【文献】
N.Dupre et al.,Positive electrode materials for lithium batteries based on VOPO4,Solid State Ionics,Elsevier,2001年 4月,Vol.140,Pages209-221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように活物質の構造安定性を高めるために様々な検討が行われている。本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、特に高電圧で駆動するリチウムイオン二次電池において初期充放電効率を向上するリチウムイオン二次電池用正極活物質およびそれを有するリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、正極活物質本体の表面の一部に化学式:VOPO
4で表される化合物を付着させると、高電圧で駆動するリチウムイオン二次電池において初期充放電効率を改善できることを見いだした。化学式VOPO
4で表される化合物は特許文献1に記載されている化合物には該当しない。本発明者らは化学式VOPO
4で表される化合物の効果を新たに見いだした。
【0008】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、正極活物質本体と、正極活物質本体の表面の一部に付着する付着部と、を有し、付着部は化学式:VOPO
4で表される化合物よりなり、正極活物質本体の表面積全体を100%としたときに、付着部の面積の占める割合は1%以上30%以下であることを特徴とする。
【0009】
化学式VOPO
4で表される化合物は粒子であり、粒子の平均粒径は10nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0010】
上記リチウムイオン二次電池用正極活物質は、150℃以上500℃以下の温度で加熱する加熱工程を経て製造されたものであることが好ましい。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、正極活物質本体の表面の一部に化学式:VOPO
4で表される化合物が付着している。正極活物質本体の表面積全体を100%としたときに、付着部の面積の占める割合は1%以上30%以下である。
【0013】
ここで、化学式:VOPO
4で表される化合物は結晶水がないものはもちろん結晶水があるものも含む。すなわち化学式:VOPO
4で表される化合物は水和物でなくても水和物であってもよい。化学式:VOPO
4で表される化合物を以下VOPO
4と称す。VOPO
4はリチウムイオン伝導性が高い。本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウムイオン伝導性が高いVOPO
4が正極活物質本体の表面の一部に付着している。そのため、正極活物質本体のリチウムイオン伝導が表面に存在するVOPO
4によって促進される。従って正極活物質本体の表面に付着しているVOPO
4は、電池の抵抗成分にはなりにくい。つまり表面の一部にVOPO
4が存在してもリチウムイオン二次電池の抵抗は上昇しにくい。正極活物質本体の表面積全体を100%としたときに、付着部の面積の占める割合は1%以上30%以下であると、高電圧で駆動するリチウムイオン二次電池において初期充放電効率が向上する。一般的に高電圧で駆動するリチウムイオン二次電池では、充放電時に正極活物質の近傍で電解液の分解がおこる。そのため、充電時の充電容量に比べてその次の放電時の放電容量が低下する。VOPO
4は電解液の分解などの電池の駆動時の何らかの副反応を抑制すると推察される。しかしながら、正極活物質本体の表面の一部にVOPO
4が存在すると、高電圧で駆動するリチウムイオン二次電池において初期充放電効率が向上する理由は不明である。
【0014】
VOPO
4は粒子であり、粒子の平均粒径は10nm以上200nm以下であることにより正極活物質本体にVOPO
4が付着しやすくなる。
【0015】
また、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質は150℃以上500℃以下の温度で加熱する加熱工程を経て製造されたものであると、初期充放電効率の向上が顕著となる。一般的にVOPO
4は150℃以上の温度で加熱されることによって内部に持っている結晶水の少なくとも一部は減少する。特にVOPO
4は400℃以上の温度で加熱されることによってほとんどの結晶水が減少する。VOPO
4は含有される水分によって劣化すると考えられる。そのため、VOPO
4は水分が少ない方が、何らかの副反応を抑制するという上記効果がより顕著になる。一方VOPO
4は500℃より高い温度で加熱してもさらなる結晶水の減少は観察されない。従ってリチウムイオン二次電池用正極活物質は500℃より高い温度で加熱する必要はなく、作製時のエネルギーの無駄を省くためにもリチウムイオン二次電池用正極活物質は500℃以下の温度で加熱することが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、正極活物質本体と、正極活物質本体の表面の一部に付着する付着部と、を有し、付着部は化学式:VOPO
4で表される化合物よりなる。
【0018】
正極活物質本体としては、高電圧において駆動されるリチウムイオン二次電池の電極で使用するのに適したものであることが好ましい。正極活物質本体としては、リチウム含有化合物、あるいは他の金属化合物よりなるものを用いることができる。
【0019】
リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、一般式: LiCo
pNi
qMn
rD
sO
2 (Dはドープ成分であり、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選ばれる少なくとも1つであり、p+q+r+s=1、0<p≦1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物、一般式:LiMPO
4で示されるオリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MPO
4Fで示されるフッ化オリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MSiO
4で示されるケイ酸塩系型リチウム複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)を用いることができる。
【0020】
また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの二硫化物が挙げられる。
【0021】
正極活物質本体は、一般式: LiCo
pNi
qMn
rD
sO
2 (Dはドープ成分であり、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選ばれる少なくとも1つであり、p+q+r+s=1、0<p≦1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物からなることが好ましい。ここで、特に上記p、q、rはそれぞれ0<p<1、0<q<1、0<r<1の範囲とすることが好ましい。
【0022】
上記リチウムコバルト含有複合金属酸化物は、熱安定性に優れ、低コストである。上記リチウムコバルト含有複合金属酸化物を正極活物質とすることによって、熱安定性の高い、安価なリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0023】
正極活物質本体はその平均粒径が1μm〜20μmである粉末形状であることが好ましい。正極活物質本体の平均粒径が1μmより小さいと正極活物質本体の比表面積が大きくなる。そのため、正極活物質と電解液との反応面積が増える。正極活物質本体の平均粒径が1μmより小さいことは好ましくない。また、正極活物質本体の平均粒径が20μmより大きいとリチウムイオン二次電池としたときの抵抗が大きくなる。そのため、リチウムイオン二次電池の充放電容量が下がる。正極活物質本体の平均粒径が20μmより大きいことは好ましくない。正極活物質本体の平均粒径は粒度分布測定法によって計測できる。
【0024】
付着部は正極活物質本体の表面の一部に付着している。付着部は化学式:VOPO
4で表される化合物よりなる。化学式:VOPO
4で表される化合物は水和物でないものはもちろん水和物も含む。
【0025】
VOPO
4は市販品を用いることも出来るし、下記の手順で作製することも出来る。VOSO
4・2H
2Oと(NH
4)
2HPO
4とを一定割合で純水中に溶解することによって上記VOPO
4の水和物を析出させることが出来る。そして析出したVOPO
4の水和物を乾燥させて用いることが出来る。さらに乾燥したVOPO
4の水和物を150℃以上500℃以下の温度で加熱すれば、内部に含有される水分が減少する。特にVOPO
4の水和物を400℃以上で焼成すれば、VOPO
4の水和物の結晶水がほとんど抜けて、VOPO
4となり、結晶性があがる。
【0026】
VOPO
4の形状は特に限定されない。正極活物質本体が粉末形状である場合、VOPO
4の形状も粉末形状であると表面に付着しやすい。そのためVOPO
4は粉末形状であることが好ましい。上記VOPO
4の平均粒径は10nm以上200nm以下であることが好ましい。VOPO
4の平均粒径は100nm以下であることがより好ましい。VOPO
4の平均粒径が200nmより大きいと1個の正極活物質本体の表面に少なくとも1個のVOPO
4を付着させるのは困難である。VOPO
4の平均粒径は粒度分布測定法によって計測できる。
【0027】
また正極活物質本体の粉末の平均粒径は、VOPO
4の粉末の平均粒径よりも大きいことが好ましい。正極活物質本体の大きさがVOPO
4の大きさよりも大きいと正極活物質本体の表面にVOPO
4が付着しやすい。特に正極活物質本体の粉末の平均粒径は、VOPO
4の粉末の平均粒径の20倍以上であることが好ましい。
【0028】
正極活物質本体の表面において、その表面の一部に付着部が付着していればよい。VOPO
4は正極活物質本体よりリチウムイオン伝導性が高い。正極活物質本体の表面の一部にVOPO
4が存在すれば、正極活物質本体の表面においてVOPO
4の近傍で選択的にリチウムイオン伝導がおこる。電解液の分解は一般的に正極活物質本体の表面においてリチウムイオン伝導がおこる箇所でおこる。言い換えれば正極活物質本体の表面のリチウムイオン伝導がおこらない箇所では電解液の分解はおこらない。本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、正極活物質本体の表面の電解液の分解がおこると考えられる箇所にはVOPO
4が付着している。VOPO
4が付着している正極活物質本体の表面はVOPO
4によって、電解液と直接接触しない。そのため、正極活物質本体の表面と電解液とが接触することによっておこる電解液の分解は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては減少する。従って、正極活物質本体の表面の一部に付着部が付着していれば電解液の分解は減少する。
【0029】
正極活物質本体の表面積全体を100%としたときに、付着部の面積の占める割合は1%以上30%以下である。付着部の面積の占める割合がこの範囲内にあればリチウムイオン二次電池の初期充放電効率が高くなる。
【0030】
図1に本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質を説明する模式断面図を示す。
図1において、1個の正極活物質本体1の表面に間隔をあけて複数個の付着部2が付着しているところが示されている。
図1において正極活物質本体1も付着部2も粉末形状で表されている。付着部2は正極活物質本体1の表面の一部に付着する層状であってもよい。
【0031】
正極活物質本体にVOPO
4を付着する方法として、乾式法及び湿式法が使用できる。
【0032】
乾式法は、正極活物質本体とVOPO
4とを乾式で混合する方法である。VOPO
4はVOPO
4を用いても良いし、VOPO
4の水和物を用いてもよい。混合は、乳鉢及び乳棒を用いてもよいし、例えばボールミリング装置などの公知の混合装置を用いてもよく、それらを適宜組み合わせてもよい。
【0033】
乾式法を用いるとVOPO
4を正極活物質本体に厚く付着させることが出来る。しかしVOPO
4を厚く正極活物質本体に付着させると、正極活物質本体の表面積全体に対するVOPO
4の面積の占める割合が少なくても、電池の抵抗が増える。乾式法を用いる場合は、電池の抵抗の観点からは正極活物質本体の表面積全体を100%としたときに、VOPO
4の面積の占める割合は10%以下とすることが好ましい。
【0034】
また混合後にさらに正極活物質を加熱しても良い。混合原料としてVOPO
4の水和物を用いた場合、正極活物質を150℃以上の温度で加熱することによって、VOPO
4の水和物から、少なくとも一部の結晶水を除去できる。
【0035】
湿式法は、溶液中で正極活物質本体に、VOPO
4を付着する方法である。
【0036】
VOSO
4・2H
2Oを一定割合で純水中に溶解してVOSO
4溶液を作成する。(NH
4)
2HPO
4を一定割合で純水中に溶解して(NH
4)
2HPO
4溶液を作成する。VOSO
4溶液に正極活物質本体の粉末を投入して攪拌する。次にこの溶液中に(NH
4)
2HPO
4溶液を加えて攪拌する。
【0037】
この溶液中で正極活物質本体の粉末はマイナスに帯電し、溶液中で析出したVOPO
4の水和物の粉末は、プラスに帯電する。そのため溶液のpHを調整すれば、正極活物質本体の粉末の表面にVOPO
4の水和物の粉末が吸着する。複数個のVOPO
4の水和物の粉末は、お互いのプラスの帯電によって反発する。そのため、VOPO
4の粉末は間隔を開けて正極活物質本体の粉末の表面に吸着される。その後、VOPO
4の水和物の粉末が表面の一部に吸着した正極活物質本体を濾過し、乾燥することにより本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を作製できる。また乾燥後にさらに正極活物質を加熱しても良い。正極活物質を加熱することによって、VOPO
4の水和物から、付着水や結晶水を除去できる。
【0038】
ここで、VOSO
4溶液と(NH
4)
2HPO
4溶液とを先に混合してから正極活物質本体を入れることは好ましくない。VOSO
4溶液と(NH
4)
2HPO
4溶液とを混合すると、混合時に数μmの大きさのVOPO
4の水和物が析出する。VOPO
4の水和物の大きさが大きすぎるため、この後に正極活物質本体の粉末を入れると正極活物質本体の表面にVOPO
4の水和物は付着しにくい。VOSO
4溶液にまず正極活物質本体の粉末を投入して攪拌した後に(NH
4)
2HPO
4溶液を加えて攪拌すると、VOPO
4の水和物が反応と同時に正極活物質本体に付着していき、VOPO
4の水和物の平均粒子径を小さくすることができる。
【0039】
湿式法では、乾式法に比べて正極活物質本体の表面に吸着したVOPO
4の厚みをあまり厚くは出来ない。湿式法において電池の抵抗の観点から正極活物質本体の表面積全体を100%としたときに、VOPO
4の面積の占める割合は25%以下とすることがより好ましい。
【0040】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したリチウムイオン二次電池用正極活物質を有する。
【0041】
正極は、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質が結着剤で結着されてなる正極活物質層が、集電体に付着してなる。
【0042】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体に用いることのできる材料として、例えばステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂を挙げることができる。また集電体は、箔、シート、フィルムなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。
【0043】
集電体は、その膜厚が10μm〜100μmであることが好ましい。
【0044】
正極活物質層はさらに導電助剤を含んでもよい。正極は、以下のようにして形成出来る。正極活物質および結着剤、並びに必要に応じて導電助剤を含む正極活物質層形成用組成物を調製する。さらにこの正極活物質層形成用組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にする。ペースト状のものを集電体の表面に塗布する。その後、乾燥し、集電体表面に正極活物質層を形成する。正極活物質層を形成された集電体を必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮する。
【0045】
正極活物質層形成用組成物の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0046】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0047】
結着剤は、上記正極活物質及び導電助剤を集電体に繋ぎ止める役割を果たす。結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンおよびフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリイミドおよびポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0048】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、正極に含有される活物質100質量部に対して、1質量部〜30質量部程度とすることができる。
【0049】
(その他の構成要素)
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、上記した正極に加えて、負極、セパレータ、電解液を有する。
【0050】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は、負極活物質、結着剤を含み、必要に応じて導電助剤を含む。集電体、結着剤、導電助剤は正極で説明したものと同様である。
【0051】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物、あるいは高分子材料を用いることができる。
【0052】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が挙げられる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0053】
リチウムと合金化可能な元素は、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biの少なくとも1種であるとよい。中でも、リチウムと合金化可能な元素としては、珪素(Si)または錫(Sn)が好ましい。
【0054】
リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物としては、例えば、ZnLiAl、AlSb、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
v(0<v≦2)、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSiOあるいはLiSnOが使用できる。リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物としては珪素化合物または錫化合物が好ましい。珪素化合物としては、SiO
x(0.5≦x≦1.5)が好ましい。錫化合物としては、例えば、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が使用できる。
【0055】
高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリピロールなどが使用できる。
【0056】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとして、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、若しくはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が使用できる。
【0057】
電解液はリチウムイオン二次電池用に用いることのできる電解液が使用できる。電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0058】
溶媒として、例えば、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類が使用できる。環状エステル類として、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンが使用できる。鎖状エステル類として、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルが使用できる。エーテル類として、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンが使用できる。
【0059】
また上記電解液に溶解させる電解質として、例えば、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を使用することができる。
【0060】
電解液として、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0061】
上記リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。上記リチウムイオン二次電池は、初期充放電効率が高いため、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両は、出力および寿命の面で高性能となる。
【0062】
車両は、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよい。車両として、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0063】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質及びリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0065】
(実施例1)
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の作製]
正極活物質本体として平均粒径10μmのLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を準備した。付着部の原料として、VOSO
4・2H
2Oと(NH
4)
2HPO
4とを準備した。
【0066】
VOSO
4・2H
2Oと(NH
4)
2HPO
4とを、モル比がV:P=1:1となるように秤量した。それぞれを純水中に溶かし、VOSO
4溶液と、(NH
4)
2HPO
4溶液を作成した。VOSO
4溶液にLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を100質量%としたときにVOPO
4が0.1質量%となるようにLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を投入し、攪拌した。続いてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2が投入されたVOSO
4溶液に(NH
4)
2HPO
4溶液を投入し1時間攪拌した。溶液を吸引濾過し、スラリー状の濾過物を120℃の乾燥機で12時間乾燥した。塊状になった乾燥後の濾過物を乳棒および乳鉢を用いて粉砕し、坩堝にいれて400℃で5時間焼成した。焼成後に平均粒径が10μmとなるように乳棒および乳鉢を用いて粉砕し、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。各粉砕工程において正極活物質本体から付着しているVOPO
4が脱落したりせず、付着状態はかわらないことを各粉砕工程の前と後に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して確認した。
【0067】
できあがった実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEMで観察すると、粒径が10μmのLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2の表面に、粒径が50nm程度のVOPO
4の粉末が隙間を空けて付着しているところが観察された。
【0068】
ここでVOPO
4の付着率(%)を以下のようにして求めた。SEM写真において活物質とVOPO
4の粒子は明暗の差がはっきりとしているため、活物質表面の粒子が付着されている部分とされていない部分が明確にわかる。このSEM写真を画像解析することによって活物質の表面積に対するVOPO
4粒子の面積率を算出することで付着率を求めた。
【0069】
実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は4%であった。
【0070】
この実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着物を粉末X線回折(XRD)(リガク製 SmartLab)で分析した。この分析結果をV
2O
5及びVOPO
4の分析結果と合わせて
図2に示す。
図2に示すピークの位置より実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着物はV
2O
5ではなく、VOPO
4であることが確認できた。
【0071】
[ラミネート型リチウムイオンリチウムイオン二次電池の作製]
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0072】
まず実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質と導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ94質量部、3質量部、3質量部として混合し、この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、スラリーを作製した。
【0073】
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。上記集電体にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように集電体に塗布した。得られたシートを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、集電体と集電体上の塗布物を強固に密着接合させた。この時電極密度は12g/cm
2となるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱した。加熱後の接合物を、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極1とした。正極1の厚さは60μm程度であった。
【0074】
負極は以下のように作製した。黒鉛粉末97質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック1質量部と、結着剤として、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)1質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させてスラリーを作製した。このスラリーを負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスした。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱した。加熱後の接合物を、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、負極とした。負極の厚さは45μm程度であった。
【0075】
上記の正極1および負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極1および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネー(DEC)をEC:DEC=3:7(体積比)で混合した溶媒に1モル%のLiPF
6を溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0076】
(実施例2)
実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の作製において、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を100質量%としたときにVOPO
4が0.5質量%となるようにLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を投入した以外は実施例1と同様にして、実施例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0077】
実施例2のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEM観察したところ50nm程度の粒子が活物質表面に付着していることを確認できた。
【0078】
実施例2のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は9%であった。
【0079】
(実施例3)
実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の作製において、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を100質量%としたときにVOPO
4が1質量%となるようにLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を投入した以外は実施例1と同様にして、実施例3のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
実施例3のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEM観察したところ100nm程度の粒子が活物質表面に付着していることを確認できた。
【0081】
実施例3のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は19%であった。
【0082】
(実施例4)
実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の作製において、乾燥させた後、焼成を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例4のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
実施例4のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEM観察したところ100nm程度の粒子が活物質表面に付着していることを確認できた。
【0084】
実施例4のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は3%であった。
【0085】
(実施例5)
実施例2のリチウムイオン二次電池用正極活物質の作製において、乾燥させた後、焼成を行わなかった以外は実施例2と同様にして、実施例5のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
実施例5のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEM観察したところ100nm程度の粒子が活物質表面に付着していることを確認できた。
【0087】
実施例5のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は14%であった。
【0088】
(実施例6)
実施例3のリチウムイオン二次電池用正極活物質の作製において、乾燥させた後、焼成を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例6のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
実施例6のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEM観察したところ100nm程度の粒子が活物質表面に付着していることを確認できた。
【0090】
実施例6のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は22%であった。
【0091】
(比較例1)
正極活物質として付着物のないLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2そのものを使用した以外は実施例1と同様にして、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
(比較例2)
実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質の作製において、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を100質量%としたときにVOPO
4が2質量%となるようにLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を投入した以外は実施例1と同様にして、比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
比較例2のリチウムイオン二次電池用正極活物質をSEM観察したところ400nm程度の粒子が活物質表面に付着していることを確認できた。また、活物質に付着していない10μm程度の粗大な粒子の存在も確認できた。
【0094】
比較例2のリチウムイオン二次電池用正極活物質の付着率は52%であった。
【0095】
<初期充放電効率測定>
実施例1〜6、比較例1及び比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて初期充放電容量を測定した。
【0096】
初期充放電容量測定は以下のように行った。充電は室温で1Cレート、電圧4.5VまでCC充電(定電流充電)をした後、電圧4.5Vで1.5時間CV充電(定電圧充電)をした。このときの1Cレートの充電容量を測定し、初期充電容量とした。
【0097】
放電は電圧3.0Vまで、0.33CレートでCC放電(定電流放電)を行い、電圧3.0Vで2時間CV放電をした。その後、0.33Cにおける放電容量を測定し、初期放電容量とした。充放電効率(%)は以下の式で求めた。
充放電効率(%)=初期放電容量/初期充電容量×100
結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1より、実施例1〜6のラミネート型リチウムイオン二次電池は、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池及び比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池よりも充放電効率(%)が高いことがわかった。つまり正極活物質本体へのVOPO
4の付着率は1%以上30%以下であると初期充放電効率が高いことがわかった。
【0100】
また400℃で焼成を行った正極活物質を用いた実施例1、実施例2及び実施例3のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期充電容量は、未焼成の正極活物質を用いた実施例4、実施例5及び実施例6のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期充電容量よりも高く、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期充電容量と同等であった。
【0101】
このことから400℃で焼成した正極活物質を用いたほうが未焼成の正極活物質を用いるより、電池の抵抗が少ないと推測される。