【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本明細書においては、前後、上下の方向は
図1に示す方向であるとして説明する。本実施例においてはオイル供給が必要とされる携帯型作業機の例として、ソーチェンに潤滑オイルを供給しながら作業を行うエンジンチェンソーを例にして説明する。
【0018】
図1は本実施例に係るチェンソー1の外観形状を示す右側面図である。チェンソー1は、2サイクルや4サイクルエンジンなどの小型のエンジン、またはモータ等の駆動源により駆動されるものであって、本体部の前方にガイドバー11が突出する。ガイドバー11の周縁には、ソーチェン12が巻回され、ソーチェンを高速で回転させることによって木や枝などの切断が可能となる。本実施例では図示しない2サイクルエンジンがハウジング2内に収納される。ハウジング2はエンジンを収容するだけでなく、その周囲にガイドバー11やカバー類を取り付けるもので、チェンソー1の骨格部分である。ハウジング2の上方には、メインハンドル3が設けられる。メインハンドル3の前方側には、ハンドガード4が設けられる。ハンドガード4は、作業者の手に、枝や切断物などがあたらないように保護する役割をすると共に、ハンドガード4を前方に傾けることによりソーチェン12の回転を停めるブレーキの役割を兼用する。ハウジング2の右側(以下、本明細書は、作業者がチェンソー1を保持した際を基準に、
図1のように前後上下を定義し、ソーチェン12が取り付けられる側、即ち作業者の右手側を右側として説明する)は、ライトカバー5で覆われ、ライトカバー5の内側には、エンジンからソーチェン12への駆動力伝達機構が取り付けられる。動力伝達機構には図示しない遠心クラッチが含まれ、エンジンの出力は駆動軸から遠心クラッチを介してソーチェン12に伝達される。
【0019】
メインハンドル3は、作業者が右手で把持するためのハンドルであり、作業者は右手でメインハンドル3を把持して、左手でフロントハンドル(図示せず)を把持して作業を行う。メインハンドル3の下側には、エンジンの回転数を調整するためのスロットル7が設けられ、スロットル7を引くことで、アイドル状態から全速状態まで任意の回転数に調節することができる。アイドル状態からエンジンの回転数が所定回転数まで上昇すると、図示しない遠心クラッチの作用によってガイドバー11の外周に巻かれたソーチェン12が回転を開始し、樹木等を切断することができる。
【0020】
図2は、本発明の実施例に係るチェンソー1のオイルポンプ20付近の拡大部分断面図である。ハウジング2の前方下側の内部空間には、オイルタンク14が設けられる。このオイルタンク14に貯蔵されるオイル15はソーチェン12等の作動工具の可動部分へ供給するための潤滑剤であって、供給されるオイル15はソーチェン12に付着することで、ガイドバー11とソーチェン12、ソーチェン12と被削材がなめらかに作動するようにして、これらの焼き付きを防止する。オイル15は、エンジンの駆動軸13に接続されたオイルポンプ20によってオイルタンク14の中から吸入通路17を通り吸い上げられ、オイルポンプ20から所定の圧力で排出されたオイルは排出通路18を通り排出口18aより吐出される。
【0021】
オイルポンプ20は、エンジンの駆動軸13の回転運動をギヤ手段を用いて別の回転運動に変換し、図示しないポンプ軸の回転によって実現されるポンプ機構によって、オイル15を排出口18aに排出させる液体ポンプ手段であって、ネジ30によってハウジング2に取り付けられる。ギヤ手段は、エンジンの駆動軸13に設けられたウォームネジ16と、ウォームネジ16に係合して回転するウォームギヤ(後述)によって構成される。尚、オイルポンプ20を取り付ける位置は
図2の位置だけに限られずに、駆動軸13の動力を伝達できる場所であって、オイルタンク14からオイルを吸引するのに好適な場所であればその他の位置であっても良い。オイルポンプ20によって排出されたオイル15は、ガイドバー11に設けられた吐出穴29より吐出され、ソーチェン12に付着する。オイルポンプ20の吸入口に接続される吸入通路17はオイルタンク14の内部まで延びるように配置され、その先端にはオイル15中のゴミを濾過するフィルタ19が設けられる。
【0022】
次に、本実施例のオイルポンプ20について説明する。まず、本実施例のオイルポンプ20を説明する前に、従来例のオイルポンプ120の構造を
図11及び
図12を用いて説明する。
図11は従来例のオイルポンプ120の構造を示す縦断面図である。オイルポンプ120は、一方の端部の閉じた円筒状のポンプケース121の内部空間でポンプ軸22が回転しながら軸方向に一回転毎に一往復するように往復移動をする。ポンプケース121の内部の閉じられた一方端はポンプ室121bとされ、オイルタンク14と連通する吸入通路17と、オイルの吐出側である排出通路18が接続される。吸入通路17と排出通路18はここでは一体部品として形成され、円筒状の部分がポンプケース121の端部に嵌合される。ポンプケース121内に配置されたポンプ軸22は、エンジンの駆動軸13に取り付けられたウォームネジ16と螺合するウォームギヤ23により回転するもので、スプリング等の弾性体28によって軸方向に押圧される。この押圧方向は、ポンプケース121の閉鎖された端部とは反対側の開放端側へポンプ軸22を付勢する方向である。ポンプ軸22の開口端側の端部は、固定ピン24を用いて軸方向への抜け止めをしている。このとき、ポンプ軸22の端面に傾斜部22aを設け、傾斜部22aの外周縁が固定ピン24にあたりながらポンプ軸22が回転することによりポンプ軸22が軸方向に前後運動する。
【0023】
ポンプケース121のポンプ室121bには、オイルタンク14と連通する吸入通路17と対向する吸入口121dと、給油部分に連通する排出通路18と対向する排出口121eが開口し、これらは回転するポンプ軸22の外周面によって開放又は閉鎖される。ポンプ軸22の先端付近であって外周面の一部には、平面状に切り落とされた切欠き部22cが形成され、ポンプ軸22の回転に伴って切欠き部22cが吸入口121d又は排出口121eと対面することにより、吸入口121d又は排出口121eとの間に隙間を設けて、これらの開閉を行っている。吸入時においては、吸入通路17とポンプ室121bが連通され、ポンプ軸22の切欠き部22cと軸方向反対側の外周部分により排出口121eが閉鎖される。さらに、ポンプ軸22の回転によってポンプ軸22が
図11の矢印にて示すようにギヤ室121a側へ移動するため、ポンプ室121bの体積が膨張し、ポンプ室121bへオイルを効果的に吸引することができる。また、ポンプ室121bからオイルを排出するときは、ポンプ軸22が回転して傾斜部22aによって
図12の矢印にて示すようにポンプ軸22がポンプ室121b側へ移動する。そのため、ポンプ室121bと排出通路18が連通して、吸入口121dを閉鎖し、この状態でポンプ室121bの体積を圧縮することで、オイルが排出口121eを通り排出通路18から吐出される。
【0024】
次に本実施例に係るオイルポンプ機構の実施例を
図3〜
図6を用いて説明する。本実施例において従来例と同一部品の部分には同一の符号を付している。オイルポンプ20はネジ穴21fに貫通させるネジ30(
図2参照)によってハウジング2に固定される。
図3はオイルポンプ20の縦断面図であって、吸入時の状態を示す図であり、
図4は排出時の状態の縦断面図である。本実施例において従来例と異なることはポンプ軸22が所定の回転位置に来たときにポンプ室21bとギヤ室21aを連通させるオイル溝27を設けたことになる。ここでギヤ室21aとは、円筒形のポンプケース21の閉空間たるポンプ室21bと隔てられた側の空間であって、弾性体28とウォームギヤ23が収容される室内である。本実施例ではギヤ室21aは完全に密閉状態ではなく、ウォームネジが位置する開口部21c(
図4参照)が設けられる開放空間である。通常は、円柱状のポンプ軸22の外周面と円筒状のポンプ軸の内周面によってポンプ室21bとギヤ室21aは空間的に分離されるが、本実施例ではオイル溝27を形成してこれらを接続した。オイル溝27は排出口21eに接続されるように配設され、吸入時においてポンプ室21bと排出通路18は、ポンプ軸22の先端部22bによってシールされることによりオイル溝27を介してポンプ室21bとオイル溝27が連通することはない。
【0025】
図4は
図3の状態からポンプ軸22が180度回転した際の状態を示した図である。排出時のポンプ室21bは、排出通路18と連通するため、圧縮によってオイルが排出されると同時に、オイル溝27を通りギヤ室21a側へ微量のオイルが排出される。このとき、オイル溝27のオイルがポンプ軸22と接触するため、ポンプ軸22の回転時にオイルがポンプ軸22の外周に付着することで、ポンプケース21とポンプ軸22の間にオイルが入り込み、シール材としての効果を発揮して、吸入時においてはギヤ室21aとポンプ室21bの気密性を高めてくれる。オイル溝27の幅や深さはほんのわずか程度で良く、例えば溝の深さ(径方向の長さ)は0.6mm以下とし、ポンプケース21とポンプ軸22の間にかろうじてオイルが入り込む程度のオイル溝27としてオイル溝27のウォームギヤ23側の開口からオイルが過剰に排出されないように構成すると好ましい。このように構成すれば、オイルを用いてポンプケース21とポンプ軸22の隙間を効果的にシールすることが可能となり、耐久性を向上させるとともにオイルポンプ20の性能を向上させることができる。
【0026】
図5は
図3のオイルポンプ20のA−A部の縦断面図である。オイルポンプ20のポンプケース21の内壁の一部であって、ポンプ軸22軸方向に平行して延びるようにオイル溝27がポンプケース21の内周付近に形成される。オイル溝27はポンプ軸22と接触する位置に設けるのが好ましく、その深さ(径方向の長さ)、幅(周方向の長さ)はポンプ室21bからギヤ室21a側へどの程度オイルを流すかによって最適に設定すれば良い。
図5の断面図では発明の理解のためオイル溝27の大きさを大きめに描いているが、ギヤ室21a側からポンプ軸22側にオイルを流すと言うよりは、オイルをポンプケース21とポンプ軸22の間の隙間に塗布してシールするという目的であるので、実際には図示したようなサイズでなくもっと幅が狭くて浅い溝で良い。
【0027】
図6はオイルポンプ20の各通路の開閉タイミングを示す図である。この図ではポンプ軸22が基準位置、即ち
図3にある位置から1回転するときの吸入通路17の吸入口21dと、排出通路18の排出口21eの状態、及びポンプ室21bの状態(膨張か圧縮か)を示している。オイルポンプ20の吸入口21dは、基準位置(ポンプ軸22の切欠き部22cの法線が吸入通路17の軸線と一致する位置)の前後66度の範囲で連通状態となる。このように連通状態が132度程度と広くなるのはポンプ軸22の外周側の一部が平面状に切り欠かれており、吸入口21d前に所定の空間が存在するからである。一方、回転角で114度〜246度までの間は排出口21eがポンプ室21bと連通する。ポンプ軸22の回転角が66〜114度、246〜294度の間はポンプ室21bがいずれの開口とも連通しない密封状態となる。
【0028】
この際のポンプ室21bの状態は、回転角で307〜53度が膨張状態で、127度〜233度がポンプ室21bの圧縮状態となる。本実施例においては、排出口21eとポンプ室21bが連通状態の際にオイル溝27も同時に連通するように構成した。この同時に連通するのはオイル溝27が排出口21eから分岐するように配置されるからである。このような構成によりポンプ室21bから排出口21eへ排出されるオイルのほんの一部をギヤ室21a側へ送出するように構成した。このようにポンプケース21の内径部にオイル溝27を設け、ギヤ室21a側にオイルを流すことでポンプ軸22とポンプケース21の間に適量のオイルを維持することができるので、機密性を良好に保つことができる。尚、オイル溝27の配置位置を円周方向に移動させて排出口21eと独立した位置に設けることによって、
図6のオイル溝が連通するタイミングをずらしたり、連通する期間を変更することが可能である。そのオイル溝をずらした第2の実施例を示すのが
図7である。