称する。この用紙幅方向(図中x軸方向)は、用紙搬送方向及び用紙Pの厚さ方向と垂直な方向である。
【0017】
具体的には、このレーザープリンタ1は、本体部2と、用紙搬送部3と、プロセスカートリッジ4と、スキャナユニット5と、定着ユニット6と、を備えている。
【0018】
本体部2は、用紙搬送部3、プロセスカートリッジ4、スキャナユニット5、及び定着ユニット6を支持するための本体フレーム21を備えている。本体フレーム21は、外側カバー22によって覆われている。外側カバー22は、レーザープリンタ1のケーシングを構成する合成樹脂製の箱状部材である。
【0019】
外側カバー22の天板を構成するトップカバー23には、後側に向かうにつれて深くなるような形状の凹部が設けられている。排紙トレイ24は、この凹部の底面によって形成されている。すなわち、排紙トレイ24は、排紙口25から排出された画像形成済みの用紙Pを受け止めて複数枚積載するために、トップカバー23の前側から後側に向かって斜め下方向に向かう斜面を形成するように設けられている。排紙口25は、外側カバー22における、排紙トレイ24の下端部(後端部)の上方に設けられた開口部であって、用紙幅方向に長手方向を有するスリット状に形成されている。
【0020】
用紙搬送部3は、用紙カセット31と、給紙ローラ32と、紙粉除去ローラ対33と、レジストローラ対34と、搬送ローラ35と、排紙ローラ対36と、を備えている。この用紙搬送部3は、用紙Pを用紙搬送経路PPに沿って用紙カセット31から排紙トレイ24まで搬送するように構成されている。
【0021】
用紙カセット31は、本体部2の下方に設けられていて、前後方向にスライドさせることで本体フレーム21に対して着脱自在に(すなわち容易に着脱できるように)構成されている。また、用紙カセット31は、その内側にシート状の用紙Pを積層状態にて多数枚収容し得るように構成されている。
【0022】
給紙ローラ32は、本体部2の底部にて回転可能に支持されていて、用紙カセット31内にて積層状態に収容された用紙Pにおける最上位のものの先端部と当接し得るように配置されている。この給紙ローラ32は、回転駆動されることで、用紙Pを用紙カセット31から1枚ずつピックアップして紙粉除去ローラ対33に向けて搬送するように構成されている。
【0023】
紙粉除去ローラ対33は、給紙ローラ32よりも用紙搬送方向における下流側に設けられていて、給紙ローラ32によってピックアップされた用紙P上の紙粉を除去しつつ、かかる用紙Pをレジストローラ対34に向けて送出するようになっている。レジストローラ対34は、後述する転写位置よりも用紙搬送方向における上流側であって、プロセスカートリッジ4の底部に対応する位置に配置されていて、用紙Pの向き及び搬送タイミングを調整するとともに、用紙Pを転写位置に向けて供給するように設けられている。
【0024】
定着ユニット6よりも用紙搬送方向における下流側には、当該定着ユニット6を経た用紙Pを排紙口25に向けて送出するための搬送ローラ35が設けられている。排紙ローラ対36は、プロセスカートリッジ4及び定着ユニット6を経てトナー像が形成及び定着された用紙Pを排紙トレイ24上に排出し得るように、排紙口25の近傍に設けられている。
【0025】
本体部2内には、プロセスカートリッジ4が、着脱自在に収容されている。すなわち、プロセスカートリッジ4は、交換あるいはレーザープリンタ1の内部のメンテナンスのために、本体部2に対して容易に着脱できるようになっている。具体的には、プロセスカートリッジ4のケーシングの一部をなすプロセスケース41は、本体フレーム21に対して着脱自在に構成されている。このプロセスケース41には、感光体ドラム42と、帯電器43と、転写ローラ44と、トナーケース45と、が装着されている。
【0026】
感光体ドラム42は、その外周部に感光体層が形成された、円筒形状の部材であって、回転可能にプロセスケース41によって支持されている。すなわち、感光体ドラム42は、用紙幅方向と平行な軸を中心として回転駆動されることで、その周面である静電潜像担持面が用紙幅方向と直交する方向に移動するようなっている。帯電器43は、この静電潜像担持面を一様に帯電させるために、当該静電潜像担持面と対向配置されている。
【0027】
転写ローラ44は、転写位置にて用紙搬送経路PPを挟んで静電潜像担持面と対向するように設けられている。ここで、転写位置とは、静電潜像担持面と帯電器43とが対向する位置よりも、感光体ドラム42の回転による静電潜像担持面の移動方向における下流側の位置である。この転写ローラ44は、画像形成時に、感光体ドラム42と連れ回る方向(すなわち感光体ドラム42の回転方向とは反対方向)に回転するようになっている。また、この転写ローラ44は、感光体ドラム42との間に印加される所定の電圧によって、感光体ドラム42の周面上に担持されたトナー像を用紙P上に転写するようになっている。
【0028】
また、プロセスカートリッジ4のケーシングの一部をなす(プロセスケース41とともにプロセスカートリッジ4のケーシングをなす)トナーケース45は、プロセスケース41に対して着脱自在に構成されている。すなわち、トナーケース45は、交換あるいはメンテナンスのために、プロセスケース41に対して容易に着脱できるようになっている。このトナーケース45は、絶縁性の合成樹脂製の箱状の部材であって、その内部の空間には粉末状の乾式現像剤であるトナーが収容されている。
【0029】
トナーケース45における、プロセスケース41に装着された際に感光体ドラム42と対向する位置には、用紙幅方向に長手方向を有する開口部が形成されている。トナーケース45における、この開口部の近傍の位置には、現像ローラ46と、供給ローラ47と、が設けられている。また、トナーケース45の内部にてトナーを収容する空間内には、アジテータ48が収容されている。現像ローラ46、供給ローラ47、及びアジテータ48は、トナーケース45によって、回転可能に支持されている。
【0030】
現像ローラ46は、感光体ドラム42の回転による静電潜像担持面の移動方向における、静電潜像担持面と帯電器43とが対向する位置よりも下流側且つ転写位置よりも上流側の現像位置にて、静電潜像担持面と対向するように、感光体ドラム42と平行に配置されている。また、現像ローラ46は、平滑な円柱面状の周面上にてトナーの薄層を担持し得るように構成されている。この現像ローラ46は、帯電したトナーを静電潜像担持面に供給するために、感光体ドラム42の回転方向とは反対方向に(すなわち上述の現像位置にて現像ローラ46の周面の移動方向が静電潜像担持面の移動方向と同じ方向となるような回転方向に)回転駆動されるようになっている。
【0031】
供給ローラ47は、トナーケース45の内部に収容されたトナーを現像ローラ46の周面上に担持させるように、トナーケース45の内部にてトナーを収容する空間と現像ローラ46との間に配置されている。アジテータ48は、回転駆動されることで、トナーケース45の内部に収容されたトナーを攪拌しつつその一部を供給ローラ47に向けて送出するように設けられている。
【0032】
スキャナユニット5は、プロセスカートリッジ4の上方に配置されている。このスキャナユニット5は、画像データに基づいて変調されたレーザービーム(図中一点鎖線参照)を生成するとともに、かかるレーザービームを、帯電器43によって一様に帯電された静電潜像担持面上にて用紙幅方向に沿って走査することで、静電潜像担持面上に静電潜像を形成するように構成されている。
【0033】
具体的には、スキャナユニット5は、ポリゴンミラー51と、レンズ52及び53と、反射鏡54,55及び56と、を備えている。このスキャナユニット5は、図示しない発光部から出射された上述のレーザービームを、ポリゴンミラー51によって用紙幅方向に沿って走査しつつ、レンズ52、反射鏡54、反射鏡55、レンズ53、及び反射鏡56を経て、静電潜像担持面に照射するようになっている。
【0034】
本発明の定着装置に相当する定着ユニット6は、上述の転写位置(感光体ドラム42と転写ローラ44とが対向する位置)よりも用紙搬送方向における下流側に配置されている。この定着ユニット6は、トナー像を担持した(トナーが像様に静電的に付着した)用紙Pを加熱及び加圧(ニップ)することで、トナー像を用紙P上に熱定着するように構成されている。
【0035】
<定着ユニットの構成の詳細>
図2は、
図1に示されている、本実施形態の定着ユニット6の概略構成を示す側断面図である。以下、
図2を参照しつつ、本実施形態の定着ユニット6の構成の特徴について詳細に説明する。
【0036】
定着ユニット6は、定着ベルト61と、加圧ローラ62と、ニップ板63と、ステイ64と、熱源装置65と、を備えている。
【0037】
定着ベルト61は、筒状に形成された、いわゆる無端ベルトであって、耐熱性と可撓性とを有するように構成されている。この定着ベルト61は、図示しないガイド部材によって、所定の位置に保持されつつ用紙幅方向と平行な軸を中心として回転可能に支持されている。
【0038】
本発明の対向部材に相当する加圧ローラ62は、定着ベルト61の外周面と対向配置されている。この加圧ローラ62は、外周部に弾性変形可能な層であるゴム層を有するローラ状部材であって、用紙幅方向と平行な軸を中心として回転可能に支持されている。
【0039】
本発明のニップ部材に相当するニップ板63は、平板状の部材であって、定着ベルト61を挟んで加圧ローラ62と対向配置されるように、定着ベルト61の内側に収容されている。このニップ板63は、加圧ローラ62における上述のゴム層を弾性変形させるように定着ベルト61の内周面と当接することで、ニップ部NPを用紙搬送方向に沿って所定の幅をもって形成するように設けられている。
【0040】
ニップ板63は、伝熱部材631と断熱部材632とを有している。伝熱部材631は、断熱部材632よりも熱伝導率が高い材質から構成されている。具体的には、本実施形態においては、伝熱部材631は、熱伝導率が高い金属であるアルミニウム(合金)によって形成されている。一方、断熱部材632は、熱伝導率が低く且つ耐熱性の高い合成樹脂材料によって形成されている。
【0041】
伝熱部材631は、受熱面631aと放熱面631bとを有している。ここで、受熱面631aは、熱源装置65に対向することで当該熱源装置65から受熱するように設けられた、伝熱部材631の表面である。また、放熱面631bは、ニップ部NPに対向しつつ定着ベルト61の内周面と接触することでニップ部NPに向けて放熱するように設けられた、伝熱部材631の表面である。そして、この伝熱部材631は、熱源装置65からの熱を受熱面631aから放熱面631bに伝達するように設けられている。
【0042】
伝熱部材631は、放熱面631bが受熱面631aよりも面積が小さくなるように、側断面視にて台形状に形成されている。具体的には、受熱面631aは、ニップ板63の上面(熱源装置65側の表面)であって熱源装置65と対向する部分におけるほぼ全面にわたって設けられている。一方、放熱面631bは、ニップ板63の下面(ニップ部NP側の表面)の側面視における一部分であって、具体的にはニップ部NPの用紙搬送方向における上流側の部分に設けられている。
【0043】
断熱部材632は、ニップ板63における伝熱部材631以外の部分である。この断熱部材632は、伝熱部材631のニップ部NPに対向する表面における放熱面631b以外の部分と、定着ベルト61の内周面と、の間に配置されている。また、この断熱部材632は、伝熱部材631の用紙幅方向における両端部に隣接する位置にも設けられている。
【0044】
ステイ64は、側断面視にてニップ板63に向けて開口する略“U”字状(図中では略逆“U”字状あるいは“n”字状)の部材であって、ニップ板63を支持するように、定着ベルト61の内側に配置(収容)されている。ステイ64は、熱伝導率が低く且つ耐熱性の高い合成樹脂材料によって形成されている。具体的には、ステイ64は、ニップ板63における断熱部材632と同じ材質によって形成されている。
【0045】
本実施形態においては、ステイ64は、ニップ板63と密着する(接合される)ことで、ニップ板63の端部を支持しつつ、内部に略閉空間を形成するように設けられている。すなわち、ステイ64の用紙幅方向における両端部には、用紙幅方向と直交する一対の側板が設けられている。
【0046】
熱源装置65は、ニップ部NPを加熱するように、定着ベルト61の内側に配置されている。具体的には、熱源装置65は、ニップ板63とステイ64とで囲まれる略閉空間内に収容されている。この熱源装置65は、楕円鏡651と、ヒータ652と、を備えている。
【0047】
楕円鏡651は、アルミニウム(合金)板を曲げ加工することで形成された、側断面視にて半楕円形状の部材であって、ステイ64によって外側から支持されている。楕円鏡651の内面には、ヒータから発せられる赤外線(遠赤外線を含む)の反射率が高くなるように、鏡面加工が施されている。この楕円鏡651は、側断面視にてニップ板63に向けて開口することで、ヒータ652から発せられた輻射熱を伝熱部材631における受熱面631aに照射するように設けられている。
【0048】
ヒータ652は、いわゆるハロゲンランプからなる発熱体であって、通電により輻射熱を発生するように構成されている。また、本実施形態においては、受熱面631aには、黒色塗装からなる黒体面655が形成されている。
【0049】
<実施形態の構成による作用・効果>
かかる構成を有する、本実施形態の定着ユニット6においては、ヒータ652から発せられた輻射熱が、伝熱部材631における受熱面631aにて受け取られる。かかる受熱面631aにて受け取られた熱は、伝熱部材631における受熱面631aよりも小さな面積の放熱面631bから、ニップ部NPに放出される。これにより、ニップ部NPが加熱される。
【0050】
ここで、本実施形態の構成においては、放熱面631bは、ニップ部NPの用紙搬送方向における一部分に対応して設けられているとともに、受熱面631aよりも面積が小さい。このため、比較的面積が広い受熱面631aにて受け取られた熱が、比較的面積が狭い放熱面631bに集中し、これによりニップ部NPの用紙搬送方向における一部分が集中的に加熱される。このため、用紙P上に担持されたトナーが短時間で集中的に加熱される一方で、用紙P自体への伝熱が可及的に抑制される。したがって、かかる構成によれば、良好な定着強度及び熱効率(定着効率)が得られ、以て画像形成速度の高速化が図られるとともに、よりいっそうの省電力化やウォームアップ時間の短縮が図られる。
【0051】
さらに、本実施形態の構成においては、ニップ部NPにおける、伝熱部材631よりも用紙搬送方向における下流側の部分は、温度が相対的に低くなる。このため、当該部分におけるトナーの軟化あるいは溶融による、いわゆるホットオフセットの発生が抑制され、以て定着後の画像品質が向上する。
【0052】
以下、本実施形態の構成による効果を、数値計算によって確認した結果について説明する。最初に、本実施形態の構成における熱流(熱伝導)の状態について解析した結果を、比較例と比較しつつ示す。
【0053】
図3は、計算機シミュレーションによって熱流(熱伝導)解析するための計算メッシュを示す図である。かかる熱流解析は、有限要素法を用いた市販のコンピュータソフトウエアを用いて容易に実行され得るものであることは、本願の出願時において周知である。
【0054】
なお、
図3においては、図示の都合上、ニップ板63、定着ベルト61、用紙P、及び加圧ローラ62は、それぞれ離隔しているように示されている。しかしながら、計算においては、互いに熱的に接触するように設定がなされている。また、定着ベルト61、用紙P、及び加圧ローラ62は、それぞれ、画像形成速度(具体的にはA4規格用紙を長尺方向に搬送した場合の30ppm相当:ppmは「page per minute」の略)に相当する移動が生じるように、計算上設定されている。
【0055】
代表的な境界条件は、以下の通りである:ニップ板63の上面には、800Wに相当する輻射熱が、均等に印加されている。加圧ローラ62のステンレス製シャフトは、室温(25℃)に固定されている。
【0056】
また、この計算においては、ニップ板63における伝熱部材631(
図2参照)はA5052アルミニウム合金製とし、断熱部材632(
図2参照)はPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製であるものとし、定着ベルト61はポリイミド製であるものとし、加圧ローラ62はシリコーンゴムの表面をチューブ状のPFA樹脂で被覆したものであるものとする。
【0057】
図4は、
図2に示されている本実施形態の構成における熱流(熱伝導)の様子を示す図である。
図5は、
図2に示されているニップ板63が一様な一枚のアルミニウム合金(A5052)製である比較例の構成における熱流(熱伝導)の様子を示す図である。なお、
図4及び
図5においては、熱流の様子が矢印(ベクトル)で示されている。
【0058】
図4に示されているように、本実施形態の構成においては、ニップ板63の上面(
図2における伝熱部材631の受熱面631a)に均一に印加された熱が、ニップ部における上流側の一部分に集中している。これに対し、
図5に示されているように、比較例の構成においては、このような熱流の集中は発生していない。
【0059】
次に、本実施形態の構成による定着強度の評価計算を行った結果について説明する。なお、定着強度の計算法は、「電子写真技術の基礎と応用」(電子写真学会編、1988年コロナ社刊)に詳細に記載されているが、その一部を以下に抜粋して示す。
【0060】
定着強度Fは、ニップ部内の圧力Pと、トナー粘度μとから、下記の式(1)で示される。なお、下記の式(1)中、“t
dwell”は、ニップ部通過時間(用紙がニップ部を通過する所要時間)である。
【0062】
上記(1)式の通り、トナー粘度μは温度Tに依存する。そこで、用紙のニップ部通過時間t
dwellを微小時間Δtで離散化し、用紙がニップ部を通過している間の時間ステップi毎に圧力Piと温度Tiとからトナー粘度μiを求め、下記の式(2)により定着強度Fを算出した。
【0064】
圧力Pについては、弾性ローラが平面に押し当てられているものとみなして、Heltzの接触理論に基づき、ニップ部における用紙搬送方向に沿った圧力分布を放物線状の分布とした(
図6参照:
図6中の「y」は、
図2に示されているニップ部NPの用紙搬送方向における上流端からの距離を示し、y=0は当該上流端に相当するものとする。)。
図6に示されている圧力分布グラフにおいては、圧力の最大値を0.14MPaとした。
【0065】
トナー粘度μについては、下記の式(3)で示されるAndradeの式を用いた。なお、この式における係数A及びBは、測定値をフィッティングすることによって求めた(本計算にて用いた実際のトナー粘度μの温度依存性のグラフについては
図7参照。)。
【0067】
図8は、
図2に示されている本実施形態の構成における定着強度の計算のための、伝熱部材631の形状についての条件を示す図である。図中、wは、
図2に示されている伝熱部材631の受熱面631aの用紙搬送方向における下流端を基点とした、放熱面631bの用紙搬送方向における下流端の位置を示す。このwの値が大きいほど、受熱面631aから放熱面631bへの「絞り込み」が大きくなる。なお、かかる定着強度の計算においては、ニップ部の幅を8mmとし、受熱面631aの用紙幅方向の幅w0=8[mm]、伝熱部材631の厚さth0=0.8[mm]、th1=0.2[mm]とした。
【0068】
図9は、
図8におけるwの値を変化させたときの、定着強度F(計算結果)の変化の様子を示すグラフである。
図9に示されているように、受熱面631aから放熱面631bへの「絞り込み」が大きくなるほど定着強度が上昇することが確認された。
【0069】
図10は、
図9におけるw=7[mm]の場合に、受熱面631aへの印加熱量を変化させたときの、定着強度F(計算結果)の変化の様子を示すグラフである。
図10の結果から、
図5に示されている比較例の構成の場合に印加熱量が800Wであるときの定着強度(図中破線参照)が、w=7[mm]の場合には586Wの印加熱量で得られることが確認された。
【0070】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態を、単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態に何ら限定されるものではない。したがって、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、上述の実施形態に対して種々の変更が施され得ることは、当然である。
【0071】
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態にて説明されている構成要素と同様の構成及び機能を有するものに対しては、上述の実施形態と同様の符号が用いられ得るものとする。そして、かかる部材の説明については、技術的に矛盾しない範囲内において、上述の実施形態における説明が援用され得るものとする。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたもの限定されるものではない。また、複数の変形例が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、複合的に適用され得る。さらに、上述の実施形態の一部と、変形例の一部とが、適宜、複合的に適用され得る。
【0072】
本発明の適用対象は、単色のレーザープリンタに限定されない。例えば、本発明は、カラーのレーザープリンタや、単色及びカラーの複写機等の、いわゆる電子写真方式の画像形成装置に対して、好適に適用され得る。このとき、感光体の形状は、上述の実施形態のようなドラム状でなくてもよい。例えば、平板状や無端ベルト状等であってもよい。露光方式(アナログ又はデジタル)についても、特段の限定はない。
【0073】
また、本発明の適用対象は、非磁性一成分現像に限定されない。したがって、本発明は、例えば、磁性二成分現像方式の画像形成装置に対しても好適に適用され得る。あるいは、本発明は、感光体を用いない画像形成方式(例えば、マルチスタイラス電極やアパチャー電極によって電荷や現像剤の飛翔や付着を直接的に制御する画像形成方式)の画像形成装置に対しても好適に適用され得る。
【0074】
図1を参照すると、プロセスカートリッジ4におけるプロセスケース41とトナーケース45とは、分離不能であってもよい。あるいは、トナーケース45のみが、本体フレーム21に対して着脱自在であってもよい。
【0075】
本発明の「対向部材」は、ローラ状の部材に限定されない。例えば、本発明の「対向部材」として、板状の部材やベルト状の部材が用いられ得る。
【0076】
本発明の熱源装置における発熱体は、ハロゲンランプを用いたものに限定されない。具体的には、例えば、かかる発熱体として、面状ヒータが用いられ得る。この場合、面状ヒータは、
図2における受熱面631aに密着するように設けられる。また、この場合、黒体面655は不要である。
【0077】
図2を参照すると、伝熱部材631は、アルミニウム(合金)以外の熱伝導率が高い金属(銅等)によって形成され得る。また、断熱部材632は、ステンレス鋼等の熱伝導率が低い金属や、セラミックスや、熱伝導率が低く且つ耐熱性の高い合成樹脂材料(液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、等。)によって形成され得る。
【0078】
断熱部材632は、ステイ64と一体に形成されていてもよい。あるいは、断熱部材632は、ステイ64とは異なる材質によって形成されていてもよい。
【0079】
上述の実施形態においては、受熱面631aは、ニップ板63の上面であって熱源装置65と対向する部分におけるほぼ全面にわたって設けられているが、本発明は何らこれに限定されない。すなわち、ニップ板63の上面であって熱源装置65と対向する部分のうちの用紙搬送方向における下流側の一部に、受熱面631aではない部分が設けられていてもよい。
【0080】
図11は、
図2に示されているニップ板63の一変形例を示す側断面図である。
図11に示されているように、伝熱部材631と断熱部材632との間には、空隙Gが設けられていてもよい。これにより、熱エネルギーの収束効果がよりいっそう高められる。なお、この空隙G内は、空気であってもよい。あるいは、空隙G内には、断熱部材632よりも断熱性の高い(すなわち熱伝導率の低い)材料が充填されていてもよい。
【0081】
図12は、
図2に示されている定着ユニット6の一変形例を示す側断面図である。
図12に示されているように、ステイ64は、上部が開放された形状(すなわち平面視にて略矩形状)に形成されていてもよい。
【0082】
また、
図12に示されているように、断熱部材は省略され得る。すなわち、伝熱部材631のニップ部NPに対向する表面における放熱面631b以外の部分と、定着ベルト61の内周面と、の間には、空隙Gが設けられていてもよい。
【0083】
黒体面655は、黒色塗装に限定されない。例えば、黒体面655として、有機あるいは無機の赤外線吸収膜や、凹凸形状(溝形状)を形成してもよい。
【0084】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した他の出願や公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして、必要に応じて且つ技術的に矛盾しない範囲内において援用され得る。