(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999871
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】生タイヤ成形方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/32 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
B29D30/32
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-293156(P2010-293156)
(22)【出願日】2010年12月28日
(65)【公開番号】特開2012-139871(P2012-139871A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年11月18日
【審判番号】不服2015-19928(P2015-19928/J1)
【審判請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 益任
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
森林 宏和
【審判官】
氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2−25321(JP,A)
【文献】
特開2008−162031(JP,A)
【文献】
特開2002−210839(JP,A)
【文献】
特開2000−62042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D30/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアにエーペックスゴムを取り付けて形成されるビードを円筒状材料に固定するために用いられるビードセットリングであって、
リング部と、
前記リング部からリング軸方向に突出して前記ビードコアと接触するマグネットで形成されたスペーサ部と
を備えており、
前記スペーサ部の半径方向の幅寸法が前記ビードコアの半径方向の寸法よりも小さく、
前記リング部から突出している前記スペーサ部の軸方向の寸法が前記ビードコアの側面からの前記エーペックスゴムのはみ出し部の軸方向の寸法よりも大きく、
前記スペーサ部の突出側の端部が、前記マグネットの磁力により前記ビードコアの側面を、前記リング部およびスペーサ部と前記エーペックスゴムとの非接触状態を維持しながら、吸着するように構成されているビードセットリングと、
前記円筒状材料に前記ビードを固定するための拡縮径可能なビードロックと
を備えている生タイヤ成形装置を用いて前記ビードを、前記ビードセットリングが前記エーペックスゴムに接触して前記ビードが前記ビードセットリングから浮いた状態になることを防止するべく前記円筒状材料に固定するための生タイヤ成形方法であって、
前記ビードセットリングの前記スペーサ部を前記ビードの側面に磁力により吸着させた状態で、前記ビードロックを拡径させることにより、前記ビードを前記円筒状材料に固定するビードロック工程
を備えていることを特徴とする生タイヤ成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コードパスの不均一を解消してタイヤのユニフォミティーを向上させることができ
る生タイヤ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に生タイヤ成形装置には、カーカスプライの円筒形状を形成するためのフォーマーと、ビードの位置決めを行うビードセットリングと、円筒状のカーカスプライにビードを固定するための拡径可能なビードロックが備えられている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
図4は、従来の生タイヤ成形装置の動作を模式的に示す正面断面図であって、(a)はビードロック拡径前の図、(b)はビードロック拡径後の図である。
【0004】
図4(a)に示すように、生タイヤ成形装置は、左右一対のビードセットリング100およびビードロック103を有しており、ビードセットリング100は、ビード101のビードコア101aの側面に吸着して左右のビード101間の距離を固定することにより、コードパスを決定する。
【0005】
そして、
図4(b)に示すように、ビードロック103を拡径させることにより、ビード101とビードロック103との間でカーカスプライ102を狭圧しながら固定するものである。そして、その後、ビードセットリング100は、矢印で示す方向に拡径される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−30371号公報
【特許文献2】特開2010−12670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような生タイヤ成形に使用されるビードは、ビードワイヤーを束ねてなるビードコアとエーペックスゴムとを予めアッセンブルし、生タイヤの成形の準備段階で形成されるのが一般的である。
【0008】
しかし、このアッセンブル工程において、ビードコアに対してエーペックスゴムが蛇行したり、エーペックスゴムの一部がビードコアの側面からはみ出すことがある。また、ビードコアとエーペックスゴムとの接着面積を大きくして接着強度を確保するために、意図的にはみ出し部を形成することもある。
【0009】
このため、従来の生タイヤ成形装置のように、ビードセットリングの平坦な吸着面をビードに接触させてビードを保持する構造の場合には、エーペックスゴムの蛇行や、エーペックスゴムのはみ出しにより、
図5に示すように、ビードコア101aがビードセットリング100から浮いた状態になり、周上のコードパスに影響を与えることになり、その結果、タイヤ周上でのタイヤ寸法のばらつきが発生し、コードパスを一定に保つことができなくなり、RFVを悪化させる原因となる。
【0010】
なお、
図5の左側は、エーペックスゴム101bが蛇行している場合、右側はエーペックスゴム101bの一部がビードコア101aからはみ出している場合を示している。
【0011】
本発明は、上記に鑑み、左右のビード間のコードパスを一定に保ちながら生タイヤを成形することができ、RFVを向上させることができ
る生タイヤ成形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明に関連する技術に係るビードセットリングは、
ビードコアにエーペックスゴムを取り付けて形成されるビードを円筒状材料に固定するために用いられるビードセットリングであって、
リング部と、
前記リング部からリング軸方向に突出して前記ビードコアと接触するマグネットで形成されたスペーサ部と
を備えており、
前記スペーサ部の突出側の端部が、前記マグネットの磁力により前記ビードコアの側面を、前記リング部と前記エーペックスゴムとの非接触状態を維持しながら、吸着するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記のビードセットリングは、
前記スペーサ部が、多分割式で前記リング部の周方向に所定間隔を置いて複数配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に関連する技術に係る生タイヤ成形装置は、
前記のビードセットリングと、
前記円筒状材料に前記ビードを固定するための拡縮径可能なビードロックと
を備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明に関連する技術に係る生タイヤ成形方法は、
前記の生タイヤ成形装置を用いて前記ビードを前記円筒状材料に固定するための生タイヤ成形方法であって、
前記ビードセットリングの前記スペーサ部を前記ビードの側面に磁力により吸着させた状態で、前記ビードロックを拡径させることにより、前記ビードを前記円筒状材料に固定するビードロック工程
を備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明は上記の各技術に基づいてなされたものであり、請求項1に記載の発明は、
ビードコアにエーペックスゴムを取り付けて形成されるビードを円筒状材料に固定するために用いられるビードセットリングであって、
リング部と、
前記リング部からリング軸方向に突出して前記ビードコアと接触するマグネットで形成されたスペーサ部と
を備えており、
前記スペーサ部の半径方向の幅寸法が前記ビードコアの半径方向の寸法よりも小さく、
前記リング部から突出している前記スペーサ部の軸方向の寸法が前記ビードコアの側面からの前記エーペックスゴムのはみ出し部の軸方向の寸法よりも大きく、
前記スペーサ部の突出側の端部が、前記マグネットの磁力により前記ビードコアの側面を、前記リング部およびスペーサ部と前記エーペックスゴムとの非接触状態を維持しながら、吸着するように構成されているビードセットリングと、
前記円筒状材料に前記ビードを固定するための拡縮径可能なビードロックと
を備えている生タイヤ成形装置を用いて前記ビードを
、前記ビードセットリングが前記エーペックスゴムに接触して前記ビードが前記ビードセットリングから浮いた状態になることを防止するべく前記円筒状材料に固定するための生タイヤ成形方法であって、
前記ビードセットリングの前記スペーサ部を前記ビードの側面に磁力により吸着させた状態で、前記ビードロックを拡径させることにより、前記ビードを前記円筒状材料に固定するビードロック工程
を備えていることを特徴とする生タイヤ成形方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、左右のビード間のコードパスを一定に保ちながら生タイヤを成形することができ、RFVを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る生タイヤ成形装置の片側を拡大して模式的に示す正面断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る生タイヤ成形装置のビードセットリングを示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る生タイヤ成形装置の動作を模式的に示す正面断面図であって、(a)はビードロック拡径前の図、(b)はビードロック拡径後の図である。
【
図4】従来の生タイヤ成形装置の動作を模式的に示す正面断面図であって、(a)はビードロック拡径前の図、(b)はビードロック拡径後の図である。
【
図5】従来の生タイヤ成形装置の動作を模式的に示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、実施の形態に基づいて、具体的に説明する。
【0020】
1.生タイヤ成形装置
図1は、本実施の形態に係る生タイヤ成形装置の片側を拡大して模式的に示す正面断面図である。
図2は、本発明の実施の形態に係る生タイヤ成形装置のビードセットリングを示す斜視図である。
【0021】
ビードセットリング1は、リング部2と、多分割式によりリング部2の周方向に所定間隔を置いて配置される複数のスペーサ部3とを有している。本実施の形態では、等間隔で5個のスペーサ部3が配置されている。
【0022】
また、スペーサ部3は、マグネットで形成されている。なお、マグネットはスペーサ部3の先端部のみに設けられてもよい。また、マグネットの磁力の大きさについては、ビードとカーカスプライとの粘着力の方が勝るように設定されている。このため、ビードセットリングの拡径時にビードはマグネットから外れる。
【0023】
また、左右のビード10間のコードパスを一定にするためにビードセットリング1のスペーサ部3をビードに接触させたときに、ビードセットリング1とエーペックスゴム10bとが非接触状態となるように、スペーサ部3の大きさが設定されている。例えば、スペーサ部3の寸法は、ビードコア10aの半径方向の寸法Aが4〜8mmのとき、前記スペーサ部3の半径方向の幅寸法Bは、ビードコア10aの半径方向の寸法Aよりも1〜2mm程度小さく形成され、スペーサ部3の軸方向の寸法Cは1〜2mmに形成される。
【0024】
スペーサ部3の軸方向の寸法Cは、ビード10を製造する際に発生するビードコア10a側面からのエーペックスゴム10bのゴムはみ出し部10cの軸方向の厚さよりも高くなるように設定されている。
【0025】
2.生タイヤ成形方法
次に、前記の生タイヤ成形装置を用いて、コードパスを一定に保ちながら、成形できる生タイヤ成形方法について説明する。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態に係る生タイヤ成形方法の動作を模式的に示す正面断面図であって、(a)はビードロック拡径前の図、(b)はビードロック拡径後の図である。
【0027】
(1)本実施の形態の生タイヤ成形方法では、まず、生タイヤ成形装置のビードセットリング1のスペーサ部3の突出側の端部とビード10の側面を接触させる。
【0028】
これにより、前記マグネットの磁力により、スペーサ部3の先端部は、ビード10の側面を吸着する。
【0029】
このとき、
図3(a)に示すように、スペーサ部3により、ビードセットリング1のリング部2とエーペックスゴム10bとは非接触状態になり、リング部2とエーペックスゴム10bの間に隙間が形成される。そして、この隙間の存在により、エーペックスゴム10bのはみ出し部10cやエーペックスゴム10bの蛇行は、隙間内に吸収され、エーペックスゴム10bがビードセットリング1のリング部2に接触することが回避されてコードパスが一定に保たれる。
【0030】
(2)次に、
図3(b)に示すように、ビードロック22を拡径させてビード10をロックする。これにより、タイヤ周上でのタイヤ寸法を一定に保つことができる。
【0031】
3.本実施の形態の効果
本実施の形態によれば、スペーサ部3により、リング部2とエーペックスゴム10bの接触が回避されるため、エーペックスゴム10bの蛇行や、エーペックスゴム10bの一部はみ出しによるビード10間のコードパスへの影響を回避することができる。そして、スペーサ部3がマグネットを有しているため、ビードコア10aを吸着して、確実に固定する。左右のビード10間のコードパスを一定に保ちながら生タイヤを成形することができ、RFVを向上させることができる。
【0032】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1、100 ビードセットリング
2 リング部
3 スペーサ部
10、101 ビード
10a、101a ビードコア
10b、101b エーペックスゴム
10c、101c ゴムのはみ出し部
20、102 カーカスプライ
22、103 ビードロック
A ビードコアの半径方向の幅寸法
B スペーサ部の半径方向の幅寸法
C スペーサ部の軸方向の高さ寸法