(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2ボアに開口する前記第1通路は、前記第2ボアの径方向の中心領域に向けて方向付けされ、かつ第2通路の開口端に近づくように軸方向に傾斜した案内通路を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の可変容量圧縮機。
前記第2ボア、前記第2通路及び前記第3通路は前記放圧通路と共通の通路となっており、前記第2ボアが前記圧力供給通路と前記放圧通路の分岐空間を成すものであって、前記第1通路の途上に前記制御弁が配置され、前記第2ボアと前記吸入室とを連通する前記放圧通路の途上に、絞りが配設されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の可変容量圧縮機。
前記第2通路及び前記第3通路と並列に、前記第2ボアと前記第3ボアとを連通するバイパス通路が形成され、前記バイパス通路の最小通路断面積は前記第2通路及び前記第3通路の最小通路断面積より小さく設定されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の可変容量圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吐出室には吐出ガスとともに吐出されたオイルが含まれており、特許文献1に記載の技術では、制御弁が開放されると吐出ガスに含まれたオイルが駆動軸をラジアル支持する軸受の隙間を経由してクランク室に還流され、クランク室内のオイル量が確保されて各部の潤滑に寄与する。
【0005】
しかしながら、軸受の隙間を経由する吐出ガスの流れは斜板の中心付近に吐出され、周辺部における斜板とシューの摺動面等の被潤滑部に、吐出ガス流に含まれるオイルが直接的に行き渡るようにはなっていない。つまり吐出室からクランク室に還流されたオイルによる潤滑には改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、吐出室からクランク室に還流されるオイルの潤滑性を向上させた可変容量圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、
環状に配列された複数のシリンダボアと、その内側に配置されたセンタボアとが区画形成されたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの一端側を閉塞し、前記シリンダブロックとの協働によりクランク室を画成するフロントハウジングと、
前記シリンダブロックの他端側を閉塞し、前記シリンダボアと連通する吐出孔及び吸入孔が形成されたバルブプレートと、
前記バルブプレートを挟んで前記シリンダブロックと対向して設けられ、吸入側外部冷媒回路に連通する吸入室と吐出側外部冷媒回路に連通する吐出室との一方が中央部に、他方が該中央部外側の環状部に画成して形成されたシリンダヘッドと、
一端が前記センタボアに挿通され、滑り軸受を介して前記シリンダブロックにラジアル支持された駆動軸と、
前記複数のシリンダボアに配設され、前記駆動軸の軸方向に往復運動するピストンと
、
前記駆動軸に固定されて前記駆動軸と一体に回転するロータと、
前記ロータと連結手段を介して連結し、前記ロータと同期回転して
前記駆動軸の軸線に対して傾角が可変となるように
前記駆動軸に摺動自在に取り付けられた斜板と、
前記斜板の回転を前記ピストンの往復運動に変換する変換機構と、
前記吐出室と前記クランク室とを連通する圧力供給通路と、
前記圧力供給通路の開度を調整する制御弁と、
前記クランク室と前記吸入室とを連通する放圧通路と、
を備え、
前記制御弁の開度調整により前記クランク室の圧力を変化させ、前記斜板の傾角を変更して前記ピストンのストロークを調整し、前記吸入室から前記シリンダボアに吸入された冷媒を圧縮して前記吐出室に吐出する可変容量圧縮機において、以下
のように構成したことを特徴とする。
【0008】
前記圧力供給通路の下流部を、前記駆動軸内の中心軸に沿って形成された上流側通路と、該上流側通路に交差して繋がり、クランク室に連通する開口端を有して形成された下流側通路とを含んで構成
し、前記センタボアは、前記滑り軸受を支持する第1ボアと、前記第1ボアと前記バルブプレートとの間に配置され、前記バルブプレート側の領域の周壁が前記第1ボアより径方向外側に配置された第2ボアと、前記クランク室に接続し、周壁が前記第1ボアより径方向外側に配置され、該周壁と前記第1ボアとを接続する底壁を有する第3ボアと、を備え、前記圧力供給通路は、前記第2ボアと、前記第2ボアと前記吐出室とを連通する第1通路と、前記第2ボアと連通し、前記駆動軸の一端面から該駆動軸の内部に向けて軸方向に延設されて前記上流側通路を構成する第2通路と、前記第2通路とほぼ直交して前記駆動軸の外周面に開口し、前記クランク室に連通するように形成されて前記下流側通路を構成する第3通路と、を備え、前記第3通路の軸線の前記駆動軸の軸線方向の位置は前記第3ボア内にあって、前記クランク室側の前記シリンダボア端面の軸方向位置の近傍に配置され、前記第3通路は前記第3ボアの周壁に向けて開口している。
【発明の効果】
【0009】
制御弁の開弁時に、吐出室内の冷媒ガスの一部は、圧力供給通路の駆動軸内における上流側通路から下流側通路に至って向きを変え、下流側通路の開口から流出する。冷媒内に含まれるオイルは、回転する下流側通路内の遠心力を受け、駆動軸の外側に向けて勢い良く流出して斜板側に導かれ、斜板(特に斜板の圧縮行程側)の被潤滑部(摺動部)における潤滑性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る圧縮機(特に可変容量斜板式圧縮機)の縦断面図である。
【0012】
可変容量圧縮機100はクラッチレス圧縮機であって、複数のシリンダボア101aとその内側に配置されたセンタボア101bとが区画形成されたシリンダブロック101と、該シリンダブロック101の一端側に連結されたフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端側にバルブプレート103を介して連結されたシリンダヘッド104とを備えている。
【0013】
シリンダブロック101と、フロントハウジング102とによって規定されるクランク室140内を横断して、駆動軸110が設けられ、該駆動軸110の軸線方向中心部の周囲には、斜板111が配置されている。斜板111は、駆動軸110に固定されたロータ112とリンク機構120を介して連結し、駆動軸110の軸線に対する傾角(傾斜角度)が可変に構成されている。
【0014】
リンク機構120は、ロータ112から突設された第1アーム112aと、斜板111から突設された第2アーム111aと、一端側が第1連結ピン122を介して第1アーム112aに対して回動自在に連結され、他端側が第2連結ピン123を介して第2アーム111aに対して回動自在に連結されたリンクアーム121から構成されている。
【0015】
斜板111の貫通孔111bは、斜板111が最大傾角と最小傾角の範囲で傾動可能となるように形状が形成されており、貫通孔111bには駆動軸110と当接する最小傾角規制部が形成されている。斜板111が駆動軸110に対して直交するときの斜板111の傾角を0°とした場合、貫通孔111bの最小傾角規制部は斜板111をほぼ0°まで傾角変位可能なように形成されている。尚ほぼ0°とは0°〜0.5°の範囲を指す。
【0016】
ロータ112と斜板111の間には斜板111を最小傾角に向けて最小傾角に至るまで付勢する傾角減少バネ114が装着され、また斜板111とバネ支持部材116との間には斜板111の傾角を増大する方向に付勢する傾角増大バネ115が装着されている。最小傾角において傾角増大バネ115の付勢力は傾角減少バネ114の付勢力より大きく設定されているので、斜板111は駆動軸110が回転していないときは、傾角減少バネ114と傾角増大バネ115の付勢力がバランスする傾角に位置する。
【0017】
駆動軸110は一端側がセンタボア101bに挿通されてラジアル方向に滑り軸受131で支持され、また一端面がスラストプレート132で支持されている。また駆動軸110の他端側はラジアル方向に滑り軸受133で支持され、スラスト方向は駆動軸110に固定されたロータ112が軸受134で支持されている。駆動軸110の一端面とスラストプレート132との隙間は調整ネジ135により所定の隙間に調整されている。
【0018】
尚駆動軸110の他端側は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通して外側まで延在し、図示しない動力伝達装置に連結されている。駆動軸110とボス部102aとの間には、軸封装置130が挿入され、内部と外部とを遮断している。外部駆動源からの動力が動力伝達装置に伝達され、駆動軸110は動力伝達装置の回転と同期して回転可能となっている。
【0019】
シリンダボア101a内には、ピストン136が配置され、ピストン136のクランク室140側に突出している端部の内側空間には、斜板111の外周部が収容され、斜板111は一対のシュー137を介して、ピストン136と連動する構成となっている。したがって斜板111の回転によりピストン136がシリンダボア101a内を往復動することが可能となる。
【0020】
シリンダヘッド104には、中央部に吸入室141及び吸入室141を環状に取り囲む吐出室142が区画形成され、吸入室141は、シリンダボア101aとは、バルブプレート103に設けられた吸入孔103a、吸入弁(図示せず)を介して連通し、吐出室142は、シリンダボア101aとは、吐出弁(図示せず)、バルブプレート103に設けられた吐出孔103bを介して連通している。
【0021】
フロントハウジング102、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104が、図示しないガスケットを介して複数の通しボルト105によって締結されて圧縮機ハウジングが形成される。
【0022】
またシリンダブロック101図中上部にはマフラが設けられ、マフラは蓋部材106と、シリンダブロック101上部に区画形成された形成壁101cが図示しないシール部材を介してボルトにより締結されることにより形成される。マフラ空間143には逆止弁200が配置されている。逆止弁200は連通路144とマフラ空間143との接続部に配置され、連通路144(上流側)とマフラ空間143(下流側)との圧力差に応答して動作し、圧力差が所定値より小さい場合連通路144を遮断し、圧力差が所定値より大きい場合連通路144を開放する。したがって吐出室142は、連通路144、逆止弁200、マフラ空間143及び蓋部材106上壁の吐出ポート106aで形成される吐出通路を介してエアコンシステムの吐出側冷媒回路と接続されている。
【0023】
シリンダヘッド104には、吸入ポート104a、連通路104bが形成され、吸入室141は、連通路104b及び吸入ポート104aで形成される吸入通路を介してエアコンシステムの吸入側冷媒回路と接続されている。吸入通路はシリンダヘッド104の径方向外側から吐出室142の一部を横切るように直線状に伸びている。
【0024】
シリンダヘッド104にはさらに制御弁300が設けられている。制御弁300は吐出室142とクランク室140とを連通する圧力供給通路145の開度を調整し、クランク室140への吐出ガス導入量を制御する。またクランク室140内の冷媒は放圧通路146を経由して吸入室141へ流れ、放圧通路146にはバルブプレート103に形成されたオリフィス103cが配設されている。
【0025】
したがって制御弁300によりクランク室140への吐出ガス導入量を制御することによってクランク室140の圧力を変化させ、斜板111の傾斜角、つまりピストン136のストロークを変化させることにより可変容量圧縮機100の吐出容量(吐出冷媒流量)を可変制御することができる。
【0026】
エアコン作動時、つまり可変容量圧縮機100の作動状態では、外部信号に基づいて制御弁300に内蔵されるソレノイドの通電量が調整され、吸入室141の圧力が所定値になるように吐出容量が可変制御される。制御弁300は、外部環境に応じて、吸入圧力を最適制御することができる。
【0027】
またエアコン非作動時、つまり可変容量圧縮機100の非作動状態では、制御弁300に内蔵されるソレノイドの通電をOFFすることにより圧力供給通路145を強制開放し、可変容量圧縮機100の吐出容量を最小に制御する。
【0028】
次に、センタボア101bの構成を詳細に説明する。
センタボア101bの周辺部を示す(駆動軸110を外して示している)
図2〜
図4において、シリンダブロック101に形成されたセンタボア101bは、前記滑り軸受131を支持する第1ボア101b1と、第1ボア101b1に隣接しバルブプレート103側に形成された第2ボア101b2と、第1ボア101b1に隣接しクランク室140に接続された第3ボア101b3とを備えている。
【0029】
第2ボア101b2のバルブプレート103側の周壁101b21は、円形を成して第1ボア101b1より径方向外側に配置されている。
第3ボア101b3は底壁101b31と周壁101b32で構成され、周壁101b32は駆動軸110に向かって凸となる複数の曲面を備えており、この複数の曲面はシリンダボア101aの形成壁と一致している。曲面と曲面との間は、凹部101b33となっており、この凹部101b33はクランク室に向かうにつれて駆動軸110から遠ざかるように傾斜している。
【0030】
第3ボアの周壁101b32はシリンダボア101aの形成壁と一致しているので、設計上第3ボアの周壁101b32は、径方向外側の駆動軸110から最も遠い位置に配置されている。
【0031】
尚、第3ボア101b3の駆動軸110の軸線方向の長さ、つまりシリンダボア101aのクランク室140側端面から底壁101b31までの深さは、第1ボア101b1及び第2ボア101b2の長さより小さく設定され、浅くなっている。
【0032】
次に、圧力供給通路145と放圧通路146の構成を詳細に説明する。
これら通路の周辺部を示す
図5において、圧力供給通路145は、吐出室142と第2ボア101b2とを連通する第1通路145aと、第2ボア101b2と、調整ネジ135の中心軸に沿って貫通して形成された貫通孔135aと、スラストプレート132の同様に形成された貫通孔132aと、駆動軸110の一端面から駆動軸110の内部に向けて軸方向に延設された第2通路145bと、第2通路145bとほぼ直交して駆動軸110の外周面に開口し、クランク室140に連通する第3通路145cと、を備えている。
【0033】
尚、制御弁300は、シリンダヘッド104内において、第1通路145aの途上に配置されている(
図1参照)。
第2ボアの周壁101b21に開口する第1通路145aは、シリンダブロック101に形成される下流端部に、第2ボア101b2の径方向の中心領域に向けて方向付けされ、かつ第2通路145bの開口端に近づくように軸方向に傾斜した案内通路145a1を備えている。案内通路145a1は制御弁300のレイアウトを考慮して適切な位置に配置される。
【0034】
また、第3通路145cの駆動軸110の軸線方向の位置は、第3ボア101b3内にあって、クランク室140側のシリンダボア101a端面の軸方向位置の近傍に配置され、第3ボアの周壁101b32に向けて複数開口している。
【0035】
第3通路145cは第3ボア101b3内に開口しているので、斜板111の傾角が最小となっても斜板111によって開口が塞がれることがない。
放圧通路146は、第3通路145cと、第2通路145bと、スラストプレート132の貫通孔132aと、調整ネジ135の貫通孔135aと、第2ボア101b2と、第2ボア101b2と吸入室141とを連通する第4通路145dと、を備えている。
【0036】
つまり第3通路145c、第2通路145b、スラストプレート132の貫通孔132a、調整ネジ135の貫通孔135a及び第2ボア101b2は圧力供給通路145と共通の通路となっており、第2ボア101b2が圧力供給通路145と放圧通路146の分岐空間となっている。
【0037】
第2ボア101b2を分岐通路としたので、第2ボア101b2と吸入室141との間に配設されているバルブプレート103(中央の本体と、その両側の吸入弁が形成された吸入弁形成板、吐出弁が形成された吐出弁形成板及びガスケット)に貫通孔を形成すれば容易に第4通路145dが形成できる。口径を絞ったオリフィス103cはバルブプレート103(本体のみでもよい)に形成してあるが、第4通路145dを形成する他の部材に形成しても良い。
【0038】
第4通路145dの第2ボア101b2への開口端は、第2ボアの周壁101b21より径方向内側で、かつ案内通路145a1の延長領域から外れた位置に開口している(例えば
図4のCで示す位置)。このように配置すれば第2ボア101b2に流入した吐出ガスに含まれるオイルが直接的に第4通路145dから流出することを抑制できる。
【0039】
次に、上記のように構成された圧力供給通路145及び放圧通路146における冷媒ガスの流動について説明する。
まず、圧力供給通路145を介しての吐出室からクランク室に向けた吐出ガスの流れを説明する。
【0040】
例えば制御弁300が閉じた状態から開放されると、吐出室142からクランク室140に向けた吐出ガスの流れが発生し、吐出ガスは、まず第1通路145aから第2ボア101b2に流入する。
【0041】
第1通路145aの第2ボアの周壁101b21に開口する手前の領域には案内通路145a1が形成されているので、吐出ガスの主流は調整ネジ135の貫通孔135aの開口端に向けた流れとなり、第2通路145bに流入し易くなる。尚、駆動軸110は滑り軸受131で支持されているので駆動軸110の外周面と滑り軸受131との隙間は狭く管理されており、第2ボア101b2に流入した吐出ガスの多くは第2通路145bを経由した流れとなる。
【0042】
第2通路145bは回転しているので、遠心分離作用により吐出ガスに含まれたオイルは第2通路145bの周壁に移動し、吐出ガス流によって第3通路145cからクランク室140の径方向外側に向けて噴射される。
【0043】
同じく第3通路145cも回転しているので、噴射されたオイルの一部はクランク室140の径方向外側全周に向けて噴射拡散され、クランク室内の被潤滑部(摺動部)にオイルが供給される。
【0044】
また噴射されたオイルの主流は第3ボアの周壁101b32に衝突し、クランク室140側に向きを変えて斜板111側に直接向かう流れとなり、特に該流れに駆動軸110軸方向において接近する圧縮行程側の斜板111とシュー137との摺動面の潤滑に寄与する。
【0045】
また第3ボアの周壁101b32の凸曲面に衝突したオイルの一部は凹部101b33に向けて流れ、凹部101b33に流入したオイルは傾斜面によりクランク室140の径方向外側に向けて吐出ガス流に沿って斜板111とシュー137との摺動面に直接向かう流れとなり、圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面の潤滑に、より大きく寄与する(
図3及び
図5参照)。
【0046】
また第3ボア101b3の駆動軸110の軸線方向の長さが他のボアに比べて小さく(浅く)設定されているので、第3ボア101b3の周壁に衝突してクランク室140と反対方向に向きを変えたオイルが速やかに底壁101b31によって向きを変えてクランク室140に戻る。したがって、第3ボア101b3内へのオイル(ミスト)の滞留を抑制しつつ、オイルをスムーズにクランク室140へ戻すことができ、クランク室140内に貯留されるオイル量の確保、ひいては良好な潤滑性能の維持に寄与することができる。
【0047】
このように吐出ガスに含まれたオイルはクランク室140の径方向外側全周に向けて噴射拡散されるので、クランク室140内の各被潤滑部の潤滑性が向上し、特に圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面の潤滑に有効である。
【0048】
次に、放圧通路146を介してのクランク室から吸入室141に向けた冷媒ガスの流れを説明する。
制御弁300が閉じると圧力供給通路145が遮断され、第3通路145c、第2通路145b、スラストプレート132の貫通孔132a、調整ネジ135の貫通孔135a及び第2ボア101b2は放圧通路146に切り換わる。
【0049】
これにより、ピストン136がガスを圧縮する際に発生するブローバイガスがクランク室140から放圧通路146を経由して吸入室141に流れる。このときクランク室140内のオイルもガスの流れに沿って吸入室141に流れようとするが、第3通路145cのクランク室140側開口端は第3ボア101b3内に開口しており、第3ボア101b3内は上述したようにオイル(ミスト)の滞留が抑制されクランク室140に比較してオイル濃度が低くなっているので吸入室141へのオイルの流出が抑制される。
【0050】
また第3通路145cのクランク室140側開口端は回転しているので吸入室141へのオイルの流出がさらに抑制される。
このように、制御弁300開弁時(圧力供給通路145の開通時)における上記クランク室140へのオイル導入効果とあいまって制御弁300閉弁時(放圧通路146の開通時)における吸入室141へのオイル流出抑制効果によって、クランク室140内のオイル量が確保されて潤滑が効果的に行なわれ、従来の圧縮機より冷媒中へのオイル封入量を低減できる。同時に吸入室141へのオイルの流出、つまり圧縮機外へのオイルの流出が抑制されて、エアコンシステムの性能向上に寄与することができる。
【0051】
以上のように制御弁300の開度に応じて圧力供給通路145と放圧通路146との共通の通路(第3通路145c、第2通路145b、スラストプレート132の貫通孔132a、調整ネジ135の貫通孔135a及び第2ボア101b2)には双方向の流れが生じ、これによってクランク室140の圧力を変化させ、斜板111の傾斜角、つまりピストン136のストロークを変化させることにより可変容量圧縮機100の吐出容量を可変制御することができる。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、圧力供給通路145の下流部を、駆動軸110内の中心軸に沿って形成された第2通路145bと、該第2通路145bに交差して繋がり、クランク室140に連通する開口端を有して形成された第3通路145cとを含んで構成したことにより、以下の効果が得られる。
【0053】
制御弁300の開弁時に、吐出室142内の冷媒ガスの一部は、駆動軸110内の第2通路145bから第3通路145cに至って向きを変え、第3通路145cの開口から流出する。冷媒内に含まれるオイルは、回転する第3通路145c内の遠心力を受け、駆動軸110の外側に向けて勢い良く流出して斜板111側に導かれ、斜板(特に圧縮行程側の斜板)111とシュー137との摺動面(被摺動部)における潤滑性が向上する。
【0054】
また、本実施形態によれば、第3通路145cの軸線の駆動軸110の軸線方向の位置は第3ボア101b3内にあって、クランク室140側のシリンダボア101a端面の軸方向位置の近傍に配置され、第3通路145cは第3ボア101b3の周壁に向けて開口させた構成により、以下の効果が得られる。
【0055】
第3通路145cの開口から噴射されたオイルの主流は第3ボア101b3の周壁の全領域に衝突してクランク140室側に向きを変え、斜板111に直接向かう流れとなるので圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面の潤滑性が向上する。また、第3通路145cは第3ボア101b3内に開口しているので、斜板111の傾角が最小となっても斜板111によって第3通路145cの開口が塞がれることがない。
【0056】
また、本実施形態によれば、第3ボア101b3の駆動軸110軸線方向の長さを、第2ボア101b2及び第3ボア101b3の長さより小さく(浅く)設定した構成により、第3ボア101b3の周壁に衝突してクランク室140と反対方向に向きを変えたオイルが直ちに底壁によって向きを変えてクランク室140に戻り、クランク室140内のオイル量の確保に寄与する。
【0057】
また、本実施形態によれば、第3ボア101b3の周壁に、クランク室140側に向かうにつれ駆動軸110から遠ざかる傾斜領域を形成した構成により、第3ボア101b3の周壁に衝突したオイルがクランク室140側かつ径方向外側に向けて流れやすくなり、圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面にオイルが直接行き渡りやすくなり、該摺動面の潤滑性を向上できる。
【0058】
また、本実施形態によれば、第3ボア101b3の周壁には駆動軸110から遠ざかる凹部101b33が形成され、凹部101b33を隣り合うシリンダボア間に配置した構成により、第3ボア101b3の周壁に衝突したオイルが径方向外側に向けて流れやすくなり、圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面にオイルが直接行き渡りやすくなり、該摺動面の潤滑性をさらに向上できる。
【0059】
また、本実施形態によれば、第3ボア101b3の周壁の一部又はすべての領域がシリンダボアの形成壁と一体となっている構成としたことにより、第3ボア101b3の周壁を径方向外側の駆動軸110から最も遠い位置に配置でき、圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面にオイルが直接行き渡りやすくなり、該摺動面の潤滑性をさらに向上できる。
【0060】
また、本実施形態によれば、第2ボア101b2に開口する第1通路145aは第2ボア101b2の径方向の中心領域に向けて方向付けされ、かつ第2通路145bの開口端に近づくように軸方向に傾斜した案内通路145a1を備えた構成により、案内通路145a1により吐出ガスの主流は第2通路145bの開口端に向けた流れとなり、オイルが第2通路145bに流入し易くなる。
【0061】
また、本実施形態によれば、第2ボア101b、第2通路145b及び第3通路145cは放圧通路146と共通の通路となっており、第2ボア101b2が圧力供給通路145と放圧通路146の分岐空間を成すものであって、第1通路145aの途上に制御弁130が配置され、第2ボア101b2と吸入室141とを連通する放圧通路146の途上にオリフィス(絞り)103cが配設される構成としたことにより、圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面の潤滑性が向上し、かつ圧縮機外へのオイルの流出が抑制されるのでエアコンシステムの性能向上に寄与する。
【0062】
また、本実施形態によれば、第2ボア101b2と吸入室141とを連通する放圧通路146は第2ボア101b2の周壁より径方向内側で、かつ案内通路103cの延長領域から外れたバルブプレート103側の面に開口する構成としたことにより、吐出ガスに含まれるオイルが直接吸入室141に流れることを抑制できる。
【0063】
以上示した第1実施形態では、潤滑性向上のため冷媒ガス中のオイルをクランク室140に、より効果的に流出させる構成としたが、可変容量圧縮機100の機種によっては、クランク室140にオイルが溜まり易い傾向を示すものもあり、この場合は、クランク室140へのオイル流出効果を高め過ぎるとクランク室140内に貯留するオイル量が過剰となって斜板111の回転抵抗を増大させ、圧縮機の効率を低下させることが懸念される。
【0064】
このような圧縮機に対しては、クランク室140へのオイル量が過剰となることを抑制するため、例えば
図6に示すように、クランク室140内に滞留するオイル量を調整するバイパス通路147を設けてもよい。
【0065】
かかる構成を有した第2実施形態によれば、過剰なオイルが第3通路145cのような遠心作用を伴うことのないバイパス通路147を介して吸入室141にスムーズに排出され、クランク室140内に貯留するオイル量を適正量に維持することができる。
【0066】
バイパス通路147は第2通路145b及び第3通路145cと並列に配置されて第3ボア101b3と第2ボア101b2とを連通し、バイパス通路147の最小通路断面積を調整してクランク室140内に滞留するオイル量を適切な範囲に調整する。バイパス通路147の最小通路断面積は、クランク室140内の過剰なオイル分を排出させるだけで足りるため、第2通路145b及び第3通路145cの最小通路断面積より小さく設定されている。
【0067】
尚、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【0068】
例えば、第3通路145cはその軸線が第3ボア101b3内にあれば良く、第3通路145cの開口の一部がクランク室140側のシリンダボア101a端面の軸方向位置よりクランク室140側にあっても良い。
【0069】
また、上記実施形態では第3通路145cを複数個配設したが、一個のみ配設しても良い。
また、複数個の第3通路145cの駆動軸110軸線方向における位置(開口位置)を異なるように配置しても良く、同軸線方向にオイル噴出範囲を広げることができる。
【0070】
また、第3通路145cの開口は斜板111と一体に回転するので、第3通路145cの開口を斜板111の特定の位置に向けても良い。
また、実施形態では圧力供給通路145と放圧通路146との共通の通路が形成されているが、圧力供給通路と放圧通路が別々に形成されている可変容量圧縮機としても良い。
【0071】
また、特許文献1に示されるように、駆動軸に形成される傾角増大バネのストッパがシリンダブロックの底面よりクランク室側に設けられる場合には、第3ボアを設けることなく、ストッパとシリンダブロック底面との間にクランク室に第3通路を開口させればよく、斜板によって第3通路の開口が塞がれることはない。
【0072】
また、シリンダヘッドの中央部に吐出室、その外側の環状部に吸入室を備えたものにも適用できる。その場合、センタボアについて上記実施形態と同様に形成し、案内通路(145a1)を、絞りを介して吸入室に連通し、第4通路(145d)を中央部の吐出室に連通する通路として置き換えれば、第2ボア101b2に流入した吐出ガスに含まれるオイルが直接的に案内通路(145a1)から流出することを抑制できるという同様の効果が得られる。また、放圧通路を圧力共通通路と別々に形成する場合は、駆動軸のバルブプレート側端面をバルブプレートに接近させて調整ネジ端面をバルブプレートに接合させ、吐出室に連通してバルブプレートを貫通する孔と、調整ネジの貫通孔とを介して第2通路を連通させるように構成してもよい(第1ボアを延長して第2ボアが省略される)。
【0073】
また、本発明は往復動式可変容量圧縮機全般に適用可能である。例えば、ピストンのロッドに連結して駆動軸軸線方向に揺動する揺動板の背面を、回動する斜板に摺動させつつ接合させた揺動板式圧縮機において適用した場合、駆動軸から径方向外側に離れた位置にあるピストンロッドと揺動板とのピボット支持部の摺動面及び斜板と揺動板との摺動速度の大きい外周側摺動面に対して、効果的にオイルを供給して潤滑性能を高めることができる。