(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999316
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20160915BHJP
H01M 2/36 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
H01M12/06 J
H01M2/36 101N
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-85301(P2012-85301)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-214472(P2013-214472A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】塚田 佳子
(72)【発明者】
【氏名】長山 森
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
【審査官】
井原 純
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−244731(JP,A)
【文献】
実開昭52−161423(JP,U)
【文献】
実開昭51−115431(JP,U)
【文献】
実開昭57−168180(JP,U)
【文献】
特表2008−535156(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/172838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 2/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と金属負極との間に電解質用液体の充填部を有する複数の電極構造体と、
前記複数の電極構造体を個別に収納する電極収納部と、
前記複数の電極構造体に前記電解質用液体を供給するための液体供給手段と、を備え、
前記電極収納部は、前記複数の電極構造体を直列配置して収納すると共に、前記複数の電極構造体の充填部に前記電解質用液体を注入するための複数の注液孔と、隣接する注液孔の間を区画する複数の液絡防止部と、を備えており、
液体供給手段は、前記電解質用液体の貯留タンクと、前記貯留タンクの電解質用液体を前記複数の注液孔に向けて流出させる注液装置を備え、
前記注液孔と注液装置とが、空間をおいて離間していることを特徴とする空気電池。
【請求項2】
前記電極収納部は、配列端部に位置する電極構造体の充填部に前記電解質用液体を注入するための注液孔に対して配列端部に位置する別の液絡防止部をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の空気電池。
【請求項3】
前記複数の液絡防止部は、凸構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気電池。
【請求項4】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、隣接する注液孔の少なくとも一方に向かって下る斜面を有することを特徴とする請求項3に記載の空気電池。
【請求項5】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、三角形状の断面を有することを特徴とする請求項4に記載の空気電池。
【請求項6】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、台形状の断面を有することを特徴とする請求項4に記載の空気電池。
【請求項7】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、隣接する注液孔の少なくとも一方に向かって下る段差を有することを特徴とする請求項3に記載の空気電池。
【請求項8】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、隣接する注液孔の少なくとも一方に向かって下る凹曲傾斜面を有することを特徴とする請求項3に記載の空気電池。
【請求項9】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、隣接する注液孔の少なくとも一方に向かって下る凸曲傾斜面を有することを特徴とする請求項3に記載の空気電池。
【請求項10】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つは、前記複数の電極構造体の配列方向に沿って所定間隔で配置された複数の凸部から成ることを特徴とする請求項3に記載の空気電池。
【請求項11】
前記注液装置が、電解質用液体の流出を制御する開閉体を備えていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の空気電池。
【請求項12】
前記注液装置が、前記複数の注液孔に対して前記電解質用液体を流出させるように配置してあることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の空気電池。
【請求項13】
前記注液装置が、各注液孔毎に配置してあることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の空気電池。
【請求項14】
前記注液装置が、前記複数の液絡防止部から離間していることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の空気電池。
【請求項15】
前記注液装置の少なくとも周囲の表面が、撥水性を有していることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の空気電池。
【請求項16】
前記複数の液絡防止部の少なくとも1つの頂部の表面が、撥水性を有していることを特徴とする請求項3に記載の空気電池。
【請求項17】
前記注液孔の少なくとも1つの開口部周囲が、親水性を有していることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の空気電池。
【請求項18】
前記注液孔の少なくとも1つの開口部周囲の親水領域の外側が、撥水領域であることを特徴とする請求項17に記載の空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を正極活物質として利用する空気電池に関し、とくに、使用時に電解質用液体を注入するようにした注液式の空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の空気電池としては、例えば、特許文献1に記載されたものがあった。特許文献1に記載の空気電池は、電極を有する枠と、この枠及び電解液を収容するタンクを備えている。枠は、所定間隔をおいて配置した一対のカソードと、各カソードの外側に相対向するアノードを備えている。
【0003】
上記の燃料電池は、枠及びタンクにひれ状物及び溝が形成してあり、組合わせた際にこれらを係合させることで、タンク内に、電気的に分離された電解質保持帯域を形成する。これにより、アノード間の電解液を介しての電流の流路(液絡)を削減させるものとしている。また、上記の空気電池は、一対のカソードの間に非導電性バッフルを配置し、カソード間に液体が入った場合でも、カソード間に電流路を与えないようにしている。上記の空気電池は、例えば、電解液に海水を用いるものであって、海中に差し入れることにより、タンク内に海水を導入して発電を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−177873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、自動車等の車両の電源又は補助電源として使用する空気電池の研究開発が進められている。この車載用の空気電池は、車両に要する出力と容量が求められるので、複数個を直列に接続した構成にすると共に、電解液には強アルカリ電解液を用いる必要がある。
【0006】
ところが、上記したような従来の空気電池は、電解質保持帯域の仕切り部分ではひれ状物と溝とが係合しているだけなので、電解液を介したアノード間の液絡を完全に阻止することができず、強アルカリ電解液を使用する高出力・高容量の空気電池には適用することが困難であるという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0007】
つまり、電解液に海水を用いる空気電池では、電解液の抵抗も低く、出力が小さいので、若干の液絡が生じても実用上の問題は無いが、電解液に強アルカリ電解液を使用する空気電池では、電解液の抵抗が大きいので、僅かな液絡も無視できないからである。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたもので、複数の電極構造体を直列配置した注液式の空気電池であって、電解質用液体を介した電極構造体同士の液絡を確実に防ぐことができる空気電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る空気電池は、空気極と金属負極との間に電解質用液体の充填部を有する複数の電極構造体と、前記複数の電極構造体を個別に収納する電極収納部と、前記複数の電極構造体に前記電解質用液体を供給するための液体供給手段と、を備えている。前記電極収納部は、前記複数の電極構造体を直列配置して収納すると共に、前記複数の電極構造体の充填
部に前記電解質用液体を注入するための複数の注液孔と、隣接する注液孔の間を区画する複数の液絡防止部と、を備えている。
【0010】
そして、空気電池は、前記液体供給手段が、前記電解質用液体の貯留タンクと、前記貯留タンクの電解質用液体を前記複数の注液孔に向けて流出させる注液装置を備え
、前記注液孔と注液装置とが、空間をおいて離間している構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。上記の構成において、電解質用液体は、電解液そのものや、電極構造体の内部に混入させた電解質を溶融するための液体(水)などを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る空気電池は、複数の電極構造体を直列配置した注液式の空気電池において、電解質用液体を介した電極構造体同士の液絡を確実に防ぐことができる。これにより、電解液に強アルカリ電解液を使用する高出力・高容量の空気電池にも適用可能であり、自動車等の車載用電源として非常に好適なものになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る空気電池の一実施形態を説明する断面図(A)及び側面図(B)である。
【
図2】
図1に示す空気電池を備えた空気電池システムを概略的に示すブロック図である。
【
図3】本発明に係る空気電池の一実施形態を説明する断面図(A)及び側面図(B)である。
【
図4】本発明に係る空気電池の他の実施形態を説明する断面図(A)及び液絡防止部を示す斜視図(B)である。
【
図5】本発明に係る空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図(A)及び液絡防止部を示す斜視図(B)である。
【
図6】液絡防止部の他の形態を説明する各々斜視図(A)〜(C)である。
【
図7】本発明に係る空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図(A)及び液絡防止部の他の例を示す断面図(B)である。
【
図8】本発明に係る空気電池のさらに他の実施形態において、電解質用液体の注入時の状態を示す断面図(A)及び注入後の状態を示す断面図(B)である。
【
図9】本発明に係る空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図(A)及び注液装置の部分の拡大図(B)である。
【
図10】本発明に係る空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図(A)及び液絡防止部の部分の拡大図(B)である。
【
図11】本発明に係る空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図(A)及び注液孔の部分の拡大図(B)(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示す空気電池Cは、空気極11と金属負極12との間に電解質用液体の充填部13を有する複数の電極構造体1と、各電極構造体1を個別に収納する電極収納部2と、各電極構造体1に電解質用液体を供給するための液体供給手段3を備えている。なお、電極構造体1は、後に電解質用液体が供給されることにより、単電池(空気電池)となる。したがって、本発明に係る空気電池Cは、単電池の集合体であり、組電池ともいう。
【0014】
図示例の電極構造体1は、全体として矩形板状を成している。この電極構造体1を構成する空気極11は、図示を省略したが、正極部材と、最外層に配置した撥水層で構成してある。正極部材は、例えば、触媒成分、及び触媒成分を担持する導電性の触媒担体を含むものである。
【0015】
触媒成分としては、具体的には、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びこれらの合金などから選択することができる。触媒成分の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒成分と同様の形状及び大きさを採用することができる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nmであることが好ましい。触媒粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。
【0016】
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、及び触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0017】
正極部材において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%であるが、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
【0018】
撥水層は、電解質用液体に対して液密性(水密性)を有し、且つ酸素に対して通気性を有する部材である。この撥水層は、電解質用液体が外部へ漏出するのを阻止し得るように、ポリオレフィンやフッ素樹脂などの撥水膜を用いており、一方、正極部材に酸素を供給し得るように多数の微細孔を有している。
【0019】
電極構造体1を構成する金属負極12は、標準電極電位が水素より卑な金属単体又は合金から成る負極活物質を含むものである。標準電極電位が水素より卑な金属単体としては、例えば亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などを挙げることができる。また、合金としては、これらの金属元素に1種以上の金属元素又は非金属元素を加えたものを挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
【0020】
電解質用液体は、電解液そのものや、例えば電極構造体1の内部あるいは貯留タンク31から注液装置32の配管35(
図2に示す)内に配置又は混入させた固体の電解質を溶融するための液体(水)などを含むものである。電解液の場合には、例えば塩化カリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を適用することができるが、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の電解液を適用することができる。電解質用液体液の量は、当該空気電池Cの放電時間、放電時に生じる金属塩の析出量などを考慮して決定される。
【0021】
電極収納部2は、矩形板状の各電極構造体1を立てた状態にし、これらを水平方向に直列配置して個別に収納している。この際、電極収納部2は、各電極構造体1の空気極11側に空気室21を夫々形成する。また、電極収納部2は、その上部に、各電極構造体1の充填
部13に電解質用液体を注入するための注液孔22と、隣接する注液孔22同士の間を区画する凸構造の液絡防止部51を備えている。
【0022】
この実施形態の液絡防止部51は、
図1に示す如くリブ状を成している。さらに、電極収納部2は、配列端部における電極構造体1の充填
部13に電解質用液体を注入するための注液孔22に対して、配列端部に位置する別の液絡防止部51を備えている。つまり、液絡防止部51は、各注液孔22の両側に配置されている。
【0023】
液体供給手段3は、電解質用液体の貯留タンク31と、貯留タンク31の電解質用液体を注液孔22
に向けて流出させる注液装置32を備えている。この実施形態では、前記注液装置32が、電解質用液体の流出を制御する開閉体41を備えていると共に、各注液孔22毎に配置してある。図示例の開閉体41は、開閉バルブである。また、注液装置32
は、液絡防止部51から上側に離間している。
【0024】
ここで、上記の空気電池Cは、
図2に示す空気電池システムを構成する。この場合、電極構造体1は、各電極11,12をケースに収容してカートリッジとし、図中の矢印で示すように、電極収納部2に収納する。また、電極収納部2は、図示しないカバーを設けて、このカバーに注液孔22や液絡防止部51を設けることができる。
【0025】
さらに、電極収納部2は、内部にバスバー23を備え、収納した各電極構造体1同士を直列に接続する。この電極収納部2は、制御装置4を介してモータ等の被駆動体5に電力を供給する。
【0026】
さらに、電極収納部2には、空気供給手段6が接続され、この空気供給手段6により各電極構造体1の空気室21に空気を供給する。空気供給手段4は、エアコンプレッサ、流量制御バルブ及び配管類などで構成してある。
【0027】
前記液体供給手段3は、先述した貯留タンク31、注液装置32及び配管35を備えると共に、電解質用液体の流通を制御する制御装置33を備えている。制御装置33は、ポンプ及び流量制御バルブなどで構成してある。この液体供給手段3は、
図1に示すように、貯留タンク31と注液装置32とが直結している構成だけでなく、双方を分離配置した構成にすることもできる。
【0028】
上記構成を備えた空気電池Cは、液体供給手段3において、各注液装置32の開閉体(開閉バルブ)41を開放することにより、各注液孔22の上位側から電解質用液体を流出させて、これを各電極構造体1の充填
部13に注入する。これにより、各電極構造体1は、単電池(空気電池)となって発電を開始する。
【0029】
このとき、上記の空気電池Cは、電解質用液体の注入後、僅かな電解質用液体が電極収納部2の上面に残ることもあり得る。これに対して、空気電池Cは、隣接する注液孔22同士の間を区画する凸構造の液絡防止部51を備えているので、残留した電解質用液体が隣接する注液孔22同士を結ぶ心配は無い。これにより、空気電池Cは、電極構造体(単電池)1同士の間における液絡、すなわち電解質用液体を介した短絡を確実に防ぐことができる。
【0030】
したがって、当該空気電池Cは、強アルカリ電解液のように、抵抗が大きくて僅かな液絡をも無視できない電解液を使用する高出力・高容量の空気電池にも充分適用可能である。よって、高出力・高容量が要求される自動車等の車載用電源として非常に好適なものになる。
【0031】
また、上記の空気電池Cは、電極収納部2が、電極構造体1の配列端部にも別の液絡防止部51を備えているので、電解質用液体を注入する際に、同液体が外側へ流れるような事態を阻止することができる。
【0032】
さらに、上記の空気電池Cは、貯留タンク31を複数の電極構造体1で共用するので、構造の簡略化や低コスト化を図ることができる。また、注液装置32が、開閉体(開閉バルブ)41を備えているので、電解質用液体の使用量を調整することができ、注液後においては、開閉体41を閉じることで、貯留タンク31内の電解質用液体を介した液絡を防ぐことができる。
【0033】
さらに、上記の空気電池Cは、注液装置32が、各注液孔22毎に配置してあるので、個々の電極構造体1に対して電解質用液体を速やかに注入することができ、起動時間を短縮し得る。しかも、上記の空気電池Cは、選択した電極構造体1だけに電解質用液体を注入すること可能なので、必要な電気量に応じた数の電極構造体(単電池)1を起動させることができ、このほか、注液の自動制御にも容易に対処することができる。
【0034】
さらに、上記の空気電池Cは、注液装置32と液絡防止部51とが、上下に離間しているので、電解質用液体の注入時及び注入後において、液体供給手段3側の電解質用液体を介した電極構造体(単電池)1同士の液絡を阻止することができる。
【0035】
図3〜
図12は、本発明に係る空気電池の他の実施形態を説明する図である。なお、以下の実施形態において、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
図3に示す空気電池Cは、電池収納部2の上面に、各電極構造体1に対応する注液孔22を備えると共に、各注液孔22の片側に、段差状を成す凸構造の液絡防止部52を備えている。また、図示例の液体供給手段3は、貯留タンク31と、複数の注液装置32を配設した供給ヘッド34を備えている。供給ヘッド34は、配管35により貯留タンク31に接続してあると共に、電極収納部2に対して昇降可能である。
【0037】
上記構成を備えた空気電池Cは、液体供給手段3により各電極構造体1に電解質用液体を注入し、この際、図示の如く供給ヘッド34を液絡防止部52に当接させた状態にして電解質用液体の注入を行うこともできる。この空気電池Cにあっても、先の実施形態と同様に、電解質用液体を介した電極構造体(単電池)1同士の液絡を確実に防ぐことができる。
【0038】
図4に示す空気電池Cは、液絡防止部が、注液孔22側に下る斜面又は段差を有している。図示例の液絡防止部53は、断面三角形状を成し、注液孔22側に下る斜面を有するものとなっている。
【0039】
上記の空気電池Cにあっても、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができるうに、電解質用液体を注入する際に液絡防止部53の斜面がガイドとなり、電解質用液体の注入を円滑に且つ速やかに行うことができ、起動時間の短縮化も実現する。また、液絡防止部53の斜面により、電解質用液体の残留を防いで液絡をより確実に防止する。
【0040】
図5に示す空気電池Cは、液絡防止部が、注液孔22側に下る斜面又は段差を有している。図示例の液絡防止部54は、断面台形状を成し、注液孔22側に下る斜面を有するものとなっている。
【0041】
上記の空気電池Cにあっても、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができるうに、電解質用液体を注入する際に液絡防止部54の斜面がガイドとなり、電解質用液体の注入を円滑に且つ速やかに行うことができ、起動時間の短縮を実現する。また、液絡防止部54の上面が平坦であるから、電解質用液体の注入時に液体供給手段3を当接させることで、同手段の位置決めを行うことができる。
【0042】
図6には、注液孔22側に下る斜面又は段差を有する液絡防止部の三例を示す。
図6(A)に示す液絡防止部55は、注液孔22側に下る段差を有する断面形状である。また、
図6(B)に示す液絡防止部56は、注液孔22側に下る凹曲傾斜面を有する断面形状である。さらに、
図6(C)に示す液絡防止部57は、注液孔22側に下る凸曲傾斜面を有する断面形状である。これらの液絡防止部55,56,57にあっても、先の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
図7(A)に示す空気電池Cは、液絡防止部58が、電極構造体1の配列方向に所定間隔で配置した複数の凸部58Aから成っている。図示例では、同じ高さの複数の凸部58Aで液絡防止部58を構成している。
【0044】
上記の空気電池Cにあっても、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができ、とくに、電解質用液体の注入後、速やかに液絡の生じない状態を確保し得ると共に、液絡防止の機能がより高いものとなる。また、液絡防止部58は、
図7(B)に示すように、高さの異なる凸部58Aを組合わせたものでもよい。
【0045】
さらに、上記の空気電池Cでは、例えば、
図7(B)に示すように、凸部58Aの間にセンサSを設け、注液装置32から流出させた電解質用液体が最初の凸部58Aを超えてしまった際に、その液体をセンサSで検出して、開閉体41を閉じる制御を行うことが可能である。
【0046】
図8に示す空気電池Cは、液体供給手段3の注液装置32が、開閉体42を備え、複数の注液孔22に対して電解質用液体を流出させるように配置してある。この実施形態の開閉体42は仕切り板である。この空気電池Cは、開閉体42を開放することで、電極収納部2の上面側に電解質用液体を一斉に流出させ、複数の電極構造体1に電解質用液体を注入する。この際、電解質用液体は、中間の液絡防止部51にかかっても構わない。
【0047】
上記の空気電池Cは、電解質用液体の注入から起動に至るまでの時間を大幅に短縮することができ、電解質用液体の注入後には、液絡防止部51により、電解質用液体を介した電極構造体(単電池)1同士の液絡を確実に防止することができる。
【0048】
図9に示す空気電池Cは、注液装置32の少なくとも周囲の表面に、撥水性を有する撥水部61が設けてある。この撥水部61は、例えば、適宜の撥水剤を塗布することにより形成する。また、撥水部61は、電解質用液体すなわち水や電解液に対する接触角が、少なくとも50度以上であり、望ましくは80度以上である。
【0049】
上記の空気電池Cは、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができると共に、撥水部61により、注液装置32の周囲に電解質用液体が付着するのを防止する。これにより、空気電池Cは、図示の如く貯留タンク31と液絡防止部51とが接触している状態であっても、貯留タンク31側の電解質用液体を介した電極構造体(単電池)1同士の液絡を防ぐことができる。
【0050】
図10に示す空気電池Cは、
複数の液絡防止部52の少なくとも
1つの頂部の表面に、撥水性を有する撥水部61が設けてある。この空気電池Cにあっても、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができると共に、撥水部61により、液絡防止部52の頂部に電解質用液体が残留するのを防止する。これにより、空気電池Cは、液絡防止部52による液絡防止機能のさらなる向上を実現することができる。
【0051】
図11(A)及び(B)に示す空気電池Cは、
複数の注
液孔22の
少なくとも1つの開口部周囲に、親水性を有する親水部62が設けてある。この親水部62は、例えば、適宜の親水剤を塗布することにより形成する。また、親水部62は、電解質用液体すなわち水や電解液に対する接触角が、少なくとも80度未満であり、望ましくは50度未満である。
【0052】
上記の空気電池Cは、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができると共に、親水部62により、電解質用液体が注液孔22に流れ込みやすくなり、注液速度の向上に伴って起動時間のさらなる短縮を実現することができる。
【0053】
また、空気電池Cは、
図11(C)に示すように、
複数の注
液孔22の
少なくとも1つの開口部周囲に、親水領域である親水部62を設けると共に、その親水領域外側すなわち親水部62の外側に、撥水領域である撥水部61を設けることができる。
【0054】
上記の空気電池Cは、親水部62により、電解質用液体の注入速度の向上や起動時間のさらなる短縮を実現すると共に、電解質用液体の注入後には、撥水部61により、注液孔22の周囲に電解質用液体が残留しないようにし、電解質用液体を介した電極構造体(単電池)1同士の液絡を防止する。
【0055】
本発明の空気電池は、その構成が上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各部位の形状、個数及び材料などの構成の細部を適宜変更することが可能である。
したがって、例えば、複数の液絡防止部は、そのうちの少なくとも1つを、隣接する注液孔の少なくとも一方に向かって下る斜面又は段差を有するものにしたり、複数の突部から成るものにしたりすることができる。また、上記
各実施形態では、リブ状等のように所定長さを有する液絡防止部を例示したが、例えば、注液孔を包囲するような形態の液絡防止部を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
C 注液式空気電池
1 電極構造体
2 電極収納部
3 液体供給手段
11 空気極
12 金属負極
13 充填部
22 注液孔
31 貯留タンク
32 注液装置
41 42 開閉体
51〜58 液絡防止部
58A 凸部
61 撥水部
62 親水部