【実施例】
【0011】
図2は、本発明の実施例に係る長共振器構造のVCSELの概略断面図である。同図に示すように、本実施例のVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、Al組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された、共振器長を延長する共振器延長領域104、共振器延長領域104上に形成されたn型のキャリアブロック層105、キャリアブロック層105上に形成された、上部および下部スペーサ層に挟まれた量子井戸層を含む活性領域106、活性領域106上に形成されたAl組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたp型の上部DBR108を積層して構成される。
【0012】
n型の下部DBR102は、Al
0.9Ga
0.1As層とAl
0.3Ga
0.7As層とのペアの複数層積層体で、各層の厚さはλ/4n
r(但し、λは発振波長、n
rは媒質の屈折率)であり、これらを交互に40周期で積層してある。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×10
18cm
-3である。
【0013】
共振器延長領域104は、一連のエピタキシャル成長により形成されたモノリシックな層である。従って、共振器延長領域104は、GaAs基板と格子定数が一致しまたは整合するような、AlGaAs、GaAsまたはAlAsから構成される。ここでは、780nm帯のレーザ光を出射させるため、共振器延長領域104は、光吸収を生じさせないAlGaAsから構成される。共振器延長領域104の膜厚は、発振波長λの数倍ないし数十倍であり、キャリアの移動距離が長くなる。このため、共振器延長領域104は、キャリアの移動度が速いn型であることが望ましく、それゆえn型の下部DBR102と活性領域106との間に挿入される。例えば、共振器延長領域104の膜厚は、3ないし4ミクロン程度、または光学的膜厚は16λ程度である。このような共振器延長領域104は、空洞延長領域またはキャビティスペースとしても参照され得る。
【0014】
好ましくは、共振器延長領域104と活性領域106との間に、例えばAl
0.9Ga
0.1Asからなるバンドギャップの大きいキャリアブロック層105が形成される。キャリアブロック層105の挿入により、活性領域106からのキャリアリークが防止され、発光効率が改善される。後述するように、共振器延長領域104には、レーザ光の発振強度を幾分減衰させるような光学的損失を与える層が挿入されるので、キャリアブロック層105は、こうした損失を補填する役割を担う。例えば、キャリアブロック105の膜厚は、λ/4mn
r(但し、λは発振波長、mは整数、n
rは媒質の屈折率)である。
【0015】
活性領域106の下部スペーサ層は、アンドープのAl
0.6Ga
0.4As層であり、量子井戸活性層は、アンドープAl
0.11Ga
0.89As量子井戸層およびアンドープのAl
0.3Ga
0.7As障壁層であり、上部スペーサ層は、アンドープのAl
0.6Ga
0.4As層である。
【0016】
p型の上部DBR108は、p型のAl
0.9Ga
0.1As層とAl
0.4Ga
0.6As層との積層体で、各層の厚さはλ/4n
rであり、これらを交互に29周期積層してある。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×10
18cm
-3である。好ましくは、上部DBR108の最上層には、p型GaAsからなるコンタクト層が形成され、上部DBR108の最下層もしくはその内部には、p型AlAsの電流狭窄層110が形成される。
【0017】
上部DBR108から下部DBR102に至るまで半導体層をエッチングすることにより、基板100上に円筒状のメサ(柱状構造)Mが形成され、電流狭窄層110は、メサMによって露出される。電流狭窄層110には、メサMの側面から選択的に酸化された酸化領域110Aと酸化領域110Aによって囲まれた導電領域(酸化アパーチャ)110Bが形成される。酸化工程において、AlAs層はAlGaAs層よりも酸化速度が速く、酸化領域110Aは、メサMの側面から内部に向けてほぼ一定の速度で酸化されるため、導電領域110Bの基板と平行な平面形状は、メサMの外形を反映した形状、すなわち円形状となり、その中心は、メサMの軸方向の光軸とほぼ一致する。長共振器構造のVCSEL10では、基本横モードを得るための導電領域110Bの径を、通常のλ共振器構造のVCSELとよりも大きくすることができ、例えば、導電領域110Bの径を7ないし8ミクロン程度まで大きくすることができ、高光出力化を図ることが可能になる。
【0018】
メサMの最上層には、Ti/Auなどを積層した金属製の環状のp側電極112が形成され、p側電極112は、上部DBR108のコンタクト層にオーミック接続される。p側電極112には、メサMの光軸と一致する中心の円形状の光出射窓112Aが形成され、当該窓112Aからレーザ光が外部へ出射される。さらに基板100の裏面には、n側電極114が形成される。
【0019】
上記したように、長共振器構造のVCSELでは、共振器長で規定される反射帯域内に複数の縦モードが存在するため、縦モード間のスイッチングまたはポッピングを抑制する必要がある。
図3は、長共振器構造のVCSELにおいて発生する複数の縦モードの例を示している(縦軸は、反射率、横軸は波長である)。ここでは、必要な縦モードTmの発振波長帯を780nmとし、それ以外の縦モードの発振波長帯765nmおよび795nmを不要な縦モードTxとする。従って、本実施例では、不要な縦モードTxへのスイッチングを抑制するべく、共振器延長領域104内に不要な縦モードTxの定在波に対して光学的損失を与える層が設けられる。
【0020】
図4は、本実施例のVCSEL10の共振器延長領域104の詳細な構成を示す断面図である。同図に示すように、下部DBR102は、Al組成が相対的に低い高屈折率層102AとAl組成が相対的に高い低屈折率層102Bの対を積層して構成される。下部DBR102上には、順に共振器延長領域104、キャリアブロック層105、活性領域106が形成される。活性領域106の下部スペーサ層106Aは、キャリアブロック層105に隣接し、上部スペーサ層106Cとの間に多重量子井戸層106Bが形成される。活性領域106に隣接して電流狭窄層110が形成され、さらにAl組成が相対的に低い高屈折率層108AとAl組成が相対的に高い低屈折率層108Bの上部DBR108が形成される。
【0021】
本実施例の共振器延長領域104には、不要な縦モードTxに対して光学的損失を与えるように、必要な縦モードTmの定在波の節の位置に層120が導入されている。光学的損失を与える層120は、共振器延長領域104を構成する半導体層と同じAl組成の半導体材料から構成され、例えば、Al
0.3Ga
0.7Asから構成される。光学的損失を与える層120は、好ましくは、共振器延長領域104を構成する半導体層よりも不純物のドーピング濃度が高く、例えば、共振器延長領域104を構成するAlGaAsの不純物濃度が1×10
17cm
-3であるとき、光学的損失を与える層120は、1×10
18cm
-3の不純物濃度を有し、他の半導体層よりも1桁程度、不純物濃度が高くなるように構成される。不純物濃度が高くなると、キャリアによる光の吸収が大きくなり、損失が与えられる。光学的損失を与える層120の膜厚は、必要な縦モードTmへの損失が大きくならないように選択され、好ましくは、定在波の節に位置する電流狭窄層110と同程度の膜厚(10〜30nmくらい)である。
【0022】
光学的損失を与える層120は、必要な縦モードTmの定在波に対しては節に位置するように挿入される。定在波の節は、強度が弱いので、光学的損失を与える層120が必要な縦モードTmに与える損失の影響は小さい。他方、不要な縦モードTxの定在波に対しては、光学的損失を与える層120は、節以外の腹に位置する。定在波の腹は、節よりも強度が大きくなるため、光学的損失を与える層120が不要な縦モードTxに与える損失は大きくなる。こうして、必要な縦モードTmへの損失を小さくしつつ、不要な縦モードTxへの損失を大きくすることで、選択的に不要な縦モードTxが共振されないようにし、縦モードホッピングの抑制が行われる。
【0023】
必要な縦モードTmの波長をλ1、屈折率をnとすると、λ1/(4・n)が定在波の節の位置となる。例えば、λ1を780nm、屈折率を3.1とすると、約56nm毎に定在波の節となる。光学的損失を与える層120の膜厚は、上記したように電流狭窄層110と同程度の膜厚である10〜30nmくらいが望ましいが、その膜厚が大きくなりすぎると、必要な縦モードTmの節から外れた部分での損失が大きくなってしまう。従って、光学的損失を与える層120の膜厚の上限は、定在波の光強度分布の半分以下となるようなλ1/4n以下であることが望ましい。
【0024】
また、
図4に示す例では、共振器延長領域104の必要な縦モードTmの定在波の各節の位置に複数の光学的損失を与える層120を形成したが、光学的損失を与える層120は、必ずしも複数である必要はなく、単一の層であってもよい。この場合、定在波の強度は、活性領域106に近いほど大きくなるので、活性領域106から近い節の位置に光学的損失を与える層120を形成することができる。
【0025】
さらに光学的損失を与える層120は、上記したようにドーピングによる不純物濃度を高くする以外にも、例えば、発振波長λに対して光吸収をするような半導体材料から構成されるものであってもよい。例えば、発振波長λが780nm帯であれば、共振器延長領域104を構成する層のうち、光学的損失を与える層120は、発振波長λを吸収するGaAsで構成し、光学的損失を与える層120以外の層はAlGaAsを用いて構成してもよい。この場合にも、GaAsを挿入する位置およびその膜厚は、必要な縦モードTmへの損失を小さくし、不要な縦モードTxの損失を大きくするように選択される。
【0026】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。
図5は、第2の実施例の長共振器構造のVCSELの共振器延長領域の詳細を示す断面図である。第2の実施例では、光学的損失を与える層120は、不要な縦モードTxの定在波の腹の部分に挿入され、節の部分には挿入されないようにする。不要な縦モードTxの節の部分に、光学的損失を与える層120を挿入しても、その損失は小さいので、損失が大きくなる腹の部分にのみ挿入する。これにより、必要な縦モードTmの定在波への損失の影響も最小限にすることができる。
図5に示す例は、
図4に示す共振器延長領域104において、不要な縦モードTxの節n1、n2に位置する光学的損失を与える層を削除したものである。
【0027】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
図6は、第3の実施例に係る長共振器構造のVCSEL10Aの概略断面図である。第3の実施例では、p型のGaAs基板100上に、p型の下部DBR102が形成される。下部DBR102のうちの活性領域106に隣接する低屈折率層またはその一部は、電流狭窄層110に置換される。活性領域106上に、n型のキャリアブロック層105が形成され、キャリアブロック層105上にn型の共振器延長領域104が形成され、共振器延長領域104上にn型の上部DBR108が形成される。基板100の底部には、p側電極112が形成され、上部DBR114の頂部には、円形の出射窓114Aを含むn側電極114が形成される。なお、第3の実施例においてメサMを形成する場合は、エッチングは、下部DBR102に到達し、電流狭窄層110が露出する深さまで行われる。
【0028】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0029】
上記実施例では、下部DBR102および上部DBR108を、AlGaAsにより形成したが、AlGaAs以外の半導体材料を用いて、高屈折率層と低屈折率層の対を形成することができる。例えば、発振波長が長い場合には、高屈折率層としてGaAs、低屈折率層としてAlGaAsのように、GaAsを用いてDBRを構成してもよい。
【0030】
上記実施例では、選択酸化型の長共振器構造のVCSELを例示したが、選択酸化型の代わりにプロトンイオン注入をすることで絶縁領域を形成するようにしてもよい。この場合、基板上にメサを形成する必要はない。
【0031】
上記実施例では、メサの頂部からレーザ光を出射させる例を示したが、メサを形成せず、基板の裏面からレーザ光を出射させるようにしてもよい。この場合、下部DBR102の反射率を上部DBR108の反射率よりも小さくし、n側電極114に出射窓を形成する。
【0032】
上記実施例では、基板の裏面にn側電極114を形成する例を示したが、n側電極114は、下部DBR102に直接接続されるようにしてもよい。この場合には、基板100は、半絶縁性とすることができる。
【0033】
さらに、GaAs基板100と下部DBR102との間に必要に応じてバッファ層を形成するようにしてもよい。さらに上記実施例では、GaAs系のVCSELを例示したが、本発明は、他のIII−V族の化合物半導体を用いた長共振器のVCSELにも適用することができる。さらに、上記実施例では、シングルスポットのVCSELを例示したが、基板上に多数のメサ(発光部)が形成されたマルチスポットのVCSELあるいはVCSELアレイであってもよい。
【0034】
次に、本実施例の長共振器構造のVCSELを利用した面発光型半導体レーザ装置、光情報処理装置および光伝送装置について図面を参照して説明する。
図7(A)は、VCSELと光学部材を実装(パッケージ)した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す断面図である。面発光型半導体レーザ装置300は、長共振器構造のVCSELが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。導電性のリード340、342は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、一方のリード340は、VCSELのn側電極に電気的に接続され、他方のリード342は、p側電極に電気的に接続される。
【0035】
チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内に光学部材のボールレンズ360が固定されている。ボールレンズ360の光軸は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。リード340、342間に順方向の電圧が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310とボールレンズ360との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内にボールレンズ360が含まれるように調整される。また、キャップ内に、VCSELの発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0036】
図7(B)は、他の面発光型半導体レーザ装置の構成を示す図であり、同図に示す面発光型半導体レーザ装置302は、ボールレンズ360を用いる代わりに、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362を固定している。平板ガラス362の中心は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。チップ310と平板ガラス362との距離は、平板ガラス362の開口径がチップ310からのレーザ光の広がり角度θ以上になるように調整される。
【0037】
図8は、VCSELを光情報処理装置の光源に適用した例を示す図である。光情報処理装置370は、
図7(A)または
図7(B)のように長共振器構造のVCSELを実装した面発光型半導体レーザ装置300または302からのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム(記録媒体)380を備えている。このように、VCSELからのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0038】
図9は、
図7(A)に示す面発光型半導体レーザ装置を光伝送装置に適用したときの構成を示す断面図である。光伝送装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸がボールレンズ360の光軸に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。
【0039】
チップ310の表面から出射されたレーザ光は、ボールレンズ360によって集光され、集光された光は、光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。上記例ではボールレンズ360を用いているが、これ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。さらに、光伝送装置400は、リード340、342に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光伝送装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。