(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、マスク上に伝播する転位を低減できるもののマスクからの応力が半導体結晶に加わり、(1)成長させる結晶の会合部で新たな転位が発生すること、(2)クラックが発生すること、という2つの問題点があった。
【0008】
また、大口径化したウエハ上に半導体結晶を成長させる場合、成長基板から、半導体結晶を容易に取り外すことができるとなおよい。例えば、半導体結晶として転位密度の低いGaN結晶を形成し、そのGaN結晶をGaN基板として用いる場合に好適だからである。したがって、成長基板から剥離しやすい半導体結晶を形成することが好ましい。
【0009】
本発明は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、成長基板の転位密度の伝播やクラックの発生を確実に低減できるとともに種結晶の剥離が容易であるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法およびGaN基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法は、下地層の上にマスク層を形成して、下地層が露出している露出箇所と下地層が露出していない非露出箇所とを形成するマスク層形成工程と、III 族金属とNaとを少なくとも含む混合融液中で下地層の露出箇所からIII 族窒化物半導体結晶を成長させる半導体結晶形成工程と、を有する。
マスク層形成工程では、露出箇所として、離散的に配置された複数の成長開始領域と、成長開始領域同士を接続する接続部と、を形成する。半導体結晶形成工程では、下地層の露出箇所からIII 族窒化物半導体結晶を成長させるとともに、マスク層の上に混合融液の成分を含む非結晶部を形成する。
ここで、成長開始領域の内幅は1μm以上2000μm以下である。接続部の幅は200μm以下である。成長開始領域の内幅は、接続部の幅の2倍より大きい。
【0011】
このIII 族窒化物半導体結晶の製造方法では、マスク層の形成されている非露出箇所からは半導体結晶が成長せず、マスク層の形成されていない露出箇所から半導体結晶が成長する。ここで、マスク層とは、半導体結晶の成長を阻害する成長阻害層である。そのため、下地層のうち露出箇所からの転位のみが成長させる半導体結晶に引き継がれる。これにより、下地層からの転位の一部を引き継がず、転位密度の低い半導体結晶を成長させることができる。そして、非結晶部は、成長させた半導体結晶や下地層に密着していない。非結晶部は、育成温度では、液体であるからである。そのため、マスクからの応力が半導体結晶にほとんどかからない状態で、半導体結晶は成長する。したがって、会合部での転位の発生を最小限に抑えることができる。
【0012】
第2の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法
は、下地層の上にマスク層を形成して、下地層が露出している露出箇所と下地層が露出していない非露出箇所とを形成するマスク層形成工程と、III 族金属とNaとを少なくとも含む混合融液中で下地層の露出箇所からIII 族窒化物半導体結晶を成長させる半導体結晶形成工程と、を有する。マスク層形成工程では、露出箇所として、離散的に配置された複数の成長開始領域と、成長開始領域同士を接続する接続部と、を形成する。
半導体結晶形成工程では、マスク層の上に混合融液の成分を含む非結晶部を形成するとともに、成長開始領域から接続部に沿ってIII 族窒化物半導体結晶を横方向に成長させる。このとき、接続部における転位は、成長させる半導体層に引き継がれない。成長開始領域同士の距離が大きかったとしても、均一に横方向成長させることができる。つまり、転位を有効に低減することができる。
【0013】
第3の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、マスク層形成工程では、露出箇所として、成長開始領域を三角形の頂点の位置に配置するとともに、接続部を三角形の一辺となる位置に配置してマスク層を形成する。
【0014】
第4の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、マスク層形成工程では、接続部の長手方向を下地層のm軸から5°以内の方向として接続部を形成する。
【0015】
第5の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法は、下地層の上に第1のマスク層を形成する第1のマスク層形成工程と、混合融液中で第1のマスク層の上に第1のIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第1の半導体結晶形成工程と、第1のIII 族窒化物半導体結晶の上に第2のマスク層を形成する第2のマスク層形成工程と、混合融液中で第2のマスク層の上に第2のIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第2の半導体結晶形成工程と、を有する。
【0016】
第6の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、第2のマスク層形成工程では、第1のマスク層の露出箇所からみてマスク層の主面に垂直な方向の位置に、第2のマスク層を形成する。
【0017】
第7の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、マスク層形成工程では、原子層堆積法によりマスク層を形成する。
【0018】
第8の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、マスク層形成工程では、Al
2 O
3 から成るマスク層を形成する。
【0019】
第9の態様におけるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、マスク層形成工程では、ZrO
2 もしくはTiO
2 から成るマスク層を形成する。
【0020】
第10の態様におけるGaN基板の製造方法は、下地層の上にマスク層を形成して、下地層が露出している露出箇所と下地層が露出していない非露出箇所とを備える種結晶を形成するマスク層形成工程と、GaとNaとを少なくとも含む混合融液中で下地層の露出箇所からIII 族窒化物半導体結晶を成長させる半導体結晶形成工程と、GaN結晶を種結晶から取り外す半導体結晶分離工程と、を有する。
マスク層形成工程では、露出箇所として、離散的に配置された複数の成長開始領域と、成長開始領域同士を接続する接続部と、を形成する。半導体結晶形成工程では、下地層の露出箇所からIII 族窒化物半導体結晶を成長させるとともに、マスク層の上に混合融液の成分を含む非結晶部を形成する。
成長開始領域の内幅は1μm以上2000μm以下である。接続部の幅は200μm以下である。成長開始領域の内幅は、接続部の幅の2倍より大きい。
【0021】
この製造方法により製造されたGaN基板では、マスクにより転位の伝播が遮断されるとともに、会合部での転位もほとんど発生しない。すなわち、このGaN基板の転位は、従来のGaN基板の転位に比べて十分に小さい。また、GaN結晶に密着している種結晶の接触面積は十分に小さい。そのため、種結晶から容易にGaN結晶を分離することができる。
【0022】
第11の態様におけるGaN基板の製造方法
は、下地層の上にマスク層を形成して、下地層が露出している露出箇所と下地層が露出していない非露出箇所とを備える種結晶を形成するマスク層形成工程と、GaとNaとを少なくとも含む混合融液中で下地層の露出箇所からIII 族窒化物半導体結晶を成長させる半導体結晶形成工程と、GaN結晶を種結晶から取り外す半導体結晶分離工程と、を有する。マスク層形成工程では、露出箇所として、離散的に配置された複数の成長開始領域と、成長開始領域同士を接続する接続部と、を形成する。
半導体結晶形成工程では、マスク層の上に混合融液の成分を含む非結晶部を形成するとともに、成長開始領域から接続部に沿ってIII 族窒化物半導体結晶を横方向に成長させる。
【0023】
第12の態様におけるGaN基板の製造方法において、マスク層形成工程では、露出箇所として、成長開始領域を三角形の頂点の位置に配置するとともに、接続部を三角形の一辺となる位置に配置してマスク層を形成する。
【0024】
第13の態様におけるGaN基板の製造方法において、マスク層形成工程では、接続部の長手方向をm軸から5°以内の方向として接続部を形成する。
【0025】
第14の態様におけるGaN基板の製造方法において、半導体結晶分離工程では、GaN結晶から種結晶を取り外す際に、非結晶部から混合融液の成分を流れ出させる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、残留応力やクラックがなく、転位密度が大幅に低減されたIII 族窒化物半導体結晶の製造方法およびGaN基板の製造方法が提供されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、具体的な実施形態について、図を参照しつつ説明する。しかし、これらは例示であり、これらの実施形態に限定されるものではない。そして、それぞれの図における各層の厚みは、概念的に示したものであり、実際の厚みを示しているわけではない。
【0029】
以下の実施形態では、第1の実施形態から第3の実施形態までに、III 族窒化物半導体結晶の製造方法について説明する。第4の実施形態では、第1の実施形態から第3の実施形態までで説明したIII 族窒化物半導体結晶の製造方法を用いるGaN基板の製造方法について説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。本実施形態では、GaN自立基板の上にIII 族窒化物半導体結晶を成長させるIII 族窒化物半導体の製造方法について説明する。
【0031】
1.III 族窒化物半導体結晶
1−1.GaN結晶
図1に、本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法により製造されるGaN結晶C10の概略構成を示す。本実施形態のGaN結晶C10は、フラックス法により製造されたものである。GaN結晶C10は、種結晶T10と、GaN層150と、を有する。種結晶T10は、GaN基板G10と、マスク層140と、を有する。また、種結晶T10のマスク層140と、GaN層150との間には、非結晶部X10が形成されている。
【0032】
マスク層140は、下地層であるGaN基板G10の上に形成されている。具体的には、その形成箇所は、GaN基板G10の主面160の一部161の上である。マスク層140は、フラックスに対する耐性を有する層である。マスク層140の材質は、例えば、Al
2 O
3 である。そのため、マスク層140からは半導体結晶は成長しない。つまり、マスク層140は、GaN層150の成長を阻害する成長阻害層である。
【0033】
非結晶部X10は、半導体結晶が形成されずに、フラックスの成分で満たされている領域である。非結晶部X10は、マスク層140の表面(主面)141と、GaN層150と、により囲まれている。育成温度では、非結晶部X10は、液体である。そのため、非結晶部X10は、マスク層140やGaN層150と密着していない。
【0034】
GaN層150は、GaNから成るGaN単結晶である。GaN層150は、GaN基板G10の主面160の残部162の上と、非結晶部X10の上に形成されている。なお、GaN層150の底面は、ほぼ平坦である。また、後述する実施例で説明するように、GaN層150の膜厚を1mm程度とすることができる。
【0035】
1−2.結晶の転位密度
本実施形態のGaN結晶C10には、非結晶部X10がある。ここで、GaNは、非結晶部X10から成長しない。したがって、GaN層150は、GaN基板G10の主面160の残部162の上から成長した半導体層である。そのため、GaN層150のうち、非結晶部X10の上に形成されている領域には、GaN基板G10からの転位が引き継がれることはない。そのため、GaN層150の結晶性はよい。転位密度の小さいGaN結晶を得るためには、マスク層140の面積を可能な限り大きくとればよい。ただし、マスク層140の面積があまりにも小さいと、GaNが成長しにくい。具体的には、非結晶部X10上の転位密度の値は、1×10
5 /cm
2 以下である。GaN基板G10の主面160の残部162を起点として成長するGaN結晶は、マスク層の中央付近で隣接する結晶と会合することとなる。この会合においても、後述の実施例に記載のとおり、転位はほとんど発生しない。
【0036】
1−3.結晶の分離性
本実施形態のGaN結晶C10では、GaN層150を、種結晶T10から容易に分離することができる。これは、種結晶T10に残存する反り等に起因する応力やマスク層140からの応力が種結晶T10とGaN層150との境界面に集中するからである。そのため、育成の降温時に自然剥離することもある。また、育成終了後、軽い衝撃を加えることで剥離させることもできる。分離後のGaN層150および種結晶T10を
図2に示す。このように、GaN層150と、GaN基板G10とは、剥離しやすい。混合融液の成分を含む非結晶部X10があるためである。
【0037】
このように、転位の遮断を意図して非結晶部X10を形成することにより、結晶性に優れるとともに、種結晶T10から剥離しやすいIII 族窒化物半導体結晶を製造することができる。
【0038】
2.種結晶
2−1.種結晶
本実施形態では、
図1に示すGaN結晶C10をフラックス法により成長させる。そこで、そのフラックス法に用いる種結晶T10について説明する。その種結晶T10を
図3および
図4に示す。
図3は、種結晶T10の上方からみた平面図である。
図4は、
図3のAA断面を示す断面図である。
【0039】
2−2.種結晶の形状
図3に示すように、種結晶T10は、GaN基板G10と、マスク層140と、を有している。マスク層140は、三角形に近い形状で、周期的に配置されている。マスク層140に覆われていないGaN基板G10の露出箇所R10は、第1の領域R1と、第2の領域R2と、を有している。第1の領域R1は、GaN基板G10の主面上に配置されている。第1の領域R1は、円形に近い形状をしている。第1の領域R1は、GaN結晶が成長し始める起点となる箇所、すなわち成長開始領域である。
【0040】
第2の領域R2は、GaN基板G10の主面上に線状に配置されている。隣り合う3つの第1の領域R1は、三角形を構成する。この三角形は、正三角形に近い形状である。また、第2の領域R2は、隣り合う第1の領域R1同士、すなわち、成長開始領域を接続する接続部である。第2の領域R2は、第1の領域R1を起点に成長し始めたGaN結晶が広がるためのガイドの役割を担うガイド部である。すなわち、GaN層の横方向の成長を促すためのものである。第2の領域R2は、第1の領域R1が形成する三角形の一辺に相当する位置に配置されている。そして、第1の領域R1は、その三角形の頂点の位置に配置されることとなる。このように、マスク層140は、第1の領域R1および第2の領域R2により区画されて配置されている。
【0041】
そして、第1の領域R1の内幅W1は、1μm以上2000μm以下の範囲内である。内幅W1が1μmより短いと、GaN結晶の成長が起こらなくなったり、均一な成長ができなくなる。一方、内幅W1が2000μmを超えると、転位を低減させる効果が十分に得られない。また、この内幅W1は、10μm以上500μm以下の範囲内であると好ましい。
【0042】
そして、第2の領域R2の幅W2は、200μm以下である。幅W2は、内幅W1に対して、十分に小さくする。具体的には、次式を満たすようにする。
W1 > 2×W2
フラックス法では、2つの異なる種類の領域が存在する場合、それらのうちの面積の大きい種結晶に選択的に成長することを本発明者らは発見した。そのため、上記の内幅W1、幅W2の範囲内では、内幅W1の領域のみに半導体結晶を成長させることができ、第2の領域R2からの転位を発生させることなく、第2の領域R2がガイドの役割を果たす。
【0043】
GaN基板G10の主面の全面積に対してマスク層140が占める面積の比(面積比)は、50%以上が好ましい。本実施形態では、GaN層の横方向の成長を促す第2の領域R2を形成するため、マスク層140の面積比を大きくしても半導体結晶を安定に成長させることができる。
【0044】
3.原子層堆積法
本実施形態では、原子層堆積法(ALD)を用いて、マスク層140を形成する。原子層堆積法は、膜質や膜厚の再現性に優れている。マスク層140の材質は、例えば、Al
2 O
3 である。そして、形成するマスク層140の膜厚は、10nm以上500nm以下の範囲内である。マスク層140の一辺の長さは、20μm以上5000μm以下の範囲内である。原子層堆積法により成膜されたAl
2 O
3 は緻密な膜である。そのため、成膜されたAl
2 O
3 は、フラックス中にほとんど溶け出さないことがわかった。
【0045】
マスク層140の材質は、Al
2 O
3 以外の材質を用いてもよい。例えば、TiO
2 やZrO
2 である。一方、Siを含有するSiO
2 やSiN
4 を用いると、フラックス中にSi原子が溶け出し、成長を阻害することがわかった。
【0046】
4.半導体結晶製造装置
本実施形態の半導体結晶製造装置について説明する。
図5に示す半導体結晶製造装置10は、フラックス法によりIII 族窒化物半導体を成長させるための装置である。半導体結晶製造装置10は、
図5に示すように、圧力容器20と、反応容器11と、坩堝12と、加熱装置13と、供給管14、16と、排気管15、17と、を有している。
【0047】
圧力容器20は、円筒形のステンレス製であり、耐圧性を有している。また、圧力容器20には、供給管16、排気管17が接続されている。圧力容器20の内部には、反応容器11と加熱装置13とが配置されている。このように反応容器11を圧力容器20の内部に配置しているため、反応容器11にさほど耐圧性が要求されない。そのため、反応容器11として低コストのものを使用することができ、再利用性も向上する。
【0048】
反応容器11はSUS製であり耐熱性を有している。反応容器11内には、坩堝12が配置される。坩堝12の材質は、たとえばW(タングステン)、Mo(モリブデン)、BN(窒化ホウ素)、アルミナ、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)などである。坩堝12には、GaとNaを含む混合融液21が保持され、混合融液21中には種結晶T10が収容される。
【0049】
反応容器11には、供給管14、排気管15が接続されており、供給管14、排気管15に設けられた弁(図示しない)により反応容器11内の換気、窒素の供給、反応容器11内の圧力の制御、を行う。また、圧力容器20にも供給管16より窒素が供給され、供給管16、排気管17の弁(図示しない)で窒素の供給量、排気量を調整することで、圧力容器20内の圧力と反応容器11内の圧力とがほぼ同じになるよう制御する。また、加熱装置13により、反応容器11内の温度を制御する。
【0050】
また、半導体結晶製造装置10には、坩堝12を回転させて坩堝12中に保持される混合融液21を攪拌することができる装置が設けられている。そのため、GaN結晶の育成中に混合融液21を撹拌して混合融液21中のNa、Ga、窒素の濃度分布が均一となるようにすることができる。これにより、GaN結晶を均質に育成することができる。坩堝12を回転させる装置は、反応容器11内部から圧力容器20外部まで貫通する回転軸22と、反応容器11の内部に回転軸22と連結されて配置され、坩堝12を保持するターンテーブル23と、回転軸22の回転を制御する駆動装置24と、によって構成されている。この駆動装置24による回転軸22の回転によってターンテーブル23を回転させ、ターンテーブル23上に保持されている坩堝12を回転させる。
【0051】
なお、反応容器11として耐圧性を有したものを使用すれば、必ずしも圧力容器20は必要ではない。また、GaN結晶育成中のNaの蒸発を防止するために、坩堝12には蓋を設けてもよい。また、坩堝12の回転に替えて、あるいは加えて、坩堝12を揺動させる装置を設けてもよい。
【0052】
5.III 族窒化物半導体結晶の製造方法
本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法は、次に示す工程を有する。
(A)マスク層形成工程
(B)半導体結晶形成工程
したがって、以下、これらの工程について順に説明する。
【0053】
5−1.(A)マスク層形成工程
まず、GaN基板G10を用意する。GaN基板G10は、GaN自立基板である。その転位密度は、5×10
6 /cm
2 程度である。また、GaN基板G10は、マスク層を形成するための下地層でもある。そして、GaN基板G10の上に、原子層堆積法(ALD)を用いてマスク層140を形成する。その際に、GaN基板G10が露出している露出箇所R10と、GaN基板G10が露出していない非露出箇所と、を形成する。これにより、
図4に示すような種結晶T10が得られる。
【0054】
5−2.(B)半導体結晶形成工程
次に、液相エピタキシー法の一種であるフラックス法を用いて、種結晶T10の上に半導体結晶を成長させる。つまり、
図5に示すように、半導体製造装置10の内部に種結晶T10および原材料を収容する。ここで用いる原材料(フラックス)を表1に示す。ここで、Ga比は5%以上40%以下の範囲内であるとよい。また、炭素比を、Naに対して0mol%以上2.0mol%以下の範囲内で変えてもよい。つまり、フラックスは、炭素を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよいが、より望ましくは、0.01mol%以上2.0mol%以下の範囲内である。なお、表1の値は、あくまで例示であり、これ以外の値であってもよい。
【0055】
ここで成長させる半導体結晶は、もちろんIII 族窒化物半導体結晶である。例えば、GaN、AlGaN、InGaN、AlInGaN等のいずれであってもよい。まず、種結晶T10と、表1に示す原材料とを、露点および酸素濃度の管理されたグローブボックス内で計量する。なお、これらは例示であり、これとは異なる値を用いてもよい。次に、種結晶T10および原材料を、アルミナ製の坩堝の内部に入れる。そして、その坩堝をSUS製の内容器の内部に入れる。そして、その内容器を圧力容器の内部のターンテーブル23上に置く。そして、圧力容器を真空引きした後に、昇圧および昇温する。このときに、原料の一つである窒素ガスを反応容器11の内部に供給する。
【0056】
[表1]
Ga 20g〜80g
Na 20g〜80g
C 0.01mol%〜2.0mol%(Naに対して)
【0057】
ここで、この工程で用いた坩堝内の条件を表2に示す。例えば、温度は、870℃である。圧力は4MPaである。この条件下では、上記の原材料は融解し、混合融液となっている。攪拌条件は、20rpmで攪拌を行う。その際に、攪拌部材の回転方向の反転を適宜行う。このとき、種結晶T10のメルトバックを生じさせてもよい。
【0058】
[表2]
温度 850℃以上 1000℃以下
圧力 3MPa以上 10MPa以下
攪拌条件 0rpm以上 100rpm以下
育成時間 20時間以上 200時間以下
【0059】
そして、加圧等によりフラックス中の原料濃度が過飽和した後に、混合融液中で
図4に示す種結晶T10からGaN層150が成長し始める。このGaN層150は、半導体の単結晶である。このときGaN層150は、第1の領域R1の表面を起点として横方向および上方向に成長する。そして、
図6に示すように、第1の領域R1から成長するGaN層150は、第1の領域R1を埋めてさらに横方向および上方向に成長する。このとき、GaN層(150)のうちの第2の領域R2がある箇所については、第2の領域R2に沿って横方向に成長する。
【0060】
しかし、第1の領域R1および第2の領域R2のない箇所、すなわちマスク層140の上では、
図6に示すように、1の起点から斜め方向に成長したGaN層(150)は、他の起点から斜め方向に成長したGaN層(150)と合流、会合する。このように、第1の領域R1から成長するGaN層150と、マスク層140により覆われた非結晶部X10が形成される。そして、合流したGaN層150は、上方向に成長し、
図1に示すGaN結晶C10が得られる。育成時間は、表2に示すように、20時間以上200時間以下の範囲内である。非結晶部X10の厚さは、GaNの横方向の成長速度と縦方向の成長速度を調整することで制御可能である。安定した非結晶部X10を形成するためには、横方向の成長速度を縦方向の成長速度の1.3倍以上となるように、育成温度、圧力、炭素の含有量等を調整する。
【0061】
6.変形例
6−1.III 族窒化物半導体結晶
本実施形態では、GaN層150を形成することとした。しかし、GaNに限らず、他のIII 族窒化物半導体結晶を製造する際にも適用することができる。つまり、Al
X In
Y Ga
(1-X-Y) N(0≦X,0≦Y,X+Y≦1)を製造することができる。この場合には、III 族金属とNaとを少なくとも含む混合融液中で半導体結晶を成長させることとすればよい。
【0062】
6−2.下地層の構造
本実施形態では、GaN基板G10を下地層とした。しかし、GaN基板の上にさらにGaN層を形成することしてもよい。その場合には、GaN基板の上に形成したGaN層を下地層とみることができる。また、GaN基板およびその上のGaN層を合わせた2層を下地層とみることもできる。
【0063】
6−3.第2の領域
第2の領域R2を、GaN層150のm軸と垂直な位置に配置するとよい。第2の領域R2による半導体の横方向の成長を促す効果を、より高めることができるからである。実際には、第1の領域R2の長手方向をGaN基板G10のm軸に対して5°以下の範囲内の方向に配置するように形成する。また、第2の領域R2が形成されていない場合であっても、非結晶部X10を形成することができる場合がある。
【0064】
7.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法では、フラックス法に用いる種結晶T10として、第1の領域R1および第2の領域R2を形成したものを用いることとした。そして、GaN基板G10の第1の領域R1から半導体結晶を成長させる。マスク層140の上には、非結晶部X10が形成される。非結晶部X10の上部のGaN層150には、非結晶部X10の下の半導体層からの転位(格子欠陥)は引き継がれない。つまり、形成されるGaN結晶の転位密度は十分に低い。さらに非結晶部X10があるため、会合部で新たな転位がほとんど発生しない。したがって、結晶性に優れたIII 族窒化物半導体結晶を形成することができる。また、マスク層140からの応力はGaN層150に働かない。そのため、残留応力やクラックのほとんどないGaN結晶が得られる。
【0065】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。実際には、種結晶に形成される第1の領域R1および第2の領域R2の数は図に示したものに比べてもっと多い。ただし、規則的に第1の領域R1および第2の領域R2が形成されていることに変わりない。
【0066】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態では、種結晶として、サファイア基板にGaN層を形成したものを用いる。それ以外の点は、第1の実施形態と同じである。したがって、第1の実施形態と異なる点を説明する。
【0067】
1.III 族窒化物半導体結晶
1−1.GaN結晶
図7に、本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法により製造されるGaN結晶C20の断面構造を示す。GaN結晶C20は、種結晶T20と、GaN層250と、を有している。そして、種結晶T20と、GaN層250との間の位置には、非結晶部X20が形成されている。
【0068】
種結晶T20は、サファイア基板S20と、低温バッファ層220と、GaN層230と、マスク層240と、を有している。GaN層250は、露出箇所262と非結晶部X20とに接触している。また、マスク層240の側面242にも接触している。
【0069】
本実施形態のGaN結晶C20は、
図8に示すように、GaN層250を種結晶T20から容易に分離することができる。非結晶部X20は育成温度で液体であり、非結晶部X20と、GaN層250もしくはマスク層240とは、ほとんど密着していないためである。
【0070】
2.種結晶
本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法に用いる種結晶T20について説明する。種結晶T20は、
図9に示すように、サファイア基板S20と、低温バッファ層220と、GaN層230と、マスク層240と、を有している。サファイア基板S20は、c面サファイア基板である。低温バッファ層220は、GaNもしくはAlNから成る層である。GaN層230は、マスク層240を形成するための下地層である。マスク層240は、GaN層250の成長の起点とならない成長阻害層である。それ以外の点については、第1の実施形態の種結晶T10と同様である。
【0071】
3.III 族窒化物半導体結晶の製造方法
本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法は、次に示す工程を有する。
(C−1)低温バッファ層形成工程
(C−2)下地層形成工程
(A)マスク層形成工程
(B)半導体結晶形成工程
したがって、以下、これらの工程について順に説明する。
【0072】
3−1.(C−1)低温バッファ層形成工程
まず、成長基板であるサファイア基板S20に、低温バッファ層220を形成する(
図7参照)。サファイア基板S20は、c面サファイアである。そして、サファイア基板S20上に低温バッファ層220を成長させる。成長させる方法として、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)と、ハイドライド気相エピタキシー法(HVPE法)と、分子線エピタキシー法(MBE)と、液相エピタキシー法等がある。これらのいずれを用いてもよい。低温バッファ層220は、GaNから成る層である。または、AlNから成る層であってもよい。
【0073】
3−2.(C−2)下地層形成工程
次に、低温バッファ層220の上に、GaN層230を形成する(
図7参照)。このGaN層230は、下地層である。ここで、GaN層230の厚みは、1.5μm以上30μm以下の範囲内であるとよい。なお、この下地層形成工程では、有機金属気相成長法(MOCVD法)と、ハイドライド気相エピタキシー法(HVPE法)と、分子線エピタキシー法(MBE)と、液相エピタキシー法とのうち、いずれを用いてもよい。
【0074】
3−3.(A)マスク層形成工程
そして、GaN層230の上に、マスク層240を形成する(
図7参照)。このマスク層240のパターンは、
図3に示したマスク層140と同様である。
【0075】
3−3.(B)半導体結晶形成工程
次に、液相エピタキシー法の一種であるフラックス法により、種結晶T20上に半導体結晶の層を成長させる。ここで用いる原材料は、表1に示したものでよい。また、フラックス法で用いる条件は、表2に示したものでよい。
【0076】
昇温昇圧により、フラックス中の原料濃度が過飽和した後に、第1の領域を起点として、GaN層250が成長する。そして、非結晶部X20が形成されるとともに、GaN層250が形成される。これにより、
図7に示すGaN結晶C20が製造される。
【0077】
4.製造されたIII 族窒化物半導体結晶
GaN結晶C20は、GaN層250を有している。GaN層250の性質は、第1の実施形態で説明したGaN層150とほぼ同じである。GaN層250の転位密度の値は、1×10
5 /cm
2 以下である。さらに、このGaN層250では、転位密度が全面にわたって均一である。複数の非結晶部X23が、規則的に配置されているからである。また、種結晶T21とGaN層250との間の分離性については、サファイア基板S20からの応力があるため、第1の実施形態のGaN層150よりも分離しやすい。
【0078】
5.変形例
5−1.サファイア基板
本実施形態では、c面サファイア基板S20を用いることとした。a面サファイア基板等、その他のサファイア基板を用いることができる。
【0079】
5−2.その他の変形例
本実施形態においても、第1の実施形態で説明した全ての変形例を適用することができる。
【0080】
6.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法では、フラックス法に用いる種結晶T20として、第1の領域および第2の領域を形成したものを用いることとした。マスク層240の上には、非結晶部X20が形成される。非結晶部X20の上部のGaN層250には、非結晶部X20の下の半導体層からの転位(格子欠陥)は引き継がれない。つまり、形成されるGaN結晶の転位密度は十分に低い。さらに非結晶部X20があるため、会合部で新たな転位がほとんど発生しない。したがって、結晶性に優れたIII 族窒化物半導体結晶を形成することができる。また、マスク層240からの応力はGaN層250に働かない。そのため、残留応力やクラックのほとんどないGaN結晶が得られる。
【0081】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本実施形態では、
図10に示すように2段階のマスク層を有するGaN結晶C30を製造する。
【0082】
1.III 族窒化物半導体結晶
GaN結晶C30は、GaN基板G30と、第1のマスク層320と、GaN層330と、第2のマスク層340と、GaN層350と、を有している。
図10に示すように、GaN層330の成長の起点である露出箇所361からみて、GaN基板G30の主面に垂直な方向の延長線上に、第2のマスク層340が形成されている。そのため、GaN基板G30から成長するGaN層330の転位Z3は、第2のマスク層340により妨げられる。また、第1のマスク層320の上方には、ほとんど転位は存在しない。このため、GaN結晶C30の転位密度は、第1の実施形態や第2の実施形態のものと比べて、より小さい。特に、本実施形態では、会合部での転位の発生を抑えることができるため、複数回のマスクの形成により、転位のほとんどないGaN結晶が得られる。
【0083】
2.製造方法
本実施形態では、下地層の上に第1のマスク層を形成する第1のマスク層形成工程と、混合融液中で第1のマスク層の上に第1のIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第1の半導体結晶形成工程と、第1のIII 族窒化物半導体結晶の上に第2のマスク層を形成する第2のマスク層形成工程と、混合融液中で第2のマスク層の上に第2のIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第2の半導体結晶形成工程と、を実施する。なお、第2のマスク層形成工程では、第1のマスク層の露出箇所からみてマスク層の主面に垂直な方向の位置に、第2のマスク層を形成する。もちろん、第2のマスク層の形成位置は、この位置からずれた位置であってもよい。第2のマスク層形成工程は、第1のGaN層330を研磨し、平坦化した後に行うことが好ましい。
【0084】
2.変形例
第2の実施形態で用いたサファイア基板の上に、本実施形態の2段階のマスク層を形成することとしてもよい。また、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した変形例と組み合わせてもよい。
【0085】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態から第3の実施形態までで説明したIII 族窒化物半導体結晶の製造方法を用いたGaN基板の製造方法について説明する。
【0086】
1.III 族窒化物半導体結晶の製造方法
本実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法は、第1の実施形態から第3の実施形態までで説明した各工程の後に、次に示す工程を有する。
(D)半導体結晶分離工程
【0087】
1−1.(D)半導体結晶分離工程
前述したように、非結晶部X10、X20の形成されたGaN結晶C10、C20では、GaN層150、250が成長基板から剥離しやすい。育成温度で液体である非結晶部X10、X20があるために、GaN層150、250との密着していないからである。そこで、
図2および
図8で示したように、GaN結晶と、成長基板とを分離する。また、膨張係数の差を利用して、加熱冷却を利用してもよい。この分離により、非結晶部X10、X20であった箇所から、液体成分が流れ出す。この液体成分は、GaやNaに吸収された水分等である。
【0088】
なお、実際には、マスク層140、240や非結晶部X10、X20の一部がGaN結晶に付着したままとなることも起こりうる。その場合であっても、その面を削れば問題ない。これにより、GaN自立基板が製造される。
【0089】
2.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態のGaN基板の製造方法は、第1の実施形態から第3の実施形態までで説明した方法を用いて形成されたGaN結晶を成長基板から取り外してGaN自立基板とする方法である。
【実施例】
【0090】
1.実施例1
1−1.マスク層形成
実施例1について説明する。本実施例では、第1の実施形態のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法を用いた。そのため、c面GaN自立基板を用いた。GaN自立基板の直径は、2インチ(50.8mm)であった。GaN自立基板の上に、原子層堆積法を用いてAl
2 O
3 を100nmの厚みで形成した。
【0091】
次に、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを実施した。そして、バッファードフッ酸(BHF)に浸漬することにより、下地層(GaN)が露出するまでAl
2 O
3 をエッチングした。そして、レジストマスクを除去した後に、洗浄した。ここで、マスク層のパターンを正三角形に近い形状とし、その一辺の長さを、300μmとし、第1の領域R1の内幅W1を、90μmとした。また、第2の領域R2とGaNのm軸とがなす角の角度を5°以下とした。
【0092】
1−2.育成
次に、半導体結晶製造装置の内部に、種結晶を収容した。また、原材料として、Gaを30g、Naを30g、炭素(C)を80mg、半導体結晶製造装置の内部に収容した。そして、窒素ガスを供給しつつ、昇温、昇圧した。装置内部の温度は、870℃であった。圧力は、4MPaであった。適宜反転しつつ、20rpmで撹拌を行った。GaN結晶を育成を60時間かけて行った。
【0093】
1−3.得られたGaN結晶
これにより、GaN結晶が得られた。非結晶部X10に相当する部分が形成されていることを確認した。そのため、成長させたGaN層は、種結晶から容易に分離することができた。その分離の際に、実際にフラックス成分が流れ出てきたことを確認した。成長させたGaN層の膜厚は、0.9mmであった。得られた結晶の転位密度は、全面均一で1×10
5 /cm
2 以下であった。
【0094】
得られたGaN結晶の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真を
図11に示す。
図11に示すように、非結晶部の痕跡が観察された。なお、観察時には、非結晶部のフラックス成分を洗浄し、除去した状態のものを観察した。また、
図11の写真における縦方向の線は、転位ではなく、断面を観察する際の切断時に不可避的にできる割れ目である。
【0095】
表面を研磨し、化学機械研磨(CMP)を実施して平坦化した後、KOHでGaNの表面をエッチングしてピットを観測した。その顕微鏡写真を
図12に示す。ピットは第1の領域R1の上方の位置に形成されていたが、第2の領域R2の上方の位置にはほとんど形成されていなかった。この結果から、半導体結晶は、第1の領域R1を起点として成長したといえる。