特許第5998932号(P5998932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5998932非ラウリン、非トランス、非テンパリング型製菓用油脂及びその製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5998932
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】非ラウリン、非トランス、非テンパリング型製菓用油脂及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20160915BHJP
   A23G 1/00 20060101ALI20160915BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   A23D9/00 500
   A23G1/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-522637(P2012-522637)
(86)(22)【出願日】2011年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2011064781
(87)【国際公開番号】WO2012002373
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-148707(P2010-148707)
(32)【優先日】2010年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 栄治
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 一磨
(72)【発明者】
【氏名】藤中 昌代
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−284899(JP,A)
【文献】 特開平09−285255(JP,A)
【文献】 特開2007−319043(JP,A)
【文献】 特表2005−520541(JP,A)
【文献】 特開平05−211837(JP,A)
【文献】 特開昭61−209545(JP,A)
【文献】 特開平08−089172(JP,A)
【文献】 Bailey's Industrial Oil and Fat Products,5th Edition,Vol.2,p.276-281
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00− 9/06
A23G 1/00
A23G 1/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件を全て満たす、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂。
(1)SSSの含有量が5〜19重量%
(2)S2Uの含有量が50〜85重量%
(3)SUS/SSU(重量比)が0.5〜0.6
(4)SU2、U3の合計が5〜30重量%
(5)St/P(重量比)が0.15〜0.35
但し、Sは炭素数14〜24の飽和脂肪酸、Uは炭素数14〜24の不飽和脂肪酸、Stはステアリン酸、Pはパルミチン酸を意味する。
【請求項2】
ジグリセリド含量が4〜9重量%である、請求項1記載の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂。
【請求項3】
パーム油又は、パーム分別油にステアリン酸を25重量%以上含有し、且つジグリセリドを5〜50重量%含有する油脂を5%以上配合し、ランダムエステル交換した後、分別操作にて請求項1〜2のいずれか1項記載の製菓用油脂を得ることを特徴とする製造法。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれか1項記載の製菓用油脂を使用したチョコレート類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶け、食感、離型性が良好で、且つカカオ脂との相溶性が高い非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂およびその製造法に関する。また、それらを使用した、ブルーム耐性が高く、艶も良く、口溶けの良好なチョコレート類に関する。
【背景技術】
【0002】
製菓用油脂の代表的な油脂として、従来よりカカオ脂が使用されている。カカオ脂は、体温付近での非常にシャープな融解特性をもっていることから、製菓用途において非常に良好な口溶け、食感をもたらす油脂素材として使用されている。しかしながら、カカオ脂は対称型ジ飽和モノ不飽和トリグリセリドを主成分とした、結晶多型を持つ油脂であることから、固化させるときに安定結晶を得るためテンパリング操作が必要となる。
しかしながら、上記テンパリング操作は熟練を要するものであるため、製菓業界では、しばしばテンパリングを必要としない製法が好まれる。この目的には、従来から、テンパリングを必要としない植物油脂に関する多くの検討が進められてきた。その結果として、ラウリン酸型及び高トランス脂肪酸含有型油脂が開発、上市されている。しかし、ラウリン酸型油脂は、保存時に加水分解による不快なソーピーフレーバーが発生するリスクがあること、高トランス酸型油脂は、近年の栄養学的見地からトランス酸の健康に与えるリスクが問題とされていることから、それらを代替する非テンパリング、非トランス型かつ非ラウリン酸型の製菓用油脂が要望されている。
【0003】
近年、下記のような非ラウリン、非トランス型の非テンパリング型ハードバターが提案されている。例えば、特許文献1、特許文献2では、SSU(1,2-飽和-3-不飽和トリグリセリド)を主成分とし、テンパリング処理を施さずチョコレート類に使用するとされているが、SSUの製造に当たっては、酵素1,3位特異性リパーゼを用いた酵素エステル交換と分別工程を必要とするため、工程が煩雑であるとともに価格的にも問題があった。また、特許文献3では、50重量%を超すSUS(1,3-飽和-2-不飽和トリグリセリド)を主体に8〜40重量%のSSU成分を配合し、全構成脂肪酸中、St(ステアリン酸):P(パルミチン酸)が1未満の油脂を得て、テンパリング処理を行なわずに該油脂をフィリング類に使用することを提案しているが、かかる油脂では、通常のココアバターや非テンパリング型ハードバターと同等の耐熱性及びスナップ性は得られない。
また、特許文献4では、SUS/SSUの質量比が0.4〜0.6で、St(ステアリン酸):P(パルミチン酸)を0.4〜0.9とした分別油脂を提案しているが、このSt/P比率では、コーティング用油脂などに使用した場合、口溶けが不十分で食感が劣る問題があった。
上記のように、非ラウリン、非トランス型で、しかも高トランス酸型油脂が有するようなカカオ脂含有系で良好なブルーム耐性、及び食感を両立する機能を持つ非テンパリング型油脂は未だ得られていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−224934号公報
【特許文献2】特開平6−14717号公報
【特許文献3】特開平5−211837号公報
【特許文献4】特開2009−284899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、口溶け、食感、離型性が良好で、且つカカオ脂との相溶性が高く、スナップ性、耐ブルーム性に優れた、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂を得ることを目的として種々の検討を行なった。
【0006】
本発明の目的は、従来のような口溶けが不十分でワキシ−感の残る食感ではなく、シャープな口溶けを維持しつつカカオ脂との相溶性も良好な非テンパリング型、非ラウリン型で、尚且つ実質的にトランス酸を含有しない製菓用油脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、パーム油をベースとするランダムエステル交換油の分別油において、油脂中のトリ飽和脂肪酸、ジグリセリド、ステアリン酸量のバランスをうまくとることにより、意外にも上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、1)下記(1)〜(5)の条件を全て満たす、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂。2)ジグリセリド含量が4〜9重量%である、1記載の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂。3)パーム油又は、パーム分別油にステアリン酸25重量%以上含有し、且つジグリセリドを5〜50重量%含有する油脂5%以上配合し、ランダムエステル交換した後、分別操作にて1〜2記載の製菓用油脂を得ることを特徴とする製造法。4)1〜2記載の製菓用油脂を使用したチョコレート類。を骨子とする。
(1)SSSの含有量が4〜20重量%
(2)S2Uの含有量が50〜85重量%
(3)SUS/SSU(重量比)が0.4〜0.8
(4)SU2、U3の合計が5〜30重量%
(5)St/P(重量比)が0.1〜0.4
但し、Sは炭素数14〜24の飽和脂肪酸、Uは炭素数14〜24の不飽和脂肪酸、Stはステアリン酸、Pはパルミチン酸を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のようなワキシ−感の残る食感ではなく、シャープな口溶けを維持しつつカカオ脂との相溶性も良好な非テンパリング型、非ラウリン酸型で、尚且つトランス酸を含有しない製菓用油脂を提供することができる。また、本発明の製菓用油脂を使用したチョコレート類は、カカオ脂の混合量を従来の高トランス酸型非テンパリング油脂と同等にすることができ、風味良好で、ブルーム耐性の優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の製菓用油脂は、下記(1)〜(5)の条件を全て満たす、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型の製菓用油脂である。
(1)SSSの含有量が4〜20重量%
(2)S2Uの含有量が50〜85重量%
(3)SUS/SSU(重量比)が0.4〜0.8
(4)SU2、U3の合計が5〜30重量%
(5)St/P(重量比)が0.1〜0.4
但し、Sは炭素数14〜24の飽和脂肪酸、Uは炭素数14〜24の不飽和脂肪酸、Stはステアリン酸、Pはパルミチン酸を意味する。
【0011】
本発明における非ラウリンとは、やし油やパーム核油などのラウリン系油脂を実質的に原料に用いないという趣旨であり、具体的には、製菓用油脂を構成する脂肪酸組成において炭素数6〜12の脂肪酸含量が5重量%未満、より好ましくは3重量%未満である。
また、本発明における非トランスとは、硬化油(極度硬化油を除く)を実質的に原料に用いないという趣旨であり、具体的には、構成脂肪酸においてトランス脂肪酸含量が2重量%未満、より好ましくは1重量%未満である。非テンパリング型とは、かかる製菓用油脂を用いてチョコレート類を製造する場合において、温度調整処理(テンパリング処理)を省略し、冷却固化させる方法によってもチョコレートを作成することができるタイプであることを意味する。
【0012】
(1)SSSは、構成する脂肪酸の全てがSであるトリグリセリドを意味するが、全てが同一鎖長の飽和脂肪酸のみから構成されるという意味ではなく、炭素数14〜24の範囲であれば良い。SSSの含有量は、本発明の製菓用油脂中4〜20重量%であることが必要であり、好ましくは5〜19重量%、より好ましくは7〜13重量%である。SSSの含有量が4重量%未満であると、結晶化速度が低下し、しかも得られるチョコレート類は適度な硬さが得られない。また、コーティング用途に使用した場合の固化速度が低下してしまう。また、20重量%超であると、得られるチョコレート類のスナップ性や口溶けが悪化してしまう。
(2)S2Uは、トリグリセリドの1,3位がSで2位がUのトリグリセリド(SUS)及び1,2位がSで3位がUのトリグリセリド(SSU)の両方を意味する。チョコレート類は、室温付近で硬く、体温付近で急速に溶解する性質が好ましいのであるが、このような性質を持つためには、S2Uの含量は50〜85重量%であることが必要であり、好ましくは55〜80重量%、さらに好ましくは65〜75重量%である。S2Uが50重量%未満であると、得られるチョコレート類が室温で軟らかくなりすぎ、85重量%超では室温で硬くなりすぎ、食感の悪化を招く。
(3)SUS/SSU(重量比)は、0.4〜0.8であることが必要であり、好ましくは、0.5〜0.6である。後述するように本発明の製菓用油脂は、典型的にはパーム油及び/又はパーム分別油等の原料油を金属触媒を用いてエステル交換し、高融点部と低融点部を分別除去することによって得られるので、SUS/SSU は、ほぼ0.5となる。この製菓用油脂に、パーム中融点部(PMF)などSUSを多く含む他の製菓用油脂を若干量配合することも可能であるが、0.8を超えると、カカオ脂と混合した時に、ブルームやグレーニングが発生しやすくなってしまう。また、0.4未満であれば、油脂のエステル交換と分別による濃縮が必要となるため、製造コストが高くなりすぎる問題があり好ましくない。
(4)U3は、構成する脂肪酸の全てがUであるトリグリセリドを意味するが、全てが同一鎖長の不飽和脂肪酸のみから構成されるという意味ではなく、炭素数14〜24の範囲であれば良い。SU2とU3の合計含有量は、5〜30重量%であることが必要であり、好ましくは5.5〜25重量%、より好ましくは5.5〜10重量%である。
SU2もU3も室温では結晶化しにくく、液体成分としての挙動を示すトリグリセリドであり、このSU2及びU3の合計含量が5重量%未満では得られるチョコレート類が室温で硬すぎ、食感の悪化を招く。また、30重量%超では、室温で柔らかくなりすぎ良好なスナップ性が得られない。
【0013】
(5)本発明の製菓用油脂中、Sは、実質的にStとPで構成されるが、油脂中のSt/P(重量比)は、0.1以上0.4以下であることが必要であり、好ましくは、0.15以上0.35以下である。St/Pが0.1未満又は、0.4超である場合、カカオ脂と混合した時ブルームやグレーニングが発生しやすくなってしまう。なお、Sが実質的にStとPで構成されるとは、SのうちStとPの合計含量が90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であることを言う。
【0014】
また、ジグリセリドの含有量は、4〜9重量%であることが好ましく、より好ましくは4.5〜8.0重量%である。4重量%未満では、硬すぎる食感となり好ましくない。9重量%を超えると固化速度が低下し、チョコレートも軟化し、ブルームも発生し易くなり好ましくない。
【0015】
上記、本発明の非ラウリン、非トランス、非テンパリング型製菓用油脂は、例えば、パーム油及び/又は、パーム分別油に、パーム油の極度硬化油を配合した油脂をランダムエステル交換した後、分別操作することで得ることができる他、パーム油及び/又は、パーム分別油に、ステアリン酸を25重量%以上且つ、ジグリセリドを5〜50重量%含有する油脂を5%以上配合した油脂を、ランダムエステル交換した後、分別操作することで得ることができる。
【0016】
ここで、ジグリセリド及びステアリン酸を含む油脂は、カカオ脂代用脂としてのStOSt脂質(St:ステアリン酸、O:オレイン酸)を生産する過程で、発生する高融点部及び/又は低融点部を利用できる。すなわち、StOStは、高オレイン酸ひまわり油に1,3選択性リパーゼを用いてステアリン酸を1,3位に選択的に結合させ、エステル交換油脂から高融点部と低融点部を除去することにより、高濃度のStOStを得ることができるが、該高融点部は構成脂肪酸組成中にステアリン酸を70重量%以上、ジグリセリドを20重量%以上含む油脂組成となるため、ジグリセリド含量の調整、及びステアリン酸含量の調整に好適に利用できる。低融点部はStOOを主成分とするが、ステアリン酸を25重量%以上含有するため、ステアリン酸含量の調整に好適に利用できる。また、上記低融点部に代えてシア脂やサル脂などのStOOを主成分とする分別低融点部も同様に利用することができる。
このようなジグリセリド及びステアリン酸を高濃度に含有する油脂とパーム油を混合することで、上記のようなステアリン酸とパルミチン酸の含量となる油脂を得ることができる。
【0017】
ランダムエステル交換の方法としては、化学的触媒を用いる方法でも良いし、酵素による方法でも良い。化学的触媒としては、例えばナトリウムメチラート等のアルカリ金属触媒が使用でき、酵素としては、例えばアルカリゲネス属(Alcaligenes)、ペニシリウム属(Penicillium)サーモマイセス属(Thermomyces)等が挙げられる。これらリパーゼは、既知の方法によりイオン交換樹脂や珪藻土などに固定化して用いても良いし、粉末状で用いても良い。
【0018】
本発明の油脂は、このようにして得たランダムエステル交換油脂を、溶剤分別、非溶剤分別などの分別方法により、高融点部、及び低融点部と高融点部を除去して得ることができる。分別前の油脂の組成に応じ分別の歩留を調整することによって、当業者であれば前記(1)〜(6)の要件を満たす油脂を得ることが容易にできる。
【0019】
本発明の油脂には、通常の製菓用途に用いられる着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料等の任意成分を適宜添加することができる。これらは本発明の油脂に対して20重量%以下、好ましくは10重量%以下とする。
【0020】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、等が挙げられる。
【0021】
以上のようにして得られた本発明の製菓用油脂は、単独又はカカオ脂を配合してチョコレート類用の油脂として使用することができ、テンパリング処理を省略してチョコレート類を製造することができる。なお、ここでいうチョコレート類とは、規約(「チョコレート類の表示に関する公正規約」)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート或いはストロベリーのようなカラーチョコレート等、各種チョコレート類を包含する。
本発明の製菓用油脂は、カカオ脂との相溶性が高くチョコレート油分中、カカオ脂を20重量%程度配合することができる。得られたチョコレート類は、口溶けが良好で、スナップ性、耐ブルーム性も良好である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、特にことわらない限り%、部は重量基準を示す。
【0023】
(実施例1)
パーム油分別高融点部(ヨウ素価40.0、)74重量%とStOSt脂分別低融点部18重量%、StOSt脂分別高融点部8重量%からなる配合油を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行いエステル交換油脂1を得た。このエステル交換油脂1をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、本発明の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
【0024】
ここで、StOSt脂分別低融点部およびStOSt脂分別高融点部は、カカオバター代用脂としてのStOSt脂を生産する過程で生成した副生物であり、具体的には、ハイオレイックひまわり油30重量%とステアリン酸70重量%を、市販1,3特異性リパーゼによりエステル交換を行って得た油脂を、ヘキサンにより分別して低融点部及び高融点部として得られたものである。StOSt脂分別高融点部のステアリン酸量は、80重量%。ジグリセリドは、23重量%であった。StOSt脂分別低融点部のステアリン酸量は29.0重量%、ジグリセリドは2.5重量%であった。
(実施例2)
【0025】
実施例1に用いたパーム分別高融点部68重量%と同じく実施例1に用いたStOSt脂分別低融点部18重量%、パーム極度硬化油14重量%からなる配合油を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換しエステル交換油脂2を得た。このエステル交換油脂2をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、本発明の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(実施例3)
【0026】
実施例1に用いたパーム分別高融点部78重量%と同じく実施例1に用いたStOSt脂分別低融点部18重量%、StOSt脂質分別高融点部4重量%からなる配合油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行いエステル交換油脂3を得た。このエステル交換油脂3をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、本発明の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(実施例4)
【0027】
実施例1に用いたパーム分別高融点部82重量%と同じく実施例1に用いたStOSt脂分別低融点部18重量%からなる配合油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換しエステル交換油脂4を得た。このエステル交換油脂4をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、本発明の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(実施例5)
【0028】
パーム分別高融点部20重量%、パーム油59重量およびパーム油極度硬化油21%からなる配合油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換しエステル交換油脂5を得た。このエステル交換油脂5をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、本発明の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(実施例6)
【0029】
実施例5によって得た本発明の製菓用油脂と、同実施例におけるアセトン分別による高融点部とを90部対10部の割合で配合し、本発明の非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(比較例1)
【0030】
パ−ム油65重量%とパ−ム極度硬化油35重量%からなる配合油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行いエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(比較例2)
【0031】
実施例1に用いたパーム分別高融点部100重量%を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行いエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
(比較例3)
【0032】
実施例1に用いたパーム分別高融点部60重量%と同じく実施例1に用いたSOS脂分別低融点部18重量%、SOS脂質分別高融点部22重量%からなる配合油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行いエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂をアセトン分別により、高融点部と低融点部を除去し、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂とした。
【0033】
表1に実施例、及び比較例の非テンパリング型油脂の分析値を示す。
【表1】
【0034】
実施例1〜5、比較例1〜3によって得られた製菓用油脂を使用して、表2の配合にて常法に従い、チョコレート生地を調製した。
【0035】
【表2】
【0036】
このチョコレート生地を60℃にてカップに流しこみ、テンパリング処理を施さずに、5℃の冷蔵庫にて30分放置してチョコレートを急冷固化させた。
このチョコレートを20℃にて1週間安定化後、耐熱性及び耐ブルーム性の比較を行った。結果を表3に示す。表中、耐熱性は、レオメータ値のピーク値(3mm径のプランジャ−を使用)を示す。また、耐ブル−ム性は、17℃と30.5℃の環境下に交互に放置し(1サイクル/日)、所定の日数を経過したときのチョコレートの状態を評価したものである。―(良好)、±(艶消失)、+(ブル−ム発生)、++(激しいブル−ム)を示す。食感の評価は、◎(優れる)、○(良好)、△(やや不良)、×(不良)を表す。
【表3】
【0037】
上記結果のように、実施例1〜6の製菓用油脂を用いたチョコレートは、従来の非テンパリング型油脂と異なり、良好な食感と、ブルーム耐性を示したが、比較例1の製菓用油脂を用いたチョコレートは耐熱性はあるものの、硬すぎる組成のために、口溶けが不良でワックスのように口残りが起こり不良であった。また比較例2は、耐熱性が劣り、27℃以上での保型性が得られず、またブルーム耐性も弱かった。比較例3においては、食感、耐熱性などは実施例に近いものであるが、ブルーム耐性に劣っていた。実施例は、実施例2においては、若干口溶けの点で、硬すぎる組成のために劣る傾向にはあるが、他の実施例と遜色ない食感であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型製菓用油脂は、特定のトリグリセリド組成、特定のSt/P比、及び特定量のジグリセリドを含有することにより、従来の非ラウリン、非トランス酸、非テンパリング型油脂にはない食感、耐ブルーム性を、チョコレート類に付与することが可能となる。