特許第5999439号(P5999439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5999439ポリシラン誘導体を含むエマルション、ポリシラン誘導体を含むマイクロカプセル、及びケイ素単体を含む活物質粒子、並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999439
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】ポリシラン誘導体を含むエマルション、ポリシラン誘導体を含むマイクロカプセル、及びケイ素単体を含む活物質粒子、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/00 20060101AFI20160915BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160915BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20160915BHJP
   B01J 13/02 20060101ALI20160915BHJP
   B01F 3/08 20060101ALI20160915BHJP
   C08L 83/16 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   B01J13/00 A
   H01M4/36 B
   H01M4/38 Z
   B01J13/02
   B01F3/08 A
   C08L83/16
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-76680(P2013-76680)
(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公開番号】特開2014-200711(P2014-200711A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】曽根 宏隆
【審査官】 松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/062132(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0152788(US,A1)
【文献】 特表平09−501983(JP,A)
【文献】 特開2000−243396(JP,A)
【文献】 特開2012−204203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/00
B01F 3/08
B01J 13/02
C08L 83/16
H01M 4/36
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかから選択される第1工程と、
前記第1工程で得られた液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる第1孔通過工程と、
前記第1孔通過工程を経た液を極性の連続相溶液に分散させる第1エマルション形成工程と、
を有することを特徴とするW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法。
【請求項2】
重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかから選択される第1工程と、
前記第1工程で得られた液を極性の連続相溶液に分散させる第2エマルション形成工程と、
前記第2エマルション形成工程で形成されたエマルション含有溶液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる第2孔通過工程と、
を有することを特徴とするW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られたW/O/W型、S/O/W型、又はO/W型エマルションに含まれる重合性モノマーを重合させる重合工程を有するマイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法で得られたマイクロカプセルを焼成する焼成工程を有する活物質粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリシラン誘導体を含むエマルション、ポリシラン誘導体を含むマイクロカプセル、及びケイ素単体を含む活物質粒子、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は小型で大容量であるため、携帯電話やノート型パソコンなどの種々の機器の電池として用いられている。リチウムイオン二次電池は、必須の構成要素として正極及び負極の対の電極を備える。電極は活物質層及び該活物質層が表面に結着された集電体を有する。負極に含まれる活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料である負極活物質を含む。近年、ケイ素単体や、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料が負極活物質として有用であるとの知見が得られ、ケイ素系材料についての研究が盛んに行われている。
【0003】
ケイ素系材料を好適な負極活物質として用いるために、ケイ素系材料をカーボンコーティングし、良好な導電性を付与する技術が知られている。ケイ素系材料をカーボンコーティングする方法としては、ケイ素系材料と炭素材とを機械的せん断力で密着させるメカニカルアロイング法や、ケイ素系材料に炭素含有ガスを化学蒸着させるCVD法などが挙げられる。特許文献1には、ケイ素単体を含む材料をCVD法でカーボンコーティングし負極活物質とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−192453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のケイ素系材料のカーボンコーティング法で得られた活物質粒子を観察すると、カーボンコートの程度にムラが観察され、このムラを制御するのは実際上非常に困難であった。しかも、従来のカーボンコーティング法で得られる活物質の粒径は、ロット間はもちろんロット内であっても大きな分散が観察された。活物質の粒径の分散が大きいと、活物質全体の表面積が電極毎にばらつく原因となるし、電極毎の活物質の充填率がばらつく原因にもなる。その結果、電極毎の電池容量にばらつきが生じる。従来のカーボンコーティング法で得られる活物質の粒径の分散は、主にカーボンコーティング前のケイ素系材料の粒径の分散に依存する。そして、通常、ケイ素系材料はボールミルなどでの粉砕により調製されるため、ケイ素系材料の粒径に大きな分散が生じることを回避するのは困難であった。しかも、ケイ素系材料を含む活物質の形状を、活物質として作用するのに理想的な球状とすることは現実的に困難であった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、カーボンコーティングされたケイ素系材料を含み、粒径の分散を低く抑えた球状の活物質粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はケイ素系材料のカーボンコーティング法について鋭意検討を重ねた。そして、本発明者は思いがけず、ケイ素系材料のカーボンコーティング法としてエマルション及びマイクロカプセル製造技術を適用することを想起した。さらに、鋭意検討を重ねた結果、ケイ素系材料としてのポリシラン誘導体及び重合性モノマーを用いたエマルション、このエマルションを原料とするマイクロカプセル、そして、このマイクロカプセルを原料とする活物質粒子を得るに至り、かかる活物質粒子の粒径の分散が低く抑えられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明のW/O/W型又はS/O/W型エマルションは、ポリシラン誘導体を含む内水相又はポリシラン誘導体を含む固体相、重合性モノマーを含む油相、及び外水相からなることを特徴とする。
【0009】
本発明のO/W型エマルションは、ポリシラン誘導体及び重合性モノマーを含む油相、並びに外水相からなることを特徴とする。
【0010】
本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法の一態様は、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかから選択される第1工程と、前記第1工程で得られた液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる第1孔通過工程と、前記第1孔通過工程を経た液を極性の連続相溶液に分散させる第1エマルション形成工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法の他の態様は、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかから選択される第1工程と、前記第1工程で得られた液を極性の連続相溶液に分散させる第2エマルション形成工程と、前記第2エマルション形成工程で形成されたエマルション含有溶液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる第2孔通過工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒の形状は、エマルションであるから当然に球状である。また、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションは、特定の範囲の孔径を有する膜又は隔壁を通過させて製造されることから、エマルション粒径の分散が低く抑えられている。
【0013】
本発明のマイクロカプセルは、ポリシラン誘導体を含有し、油相の主成分がポリマーであることを特徴とする。本発明のマイクロカプセルの製造方法は、上記W/O/W型、S/O/W型、又はO/W型エマルションに含まれる重合性モノマーを重合させる重合工程を有することを特徴とする。
【0014】
本発明のマイクロカプセルは、球状で低分散の上記W/O/W型、S/O/W型、又はO/W型エマルションに含まれる重合性モノマーを重合させる重合工程を介して製造されることから、本発明のマイクロカプセルは球状であり、その粒径の分散も低く抑えられている。
【0015】
本発明の活物質粒子は、ケイ素単体を含有し残部の主成分が炭素であって球状であることを特徴とする。また、本発明の活物質粒子は、粒径が低分散、好ましくは単分散である。本発明の活物質粒子の製造方法は、上記マイクロカプセルを焼成する焼成工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の活物質粒子は、球状で低分散の上記マイクロカプセルを焼成する焼成工程を介して製造されることから、本発明の活物質粒子は球状であり、その粒径の分散も低く抑えられている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の活物質粒子は、カーボンコーティングされたケイ素系材料を含み、粒径が低分散であって、球状である。本発明の活物質粒子は粒径の分散が抑えられているから、本発明の活物質粒子を例えば負極活物質として電極に用いた場合、電極毎の負極活物質全体の表面積のばらつきを低減できるし、電極毎の負極活物質の充填率のばらつきを低減できる。その結果、電極毎の電池容量のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のW/O/W型エマルションの光学顕微鏡写真である。写真右下のスケールの大きさは100μmである。
図2】本発明のW/O/W型エマルションの光学顕微鏡写真である。写真右下のスケールの大きさは50μmである。
図3】本発明のマイクロカプセルの光学顕微鏡写真である。
図4】本発明のマイクロカプセルの走査型電子顕微鏡写真である。写真右下のスケールの数値は200μmである。
図5】本発明のマイクロカプセルの走査型電子顕微鏡写真である。写真右下のスケールの数値は50μmである。
図6】本発明のマイクロカプセルの走査型電子顕微鏡写真である。写真右下のスケールの数値は50μmである。
図7】本発明の活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】本発明の活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図9】本発明の活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図10】本発明の活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図11】レーザー回折散乱式粒度分布測定装置による本発明のマイクロカプセル(焼成前)と本発明の活物質粒子(焼成後)の粒度分布の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。本明細書中、例えば、(メタ)アクリル酸との表記は、アクリル酸及びメタアクリル酸のそれぞれを独立して意味する。
【0020】
本発明のW/O/W型又はS/O/W型エマルションは、ポリシラン誘導体を含む内水相又はポリシラン誘導体を含む固体相、重合性モノマーを含む油相、及び外水相からなることを特徴とする。本発明のO/W型エマルションは、ポリシラン誘導体及び重合性モノマーを含む油相、並びに外水相からなることを特徴とする。
【0021】
本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法の一態様は、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかから選択される第1工程と、前記第1工程で得られた液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる第1孔通過工程と、前記第1孔通過工程を経た液を極性の連続相溶液に分散させる第1エマルション形成工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法の他の態様は、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかから選択される第1工程と、前記第1工程で得られた液を極性の連続相溶液に分散させる第2エマルション形成工程と、前記第2エマルション形成工程で形成されたエマルション含有溶液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる第2孔通過工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
以下、エマルションの製造方法に沿って本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションを説明する。
【0024】
第1工程は、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程のいずれかの工程である。
【0025】
ポリシラン誘導体を含む極性液(以下、単に「極性液」という場合がある。)とは、W/O型エマルションのWに相当するものである。極性液はポリシラン誘導体と水又はカーボン数3までのアルコール類(以下、単に「アルコール類」という。)とを必須の構成成分とし、重合性モノマーを含む有機溶媒と混和しない液である。極性液の組成は重合性モノマーを含む有機溶媒とエマルションを形成し、ポリシラン誘導体を含む材料と水、水溶性溶媒を含むものであれば、特に制限は無い。
【0026】
ポリシラン誘導体は、以下の一般式(1)で表される直鎖型若しくは分岐型のポリシラン、又は一般式(2)で表される環状のポリシランを意味する。
【0027】
SinRnRnR (1)
、R、R、Rは水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルケニル基、置換基で置換されていても良いアルキニル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、ハロゲン、水酸基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、−OC(O)Rからそれぞれ独立に選択され、Rは置換基で置換されていても良いアルキル基であり、nは2以上の整数である。
【0028】
(SiR)m (2)
、Rは水素、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いアルケニル基、置換基で置換されていても良いアルキニル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、ハロゲン、水酸基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、−OC(O)Rからそれぞれ独立に選択され、Rは置換基で置換されていても良いアルキル基であり、mは3以上の整数である。
【0029】
アルキル基の形状としては、直鎖型、分岐型又は環状のいずれのものでもよい。アルキル基の炭素数には特に制限がないが、入手若しくは製造の容易性から炭素数1〜30のアルキルが好ましく、炭素数1〜18のアルキルがより好ましく、炭素数1〜6のアルキルが特に好ましい。アルコキシ基のアルキル基についても同様である。
【0030】
アルケニル基又はアルキニル基の形状としては、直鎖型、分岐型又は環状のいずれのものでもよい。アルケニル基又はアルキニル基の炭素数には特に制限がないが、入手若しくは製造の容易性から炭素数2〜30のアルケニル又はアルキニルが好ましく、炭素数2〜18のアルケニル又はアルキニルがより好ましく、炭素数2〜6のアルケニル又はアルキニルが特に好ましい。
【0031】
芳香族基としては、フェニル基、インデニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基などのアリール基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、チオフェニル基、フラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基等のヘテロアリール基が挙げられ、フェニル基が特に好ましい。
【0032】
置換基としては、上述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族基、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基に加えて、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0033】
〜Rの種類又は置換基の種類により、ポリシラン誘導体の性質は水溶性、油溶性、難溶性に変化させることができる。よって、第1工程をW/O型エマルション形成工程としたければ、親水性の基を導入した水溶性のポリシラン誘導体を採用すればよい。第1工程をS/O型エマルション形成工程としたければ、親水性の基を導入した水溶性のポリシラン誘導体を採用するか、重合性モノマーを含む有機溶媒に難溶性の基を導入した難溶性のポリシラン誘導体を採用すればよい。第1工程を溶解工程としたければ、親油性の基を導入した重合性モノマーを含む有機溶媒に溶解するポリシラン誘導体を採用すればよい。
【0034】
一般式(1)において、nは2以上の整数であれば特に限定されないが、2〜30000の範囲内が好ましく、10〜10000の範囲内がより好ましく、15〜1000の範囲内が特に好ましい。一般式(2)において、mは3以上の整数であれば特に限定されないが、3〜18の範囲内が好ましく、4〜12の範囲内がより好ましく、5〜8の範囲内が特に好ましい。
【0035】
ポリシラン誘導体の重量平均分子量に特段の制限は無いが、重量平均分子量は200〜100000の範囲内が好ましく、700〜50000の範囲内がより好ましく、1000〜25000の範囲内が特に好ましい。
【0036】
特に好ましいポリシラン誘導体として、一般式(1)においてRがメチル基、Rがフェニル基で表され有機溶媒に溶解するポリメチルフェニルシラン、一般式(1)においてRがメチル基、Rがエチル基で表され有機溶媒に溶解するポリメチルエチルシラン、一般式(1)においてR及びRが共にメチル基で表され難溶性のポリメチルシラン、一般式(2)においてR及びRが共にフェニル基で表され難溶性のデカフェニルシクロペンタシラン、一般式(1)においてRがフェニル基、Rが水酸基で表され水溶性のポリフェニルヒドロキシシランを例示することができる。
【0037】
ポリシラン誘導体は市販のものを用いても良いし、公知の方法に準じて製造しても良く、市販又は公知の方法で得られたポリシランの基を適宜置換して製造してもよい。例えば、ポリシラン誘導体は、金属マグネシウム存在下、Rトリハロシランを重合することで合成することができるし、また、金属ナトリウム存在下、Rジハロシランを重合することでも合成することができる。これらの合成の際に、異なる化学構造のシラン誘導体を併用することにより、種々の基を有するポリシラン誘導体を合成することもできる。各種置換基の導入は、公知の置換基導入方法に準じて適宜行えばよい。
【0038】
極性液に必須のポリシラン誘導体の好適な配合量を例示すると、水100質量部に対し、ポリシラン誘導体1〜200質量部の範囲が好ましく、10〜150質量部の範囲がより好ましく、50〜120質量部の範囲がさらに好ましい。
【0039】
また、重合性モノマーを含む有機溶媒に対するポリシラン誘導体の好適な配合量を例示すると、重合性モノマーを含む有機溶媒100質量部に対し、ポリシラン誘導体0.1〜200質量部の範囲が好ましく、1〜150質量部の範囲がより好ましく、5〜120質量部の範囲がさらに好ましい。
【0040】
S/O型サスペンション形成工程に用いるポリシラン誘導体の平均粒径は、S/O型サスペンションを形成できる範囲内であれば特に制限は無い。好適なポリシラン誘導体の平均粒径を例示すると、1nm〜100μmの範囲内が好ましく、5nm〜10μmの範囲内がより好ましく、10nm〜5μmの範囲内が特に好ましい。ポリシラン誘導体の平均粒径は、光学又は電子顕微鏡、レーザー回折式粒度分布測定装置、ゼータ電位測定式粒度分布測定装置、デジタル画像解析式粒度分布測定装置などを用いて算出することができる。本明細書中で述べる他の物質の平均粒径についても、これらの装置を用いて算出すればよい。
【0041】
極性液はポリシラン誘導体と水を必須の構成成分とするが、これら以外に、界面活性剤や水溶性のW/Oエマルション安定剤を含んでいても良い。極性液における構成成分の配合量は、極性液が重合性モノマーを含む有機溶媒とエマルションを形成する範囲であれば特に限定されない。
【0042】
界面活性剤は極性液又は後述する重合性モノマーを含む有機溶媒のうち少なくともいずれか一方に含まれる。そして、界面活性剤は各エマルション又はサスペンション、すなわちW/O、S/O、W/O/W、S/O/W、O/Wの各相の界面に存在する。界面活性剤が極性液に含まれる場合の好適な配合量を例示すると、水100質量部に対し、界面活性剤0.001〜10質量部の範囲が好ましく、0.01〜5質量部の範囲がより好ましく、0.02〜2質量部の範囲がさらに好ましい。
【0043】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は併用されても良い。
【0044】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンなどの公知のものが挙げられる。好ましい非イオン性界面活性剤としては、スパン85として知られるソルビタントリオレエート、テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、モノステアリン酸ソルビタンが挙げられる。
【0045】
陽イオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、カプリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ラウリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ミリスチン酸ジメチルアミノプロピルアミド、パルミチン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ベヘニン酸ジメチルアミノプロピルアミド、オレイン酸ジメチルアミノプロピルアミドなどの公知のものが挙げられる。
【0046】
陰イオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどの公知のものが挙げられる。
【0047】
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシ−N−ヒドロキシイミダゾリニウムベタインなどの公知のものが挙げられる。
【0048】
水溶性のW/Oエマルション安定剤は極性液において必須の構成成分ではないが、水溶性のW/Oエマルション安定剤が極性液中に含まれる場合の好適な配合量を例示すると、水100質量部に対し、水溶性のW/Oエマルション安定剤0.001〜200質量部の範囲が好ましく、0.005〜150質量部の範囲がより好ましく、0.01〜120質量部の範囲がさらに好ましい。
【0049】
水溶性のW/Oエマルション安定剤としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の水溶性溶剤、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、でんぷん、ゼラチン等の水溶性ポリマー、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、フマルアミド、エタクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリロニトリル、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−アルキル−プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルリン酸、ビニルホスホン酸等の水溶性の重合性モノマー、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩及び過硫化水素などの水溶性重合開始剤、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩、コロイダルシリカ、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、りん酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄などのコロイド形成物が挙げられる。これらの水溶性のW/Oエマルション安定剤は併用されても良い。
【0050】
本発明の重合性モノマーは水と混和しないものであれば特に限定されない。
【0051】
水と混和しない重合性モノマーとしては、スチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ジビニルジフェニルエーテルおよびジビニルジフェニルスルホン等のビニル芳香族化合物、塩化ビニル、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン等のオレフィン化合物、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステル類、酢酸ビニル等のビニルエステル、(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリルを挙げることができる。重合性モノマーは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
好ましい重合性モノマーとしては、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素及び水素のみで構成される化合物が例示できる。炭素及び水素のみで構成されるこれらの重合性モノマーは、焼成工程を経た後の活物質粒子において不純物となり得る酸素、窒素、ハロゲンなどを含まないため好ましい。
【0053】
重合性モノマーを含む有機溶媒は、重合性モノマーのみを含むものでも良いが、界面活性剤、架橋剤、油溶性重合開始剤、増粘剤を含んでもよい。
【0054】
界面活性剤は重合性モノマーを含む有機溶媒又は上述した極性液の少なくともいずれか一方に含まれる。重合性モノマーを含む有機溶媒に含まれる界面活性剤としては、上述した具体的な界面活性剤を単独又は複数採用できるが、重合性モノマーに対する溶解性の観点から非イオン性界面活性剤を採用するのが好ましい。好ましい非イオン性界面活性剤の具体例として、スパン85として知られるソルビタントリオレエート、テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、モノステアリン酸ソルビタンを挙げることができる。界面活性剤が重合性モノマーを含む有機溶媒中に含まれる場合の好適な配合量を例示すると、重合性モノマー100質量部に対し、界面活性剤0.01〜15質量部の範囲が好ましく、0.1〜10質量部の範囲がより好ましく、1〜8質量部の範囲がさらに好ましい。
【0055】
架橋剤は分子内に2個以上のオレフィンを有する化合物であって、エマルションの油相又はマイクロカプセルのポリマー層を安定化するためのものである。具体的な架橋剤としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアクリレートを例示できる。架橋剤は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。架橋剤の配合量は特に限定されないが、重合性モノマー100質量部に対し、架橋剤0.01〜50質量部の範囲が好ましく、0.1〜30質量部の範囲がより好ましく、1〜15質量部の範囲がさらに好ましい。
【0056】
油溶性重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスパレロニトリル、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物、並びに、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の過酸化物を挙げることができる。油溶性重合開始剤の配合量は特に限定されないが、重合性モノマー100質量部に対し、油溶性重合開始剤0.01〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部の範囲がより好ましく、1〜3質量部の範囲がさらに好ましい。
【0057】
増粘剤は、エマルション又はサスペンションの油相の粘度を増加させ、エマルション又はサスペンションを安定化するための油溶性高分子である。具体的な増粘剤としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン‐ブタジエン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリエチレンカーボネートを例示できる。増粘剤の重量平均分子量は特に限定されないが、1万〜400万の範囲が好ましく、2.5万〜200万の範囲がより好ましい。増粘剤の配合量は特に限定されないが、重合性モノマー100質量部に対し、増粘剤0.001〜10質量部の範囲が好ましく、0.01〜5質量部の範囲がより好ましく、0.1〜2質量部の範囲がさらに好ましい。
【0058】
第1工程のうち、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を加えるW/O型エマルション形成工程、又は重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程は、撹拌装置又は超音波装置によって生じるせん断力存在下で行われる。撹拌装置又は超音波装置は、W/O型エマルション又はS/O型サスペンションを形成させるのに十分なせん断力を発生できるものであれば特に制限は無い。具体的な撹拌装置又は超音波装置としては、ホモミキサー、ホモジナイザー、ボルテックスミキサー、ナノマイザー、コロイドミル、高圧乳化機、超音波乳化機が挙げられる。
【0059】
重合性モノマーを含む有機溶媒と極性液との配合量は、W/O型エマルションを形成できる範囲内で適宜選択できる。好適な重合性モノマーを含む有機溶媒と極性液との配合量は、重合性モノマーを含む有機溶媒100質量部に対し、極性液1〜100質量部の範囲が好ましく、極性液5〜70質量部の範囲がより好ましく、極性液10〜50質量部の範囲が特に好ましい。極性液が100質量部を超えると、W/O型エマルションがO/W型エマルションに転相する恐れがある。
【0060】
重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を分散させるS/O型サスペンション形成工程は、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を添加して行ってもよいし、ケイ素含有物に重合性モノマーを含む有機溶媒を添加して行っても良い。
【0061】
第1工程のうち、重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を溶解する溶解工程は、上記撹拌装置又は超音波装置を用いて行っても良い。
【0062】
第1工程で用いられる重合性モノマーを含む有機溶媒及び/又は極性液は加温されていても良い。
【0063】
第1孔通過工程は、前記第1工程で得られた液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる工程である。
【0064】
孔を有する膜又は隔壁としては、SPG膜として知られるシラス多孔質ガラス製の多孔質膜、限外濾過処理に使用される膜、シリカアルミナ多孔質膜、ゼオライト多孔質膜、テフロン(登録商標)などの樹脂膜、金属カラム、若しくはこれらの隔壁、又は貫通孔型マイクロチャネルアレイ、マイクロリアクターなどが例示できる。膜又は隔壁の孔径の均一性は本発明のW/O/W型又はS/O/W型エマルション、マイクロカプセル、活物質粒子の粒径の分散に影響を及ぼすので、膜又は隔壁の孔径は均一であるのが好ましい。孔径の均一性、操作性などの観点からSPG膜が特に好ましい。
【0065】
本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒径の大きさは、孔を有する膜又は隔壁の孔径に依存する。例えば、第1孔通過工程を経て後述する第1エマルション形成工程で形成されるエマルションの粒径の大きさは、概ね第1孔通過工程で用いた膜又は隔壁の孔径の3倍程度となる。そのため、孔を有する膜又は隔壁の孔径は、所望のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの径の大きさに応じて適宜選択すればよい。好適な膜又は隔壁の孔径を例示すると、0.05μm〜250μmの範囲が好ましく、0.5μm〜50μmの範囲がより好ましく、1μm〜40μmの範囲が特に好ましい。
【0066】
第1孔通過工程は空気や窒素ガスなどによるガス加圧条件下又はシリンジによる加圧条件下で行われるのが好ましい。加圧条件は用いる液並びに膜又は隔壁の孔径に応じ、適宜決定すればよい。SPG膜を用いる際の好適な圧力を例示すると、1kPa〜5MPaの範囲内が好ましく、2kPa〜1MPaの範囲内がより好ましく、3kPa〜100kPaの範囲内が特に好ましい。
【0067】
第1エマルション形成工程は、第1孔通過工程を経た液を極性の連続相溶液に分散させる工程である。第1孔通過工程と第1エマルション形成工程は連続して実施されるのが好ましい。第1エマルション形成工程は連続相溶液が流動条件下又は撹拌条件下にあるのが好ましい。
【0068】
連続相溶液は水を必須の成分とするが、その他に、水溶性のエマルション安定剤、界面活性剤、水溶性重合禁止剤を含んでいても良い。
【0069】
水溶性のエマルション安定剤としては、上述の水溶性のW/Oエマルション安定剤と同じものが挙げられる。水溶性のエマルション安定剤が連続相溶液に含まれる場合の好適な配合量を例示すると、水100質量部に対し、水溶性のエマルション安定剤0.001〜200質量部の範囲が好ましく、0.005〜150質量部の範囲がより好ましく、0.01〜120質量部の範囲がさらに好ましい。水溶性のエマルション安定剤は併用されても良い。特に、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、でんぷん、ゼラチン等の水溶性ポリマーと、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を併用するのが好ましい。
【0070】
界面活性剤は、連続相溶液又は上述した重合性モノマーを含む有機溶媒の少なくともいずれか一方に含まれる。連続相溶液に含まれる界面活性剤としては上述の具体的な界面活性剤を単独又は複数採用できるが、連続相溶液に対する溶解性の観点から陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤を採用するのが好ましく、特にラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤を採用するのが好ましい。界面活性剤が連続相溶液に含まれる場合の好適な配合量を例示すると、水100質量部に対し、界面活性剤0.005〜1質量部の範囲が好ましく、0.01〜0.5質量部の範囲がより好ましく、0.05〜0.5質量部の範囲がさらに好ましい。 水溶性重合禁止剤としては、公知の亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、アミン系化合物から適宜選択できる。具体的な水溶性重合禁止剤を例示すると、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、ハイドロキノン、スルホン化ナフトヒドロキノンアンモニウム塩、p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンが挙げられる。水溶性重合禁止剤が連続相溶液に含まれる場合の好適な配合量を例示すると、水100質量部に対し、水溶性重合禁止剤0.001〜5質量部の範囲が好ましく、0.01〜1質量部の範囲がより好ましく、0.02〜0.5質量部の範囲がさらに好ましい。
【0071】
連続相溶液の量は本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションが得られる範囲であれば特に制限は無い。好適な連続相溶液の量を例示すると、重合性モノマーを含む有機溶媒100質量部に対し、連続相溶液10質量部以上が好ましく、連続相溶液50質量部以上がより好ましく、100〜10000質量部の範囲内が特に好ましい。
【0072】
第2エマルション形成工程は、孔通過工程前に、第1工程で得られた液を極性の連続相溶液に分散させW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションを形成する工程である。第2エマルション形成工程の連続相溶液は、上述の第1エマルション形成工程で説明した連続相溶液と同じ構成成分を同じ量で用いればよい。第2エマルション形成工程は、第1工程で述べたのと同様の撹拌装置又は超音波装置によるせん断力存在下で行われる。
【0073】
第2孔通過工程は、第2エマルション形成工程で形成されたW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルション含有溶液を、孔を有する膜又は隔壁の該孔を通過させる工程である。第2孔通過工程で用いる孔を有する膜又は隔壁及び第2孔通過工程の条件は、基本的に第1孔通過工程と同じである。ただし、第2孔通過工程を経て形成される本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの径の大きさは、第2孔通過工程で用いる膜又は隔壁の孔径に概ね等しい。
【0074】
第2孔通過工程は、極性の連続相溶液に分散したエマルションを通過させる工程なので、極性の連続相溶液が親水性の膜又は隔壁に直接接する。そうすると、親水性の膜又は隔壁にW/O/W型エマルションの内水相の成分又はS/O/W型エマルションの固体相成分が接すること、及びこれらの成分が親水性の膜又は隔壁に付着することはいずれも抑制される。そのため、第2孔通過工程で用いられる膜又は隔壁の孔が目詰まりする恐れはほとんど無い。
【0075】
本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒径の分散をより低く抑えるには、孔通過工程にて孔径の均一性に優れた膜又は隔壁を用いるか、所望の分散が得られるまで繰り返し孔通過工程を行えばよい。そうすると、粒径が単分散のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションを得ることができる。
【0076】
なお、本発明において単分散とは、下式で算出される変動係数(CV)が15%以下のものをいう。
変動係数(CV(%))=(平均粒径の標準偏差/平均粒径)×100
【0077】
本発明のマイクロカプセルは、ポリシラン誘導体を含有し、油相の主成分がポリマーであることを特徴とする。油相にポリシラン誘導体が含有される本発明のマイクロカプセルの場合は、油相のポリシラン誘導体以外の主成分がポリマーであることを特徴とする。本発明のマイクロカプセルの製造方法は、本発明の製造方法で得られたW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの油相に含まれる重合性モノマーを重合させる重合工程を有することを特徴とする。すなわち、本発明のマイクロカプセルの組成は重合工程に供されるエマルションの組成に依存する。
【0078】
重合工程は、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションを加熱することで開始される。重合工程は撹拌条件下で行われるのが好ましく、また、窒素又はアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われるのが好ましい。重合工程は本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの製造方法から連続して行われるのが好ましい。ただし、本発明の製造方法で得られたW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションを凍結乾燥し、外相の水を除去したものを重合工程に供しても良い。
【0079】
加熱温度は重合性モノマーの重合が開始される温度であれば特に限定は無い。油相に油溶性重合開始剤が含まれていれば、油溶性重合開始剤が分解を開始する温度まで加熱するのが好ましい。好ましい加熱温度として60〜80℃の範囲が例示できる。
【0080】
本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションは、重合工程を経て、ポリシラン誘導体を含有し油相の主成分がポリマーのマイクロカプセルとなる。本発明のマイクロカプセルの形状はW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒形状と相似である。マイクロカプセルの粒径は原料として用いたW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒径よりも小さい。粒径の減少の程度は油相の量によって左右されるが、マイクロカプセルの粒径は原料として用いたW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒径の2/5〜4/5程度である。ただし、エマルションの粒径は時間の経過とともに変動する場合があることが知られている。エマルションの粒径の測定時期と重合工程の開始時期とが異なれば、得られるマイクロカプセルの粒径と測定したエマルションの粒径との関係が上記した関係から大きく食い違うことも生じ得る。マイクロカプセルの粒径の変動係数は、W/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒径の変動係数と同等である。
【0081】
本発明の活物質粒子は、ケイ素単体を含有し残部の主成分が炭素であって球状であることを特徴とする。また、本発明の活物質粒子は、粒径が低分散、好ましくは単分散である。本発明の活物質粒子の製造方法は、本発明のマイクロカプセルを焼成する焼成工程を有することを特徴とする。すなわち、本発明の活物質粒子の組成は、焼成工程に供されるマイクロカプセルの組成に依存し、ひいてはマイクロカプセルの原料であるエマルションの組成に依存する。本発明の活物質粒子における炭素に対するケイ素単体の質量比(ケイ素単体/炭素)は特に限定されないが、1/100〜100の範囲が好ましく、1/50〜10の範囲がより好ましく、1/10〜1の範囲が特に好ましい。本発明の活物質粒子における炭素に対するケイ素単体の質量比を所望のものとするためには、第1工程で用いるポリシラン誘導体と重合性モノマーの量を適宜調製すればよい。
【0082】
焼成工程は、マイクロカプセルに含まれる有機物を加熱分解して炭素化する工程である。焼成工程により、マイクロカプセルに含まれる炭素及びケイ素以外の元素や水は概ね気体となって除去されるので、ケイ素単体がカーボンコートされた活物質粒子又はケイ素単体がカーボンマトリックスに分散した活物質粒子を得ることができる。加熱温度は500〜1500℃の範囲が好ましい。焼成工程は窒素又はアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われるのが好ましい。なお、焼成工程は重合工程を兼ねても良い。例えば、本発明の製造方法で得られたW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションを凍結乾燥させたものを電気炉に仕込み、徐々に加熱温度を上昇させていけば、重合工程と焼成工程を連続して行うことができる。
【0083】
本発明の活物質粒子の形状は、原料として用いたマイクロカプセルの形状と概ね相似である。内部に水相を有するマイクロカプセルを焼成した活物質粒子の場合は、粒子表面に凹状の窪みが観察される場合もある。
【0084】
活物質粒子の粒径の変動係数は、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒径の変動係数、及び本発明のマイクロカプセルの粒径の変動係数とほぼ等しい。
【0085】
本発明の活物質粒子は球状であって、粒径が低分散であるため、好適な二次電池用活物質となる。本発明の活物質粒子がリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる場合、活物質粒子中のケイ素単体は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得るものとして作用する。本発明の活物質粒子を負極活物質として用いる場合には、本発明の活物質粒子を単独で用いるのが好ましいが、公知の負極活物質と組み合わせて用いても良い。
【0086】
二次電池の負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。
【0087】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0088】
負極活物質層は負極活物質、及び必要に応じて結着剤を含む。
【0089】
結着剤は活物質を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0090】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する。正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。正極の集電体及び結着剤は負極で説明したものと同様のものを使用すればよい。導電助剤は公知のものを適宜使用すればよい。
【0091】
正極活物質としては、LiCoO、LiNiCoMn(0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、p+q+r=1)、LiMnO、LiMnO、LiFePO、LiFeSOを基本組成とするリチウム含有金属酸化物あるいはそれぞれを1種または2種以上含む固溶体材料などが挙げられる。
【0092】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトンを例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0093】
リチウムイオン二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン若しくはポリエチレンなどの合成樹脂を1種又は複数用いた多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が例示できる。
【0094】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等で接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。リチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、積層型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0095】
リチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。
【0096】
以上、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルション、マイクロカプセル及び活物質粒子、並びにこれらの製造方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
本発明のW/O/W型エマルションを以下のとおり製造した。
【0099】
市販のポリシラン誘導体2.0g、過硫酸カリウム0.01g及び水2.0gを混合し、ポリシラン誘導体を含む極性液とした。なお、ポリシラン誘導体としてはポリメチルフェニルシラン、シクロペンタシラン、ポリフェニルシランを用いた。
【0100】
スチレン12.6g、エチレングリコールジメタクリレート1.26g、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3g、ソルビタントリオレエート0.8g、重量平均分子量200万のポリスチレン0.075gを混合及び溶解し、重合性モノマーを含む有機溶媒とした。
【0101】
水225g、ポリビニルピロリドン4.0g、ラウリル硫酸ナトリウム0.075g、硫酸ナトリウム0.2g、p−フェニレンジアミン0.1gを混合及び溶解し、極性の連続相溶液とした。
【0102】
重合性モノマーを含む有機溶媒にポリシラン誘導体を含む極性液を混合した後、超音波乳化機を用いて150W、40kHzの条件下で超音波を発生させ、W/O型エマルションを形成させた。
【0103】
得られたW/O型エマルション含有液を、孔径10〜30μmのSPG膜を備えた窒素ガス加圧タイプのSPG膜乳化装置(SPGテクノ株式会社製)の分散相タンクに充填し、また、連続相溶液をSPG膜乳化装置の連続相容器に充填した。分散相タンクのW/O型エマルション含有液を6kPaの圧力で加圧し、SPG膜を通過させた。そして、SPG膜通過液を、500rpmの速度で撹拌中の連続相溶液に分散させて、W/O/W型エマルションを得た。光学顕微鏡で観察したところ、粒径38μm程度のW/O/W型エマルションを多数確認できた。得られたW/O/W型エマルションの光学顕微鏡写真を図1図2に示す。
【0104】
本発明のマイクロカプセルを以下のとおり製造した。
得られたW/O/W型エマルション含有液を、窒素ガス雰囲気下、70℃に加温して、500rpmの速度で20時間撹拌した。その結果、W/O/W型エマルションの油相に含まれるスチレンが重合しポリスチレンとなったマイクロカプセルを得た。光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒径54μm程度のマイクロカプセルを多数確認できた。
【0105】
本マイクロカプセルの光学顕微鏡写真を図3に、走査型電子顕微鏡写真を図4図6に示す。マイクロカプセルの表面組成をエネルギー分散型X線分析装置で分析したところ、炭素:71.5%、酸素14.6%、ケイ素:13.8%であった。
【0106】
本発明の活物質粒子を以下のとおり製造した。
2kWの高周波加熱炉を用いて、本発明のマイクロカプセルをAr雰囲気下600℃で20分間加熱焼成した。誘導加熱による熱が均一になるように、本発明のマイクロカプセルはカーボン坩堝内に収納され、さらにその坩堝が銅箔で包まれた状態で焼成された。
得られた活物質粒子を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ポリスチレンおよび架橋剤であるエチレングリコールジメタクリレートが炭化された、粒径3μm程度の炭化複合型Si活物質球状粒子を多数確認できた。
焼成後の本発明の活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真を図7図10に示す。
【0107】
本発明のW/O/W型エマルション、マイクロカプセル及び活物質粒子の粒度分布をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定し、それぞれの標準偏差、平均径及び変動係数(CV)を算出した。その結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
本発明のW/O/W型エマルション、マイクロカプセル及び活物質粒子はいずれも単分散であった。
【0110】
上記の粒度分布測定の結果から、エマルションの粒径よりもマイクロカプセルの粒径が大きいことがわかる。これは、粒度分布測定時のW/O/W型エマルションは内水相の浸透圧と外水相の浸透圧とが平衡を保つ安定状態には至っていなかったこと、時間の経過とともに外水相から内水相に水が移動し内水相滴が膨張したこと、それに伴い内水相滴を覆う油相の乳化粒子も膨張したことにより、平均径38.4μmのエマルションが重合前には60μm程度のエマルションに成長したことから説明できる。本発明のマイクロカプセル(焼成前)と本発明の活物質粒子(焼成後)の粒度分布の測定結果を図11に示す。
【0111】
なお、本発明のマイクロカプセルをAr又はN雰囲気下200℃〜500℃で1時間程度加熱して、マイクロカプセルに含まれる不純物や有機物の余分な置換基を除去することで活物質粒子としてもよい。この場合は活物質粒子に含まれる有機物のすべてが炭化されるわけではないが、該活物質粒子は炭化された上記実施例1の活物質粒子と同様の作用効果を示す。重合性モノマーを含む有機溶媒として炭素と水素からなるもののみを用いると得られる活物質粒子の粒径は焼成前のマイクロカプセルの粒径を維持することが可能となる。
【0112】
(実施例2)
エチレングリコールジメタクリレートをジビニルベンゼンに替えた以外は、実施例1と同様の方法で、本発明のW/O/W型エマルション、マイクロカプセル及び活物質粒子を製造した。
【0113】
(実施例3)
実施例1と同様の方法でW/O型エマルション含有液を得た。
実施例1に記載の連続相溶液とW/O型エマルション含有液を混合した後、超音波乳化機を用いて150W、40kHzの条件下で超音波を発生させ、W/O/W型エマルションを形成させた。
得られたW/O/W型エマルション含有液を、孔径10〜30μmのSPG膜を備えた窒素ガス加圧タイプのSPG膜乳化装置(SPGテクノ株式会社製)の分散相タンクに充填した。分散相タンクのW/O/W型エマルション含有液を6kPaの圧力で加圧し、SPG膜を通過させ(第2孔通過工程に相当する。)、本発明のW/O/W型エマルションを得た。
以下、実施例1と同様の方法で、マイクロカプセル及び活物質粒子を製造した。
【0114】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で本発明のW/O/W型エマルションを製造した。
W/O/W型エマルション含有液を-30℃で凍結させ、次いで真空乾燥させて、氷(外相の水)を除去した。得られた粒子を電気炉に仕込み、Ar雰囲気中、100℃に加熱し、2時間保持することで、油相のスチレンを重合させてマイクロカプセルを形成させた。重合後にさらに電気炉を600℃に昇温し、20分保持することで、マイクロカプセルを焼成し、活物質粒子を得た。
【0115】
なお、重合後の昇温を200℃〜500℃とし、1時間保持することで不純物や余分な置換基を除去した活物質粒子としてもよい。
【0116】
(実施例5)
本発明のO/W型エマルションを以下のとおり製造した。
市販のポリシラン誘導体2.0gを実施例1又は実施例2の重合性モノマーを含む有機溶媒に溶解した。
得られたポリシラン誘導体溶液を、孔径10〜30μmのSPG膜を備えた窒素ガス加圧タイプのSPG膜乳化装置(SPGテクノ株式会社製)の分散相タンクに充填し、また、実施例1で用いたのと同等の連続相溶液をSPG膜乳化装置の連続相容器に充填した。分散相タンクのポリシラン誘導体溶液を6kPaの圧力で加圧し、SPG膜を通過させた。そして、SPG膜通過液を、500rpmの速度で撹拌中の連続相溶液に分散させて、O/W型エマルションを得た。光学顕微鏡で観察したところ、粒径30μm程度のO/W型エマルションを多数確認できた。
【0117】
本発明のマイクロカプセルを以下のとおり製造した。
得られたO/W型エマルション含有液を、窒素ガス雰囲気下、70℃に加温して、500rpmの速度で20時間撹拌した。その結果、O/W型エマルションの油相に含まれるスチレンが重合しポリスチレンとなったマイクロカプセルを得た。光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒径54μm程度のマイクロカプセルを多数確認できた。
【0118】
本発明の活物質粒子を実施例1と同じ方法で製造した。
【0119】
(応用実施例1)
実施例1の活物質粒子を用いて以下のとおりに電池を作製した。実施例1の活物質粒子45質量部と、天然黒鉛粉末40質量部と、アセチレンブラック5質量部と、バインダー溶液33質量部とを混合してスラリーを調製した。バインダー溶液としては、ポリアミドイミド(PAI)樹脂をN-メチル−2−ピロリドンに30質量%の濃度で溶解させた溶液を用いた。このスラリーを、厚さ約20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成させた。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空乾燥し、負極活物質層の厚さが16μmの負極を形成した。
【0120】
上記の手順で作製した負極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
【0121】
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びCelgard社製「Celgard2400」)を両極の間に挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液を、電池ケースに注入し、電池ケースを密閉してリチウムイオン二次電池を得た。
【0122】
(比較例1)
応用実施例1で用いた実施例1の活物質粒子を、市販のポリシラン誘導体に変更した以外は、応用実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を得た。
【0123】
<電池特性試験>
応用実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池について、温度25℃、電流0.2mAの条件で充電した際の初期充電容量を測定し、続けて、電流0.2mAの条件で放電させた際の放電容量を測定した。初期効率(放電容量/充電容量×100(%))を算出し、その結果を表2に示す。
【0124】
応用実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件下において1Vまで充電し、10分間休止した後、電流0.2mAの条件で0.01Vまで放電し、10分間休止するサイクルを50サイクル繰り返すサイクル試験を行った。そして1サイクル目の放電容量に対するNサイクル目の放電容量の割合である容量維持率を算出した。50サイクル目の容量維持率を表2に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
表2より、本発明の活物質粒子を電池に用いることで、初期効率が向上するとともに、サイクル特性が大幅に改善されたことがわかる。
【0127】
以上のとおり、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションの粒の形状は、エマルションであるから当然に球状である。また、本発明のW/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションは、特定の範囲の孔径を有する膜又は隔壁を通過されて製造されることから、エマルション粒径の分散が低く抑えられている。本発明のマイクロカプセルは、球状で低分散の上記W/O/W型、S/O/W型又はO/W型エマルションに含まれる重合性モノマーを重合させる重合工程を介して製造されることから、本発明のマイクロカプセルは球状であり、その粒径の分散も低く抑えられている。本発明の活物質粒子は、球状で低分散の上記マイクロカプセルを焼成する焼成工程を介して製造されることから、本発明の活物質粒子は球状であり、その粒径の分散も低く抑えられており単分散である。本発明の活物質粒子は粒径の分散が抑えられているから、本発明の活物質粒子を負極活物質として電極に用いた場合、電極毎の負極活物質全体の表面積のばらつきを低減できるし、電極毎の負極活物質の充填率のばらつきを低減できる。その結果、電極毎の電池容量のばらつきを抑制することができる。また、本発明の活物質粒子を電池に用いると、負極活物質を効果的に充填できるため活物質層の充填率を向上でき、ひいては電池の高容量化が可能となる。さらに、本発明の活物質粒子を電池に用いると、初期効率及び容量維持率が大幅に改善されるため、電池寿命を大幅に延ばすことが可能となった。
図11
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10