【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
尚、以下において、正極シートの正極活物質層の空隙率は次式により算出した。
【0070】
正極シートの正極活物質層の空隙率P(%)=((ST−V)/ST)x100
【0071】
ここに、Sは正極シートの面積(cm
2)、Tは集電板の厚みを除いた正極シートの厚み(cm)、Vは集電板を除いた正極シートの体積(cm
3)である。集電板を除いた正極シートの体積は、正極シートを構成する材料の重量割合とそれぞれの材料の真密度の値を用いて、正極シートを構成する材料全体の平均密度を算出しておき、正極シートを構成する材料の重量の総和をこの平均密度で除することによって求めた。用いた材料の真密度は、ポリアニリンが1.2、アセチレンブラック(デンカブラック)が2.0、ポリアクリル酸が1.18である。
【0072】
実施例1
(テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとする導電性ポリアニリン粉末の製造)
イオン交換水138gを入れた300mL容量のガラス製ビーカーに42重量%濃度のテトラフルオロホウ酸水溶液(和光純薬工業(株)製試薬特級)84.0g(0.402モル)を加え、磁気スターラーにて攪拌しながら、これにアニリン10.0g(0.107モル)を加えた。テトラフルオロホウ酸水溶液にアニリンを加えた当初は、アニリンは、テトラフルオロホウ酸水溶液に油状の液滴として分散していたが、その後、数分以内に水に溶解して、均一で透明なアニリン水溶液となった。このようにして得られたアニリン水溶液は低温恒温槽を用いて−4℃以下に冷却した。
【0073】
次に、酸化剤として二酸化マンガン粉末(和光純薬工業(株)製試薬1級)11.63g(0.134モル)を上記アニリン水溶液中に少量ずつ加えて、ビーカー内の混合物の温度が−1℃を超えないようにした。このようにして、アニリン水溶液に酸化剤を加えることによって、アニリン水溶液は直ちに黒緑色に変化した。その後、しばらく撹拌を続けたとき、黒緑色の固体が生成し始めた。
【0074】
このようにして、80分間かけて酸化剤を加えた後、生成した反応生成物を含む反応混合物を冷却しながら、更に、100分間、撹拌した。その後、ブフナーロートと吸引瓶を用いて、得られた固体をNo.2濾紙にて吸引濾過して、粉末を得た。この粉末を約2モル/dm
3のテトラフルオロホウ酸水溶液中にて磁気スターラーを用いて撹拌、洗浄し、次いで、アセトンにて数回、攪拌、洗浄し、これを減圧濾過した。得られた粉末を室温で10時間真空乾燥して、テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとする導電性ポリアニリン12.5gを鮮やかな緑色粉末として得た。
【0075】
(導電性ポリアニリン粉末の分析)
このようにして得られた導電性ポリアニリン粉末のFT−IRスペクトルを
図1に示す。2918cm
-1はベンゼン環のC−H伸縮振動、1559及び1479cm
-1はベンゼン環の延伸伸縮振動、1297及び1242cm
-1はC−N変角振動、1122及び1084cm
-1はポリアニリンにドープしているテトラフルオロホウ酸に由来するピークである。
【0076】
図2に上記導電性ポリアニリン粉末のESCA(光電子分光法)スペクトルのワイドスキャンデータを示す。このESCAスペクトルにおいて、炭素、酸素、窒素、ホウ素及びフッ素が観測されたが、硫黄及びマンガンは観測されなかった。
【0077】
また、上記導電性ポリアニリン粉末のESCAスペクトルのナロースキャンデータ(図示せず)に基づいて、導電性ポリアニリンにおける元素比率を求め、これに基づいて、導電性ポリアニリンにおける窒素原子に対するフッ素の1/4と窒素原子に対するホウ素の比率、即ち、ドーピング率を求めた結果、(F/4)Nは0.33であり、B/Nは0.35であった。
【0078】
更に、上記導電性ポリアニリ粉末は、20000倍の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を
図3に示すように、直径約0.1μmの棒状粒子の凝集物であることが認められた。
【0079】
(導電性ポリアニリン粉末の電導度)
上記導電性ポリアニリン粉末130mgを瑪瑙製乳鉢で粉砕した後、赤外スペクトル測定用KBr錠剤成形器を用い,300MPaの圧力下に10分間真空加圧成形して、厚み720μmの導電性ポリアニリンのディスクを得た。ファン・デル・ポー法による4端子法電導度測定にて測定した上記ディスクの電導度は19.5S/cmであった。
【0080】
(導電性ポリアニリン粉末を含む正極シートの製造)
ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製重量平均分子量100万)0.1gをイオン交換水3.9gに加え、一夜、静置して、膨潤させた。この後、超音波式ホモジナイザーを用いて1分間処理して溶解させて、2.5重量%濃度の均一で粘稠なポリアクリル酸水溶液4gを得た。
【0081】
前記導電性ポリアニリン粉末0.8gを導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)粉末0.1gと混合した後、これを前記2.5重量%濃度のポリアクリル酸水溶液4gに加え、スパチュラでよく練った後、超音波式ホモジナイザーにて1分間分散処理を施して、流動性を有するペーストを得た。このペーストを更に真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0082】
テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用い、マイクロメーター付きドクターブレード式アプリケータによって、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に塗布した。次いで、室温で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥した。この後、真空プレス機(北川精機(株)製KVHC)を用いて、15cm角のステンレス板に挟んで、温度140℃、圧力1.49MPaで5分間プレスして、複合体シートを得た。
【0083】
この複合体シートにおいて、ポリアクリル酸、導電性ポリアニリン粉末及び導電性カーボンブラックからなる正極活物質の空隙率は55%であった。
【0084】
次に、上記複合体シートを直径15.95mmの打ち抜き刃が据え付けられた打ち抜き治具にて円盤状に打ち抜いて正極シートとし、負極としては、金属リチウム(本城金属(株)製コイン型金属リチウム)を用い、セパレータとしては、宝泉(株)製の空隙率68%の不織布TF40−50を用いて、これらを宝泉(株)製の非水電解液二次電池実験用のステンレス製HSセルに組み付けた。上記正極シートとセパレータは、HSセルへの組み付けの前に真空乾燥機にて100℃で5時間、真空乾燥した。電解液には1モル/dm
3 濃度のテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)のエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート溶液(キシダ化学(株)製)を用いた。リチウム二次電池は、露点 は−100℃のグローブボックス中、超高純度アルゴンガス雰囲気下に組み立てた。
【0085】
組み立てたリチウム二次電池の特性は、電池充放電装置 (北斗電工(株)製SD8)を用いて、定電流−定電圧充電/定電流放電モードにて行った。即ち、特に断らない限り、充電終止電圧は3.8Vとし、定電流充電により電圧が3.8Vに到達した後は、3.8Vの定電圧充電を電流値が定電流充電時の電流値に対して20%の値になるまで行い、この後、放電終止電圧2.0Vまで定電流放電を行った。
【0086】
上記リチウム二次電池について、充放電電流0.1mA(但し、29〜48サイクルの間は0.2mA)にて充放電サイクル試験を行った結果を
図4及び
図5に示す。
図4は充放電サイクル数と重量容量密度との関係を示し、
図5は充放電サイクル数と重量エネルギー密度との関係を示す。
【0087】
図4及び
図5から明らかなように、本発明によるリチウム二次電池は、重量容量密度と重量エネルギー密度のいずれも、サイクル数と共に上昇し、62サイクル目で最高値に達した。その時の重量容量密度は84.6Ah/kgであり、重量エネルギー密度は277Wh/kgであった。
【0088】
次に、上記リチウム二次電池について、そのレート特性を調べた。即ち、充放電レートを0.5Cから110Cまで変化させて、重量容量密度、重量エネルギー密度及び重量出力密度を測定した。結果を表1に示す。これらの特性値はすべて、正極活物質、即ち、テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとして有する導電性ポリアニリンの正味重量当たりに換算したものである。
【0089】
【表1】
【0090】
よく知られているように、電池容量がX(mAh)である場合、全容量を1時間かけて放電するときの電流値はX(mA)であり、このときの放電レートが1Cである。Cは容量を表わす「capacity」の頭文字をとったものである。従って、2C充放電の電流値は2X(mA)であり、このとき、充放電は 1/2時間、即ち、30分で終了する。10C充放電の電流値は10X(mA)となり、このとき、1/10時間、即ち、6分で充放電が終了する。かくして、Cの大きい値まで充放電できることは、その電池の出力が非常に大きいことを示し、急速充放電ができることを意味している。表1から明らかなように、実施例1で組み立てたリチウム二次電池は、100C以上という極めて高い放電レートで充放電できるので、非常に出力特性の高い電池である。
【0091】
図6は、上記表1に対応して、0.5Cから110Cの範囲にわたって種々のレートで充放電したときの重量容量密度と電圧との関係を示すグラフ(充放電曲線)であって、電流値0.5Cから110Cへと220倍も変化させたにもかかわらず、容量は79Ah/kgから45.6Ah/kgへと、約60%に低下しただけであって、実施例1で組み立てたリチウム二次電池が出力特性に非常にすぐれていることを示している。従来、知られているリチウムイオン二次電池であれば、3C程度のレートから容量が著しく低下する。
【0092】
このように、本発明に従って、ポリアクリル酸と導電性ポリアニリンを含む正極シートを備えたリチウム二次電池は、キャパシタのような高い重量出力密度とすぐれたサイクル特性を有し、そのうえ、キャパシタよりも10倍以上もの高い重量エネルギー密度を有する。
【0093】
図7には、前記リチウム二次電池を8.3Cという高い放電レートで6454回まで放電したときのサイクル特性を示す。充電終止電圧は3.8Vとし、定電流充電により電圧が3.8Vに到達した後は、3.8Vの定電圧充電を電流値が定電流充電時の電流値に対して20%の値になるまで行い、この後、放電終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。
【0094】
この結果、サイクル数1000回目でも、初期の重量エネルギー密度の90%を維持している。サイクル数3000回目でも初期の50%を維持しており、通常のリチウムイオン電池に比べて、格段にすぐれたサイクル特性を有している。
【0095】
比較例1
実施例1において、ポリアクリル酸を用いることなく、実施例1で得られた導電性ポリアニリン粉末をそのまま用いて、リチウム二次電池を組み立てた。即ち、宝泉(株)製HSセルに金属リチウム負極とセパレータを組み付け、このセパレータを電解液で湿らせた後、このセパレータ上に所定量の導電性ポリアニリン粉末を付着させて、電池を組み立てた。
【0096】
このようにして得られたリチウム二次電池の充放電レートと重量エネルギー密度及び重量出力密度との関係を表2に示す。また、このようにして得られたリチウム二次電池の充放電レートと重量エネルギー密度との関係を前述した実施例1によるリチウム二次電池のレート特性と共に
図8に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
前述した実施例1によるリチウム二次電池に比べて、この比較例1によるリチウム二次電池は、同じ充放電レートで比較すると、重量エネルギー密度はいずれの充放電レートにおいても低いことが認められた。
【0099】
実施例2
負極として、金属リチウムに代えて、エアウォーター(株)製の低結晶性炭素材料であるハードカーボンにリチウムをプリドープしたハードカーボン電極を用いた以外はすべて、実施例1と同様にして、電池を組み立てた。
【0100】
即ち、グローブボックス中、前記と同じHSセルに直径15.5mmに打ち抜いた金属リチウムを取り付け、これに不織布製セパレータを重ねた。この後、HSセルに電解液として1モル/dm
3濃度のテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)のエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート溶液100μLを注入し、最後に直径15.95mmに打ち抜いたハードカーボン電極を重ねて、リチウム二次電池を組み立てた。
【0101】
次いで、このように組み立てたリチウム二次電池をグローブボックスから取り出し、ポテンショ・ガルバノスタット(北斗電工(株)製HZ−5000)に接続し、カーボン電極側を作用極に接続し、対極と参照極電極は金属リチウム極に接続した。自然電位は約3Vであった。
【0102】
電流値を1mAとして定電流で作用極を還元していくと、作用極の電位は徐々に減少して、0.17Vに到達した。このまま、定電流で1時間通電して、ハードカーボン電極をリチウムにてプリドープした。この後、1mAの定電流で放電すると、容量は195mAh/gを示した。再度、1mAの定電流でリチウムプリドープを行った後、再度、グローブボックス内にHSセルを移し、セルを分解して、カーボン電極を取り出した。
【0103】
このようにして得られたリチウムをプリドープしたハードカーボン電極を負極とし、正極には実施例1と同様にして作製したものを用いて得られたリチウム二次電池によれば、結果を
図9に示すように、実施例1と比較して、より短い15サイクル目で重量エネルギー密度165Wh/kgという高い値に到達した。
【0104】
実施例3
(還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末の製造)
実施例1における導電性ポリアニリンの製造を10倍スケールアップして行って、テトラフルオロホウ酸アニオンがドープされた導電性ポリアニリン粉末を黒緑色の粉末として得た。
【0105】
このようにして得たドープ状態の導電性ポリアニリン粉末を2モル/dm
3水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、30分間攪拌して、上記導電性ポリアニリンを中和処理して、ドーパントであるテトラフルオロホウ酸アニオンをポリアニリンから脱ドープした。
【0106】
濾液が中性になるまで、この脱ドープしたポリアニリンを水洗した後、アセトン中で攪拌、洗浄し、ブフナーロートと吸引瓶を用いて減圧濾過し、No.2濾紙上に脱ドープしたポリアニリン粉末を得た。これを室温下、10時間真空乾燥して、脱ドープ状態のポリアニリンを茶色粉末として得た。
【0107】
次に、このようにして得た脱ドープ状態のポリアニリン粉末をフェニルヒドラジンのメタノール水溶液中に入れ、攪拌下、30分間還元処理を行った。ポリアニリン粉末は、その色が茶色から灰色に変化した。
【0108】
このような還元処理の後、得られたポリアニリン粉末をメタノール、次いで、アセトンで洗浄し、濾別した後、室温下、真空乾燥して、還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。この還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末のKBrディスク法によるFt−IRスペクトルを
図10に示す。
【0109】
4.4重量%濃度のポリアクリル酸水溶液100gにこのポリアクリル酸の有するカルボキシル基の量の半分をリチウム塩化する量の水酸化リチウム粉末0.73gを加えて、ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液を調製した。
【0110】
上記還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末4.0gを導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)粉末0.5gと混合した後、これを上記ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液20.4gに加え、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理した。更に、この分散液をプライミックス(株)製分散機フィルミックス40−40型にて高剪断力を用いるマイルド分散処理を行って、流動性を有するペーストを得た。このペーストを更に真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0111】
テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用い、マイクロメーター付きドクターブレード式アプリケータによって、塗工速度10mm/秒にて、上記ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に塗布した。次いで、室温で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥した。この後、真空プレス機(北川精機(株)製KVHC)を用いて、15cm角のステンレス板に挟んで、温度140℃、圧力1.49MPaで5分間プレスして、複合体シートを得た。この複合体シートにおいて、ポリアクリル酸の半リチウム塩、導電性ポリアニリン粉末及び導電性カーボンブラックからなる正極活物質の空隙率は71%であった。
【0112】
この複合体シートを直径15.95mmの打ち抜き刃が据え付けられた打ち抜き治具にて円盤状に打ち抜いて正極シートとし、これを実施例1と同様にHSセルに組み込み、リチウム二次電池を組み立てて、電池性能を評価した。
図11に充放電サイクル数に対する重量容量密度の関係を示し、
図12に充放電サイクル数に対する重量エネルギー密度の関係を示す。
【0113】
このように、テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとするドープ状態の導電性ポリアニリン粉末とポリアクリル酸を含む正極活物質に代えて、還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末とポリアクリル酸の半リチウム塩を含む正極活物質を備えたリチウム二次電池は、
図4及び
図5に示す前者のリチウム二次電池の特性と比較すれば明らかなように、充放電サイクル数に対する重量容量密度と重量エネルギー密度のいずれもが上記テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとするドープ状態の導電性ポリアニリンを用いる場合の約2倍もの高い値を示した。尚、還元脱ドープ状態のポリアニリンを用いる本実施例においては、重量容量密度と重量エネルギー密度の計算には、ドーパント重量を含まない還元脱ドープ状態ポリアニリン重量のみを用いて算出した。
【0114】
実施例4〜19
本実施例4〜19において用いたポリアニリン粉末の製造について以下に説明し、それらのポリアニリンのODI(oxidation degree index)、即ち、酸化度指数を表3に示す。
【0115】
本実施例において用いたポリアニリン粉末は以下のようにして製造した。即ち、実施例1で得られたテトラフルオロホウ酸アニオンによってドープされた導電性ポリアニリン粉末を2モル/dm
3水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、マグネチックスターラーで30分間攪拌した後、水洗、アセトン洗浄し、次いで、得られた中和物を室温下、真空乾燥して、脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。
【0116】
この脱ドープ状態のポリアニリン粉末約0.5mgをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)200mLに溶解させて、青色の溶液を得た。この溶液を光路長1cmの石英製セルに入れ、自記分光光度計にて紫外から可視領域にわたって電子スペクトルを測定した。得られた電子スペクトルは、340nmと640nmに2つの吸収極大を有し、下式に示すように、340nmの吸収はポリアニリンのアミン構造(IVb)に帰属されるピークであり、640nmの吸収はポリアニリンのキノンジイミン構造(IVa)に帰属されるピークである。
【0117】
【化3】
【0118】
ここで、上記アミン構造に帰属される340nmの吸収極大の吸光度A
340に対する上記キノンジイミン構造に帰属される640nmの吸収極大の吸光度A
640の比A
640/A
340としポリアニリンのODIを定義する。従って、ポリアニリンのODIは、ポリアニリンのキノンジイミン構造の割合、即ち、ポリアニリンの酸化状態の割合を示す尺度である。
【0119】
ODIの値が大きいほど、ポリアニリンの酸化度は高く、ODIの値が小さいほど、ポリアニリンの酸化度は低く、より還元された状態にある。ポリアニリンが完全に還元されて、キノンジイミン構造がなく、アミン構造のみからなるときは、A
640の値が0であるので、ODIの値は0である。
【0120】
上述したテトラフルオロホウ酸アニオンがドープされた導電性ポリアニリン粉末を2モル/dm
3水酸化ナトリウム水溶液で処理し、水洗、アセトン洗浄し、真空乾燥して得られた脱ドープ状態のポリアニリンのODIの値は0.87であった。
【0121】
一方、ポリアクリル酸溶液に関して、表3及び表4に示すように、先ず、重量平均分子量100万又は2.5万のポリアクリル酸を水又はイソプロパノール(IPA)に溶解させて、表3に示した濃度のポリアクリル酸溶液を調製し、その後、水酸化リチウムを表4に示した量を加え、溶解させて、バインダ溶液とした。以下、この溶液をポリアクリル酸(リチウム塩)溶液という。
【0122】
前述したようにして得られた還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末を表3に示す量を用いて、これを表3に示す量の導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)と混合した後、これを上記ポリアクリル酸(リチウム塩)溶液に加え、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理した。ここに、ペースト粘度が高いときには、表4に記載の希釈溶剤を所定量用いて、次のフィルミックス分散を行うに適切な粘度となるように希釈した。希釈後の固形分濃度は表4にペースト濃度として記載されている。この後、更に、プライミクス(株)製分散機フィルミックス40−40型にて高剪断力を用いるマイルド分散処理を行って、流動性を有するペーストを得た。このペーストを更に真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0123】
ペーストの製造に用いたポリアニリン粉末の量とODI、ポリアクリル酸(リチウム塩)/ポリアニリンモル比、導電助剤の量、ポリアクリル酸(リチウム塩)溶液中のポリアクリル酸(リチウム塩)の量と濃度、ポリアクリル酸のリチウム化に用いた水酸化リチウムの量及びポリアクリル酸のリチウム化率を表3と表4に示す。また、得られたペーストの総重量、固形分、ペースト濃度、ポリアニリン固形分、導電助剤固形分及びポリアクリル酸固形分と共に、集電体上への塗布厚み(ウェット)を表4と表5に示す。
【0124】
実施例14〜19においては、テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用い、マイクロメーター付きドクターブレード式アプリケータによって、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に表4に示す塗布厚み(ウェット)にて塗布した。次いで、室温で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥して、表5に示す空隙率を有する正極活物質層を集電体上に有する複合体シートを得た。
【0125】
実施例4〜13においては、テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用い、マイクロメーター付きドクターブレード式アプリケータによって、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に表5に示す塗布厚み(ウェット)にて塗布した。次いで、室温で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥し、この後、真空プレス機(北川精機(株)製KVHC)を用いて、15cm角のステンレス板に挟んで、温度140℃、圧力1.49MPaで5分間プレスして、表5に示す空隙率を有する正極活物質層を集電体上に有する複合体シートを得た。
【0126】
次に、このようにして得られた複合体シートを35mm×27mmの寸法に裁断し、複合体シートの活物質層が27mm×27mmの面積になるように活物質層の一部を除去して、その一部の活物質層を除去した部分をタブ電極取り付け箇所として、正極シートを作製した。この正極シートを用いて、ラミネートセルを組み立てた。負極活物質層の寸法は、29mm×29mmとして、正極シートよりも僅かに大きくした。
【0127】
上記正極シート1枚当たりの正極活物質層の構成物質、即ち、ポリアニリン、導電助剤及びポリアクリル酸の重量をそれぞれ表5に示す。
【0128】
厚み50μmのアルミニウム箔を正極集電体(アルミニウム箔)にスポット溶接機にて接続して、正極の電流取り出し用タブ電極とした。このように、予め、タブ電極を取り付けた正極と負極としてのステンレスメッシュ電極をセパレータと共に温度80℃で真空乾燥した後、露点−100℃のグローブボックス内で金属リチウムを上記ステンレスメッシュ電極に押し付け、減り込ませて、負極とした。次いで、この正極と負極の間に表5に示すセパレータを挟み、これらを開口部を残して三縁がヒートシールされたラミネートセルの中に挿入し、正極と負極が正しく対向するように、また、短絡しないように、セパレータの位置を調整し、更に、正極と負極のそれぞれのタブ電極にシール剤を適用した後、電解液注液口を少し残して、タブ電極部をヒートシールした。
【0129】
この後、所定量の電解液をラミネートセルの電解液注入口からマイクロピペットで注入し、最後に、ラミネートセル上部の電解液注入口をヒートシールにて溶封して、ラミネートセルを得た。用いた電解液量を表5に示す。
【0130】
このようにして得られたラミネートセルについて、その電池性能を評価した。表6にその電池性能の評価条件と共に、1サイクル目の初期充電容量、初期放電容量、初期重量容量密度及び初期重量エネルギー密度と、5サイクル目の放電容量、重量容量密度及び重量エネルギー密度を示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
実施例20
実施例1において、アニリン10.0gに代えて、o−トルイジン11.47gを用いた以外は、実施例1と同様にして、テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとする酸化ドープ状態の導電性ポリ(o−トルイジン)を粉末として得た。これを用いて、実施例1と同様にして、リチウム二次電池を組み立てて、その電池特性を評価した。
【0136】
上記テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとする導電性の酸化ドープ状態のポリ(o−トルイジン)のKBr法によるFT−IRスペクトルを
図13に示す。また、上記リチウム二次電池の充放電サイクル数に対する重量容量密度の関係を
図14に示し、充放電サイクル数に対する重量エネルギー密度の関係を
図15に示す。但し、上記リチウム二次電池の上記特性の測定に際しては、1から20サイクルまでは0.1mAの定電流で放電し、21から40サイクルまでは0.2mAの定電流で放電し、41から60サイクルまでは0.5mAの定電流で放電した。
【0137】
更に、その後、0.1mAの定電流で放電したときの1〜12サイクルまでの充放電サイクル数に対する重量容量密度と重量エネルギー密度をそれぞれ
図16及び
図17に示すように、上記リチウム二次電池は安定したサイクル特性を示した。
【0138】
実施例21
(アントラキノン−2−スルホン酸アニオンをドーパントとする導電性ポリピロール粉末の製造)
ピロール25g(0.373モル)をイオン交換水430g に攪拌下に溶解して、5.5重量%水溶液を調製し、これにアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム1水和物30.5g(0.093モル)を溶解した。
【0139】
次いで、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウムを含むピロール水溶液に室温下、35重量%濃度のペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液243gを2時間かけて少量ずつ滴下した。反応終了後、ブフナーロートと吸引瓶を用いて減圧濾過して、黒色粉末を得た。これを水洗、アセトン洗浄した後、デシケータ中、室温で10時間真空乾燥して、アントラキノン−2−スルホン酸アニオンをドーパントとして有する導電性ポリピロール25.5gを黒色粉末として得た。
図18にこのようなドープ状態の導電性ポリピロール粉末のFT−IRスペクトルを示す。
【0140】
3455cm
-1はピロール環のN−H伸縮振動、1670cm
-1はアントラキノン−2−スルホン酸アニオンのアントラキノン環のカルボニル基伸縮振動、1542cm
-1はピロール環のC−C二重結合伸縮振動、1453cm
-1はピロール環のC−H変角振動、1290cm
-1はピロール環のC−N伸縮振動、1164cm
-1はアントラキノン−2−スルホン酸アニオンのS−O二重結合の伸縮振動である。
【0141】
また、ESCA測定によって求めた上記導電性ポリピロール粉末のS/N原子比は0.15であり、従って、アントラキノン−2−スルホン酸アニオンのドーピング率は0.15であった。
【0142】
(導電性ポリピロール粉末の電導度)
上記導電性ポリピロール粉末130mgを錠剤成形器によって加圧成形して、直径13mm、厚み700μmのディスク状成形物を得た。この成形物について、ファン・デル・ポー法にて電導度を測定したところ、10S/cmであった。
【0143】
(導電性ポリピロール粉末を含む正極シートの製造)
上記導電性ポリピロール粉末3gをカーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)0.44gと混合し、これをポリアクリル酸の有するカルボキシル基の半分をリチウム塩化したポリアクリル酸の半リチウム塩の4.5重量%濃度の水溶液24gに加え、スパチュラで混合した後、超音波式ホモジナイザーにて分散処理して分散液を得た。この分散液にイオン交換水5gを加えた後、更に超音波式ホモジナイザーにて分散処理して、ペーストを得た。次いで、このペーストをプライミックス(株)製分散機フィルミックス40−40型を用いて、線速20m/秒で30秒間、高剪断力を用いるマイルド分散処理を行って、粘性のあるペーストを得た。
【0144】
次いで、実施例1と同様にして、テスター産業(株)製卓上型自動塗工機を用い、マイクロメーター付きドクターブレード型アプリケータによって、厚み30μmの電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に塗工速度10mm/秒にて塗布し、室温で45分間風乾した後、温度100℃のホットプレート上で更に乾燥して、複合体シートを得た。
【0145】
この複合体シートにおいて、導電性ポリピロール粉末、ポリアクリル酸及び導電性カーボンブラックからなる正極活物質の空隙率は65.9%であった。
【0146】
次に、上記複合体シートを直径15.95mmの打ち抜き刃が据え付けられた打ち抜き治具にて円盤状に打ち抜いて正極シートとした。この正極シートと共に、負極として金属リチウム(本城金属(株)製コイン型金属リチウム)を用い、セパレータとして宝泉(株)製の空隙率68%の不織布TF40−50を用いて、これらを宝泉(株)製の非水電解液二次電池実験用のステンレス製HSセルに組み付けた。上記正極シートとセパレータは、HSセルへの組み付けの前に真空乾燥機にて100℃で5時間、真空乾燥した。電解液には1モル/dm
3 濃度のテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)のエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート溶液(キシダ化学(株)製)を用いた。リチウム二次電池は、露点 は−100℃のグローブボックス中、超高純度アルゴンガス雰囲気下に組み立てた。
【0147】
組み立てたリチウム二次電池の特性の評価は、電池充放電装置 (北斗電工(株)製SD8)を用いて、定電流−定電圧充電/定電流放電モードにて行った。即ち、特に断らない限り、充電終止電圧は3.8Vとし、定電流充電により電圧が3.8Vに到達した後は、3.8Vの定電圧充電を電流値が定電流充電時の電流値に対して20%の値になるまで行い、この後、放電終止電圧2.0Vまで定電流放電を行った。
【0148】
上記リチウム二次電池について、充放電レート0.05Cにて行った充放電試験における重量容量密度の測定結果を
図19にPALiDR=0.31(1)及び(2)の曲線で示す。ここに、PALiDR=0.31は、正極活物質の調製において、ポリアクリル酸の半リチウム塩の量(モル)をポリピロールの有する窒素原子(モル数)の0.31倍(即ち、DR(ドーピング率)が0.31)としたことを示す。
【0149】
正極が導電性ポリピロールを含むリチウム二次電池は、所定の容量が発現するまでにある程度の充放電サイクルを行うこと、即ち、初期活性化が必要である。従って、
図19は、正極が導電性ポリピロールを含むリチウム二次電池の初期活性化の過程における充放電サイクル数と重量容量密度の関係を示すグラフである。
【0150】
ポリピロールのドーピング率は、これまで、通常、0.25といわれており、このときのポリピロールの重量当たりの理論重量容量密度は103mAh/g である。しかし、
図19に導電性ポリピロールとポリアクリル酸を含むリチウム二次電池の特性をPALiDR=0.31の曲線で示したように、正極におけるポリピロール重量当たりの容量密度は103mAh/gを超えて、120〜130mAh/gという高い値を示す。この値はポリピロールのドーピング率に換算すると、0.3以上の値となり、従来、いわれている0.25というドーピング率を超える高い値を示している。
【0151】
バインダとして、ポリアクリル酸リチウムに代えて、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)/カルボキシメチルセルロース(CMC)混合物からなるバインダを用いて作製した正極シートを含むリチウム二次電池の充放電サイクル試験の結果も、SBR/CMC(1)及び(2)の曲線として
図19に示す。
【0152】
次に、
図20において、PPy−PALiは導電性ポリピロールとポリアクリル酸を含む正極を備えたリチウム二次電池について、充放電電流値を0.05Cから100Cまで増加させたときの重量容量密度をプロットしたもの、即ち、レート特性を示す。同様に、PPy−SBR/CMCは導電性ポリピロールとSBR/CMCを含む正極を備えたリチウム二次電池のレート特性を示す。いずれのリチウム二次電池も、10C以上の高い充放電レートにおいて高い容量密度を維持しており、急速充放電特性にすぐれている。
【0153】
図21は、上記導電性ポリピロールとポリアクリル酸を含む正極を備えたリチウム二次電池(PPy−PALi0.5)と導電性ポリピロールとSBR/CMCを含む正極を備えたリチウム二次電池(PPy−SBR/CMC)について、充放電レートが10Cという高いレートでのサイクル特性を示し、400回という比較的長い充放電サイクルにおいても、85〜90%という高い容量維持率を示している。
【0154】
比較例2
実施例21において、バインダとしてポリアクリル酸とSBR/CMCのいずれをも用いることなく、実施例21で得られた導電性ポリピロール粉末をそのまま用いて、リチウム二次電池を組み立てた。即ち、宝泉(株)製HSセルに金属リチウム負極とセパレータを組み付け、このセパレータを電解液で湿らせた後、このセパレータ上に所定量の導電性ポリピロール粉末を付着させて電池を組み立てた。
【0155】
このようにして得られたリチウム二次電池の初期活性化過程の重量密度データと充放電レート特性を
図19において「バインダなし」(no binder)(1)及び(2)の曲線としてと、
図20においてPPy−「バインダなし」(no binder) の曲線として示す。正極がポリアクリル酸やSBR/CMCをバインダとして含まないときは、
図19の「バインダなし」の結果にみられるように、得られるリチウム二次電池の重量容量密度は理論容量密度の103mAh/gを下回っており、本発明に従ってポリアクリル酸やSBR/CMCをバインダとして用いて得られるリチウム二次電池に比べて、明らかに容量が小さい。
【0156】
また、レート特性においても、上記リチウム二次電池は、
図20の「PPy−バインダなし」の結果にみられるように、本発明に従ってポリアクリル酸をバインダとして用いて得られたリチウム二次電池に比べて劣っていることが明らかである。
【0157】
実施例21
(導電性ポリアニリン粉末を含む正極シートの製造)
実施例1において得た導電性ポリアニリン粉末4.00gを導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)粉末0.45gと混合し、得られた混合物をポリマレイン酸水溶液(日油(株)製「ノンポールPMA−50W」、ポリマレイン酸50重量%含有)1.43g及び蒸留水16.0gとスパチュラでよく混練した。得られた混練物を超音波式ホモジナイザーにて5分間超音波処理を施した後、プライミックス(株)製分散機フィルミックス40−40型を用い、周速20m/分で30秒間高速攪拌を行って、流動性を有するペーストを得た。このペーストを3分間脱泡処理した。
【0158】
テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用いて、マイクロメーター付きドクターブレード式アプリケータで塗布速度10mm/秒として、上記脱泡処理したペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に塗布した。次いで、室温で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で1時間乾燥して、複合体シートを得た。
【0159】
この複合体シートにおいて、導電性ポリアニリン粉末、導電性カーボンブラック及びポリマレイン酸からなる正極活物質層は、厚み44μm、空隙率56%であった。
【0160】
この後、実施例4〜19に示したのと同じ方法にてラミネートセルを作製した。正極シートの活物質層の製造に用いた材料、ペースト配合、活物質層中の材料比率、ラミネートセル作製条件及び電池特性データを表7から表10に示す。ポリマレイン酸をバインダとして用いたラミネートセルは、ポリアクリル酸バインダを用いた場合と同様に、高い容量密度とエネルギー密度を示した。
【0161】
【表7】
【0162】
【表8】
【0163】
【表9】
【0164】
【表10】
【0165】
実施例22
(還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末を含む正極シートの製造)
ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製重量平均分子量100万)4.4gをイオン交換水95.6gに加え、一夜静置して膨潤させた。この後、超音波式ホモジナイザーを用いて1分間処理して溶解させ、4.4重量%濃度の均一で粘稠なポリアクリル酸水溶液100gを得た。
【0166】
得られたポリアクリル酸水溶液100gにポリアクリル酸の有するカルボキシル基の量の半分をリチウム塩化する量の水酸化リチウム粉末0.73gを加えて、ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液を調製した。
【0167】
実施例3において得られた還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末4.0gを導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)粉末0.5gと混合し、得られた混合物を上記4.4重量%濃度のポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液20.4gに加え、スパチュラでよく混練した。
【0168】
得られた混練物に超音波式ホモジナイザーにて1分間超音波処理を施した後、プライミックス(株)製分散機フィルミックス40−40型にて高剪断力を加えるマイルド分散処理を行って、流動性を有するペーストを得た。このペーストを更に真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0169】
テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用いて、マイクロメーター付きドクターブレ−ト゛式アプリケータで溶液塗工厚みを360μmに調整し、塗布速度10mm/秒にて、上記脱泡ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に塗布した。
【0170】
次いで、室温で45分間放置した後、温度100°Cのホットプレート上で乾燥した。この後、真空プレス機(北川精機(株)製KVHC)を用いて、15cm角のステンレス板に挟んで、温度140°C、圧力1.5MPaで5分間プレスして、複合体シートを得、これを正極シートとした。
【0171】
(ラミネートセルの作製)
セパレータとしては宝泉(株)より入手したポリプロピレン多孔質膜(セルガード社製、Celgard 2400、厚さ25μm、空孔率38%、通気度620秒/100cm
3)を2枚重ねて用いた。負極には本城金属(株)から入手した厚み50μmの金属リチウム箔を用いた。
【0172】
次に、正極、負極及びセパレータを用いて積層体を組み立てた。より詳細には、上述した正極と負極の間にセパレータを介在させて積層して積層体を得た。この積層体をアルミニウムラミネートパッケージに入れた後、80℃で2時間、真空乾燥した。
【0173】
別に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを1:1の体積比で含む溶媒にLiPF
6を1mol/dm
3の濃度で溶解させて電解液を調製し、これを上記真空乾燥したパッケージに注入した後、パッケージを封口して、本発明による非水電解液二次電池を得た。尚、上記パッケージへの電解液の注入はグローブボックス中、超高純度アルゴンガス雰囲気下にて行った。グローブボックス内の露点は−90℃以下であった。
【0174】
このようにして組み立てた非水電解液二次電池の特性の評価は、セルを25℃の恒温槽内に静置し、電池充放電装置(北斗電工(株)製SD8)を用いて、定電流−定電圧充電/定電流放電モードにて行った。充電電流は0.174mAで測定した。充電終止電圧は3.8Vとし、定電流充電により電圧が3.8Vに到達した後は、3.8Vの定電圧充電を電流値が0.035mAに減衰するまで行い、得られた容量を充電容量とした。この後、放電終止電圧2.0Vまで定電流放電を行った。放電電流は0.174mAで行った。
【0175】
このようにして得られたラミネートセルについて、その電池性能を評価した。1サイクル目の充電容量は3.7mAh、放電容量は3.7mAh、重量容量密度は157Ah/kg、重量エネルギー密度は502Wh/kgであり、3サイクル目の放電容量は3.5mAh、重量容量密度は149Ah/kg、重量エネルギー密度は480Wh/kgであった。
【0176】
ここで、本発明において用いるポリアニリン粒子の有する「ひだ状構造」について説明する。ポリアニリン粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察によれば、ポリアニリン粒子の周辺部は、「ひだ状構造」と呼ぶことができる20〜300nmの突起部からなる微細な凹凸構造を有している。このような「ひだ状構造」は、ポリアニリン粉末をルテニウム酸蒸気に曝して、重金属染色した後、TEM観察することによって確認される。重金属染色をしない場合は、「ひだ状構造」は明瞭には観測されない。
【0177】
ポリアニリン粉末の重金属染色は次のようにして行った。還元脱ドープ状態ポリアニリン粉末をガラス製サンプル瓶に入れ、この容器とルテニウム酸の入った同じガラス製サンプル瓶容器の口を向き合う形で合わせ、接合部をポリオレフィンフィルム「パラフィルム」(3M製伸縮粘着性密閉シール用フィルム)でシールすることによって、ポリアニリン粉末をルテニウム酸蒸気に曝して、重金属染色した。
【0178】
この重金属染色したポリアニリン粉末を包埋樹脂(エポキシ樹脂)中に入れて硬化させた後、ミクロトームにて超箔切片を作製して、TEM観察に供した。
図22に実施例3において得られた還元脱ドープ状態ポリアニリンのルテニウム酸染色後のTEM画像を示す。白くみえる部分が包埋樹脂部であり、当初は空隙であった部分である。灰色にみえる部分がポリアニリン部分であり、ポリアニリンの界面部分に黒くみえるのが「ひだ状構造」の部分である。外部界面と内部界面の両面に発達していることが観察される。
【0179】
上述したように、「ひだ状構造」はポリアニリン粒子の周辺部に20〜300nmの突起部からなるものとして観察される。ポリアニリン粒子は、このような「ひだ状構造」によって大きい比表面積を有する。従って、ポリアニリン粒子の有する「ひだ状構造」は、本発明によるポリアニリンを含む正極を備えたリチウム二次電池の高入出力特性を支える要因の1つである可能性がある。
【0180】
実施例3に記載した還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末、導電助剤及びポリアクリル酸からなる正極シートのTEM観察においても、上記「ひだ状構造」が確認される。実施例3の正極シートの面方向の断面のTEM画像を
図23に示す。このTEM画像において、左上の黒い部分は包埋樹脂部分であり、当初は空隙であった部分である。左下の灰色部分はポリアニリンの多い相であり、これに隣接して、ほぼ中央部にみられる白色部と灰色部が微細に混じり合った部分は、導電助剤のカーボンブラックとポリアクリル酸の多い相である。ポリアニリンの多い相の端部にみられる凹凸部が「ひだ状構造」である。
【0181】
ポリアニリン粒子についてみられた「ひだ状構造」が正極シートの断面のTEM画像からも確認された。即ち、正極においても、ポリアニリン粒子表面に「ひだ状構造」が存在することが確認された。
【0182】
実施例23
実施例20において、導電性ポリ(o−トルイジン)の製造を10倍スケールアップして行って、テトラフルオロホウ酸アニオンがドープされた導電性ポリ(o−トルイジン)粉末を黒緑色粉末として得た。
【0183】
このようにして得たドープ状態の導電性ポリ(o−トルイジン)粉末を2モル/dm
3 水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、30分間攪拌して、導電性ポリ(o−トルイジン)を中和処理し、かくして、ドーパントであるテトラフルオロホウ酸アニオンをポリ(o−トルイジン)から脱ドープした。
【0184】
上記脱ドープしたポリ(o−トルイジン)をその濾液が中性になるまで水洗した後、アセトン中で攪拌、洗浄し、次いで、ブフナーロートと吸引瓶を用いて減圧濾過して、No.2濾紙上に脱ドープしたポリ(o−トルイジン)粉末を得た。このポリ(o−トルイジン)粉末を室温下、10時間真空乾燥して、脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)を茶色粉末として得た。
【0185】
次に、このようにして得た脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)粉末をフェニルヒドラジンのメタノール水溶液中に入れ、攪拌下、30分間還元処理を行った。ポリ(o−トルイジン)粉末は、その色が茶色から灰色に変化した。
【0186】
このように還元処理したポリ(o−トルイジン)粉末をメタノール、次いで、アセトンで洗浄し、濾別した後、室温下、真空乾燥して、還元脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)粉末を得た。この還元脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)粉末のKBrディスク法によるFT−IRスペクトルを
図24に示す。
【0187】
4.4重量%濃度のポリアクリル酸水溶液100gにこのポリアクリル酸の有するカルボキシル基の量の半分をリチウム塩化する量の水酸化リチウム粉末0.73gを加えて、ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液を調製した。
【0188】
上記還元脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)粉末3.0gを導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)粉末0.375gと混合した後、これを上記ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液13.3gに加え、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理した。得られた分散液をプライミックス(株)製分散機フィルミックス40−40型にて高剪断力を用いるマイルド分散処理を行って、流動性を有するペーストを得た。このペーストを更に真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0189】
テスター産業(株)製卓上型自動塗工装置を用い、マイクロメーター付きドクターブレード式アプリケータで塗工速度10mm/秒にて、上記ペーストを電気二重層キャパシタ用エッチングアルミニウム箔(宝泉(株)製30CB)上に塗布した。次いで、室温で45分間放置した後、温度100℃のホットプレート上で乾燥して、複合体シートを得た。この複合体シートにおいて、ポリアクリル酸の半リチウム塩、還元脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)粉末及び導電性カーボンブラックからなる正極活物質の空隙率は72%であった。
【0190】
上記複合体シートを直径15.95mmの打ち抜き刃が据え付けられた打ち抜き治具にて円盤状に打ち抜いて正極シートとし、これを実施例1と同様にHSセルに組み込み、リチウム二次電池を組み立てて、電池性能を評価した。
図25に充放電サイクル数に対する重量容量密度の関係を示す。
【0191】
このように、テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとするドープ状態の導電性ポリ(o−トルイジン)に代えて、還元脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)を用いてなるリチウム二次電池は、
図14と比較すれば明らかなように、充放電サイクル数に対する重量容量密度が上記テトラフルオロホウ酸アニオンをドーパントとするドープ状態の導電性ポリ(o−トルイジン)を用いた場合の約2.5倍もの高い値を示すことが理解される。
【0192】
尚、還元脱ドープ状態のポリ(o−トルイジン)を用いる本実施例においては、重量容量密度の計算には、ドーパント重量を含まない還元脱ドープ状態ポリ(o−トルイジン)重量のみを用いて算出した。
【0193】
比較例3
(スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)/ポリ(N−ビニルピロリドン)混合物からなるバインダと還元脱ドープ状態のポリアニリンを含む正極シートを備えたリチウム二次電池の特性)
実施例3において得られた還元脱ドープ状態ポリアニリン粉末4.8gと導電性カーボンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)粉末0.6gを乾式混合した。別に、SBRエマルジョン(JSR(株)製TRD2001、SBR含有量48重量%)0.37gとポリ(N−ビニルピロリドン)溶液(日本触媒(株)製K−90W、含有量19.8重量%)2.12gを混合し、よく攪拌して、白色水分散液を得た。
【0194】
この分散液に上記還元脱ドープ状態ポリアニリン粉末と導電性カーボンブラックの混合粉末を投入し、イオン交換水6.9gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理した。更に、この分散液をプライミックス(株)製分散機フィルミックス40−40型にて高剪断力を用いるマイルド分散処理を行って、流動性を有するペーストを得た。このペーストを更に真空吸引鐘とロータリーポンプを用いて脱泡した。
【0195】
この後、実施例3と同様にして、上記バインダを用いて正極シートを作製し、HSセルに組み込んで、リチウム二次電池を組み立て、その電池特性を評価した。放電レート0.05Cのときの初期重量容量密度は100Ah/kgであった。充放電電流値を変化させながら測定したレート試験の結果を
図26に示す。
【0196】
図26に示す結果から明らかなように、上記リチウム二次電池の重量容量密度は100Ah/kg程度であり、また、レート試験においても、5Cでほぼ容量が取り出せなくなった。かくして、本発明に従って、ポリカルボン酸を含むバインダを用いて作製した正極を備えたチウム二次電池に比べて、レート特性は極めて悪いものであった。
【0197】
比較例4
(ポリスチレンスルホン酸からなるバインダと還元脱ドープ状態のポリアニリンを含む正極シートを備えたリチウム二次電池の特性)
実施例3において、ポリアクリル酸の半リチウム塩水溶液20.4gに代えて、30重量%濃度のポリスチレンスルホン酸溶液(シグマ−アルドリッチ製試薬)7.5gを用いた以外は、同様にして、HSセルを作製して、リチウム二次電池の特性を評価した。
【0198】
その結果、得られたリチウム二次電池の重量容量密度は極めて低く、充放電サイクル回数と共に徐々に少しずつ増大してはいるが、50サイクル時点でも、精々、2.2mAh/g程度であった。このように、スルホン酸基を有するポリマーをバインダとして用いて得られる正極を備えたリチウム二次電池は、重量容量密度の値は極めて低く、電池特性は劣るものであった。