【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 【刊行物等】掲載年月日:平成22年9月3日 掲載アドレス: http://tech.obihiro.ac.jp/ ̄jsvs150/program/pdf/Syo_I.pdf (刊行物等)発行者 第150回日本獣医学会学術集会 会長 五十嵐 郁男 刊行物名 第150回日本獣医学会学術集会 講演要旨集 発行日 平成22年9月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、イノベーション創出基礎的研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用熱中症治療剤を製造するためのデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模の温暖化に伴い、我が国においても平均気温の上昇が続き、夏季には最高気温、熱帯夜日数ともに毎年更新される事態となっている。夏季の気温が上昇して特に都会での上昇が著しい。スポーツ、肉体労働や日常生活において熱中症の発生が報告されている(日本救急医学会誌, 19:309 − 21 (2008)、三宅ら)。2006年6月から8月の全国の救命救急センター等で治療を受けた熱中症患者の調査では、死亡例は体温40度以上等の症例で有意に高いという。予後不良例では多臓器不全で死亡する極めて重篤な病態である。
熱中症の予防や対策のため、環境省から熱中症環境保健マニュアルが出されている。
ヒトのみならず、ウシ、ブタ及びニワトリの畜産動物において、熱中症で死亡するケースが増加しているとの記事がある(2010年9月3日産経新聞)。2010年7月1日から8月15日の間に、熱射病などで死亡、廃用された乳用牛959頭、肉用牛235頭、豚657頭、ブロイラー28万9千羽、採卵鶏13万6千羽に達している(熊本県中央家保ニュース Vol.5, 8月号(2010))。ウシ、ブタ及びニワトリ等の畜産動物は、少しの不調でも商品価値に影響が及び、仮に死亡した場合には一頭あたり数百万円に及ぶ経済的損失が出る。また、イヌ、ネコ等の伴侶動物の場合、少しの不調により飼い主の生活に大きな影響を与える。このように、動物の健康管理は、社会一般に大きな課題となっている。
さらに、夏の高温多湿期には畜産生産性や品質が低下することが知られている。暑熱ストレス下では、精子産生、卵子成熟、胎児発育、胎児成長、胎盤成熟などが低下し、妊娠率が低下する(Nabenishi H. et al.: J. Reprod. Dev. (2001) Apr. 9, E. Pub.)。高温期間が続くため、増体、泌乳量、産卵率が低下するとともに、乳質(乳脂率)、肉質が低下する(地球温暖化に対応した農林水産研究開発ビジョン p.10(H.22.3 山形県農林水産部))。暑熱環境下における家禽・家畜の生産性低下は、体温の上昇と密接に関係している(野中ら:地球環境(2009)14: 215 − 222)。 従って、夏季の暑熱期に畜産動物の体温を低下させることができれば、畜産生産性の向上につながることが期待される。
【0003】
動物は発汗作用等の体温調節機能を有し、気温や天候の変動にかかわらず、体温を一定に保つことができる。しかし、温度及び湿度が高い状態が続く場合や、体温調整機能が不調の場合等に、動物の体温が異常に高くなる場合がある。この場合、動物の異変を速やかに察知し、体温を低下させるよう処置をする必要がある。また、気温の上昇が見込まれる場合等には、あらかじめ体温を下げておくことができれば、動物の体調管理にとって有用である。更に体温が上昇中の場合であっても当該上昇を抑制することができれば致死的体温に上昇する前に治療することができる。特に体温が40℃以上に達する場合もある熱射病では、動物が死亡する可能性も高まるため、熱射病を含む熱中症を防ぐ手段が強く望まれている。
【0004】
一方、グレリン(Ghrelin)は1999年に胃から発見されたホルモンであり、28残基からなるアミノ酸配列を有し、当該配列のN末端から3番目のアミノ酸が脂肪酸でアシル化された極めて珍しい化学構造を有するペプチドである(非特許文献1及び特許文献1)。グレリンは成長ホルモン分泌促進因子レセプター1a(Growth Hormone Secretagogue- Receptor 1a:GHS-R1a)に働き(非特許文献2)、下垂体からの成長ホルモン(GH)の分泌を亢進させる内因性の脳−消化管ホルモンである。
【0005】
グレリンはGHS-R1aに対する内因性のGHS-R リガンドとして、ラットから初めて単離精製された後、ラット以外の脊椎動物、例えばヒト、マウス、ブタ、ニワトリ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ等からも、類似した一次構造を有するグレリンのアミノ酸配列が知られている(特許文献1)。
【0006】
また、デスアシルグレリンは、グレリンから脂肪酸が脱離したペプチドである。デスアシルグレリンは、GHS-R1aへの親和性はほとんどなく、下垂体からの成長ホルモン(GH)の分泌を亢進させる活性はほとんどない(J. Clin. Endocrinol. Metab., 89: 3062 − 5 (2004). Broglio, F. et al.)。デスアシルグレリンには食欲低下作用があるとする報告もある(Clin. Nutr., 29:227 − 34 (2010), Perboni, S. & Inui, A.)。デスアシルグレリンの作用は GHS-R1a を介さないものと理解されているが(PLoS One, 5:e11749 (2010). Delhanty, PJ. Et al.)、その受容体や生理作用は未だに不明な点が多い。
デスアシルグレリンはグレリンと同様に心筋細胞のアポトーシス抑制を介して心筋保護に働くことが報告され(非特許文献3)、細胞増殖や細胞死などの細胞の運命に関わっていることが示唆されている。デスアシルグレリンは前立腺がん細胞に対して増殖抑制作用を示すことが報告されており(非特許文献4)、GHS-R 1a以外の受容体に作用するものと考えられている。デスアシルグレリンの摂食行動に及ぼす影響については、亢進と抑制の両方の報告があり、デスアシルグレリンの過剰発現は体形が小型になりIGF-1が低下しているとの報告がある(非特許文献5)。
【0007】
最近の研究では、グレリンが食欲を亢進させること、皮下投与することにより体重及び体脂肪が増加すること(非特許文献6、7及び8)、及び心機能を改善するなどの作用を有することも明らかにされている(非特許文献9)。更にグレリンはGH分泌促進作用及び食欲亢進作用を持ち、GHの作用を介して脂肪を燃焼してエネルギーに変換する作用、又はGHのアナボリックな作用を発現して筋肉を増強させる効果を、食欲亢進によって更に有効に引き出せることが期待されている(非特許文献10)。また、実施例は記されていないが、グレリンに体温低下作用を期待できるとする出願がある(特許文献2)。
一方、本発明者らは、妊娠母動物羊水中にグレリン及びデスアシルグレリンが存在し、その機能や役割を考慮して検討した結果、胎児の皮膚細胞にGHS-R1aが存在すること及びデスアシルグレリンが胎児皮膚細胞の増殖作用を有することを見出した(非特許文献11)。その他、デスアシルグレリンの作用としては、癌細胞増殖に及ぼす影響などが示唆されている (非特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開番号 WO 01/07475 A1
【特許文献2】国際公開番号 WO 2005/039625 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kojima et al.: Nature,402,pp.656-660(1999)
【非特許文献2】Howard et al.: Science,273,pp.974-977(1996)
【非特許文献3】Baldanzi et al.: J.Cell Biol., 159, pp.1029-1037(2002)
【非特許文献4】Cassoni et al.: Eur.J.Endocrinol., 150, pp.173-184(2004)
【非特許文献5】Ariyasu et al.: Endocrinology, 146, pp.355-364(2005)
【非特許文献6】Wren et al.: Endocrinology,141,pp.4325-4328(2000)
【非特許文献7】Nakazato et al.: Nature,409,194-198(2001)
【非特許文献8】Shintani et al.: Diabetes,50,pp.227-232(2001)
【非特許文献9】Lely et al.: Endocr.Rev.,25,pp.656-660(2004)
【非特許文献10】Korbonits et al.:Front Neuroendocrinol.,25,pp.27-68(2004)
【非特許文献11】Nakahara et al.: Endocrinology, 147,pp.1333-42(2006)
【非特許文献12】Zhang et al.:J Physiol., 559,pp.729-737(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、動物のデスアシルグレリン又はその誘導体を有効成分とする体温低下剤及び高体温治療剤に関する。また本発明は当該物質を個体に投与することからなる動物の体温低下方法や高体温症の治療方法等に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する薬剤を動物(個体)に投与することで、体温を低下させることや体温の上昇を抑制することを見出し、熱中症等の高体温症に罹った動物の治療に用いることができることを見出した。
【0012】
即ち、本発明はデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用体温低下剤に関する。
また、本発明はデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用高体温症治療剤に関する。
【0013】
また、本発明はデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を個体に投与することを特徴とする動物用の体温低下方法に関する。
また、本発明はデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を個体に投与することを特徴とする動物用高体温症治療方法に関する。
【0014】
また、本発明は動物の体温を低下させるために使用するデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩に関する。
また、本発明は動物の高体温症を治療するために使用するデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩に関する。
また、本発明はデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用体温低下剤を製造するためのデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用に関する。
また、本発明はデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用高体温症治療剤を製造するためのデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用に関する。
以上のことから、本発明はより具体的には以下の事項に関する。
【0015】
1)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用体温低下剤。
2)動物がヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記1)に記載の体温低下剤。
【0016】
3)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記1)又は2)に記載の体温低下剤。
4)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記3)に記載の体温低下剤。
5)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mg含有する上記1)〜4)のいずれかに記載の体温低下剤。
6)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用高体温症治療剤。
7)動物がヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記6)に記載の高体温症治療剤。
8)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記6)又は7)に記載の高体温症治療剤。
9)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記8)に記載の高体温症治療剤。
10)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mg含有する上記6)〜9)のいずれかに記載の高体温症治療剤。
11)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を個体に投与することからなる動物の体温低下方法。
12)動物が、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記11)に記載の体温低下方法。
13)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記11)又は12)に記載の体温低下方法。
【0017】
14)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記13)に記載の体温低下方法。
15)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mgとして個体に投与することからなる上記11)〜14)のいずれかに記載の体温低下方法。
16)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を個体に投与することからなる動物の高体温症の治療方法。
17)動物が、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記16)に記載の高体温症の治療方法。
18)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記16)又は17)に記載の高体温症の治療方法。
19)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記18)に記載の高体温症の治療方法。
20)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mgとして個体に投与することからなる上記16)〜19)のいずれかに記載の高体温症の治療方法。
21)動物の体温を低下させるために使用するデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
22)動物が、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記21)に記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
23)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記21)又は22)に記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
24)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記23)に記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
25)1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mgとして個体に投与することにより動物の体温を低下させるために使用する上記21)〜24)のいずれかに記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
【0018】
26)動物の高体温症を治療するために使用するデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
27)動物が、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記26)に記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
28)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記26)又は27)に記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
29)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記28)に記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
30)1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mgとして個体に投与することにより動物の高体温症を治療するために使用する上記26)〜29)のいずれかに記載のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
31)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用体温低下剤を製造するためのデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用。
32)動物が、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記31)に記載の使用。
33)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記31)又は32)に記載の使用。
34)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記33)に記載の使用。
35)動物用体温低下剤がデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mg含有する体温低下剤である上記31)〜34)のいずれかに記載の使用。
36)デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する動物用高体温症治療剤を製造するためのデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用。
37)動物が、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルからなる群から選択される動物である上記36)に記載の使用。
【0019】
38)デスアシルグレリン又はその誘導体が、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するペプチド、(2)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、(3)当該(2)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチド、及び(4)当該(2)又は(3)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなる群から選択されるデスアシルグレリン又はその誘導体である上記36)又は37)に記載の使用。
39)上記塩基性アミノ酸がリジン又はアルギニンである上記38)に記載の使用。
40)動物用高体温症治療剤がデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 1000 mg含有する高体温症治療剤である上記36)〜39)のいずれかに記載の使用。
【0020】
なお本発明において1ドーズユニットとは、1回投与あたりの薬剤の投与量のことをいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有する薬剤は、種々の動物に投与することにより、当該動物に対して体温低下作用を発揮することができる。更に、当該薬剤を用いた熱中症等の高体温症にすでに陥った動物の治療の他、予め当該薬剤を動物に投与することで、当該動物の体温を低下させて高体温症に陥ることを予防することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
動物の体温の測定は、公知の手法を用いて行うことができる。動物の体温は、深部体温を測定してもよいし、体表面の体温を測定してもよい。深部体温の測定方法としては、例えば体温計による直腸温の測定等が挙げられる。体表面の体温の測定方法とは、動物の体表面の一定箇所に体温計を接触させる方法やサーモグラフィ等が挙げられる。体表面の温度をサーモグラフィで測定するとき、背部や尾部等の任意の部位を測定することができる。
【0024】
なお、深部体温とは動物の直腸温等により測定した体内の温度をいい、体表面の体温とは、動物の皮膚表面により計測した体表面の温度をいう。
【0025】
本発明の体温低下剤又は高体温症治療剤の投与対象である動物は、脊髄動物であれば特に限定されず、ヒト;ブタ、ウシ等のヒト以外の哺乳類;ニワトリ等の鳥類等様々な種類が挙げられる。中でも、主に野外で活動するため、気温の急変等により体温が変化する動物、例えばヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル等が好ましく、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジが特に好ましい。
本発明の体温低下剤又は高体温症治療剤の投与対象である動物は、体温が平常温であってもよいし、平常温より高くてもよい。
【0026】
なお、平常温とは、動物の体温調整機能により一定範囲内に保たれている体温のことをいう。平常温は測定部位や測定を行う時間帯により変動するが、動物の種類に応じて一定の範囲に定まる。例えばラットの平常温は37〜38℃(深部体温)であり、ヒトの平常温は34〜37℃(表面体温)であり、ネコの平常温は38.1〜39.2℃(深部体温)であり、ウシ(肉用)の平常温は36.7〜39.1℃(深部体温)であり、ウシ(乳用)の平常温は38.0〜39.3℃(深部体温)であり、イヌの平常温は37.9〜39.9℃(深部体温)であり、ヤギの平常温は38.5〜39.7℃(深部体温)であり、ウマの平常温は37.2〜38.2℃(深部体温)であり、ブタの平常温は38.7〜39.8℃(深部体温)であり、ヒツジの平常温は38.5〜39.9℃(深部体温)である。
例えば、暑熱ストレスに曝されているが、異常な高体温に至っていないケース等は高体温に至らないような処置を行うことが考えられる。暑熱ストレスに曝されていると判断される症状としては、乳牛であれば、呼吸が速くなる、立っている時間が長くなる、よだれを垂らすなどがある(ちくさんクラブ21,No.73,2011年4月号)。
また、人工授精(AI)時の受胎率低下は、国内だけでなく、諸外国でも深刻な問題としてとらえられているため(ちくさんクラブ21,No.74,2011年6月号)、妊娠率が低下する夏季に体温を低下させることができれば改善の可能性が考えられる。
【0027】
高体温症とは、体温調節能に不具合が生じ、深部体温がホメスタシスにより正常に維持されている以上に上昇した状態をいう。高体温症は環境状況によって外因性に起こることがあり、一方 内因性の熱産生により二次的に起こることもある(Resuscitation (2005) 67S1、S135-170)。環境による高体温症は、熱(通常輻射熱の形であるが)が体温調節機能によって放散されるよりも多く吸収されたときに起こる。高体温症は熱に関連した一連の疾患で、熱ストレスに始まり、熱疲労、熱射病へと進行し、ついには多臓器不全あるいは心停止になる場合がある(Bouchama A, Knochel JP.:New England Journal of Medicine;346:1978-88 (2002))。
動物の体温が平常温より高くなることで、脳、神経、内臓及び運動器官等に様々な障害が発生する。高体温症の症状として、例えば痙攣、失神、眩暈、疲労感、虚脱感、頭痛、吐気、嘔吐、せん妄、昏睡、体温上昇等が挙げられる。高体温症の中でも、熱中症の重症例である熱射病及び日射病、並びに麻酔時高体温症は、死亡率が極めて高い重篤な病態である。高体温症が一定時間持続すると、血液凝固や多臓器不全等が起こり、動物が死亡する場合もある。
【0028】
高体温症は、高気温高湿度条件等の暑熱環境下に動物が置かれることで、発汗作用による排熱が追いつかず、体内に熱がこもる場合、手術により体温が異常に上昇する場合等に発生する。
高体温症に陥る条件としては、対象動物により様々であるが、例えば外気温が体温より5℃以上高く、湿度が70%を超える条件に30分以上おかれた場合等が挙げられる。ヒトが高体温症に陥る条件として、例えば気温28℃以上、湿度75%以上の条件におかれた場合等が挙げられる。またラットが高体温症に陥る条件として、例えば気温33℃以上、湿度60%以上の条件に30分以上おかれた場合等が挙げられる。
【0029】
本発明において用い得る物質としては、デスアシルグレリン又はデスアシルグレリン結合部位に結合活性を有する物質を挙げることができる。当該物質がデスアシルグレリンの活性を有することは標識デスアシルグレリンを用いたデスアシルグレリン結合部位への結合活性を調べることにより確認することができる。即ち、被検物質をラット胎児脊髄細胞に存在するデスアシルグレリン結合部位に作用させて「標識デスアシルグレリンを置換させる活性を有する」か否かを、公知の手法を用いて標識デスアシルグレリンの放射能を簡便に測定することにより容易に判断することができる。例えば、デスアシルグレリンを含まない溶液中で結合部位に結合した125I-標識デスアシルグレリンの放射能と、デスアシルグレリンが125I-標識デスアシルグレリンと置き換わって結合部位の放射能が低下する変化を、γ−Spectrophotometer を用いて測定することを利用したラジオレセプターアッセイ法を用いることができる。更に、例えばラット胎児脊髄細胞の細胞膜を可溶化した画分と125I-標識デスアシルグレリンをインキュベートして結合させ、その電気泳動後のラジオグラフィから評価する方法も適用できる。また、室温又は高温・高湿度に置いたラットに投与して体温変化を測定することにより判断することもできる。
特に本発明において用い得る物質として好ましいものはデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩である。
【0030】
本明細書において「デスアシルグレリン」とは、各種動物由来のデスアシルグレリンである。望ましくはヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、サル、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、ニワトリ等の各種動物由来のデスアシルグレリンであり、特に配列番号1〜18のいずれか1つの配列を有するペプチドが望ましく、具体的には以下の配列を有する。
【0031】
ヒト(Human) :GSSFLSPEHQRVQQRKESKKPPAKLQPR (配列番号 1)
:GSSFLSPEHQRVQ-RKESKKPPAKLQPR (配列番号 2)
イヌ(Canine) :GSSFLSPEHQKLQQRKESKKPPAKLQPR (配列番号 3)
:GSSFLSPEHQKLQRKESKKPPAKLQPR (配列番号 4)
ネコ(Feline) :GSSFLSPEHQKVQRKESKKPPAKLQPR (配列番号 5)
ブタ(Porcine) :GSSFLSPEHQKVQQRKESKKPAAKLKPR (配列番号 6)
ウシ(Bovine) :GSSFLSPEHQKLQRKEAKKPSGRLKPR (配列番号 7)
ヒツジ(Ovine) :GSSFLSPEHQKLQRKEPKKPSGRLKPR (配列番号 8)
ウマ(Equine) :GSSFLSPEHHKVQHRKESKKPPAKLKPR (配列番号 9)
サル(Monkey):GSSFLSPEHQRAQQRKESKKPPAKLQPR (配列番号10)
ヤギ(Goat) :GSSFLSPEHQKLQ-RKEPKKPSGRLKPR (配列番号11)
ウサギ(Rabbit):GSSFLSPEHQKVQQRKESKKPAAKLKPR (配列番号12)
マウス(Mouse) :GSSFLSPEHQKAQQRKESKKPPAKLQPR (配列番号13)
ラット(Rat) :GSSFLSPEHQKAQQRKESKKPPAKLQPR (配列番号14)
:GSSFLSPEHQKAQRKESKKPPAKLQPR (配列番号15)
ニワトリ(Chicken):GSSFLSPTYKNIQQQKGTRKPTAR (配列番号16)
:GSSFLSPTYKNIQQQKDTRKPTAR (配列番号17)
:GSSFLSPTYKNIQQQKDTRKPTARLH (配列番号18)
(上記表記において、アミノ酸残基は一文字標記により表している。)
【0032】
本明細書における「デスアシルグレリン誘導体」としては、(1)配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列においてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列をN末端側に有し、且つN末端から5番目〜C末端までのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチドからなるデスアシルグレリン誘導体、(2)当該(1)のペプチドにおいてC末端に1又は2個の塩基性アミノ酸が付加されたペプチドからなるデスアシルグレリン誘導体、又は(3)当該(1)又は(2)のペプチドにおいてアミノ酸配列のC末端がアミド化されたペプチドからなるデスアシルグレリン誘導体等を挙げることができる。その他のデスアシルグレリン誘導体については、例えば上記特許文献1の記載を参照して容易に設計することができる。
【0033】
ここで「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド」において欠失等されるアミノ酸の個数は、配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列を構成するアミノ酸の個数から4を引いた数以下であればよい。即ち、欠失等されるアミノ酸の個数は、上記ペプチドにおいてN末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列が保持される限り、特に限定されず、好ましくは1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23又は24個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加することができる。
例えば配列番号16及び17(ニワトリ)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドでは、当該アミノ酸配列を構成する24個のアミノ酸のうち、N末端から4番目のアミノ酸までのアミノ酸配列を構成する4個のアミノ酸を除く1〜20個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加することができる。
また、性質(電荷及び/又は極性)の似たアミノ酸への置換等であれば、多数のアミノ酸が置換されていても、所望の機能を消失しないと考えられる。
【0034】
上記塩基性アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、オルニチン等が挙げられるが、中でもリジン又はアルギニンであることが好ましい。
【0035】
動物個体に対しては、投与対象となる動物由来のデスアシルグレリンを用いてもよいし、投与対象となる動物と異種由来のデスアシルグレリンを用いてもよいが、投与対象となる動物由来のデスアシルグレリンを用いることが好ましい。例えばイヌに対し、ネコ由来デスアシルグレリン(配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学的に許容される塩)を投与するすることができるが、イヌ由来デスアシルグレリン(配列番号3又は4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩)を投与することが好ましい。
【0036】
本発明に係るデスアシルグレリン及びその誘導体は常法により得ることができる(例えば、J. Med. Chem., 43, pp.4370-4376, 2000、特許文献1参照)。例えば、天然の原料から単離することができるし、又は組換えDNA技術及び/又は化学的合成によって製造することができる。例えば組換えDNA技術を用いた製法においては、本発明に係るペプチド化合物をコードするDNAを有する発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を培養し、当該培養物から目的のペプチド化合物を採取することにより本発明に係るペプチド化合物を得ることもできる。
【0037】
遺伝子を組み込むベクターとしては、例えば大腸菌のベクター(pBR322、pUC18、pUC19等)、枯草菌のベクター(pUB110、pTP5、pC194等)、酵母のベクター(YEp型、YRp型、YIp型)、又は動物細胞のベクター(レトロウィルス、ワクシニアウィルス等)等が挙げられるが、その他のものであっても、宿主細胞内で安定に目的遺伝子を保持できるものであれば、いずれをも用いることができる。当該ベクターは、適当な宿主細胞に導入される。目的の遺伝子をプラスミドに組み込む方法又は宿主細胞への導入方法としては、例えば、Molecular Cloninng (Sambrook et al., 1989)に記載された方法が利用できる。
【0038】
上記プラスミドにおいて目的のペプチド遺伝子を発現させるために、当該遺伝子の上流にはプロモーターを機能するように接続させる。
【0039】
本発明において用いられるプロモーターとしては、目的遺伝子の発現に用いる宿主細胞に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、形質転換する宿主細胞がEscherichia属の場合はlacプロモーター、trpプロモーター、lppプロモーター、λPLプロモーター、recAプロモーター等を用いることができ、Bacillus属の場合はSPO1プロモーター、SPO2プロモーター等を用いることができ、酵母の場合はGAPプロモーター、PHO5プロモーター、ADHプロモーター等を用いることができ、動物細胞の場合は、SV40由来プロモーター、レトロウィルス由来プロモーター等を用いることができる。
【0040】
上記のようにして得られた目的遺伝子を含有するベクターを用いて宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては細菌(例えば、Escherichia属、Bacillus属等)、酵母(Saccharomyces属、Pichia属、Candida属等)、動物細胞(CHO細胞、COS細胞等)等を用いることができる。培養時の培地としては液体培地が適当であり、当該培地中には培養する形質転換細胞の生育に必要な炭素源、窒素源等が含まれることが特に好ましい。所望によりビタミン類、成長促進因子、血清などを添加することができる。
【0041】
培養後、培養物から本発明に係るペプチドを常法により分離精製する。例えば、培養菌体又は細胞から目的物質を抽出するには、培養後、菌体又は細胞を集め、これをタンパク質変性剤(塩酸グアニジンなど)を含む緩衝液に懸濁し、超音波などにより菌体又は細胞を破砕した後、遠心分離を行う。次に上清から目的物質を精製するには、目的物質の分子量、溶解度、荷電(等電点)、親和性等を考慮して、ゲル濾過、限外濾過、透析、SDS-PAGE、各種クロマトグラフィーなどの分離精製方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0042】
本発明に係るデスアシルグレリン及びその誘導体は常法により化学合成することができる。例えば、保護基の付いたアミノ酸を液相法及び/又は固相法により縮合、ペプチド鎖を延長させ、酸で全保護基を除去し、得られた粗生成物を上記の精製方法で精製することにより得られる。
【0043】
またペプチドの製造法は従来既に種々の方法が知られており、本発明に係るペプチドの製造も公知の方法に従って容易に製造でき、例えば古典的なペプチド合成法に従ってもよいし、固相法に従っても容易に製造できる。
【0044】
本発明に用いることができるデスアシルグレリン及びその誘導体に係る塩としては薬学的に許容される塩が好ましく、例えば無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0045】
無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0046】
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
【0047】
無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。
【0048】
有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
【0049】
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
以上の塩の中でも特にナトリウム塩、カリウム塩が最も好ましい。
【0050】
デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容しうる塩を有効成分として含む本発明に係る薬剤は、薬理学的に許容しうる担体、賦形剤、増量剤などと有効成分とを混合等して個体(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル等)に対して用いることができる。
【0051】
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。
また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0052】
賦形剤の好適な例としては、例えば乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、例えば結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0053】
崩壊剤の好適な例としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。
【0054】
溶解補助剤の好適な例としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0055】
懸濁化剤の好適な例としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。
【0056】
等張化剤の好適な例としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0057】
防腐剤の好適な例としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0058】
本発明の薬剤の投与方法は特に限定されない。動物個体に対して非経口的な投与方法としては、例えば静脈内、皮下、筋肉内或いは腹腔内への注射、経鼻投与、経肺投与、坐剤投与、点眼投与等が挙げられる。中でも、体温低下作用を速やかに発揮できるため、静脈内又は腹腔内、皮下、筋肉内への注射が好ましい。動物個体に対して経口的な投与方法としては、例えば液剤を投与、混餌投与等が挙げられる。
【0059】
本発明において薬剤の投与量は特に限定されず、使用目的又は投与対象の個体の年齢、体重、個体の種類、症状、状態及び併用薬剤等に応じて適宜選択可能であるが、単回又は複数回を成熟した個体に投与する場合、有効成分であるデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を1回あたり0.001 mg〜1000 mgの範囲で投与することが好ましく、1回あたり0.01 mg 〜 100 mg で投与することがより好ましい。
【0060】
薬剤の投与は、動物に対し所定量を投与できればよく、所定量を単回で投与してもよいし、複数回に分けて投与してもよい。
薬剤の投与は、1回で終わってもよく、複数回繰り返し投与してもよい。また、複数回繰り返し投与する場合は、1日あたり1回〜数回を投与してもよく、これを1日〜1週間にかけて行ってもよい。1日あたり2〜3回を投与し、これを1日〜3日間程度にかけて行うことが好ましい。
【0061】
薬剤の投与時期は、特に限定されず、動物への投与後10〜60分で体温低下作用が発揮されることより、体温低下が求められる時期又はその直前が好ましい。
【0062】
本発明の薬剤は、グレリンを有効成分として含有する薬剤と比較して、優れた体温低下作用を発揮する。即ち、高体温症等、生死に重大な影響を及ぼす症状の場合に、動物の体温を早急に低下させることができる。また、畜産動物等で夏季の暑熱期に必要に応じて体温を低下させたい動物の体温を低下させることができる。
【0063】
本発明の薬剤を動物に投与することで、動物の末梢部分の温度が上昇したことから、体温の放散が促進したことが分かる。即ち、当該薬剤は末梢又は中枢神経系等に働き、動物の末梢からの放熱を活性化させることで、体内の熱を効率よく体外に排出する。これにより、当該薬剤は、動物の体温低下作用を発揮することができる。
【0064】
本発明の薬剤の製剤形態としては、経口投与に適する製剤形態が好ましく、経口投与に適する製剤形態としては、例えば、シロップ、錠剤、カプセル等を挙げることができる。
本発明の薬剤の製剤形態としては、非経口投与に適する製剤形態が好ましく、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、又は筋肉内投与用等の注射剤、点滴剤、坐剤、点眼剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤又は吸入剤などを挙げることができるが、上記注射剤の製剤形態が好ましく、特に個体がイヌ、ネコ等の伴侶動物であり在宅治療の場合には経粘膜吸収剤、吸入剤、坐剤、点眼剤等の製剤形態も好ましい。これらの製剤形態は当業者に種々知られており、当業者は所望の投与経路に適する製剤形態を適宜選択し、必要に応じて当該技術分野で利用可能な1又は2以上の製剤用添加物を用いて医薬用組成物又は治療剤を製造することが可能である。
【0065】
例えば、注射剤、点滴剤又は点眼剤の形態の薬剤は、有効成分であるデスアシルグレリン結合部位に作用する物質、デスアシルグレリンと共に適切な緩衝液、糖溶液、等張化剤、pH調節剤、無痛化剤、防腐剤などの1又は2以上の製剤用添加物を注射用蒸留水に溶解して滅菌(フィルター)濾過後にアンプルまたはバイアル詰めするか、滅菌濾過した溶液を凍結乾燥して凍結乾燥製剤とすることにより調製し提供することができる。添加剤としては、例えばグルコース、マンニトール、キシリトール、ラクトースなどの糖類;ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマー類;グリセロールなどのアルコール類;グリシンなどのアミノ酸類;血清アルブミンなどのタンパク類;NaCl、クエン酸ナトリウムなどの塩類;酢酸、酒石酸、アスコルビン酸などの酸類;Tween 80 などの界面活性剤;亜硫酸ナトリウムなどの還元剤などを使用することができる。このような製剤は、用時に注射用蒸留水又は生理食塩水などを添加して溶解することにより注射剤又は点滴剤として使用できる。また、経粘膜投与には、点鼻剤又は鼻腔内スプレー剤などの鼻腔内投与剤(経鼻投与剤)等も好適であり、経肺投与には吸入剤等も好適である。
【0066】
1製剤中のデスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の含量は好ましくは0.001 mg から1000 mg、より好ましくは0.01 mgから100 mg である。本発明の剤は、デスアシルグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり好ましくは0.001 mg〜100 mg、より好ましくは0.01 mg〜10 mg含有する。該製剤を1日1回ないし数回投与することが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
平常温のラットにおけるデスアシルグレリンの体温低下作用
本実施例ではデスアシルグレリンとしてラット由来デスアシルグレリン(配列番号14)を用いた。ラット由来デスアシルグレリン(化学合成:ペプチド研究所)を購入し、0.1mg/バイアルのラット由来デスアシルグレリンを含有する投与用ラット由来デスアシルグレリンを調製した。
動物として、Wistar系ラット(9〜10週齢)の雄を用いた。
動物に対し、ラット由来デスアシルグレリン0.1mg あたり生理食塩水 0.6 mL で溶解して投与した。
動物に対する投与は、腹腔内注射又は脳室内注射により1回行った。投与量は、動物の体重によらず腹腔内投与では 3 nmol/rat、脳室内投与では 0.5 nmol/rat とした。ラットの体重は 350.2 〜 375.8g であった。
【0069】
サーモグラフィは、FLIR社製のFLIR SC620(ソフト名:FLIR Rsearch IR)を用い、動物の背中
又は尾部の温度を1分間隔で1時間計算することにより行った。サーモグラフィにより測定した体温は、腹腔内注射前10分間の平均値を0とし、そこからの増減により示した。
直腸温は、ユニークメディカル社製の小動物体温コントローラ ATC-101Bにより測定した。
動物の生死は、心拍、呼吸及び体温の変動、並びに活動量、物理的刺激に対する反応等を総合的に判断し確認した。
【0070】
実験室を室温に保ち、ラットを搬入した。3nmol/ratのラット由来デスアシルグレリンをラットに腹腔内注射した。対照として、3nmol/ratのラット由来グレリン(配列番号14において、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されたペプチド化合物)(化学合成:ペプチド研究所、デスアシルグレリンと同様の方法により調製)をラットに腹腔内注射した。また、コントロールとして200μl/ratの生理食塩水をラットに腹腔内注射した。
同様に、0.5nmol/ratのラット由来デスアシルグレリンをラットに脳室内投与した。対照として、0.5nmol/ratの上記ラット由来グレリンをラットに脳室内投与した。また、コントロールとして200μl/ratの生理食塩水をラットに脳室内投与した。
本実施例において、サーモグラフィにより背部及び尾部の体温を測定した。結果を
図1、
図2及び
図3に示す。
【0071】
デスアシルグレリン投与群は、腹腔内注射後5分から60分にかけて、生理食塩水投与群に比べて背部体温が 0.3 〜0.8℃低下することが分かった(
図1)。更に、尾部体温がデスアシルグレリン投与で上昇しており、熱放散効果がグレリンに比べて優れていることが分かった(
図2)。また、デスアシルグレリン投与群は、脳室内注射後10分から30分にかけて、グレリン投与群に比べて高い
背部体温低下作用を発揮した(
図3)。
以上より、デスアシルグレリンの投与により、平常温の動物の体温が速やかに低下することが分かった。
【0072】
(実施例2)
高体温のラットにおけるデスアシルグレリンの体温上昇抑制作用
実験方法は、特記ない限り実施例1と同様に行った。
実験室を温度33〜35℃に保ち、湿度は30%(初期)から75%(終了時)に上昇させ、高温多湿状態に徐々に変化させていった。上記実験室内にラットを搬入した。ラットは3匹ずつポリケージに収容した。高温の実験室にラットを搬入してから30分間経過後、10nmol/ratのラット由来デスアシルグレリンを、ラットに腹腔内注射した。コントロールとして、200μl/ratの生理食塩水をラットに腹腔内注射した。
経過時間110分間(腹腔内注射後80分)において、ラットを実験室から室温に移した。経過時間130分(腹腔内注射後100分)において、ラットの生死を目視及び触診により確認した。
本実施例において、体温は直腸温により測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
経過時間30分において、ラットの体温が39℃前後に上昇し、ラットの活動性が低下した。経過時間50分(腹腔内注射後20分)から110分(腹腔内注射後80分)において、デスアシルグレリン投与群では生理食塩水投与群に比べてラットの体温が0.3〜1.2℃低下することがわかった(p<0.05又は0.01)。また経過時間130分(腹腔内注射後100分)において、対照群では3例中2例のラットが死亡したのに対し、デスアシルグレリン投与群中では3例中すべてのラットが生存した。
以上より、デスアシルグレリンの投与により、熱中症等の高体温症状態の動物の体温上昇を抑制しうることが分かった。また、デスアシルグレリンの投与により、熱中症等の高体温症状態の動物の生存率を向上しうることが分かった。