(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999596
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】カルボジイミド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 267/00 20060101AFI20160915BHJP
C07C 261/04 20060101ALI20160915BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20160915BHJP
B01J 31/20 20060101ALI20160915BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20160915BHJP
B01J 27/128 20060101ALI20160915BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20160915BHJP
【FI】
C07C267/00
C07C261/04
B01J31/22 X
B01J31/20 X
B01J23/745 X
B01J27/128 X
!C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-194387(P2012-194387)
(22)【出願日】2012年9月4日
(65)【公開番号】特開2014-47208(P2014-47208A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年7月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年3月9日に日本化学会第92春季年会(2012)講演予稿集ならびに平成24年3月25日に慶応義塾大学で開催された日本化学会第92春季年会(2012)において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】中沢 浩
【審査官】
安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第02946819(US,A)
【文献】
特開平08−198836(JP,A)
【文献】
特公昭38−017015(JP,B1)
【文献】
特開昭51−125733(JP,A)
【文献】
特開2011−168529(JP,A)
【文献】
特開昭61−171450(JP,A)
【文献】
Chem. Abstr. ,1972年,Vol.76,p.92,抄録番号第76:73935n
【文献】
Bulletin of the Chemical Society of Japan,1954年,Vol.27,No.7,p.416-421
【文献】
Chemical and Pharmaceutical Bulletin,,1996年,Vol.44,No.12,p.2314-2317
【文献】
日本化学会編,新実験化学講座14有機化合物の合成と反応III,1978年,1644-1647頁
【文献】
日本化学会編,第5版実験化学講座14有機化合物の合成II−アルコール・アミン−,2005年,551-552頁
【文献】
Chem Commun (Camb),2012年 4月21日,Vol.48,No.32,p.3809-3811
【文献】
日本化学会編,化学便覧基礎編改訂5版,丸善,2004年,シアンアミドの項(周知技術を示す文献)
【文献】
日本化学会編,標準化学用語辞典第2版,丸善,2005年,カルボジイミドの項(周知技術を示す文献)
【文献】
日本化学会編,標準化学用語辞典第2版,丸善,2005年,互変異性の項(周知技術を示す文献)
【文献】
Angew. Chem. Int. Ed.,2009年,vol.48,No.18,p.3313-3316
【文献】
J. AM. CHEM. SOC.,2009年,vol.131,No.1,p.38-39
【文献】
Chem. Asian J.,2007年,vol.2,No.7,p.882-888
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 267/00
B01J 23/745
B01J 27/128
B01J 31/22
B01J 31/20
C07C 253/00
C07C 261/04
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基からなる群より選ばれる1種であり、R
1とR
2は互いに結合して環を形成していてもよい。)
で表されるチオウレア化合物を、鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方の存在下、一般式(2)
【化2】
(式(2)中、R
1およびR
2は前記式(1)と同じである。)
で表されるカルボジイミド化合物にすることを特徴とするカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方と共に、シラン化合物を共存させる又は共存させない請求項1に記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方と共に、硫酸マグネシウムおよび硫酸ナトリウムの少なくとも一方を共存させる又は共存させない請求項1または2に記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記鉄化合物が、2電子供与配位子を有する鉄錯体、鉄ハロゲン化物および酸化鉄からなる群より選ばれる1種である請求項1〜3のいずれかに記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記鉄錯体が、一般式(3)
【化3】
(式(3)中、R
3は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、R
4はアルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる1種であり、L
1およびL
2は各々独立して2電子供与配位子であり、L
1およびL
2は環を形成していてもよい。)
で表される鉄錯体A、一般式(4)
【化4】
(式(4)中、R
5は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、L
3およびL
4は各々独立して2電子供与配位子であり、L
3およびL
4は環を形成していてもよい。)
で表される鉄錯体BおよびFe(CO)
5からなる群より選ばれる1種である請求項4に記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項6】
前記モリブデン化合物が、一般式(5)
【化5】
(式(5)中、R
6は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、R
7はアルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる1種であり、L
5、L
6およびL
7は各々独立して2電子供与配位子であり、L
5、L
6およびL
7のうちの2つが環を形成していてもよい。)
で表されるモリブデン錯体AおよびMo(CO)
6からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項7】
前記シラン化合物がトリアルコキシシランである請求項2〜6のいずれかに記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【請求項8】
前記トリアルコキシシランがトリメトキシシランまたはトリエトキシシランである請求項7に記載のカルボジイミド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成反応に用いられる脱水縮合剤、ポリマーの耐加水分解剤、硬化剤、封止剤、耐熱性接着剤等として有用なカルボジイミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボジイミド化合物は、有機合成反応に用いられる脱水縮合剤、ポリマーの耐加水分解剤、硬化剤、封止剤、耐熱性接着剤等として有用な化合物である。
従来、カルボジイミド化合物の製造方法としては、例えば、アミン化合物と二硫化炭素から容易に得られるチオウレア化合物を原料とし、これに、水銀化合物、鉛化合物、次亜塩素酸ナトリウム、ホスゲン、アゾジカルボン酸エステル−トリフェニルホスフィン、メタンスルホニルクロライド、トシルクロライドなどを作用させる方法が知られている(例えば、特許文献1、2および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−1484号公報
【特許文献2】特開2012−1476号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY Fourth Edition by Jerry March (WILEY INTERSCIENCE), p1043
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の方法では、いずれも、チオウレア化合物に作用させる物質が、有害、危険、高価もしくは入手困難であるため、工業的生産には適用し難いという問題があった。
【0006】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、有害、危険、高価もしくは入手困難な物質を用いることなくカルボジイミド化合物を効率よく製造できる新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得た本発明のカルボジイミド化合物の製造方法とは、一般式(1)
【0008】
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基からなる群より選ばれる1種であり、R
1とR
2は互いに結合して環を形成していてもよい。)
で表されるチオウレア化合物を、鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方の存在下、一般式(2)
【0009】
【化2】
(式(2)中、R
1およびR
2は前記式(1)と同じである。)
で表されるカルボジイミド化合物にする点に要旨を有するものである。
【0010】
本発明の製造方法においては、前記鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方と共に、シラン化合物を共存させることができ、かかる態様により、カルボジイミド化合物の収率を高めることが可能になる場合がある。ここで前記シラン化合物は、トリアルコキシシランであることが好ましい。さらに前記トリアルコキシシランは、トリメトキシシランまたはトリエトキシシランであることが好ましい。
【0011】
本発明の製造方法においては、前記鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方と共に、硫酸マグネシウムおよび硫酸ナトリウムの少なくとも一方を共存させることができ、かかる態様により、カルボジイミド化合物の収率を高めることが可能になる場合がある。
【0012】
本発明の製造方法においては、前記鉄化合物が、2電子供与配位子を有する鉄錯体、鉄ハロゲン化物および酸化鉄からなる群より選ばれる1種であることが、効率よくカルボジイミド化合物を生じさせるうえで好ましい。さらに前記鉄錯体は、一般式(3)
【0013】
【化3】
(式(3)中、R
3は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、R
4はアルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる1種であり、L
1およびL
2は各々独立して2電子供与配位子であり、L
1およびL
2は環を形成していてもよい。)
で表される鉄錯体A、一般式(4)
【0014】
【化4】
(式(4)中、R
5は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、L
3およびL
4は各々独立して2電子供与配位子であり、L
3およびL
4は環を形成していてもよい。)
で表される鉄錯体BおよびFe(CO)
5からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法においては、前記モリブデン化合物が、一般式(5)
【0016】
【化5】
(式(5)中、R
6は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、R
7はアルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる1種であり、L
5、L
6およびL
7は各々独立して2電子供与配位子であり、L
5、L
6およびL
7のうちの2つが環を形成していてもよい。)
で表されるモリブデン錯体AおよびMo(CO)
6からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが、効率よくカルボジイミド化合物を生じさせるうえで好ましい。
【0017】
さらに本発明は、下記構造
CH
2=CH−CH
2−N=C=N−H
を有する新規なカルボジイミド化合物をも包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有害、危険、高価もしくは入手困難な物質を用いることなくカルボジイミド化合物を効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法では、特定構造のチオウレア化合物を、鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方の存在下、特定構造のカルボジイミド化合物にする。
本発明におけるチオウレア化合物は、一般式(1)
【0020】
【化6】
(式(1)中、R
1およびR
2は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基からなる群より選ばれる1種であり、R
1とR
2は互いに結合して環を形成していてもよい。)
で示されるものである。
【0021】
式(1)中、R
1およびR
2の例である炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基;フェニル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等のアリール基又はヘテロ原子含有アリール基;ベンジル基等のアラルキル基;等が挙げられる。またこれら炭化水素基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、アルキルアミノ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。またアルキル基、アルケニル基の置換基には炭素数1〜12程度のアリール基又はヘテロ原子含有アリール基が含まれ、アリール基又はヘテロ原子含有アリール基の置換基には炭素数1〜12のアルキル基等が含まれる。
【0022】
前記炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、例えば、20以下、好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下であってもよい。
【0023】
式(1)中、R
1とR
2とが環を形成している場合、R
1とR
2は直接結合していてもよいし、酸素原子、窒素原子、珪素原子等を介して結合していてもよい。
【0024】
チオウレア化合物は、例えば、アミン化合物と二硫化炭素とから公知の有機合成技術に基づき容易に合成することができる。
【0025】
本発明における鉄化合物は、2電子供与配位子を有する鉄錯体、鉄ハロゲン化物および酸化鉄からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
前記鉄錯体としては、例えば、下記一般式(3)
【0026】
【化7】
(式(3)中、R
3は、置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、R
4はアルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる1種であり、L
1およびL
2は各々独立して2電子供与配位子であり、L
1およびL
2は環を形成していてもよい。)
で表される鉄錯体A、一般式(4)
【0027】
【化8】
(式(4)中、R
5は、置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、L
3およびL
4は各々独立して2電子供与配位子であり、L
3およびL
4は環を形成していてもよい。)
で表される鉄錯体BおよびFe(CO)
5からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
【0028】
式(3)中のR
3および式(4)中のR
5の例である「置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基」とは、具体的には、無置換のシクロペンタジエニル基のほか、該基の水素原子の1以上が置換基で置換されたものである。置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基等の炭素数が1〜5のアルキル基が好ましく挙げられ、より好ましくは炭素数が1〜3のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1または2のアルキル基がよい。これら置換基を有する場合、シクロペンタジエニル基の水素原子の全てが同じ置換基で置換されていることが好ましい。
【0029】
式(3)中のR
3および式(4)中のR
5の例であるピラゾリルボレート配位子としては、例えば、ビス(1−ピラゾリル)ジヒドリドボレート、トリス(1−ピラゾリル)ヒドロボレート、トリス(3,5−置換−ピラゾリル−1−イル)ヒドロボレート(ここで3位および5位の置換基は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基である)等のヒドロボレート類;ビス(1−ピラゾリル)ジアルキルボレート、トリス(1−ピラゾリル)アルキルボレート、トリス(3,5−置換−ピラゾリル−1−イル)アルキルボレート(ここで3位および5位の置換基は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基である)等のアルキルボレート類;ビス(1−ピラゾリル)ジアリールボレート、トリス(1−ピラゾリル)アリールボレート、トリス(3,5−置換−ピラゾリル−1−イル)アリールボレート(ここで3位および5位の置換基は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基である)等のアリールボレート類;等が挙げられる。アルキルボレート類としては、メチルボレート、エチルボレート、プロピルボレート等が挙げられ、アリールボレート類としては、フェニルボレート等が挙げられる。
【0030】
式(3)中、R
4の例であるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。特に、炭素数が5以下のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数が4以下、さらに好ましくは炭素数が2以下のアルキル基がよい。
【0031】
式(3)中、R
4の例であるアリール基としては、フェニル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等のアリール基又はヘテロ原子含有アリール基;等が挙げられる。
【0032】
式(3)および式(4)中、L
1、L
2、L
3およびL
4で示される2電子供与配位子としては、例えば、カルボニル、ホスフィン、アルシン、スチビン、アミン、ニトリル、イソニトリル等が挙げられ、これらの中でも特にカルボニル(C≡O)が好ましい。各式中、複数の2電子供与配位子は、各々、同じであってもよいし異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0033】
前記鉄ハロゲン化物としては、例えば、塩化鉄(III)(FeCl
3)、塩化鉄(II)(FeCl
2)、臭化鉄(III)(FeBr
3)、臭化鉄(II)(FeBr
2)、ヨウ化鉄(II)(FeI
2)等が挙げられる。
前記酸化鉄としては、酸化鉄(III)(Fe
2O
3)、酸化鉄(II)(FeO)が挙げられ、中でも酸化鉄(III)が好ましい。
【0034】
本発明におけるモリブデン化合物としては、2電子供与配位子を有するモリブデン錯体が挙げられる。好ましくは、下記一般式(5)
【0035】
【化9】
(式(5)中、R
6は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基およびピラゾリルボレート配位子からなる群より選ばれる1種であり、R
7はアルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる1種であり、L
5、L
6およびL
7は各々独立して2電子供与配位子であり、L
5、L
6およびL
7のうちの2つが環を形成していてもよい。)
で表されるモリブデン錯体AおよびMo(CO)
6からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
なお式(5)中のR
6およびR
7については、それぞれ前記式(3)中のR
3およびR
4の説明を同様に適用でき、式(5)中のL
5、L
6およびL
7については、前記式(3)および式(4)中のL
1〜L
4の説明を同様に適用できる。
【0037】
以上の鉄化合物およびモリブデン化合物の中では、より効率よくカルボジイミド化合物を生成させうる点で、鉄化合物が好ましく、特に鉄錯体が好ましい。
前記鉄化合物のうち、例えば、前記鉄錯体Bに相当する[CpFe(CO)
2]
2(Cp:シクロペンタジエニル基)や、鉄ハロゲン化物および酸化鉄は市販されている。また前記鉄錯体Aなどは、市販の[CpFe(CO)
2]
2とNaKおよびRIとから容易に調製することができる。また、前記モリブデン化合物であるモリブデン錯体Aは、市販の[CpMo(CO)
3]
2とNaKおよびRIとから容易に調製することができる。さらに上述した以外の鉄化合物やモリブデン化合物についても、例えば実施例で後述する方法など公知技術を用いるなどして調製することができる。
【0038】
本発明の製造方法においては、上述した鉄化合物およびモリブデン化合物の少なくとも一方(以下纏めて「特定金属化合物」と称することもある)を前記チオウレア化合物に作用させることにより、チオウレア化合物からHとSを除去(脱硫)し、カルボジイミド化合物を生成させる。チオウレア化合物に特定金属化合物を作用させる反応は、両者を溶媒中で接触させ、必要に応じて加熱することにより進行させることができる。
【0039】
前記カルボジイミド生成反応において前記特定金属化合物の使用量は、原料チオウレア化合物1モルに対して、0.5モル以上、10モル以下が好ましく、より好ましくは1モル以上、5モル以下であり、さらに好ましくは2モル以上、4モル以下である。
【0040】
前記反応に用いる溶媒は、特に制限されるものではないが、水と分離し易い有機溶媒が好ましく、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、へキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒;ジエチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;等が挙げられる。溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記溶媒の使用量としては、特に制限はなく適宜設定すればよいが、例えば、特定金属化合物の濃度が0.01〜10モル/Lになる程度とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜2モル/L、さらに好ましくは0.05〜0.2モル/Lになる程度とするのがよい。
【0042】
前記反応時の加熱温度は、特に制限されないが、20℃以上、200℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上、150℃以下、さらに好ましくは50℃以上、100℃以下である。また、反応時間は、加熱温度等にもよるが、通常、1時間以上、48時間以下が好ましく、より好ましくは5時間以上、30時間以下である。
【0043】
本発明の製造方法では、前記特定金属化合物だけでカルボジイミド化反応を進行させることが可能であり、シラン化合物や後述する硫酸塩(硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなど)は必須ではないが、必要に応じて特定金属化合物と共に、シラン化合物を共存させることができる。シラン化合物を共存させると、カルボジイミド化合物の収率を高めることが可能となる場合があり、特に、前記特定金属化合物として鉄ハロゲン化物を用いる場合には、カルボジイミド化合物の収率は格段に向上する。
【0044】
前記シラン化合物としては、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン等のアルコキシシラン、トリアルキルシラン等が挙げられ、中でもトリアルコキシシランが好ましい。アルコキシシランが有するアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。トリアルキルシランが有するアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基等が挙げられる。またトリアルコキシシランやジアルコキシシラン、トリアルキルシランなど、複数のアルコキシ基またはアルキル基を有する場合、各基は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0045】
前記トリアルコキシシランとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシエトキシシラン、ジエトキシメトキシシラン、トリプロポキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、トリメトキシシラン、トリエトキシシランが好ましい。
【0046】
シラン化合物を用いる場合、その使用量は、前記チオウレア化合物1モルに対して、0.1モル以上、5モル以下が好ましく、より好ましくは0.5モル以上、3モル以下であり、さらに好ましくは1モル以上、2モル以下である。また、シラン化合物の使用量は、前記特定金属化合物と合わせた合計量が、上述した前記特定金属化合物の使用量の範囲内に収まるように設定することが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法においては、前記特定金属化合物と共に、硫酸マグネシウムおよび硫酸ナトリウムの少なくとも一方などの硫酸塩を共存させることができる。硫酸塩を加えることでカルボジイミド化合物の収率を高めることが可能となる場合があり、特に、前記特定金属化合物として鉄錯体Aを用いる場合には、カルボジイミド化合物の収率は格段に向上する。
【0048】
硫酸塩を用いる場合、その使用量(硫酸マグネシウムと硫酸ナトリウムを併用する場合には合計量)は、前記チオウレア化合物1モルに対して、0.1モル以上、5モル以下が好ましく、より好ましくは0.5モル以上、3モル以下であり、さらに好ましくは1.0モル以上、1.5モル以下である。
【0049】
本発明の製造方法で得られるカルボジイミド化合物は、下記一般式(2)
【0050】
【化10】
(式(2)中、R
1およびR
2は前記式(1)と同じである。)
で表されるものである。ここで、R
1およびR
2は、原料として用いるチオウレア化合物の構造(具体的には、前記式(1)中のR
1およびR
2)に応じて決まる。よって、本発明の製造方法によれば、原料とするチオウレア化合物を適宜選択することにより、所望の構造のカルボジイミド化合物を得ることができる。
【0051】
本発明の製造方法で得られるカルボジイミド化合物のうち、一般式(2)におけるR
1が2−プロペニル基であり、R
2が水素原子である下記構造
CH
2=CH−CH
2−N=C=N−H
の化合物が好ましい。かかる構造のカルボジイミド化合物は、シアナミド体と互変異性する性質を有し、溶液中では平衡状態にあるという特長を有している。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
なお、以下では、「Cp」はシクロペンタジエニル基を、「Me」はメチル基を表すものとする。
【0054】
実施例1−1〜実施例1−12(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドの合成)
反応容器に、N,N’−ジイソプロピルチオウレア(東京化成工業社(TCI社)製「D0253」)0.3mmol、表1に示す特定金属化合物0.3mmol、およびテトラヒドロフラン3mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)(島津製作所社製「SHIMADZU GCMS−QP2010 Plus」:以下同様)で分析したところ、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドが表1に示す収率で生成していることが分かった。
なお、得られた反応液は室温まで冷却し、水を添加した後に酢酸エチルで目的物(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド)を抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、その後ろ過、濃縮することにより粗品を得、さらに該粗品をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン(質量比)=1/1)で精製して、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドを得た。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例2−1〜実施例2−4(各種カルボジイミド化合物の合成)
反応容器に、表2に示すチオウレア化合物0.3mmol、鉄化合物として実施例1−1と同じCpFe(CO)
2Meを0.9mmol、およびテトラヒドロフラン9mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応させた。但し、実施例2−4のみ、各仕込み量を100/3倍して実施した。
反応終了後、得られた反応液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析したところ、表2に示す生成物が表2に示す収率で生成していることが分かった。
なお、実施例2−1〜2−4で得られた反応液は室温まで冷却し、水を添加した後に酢酸エチルで生成物を抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、その後ろ過、濃縮することにより粗品を得、さらに該粗品を、実施例2−1〜2−3ではシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン(混合比は適宜調整))で精製して、実施例2−4では蒸留により精製して、各生成物を得た。実施例2−3で得られた生成物の単離収率は35%であった。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例3−1〜実施例3−9(各種カルボジイミド化合物の合成)
反応容器に、表3に示すチオウレア化合物0.3mmol、鉄化合物として実施例1−2と同じ[CpFe(CO)
2]
2を0.9mmol、およびテトラヒドロフラン9mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応させた。但し、実施例3−9のみ、各仕込み量を100/3倍して実施した。
反応終了後、得られた反応液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析したところ、表3に示す生成物が表3に示す収率で生成していることが分かった。
なお、実施例3−1〜3−9で得られた反応液は室温まで冷却し、水を添加した後に酢酸エチルで生成物を抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、その後ろ過、濃縮することにより粗品を得、さらに該粗品を、実施例3−1〜3−8ではシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン(混合比は適宜調整))で精製して、実施例3−9では蒸留により精製して、各生成物を得た。
【0059】
【表3】
【0060】
実施例4−1〜実施例4−10(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドの合成)
反応容器に、N,N’−ジイソプロピルチオウレア(TCI社製「D0253」)0.3mmol、表4に示す特定金属化合物(それぞれ表1に示したものと同じ)0.3mmol、トリエトキシシラン0.3mmol、およびテトラヒドロフラン3mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析したところ、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドが表4に示す収率で生成していることが分かった。
なお、得られた反応液は室温まで冷却し、水を添加した後に酢酸エチルで目的物(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド)を抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、その後ろ過、濃縮することにより粗品を得、さらに該粗品をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン(質量比)=1/1)で精製して、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドを得た。
【0061】
【表4】
【0062】
実施例5−1〜実施例5−6(各種カルボジイミド化合物の合成)
反応容器に、表5に示すチオウレア化合物0.3mmol、鉄化合物として実施例1−1と同じCpFe(CO)
2Meを0.6mmol、シラン化合物としてトリエトキシシランを0.3mmol、およびテトラヒドロフラン6mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応させた。但し、実施例5−6のみ、各仕込み量を100/3倍して実施した。
反応終了後、得られた反応液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析したところ、表5に示す生成物が表5に示す収率で生成していることが分かった。
なお、実施例5−1〜5−6で得られた反応液は室温まで冷却し、水を添加した後に酢酸エチルで生成物を抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、その後ろ過、濃縮することにより粗品を得、さらに該粗品を、実施例5−1〜5−5ではシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン(混合比は適宜調整))で精製して、実施例5−6では蒸留により精製して、各生成物を得た。実施例5−6で得られた生成物の単離収率は46%であった。
【0063】
【表5】
【0064】
実施例6−1(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドの合成)
反応容器に、N,N’−ジイソプロピルチオウレア(TCI社製「D0253」)0.3mmol、鉄化合物として実施例1−1と同じCpFe(CO)
2Meを0.3mmol、硫酸マグネシウム0.3mmol、およびテトラヒドロフラン3mLを加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析したところ、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドの収率は62%であった。
【0065】
以上の実施例から、有害、危険、高価、入手困難な物質に該当しない鉄化合物またはモリブデン化合物を用いた簡便な方法で、効率良くチオウレア化合物からカルボジイミド化合物が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造方法によれば、有害、危険、高価、入手困難な物質を用いることがないので、工業的に商用プラントのような大規模スケールでカルボジイミド化合物を効率よく生産することが可能になる。そして、こうして得られるカルボジイミド化合物は、有機合成反応に用いる脱水縮合剤、ポリマーの耐加水分解剤、硬化剤、封止剤、耐熱性接着剤等として有用である。