特許第5998725号(P5998725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998725
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】携帯型作業機
(51)【国際特許分類】
   F04B 7/06 20060101AFI20160915BHJP
   F04B 53/18 20060101ALI20160915BHJP
   B27B 17/12 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   F04B7/06
   F04B53/18
   B27B17/12
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-173309(P2012-173309)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-31774(P2014-31774A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100095887
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿久保 伸一
(72)【発明者】
【氏名】平井 貴大
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04465440(US,A)
【文献】 実公平05−026316(JP,Y2)
【文献】 実開昭61−095998(JP,U)
【文献】 実開昭62−156167(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 7/06
B27B 17/12
F04B 53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸を有する動力源と、前記駆動軸の回転運動を用いてオイルを吸引及び排出するオイルポンプと、前記オイルポンプにて吸引されるオイルを貯留するオイルタンクを有し、前記オイルタンクから吸引された前記オイルを作動工具の可動部へ供給しながら作業を行う携帯型作業機において、
前記オイルポンプは、端部が閉鎖され吸入通路と排出通路が接続されるポンプ室と、前記駆動軸の回転運動を変換するギヤを収容するギヤ室と、を形成するポンプケースと、前記ポンプケースに収容され前記ギヤに接続されてその先端が前記ポンプ室内で回転運動をするポンプ軸を有し、
前記ポンプケース内に、前記ポンプ軸が所定の回転位置に来たときに前記ポンプ室と前記ギヤ室を連通させるオイル溝を設け
前記オイル溝は、前記オイルが前記吸入通路から前記ポンプ室へ吸入される際は前記ポンプ室と前記ギヤ室を連通させず、前記オイルが前記ポンプ室から前記排出通路に排出される時にのみ前記ポンプ室と前記ギヤ室を連通させる位置に形成され、
前記ポンプ室から前記オイルの排出時に、前記オイルの一部が前記オイル溝を通り前記ポンプ室から前記ギヤ室側へ流れるよう構成したことを特徴とする携帯型作業機。
【請求項2】
前記オイル溝が前記ポンプ軸と接触する位置に形成され、前記ポンプ軸の回転によって吸入通路、排出通路およびオイル溝が開閉されることを特徴とする請求項1に記載の携帯型作業機。
【請求項3】
前記ポンプケースにおいて前記オイル溝が、前記ポンプ軸と接する内壁部に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯型作業機。
【請求項4】
前記ポンプ軸は回転しながら軸方向に揺動運動をすることによって前記ポンプ軸の先端部が前記ポンプ室内において圧縮及び膨張を行い、
前記オイル溝は前記ポンプ軸の軸方向と平行に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の携帯型作業機。
【請求項5】
前記ギヤ室に連通する前記オイル溝が、排出通路を介してポンプ室と連通することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の携帯型作業機。
【請求項6】
前記オイル溝が、前記ポンプケースの壁中に形成された貫通穴により形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の携帯型作業機。
【請求項7】
前記オイル溝は、前記ポンプ軸に切欠き部もしくは溝を設けることにより形成されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の携帯型作業機。
【請求項8】
前記オイル溝が、前記ポンプ軸の先端面から内部を通り側面に貫通する貫通穴によって形成されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の携帯型作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェンソーのように、オイルタンクからオイル(潤滑油)を吸引して作動工具の可動部(ソーチェン)へオイルを供給しながら作業を行う携帯型作業機に関し、特にオイルポンプ機構を改良した携帯型作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型作業機におけるオイルポンプ機構は、ポンプケースの中に収納されるポンプ軸を弾性体で付勢し、固定ピンなどを用いて抜け止めをし、ポンプ軸が軸方向に前後運動することで、ポンプ室内の体積が膨張と圧縮を行い、オイルの吸入と排出を行う。ポンプ軸の回転にともなってポンプ室と吸入通路又は排出通路が交互に連通するが、ポンプ軸の固定ピン側のポンプ軸端面に傾斜部を設け、ポンプ室の膨張時にポンプ室内に吸入通路からオイルを吸入し、ポンプ室の圧縮時にポンプ室内から排出通路にオイルを排出する。このポンプ室とギヤ室の気密性、及び、ポンプ室と排出通路の気密を向上させるために、ポンプケースにおいてはポンプ軸が収まる箇所の加工精度を上げるように製造し、同時にポンプ軸の加工精度も上げることで気密性の向上を図り、安定したポンプ性能を実現している。
【0003】
オイルポンプによっては、ポンプケースとポンプ軸を合成樹脂で成型し、機械加工せずにそのまま組付けて使用する場合もあるが、その場合はポンプ室の吸入口と排出口の一方を閉鎖するとき、機械加工により製造された物に比べてポンプ軸との隙間が大きくなるため、何らかの隙間対策が必要となる。特許文献1では、吸入口もしくは排出口の開口部に対し、他方の閉口される通路の軸方向にポンプ軸を付勢する押圧装置を設け、閉口部分のシール性を向上させることで、ポンプ性能の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平5−26316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らの検討によると上記で述べたような従来の構造では、次のような問題があることがわかった。ポンプケースとポンプ軸の加工精度を上げることで気密性を向上させているが、量産のばらつきによってポンプケースとポンプ軸の隙間に大小の差が生じて、ポンプ性能の安定性を欠く要因となる。そのため、更なる加工精度の向上が必要となり、加工費の増加につながり、安価な部品提供を阻害することになる。また、気密性を上げるためにポンプケースとポンプ軸の隙間を小さくするようにすると、高速で回転しているポンプ軸に対してポンプ軸の外周に潤滑油を保持させることが困難となるため、ポンプケースのポンプ軸が収まる箇所の穴がかえって摩耗してしまい、長期間の使用によってポンプ性能が低下してしまう要因となってしまう。
【0006】
また、特許文献1では、ポンプケースとポンプ軸に押圧装置を設け、閉口部のシール性を向上させるように構成したが、この構成では部品点数が多くなりコストが増加するだけでなく、ポンプ軸が収まる箇所のポンプケースの精度が低い状態で一方向に押圧するとポンプ室とギヤ室の気密性が保たれなくなり、さらなるポンプ性能の低下を招く恐れがある。また別の解決方法として、ポンプケースとポンプ軸の嵌合部を長くしてポンプ室とギヤ室間の圧力損失を大きくすることで気密性を向上させることができるが、その構成を採用すると部品が大きくなる上、オイルポンプのコンパクト設計の障害となる。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は耐久性に優れ、長期間にわたって安定したポンプ性能を維持できるオイルポンプ付きの携帯型作業機を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、製造加工精度にあまり左右されずに安定して稼働するオイルポンプ付きの携帯型作業機を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的はオイルポンプ機構の大きさをコンパクトに維持したままオイルポンプ機構の性能及び耐久性を向上させた携帯型作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0011】
本発明の一つの特徴によれば、駆動軸を有する動力源と、駆動軸の回転運動を用いてオイルを吸引及び排出するオイルポンプと、オイルポンプにて吸引されるオイルを貯留するオイルタンクを有し、オイルタンクから吸引されたオイルを作動工具の可動部へ供給しながら作業を行う携帯型作業機において、オイルポンプは、端部が閉鎖され吸入通路と排出通路が接続されるポンプ室と、駆動軸の回転運動を変換するギヤを収容するギヤ室を形成するポンプケースと、ポンプケースに収容されギヤに接続されてその先端がポンプ室内で回転運動をするポンプ軸を有し、ポンプケース内にポンプ軸が所定の回転位置に来たときにポンプ室とギヤ室を連通させるオイル溝を設けた。このオイル溝はポンプ軸と接触する位置に形成され、ポンプ軸の回転によって吸入通路、排出通路およびオイル溝が開閉され、ポンプ室からのオイル排出時に微量のオイルをギヤ室へ放出することで、回転しているポンプ軸の外周にオイルが付着して、ポンプケースとポンプ軸の間に良好にオイルを保持することができる。
【0012】
本発明の他の特徴によれば、オイル溝がポンプケースのポンプ軸と接する内壁部に形成される。ポンプ軸は回転しながら軸方向に揺動運動をすることによってポンプ軸の先端部がポンプ室内において圧縮及び膨張を行うもので、オイル溝はポンプ軸の軸方向と平行に形成される。オイル溝はオイルが吸入通路からポンプ室へ吸入される際は連通せず、オイルがポンプ室から排出通路に排出される時にのみ連通される位置に形成されると好ましく、ポンプ室からオイルの排出時にオイルの一部がオイル溝を通りポンプ室からギヤ室側へ流れるように構成する。
【0013】
本発明のさらに他の特徴によれば、ギヤ室に連通するオイル溝が、排出通路を介してポンプ室と連通するようにした。オイル溝は、ポンプケースの壁中に形成された貫通穴により形成すると良い。また、オイル溝をポンプ軸に切欠き部もしくは溝を設けることにより形成しても良い。さらに、オイル溝をポンプ軸の先端面から内部を通り側面に貫通する貫通穴によって形成しても良い。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ポンプケース内にポンプ軸が所定の回転位置に来たときにポンプ室とギヤ室を連通させるオイル溝を設けたので、オイル溝を設けることでポンプ性能が維持されて、安定したオイル吐出量を確保できる。また、ポンプ軸外周の軸方向に長い領域にてオイルを保持することができるため、高速で回転しているポンプ軸によるポンプケースの摩耗を防止することができ、部品の耐久性も向上することができる。さらに、オイル溝はオイルが吸入通路からポンプ室へ吸入される際は連通せず、オイルがポンプ室から排出通路に排出される時にのみ連通されるので、吸入時の圧力損出を防止できポンプ性能の低下を防止できる。
請求項2の発明によれば、オイル溝がポンプ軸と接触する位置に形成され、ポンプ軸の回転によって吸入通路、排出通路およびオイル溝が開閉されるので、ポンプケースとポンプ軸の隙間の精度および嵌合長に寄与されることなく、コンパクトで安定した加工工数の低い安価なオイルポンプ機構を提供することができる。
請求項3の発明によれば、オイル溝がポンプ軸と接する内壁部に形成されるので、ポンプケースとポンプ軸の隙間の精度に寄与されることなく、液漏れし難いオイルポンプ機構を有する携帯型作業機を実現できる。
請求項4の発明によれば、オイル溝はポンプ軸の軸方向と平行に形成されるので、ポンプ軸にオイルを付着させることでポンプ室とギヤ室間の物質の粘度を上昇させ、圧力損失が大きくなり、気密性を維持することができる
求項からの発明によれば、ギヤ室に連通するオイル溝が排出通路を介してポンプ室と連通するので、排出タイミングに合わせてオイル溝にオイルを供給することができる。
【0015】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例に係るチェンソー1の外観形状を示す右側面図である。
図2】本発明の実施例に係るチェンソー1のオイルポンプ20付近の拡大部分断面図である。
図3図2のオイルポンプ20の縦断面図であって、吸入時の状態を示す図である。
図4図2のオイルポンプ20の縦断面図であって、排出時の状態を示す図である。
図5図3のオイルポンプ20のA−A部の縦断面図である。
図6図3のオイルポンプ20の各通路の開閉タイミングを示す図である。
図7】第2の実施例に係るオイルポンプ40の溝形状を示す分解斜視図である。
図8】第3の実施例に係るオイルポンプ60を示す縦断面図である。
図9】第4の実施例に係るオイルポンプ80を示す縦断面図である。
図10】第5の実施例に係るオイルポンプ100を示す縦断面図である。
図11】従来の吸入時のオイルポンプ120の断面図であって、吸入時の状態を示す図である。
図12】従来の排出時のオイルポンプ120の断面図であって、排出時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本明細書においては、前後、上下の方向は図1に示す方向であるとして説明する。本実施例においてはオイル供給が必要とされる携帯型作業機の例として、ソーチェンに潤滑オイルを供給しながら作業を行うエンジンチェンソーを例にして説明する。
【0018】
図1は本実施例に係るチェンソー1の外観形状を示す右側面図である。チェンソー1は、2サイクルや4サイクルエンジンなどの小型のエンジン、またはモータ等の駆動源により駆動されるものであって、本体部の前方にガイドバー11が突出する。ガイドバー11の周縁には、ソーチェン12が巻回され、ソーチェンを高速で回転させることによって木や枝などの切断が可能となる。本実施例では図示しない2サイクルエンジンがハウジング2内に収納される。ハウジング2はエンジンを収容するだけでなく、その周囲にガイドバー11やカバー類を取り付けるもので、チェンソー1の骨格部分である。ハウジング2の上方には、メインハンドル3が設けられる。メインハンドル3の前方側には、ハンドガード4が設けられる。ハンドガード4は、作業者の手に、枝や切断物などがあたらないように保護する役割をすると共に、ハンドガード4を前方に傾けることによりソーチェン12の回転を停めるブレーキの役割を兼用する。ハウジング2の右側(以下、本明細書は、作業者がチェンソー1を保持した際を基準に、図1のように前後上下を定義し、ソーチェン12が取り付けられる側、即ち作業者の右手側を右側として説明する)は、ライトカバー5で覆われ、ライトカバー5の内側には、エンジンからソーチェン12への駆動力伝達機構が取り付けられる。動力伝達機構には図示しない遠心クラッチが含まれ、エンジンの出力は駆動軸から遠心クラッチを介してソーチェン12に伝達される。
【0019】
メインハンドル3は、作業者が右手で把持するためのハンドルであり、作業者は右手でメインハンドル3を把持して、左手でフロントハンドル(図示せず)を把持して作業を行う。メインハンドル3の下側には、エンジンの回転数を調整するためのスロットル7が設けられ、スロットル7を引くことで、アイドル状態から全速状態まで任意の回転数に調節することができる。アイドル状態からエンジンの回転数が所定回転数まで上昇すると、図示しない遠心クラッチの作用によってガイドバー11の外周に巻かれたソーチェン12が回転を開始し、樹木等を切断することができる。
【0020】
図2は、本発明の実施例に係るチェンソー1のオイルポンプ20付近の拡大部分断面図である。ハウジング2の前方下側の内部空間には、オイルタンク14が設けられる。このオイルタンク14に貯蔵されるオイル15はソーチェン12等の作動工具の可動部分へ供給するための潤滑剤であって、供給されるオイル15はソーチェン12に付着することで、ガイドバー11とソーチェン12、ソーチェン12と被削材がなめらかに作動するようにして、これらの焼き付きを防止する。オイル15は、エンジンの駆動軸13に接続されたオイルポンプ20によってオイルタンク14の中から吸入通路17を通り吸い上げられ、オイルポンプ20から所定の圧力で排出されたオイルは排出通路18を通り排出口18aより吐出される。
【0021】
オイルポンプ20は、エンジンの駆動軸13の回転運動をギヤ手段を用いて別の回転運動に変換し、図示しないポンプ軸の回転によって実現されるポンプ機構によって、オイル15を排出口18aに排出させる液体ポンプ手段であって、ネジ30によってハウジング2に取り付けられる。ギヤ手段は、エンジンの駆動軸13に設けられたウォームネジ16と、ウォームネジ16に係合して回転するウォームギヤ(後述)によって構成される。尚、オイルポンプ20を取り付ける位置は図2の位置だけに限られずに、駆動軸13の動力を伝達できる場所であって、オイルタンク14からオイルを吸引するのに好適な場所であればその他の位置であっても良い。オイルポンプ20によって排出されたオイル15は、ガイドバー11に設けられた吐出穴29より吐出され、ソーチェン12に付着する。オイルポンプ20の吸入口に接続される吸入通路17はオイルタンク14の内部まで延びるように配置され、その先端にはオイル15中のゴミを濾過するフィルタ19が設けられる。
【0022】
次に、本実施例のオイルポンプ20について説明する。まず、本実施例のオイルポンプ20を説明する前に、従来例のオイルポンプ120の構造を図11及び図12を用いて説明する。図11は従来例のオイルポンプ120の構造を示す縦断面図である。オイルポンプ120は、一方の端部の閉じた円筒状のポンプケース121の内部空間でポンプ軸22が回転しながら軸方向に一回転毎に一往復するように往復移動をする。ポンプケース121の内部の閉じられた一方端はポンプ室121bとされ、オイルタンク14と連通する吸入通路17と、オイルの吐出側である排出通路18が接続される。吸入通路17と排出通路18はここでは一体部品として形成され、円筒状の部分がポンプケース121の端部に嵌合される。ポンプケース121内に配置されたポンプ軸22は、エンジンの駆動軸13に取り付けられたウォームネジ16と螺合するウォームギヤ23により回転するもので、スプリング等の弾性体28によって軸方向に押圧される。この押圧方向は、ポンプケース121の閉鎖された端部とは反対側の開放端側へポンプ軸22を付勢する方向である。ポンプ軸22の開口端側の端部は、固定ピン24を用いて軸方向への抜け止めをしている。このとき、ポンプ軸22の端面に傾斜部22aを設け、傾斜部22aの外周縁が固定ピン24にあたりながらポンプ軸22が回転することによりポンプ軸22が軸方向に前後運動する。
【0023】
ポンプケース121のポンプ室121bには、オイルタンク14と連通する吸入通路17と対向する吸入口121dと、給油部分に連通する排出通路18と対向する排出口121eが開口し、これらは回転するポンプ軸22の外周面によって開放又は閉鎖される。ポンプ軸22の先端付近であって外周面の一部には、平面状に切り落とされた切欠き部22cが形成され、ポンプ軸22の回転に伴って切欠き部22cが吸入口121d又は排出口121eと対面することにより、吸入口121d又は排出口121eとの間に隙間を設けて、これらの開閉を行っている。吸入時においては、吸入通路17とポンプ室121bが連通され、ポンプ軸22の切欠き部22cと軸方向反対側の外周部分により排出口121eが閉鎖される。さらに、ポンプ軸22の回転によってポンプ軸22が図11の矢印にて示すようにギヤ室121a側へ移動するため、ポンプ室121bの体積が膨張し、ポンプ室121bへオイルを効果的に吸引することができる。また、ポンプ室121bからオイルを排出するときは、ポンプ軸22が回転して傾斜部22aによって図12の矢印にて示すようにポンプ軸22がポンプ室121b側へ移動する。そのため、ポンプ室121bと排出通路18が連通して、吸入口121dを閉鎖し、この状態でポンプ室121bの体積を圧縮することで、オイルが排出口121eを通り排出通路18から吐出される。
【0024】
次に本実施例に係るオイルポンプ機構の実施例を図3図6を用いて説明する。本実施例において従来例と同一部品の部分には同一の符号を付している。オイルポンプ20はネジ穴21fに貫通させるネジ30(図2参照)によってハウジング2に固定される。図3はオイルポンプ20の縦断面図であって、吸入時の状態を示す図であり、図4は排出時の状態の縦断面図である。本実施例において従来例と異なることはポンプ軸22が所定の回転位置に来たときにポンプ室21bとギヤ室21aを連通させるオイル溝27を設けたことになる。ここでギヤ室21aとは、円筒形のポンプケース21の閉空間たるポンプ室21bと隔てられた側の空間であって、弾性体28とウォームギヤ23が収容される室内である。本実施例ではギヤ室21aは完全に密閉状態ではなく、ウォームネジが位置する開口部21c(図4参照)が設けられる開放空間である。通常は、円柱状のポンプ軸22の外周面と円筒状のポンプ軸の内周面によってポンプ室21bとギヤ室21aは空間的に分離されるが、本実施例ではオイル溝27を形成してこれらを接続した。オイル溝27は排出口21eに接続されるように配設され、吸入時においてポンプ室21bと排出通路18は、ポンプ軸22の先端部22bによってシールされることによりオイル溝27を介してポンプ室21bとオイル溝27が連通することはない。
【0025】
図4図3の状態からポンプ軸22が180度回転した際の状態を示した図である。排出時のポンプ室21bは、排出通路18と連通するため、圧縮によってオイルが排出されると同時に、オイル溝27を通りギヤ室21a側へ微量のオイルが排出される。このとき、オイル溝27のオイルがポンプ軸22と接触するため、ポンプ軸22の回転時にオイルがポンプ軸22の外周に付着することで、ポンプケース21とポンプ軸22の間にオイルが入り込み、シール材としての効果を発揮して、吸入時においてはギヤ室21aとポンプ室21bの気密性を高めてくれる。オイル溝27の幅や深さはほんのわずか程度で良く、例えば溝の深さ(径方向の長さ)は0.6mm以下とし、ポンプケース21とポンプ軸22の間にかろうじてオイルが入り込む程度のオイル溝27としてオイル溝27のウォームギヤ23側の開口からオイルが過剰に排出されないように構成すると好ましい。このように構成すれば、オイルを用いてポンプケース21とポンプ軸22の隙間を効果的にシールすることが可能となり、耐久性を向上させるとともにオイルポンプ20の性能を向上させることができる。
【0026】
図5図3のオイルポンプ20のA−A部の縦断面図である。オイルポンプ20のポンプケース21の内壁の一部であって、ポンプ軸22軸方向に平行して延びるようにオイル溝27がポンプケース21の内周付近に形成される。オイル溝27はポンプ軸22と接触する位置に設けるのが好ましく、その深さ(径方向の長さ)、幅(周方向の長さ)はポンプ室21bからギヤ室21a側へどの程度オイルを流すかによって最適に設定すれば良い。図5の断面図では発明の理解のためオイル溝27の大きさを大きめに描いているが、ギヤ室21a側からポンプ軸22側にオイルを流すと言うよりは、オイルをポンプケース21とポンプ軸22の間の隙間に塗布してシールするという目的であるので、実際には図示したようなサイズでなくもっと幅が狭くて浅い溝で良い。
【0027】
図6はオイルポンプ20の各通路の開閉タイミングを示す図である。この図ではポンプ軸22が基準位置、即ち図3にある位置から1回転するときの吸入通路17の吸入口21dと、排出通路18の排出口21eの状態、及びポンプ室21bの状態(膨張か圧縮か)を示している。オイルポンプ20の吸入口21dは、基準位置(ポンプ軸22の切欠き部22cの法線が吸入通路17の軸線と一致する位置)の前後66度の範囲で連通状態となる。このように連通状態が132度程度と広くなるのはポンプ軸22の外周側の一部が平面状に切り欠かれており、吸入口21d前に所定の空間が存在するからである。一方、回転角で114度〜246度までの間は排出口21eがポンプ室21bと連通する。ポンプ軸22の回転角が66〜114度、246〜294度の間はポンプ室21bがいずれの開口とも連通しない密封状態となる。
【0028】
この際のポンプ室21bの状態は、回転角で307〜53度が膨張状態で、127度〜233度がポンプ室21bの圧縮状態となる。本実施例においては、排出口21eとポンプ室21bが連通状態の際にオイル溝27も同時に連通するように構成した。この同時に連通するのはオイル溝27が排出口21eから分岐するように配置されるからである。このような構成によりポンプ室21bから排出口21eへ排出されるオイルのほんの一部をギヤ室21a側へ送出するように構成した。このようにポンプケース21の内径部にオイル溝27を設け、ギヤ室21a側にオイルを流すことでポンプ軸22とポンプケース21の間に適量のオイルを維持することができるので、機密性を良好に保つことができる。尚、オイル溝27の配置位置を円周方向に移動させて排出口21eと独立した位置に設けることによって、図6のオイル溝が連通するタイミングをずらしたり、連通する期間を変更することが可能である。そのオイル溝をずらした第2の実施例を示すのが図7である。
【実施例2】
【0029】
図7は本発明の第2の実施例に係るオイルポンプ40の溝形状を示す分解斜視図である。第2の実施例ではオイル溝57を設けた位置、特に周方向の位置(ここで周方向とはポンプ軸が回転する方向を基準にする)が第1の実施例と異なる。第1の実施では排出口21eと同じ周方向位置に設けておりオイル溝27は排出口21eと連結されていた。第2の実施例では周方向にずらして、オイル溝57が排出口41eを介さない場所に、排出口41eとは干渉しない独立した溝として設けられる。この位置に設けた場合でも、オイル溝57が排出時にのみにポンプ室41bとギヤ室41aを連通することになる。第2の実施例の位置にオイル溝57を設けると、ポンプケース41の分割面(吸入口41dと排出口41eの中心を通る面)とずらしてオイル溝57を形成できるので、オイル溝57からのオイル漏れの可能性を防止できる。
【実施例3】
【0030】
図8は第3の実施例に係るオイルポンプ60を示す縦断面図である。第3の実施例では、オイル溝77が排出口61eに連結される点で第1の実施例と似ているが、オイル溝77が排出口61e近傍においてポンプケース61の外周を通るように形成され、ギヤ室61a側ではポンプケース61の外周を通るように外周側溝77bとして形成され、ポンプ室61bとギヤ室61aの中間地点付近で外周側溝77bから内周側溝77aに連結される。内周側溝77aはその上方がギヤ室61aに開口する。このようにオイル溝77が形成されることにより、矢印Aで示した付近の内壁が円周方向に連続していてシール部となるのでポンプ軸22がよりスムーズに回転することができ、剛性が高くて耐久性が高いオイルポンプを実現できる。また、オイル溝77の上側部分はポンプ軸22の外周面と接するので、オイル溝77に流れたオイルがポンプ軸22の外周面に効果的に塗布され、シール効果を効果的に高めることができる。
【実施例4】
【0031】
図9は第4の実施例に係るオイルポンプ80を示す縦断面図である。第4の実施例では、オイル溝97が排出口81e近傍においてポンプケース81の外周を通るように形成され、ギヤ室81aに接続される。このようにポンプ室81bとギヤ室81aを直接連通させポンプケース81の口元(段差状になった部分であって小さい矢印が書いてある付近)に直接オイルを供給する構造とした。
【実施例5】
【0032】
図10は第5の実施例に係るオイルポンプ100を示す縦断面図である。第5の実施例ではポンプ軸112の中を通るオイル穴116を設けた。オイル穴116はポンプ軸の軸心を通る軸方向溝116bと、軸方向溝116bから径方向に延びる径方向溝116aにより形成される。径方向溝116aが開口するのは1箇所であって、その開口部がポンプケース101の内壁に沿って軸方向に形成されたオイル溝117と一致したら、ポンプ室101bからオイルがオイル穴116、オイル溝117を通ってギヤ室101a側に流れる。このように排出時の所定回転角のみにポンプ室101bとギヤ室101aが連通するようにオイル穴116及びオイル溝117を配設した。
【0033】
以上、本発明を5つの実施例を用いて説明したが、いずれの実施例においても“使用期間が長くなるにつれて組み立て時に塗布されたオイルがなくなり気密が保たれなくなりポンプ性能が低下する”という現象を効果的に防止できる。特に本発明ではポンプ室からギヤ室をオイルの一部を供給するオイル穴又は/及びオイル溝を設けたのでので、常にポンプギヤとポンプケースの間のポンプ軸部分にオイルを存在させることができるので、ポンプ軸とポンプケース間のオイルによるシール効果を維持できる。この結果、長期間の使用によってポンプの性能は低下せずに、安定して稼働させることができる。
【0034】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例ではオイルを作動工具の可動部へ供給しながら作業を行う携帯型作業機としてエンジン式のチェンソーの例で説明したが、チェンソーだけに限られずにその他の作業機器のオイルポンプにおいても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 チェンソー 2 ハウジング
3 メインハンドル 4 ハンドガード
5 ライトカバー 7 スロットル
11 ガイドバー 12 ソーチェン
13 駆動軸 14 オイルタンク
15 オイル 16 ウォームネジ
17 吸入通路 18 排出通路
18a 排出口 19 フィルタ
20 オイルポンプ 21 ポンプケース
21a ギヤ室 21b ポンプ室
21c 開口部 21d 吸入口
21e 排出口 21f ネジ穴
22 ポンプ軸 22a 傾斜部
22b 先端部 22c 切欠き部
23 ウォームギヤ 24 固定ピン
27 オイル溝 28 弾性体
29 吐出穴 30 ネジ
40 オイルポンプ 41 ポンプケース
41a ギヤ室 41b ポンプ室
41d 吸入口 41e 排出口
57 オイル溝 60 オイルポンプ
61 ポンプケース 61a ギヤ室
61b ポンプ室 61e 排出口
77 オイル溝 77a 内周側溝
77b 外周側溝 80 オイルポンプ
81 ポンプケース 81a ギヤ室
81b ポンプ室 81e 排出口
97 オイル溝 100 オイルポンプ
101 ポンプケース 101a ギヤ室
101b ポンプ室 116 オイル穴
116a 径方向溝 116b 軸方向溝
117 オイル溝 120 オイルポンプ
121 ポンプケース 121a ギヤ室
121b ポンプ室 121d 吸入口
121e 排出口 121f ネジ穴
122 ポンプ軸
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
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図12