特許第5999997号(P5999997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5999997
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
   A61B8/06
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-144301(P2012-144301)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-8076(P2014-8076A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(74)【代理人】
【識別番号】100079175
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 佳男
(74)【代理人】
【識別番号】100109689
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 結
(72)【発明者】
【氏名】白井 岳士
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−038336(JP,A)
【文献】 特開平07−328001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00−8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内への超音波パルスの送波と該被検体内で反射して戻ってきた反射超音波の受信とを複数回繰り返し、この繰り返しの間に得られた受信信号に基づいて被検体内の超音波送受信域内の各点における血流を表示する超音波診断装置において、
前記受信信号中の低域成分を減衰させることで、クラッタ成分と血流成分との双方の信号成分を含む該受信信号中のクラッタ成分を減衰させるMTIフィルタと、
前記MTIフィルタでのクラッタ成分の減衰前の受信信号から、前記各点における速度の分散値およびパワーを求める減衰前相関演算部と、
前記MTIフィルタでの減衰後の信号から、前記各点における血流の移動速度を求める減衰後相関演算部と、
前記各点における血流を表わす画像を表示する画像表示部と、
前記各点のうち、前記減衰前相関演算部によって求められた前記分散値が第1の閾値を下回る分散条件に合致するとともに、さらに、前記減衰後相関演算部によって求められた前記移動速度が第2の閾値を下回る速度条件および前記減衰前相関演算部によって求められた前記パワーが第3の閾値を上回るパワー条件のうちの少なくとも一方の条件に合致することを血流非表示条件としたときの該血流非表示条件に合致する点については前記減衰後相関演算部で求められた指標を血流が無いことを表わす指標に置き換えた上で、該指標に基づいて前記画像表示部に血流を表わす画像を表示させる表示制御部とを備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記表示制御部が、前記速度条件と、前記パワー条件と、前記分散条件との全てに合致することを前記血流非表示条件とし、該血流非表示条件に合致する点については前記減衰後相関演算部で求められた指標を血流が無いことを表わす指標に置き換えた上で、該指標に基づいて前記画像表示部に血流を表わす画像を表示させるものであることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、前記減衰前相関演算部で求められるパワーが前記第3の閾値よりも大きな第4の閾値を上回る第2のパワー条件、前記減衰後相関演算部で求められる血流速度が前記第2の閾値よりも小さな第5の閾値を下回る第2の速度条件、および前記減衰後相関演算部で求められるパワーが第6の閾値を下回る第3のパワー条件中から選択された少なくとも1つの条件のうちいずれか1つに合致することを第2の血流非表示条件とし、該第2の血流非表示条件に合致する点についても該指標を血流が無いことを表わす指標に置き換えた上で、該指標に基づいて前記画像表示部に血流を表わす画像を表示させるものであることを特徴とする請求項1または2記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の内部組織や血流などの状態を計測する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体内部の状態を計測するため、超音波を人体内部に送波し、反射超音波を受信して人体内部の形態を画像表示する超音波診断装置が知られている。また、超音波診断装置では、超音波のドプラ効果を利用して血流などの状態を画像上に色で表示することが行われている。
【0003】
例えば血管内を移動する血球などに超音波が当たると、反射超音波の周波数はドプラ効果によってシフトするので、シフト量を求めることにより、血流の状態が計測される。ただし、(0でない)移動速度は、生体組織の動きやプローブ自体の動きにも起因して、血流以外の部分でも検出される。血流の状態を精度よく求めるためには、生体組織などで反射した、いわゆるクラッタ成分と呼ばれる高レベルのエコー信号を除去する必要がある。クラッタ成分を除去する手段として、MTIフィルタ(Movinng Target Indicator Filter)が知られている。MTIフィルタはハイパスフィルタの構成を有する。被検体内で静止もしくは低速運動している生体組織からの反射信号(クラッタ成分)は、高レベルであるがドプラ偏移周波数が低いので、検波後の信号をMTIフィルタに通過させると強く減衰される。
【0004】
図1は、血流をカラー表示するために従来から用いられている超音波診断装置の概略構成図である。
【0005】
図1に示す超音波診断装置80は、超音波探触子81、送信回路82、受信回路83、断層像処理部84、カラードプラ処理部85、DSC86、および表示装置87を備えている。超音波探触子81は図示しない複数の振動子が配列されたプローブである。送信回路82は、超音波探触子81が有する複数の振動子に対してパルス波を送信することで、超音波のパルスを出力させる。人体の内部で反射した反射超音波は図示しない振動子で受波されて電気信号に変換され、受信回路83で受信されて受信信号となる。
【0006】
断層像処理部84は、受信信号を処理することで断層情報を得る。より具体的には、断層像処理部84は、超音波パルスを送波してから反射超音波を受波するまでの時間と、得られた電気信号の振幅とに基づいて反射物の形態の情報を演算することにより、人体組織の断層像情報(Bモード情報)を得る。
【0007】
受信信号は、カラードプラ処理部85にも供給される。カラードプラ処理部85は、直交検波部851、MTIフィルタ852、相関演算部853、およびデータ選択部854を備えている。直交検波部851は、受信信号に対し、互いに位相が90度ずれた参照信号(サイン波、コサイン波)を掛け合わせることで、直交検波を行う。直交検波によって、実部I(インフェーズ)と虚部Q(クワドラ)からなる2系統の信号が生成される。実部Iと虚部Qからなる2系統の受信信号には、臓器壁や弁などの運動体で反射したクラッタ成分と血流で反射した血流成分とが含まれている。MTIフィルタ852は、クラッタ成分を減衰させるフィルタリング処理により血流成分を抽出する。相関演算部853は、MTIフィルタ852の出力信号を、相関関数を用いて相関演算することにより、人体内の各点ごとの血流速度を求める。相関演算部853では、パルス波を複数回送信して得られた速度の分散値、および、血流量を表わすパワーも求められる。
【0008】
データ選択部854は、相関演算部853で得られた、血流を表わす指標である、速度、分散値およびパワーのうち、操作者の操作に応じて選択されたデータを選択して出力する。ここで、データ選択部854は、パワーが所定の閾値よりも小さい場合には、出力する指標を「0」すなわち、血流が無いことを表わす指標に置き換えて出力する。
【0009】
受信回路83から得られた受信信号には、クラッタ成分と血流成分との双方の信号成分が含まれているが、クラッタ成分は、MTIフィルタ852によって減衰されている。そこで、MTIフィルタ852通過後の信号から得られたパワーが大きい部分は血流と判断し、パワーが小さい部分はクラッタ成分が残っていると判断する。この判断に応じて指標を「0」に置き換えることによって、除去しきれなかったクラッタ成分の表示が一定度抑えられることとなる。
【0010】
超音波診断装置80のDSC86は、デジタルスキャンコンバータ(Digital Scan Converter)であり、断層像の情報を、画像表示装置に表示可能な走査信号の形式に変換する回路である。断層像処理部84およびカラードプラ処理部85で得られたデータは、DSC86によって画像表示可能なビットマップ形式に変換され、画像信号として表示装置87に供給される。ここでカラードプラ処理部85による、血流を表わす指標は色で表示される。表示装置87は、カラー画像表示装置であり、人体組織の断層像画像に、血流を表わす色情報が重ねられた画像を表示する。
【0011】
カラードプラによる表示においては、ノイズであるクラッタが画像中に表示されることを抑制することが望まれている。しかし、例えば、データ選択部854における指標置き換えの条件である閾値を変更してクラッタ成分をさらに除去しようとした場合には、注目すべき血流の部分まで、血流が無いものとして表示される傾向が高まってしまう。
【0012】
ここで、特許文献1には、アダプティブフィルタを用いてクラッタ成分を除去する装置が示されている。また、特許文献2には、信号の分散値に基づいて、フィルタ処理における周波数軸を動的に変換(シフト)させることにより、フィルタのカットオフ特性をクラッタ成分に合わせようとする装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許5349524号明細書
【特許文献2】特開2004−73672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に示された装置は、アダプティブフィルタが大規模化するため、高機能型の装置には適用できたとしても、普及型の装置には適用することができない。特許文献2の装置も波数軸シフトのための係数を演算する回路の規模が大きいため、普及型の装置には適用することができない。また、周波数軸をシフトしてもフィルタのカットオフ特性はフィルタの係数によって限定されるため、クラッタ成分の除去が十分とはいえない。
【0015】
ここで、MTIフィルタによる処理の前の信号に基づいてパワーを求め、データ選択部では、求めたパワーも考慮して指標置き換えを行うことが考えられる。
【0016】
図2は、MTIフィルタによる処理前の信号のパワーを考慮した診断装置のカラードプラ処理部を示す概略構成図である。
【0017】
図2に示す診断装置は、カラードプラ処理部95におけるデータ選択部954の処理と、パワー演算部955を備えた点が図1に示す診断装置と異なり、残りの点は、図1に示す診断装置と同じである。パワー演算部955は、MTIフィルタ952による処理前の信号に基づいて、パワーPpを演算する。このパワーPpは、相関演算部953で得られるパワーPとは異なり、MTIフィルタ952による処理前のパワーを表わすため、クラッタ成分が支配的となっている。
【0018】
図3は、図2に示すカラードプラ処理部におけるデータ選択部の動作を説明する構成図である。
【0019】
データ選択部954は、図1に示すデータ選択部854と同じ置き換え、すなわち、パワーPが所定の閾値Pthよりも小さい場合には、出力する指標outを「0」すなわち、血流が無いことを表わす指標に置き換える。図2に示すデータ選択部954は、これに加えて、パワー演算部955で得られたパワーPpが閾値Ppth1よりも大きい場合にはクラッタ成分であるとみなし、出力する指標outを「0」で置き換え、また、相関演算部953で得られた速度Vが閾値Vth1よりも遅い場合にも、MTIフィルタ952で除去しきれなかったクラッタ成分であるとみなし、「0」で置き換える。この選択処理では、速度Vについては、体組織の動きよりも血流の方が速いという性質が利用されている。
【0020】
図2および図3に示す診断装置では、MTIフィルタ952による処理前のパワーおよび速度Vが考慮されるため、図1に示す診断装置に比べてクラッタ成分が判別されやすい。しかしながら、超音波診断装置では、クラッタ成分によるノイズをさらに抑えることが望まれている。
【0021】
本発明は上記問題点を解決し、クラッタ成分によるノイズが抑えられ、血流がより鮮明に表示される超音波診断装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成する本発明の超音波診断装置は、被検体内への超音波パルスの送波とこの被検体内で反射して戻ってきた反射超音波の受信とを複数回繰り返し、この繰り返しの間に得られた受信信号に基づいて被検体内の超音波送受信域内の各点における血流を表示する超音波診断装置であって、
上記受信信号中の低域成分を減衰させることで、クラッタ成分と血流成分との双方の信号成分を含むこの受信信号中のクラッタ成分を減衰させるMTIフィルタと、
上記MTIフィルタでのクラッタ成分の減衰前の受信信号から、上記各点における速度の分散値およびパワーを求める減衰前相関演算部と、
上記MTIフィルタでの減衰後の信号から、上記各点における血流の移動速度を求める減衰後相関演算部と、
上記各点における血流を表わす画像を表示する画像表示部と、
上記各点のうち、上記減衰前相関演算部によって求められた上記分散値が第1の閾値を下回る分散条件に合致するとともに、さらに、上記減衰後相関演算部によって求められた移動速度が第2の閾値を下回る速度条件および上記減衰前相関演算部によって求められた前記パワーが第3の閾値を上回るパワー条件のうちの少なくとも一方の条件に合致することを血流非表示条件としたときの該を含む血流非表示条件に合致する点については上記減衰後相関演算部で求められた指標を血流が無いことを表わす指標に置き換えた上で、この指標に基づいて上記画像表示部に血流を表わす画像を表示させる表示制御部とを備えたことを特徴とする。
【0023】
TIフィルタでのクラッタ成分の減衰前の受信信号から、上記各点における速度の分散値を求め、この分散値が第1の閾値を下回る場合を条件として考慮した上で、血流が無いことを表わす指標に置き換えることを考える。MTIフィルタ処理前の信号における速度の分散値が大きい場合は、血流中の各血球の移動速度のばらつきを表しているといえ、逆に分散値が小さい場合は、臓器等のクラッタである可能性が高い。各血球の移動速度の個体差を考慮して、クラッタか否かを判別することにより、クラッタ成分によるノイズが抑えられ、この結果、血流がより鮮明に表示される。
【0025】
ただし、MTIフィルタでの減衰前の信号による分散値が小さい場合には臓器等のクラッタである可能性が高いが、血流であっても分散値が小さい場合もある。そこで、本発明の超音波診断装置では、移動速度についての速度条件およびパワーについてのパワー条件の少なくとも一方と、上記分散条件との双方に合致する点について、血流が無いことを表わす指標に置き換える。これによって、本来血流である部分が、血流が無いものとみなされる誤検知が抑えられる。この結果、血流が鮮明に表示される。

【0026】
また、上記本発明の超音波診断装置において、上記表示制御部が、上記速度条件と、上記パワー条件と、上記分散条件との全てに合致することを上記血流非表示条件とし、この血流非表示条件に合致する点については上記減衰後相関演算部で求められた指標を血流が無いことを表わす指標に置き換えた上で、この指標に基づいて上記画像表示部に血流を表わす画像を表示させるものであることが好ましい。
【0027】
速度条件、パワー条件、および分散条件の全てに合致する点について、血流が無いことを表わす指標に置き換えることによって、本来血流である部分の誤検知がさらに抑えられる。この結果、血流がより鮮明に表示される。
【0028】
減衰後相関演算部で、MTIフィルタでの減衰後の信号から求められた血流の指標に基づく条件に合致する点についても血流が無いことを表わす指標に置き換えることにより、本来血流である部分の誤検知がさらに抑えられる。この結果、血流がより鮮明に表示される。
【0029】
また、上記本発明の超音波診断装置において、上記表示制御部は、上記減衰前相関演算部で求められるパワーが上記第3の閾値よりも大きな第4の閾値を上回る第2のパワー条件、上記減衰後相関演算部で求められる血流速度が上記第2の閾値よりも小さな第5の閾値を下回る第2の速度条件、および上記減衰後相関演算部で求められるパワーが第6の閾値を下回る第3のパワー条件中から選択された少なくとも1つの条件のうちいずれか1つに合致することを第2の血流非表示条件とし、この第2の血流非表示条件に合致する点についても指標を血流が無いことを表わす指標に置き換えた上で、この指標に基づいて前記画像表示部に血流を表わす画像を表示させるものであることが好ましい。
【0030】
減衰前相関演算部で求められるパワーについての第2のパワー条件、減衰後相関演算部で求められる血流速度についての第2の速度条件、減衰後相関演算部で求められるパワーについての第3のパワー条件のいずれか1つに合致する点について血流が無いことを表わす指標に置き換えることで、クラッタ成分によるノイズがさらに抑えられる。この結果、血流がより鮮明に表示される。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、クラッタ成分によるノイズを抑え、血流をより鮮明に表示する超音波診断装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】従来の超音波診断装置の概略構成図である。
図2】MTIフィルタによる処理前の信号のパワーを考慮した診断装置のカラードプラ処理部を示す概略構成図である。
図3図2に示すカラードプラ処理部におけるデータ選択部の動作を説明する構成図である。
図4】本発明の一実施形態である超音波診断装置の概略構成図である。
図5】本実施形態に係るデータ選択部の動作を説明する構成図である。
図6】超音波診断装置による画像の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
図4は、本発明の一実施形態である超音波診断装置の概略構成図である。
【0035】
図4に示す超音波診断装置10は、超音波探触子11、送信回路12、受信回路13、断層像処理部14、カラードプラ処理部15、DSC16、および表示装置17を備えている。ここで、DSC16および表示装置17は、本発明にいう画像表示部の一例に相当する。
【0036】
図4に示す超音波探触子11、送信回路12、受信回路13、断層像処理部14、DSC16、および表示装置17は、図1を参照して説明した超音波探触子81、送信回路82、受信回路83、断層像処理部84、DSC86、および表示装置87とそれぞれ同様の構成および機能を有している。そこで、本実施形態の超音波診断装置10について、図1の超音波診断装置80と重複する説明は省略し、図1の超音波診断装置80と異なるカラードプラ処理部15について主に説明する。
【0037】
図4に示す超音波診断装置10のカラードプラ処理部15は、直交検波部151、MTIフィルタ152、減衰後相関演算部153、データ選択部154、および減衰前相関演算部156を備えている。ここで、データ選択部154は、本発明にいう表示制御部の一例に相当する。
【0038】
直交検波部151は、受信回路13から供給された受信信号に対し、互いに位相が90度ずれた参照信号(サイン波、コサイン波)を掛け合わせることで、直交検波を行う。直交検波によって、実部I(インフェーズ)と虚部Q(クワドラ)からなる2系統の信号が生成される。実部Iと虚部Qからなる受信信号には、臓器壁や弁などの運動体で反射したクラッタ成分と血流で反射した血流成分とが含まれている。この直交検波された受信信号I,Qは、MTIフィルタ152と減衰前相関演算部156に供給される。
【0039】
MTIフィルタ152は、クラッタ成分を減衰させるフィルタリング処理により血流成分を抽出する。MTIフィルタ152はハイパスフィルタであり、低域成分を減衰させることにより、クラッタ成分を減衰させる。本実施形態のMTIフィルタ152は、2次から4次のタップ構成を採用することにより、普及型の超音波診断装置10で実装可能な規模と受信信号の量に適した処理能力とを実現している。
【0040】
MTIフィルタ152によりクラッタ成分が減衰した受信信号は減衰後相関演算部153に供給される。減衰後相関演算部153は、MTIフィルタ152の出力信号に対し、相関関数を用いて相関演算を行うことにより、人体内の各点ごとの血流の速度Vを算出する。速度Vは、パルス波の複数回送信に応じて複数個得られるが、ここでは、代表値として複数個得られた速度の平均値を速度Vとしている。また、減衰後相関演算部153は、パルス波を複数回送信して得られた速度の分散値T、および、血流量を表わすパワーPも算出する。
【0041】
減衰前相関演算部156は、MTIフィルタ152でのクラッタ成分の減衰前の受信信号に対し、相関関数を用いて相関演算を行うことにより、人体内の各点における速度の分散値Tpを算出する。また、減衰前相関演算部156は、クラッタ成分の減衰前の受信信号から、各点のパワーPpも求める。以降、クラッタ成分の減衰前の受信信号に基づいて求めた分散値Tpは、減衰前分散値Tpと称し、クラッタ成分の減衰前の受信信号に基づいて求めたパワーPpは、減衰前パワーPpと称する。また、クラッタ成分の減衰前の受信信号に基づいて求めた各データの符号には、接尾辞として小文字の「p」を付す。
【0042】
減衰前相関演算部156で算出された減衰前分散値Tpには、各点によって、クラッタによる速度成分の分散と血流による速度成分の分散とが含まれている。ここで血流の速度成分は、血液中の血球の反射信号を反映しているため、各血球の移動速度のばらつきに起因して、速度の分散値が相対的に大きい。これに対し、クラッタの速度成分は、臓器等の一体的な動きに起因しているため、速度の分散値が相対的に小さい。
【0043】
データ選択部154は、減衰後相関演算部153で求められた指標、すなわち、速度V、分散値T、またはパワーPのうち、操作者の指示に応じて選択された指標をDSC部16に送出し、指標に基づいて表示装置17に画像を表示させる。例えば、速度Vが選択された場合には、減衰後相関演算部153で求められた速度VをDSC部16に送出する。
【0044】
[血流非表示条件]
ただし、本実施形態に係るデータ選択部154は、各点のうち、所定の血流非表示条件に合致する点については減衰後相関演算部153で求められた指標を血流が無いことを表わす指標に置き換える。本実施形態では血流が無いことを表わす指標は「0」としている。
【0045】
図5は、本実施形態に係るデータ選択部の動作を説明する構成図である。図5には、カラードプラ処理部15のデータ選択部154における条件の式が示されている。図5において、データ選択部154の左側に延びる矢印は出力として選択される指標を示しており、データ選択部154の上下に延びる矢印は、条件として判定する各値を示している。
【0046】
データ選択部154における血流非表示条件には、分散条件「Tp<Tpth」として、減衰前分散値Tpが第1の閾値Tpthを下回る条件が含まれている。減衰前分散値Tpが第1の閾値Tpthを下回ることを1つの条件として、出力される指標outを「0」に置き換える。
【0047】
減衰前分散値Tpは、MTIフィルタ152でのクラッタ成分の減衰前の受信信号に基づいているため、クラッタによる速度成分の分散と血流による速度成分の分散とが含まれている。減衰前分散値Tpが大きいことは各血球の移動速度のばらつきを表しており、減衰前分散値Tpが小さいことは、臓器等の一体的な動きによるクラッタを表している確率が高い。データ選択部154は、減衰前分散値Tpが第1の閾値Tpthを下回ることを1つの条件として、出力される指標outを「0」に置き換えることにより、クラッタによるノイズが画像に表示されることを抑えることができる。この結果、画像において、血流が鮮明に表示される。また、減衰前分散値Tpを、指標outの置換え条件として用いるので、例えばフィルタ係数の算出条件として用いる場合と比べて、低負荷な処理で実現可能である。
【0048】
また、データ選択部154における血流非表示条件には、速度条件「V<Vth2」として、速度Vが第2の閾値Vth2を下回る条件が含まれている。また、この血流非表示条件には、パワー条件「Pp>Ppth2」として、減衰前パワーPpが第3の閾値Ppth2を上回る条件も含まれている。減衰前分散値Tpが小さいことはクラッタを表している可能性が高いが、血流の場合でも減衰前分散値Tpが小さい場合があり得る。そこで上記分散条件および上記パワー条件の少なくとも一方と、上記分散条件との双方に合致する点について、出力される指標outを「0」に置き換えることにより、本来血流である部分が、血流が無いものとみなされる誤検知が抑えられる。
【0049】
より詳細には、データ選択部154における血流非表示条件には、速度条件「V<Vth2」と、パワー条件「Pp>Ppth2」と、分散条件「Tp<Tpth」との全てに合致すること、すなわち「Pp>Ppth2 & Tp<Tpth & V<Vth2」を血流非表示条件とし、この血流非表示条件に合致する点については、減衰後相関演算部153で求められた指標(V,T,P)を血流が無いことを表わす指標「0」に置き換える。これにより、本来血流である部分が、血流が無いものとみなされる誤検知がさらに抑えられる。この結果、血流がより鮮明に表示される。
【0050】
また、本実施形態のデータ選択部154では、上記血流非表示条件の他に第2の血流非表示条件が設定されており、データ選択部154は、第2の血流非表示条件に合致する点についても指標(V,T,P)を血流が無いことを表わす指標「0」に置き換える。第2の血流非表示条件としては、第2のパワー条件「P<Pth」、第2の速度条件「V<Vth1」、および第3のパワー条件「Pp<Ppth1」が設定されている。第2のパワー条件は、減衰前相関演算部156で求められるパワーPpが第4の閾値Ppth1を上回るという条件である。また、第2の速度条件は、減衰後相関演算部153で求められる血流速度Vが第5の閾値Vth1を下回るという条件である。第3のパワー条件は、減衰後相関演算部153で求められるパワーPが第6の閾値Pthを下回るという条件である。
【0051】
[第2の血流非表示条件]
データ選択部154では、上記血流非表示条件の他に、第2の血流非表示条件として、第2のパワー条件「P<Pth」、第2の速度条件「V<Vth1」、および第3のパワー条件「Pp<Ppth1」の中から選択された少なくとも1つの条件のうちいずれか1つに合致する場合にも、指標が、血流が無いことを表わす指標「0」に置き換えられる。より詳細には、データ選択部154では、上記血流非表示条件の他に、第2のパワー条件「P<Pth」、第2の速度条件「V<Vth1」、および第3のパワー条件の中から選択された少なくとも1つの条件のうちいずれか1つに合致する場合に、血流が無いことを表わす指標「0」に置き換える。
【0052】
データ選択部154は、より詳細には、第2の血流非表示条件として、第2のパワー条件「P<Pth」、第2の速度条件「V<Vth1」、および第3のパワー条件「Pp<Ppth1」のいずれかが合致する場合に、指標outを、血流が無いことを表わす指標「0」に置き換える。すなわち、第2の血流非表示条件は、「P<Pth + V<Vth1 + Pp<Ppth1」である。ここで、「+」は論理和(OR)を意味する。
【0053】
第2のパワー条件で判定される、減衰前相関演算部156で求められるパワーPpは、MTIフィルタ152による減衰前の受信信号に基づくものである。この場合、パワーPpには、クラッタ成分が減衰されずに含まれている。MTIフィルタ152による減衰がない状態で、クラッタに起因するパワーPpの大きさは、血流に起因するパワーPpの大きさよりも大きい。すなわち、パワーPpが第4の閾値Ppth1を上回るという第2のパワー条件が合致する場合に、指標「0」への置換えを行うことで、クラッタの表示が抑えられる。
【0054】
ここで、第4の閾値Ppth1は、第3の閾値Ppth2よりも大きいため、パワーPpが第4の閾値Ppth1を上回らない場合でも、この条件とは別の、第3の閾値Ppth2を用いた血流非表示条件が合致する場合にクラッタであると判別されるため、クラッタが多面的な条件によってより正確に判別される。また、第2の速度条件で用いられる第5の閾値Vth1は、第2の閾値Vth2よりも小さい。このため、速度Vが、第5の閾値Vth1を下回らない場合でも、この条件とは別の、第2の閾値Vth2を用いた血流非表示条件が合致する場合にクラッタであると判別されるため、クラッタが多面的な条件によってより正確に判別される。
【0055】
図6は、超音波診断装置による画像の表示例を示す図である。図6のパート(A)は、図1に示す従来の超音波診断装置による比較例としての画像であり、パート(B)は図4および図5に示す本実施形態の超音波診断装置による画像である。双方の画像は、同じ受信信号に対し、双方の超音波診断装置による処理をシミュレーションすることで得られている。ただし、断層像処理は省略している。シミュレーション結果は本来、血流の向きを色によって表示したカラー画像である。画像は、肝静脈の位置におけるものであり、画像の上部の縁は超音波診断装置における超音波探触子(プローブ)の位置つまり体表を示しており、下方に行くにしたがい深部を示している。
【0056】
従来の超音波診断装置による、図6のパート(A)の画像では、肝静脈aの血流に隣接する位置に、ノイズであるクラッタbが強く現れている。これに対し、本実施形態の超音波診断装置による、図6のパート(B)の画像では、肝静脈aの血流が認識に十分な程度に維持されつつ、クラッタbが減少している。この結果、肝静脈aの血流の状態について明確に判断できる。
【0057】
なお、上述した実施形態には、本発明にいうデータ選択部の例として、血流非表示条件の他に第2の血流非表示条件が設定されたデータ選択部154が示されている。ただし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、第2の血流非表示条件は設定されていなくともよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、本発明にいうデータ選択部の例として、分散条件の他に、速度条件およびパワー条件の合致を条件とするデータ選択部154が示されている。ただし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、血流非表示条件としては、分散条件のみであってもよく、また、速度条件およびパワー条件の一方が組み合わされたものであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 超音波診断装置
15 カラードプラ処理部
151 直交検波部
152 MTIフィルタ
153 減衰後相関演算部
154 データ選択部
156 減衰前相関演算部
16 DSC部
17 表示装置
Ppth1 第4の閾値
Ppth2 第3の閾値
Pth 第6の閾値
Tpth 第1の閾値
Vth1 第5の閾値
Vth2 第2の閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6