(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工具が装着されて回転する主軸と、該主軸の回転速度を検出する検出手段と、工作に係る指令を取得する取得手段と、該取得手段が取得した指令に係る処理を実行する処理手段とを備え、該処理手段により処理を実行して被加工物を前記工具により加工する工作機械において、
前記主軸の回転速度を指定した回転指令及び前記主軸の位置を指定した位置決め指令を前記処理手段により実行している間に、前記取得手段が前記主軸の送り速度を指定した加工指令を取得した場合、前記主軸の位置が前記位置決め指令により指定された位置に達したか否かを判定する位置判定手段と、
該位置判定手段が指定された位置に達したと判定した場合、前記検出手段により検出した回転速度が前記回転指令により指定された回転速度に達したか否かを判定する速度判定手段と、
該速度判定手段が指定された回転速度に達していないと判定した場合、前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された指定送り速度の比の値に、前記検出手段により検出した回転速度を乗じた上限値を算出する上限値算出手段と、
前記主軸の送り速度及び切削送り時における前記主軸の許容最大加速度を加算する加算手段と、
該加算手段による加算結果が前記上限値より小さいか否かを判定する加算結果判定手段と
前記加算結果判定手段にて前記加算結果が前記上限値よりも小さいと判定された場合、前記加算結果を第1送り速度に決定する第1決定手段と、
前記加算結果判定手段にて前記加算結果が前記上限値以上であると判定された場合、前記加算結果が前記上限値と等しくなるように、前記許容最大加速度を計算し、計算した許容最大加速度を前記主軸の送り速度に加算した値を、第2送り速度に決定する第2決定手段とを備え、
前記処理手段は、前記第1決定手段又は第2決定手段により決定した第1送り速度又は第2送り速度により前記加工指令に係る前記主軸の移動を行うようにしてあること
を特徴とする工作機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、工作機械の加工プログラムでは、工具交換命令と共に(又は工具交換命令の後に)、主軸の回転速度(又は単位時間当たりの回転数)を指定して工具が交換された主軸を回転させる回転命令を記載することができる。工作機械は、工具交換命令に従って工具交換を行った後、回転命令に従って主軸の回転を開始する。このときに、従来の工作機械は、主軸の回転速度が回転命令にて指定された回転速度に達したことを確認した後、加工プログラムの次の命令に係る処理を行っていた。主軸の回転開始から指定された回転速度に達するまでにはある程度の時間を要するので、この待ち時間が工作時間を長期化させるという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、回転速度を指定した主軸の回転指令を実行する場合に生じる待ち時間の影響を低減し、工作時間を短縮することができる工作機械及び工作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る工作機械は、工具が装着されて回転する主軸と、該主軸の回転速度を検出する検出手段と、工作に係る指令を取得する取得手段と、該取得手段が取得した指令に係る処理を実行する処理手段とを備え、該処理手段により処理を実行して被加工物を前記工具により加工する工作機械において、前記主軸の回転速度を指定した回転指令及び前記主軸の位置を指定した位置決め指令を前記処理手段により実行している間に、前記取得手段が前記主軸の送り速度を指定した加工指令を取得した場合、前記主軸の位置が前記位置決め指令により指定された位置に達したか否かを判定する位置判定手段と、該位置判定手段が指定された位置に達したと判定した場合、前記検出手段により検出した回転速度が前記回転指令により指定された回転速度に達したか否かを判定する速度判定手段と、該速度判定手段が指定された回転速度に達していないと判定した場合、前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された指定送り速
度の比の値に、前記検出手段により検出した回転速度を乗じた上限値を算出する上限値算出手段と、前記主軸の送り速度及び切削送り時における前記主軸の許容最大加速度を加算する加算手段と、該加算手段による加算結果が前記上限値より小さいか否かを判定する加算結果判定手段と前記加算結果判定手段にて前記加算結果が前記上限値よりも小さいと判定された場合、前記加算結果を第1送り速度に決定する第1決定手段と、前記加算結果判定手段にて前記加算結果が前記上限値以上であると判定された場合、前記加算結果が前記上限値と等しくなるように、前記許容最大加速度を計算し、計算した許容最大加速度を前記主軸の送り速度に加算した値を、第2送り速度に決定する第2決定手段とを備え、前記処理手段は、前記第1決定手段又は第2決定手段により決定した第1送り速度又は第2送り速度により前記加工指令に係る前記主軸の移動を行うようにしてあることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る工作方法は、工具が装着されて回転する主軸を有する工作機械に対して、工作に係る指令を取得し、取得した指令に係る処理を実行して被加工物を加工する工作方法において、前記主軸の回転速度を指定した回転指令及び前記主軸の位置を指定した位置決め指令を処理している際に、前記主軸の送り速度を指定した加工指令を取得した場合、前記主軸の位置が前記位置決め指令により指定された位置に達したか否かを判定し、前記主軸の位置が指定された位置に達したと判定した場合、前記主軸の回転速度が前記回転指令により指定された回転速度に達したか否かを判定し、前記主軸の回転速度が指定された回転速度に達していないと判定した場合、前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された指定送り速
度の比の値に、前記検出手段により検出した回転速度を乗じた上限値を算出し、前記主軸の送り速度及び切削送り時における前記主軸の許容最大加速度を加算し、加算結果が前記上限値より小さいか否かを判定し、前記加算結果が前記上限値よりも小さいと判定された場合、前記加算結果を第1送り速度に決定し、前記加算結果が前記上限値以上であると判定された場合、前記加算結果が前記上限値と等しくなるように、前記許容最大加速度を計算し、計算した許容最大加速度を前記主軸の送り速度に加算した値を、第2送り速度に決定し、決定した第1送り速度又は第2送り速度により前記加工指令に係る前記主軸の移動を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、工作機械は主軸に工具を装着して回転させ、検出手段により主軸の回転速度を検出する。工作機械は取得手段により工作に係る指令を取得し、処理手段により指令に係る処理を実行して被加工物を工具により加工する。工作機械は主軸の回転速度を指定した回転指令及び主軸の位置を指定した位置決め指令を処理手段により実行している間に、取得手段が主軸の送り速度を指定した加工指令を取得した場合、主軸の位置が前記位置決め指令により指定された位置に達したか否かを位置判定手段により判定する。位置判定手段が指定された位置に達したと判定した場合、検出手段により検出した回転速度が前記回転指令により指定された回転速度に達したか否かを速度判定手段により判定する。速度判定手段が指定された回転速度に達していないと判定した場合、前記回転指令により指定された回転速度、検出手段により検出した回転速度、及び前記加工指令により指定された送り速度に基づいて決定手段により送り速度を決定する。処理手段は、決定手段により決定した送り速度により前記加工指令に係る主軸の移動を行う。これにより、主軸の回転速度が前記回転指令により指定された回転速度に達していない場合にも、前記加工指令に係る主軸の移動を行って被加工物を加工するので、回転指令を実行する場合に生じる待ち時間の影響を低減する。
【0013】
また本発明にあっては、決定手段により、前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された送り速度の比の値に、検出手段により検出した回転速度を乗じた値以下に送り速度を決定する。前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された送り速度の比の値は、切削条件としての工具の1回転あたりの送り量に相当し、この切削条件以下で工具を移動させることにより、工具にかかる負担を増大させることなく加工を行うことができる。
【0014】
また本発明にあっては、決定手段により、前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された送り速度の比の値に、検出手段により検出した回転速度を乗じた値に送り速度を決定する。前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された送り速度の比の値としての切削条件で工具を移動させることにより工作時間を短縮することができる。
【0015】
また本発明にあっては、決定手段により、主軸の回転速度が前記回転指令により指定された回転速度となる時点に前記加工指令により指定された送り速度になるように、送り速度に係る加速度を決定する。決定した加速度によって、前記回転指令により指定された回転速度に対する前記加工指令により指定された送り速度の比の値としての切削条件以下となる主軸の送り速度を簡便に決定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による場合は、主軸の回転速度が前記回転指令により指定された回転速度に達していない場合にも、前記回転指令により指定された回転速度、検出手段により検出した回転速度、及び前記加工指令により指定された送り速度に基づいて決定手段により送り速度を決定し、決定した送り速度により前記加工指令に係る主軸の移動を行うので、回転指令を実行する場合に生じる待ち時間の影響を低減し、工作時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1はマシニングセンタ(工作機械)の外観を示す斜視図であり、
図2はマシニングセンタの主要部分の構成を示す正面図である。本実施形態に係るマシニングセンタは、被加工物であるワーク(図示略)と工具とを相対移動させて、ワークに所望の機械加工(例えば、フライス削り、穴あけ、切削等)を施すことができる工作機械である。マシニングセンタは金属製の基台1を備え、基台1の下部の四隅夫々には脚部が設けられ、該脚部が床面等に設置されることによりマシニングセンタが設置される。基台1はマシニングセンタの前後方向に長い直方体状の鋳造品である。
【0019】
基台1は後部上にコラム座部3が設けてある。コラム座部3には鉛直上方へ延びる柱状のコラム4が立設してある。コラム4は前面に沿って上下移動可能に主軸ヘッド5を支持する。主軸ヘッド5は加工用の工具6が装着される主軸5Aと、主軸5Aに装着された工具6を他の工具6に交換するための工具交換機構7とを備える。コラム4の上部にはZ軸モータ44(
図3参照)が設けてあり、Z軸モータ44の駆動によって主軸ヘッド5を上下に移動させることができる。
【0020】
主軸ヘッド5は加工軸に相当する主軸5Aを回転可能に支持しており、主軸5Aを回転駆動するための主軸モータ41(
図3参照)を上部に備える。主軸5Aの下端には工具6が着脱可能に装着され、主軸5Aが主軸モータ41により回転駆動されることによって工具6が回転し、後述するテーブル8に固定したワークの加工が行われる。主軸5Aは主軸ヘッド5の上下移動によって上方の交換位置と下方の加工位置との間を移動する。工具交換機構7は工具6を保持する工具ホルダを複数格納する工具マガジン14と、主軸5Aに装着された工具ホルダ及び工具マガジン14に格納された他の工具ホルダを把持して搬送し、工具交換を行う工具交換アーム15とを備えている。
【0021】
基台1は主軸ヘッド5の下方位置に当たる前部上に、ワークを着脱可能に固定することができるテーブル8を支持している。テーブル8はサーボモータであるX軸モータ42及びY軸モータ43(
図3参照)により、X軸方向(左右方向)及びY軸方向(前後方向)へ移動制御される。詳しくは、直方体状の支持台10がテーブル8の下側に設けてあり、支持台10上にX軸方向に沿って延びる1対のX軸送りガイドを設け、該X軸送りガイド上にテーブル8を移動可能に支持している。基台1は長手方向(Y軸方向)に沿って延びる1対のY軸送りガイドを支持し、該Y軸送りガイド上に支持台10を移動可能に支持している。基台1上に設けたY軸モータ43はY軸送りガイドに沿ってY軸方向に支持台10を移動させる。支持台10上に設けたX軸モータ42はX軸送りガイドに沿ってX軸方向にテーブル8を移動させる。
【0022】
X軸送りガイドには、移動方向に収縮可能なカバー11、12がテーブル8の左右両側に設けてある。Y軸送りガイドには、カバー13とY軸後カバーとが、支持台10の前後に夫々設けてある。テーブル8及び支持台10が夫々何れかの方向に移動した場合でも、X軸送りガイド及びY軸送りガイドは常にカバー11、12、13及びY軸後カバーによって覆われる。カバー11、12、13及びY軸後カバーは、ワークの加工領域から飛散する切粉等がX軸送りガイド及びY軸送りガイド等へ落下することを防止する。
【0023】
制御ボックス9はコラム4の背面側に設けられており、内部にマシニングセンタの動作を制御するための制御部20(
図3参照)を収容している。
図3はマシニングセンタの電気的構成を示すブロック図である。マシニングセンタの制御部20はCPU21、ROM22、RAM23、EEPROM24、入力インタフェース25及び出力インタフェース26等により構成されている。
【0024】
CPU21はROM22に記憶された制御プログラムをRAM23に読み出して実行することにより、ワークの加工処理及び工具交換処理等を行う。ROM22はマスクROM又はEEPROM等の不揮発性のメモリ素子であり、CPU21にて実行される制御プログラム及び処理に必要な各種のデータ等が予め記憶されている。RAM23はSRAM又はDRAM等のメモリ素子であり、ROM22から読み出した制御プログラム及び処理過程で発生した種々のデータ等を一時的に記憶する。EEPROM24はデータ書き換えが可能な不揮発性のメモリ素子であり、処理に必要な各種のデータが記憶される。特に本実施形態においては、ワークに対する加工手順及び加工条件等が記載された加工プログラム(後述)がEEPROM24に記憶されている。尚EEPROM24に代えて、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ素子を使用してもよい。
【0025】
マシニングセンタは入力装置31、アームセンサ32、Z軸センサ33及び主軸センサ34等を備えており、これらが制御部20の入力インタフェース25に接続されている。入力装置31はキーボード又はタッチパネル等を用いたものであり、ユーザの操作を受け付ける。アームセンサ32は工具交換アーム15が原点(最も上側の位置)まで上昇したか否かを検出する。Z軸センサ33は主軸5AのZ方向位置を検出する。主軸センサ34は主軸5Aの回転速度を検出する。入力インタフェース25は入力装置31、アームセンサ32、Z軸センサ33及び主軸センサ34から出力される情報をCPU21へ与える。尚、Z軸センサ33及び主軸センサ34の代わりに、Z軸モータ44及び主軸モータ41のフィードバック情報を使用してもよい。
【0026】
マシニングセンタは主軸モータ41、X軸モータ42、Y軸モータ43、Z軸モータ44、工具交換モータ45及び表示装置46等を備えており、これらが制御部20の出力インタフェース26に接続されている。主軸モータ41は主軸5Aを回転させる。主軸モータ41の駆動により主軸5Aが回転し、主軸5Aに装着された工具6によりワークを加工する。X軸モータ42及びY軸モータ43はテーブル8をX方向及びY方向へ移動させる。Z軸モータ44はコラム4に対して主軸ヘッド5を鉛直方向へ上下移動させる。工具交換モータ45は主軸5Aに対する工具6の着脱、並びに、工具交換アーム15の上下動、回転及び工具6の把持等の工具交換動作を行う。表示装置46は液晶パネル等であり、マシニングセンタの動作状態及びユーザに対するメッセージ等を表示する。
【0027】
図4はEEPROM24に記憶された加工プログラムの一例を示す模式図である。
図5は
図4の加工プログラムによるマシニングセンタの動作を説明するための模式図である。加工プログラムは、ワークに対する加工内容に応じてユーザが予め作成し、EEPROM24に予め記憶されるものである。マシニングセンタのCPU21は加工プログラムを一行ずつ順に読み込むことによって、各行に記載された指令を取得し、順に処理していく。例えば図示の加工プログラムのN1行目に記載された「G100」は工具交換指令を示し、「T1」は次に主軸5Aに装着する工具6の識別番号が1番であることを示し、「X−62.0」は工具交換後のX軸方向の待機位置、「Y−22.0」は工具交換後のY軸方向の待機位置を示している。尚、各数値の単位はmmである。工具交換指令により、CPU21は識別番号が1番の工具6に工具交換を行い、X座標−62.0、Y座標−22.0の位置に主軸5Aを移動して待機する処理を実行する。
【0028】
N1行目には、工具交換指令に続いて主軸5Aの回転指令「M03」が記載されている。「S25000」は主軸5Aの回転速度を25000回転/分に指定している。「Z20.0」はZ座標20.0の位置に主軸5Aを移動する位置決め指令である。尚、工具交換指令、主軸の回転指令及び位置決め指令は加工プログラム中で同一行に記載せず、別の行に記載してもよい。
【0029】
またN2行目に記載された「G81」は加工指令の一つである切削送り指令である。「Z−3.0」は切削送りのZ座標の目標点であり、「R20.0」は切削送りのZ座標の開始点を示している。工具6を回転指令「M03」により回転させ、切削送り指令「G81」によりZ方向に工具を送ることにより、穴あけ等のドリル加工を行う。上述の位置決め指令によりZ座標20.0に工具6を位置決めしているので、位置決め後の工具の位置が「R20.0」が示す切削送りの開始点(以下、R点と表記する。)となっている。「F2000」は送り速度を2000mm/分を指定している。尚、加工プログラムは上述の指令以外にもクーラント吐出指令等を含んでいるが簡潔のため
図4では省略している。
【0030】
従来のマシニングセンタは、N1行目の主軸5Aの回転指令「M03」及び位置決め指令「Z20.0」が完了した後、N2行目の切削送り指令「G81」を実行する手順としていた。この従来の手順では、R点への位置決めが完了したときに、主軸5Aの回転速度が回転指令「M03」で指定された25000回転/分に達していなければ、指定された回転速度になるまで切削送り指令を実行せず待機するため、待機時間の分だけ工作時間がかかってしまい加工効率が落ちる。これに対して、本実施の形態に係るマシニングセンタは、R点への位置決めが完了したときに、主軸5Aの回転速度が回転指令「M03」で指定された25000回転/分に達していない場合でも、送り速度を適切な値に決定して切削送り指令を実行する手順としている。
【0031】
主軸5Aの回転速度が回転指令「M03」で指定された回転速度に達していない場合に、CPU21は、主軸5Aの送り速度を、回転指令「M03」で指定された回転速度をS指令値、切削送り指令「G81」で指定された送り速度をF指令値として、次の式によるF’値以下に決定する。
F’=(F指令値)×(現在の主軸回転速度)/(S指令値) ・・・(1)
【0032】
上記の(1)式によれば、主軸5Aの回転速度がS指令値に達していれば、F’値はF指令値と等しくなるが、主軸5Aの回転速度がS指令値に達していなければ、F’値はF指令値に(現在の主軸回転速度)/(S指令値)を乗じた値であるから、F指令値より小さい値となる。このように主軸5Aの回転速度がS指令値に達していない場合には、S指令値に対する現在の主軸回転速度の比の値をF指令値に乗じて得られるF’値を上限としている。
【0033】
仮に、主軸5Aの回転速度がS指令値に達していないにも関わらず、F指令値に等しい送り速度で切削送りを実行すると、切削抵抗が大きくなるために、加工面精度の低下、工具6刃先の損傷等が生じる可能性がある。これを回避するために本実施形態では、CPU21はF’値以下に送り速度を決定する。
【0034】
また式(1)の右辺は、次の式のように書き表すことができる。
F’={(F指令値)/(S指令値)}×(現在の主軸回転速度) ・・・(2)
右辺の(F指令値)/(S指令値)は、各指令値に基づく切削条件として、主軸1回転あたりの送り量を表しており、CPU21がF’値以下の送り速度を決定するということは、切削条件以下で工具を使用することを意味している。
【0035】
加工プログラムの処理及びマシニングセンタの動作について、更に具体的に説明する。
図6はマシニングセンタによる加工プログラムの処理手順を示すフローチャートであり、
図7はマシニングセンタの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図7の上段には主軸5AのZ軸方向の送り速度が示してあり、下段には主軸5Aの回転速度が示してある。マシニングセンタのCPU21は、EEPROM24に記憶された加工プログラム(
図4参照)を順次読み込んで工作に係る指令を取得する。まずCPU21は加工プログラムのN1行目にて工具交換指令「G100」を取得し、工具交換処理を実行する(ステップS1)。具体的には、Z軸モータ44を駆動して主軸5AをZ軸方向の工具交換位置まで上昇させ、工具交換モータ45を駆動して工具交換を行う。CPU21は工具交換指令にて指定されたX座標−62.0、Y座標−22.0の位置に主軸5Aを移動して待機させる処理を実行する。
【0036】
次にCPU21は加工プログラムのN1行目に記述された主軸5Aの回転指令「M03」及びZ軸位置決め指令「Z20.0」の処理を開始する(ステップS2)。CPU21は回転指令「M03」に基づき主軸モータ41の駆動を開始し(ts 時点:
図7参照)、主軸5Aの回転速度を略一定の加速度で上昇させる。主軸モータ41の駆動開始後、CPU21はZ軸位置決め指令「Z20.0」に基づきZ軸モータ44を駆動して主軸5AをZ座標20.0へ向けて移動させる。
【0037】
CPU21はステップS2による回転指令「M03」及びZ軸位置決め指令「Z20.0」の処理を開始後、ステップS3により次に読み込む指令が切削送り指令「G81」であるか否かを判定する。CPU21は加工プログラムのN2行目を読み込み、取得した指令が切削送り指令「G81」ではない場合(S3:NO)、
図6に示す後続する処理は行わずに終了し、読み込んだ指令を実行する処理に移る。尚、CPU21は加工プログラムのN2行目から取得した指令が例えばクーラント吐出指令等の加工前の準備指令であるような場合には、終了処理せずに更に加工プログラムの次の行を読み込んでステップS3による判定を行うようにしてもよい。
【0038】
CPU21は加工プログラムのN2行目を読み込んで取得した指令が切削送り指令「G81」であった場合(S3:YES)、ステップS4により主軸5AがR点(Z座標20.0)に到達したか否かを判定する。ステップS4による判定の結果、到達していない場合(S4:NO)、ステップS4の判定を繰り返す。ステップS4により、到達したと判定した場合(S4:YES)、CPU21は切削送り時の許容最大加速度αをEEPROM24から取得する(ステップS5)。
【0039】
次にCPU21はステップS6で主軸センサ34により検出される主軸5Aの回転速度がS指令値よりも小さいか否か判定する。
図7に示すタイミングチャートの場合、主軸5AのR点への位置決めが完了したtr 時点で主軸5Aの回転速度は上昇途中であり、主軸5Aの回転速度がS指令値に達していない。ステップS6による判定の結果、主軸5Aの回転速度がS指令値よりも小さい場合(S6:YES)、CPU21はステップS7により上述の式(1)に基づきF’値を算出する。CPU21はステップS8により、現在のZ軸方向への主軸5Aの送り速度に許容最大加速度αを加えた値がステップS7で算出したF’値より小さいか否かを判定する。ステップS8による判定の結果、現在のZ軸方向への主軸5Aの送り速度に許容最大加速度αを加えた値がF’値以上である場合(S8:NO)、CPU21はステップS9により現在のZ軸方向への主軸5Aの送り速度がF’値となるように許容最大加速度αを再計算する。
【0040】
ステップS8による判定の結果、現在のZ軸方向への主軸5Aの送り速度に許容最大加速度αを加えた値がF’値より小さい場合(S8:YES)、及びステップS9の処理後、CPU21はステップS10により現在のZ軸方向への主軸5Aの送り速度に再計算した許容最大加速度αを加えた値を新たな送り速度に決定し、切削送りに係る主軸5Aの移動(切削移動)を実行し、ステップS6へ戻る。ステップS6の判定がYESとなってステップS7からステップS10までの処理を繰り返すことによって、tr 時点から主軸5AのZ軸方向の送り速度を許容最大加速度αで上昇させる。主軸5AのZ軸方向の送り速度は、許容最大加速度αで上昇させるとF’値に急速に近づき
図7に示すtx 時点で等しくなる。tx 時点から後述するtf 時点まで、ステップS7からステップS10までの処理を繰り返すことによって、主軸5AのZ軸方向の送り速度はF’値で推移する。
【0041】
ステップS6による判定の結果、主軸5Aの回転速度がS指令値よりも小さくなくなった場合(S6:NO)、即ち
図7に示すtf 時点でCPU21は主軸5AのZ軸方向の送り速度をF指令値とし、切削送り処理を実行する(ステップS11)。CPU21は目標とするZ座標−3.0に近づくと送り速度の減速処理を実行する(ステップS12)。CPU21は主軸5AがZ座標−3.0に達するとZ軸方向への主軸5Aの送りを停止する停止処理を実行し(ステップS13)、tz1時点において主軸5Aを停止し、処理を終了する。
【0042】
比較のため、主軸5Aの回転速度がS指令値の90%になった時点で切削送りを開始する場合のタイミングチャートを
図7に一点鎖線で示す。主軸5Aの回転速度がS指令値の90%となるte 時点から主軸5AのZ軸方向の送り速度を許容最大加速度αで上昇させて切削送りを実行し、上述のtz1時点よりも遅いtz2時点において完了する。更に主軸5Aの回転速度がS指令値と等しくなった時点から切削送りを開始する場合には完了時点tz2は更に遅い時点となる。
【0043】
以上のとおり本実施形態によれば、マシニングセンタは主軸5Aに工具6を装着して回転させ、主軸センサ34により主軸5Aの回転速度を検出する。マシニングセンタはCPU21によりEEPROM24から加工プログラムを読み込んで工作に係る指令を取得する。CPU21は工具交換指令「G100」、主軸5Aの回転指令「M03」、Z軸位置決め指令「Z20.0」、加工指令である切削送り指令「G81」等の指令に係る処理を実行してワークを工具6により加工する。CPU21は、主軸5Aの回転速度を指定した回転指令「M03」及び主軸5Aの位置を指定した位置決め指令「Z20.0」に係る処理を実行している間に、主軸5Aの送り速度を指定した切削送り指令「G81」を取得した場合、主軸5Aの位置が位置決め指令「Z20.0」により指定された位置に達したか否かを判定する。CPU21は指定された位置に達したと判定した場合、主軸センサ34により検出した主軸5Aの回転速度が回転指令「M03」により指定された回転速度に達したか否かを判定する。CPU21は回転速度に達していないと判定した場合、回転指令「M03」により指定された回転速度(S指令値)、検出手段により検出した回転速度、及び切削送り指令「G81」により指定された送り速度(F指令値)に基づいて、送り速度を決定する。CPU21は、決定した送り速度により切削送り指令「G81」に係る主軸5Aの移動を行う。これにより、主軸5Aの回転速度が回転指令「M03」により指定されたS指令値に達していない場合にも、切削送り指令「G81」に係る主軸5Aの移動を行ってワークを加工するので、回転指令「M03」を実行する場合に生じる待ち時間の影響を低減し、工作時間を短縮することができる。
【0044】
また本実施形態によれば、CPU21は、回転指令「M03」により指定されたS指令値に対する切削送り指令「G81」により指定されたF指令値の比の値に、主軸センサ34により検出した主軸5Aの回転速度を乗じた値、即ち上述の式(1)及び式(2)に示すF’値以下に送り速度を決定する。
図7に示すtr 時点からtf 時点まではF’値以下に送り速度が決定されている。S指令値に対するF指令値の比の値は、切削条件としての工具の1回転あたりの送り量に相当する。この切削条件以下で工具を移動させることにより、工具にかかる負担を増大させることなく加工を行うことができる。
【0045】
また本実施形態によれば、CPU21は、回転指令「M03」により指定されたS指令値に対する切削送り指令「G81」により指定されたF指令値の比の値に、主軸センサ34により検出した主軸5Aの回転速度を乗じた値、即ち上述の式(1)及び式(2)に示すF’値に送り速度を決定する。
図7に示すtx 時点からtf 時点まではF’値に送り速度が決定されている。F’値で工具6を移動させることにより工作時間を短縮することができる。
【0046】
(変形例)
上述の実施の形態においては、R点への位置決めが完了したtr 時点から主軸5AのZ軸方向への送り速度を許容最大加速度αで上昇させたが、tr 時点から主軸5AのZ軸方向への送り速度を上昇させる方法はこれに限るものではない。以下に示す変形例では、主軸5Aの回転速度がS指令値となる時点tf を推測し、一定加速度で主軸5AのZ軸方向への送り速度を上昇させて、時点tf で送り速度がF指令値となるようにCPU21が処理を実行する。
【0047】
図8は変形例に係るマシニングセンタによる加工プログラムの処理手順を示すフローチャートであり、
図9は変形例に係るマシニングセンタの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図9の上段には主軸5AのZ軸方向の送り速度が示してあり、下段には主軸5Aの回転速度が示してある。まず、
図9を参照して、CPU21がtr 時点から主軸5AのZ軸方向への送り速度を上昇させる際の送り速度の決定方法について説明する。
【0048】
主軸5Aの回転速度がリニアに上昇するとすれば、R点への位置決めが完了したtr 時点において、次の式が成り立つ。
tf −ts =(tr −ts )×(S指令値)/(tr 時点の主軸回転速度)・・(3)
また、計算のために次の関係式を用いる。
tf −tr =(tf −ts )−(tr −ts ) ・・・(4)
CPU21はtr 時点から主軸5AのZ軸方向への送り速度を上昇させる際に、次の式により算出される加速度Af を用いて、送り速度を決定する。
Af =(F指令値)/(tf −tr ) ・・・(5)
【0049】
まず、式(3)において、時点ts 、S指令値、tr 時点の主軸回転速度は既知となるので、左辺の(tf −ts )は算出することができる。算出した(tf −ts )、更にtr 、ts の値を式(4)の右辺に代入すれば、左辺の(tf −tr )が算出できる。算出した(tf −tr )、及びF指令値を式(5)の右辺に代入すれば、加速度Af を算出できる。CPU21は算出した加速度Af に基づいてtr 時点からtf 時点までの期間において主軸5AのZ軸方向への送り速度を決定するが、決定された送り速度は、式(1)及び式(2)に示すF’値以下となる。
【0050】
具体的にマシニングセンタの動作を
図8に示す処理手順に従って説明する。ステップS21、からステップS24までの処理は、
図6に示すステップS1からステップS4までの処理と同様であるので、簡潔のため説明を省略する。
【0051】
CPU21はステップS25で主軸センサ34により検出される主軸5Aの回転速度がS指令値よりも小さいか否か判定する。
図9に示すタイミングチャートの場合、主軸5AのR点への位置決めが完了したtr 時点で主軸5Aの回転速度は上昇途中であり、主軸5Aの回転速度がS指令値に達していない。ステップS25による判定の結果、主軸5Aの回転速度がS指令値よりも小さい場合(S25:YES)、CPU21は上述の式(3)に基づき(tf −ts )を算出する(ステップS26)。CPU21は上述の式(4)に基づき(tf −tr )を算出し(ステップS27)、更に上述の式(5)に基づき加速度Af を算出する(ステップS28)。CPU21は加速度Af を満たすようにZ軸モータ44を駆動し、主軸5AのZ軸方向の送り速度を上昇させる(ステップS29)。CPU21はステップS30によりtf 時点に到達したか否かを判定し、到達していないと判定した場合には(S30:NO)、ステップS29に戻る。ステップS29及びステップS30を繰り返すことによって、一定の加速度Af で主軸5AのZ軸方向の送り速度が上昇する。
【0052】
ステップS30による判定の結果、tf 時点に到達したと判定した場合(S30:YES)、及びステップS25で主軸5Aの回転速度がS指令値よりも小さくないと判定した場合(S25:NO)、CPU21は主軸5AのZ軸方向の送り速度をF指令値とし、切削送り処理を実行する(ステップS31)。CPU21は目標とするZ座標−3.0に近づくと送り速度の減速処理を実行する(ステップS32)。CPU21は主軸5AがZ座標−3.0に達するとZ軸方向への主軸5Aの送りを停止する停止処理を実行し(ステップS33)、tz1時点において主軸5Aを停止し、処理を終了する。
【0053】
比較のため、主軸5Aの回転速度がS指令値の90%になった時点で切削送りを開始する場合のタイミングチャートを
図9に一点鎖線で示す。主軸5Aの回転速度がS指令値の90%となるte 時点から主軸5AのZ軸方向の送り速度を許容最大加速度αで上昇させて切削送りを実行し、上記のtz1時点よりも遅いtz2時点において完了する。更に主軸5Aの回転速度がS指令値と等しくなった時点から切削送りを開始する場合には完了時点tz2は更に遅い時点となる。
【0054】
以上のとおり本変形例によれば、CPU21は、主軸5Aの回転速度が回転指令「M03」により指定されたS指令値となる時点tf に切削送り指令「G81」により指定されたF指令値になるように、送り速度に係る加速度Af を決定する。CPU21は、決定した加速度Af によって、回転指令「M03」により指定されたS指令値に対する切削送り指令「G81」により指定されたF指令値の比の値としての切削条件以下となる主軸5Aの送り速度を簡便に決定できる。
【0055】
尚本実施の形態においては、工具交換方式として工具交換アーム15を用いるマシニングセンタを例に説明を行ったが、これに限るものではなく、他の工具交換方式を採用したマシニングセンタに本発明を適用してもよい。例えば、主軸ヘッドが上昇することで主軸に装着した工具を工具マガジンに装着し、その後、工具マガジンを所定の位置に回転位置決めした後、主軸ヘッドが下降することで、主軸に工具マガジンが把持した工具を装着する工具交換方式であってもよい。
加工指令として「G81」を示したが、他の指令でもよい。例えば、「G1」の直線補間指令、「G2」の円弧補間指令、「G83」の深穴ドリルサイクル指令等、切削送りの指令であればよい。