特許第5999903号(P5999903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999903
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】液状化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20160915BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20160915BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160915BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   A61K8/44
   A61K8/81
   A61Q19/00
   A61Q19/02
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-6910(P2012-6910)
(22)【出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2013-147433(P2013-147433A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 京子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一伸
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭則
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−265323(JP,A)
【文献】 特開2009−286757(JP,A)
【文献】 特開2010−116392(JP,A)
【文献】 特開2010−100564(JP,A)
【文献】 特開2011−184386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.5〜5質量%のトラネキサム酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、(B)0.001〜0.01質量%のポリアクリル酸又はその金属塩とを含有し、
液状油分の配合量が5.0質量%以下であり、
キサンタンガムを含まず、
30℃における粘度が500mPa・s以下であることを特徴とする液状化粧料。
【請求項2】
ポリアクリル酸またはその金属塩以外の増粘剤を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
親水性両親媒性物質を更に含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
肌荒れ改善又は美白を目的とする化粧水又はエッセンスであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白効果を有する液状化粧料に関する。より詳しくは、美白成分でありトラネキサム酸またはその誘導体を配合しながらも、べたつきやきしみがなく、さらりとした感触の水中油型の液状乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
トラネキサム酸類は抗プラスミン作用を有し、肌荒れ改善や美白等のための有効成分として様々な化粧品に配合されており、トラネキサム酸類を他の物質と組み合わせることによる相乗効果や新たな効果も見出されている。例えば特許文献1には、トラネキサム酸、アルブチン、トリメチルグリシン及びビタミンEから選択される2種以上の成分を含有する皮膚外用剤が記載され、当該皮膚外用剤が様々な発生要因による肌のくすみを防止できるとされている。
【0003】
しかし、トラネキサム酸類を配合した化粧料、特に化粧水等の低粘度化粧料においては、トラネキサム酸配合に起因するべたつきやきしみを生ずるという問題があり、特許文献2においては、所定量のキサンタンガムを配合することによって、べたつきやきしみが抑制されることが記載されている。ところが、キサンタンガムの配合によってべたつきやきしみは抑制されるものの、ぬめりが生じてさっぱりした感触が得られず、経時で外観色が変化するという問題が生ずる場合があった。
【0004】
一方、特許文献3には、茶エキス及び/又はカフェインを配合し、さらにポリアクリル酸ナトリウムを配合した化粧料を含浸したシート状化粧料が、肌に対する刺激性がなく、肌の引きしめ感、しっとり感、たるみ改善効果にすぐれていることが記載されている。即ち、カフェイン等の肌ひきしめ効果を有する従来の有効成分が有していた肌に対する刺激性がポリアクリル酸ナトリウムにより緩和されうることが教示されている。しかしながら、トラネキサム酸によるべたつき等に対する効果は何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−265323号公報
【特許文献2】特開2010−116392号公報
【特許文献3】特開2011−32193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって本発明の目的は、トラネキサム酸類配合によって生ずるべたつきやきしみを抑制するのみならず、経時での変色も生じない液状化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明者等は鋭意研究を行った結果、トラネキサム酸類を含有する組成物にポリアクリル酸を配合することにより、トラネキサム酸類に起因するべたつきやきしみを抑制でき、経時的な変色も生じないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、(A)0.5〜5質量%のトラネキサム酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、(B)0.001〜0.3質量%のポリアクリル酸又はその金属塩とを含有することを特徴とする液状皮膚外用剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液状化粧料は、トラネキサム酸類を含有していても、それに起因するべたつきやきしみが抑制されるとともに経時的な変色を起こさず、ぬめりのないコク感が得られ、さらさらとした感触を有し、肌へのなじみに優れた使用感を有している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液状化粧料は、トラネキサム酸及びその誘導体(以下「トラネキサム酸類」とする)から選択される少なくとも1種(成分A)を含有している。トラネキサム酸(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサン−1−カルボン酸)及びその誘導体は、抗プラスミン剤として一般に用いられており、化粧品等の皮膚外用剤用途では、安全性が特に高い成分として知られている。
【0011】
本発明の液状化粧料に含有されるトラネキサム酸類としては、従来から化粧品等に使用されているものでよく、特に限定されないが、例えば、トラネキサム酸以外にもその誘導体として、トラネキサム酸塩(マグネシウム塩,カルシウム塩,ナトリウム塩,カリウム塩等の金属塩類、リン酸塩、塩酸塩,臭化水素塩、硫酸塩等)、トラネキサム酸のアミド類(メチルアミド又はその塩等)、トラネキサム酸の二量体等がある。
【0012】
本発明の液状化粧料におけるトラネキサム酸類の配合量は、0.5〜5.0質量%、好ましくは0.8〜3.0質量%、より好ましくは1.0〜2.5質量%である。0.5質量%未満ではトラネキサム酸による効果(肌荒れ改善、美白等)が十分でなくなり、5.0質量%を越えて配合するとべたつきの抑制が困難となる場合がある。
【0013】
本発明の液状化粧料は、トラネキサム酸類に加えてポリアクリル酸又はその金属塩(成分B)を必須成分として含有している。
本発明で使用されるポリアクリル酸は、化粧品等に従来から増粘剤として用いられているものから選択することができ、特に限定されるものではなく、市販品を使用することもできる。
【0014】
本発明では、ポリアクリル酸の金属塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい例として挙げられる。
ポリアクリル酸の数平均分子量は、特に限定されないが、通常は10,000〜250,000、好ましくは10,000〜100,000、さらに好ましくは10,000〜50,000程度のものが用いられる。
【0015】
本発明の液状化粧料に配合されるポリアクリル酸の配合量は、0.001〜0.3質量%であり、好ましくは0.001〜0.2、さらに好ましくは0.001〜0.1である。配合量が0.001質量%未満であると、べたつきの抑制効果が十分でなく、0.3質量%を越えて配合すると粘度が高くなり、液状化粧料特有のなじみのよさやみずみずしい感触が失われる場合がある。
【0016】
本発明の液状化粧料においては、キサンタンガムやカルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース等の他の増粘剤を配合すると、増粘剤によるべたつきやぬめりを生じる場合がある。従って、本発明の組成物は、増粘剤としてポリアクリル酸又はその金属塩のみを含有し、キサンタンガム等の他の増粘剤を含有しないのが好ましい。
【0017】
本発明に係る液状化粧料は、化粧水を代表例とする皮膚表面に塗布される透明又は半透明の液状組成物である。化粧水は一般に、水不溶性物質を可溶化して熱力学的に安定化させ外観を透明液状としたものを指すが、本発明における液状化粧料は、前記の透明可溶化型以外にも、マイクロエマルション、リピッドナノスフィア技術を採用した透明又は半透明の化粧水、あるいは、化粧水タイプの透明又は半透明のエッセンス(美容液)を含む。
【0018】
また本発明の液状化粧料は、30℃における粘度が500mPa・s以下、好ましくは450mPa・s以下、より好ましくは400mPa・s以下の水系低粘度の液状化粧料である。なお、これらの粘度は、例えばVDA型粘度計(芝浦システム株式会社 DIGITAL VISMETRON VDA)を用いて、ローターNo.1又はNo.2を使用し、回転数12rpm、1分間の条件で測定した値とすることができる。
【0019】
本発明の組成物は、化粧水やエッセンス(美容液)等に通常配合される他の任意成分を含有していてもよい。
任意成分としては、水、アルコール、保湿剤、柔軟剤(エモリエント剤)、界面活性剤(可溶化剤、乳化剤)、薬剤、緩衝剤、香料、色剤、防腐剤などが挙げられる。
【0020】
本発明の液状化粧料は水系低粘度の液状組成物であるので、水は組成物の大部分を占め、その配合量は、通常は30〜95質量%、好ましくは50〜90質量%である。
保湿剤としては、グリセリン、ジプロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコールが好ましく、その配合量は、通常は0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜15質量%程度である。
【0021】
界面活性剤(可溶化剤)としては、親水性両親媒性物質が好ましく、これを含有することにより組成物を適用した際の肌へのなじみを更に向上させることができる。
【0022】
本発明の組成物に含有される親水性両親媒性物質としては、従来から化粧品等に使用されているものでよく、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸グリセリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸石鹸、N−アシルグルタミン酸塩、アシルタウリン塩、アシルアルキルタウリン塩、高級アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシン酸塩、高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、リン酸エステル塩、スルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンメチルエーテルジメチコン、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン等がある。
【0023】
本発明の組成物における親水性両親媒性物質の含有量としては、特に限定されないが、好ましくは0.01〜1.0質量%、より好ましくは0.05〜0.3質量%である。含有量が0.01質量%より少ないと肌へのなじみを向上させるには不十分であり、1.0質量%を越えて含有すると却ってべたつきを生じる場合がある。
【0024】
柔軟剤(エモリエント剤)としては、常温で液状の油分が好ましく、これを配合することにより、組成物を適用した際のしっとりさ、肌のやわらかさを更に向上させることができる。
本発明の組成物に配合される液状油分としては、従来から化粧品等に使用されているものでよく、特に限定されないが、例えば、油脂、脂肪酸、エステル油、炭化水素油、高級アルコール、シリコーン油等の従来から化粧品に使用されているものを使用してよい。具体例として以下のものが挙げられる。
【0025】
油脂としては、例えば、アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、オリーブ油、アボガド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、シナモン油、ホホバ油、ブドウ油、ヒマワリ油、アーモンド油、ナタネ油、ゴマ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油等がある。
脂肪酸としては、例えば、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等がある。
【0026】
エステル油としては、例えば、テトラオクタン酸ペンタエリスリット、オクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソパルミチン酸オクチル、オレイン酸イソデシル、エチルヘキサン酸セチル等がある。
【0027】
炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、パラフィン、イソパラフィン、オクタン、デカン、ドデカン、イソドデカン、ヘキサデカン、イソヘキサデカン等がある。
高級アルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等がある。
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状シリコーン等がある。
【0028】
なお、液状油分を含有する場合には、前記した親水性両親媒性物質を共存させることが好ましく、これを共存させることにより液状油分の可溶化安定性又は乳化安定性が向上する。
【0029】
本発明の組成物における液状油分の配合量としては、特に限定されないが、好ましくは0.01〜10.0質量%、より好ましくは0.05〜5.0質量%である。含有量が0.01質量%より少ないと、しっとりさ、肌のやわらかさを向上させるには不十分であり、10.0質量%を越えて含有すると、その安定配合のために添加すべき親水性両親媒性物質等の量が増加してべたつきを生じる場合がある。
【実施例】
【0030】
以下、具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。なお、以下の実施例、比較例及び処方例における処方量は全て質量%である。
【0031】
下記の表1及び2に掲げた組成を有する液状化粧料を調製した。
次に、これらの液状化粧料を用いて20名の専門パネルによる実使用試験を行った。試験項目は、乾き際のべたつきのなさ、乾き際のきしみのなさ、コク感、肌へのなじみ、経時の外観変化(変色)である。各試験項目について、以下の評価点基準に基づいて各専門パネルが評価し、その評価点の合計によって4段階にランク付けした。ランク付けした結果を表1及び2に併せて示す。
【0032】
評価点基準(べたつきのなさ、きしみのなさ、コク感、さらさら感、肌へのなじみ):
5点:非常に優れている。
4点:優れている。
3点:普通。
2点:劣っている。
1点:非常に劣っている。
評価ランク:
◎:合計点が80点以上
○:合計点が60点以上80点未満
△:合計点が40点以上60点未満
×:合計点が40点未満
【0033】
評価基準 経時の外観変化(変色):
○:変色がみられなかった。
×:顕著な変色がみられた。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1に示した結果によれば、トラネキサム酸を配合することにより生ずる乾き際のべたつきやきしみは、0.001質量%のポリアクリル酸を配合することにより解消され、コク感、さらさら感も付与された(実施例1)。この場合に経時的な変色もみられなかった。しかしながら、ポリアクリル酸の配合量が0.001質量%未満であると前記効果が十分に得られず(比較例1)、ポリアクリル酸に代えて他の増粘剤を配合した場合にも十分な効果は得られなかった(比較例2〜4)。
【0037】
表2の結果によると、0.3質量%以下のポリアクリル酸を配合した場合には評価した全ての特性で改善がみられたが(実施例2〜4)、その配合量が0.3質量%を越えると却ってべたつきやきしみが生じ、肌へのなじみも悪くなった(比較例6)。一方、ポリアクリル酸を配合していても、キサンタンガムを更に配合すると経時の外観色が変化した(比較例5)。
【0038】
(処方例1)
化粧水:
配合成分 処方量(質量%)
メチルグルセス−10 0.5
香料 適量
ブチレングリコール 6.0
グリセリン 8.0
ポリアクリル酸Na 0.005
フェノキシエタノール 0.3
水 残余
アルコキシサリチル酸塩 1.0
トラネキサム酸 3.0
エタノール 5.0
PPG−13 デシルテトラデセス−24 0.5
【0039】
製造方法:
水に各原料を配合し攪拌溶解し透明な溶液(化粧水)を得た。
【0040】
(処方例2)
化粧水:
配合成分 処方量(質量%)
水 残余
ポリアクリル酸Na 0.001
グリセリン 8.0
クエン酸 0.4
クエン酸ナトリウム 0.6
トラネキサム酸 2.0
香料 適量
エタノール 5.0
PPG−13デシルテトラデセス−24 0.2
エデト酸塩 適量
ジプロピレングリコール 7.0
【0041】
製造方法:
水に各原料を配合し攪拌溶解し透明な溶液(化粧水)を得た。