(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999416
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/08 20160101AFI20160915BHJP
【FI】
H02P6/08
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-135861(P2012-135861)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-3751(P2014-3751A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田村 浩明
(72)【発明者】
【氏名】大浦 正成
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−115044(JP,A)
【文献】
特開2001−268963(JP,A)
【文献】
特開昭63−268490(JP,A)
【文献】
特開2012−055032(JP,A)
【文献】
特開2007−267576(JP,A)
【文献】
特開平04−140093(JP,A)
【文献】
特開2005−65349(JP,A)
【文献】
特開2000−209888(JP,A)
【文献】
米国特許第5703456(US,A)
【文献】
米国特許第5686770(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置により駆動される同期電動機の磁極位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段による磁極位置検出値から同期電動機の回転速度を求める演算手段と、
前記演算手段による回転速度検出値が回転速度指令に一致するようにトルク指令を生成するトルク指令手段と、
前記磁極位置検出値、前記回転速度検出値、前記トルク指令、及び、前記電力変換装置の出力電流に基づいて、前記電力変換装置の半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成する制御手段と、を有する同期電動機の制御装置において、
前記同期電動機の入力電力と出力電力とから効率を求める効率演算手段と、
補正開始指令が入力され、予め設定された磁極位置初期値に加算される第1補正値を演算する初期値補正演算手段と、
前記第1補正値を増減させながら前記磁極位置初期値に加算して第2補正値を求め、この第2補正値を前記磁極位置検出値に加算して前記磁極位置検出値を補正する補正手段と、
を備え、
前記トルク指令手段は、前記同期電動機が定格回転速度かつ定格トルクでの運転状態になったことを検出して前記補正開始指令を出力し、前記補正手段により補正された磁極位置検出値を用いて前記同期電動機を運転した際の効率を前記効率演算手段により逐次演算し、前記効率が最大値になる時の前記第2補正値を用いて前記磁極位置検出値を補正することを特徴とする同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機の運転中に磁極位置誤差を補正して効率を改善するようにした同期電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同期電動機は、自らを直流励磁することで磁極位置0°を検出し、その後、検出した磁極位置0°を基準としてトルクを制御している。しかし、このような磁極位置検出方法によると、軸受部の静止摩擦等に起因して磁極位置検出値と真の磁極位置との間に誤差が生じる場合がある。
【0003】
一方、永久磁石同期電動機の磁極位置誤差を検出し、その誤差を補正してトルク制御精度の向上を図る従来技術が、特許文献1に開示されている。
図5は、上記特許文献1に記載された磁極位置誤差補正回路の構成図である。
図5において、主回路内の1は直流電源、2はインバータ、3は同期電動機、4は速度検出器、5は磁極位置検出器、6は電圧検出器、7は電流検出器である。
また、磁極位置誤差を補正するための制御回路において、8は、直流電圧検出値と直流電流検出値とを乗算して直流入力電力P
DCを演算する乗算器、9は、速度検出値Nとトルク指令値T
*とを乗算して機械出力P
mを求める乗算器、10は、直流入力電力P
DCと機械出力P
mとの誤差電力ΔPが設定値以上になったときに磁極位置誤差の発生を示す報知信号を出力するウィンドウコンパレータである。更に、11は、同期電動機3の速度及び誤差電力ΔPの大きさに応じて所定の極性の補正量Δθ
fを演算し、出力する補正量演算手段、12は前記報知信号によりオンするスイッチ、13は、磁極位置検出値θ
fと補正量Δθ
fとを加算して補正後の磁極位置θ
f’を求める加算器である。
【0004】
この従来技術では、誤差電力ΔPが正の場合には磁極位置検出値θ
fを小さくし、誤差電力ΔPが負の場合には磁極位置検出値θ
fを大きくするように補正が行われ、結果として誤差電力ΔPが小さくなるように同期電動機3のトルクが制御される。これにより、同期電動機3の磁極位置誤差を補正しつつトルク制御精度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-308292号公報(段落[0017]〜[0021]、
図3,
図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、補正量Δθ
fの設定方法として、誤差電力ΔPの絶対値に関係なく一定値とする、誤差電力ΔPの絶対値に比例させる、あるいは、誤差電力ΔPの絶対値の時間積分値に比例させる、等の方法が開示されている。しかし、この従来技術は、誤差電力ΔPに着目して磁極位置ずれの発生を検出し、磁極位置誤差を補正してトルク制御精度を向上させることを主眼としており、例えば、同期電動機の効率に着目して同期電動機の定格運転中にリアルタイムで磁極位置補正を行うための具体的手段は開示されていない。
そこで、本発明の解決課題は、同期電動機の効率の最大化を目的としてその運転中に磁極位置誤差を補正可能とした制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
電力変換装置により駆動される同期電動機の磁極位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段による磁極位置検出値から同期電動機の回転速度を求める演算手段と、
前記演算手段による回転速度検出値が回転速度指令に一致するようにトルク指令を生成するトルク指令手段と、
前記磁極位置検出値、前記回転速度検出値、前記トルク指令、及び、前記電力変換装置の出力電流に基づいて、前記電力変換装置の半導体スイッチング素子に対する駆動信号を生成する制御手段と、を有する同期電動機の制御装置において、
前記同期電動機の入力電力と出力電力とから効率を求める効率演算手段と、
補正開始指令が入力され、予め設定された磁極位置初期値に加算される第1補正値を演算する初期値補正演算手段と、
前記第1補正値を増減させながら前記磁極位置初期値に加算して第2補正値を求め、この第2補正値を前記磁極位置検出値に加算して前記磁極位置検出値を補正する補正手段と、を備え、
前記トルク指令手段は、前記同期電動機が定格回転速度かつ定格トルクでの運転状態になったことを検出して前記補正開始指令を出力し、前記補正手段により補正された磁極位置検出値を用いて前記同期電動機を運転した際の効率を前記効率演算手段により逐次演算し、前記効率が最大値になる時の前記第2補正値を用いて前記磁極位置検出値を補正するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同期電動機の運転中に逐次演算した効率が最大になるような補正値を用いて磁極位置検出値を補正することにより、同期電動機を運転しながら効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の実施形態の動作を示す特性図である。
【
図3】本発明の実施形態の動作を示す特性図である。
【
図4】本発明の実施形態の動作を示す特性図である。
【
図5】特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態に係る制御装置を主回路と共に示したブロック図である。
図1に示す主回路において、
図5と同様に、1は直流電源、2はインバータ、3は同期電動機、5はレゾルバ等の磁極位置検出器、6は電圧検出器、7は電流検出器、20は同期電動機3によって駆動される負荷である。また、この実施形態では、インバータ2の出力電流Iを検出する電流検出器8が設けられている。
【0013】
制御装置100においては、まず、電圧検出値V
inと電流検出値I
inとが乗算手段101により乗算され、入力電力P
inが算出される。
また、磁極位置検出器5の出力が位置検出手段102に入力されており、磁極位置θ
0が検出される。この磁極位置検出値θ
0は、加算手段103において後述する第2補正値θ
12と加算され、補正後の磁極位置検出値θ
2として微分手段104に入力されている。この微分手段104では、磁極位置検出値θ
2を微分することにより速度検出値ωが演算される。
【0014】
105は運転指令が入力されるトルク指令手段であり、このトルク指令手段105により、前記速度検出値ωが回転速度指令ω
*に一致するようにトルク指令T
*が演算される。
トルク指令T
*、インバータ2の出力電流検出値I、磁極位置検出値θ
2及び速度検出値ωはインバータ制御手段106に入力されており、これらに基づいてインバータ2の半導体スイッチング素子に対する駆動信号(ゲート信号)が生成される。
トルク指令T
*と速度検出値ωとは乗算手段107により乗算され、同期電動機3の出力電力P
outが演算される。この出力電力P
outは前記入力電力P
inと共に効率演算手段108に入力され、P
out/P
inの演算によって同期電動機3の効率ηが演算される。
【0015】
磁極位置補正を行う場合には、トルク指令手段105が、運転指令、回転速度指令ω
*、回転速度検出値ω及びトルク指令T
*に基づいて同期電動機3が特定の運転状態になったことを検出し、補正開始指令を出力する。ここで、特定の運転状態とは、例えば、同期電動機3の定格運転状態である。
【0016】
初期値補正演算手段109は、上記補正開始指令が入力されると、磁極位置の初期値θ
1を補正するための第1補正値θ
11を演算する。この第1補正値θ
11は、特定の微小量Δθを単位として初期値θ
1に加算され、第2補正値θ
12を正方向または負方向に変化させるものである。
すなわち、第1補正値θ
11は加算手段110により初期値θ
1と加算され、その加算結果である第2補正値θ
12が加算手段103に入力される。前述したように、第2補正値θ
12は加算手段103にて磁極位置検出値θ
0と加算されることにより、磁極位置検出値θ
0がθ
2に補正されることになる。
【0017】
次に、この実施形態の動作を、
図2〜
図4を参照しつつ更に説明する。
トルク指令手段105が同期電動機3の定格運転状態を検出すると、補正開始指令が初期値補正演算手段109に入力される。初期値補正演算手段109では、
図2に示すように、第1補正値θ
11をゼロとし、その時の効率ηをη
0として記憶しておく。この状態では、
図1における加算手段110の出力、つまり第2補正値θ
12は初期値θ
1に等しい。
【0018】
次いで、初期値補正演算手段109は、微小量Δθを単位として第1補正値θ
11を逐次増加させ、加算手段110の出力である第2補正値θ
12を正方向(
図2の矢印(1)方向)に変化させる。そして、加算手段103により第2補正値θ
12を磁極位置検出値θ
0に加算して補正した磁極位置検出値θ
2を用いて運転を継続し、その都度、効率ηをピークホールドする動作により、第1補正値θ
11(言い換えれば第2補正値θ
12)を増加させていく過程で効率ηの最大値を記憶する。
この動作は、前回のΔθ加算時よりも効率ηが改善される(大きくなる)限り続行し、第2補正値θ
12及び効率ηをその都度、記憶しておく。
【0019】
また、第1補正値θ
11を増加させていく過程で前回のΔθ加算時よりも効率ηが悪化したら(小さくなったら)、Δθを単位として第1補正値θ
11を逐次減少させ、加算手段110の出力である第2補正値θ
12を負方向(
図3の矢印(2)方向)に変化させる。
この状態で、前記同様に第2補正値θ
12を磁極位置検出値θ
0に加算して得た磁極位置検出値θ
2を用いて運転を継続し、その都度、効率ηをピークホールドする動作により、第2補正値θ
12を減少させていく過程で第2補正値θ
12及び効率ηを記憶する。
【0020】
上記の動作を繰り返すことにより、
図4に示すように効率η
maxが最大値になる時の第1補正値θ
11ひいては第2補正値θ
12が求められ、この第2補正値θ
12を磁極位置検出値θ
0に加算して補正した磁極位置検出値θ
2を用いて運転を継続することにより、同期電動機3の運転中に、磁極位置を適正値に補正しつつ効率を改善することができる。
【符号の説明】
【0021】
1:直流電源
2:インバータ
3:同期電動機
5:磁極位置検出器
6:電圧検出器
7,8:電流検出器
20:負荷
100:制御装置
101,107:乗算手段
102:位置検出手段
103,110:加算手段
104:微分手段
105:トルク指令手段
106:インバータ制御手段
108:効率演算手段
109:初期値補正演算手段