特許第6000021号(P6000021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000021IGFを含む成長因子による歯、再生歯および再生歯胚における歯冠および咬頭ならびに歯根の大きさおよび形の制御の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000021
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】IGFを含む成長因子による歯、再生歯および再生歯胚における歯冠および咬頭ならびに歯根の大きさおよび形の制御の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20160915BHJP
【FI】
   C12N5/071
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-184656(P2012-184656)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-39517(P2014-39517A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 照子
(72)【発明者】
【氏名】池田 悦子
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/013430(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/134619(WO,A1)
【文献】 YOUNG W.G. et al.,Comparison of the effects of growth hormone, insulin-like growth factor-I and fetal calf serum on mo,Archives of oral biology,1995年,Vol.40, No.9,p.789-799
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/07 − 5/28
A61C 13/00 −13/38
A23L 2/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGFを含む成長因子の存在下で歯又は歯胚由来の細胞を培養する工程を含む、歯の組織再生能を有する細胞の製造方法であって、
当該培養工程において、歯又は歯胚由来の細胞は支持担体中に配置されており、当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【請求項2】
IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合する、又は当該支持体のなかで歯又は歯胚由来の間葉系細胞の凝集体を構築する工程を含む、再生歯胚の製造方法であって、
当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【請求項3】
IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合する、又は当該支持体のなかで歯又は歯胚由来の細胞の凝集体を構築する工程、及び
上記工程で当該成長因子含有支持担体と混合されるか又は凝集体を構築した歯又は歯胚由来の細胞をIGFの存在下で培養する工程を含む、再生歯胚又は再生歯の製造方法であって、
当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【請求項4】
IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合する、又は当該支持体のなかで歯又は歯胚由来の細胞の凝集体を構築する工程、及び
上記工程で当該成長因子含有支持担体と混合されるか又は凝集体を構築した歯又は歯胚由来の細胞をIGFの存在下で培養する工程を含む、再生歯又は再生歯胚における歯冠、咬頭及び歯根のサイズを大きくし、その形態を制御する方法であって、
当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【請求項5】
支持担体が、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ハイドロゲル、プロテオグリカン、エンタクチン、多糖類、ハイドロキシアパタイト、β-TCP、α-TCP、アルミナセラミックス、乾燥骨、乾燥歯、乾燥歯根及び多糖類からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記成長因子がEGF,TGF、NGF、BDNF、VEGF、G−CSF、PDGF、EPO、TPO、FGF、HGF及びBMPからなる群より選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
IGFを含む成長因子を含有する、歯の再生用支持担体に最終濃度として0.5〜8μg/mlとなるよう添加される量のIGFを含む、歯の再生用組成物。
【請求項8】
間葉系細胞及び/又は上皮系細胞をさらに含む、請求項に記載の歯の再生用組成物。
【請求項9】
支持担体が、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ハイドロゲル、プロテオグリカン、エンタクチン、多糖類、ハイドロキシアパタイト、β-TCP、α-TCP、アルミナセラミックス、乾燥骨、乾燥歯、乾燥歯根及び多糖類からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項又はに記載の歯の再生用組成物。
【請求項10】
歯又は歯胚の間葉系組織から分離した間葉系細胞の細胞懸濁液と、歯又は歯胚の上皮組織から分離した上皮細胞の細胞懸濁液とを、IGFが0.5〜8μg/ml配合されたコラーゲンゲルに注入することにより得られる、該コラーゲンゲル内に該間葉系細胞が存在する区画と該上皮細胞が存在する区画とを有する、歯組織再生用組成物。
【請求項11】
前記成長因子がEGF,TGF、NGF、BDNF、VEGF、G−CSF、PDGF、EPO、TPO、FGF、HGF及びBMPからなる群より選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器、器官および組織を再生させる方法。
【背景技術】
【0002】
歯は、エナメル質と象牙質という硬組織を有し、その更に中心部に歯髄を有する器官である。また、歯は齲蝕や歯周病等によって失われることが多く、顎顔面領域の機能性が低下するため、健康維持や質の高い生活を維持するという観点から歯の再生技術が期待されている。
【0003】
例えば、非特許文献1および特許文献1には、器官原基法によって再構築した再生歯が成体顎骨内に移植することにより機能的な歯として萌出することを報告した。また、再生歯は、移植した再構成歯胚由来の歯根膜を有し、周囲歯槽骨とシャーピー線維様組織によって連結していることが示唆された。さらに、作製した再生歯胚を歯根膜と歯槽骨の伴う再生歯ユニットに作製して成体マウスに移植するという技術の開発が記載されている。しかしながら、再生歯が咀嚼するなどの機能を有するために最も重要な歯冠のサイズを大きくする形態制御の方法は開示されていない。また、歯が咀嚼するために最も重要な咬頭の形態制御の方法も開示されていない。
【0004】
例えば、特許文献2には、生理活性物質として線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換細胞増殖因子(TGF)などの存在下で歯胚細胞を培養することが開示されている。しかしながら、形態の制御についての技術は開示されていない。また、歯などの臓器の機能において、正常な形態が極めて重要であり、特に歯の場合、歯冠のサイズを大きくする形態制御、および、咬頭の形態制御ができなければ咀嚼機能が欠落し、臨床への応用性および有効性がないといえる。しかしながら、現状では、歯の発生および再生の過程において、形態を制御して再生させる方法は不可能であるというのが現状であった。
【0005】
例えば、特許文献3には、担体を使用して歯胚を再生させ、特有の形状の歯を形成することが開示されているが、成長因子を用いた方法は開示されていない。また、担体を用いた形状作製の技術では、歯の器官そのものの全体的な組織学的構造の再現は報告されていない。
【0006】
例えば、特許文献5には、IGF/IGFBP複合体によって骨形成および骨再造形を刺激する方法が記載されているが、形態の制御についての技術は開示されていない。本発明におけるIGF刺激の技術は、歯に対する技術であり、さらに歯の機能性に極めて重要な歯冠および咬頭ならびに歯根の形態制御を実現させ、歯科再生技術に最も必要な技術と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2010−525698
【特許文献2】特開2004−331557
【特許文献3】特開2004−357567
【特許文献4】特表平10−512235
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS),106(32):13475-13480 2009
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
歯は歯種特異的な形態を有することで、正常な咀嚼機能を維持できる。そのため、人工の歯による補綴処置においても、咬合調整などの精密な咬頭形態の調整が極めて重要となる。正常な歯と同じ機能を有するには、形態の制御が必要であるが、非特許文献1および特許文献1に記載の技術では再生歯は形態の矮小が認められ、再生歯および歯根の咬頭形態も、正常歯と比較すると不十分である。これらの問題を解決するための形態制御について記載していない。本発明技術では、歯冠および咬頭ならびに歯根の形態を制御し、サイズの増大および縮小が可能となる。そのため、上顎骨および下顎骨と再生歯の大きさのバランスの不調和によって起こる咀嚼機能障害を解決し、歯科再生医療の実現化に必須の技術となる。
【0010】
日本人の集団の中で90%以上に叢生が認められ、近年、増加していることも報告されている。叢生は顎骨と歯の大きさの不調和によってもたらされることから、歯の大きさを制御できれば、叢生の発現を抑制することが可能となる。さらに、叢生が誘因となる齲蝕、歯周病や顎関節症もその発現が抑制される。これらは、歯冠のサイズを大きくする形態制御、および歯冠のサイズを小さくする形態制御によって解決される。
【0011】
組織、器官、臓器の形態形成は、細胞の外部環境によって制御されている。歯は上皮-間葉相互作用により発生し形態が形成されるが、歯の形態形成にかかわるメカニズムは、ほとんど報告されていない。そのため、歯は歯冠の特異的形態によって、その機能を発揮する器官であるにもかかわらず、歯及び再生歯の形態制御は不可能とされてきた。本発明では、IGFを含む成長因子による刺激を歯の上皮-間葉相互作用の発生メカニズムに組み込んで、形態制御する方法を開発した。この技術によって、歯だけではなく、上皮-間葉相互作用によって発生する肺、腎臓、肝臓、腺組織、四肢、指などの形成における形態制御も可能となる。
【0012】
臓器、器官、組織における移植医療および再生医療がすすめられるなかで、それらが機能性を有するためには、適切な大きさや形態が必須である。そのため、活発化する移植治療および再生医療においても、適切な形態制御技術と組み合わせてすすめられなければ、移植臓器、移植組織、再生臓器、再生組織の機能性は不十分となる。しかしながら、発生過程および再生過程において、形態制御のメカニズムはほとんど解明されておらず、論文報告も認められないのが現状である。また、移植医療や再生医療の技術基盤を向上させるために、その発生過程および再生過程と協調するメカニズムを用いた形態制御技術の開発は臨床成績を上げるうえでも必要とされているものの、その技術開発は不可能とされている。本発明では、まさに、歯の発生過程および再生過程にIGFを含む成長因子による刺激を組み合わせて、形態制御した歯が機能することを実現している。さらに、本発明は歯冠のサイズの制御だけでなく、咬頭形成および歯根形成をもコントロールできるため、機能性を再現できる技術といえる。
【0013】
現在の歯科治療では、ブリッジやインプラント治療における人工物における機能代替が進められているが、歯根膜機能の再現が不可能であるため、機能性が不十分である。また、歯胚由来の上皮細胞と間葉細胞を再構築することによって、歯が再生し萌出することが明らかとなった。しかしながら、その大きさが矮小であった。
【0014】
従って本発明の目的は、正常な歯と同等の大きさを有し、正常に咬合しうる咬頭に咬頭形態を調整し、また、咀嚼力を支持する十分な歯根形成も調節し、正常な歯と同等の機能性を有するように歯欠損部を修復する修復方法を提供することである。
【0015】
現在の再生医療では、細胞を移入することで、欠損した組織を再生する方法が進められている。しかしながら、その再生する組織が歯の場合、形態と大きさの制御に限界がある。
【0016】
従って本発明の目的は、細胞移入療法における、歯という器官を再生させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下のとおりである:
項1.インスリン様増殖因子(IGF)を含む成長因子の存在下で培養する工程を含む、歯又は歯胚由来の細胞の培養方法であって、
当該培養工程において、歯又は歯胚由来の細胞は支持担体中に配置されており、当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【0018】
項2.IGFを含む成長因子の存在下で歯又は歯胚由来の細胞を培養する工程を含む、歯の組織再生能を有する細胞の製造方法であって、
当該培養工程において、歯又は歯胚由来の細胞は支持担体中に配置されており、当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【0019】
項3.IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合するか、又は当該支持体のなかで歯又は歯胚由来の細胞の凝集体を構築する工程を含む、再生歯胚の製造方法であって、
当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【0020】
項4.IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合するか、又は当該支持体のなかで歯又は歯胚由来の細胞の凝集体を構築する工程、及び
上記工程で当該成長因子含有支持担体と混合されるか又は凝集体を構築した歯胚由来の細胞をIGFの存在下で培養する工程を含む、再生歯胚又は再生歯の製造方法であって、
当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【0021】
項5.IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合するか、又は当該支持体のなかで歯又は歯胚由来の細胞の凝集体を構築する工程、及び
上記工程で当該成長因子含有支持担体と混合されるか又は凝集体を構築した歯胚由来の細胞をIGFの存在下で培養する工程を含む、再生歯又は再生歯胚における歯冠、咬頭及び歯根のサイズを大きくし、その形態を制御する方法であって、
当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【0022】
項6.IGFを含む成長因子を含有する支持担体中に再生歯胚を配置する工程、及び
当該再生歯胚を培養する工程を含む、再生歯又は再生歯胚における歯冠、咬頭及び歯根のサイズを大きくし、その形態を制御する方法であって、
当該培養工程において、当該支持担体中にIGFが0.5〜8μg/ml配合されている、方法。
【0023】
項7.支持担体が、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ハイドロゲル、プロテオグリカン、エンタクチン、多糖類、ハイドロキシアパタイト、β-TCP、α-TCP、アルミナセラミックス、乾燥骨、乾燥歯、乾燥歯根及び多糖類からなる群より選択される少なくとも一種を含む、項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
項8.IGFを含む成長因子を含有する、歯の再生用組成物であって、歯の再生用支持担体又は培地に最終濃度として0.5〜8μg/mlとなるよう添加される量のIGFを含む、組成物。
【0025】
項9.間葉系細胞及び/又は上皮系細胞をさらに含む、項8に記載の歯の再生用組成物。
【0026】
項10.支持担体が、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ハイドロゲル、プロテオグリカン、エンタクチン、多糖類、ハイドロキシアパタイト、β-TCP、α-TCP、アルミナセラミックス、乾燥骨、乾燥歯、乾燥歯根及び多糖類からなる群より選択される少なくとも一種を含む、項8又は9に記載の組成物。
【0027】
項11.
歯又は歯胚の間葉系組織から分離した間葉系細胞の細胞懸濁液と、歯又は歯胚の上皮組織から分離した上皮細胞の細胞懸濁液とを、IGFが0.5〜8μg/ml配合されたコラーゲンゲルに注入することにより得られる、該コラーゲンゲル内に該間葉系細胞が存在する区画と該上皮細胞が存在する区画とを有する、歯組織再生用組成物。
【0028】
項12.前記成長因子がEGF,TGF、NGF、BDNF、VEGF、G−CSF、PDGF、EPO、TPO、FGF、HGF及びBMPからなる群より選択される少なくとも一種をさらに含む、項1〜11のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【0029】
項13.項1〜4のいずれか一項に記載の方法により製造された細胞、再生歯胚又は再生歯を歯の欠損部分に移植する工程を含む、歯の欠損部の修復方法。
【0030】
項14.項1〜4のいずれか一項に記載の方法により製造された細胞、再生歯胚又は再生歯を患者の歯の欠損部分に移植する工程を含む、欠損部を有する歯の治療方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、歯冠と咬頭および歯根を形態制御することで、正常に咬合し、正常な歯と同等の硬度を有し、正常な歯と同等の機能性を有するように歯の再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施例1にかかる再生歯胚の対照群(A)、IGF-1添加群(B)の培養14日目の位相差顕微鏡像である。IGF-1添加群(B)のサイズが増大し、形態制御されているのが示された。
図2】本発明の実施例1にかかる再生歯胚のサイズ(A:長径、B:幅径)を示すグラフである。
図3】本発明の実施例1にかかる発生歯胚の対照群(A)、IGF-1添加群(B)の培養14日目の位相差顕微鏡像である。IGF-1添加群(B)の形態が増大し、形態制御されているのが示された。
図4】本発明の実施例1にかかる発生歯胚のサイズ(A:長径、B:幅径、C:歯冠長径)を示すグラフである。
図5】本発明の実施例1にかかる発生歯胚のIGF-1添加群の培養14日目のヘマトキシリン−エオジン染色像である(10倍)
図6】本発明の実施例2にかかる対照群(A)、IGF-1添加群(B)の再生歯胚の腎皮膜下移植後30日のマイクロCT像である。IGF-1添加群(B)のサイズが増大し、形態制御されているのが示された。
図7】本発明の実施例2にかかる腎皮膜下移植再生歯のサイズ(A:長径、B:幅径)を示すグラフである。
図8】本発明の実施例2にかかる腎皮膜下移植再生歯(A:エナメル質、B:象牙質)のヌープ硬度を示すグラフである。
図9】本発明の実施例3にかかるIGF-1添加群の再生歯胚の顎骨内移植後90日のマイクロCT像である。IGF-1を添加した再生歯において、サイズが増大するとともに萌出することが示された。矢状面Aならびに咬合面観B:IGF- C:IGF+
図10】本発明の実施例3にかかる顎骨内移植再生歯のサイズ(A:長径、B:幅径)を示すグラフである。IGF-1を添加した再生歯のサイズが増大することが示された。
図11】本発明の実施例3にかかる顎骨内移植再生歯(A:エナメル質、B:象牙質)のヌープ硬度を示すグラフである。IGF-1を添加した再生歯は対照群と同等の硬度を有することが示された。
図12】本発明の実施例4にかかる歯胚間葉細胞の増殖能を示すグラフである。
図13】当該再生歯胚の作製方法の概略図を図13に示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の再生歯の再構築の方法は、歯胚由来の上皮細胞および間葉細胞であることが望ましい。第1の細胞塊と第2の細胞塊を混合することなく密着させて支持担体の内部に配置し培養して再構成歯胚又は、歯が得られる。
【0034】
以下、本発明について説明する。
【0035】
本発明において、「歯」とは、硬組織として内側に象牙質及び外側にエナメル質の層を連続して備え、中心に歯髄が配置し、歯冠や歯根を有する方向性を備えた組織を意味する。歯冠とは、エナメル質と象牙質の層構造の部分をいい、歯根にはエナメル質の層は存在せず、セメント質が存在し、歯根膜によって歯槽骨と連結し歯冠部を支持する。
【0036】
象牙質及びエナメル質は、免疫染色などによって形態的に容易に特定することができる。また、エナメル質は、エナメル芽細胞により産生される。エナメル芽細胞の存在は、アメロブラスチンおよびアメロジェニンの有無によって確認することができる。一方、象牙質は、象牙芽細胞の存在によって特定することができ、象牙芽細胞の存在は、デンチンシアロプロテインの有無によって確認することができる。
【0037】
また、歯の方向性は、歯冠や歯根の配置によって特定することができる。歯冠や歯根は、組織構造や組織染色などに基づいて認識することができる。
【0038】
本発明において「歯胚」及び「歯」は、発生段階に基づいて区別されたものに特に言及する場合に用いられる表現である。この場合の「歯胚」とは、将来歯になることが決定付けられた歯の原基であり、歯の発生ステージで一般的に用いられる蕾状期(Bud stage)から鐘状期(Bell stage)までの段階のものを指している。歯胚は最初、口腔粘膜上皮と間葉組織由来の細胞が増殖したものであり、歯胚は、エナメル器、歯乳頭、歯小嚢に分化する。エナメル器はエナメル質、歯乳頭は歯髄と象牙質、歯小嚢はセメント質、歯根膜、歯槽骨になって、歯が完成する。尚、本明細書において、「再生歯」及び「再生歯胚」は、歯又は歯胚由来の細胞を用いて再生した歯及び歯胚をそれぞれ示す。また、本明細書中においては、「再生歯胚」という場合には、細胞培養の結果、蕾状期から鐘状期までの段階に達したものだけでなく、歯又は歯胚由来の細胞を支持担体に混合したものも包含することとする。
【0039】
本発明の方法においては、培養工程に供する「歯又は歯胚由来の細胞」には、上記の「歯」又は「歯胚」から取り出した細胞、当該細胞を適宜酵素処理したもの等だけでなく、これらの細胞と同様に歯又は歯胚の再生能を有するものも含まれる。歯又は歯胚の再生能を有する細胞としては、例えば、歯又は歯胚への分化能を有する幹細胞、iPS細胞等も含まれる。従って、本発明の方法には、当該幹細胞及びiPS細胞を培養して、歯又は歯胚を再生する方法も含まれる。幹細胞、iPS細胞を用いて歯又は歯胚を再生するための条件としては自体公知の方法を適宜用いることができる。
【0040】
なお本発明において「間葉系細胞」とは、間葉組織由来の細胞を意味し、「上皮系細胞」とは上皮組織由来の細胞を意味する。
【0041】
本発明は、IGFを含む成長因子の存在下で培養することを特徴とする、歯又は歯胚由来の細胞の培養方法を提供する。当該方法により、歯の組織再生能を有する細胞を製造することができる。具体的な培養方法としては、例えば、歯又は歯胚由来の細胞を用いて再生歯胚を再構築し、これを器官培養する方法等が挙げられる。
【0042】
IGFとしては、IGF−1及びIGF−2が挙げられ、好ましくはIGF−1が用いられる。
【0043】
IGF以外の成長因子としては、EGF,TGF、NGF、BDNF、VEGF、G−CSF、PDGF、EPO、TPO、FGF、HGF及びBMPを用いることができる。
【0044】
IGF-1を用いた形態制御した再生歯胚の再構築方法
本発明の方法においては、まずIGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯胚由来の細胞を混合する。これにより、再生歯胚が再構築される。例えば、以下の方法が挙げられる。歯胚上皮組織ならびに歯胚間葉組織から採取した単一化細胞を、それぞれシリコンコートした1.5 mlマイクロ遠心管 (Watson, Parsippany, NJ, USA)に入れ、2500rpmで3分間遠心し、その上清をGELoader Tip 0.5-20μl (Eppendorf, Hamburg, Germany)で完全に除去し、上皮細胞と間葉細胞の高密度細胞懸濁液を調製する。次にシリコンコートした35mmペトリディッシュの上に30μlのタイプIコラーゲンゲルをドロップ状に形成し、このコラーゲンゲルにはIGF-1を混合する。さらに、ハミルトンシリンジ(Osaka chemical,Osaka,Japan)を用いて0.05μlの間葉細胞の高密度細胞懸濁液をゲル内に注入する。続いて0.05μlの上皮細胞懸濁液を間葉細胞の凝集体に接合させるようにして注入し、上皮細胞と間葉細胞が高密度で区画化された再生歯胚を作製する。上記のように、本発明の方法において、IGFを含む成長因子を含有する支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を混合する方法には、例えば、当該支持担体に歯又は歯胚由来の細胞を注入する方法も包含される。
【0045】
ここで細胞集合体1個あたりの細胞数を、一般に10〜10個、好ましくは10〜10個とすることができる。
【0046】
本発明において、IGFを含む成長因子を支持担体に添加するにあたり、例えば、その濃度は0.5〜25μg/ml等の濃度が例示される。歯冠、咬頭及び歯根のサイズを大きくする形態制御の観点から、IGFを0.5〜8μg/mlとすることを特徴とし、0.5〜4μg/mlとすることがより好ましい。ただし、再生させる臓器、組織、細胞によってその濃度は変更される。また、添加する支持担体の種類によっても、その濃度は変更される。
【0047】
歯胚以外に由来する間葉系細胞としては、生体内の他の間葉系組織に由来する細胞である。好ましくは、骨髄細胞や間葉系幹細胞、さらに好ましくは歯髄細胞や歯根膜細胞などの口腔内間葉系細胞や顎骨の内部の骨髄細胞、間葉系前駆細胞やその幹細胞等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
また、歯胚以外に由来する上皮系細胞としては、生体内の他の上皮系組織に由来する細胞である。好ましくは、皮膚や口腔内の粘膜や歯肉の上皮系細胞、エナメル芽細胞、さらに好ましくは皮膚や粘膜などの分化した、例えば角化した、あるいは錯角化した上皮系細胞とその上皮系前駆細胞、たとえば非角化上皮系細胞やその幹細胞等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0049】
歯胚及び他の組織は、哺乳動物の霊長類、例えばヒト、サル、マーモセットなど、有蹄類、例えば豚、牛、馬など、食肉類のイヌなど、小型哺乳類の齧歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなどの種々の動物の顎骨等から採取することができる。なお、ヒトの歯胚としては、第3大臼歯いわゆる親知らずの歯胚の他、胎児歯胚を挙げることができるが、自家組織の利用との観点から、親知らず歯胚を用いることが好ましい。また、抜歯した永久歯及び乳歯の歯髄組織、歯根膜組織を用いることも好ましい。また、マウスの場合、胎日齢10日から16日の歯胚を用いることが好ましい。
【0050】
この歯胚からの間葉系細胞及び上皮系細胞の調製は、まず周囲の組織から単離された歯胚を、形状に従って歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織に外科的に分けることによって行われる。この際、分離を容易に行うため酵素を用いてもよい。このような用途に用いられる酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ等を挙げることができる。
【0051】
間葉系細胞及び上皮系細胞は、それぞれ間葉組織及び上皮組織から単一細胞の状態に調製してもよい。単一の細胞に容易に分散可能とするために、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等の酵素を用いてもよい。
【0052】
なお、間葉系細胞及び上皮系細胞は、それぞれ充分な細胞数を得るために、予備的な培養を経たものであってもよい。望ましくは、2〜4継代のものが望ましい。また、凍結保存して、融解したものであっても構わない。
【0053】
本発明で用いられる、臓器および器官を再構成させる支持担体としては、好ましくは、上記培地との混合物である。このような支持担体としては、コラーゲン、アガロースゲル、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、寒天、ハイドロゲル、プロテオグリカン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、多糖類、等を挙げることができる。通常、三次元培養として適用される硬さであることが好ましい。
【0054】
また、組織を再生させるために用いる支持担体は、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ハイドロゲル、プロテオグリカン、エンタクチン、ハイドロキシアパタイト、β-TCP、α-TCP、アルミナセラミックス、乾燥骨、乾燥歯、乾燥歯根及び多糖類からなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。臓器および器官の再構成又は組織再生のための支持担体の市販品としては、セルマトリクス(コラーゲン)、メビオールゲル((ポリマー素材を使用した、温度に応答する熱可逆性ハイドロゲル)、マトリゲル(主成分:ラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン/ニドジェンの混合物)等が挙げられる。
【0055】
培養方法
培養方法としては、器官培養法として自体公知の方法を適宜用いることができる。例えば、細胞培養プレート上で、上記で再構築された再生歯胚を、適切な培地を用いて培養する。
【0056】
培養培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地、αMEM培地、DMEM/F12培地、RPMI培地等が挙げられる。また、ダルベッコ改変イーグル培地と成分系が同等の培地であれば使用可能である。当該培養培地にさらにIGFを添加してもよい。その場合の配合量は、例えば、培地中の最終濃度として、50〜200ng/ml、好ましくは100ng/mlの範囲で適宜設定できる。また、当該培養培地には、前述したIGF以外の成長因子を添加してもよい。その場合、IGF以外の成長因子の配合量は、例えば、培地中の最終濃度として、50〜200ng/ml、好ましくは100ng/mlの範囲で適宜設定できる。培養温度は特に限定されないが、例えば、37℃で適宜設定される。また、培養時間も特に限定されないが、例えば、14日間、より好ましくは10〜14日の範囲で適宜設定できる。動物に移植する場合は、7日間以内の培養期間が好ましい。
【0057】
歯の再生用組成物
本発明は、IGFを含む成長因子を含有する、歯の再生用組成物を提供する。有効成分であるIGF、その他の成長因子等については前述のものを用いることができる。
【0058】
また、本発明の歯の再生用組成物には、担体および添加剤を配合することができる。担体及び添加剤としては、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、着色剤が挙げられる。
【0059】
また、本発明においては、歯又は歯胚の間葉系組織から分離した間葉系細胞の細胞懸濁液と、歯又は歯胚の上皮組織から分離した上皮細胞の細胞懸濁液とを、IGFが0.5〜8μg/ml配合されたコラーゲンゲルに注入することにより得られる、該コラーゲンゲル内に該間葉系細胞が存在する区画と該上皮細胞が存在する区画とを有する、歯組織再生用組成物を提供する。
【0060】
ここで、細胞懸濁液の細胞密度としては、特に限定されないが、例えば、1×10〜1×10cell/mlの範囲で適宜設定できる。
【0061】
本発明の歯の再生用組成物は、前述した再生歯胚及び再生歯の製造方法、形態形成方法に用いることができる。
【0062】
歯の欠損部の修復方法及び治療方法
本発明は、前述の方法により製造された細胞、再生歯胚又は再生歯を歯の欠損部分に移植する工程を含む、歯の欠損部の修復方法、及び前述の方法により製造された細胞、再生歯胚又は再生歯を患者の歯の欠損部分に移植する工程を含む、欠損部を有する歯の治療方法を提供する。
【0063】
細胞、再生歯胚又は再生歯の移植方法は、自体公知の方法を用いるか、これに準じて行うことができる。
【0064】
本発明では、マウスの歯胚の間葉細胞と上皮細胞によって作製した再生歯の歯冠と咬頭の形態制御が実施例によって明らかになっている。マウスはヒトと相同な遺伝子と器官、組織を有している。また、マウスは個体レベルで特定の遺伝子を欠損させることができるため、マウスはヒト遺伝子の組織形成における役割を個体レベルで解明するために最も優れたモデル動物とされている。歯科領域では、ヒトとマウスと両方で歯由来の幹細胞の解析が進んでいる。例えば、文献PLoS ONE. 2006; 1(1): e79.及び 文献Lancet. 2004 Jul 10-16;364(9429):149-55では、歯髄幹細胞がヒトで報告されて, 非特許文献4では、マウスでも報告されている。さらに、歯由来の幹細胞は、文献PLoS ONE. 2006; 1(1): e79.、文献 Lancet. 2004 Jul 10-16;364(9429):149-55、文献Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS) 2003 May 13;100(10):5807-12. Epub 2003 Apr 25、文献J Dent Res. 2003 Dec;82(12):976-81で報告されるとおりに、培養法が確立されているため、本発明技術はヒトへの応用が期待される。
【0065】
本発明では、IGF-1添加によって、咬頭形成が制御できる技術が開示されている。歯は発生過程のなかで、エナメルノットというシグナルセンターが発生し、咬頭形成が調節されている(Mech Dev. 1996 Jan;54(1):39-43.)。また、文献J Cell Physio.2012 April 227(4):1455-1464では、Sonic HedgehogがIGF-1と相互作用して、筋細胞の増殖と分化に影響することが報告されている。同様のメカニズムによってIGF-1がSonic Headgehogと協調し、本発明における歯の咬頭の形態制御に影響していると推察される。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例1
[1−1]歯胚由来上皮系細胞と間葉系細胞の単一化細胞の調整
C57BL/6Jマウスの胎齢14.5日の胎仔下顎臼歯歯胚を50 U/ml Dispase (BD, Franklin Lakes, NJ, USA)及び35U/ml Deoxyribonuclease I (DNase I, Sigma, St. Louis, MO, USA)を含むphosphate buffer saline (PBS)で室温4分間の酵素処理を行った後に、上皮組織及び間葉組織を25G針を用いて分離した。
歯胚上皮組織は、100U/ml Collagenase I (Worthington, Lakewood, NJ, USA) と35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて、37℃ 15分間の酵素処理を2回行い、その後0.25% Trypsin (Sigma)と35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて、37℃で5分間の酵素処理を行い、単一化細胞にした。歯胚間葉細胞は0.25% Trypsin, 50U/ml Collagenase Iと35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて、37℃で15分間の酵素処理を行い、単一化細胞にした。
【0068】
[1−2]再生歯胚作製とIGF-1 添加
歯胚上皮組織ならびに歯胚間葉組織から採取した単一化細胞を、それぞれシリコンコートした1.5 mlマイクロ遠心管 (Watson, Parsippany, NJ, USA)に入れ、2500rpmで3分間遠心し、その上清をGELoader Tip 0.5-20μl (Eppendorf, Hamburg, Germany)で完全に除去し、上皮細胞及び間葉細胞のそれぞれの高密度細胞懸濁液を調製した(上皮細胞懸濁液及び間葉細胞懸濁液の細胞密度は、それぞれ、5×10 cells/ml)。次にシリコンコートした35mmペトリディッシュの上に30μlのタイプIコラーゲンゲルをドロップ状に形成し、ハミルトンシリンジ(Osaka chemical,Osaka,Japan)を用いて0.05μlの間葉細胞の高密度細胞懸濁液をゲル内に注入することにより、間葉細胞の凝集体を作製した。続いて0.05μlの上皮細胞懸濁液を間葉細胞の凝集体に接合させるようにして注入し、上皮細胞と間葉細胞が高密度で区画化された再生歯胚を作製した。IGF-1添加群には4μg/mlとなるようIGF-1が添加されたゲルを用いて再生歯胚を作製した(実施例1−1)。IGF-1を添加していないゲルを用いる以外、上記と同様の操作を行い、再生歯胚を作製した(比較例1−1)。当該再生歯胚の作製方法の概略図を図13に示す。
【0069】
[1−3]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚の調整
上記[1−2]で得られた再生歯胚を24-well cell culture plates (BD)に設置した0.4μm pore diameter cell culture inserts (BD)上で、10% FBS (MP Biomedicals, Solon, OH, USA), 100μg/ml ascorbic acid (Sigma), 2mM L-glutamine (Sigma), Dulbecco’s modified eagle medium (DMEM, Sigma)を用いて器官培養を行った。さらにIGF-1添加群には、100ng/ml となるようIGF-1を添加した上記培地を用いて培養した。
培養1日目で上皮細胞と間葉細胞の境界面に上皮・間葉相互作用の指標であるTranslucent zoneが形成され、培養14日目には鐘状期に相当する再生歯胚へと発生した。また、位相差顕微鏡像で、図1(B)に示すようにIGF-1添加群(実施例1−1)においてサイズの増大が観察された。
【0070】
[1−4]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚との比較
上記[1−3]の器官培養を行い、位相差顕微鏡像で再生歯胚のサービカルループを結んだ線と直交する歯胚の最大径を長径、長径と直交する歯冠部の最大径を幅径とし、14日目の時点の長径と幅径を計測した。図2(A)に示すように長径は培養14日目においてIGF-1添加群で944μm、対照群で857μmであった。また図2(B)に示すように、幅径は培養14日目においてIGF-1添加群で969μm、対照群で814μmであった。これらの結果から、再生歯胚の作製過程でIGF-1を添加することによって再生歯胚の長径および幅径の増大が起こることが示唆された。
【0071】
[1−5]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚の組織学的標本の作製
上記[1−3]の培養14日目に歯胚を4%パラフォルムアルデヒド(PFA)にて固定し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて脱灰し、パラフィン包埋した後に、厚さ8μmの連続切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて組織学的評価を行った。HE染色において対照群、IGF-1添加群共にエナメル質、象牙質の形成がみとめられ、鐘状期後期まで発生していることが観察された。
【0072】
[1−6]IGF添加による形態を増大させた発生歯胚の調整
C57BL/6Jマウスの胎齢14.5日の胎仔下顎臼歯歯胚を外科的に摘出した。シリコンコートした35mmペトリディッシュの上に30μlのタイプIコラーゲンゲルをドロップ状に形成し、その中に歯胚を位置づけた。IGF-1添加群には4μg/ml IGF-1を添加したゲルを用いて再生歯胚を作製した(実施例1−2)。再生歯胚を24-well cell culture plates (BD)に設置した0.4μm pore diameter cell culture inserts (BD)上で、10% FBS (MP Biomedicals, Solon, OH, USA), 100μg/ml ascorbic acid (Sigma), 2mM L-glutamine (Sigma), Dulbecco’s modified eagle medium (DMEM, Sigma)を用いて器官培養を行った。さらにIGF-1添加群には,100ng/ml IGF-1を添加して培養した。位相差顕微鏡像で、図3(B)に示すように14日目にはIGF-1添加群においてサイズの増大が観察された。
【0073】
[1−7]IGF添加による形態を増大させた発生歯胚とIGF非添加の発生歯胚との比較
上記[1−6]の器官培養を行い、位相差顕微鏡像で歯胚のサービカルループを結んだ線と直交する歯胚の最大径を長径、長径と直交する歯冠部の最大径を幅径、幅径と直交する歯冠部の最大径を歯冠長径とし14日目の時点の長径、幅径、および歯冠長径を計測した。図4(A)に示すように、長径は培養14日目においてIGF-1添加群で937μm、対照群で857μmであった。また図4(B)に示すように、幅径は培養14日目においてIGF-1添加群で1084μm、対照群で947μmであった。さらに図4(C)に示すように、歯冠長径は培養14日目においてIGF-1添加群で588μm、対照群で459μmであった。これらの結果から、発生歯胚はIGF-1を添加することで長径、幅径および歯冠長径が増大することが示唆された。
【0074】
[1−8]IGF添加による形態を増大させた発生歯胚とIGF非添加の発生歯胚の組織学的標本の作製
上記[1−6]の培養14日目に歯胚を4%パラフォルムアルデヒド(PFA)にて固定し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて脱灰し、パラフィン包埋した後に、厚さ8μmの連続切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて組織学的評価を行った。図5のようにHE染色において対照群、IGF-1添加群共にエナメル質、象牙質の形成がみとめられ、鐘状期後期まで発生していることが観察された
実施例2
[2−1]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚の腎皮膜下移植
腎皮膜の圧力の影響を回避する目的で、再生歯胚移植のためのスペーサーを用いて移植を行った。OneTouch tips 200 (Sorenson BioScience,Salt Lake City, UT, USA)を内径1.3mm、高さ2.3mmになるようリング状に切断してスペーサーを作製し、内部にコラーゲンゲルを満たして使用した。コラーゲンゲルはIGF-1添加群(実施例2−1)と対照群(比較例2−1)で再生歯胚作製時と同様のものをそれぞれ使用した。上記[1−2]で得られた再生歯胚は、歯根方向への伸長を促すためスペーサーの壁面に歯冠側を近接させるよう配置した。5mg/mlペントバルビタールを腹腔内注射した全身麻酔下で、7週齢C57BL/6マウスの両側腎皮膜下に再生歯胚を含むスペーサーを移植した。
【0075】
[2−2]腎皮膜下移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚とのマイクロCT解析
上記[2−1]で移植した移植サンプルは、移植30日目の時点で摘出し、マイクロCT (In vivo Micro X-ray CT System; R_mCT, Rigaku, Tokyo, Japan)にて撮影を行った。画像データは、統合画像処理ソフト (i-VIEW-3DX, Morita, Osaka,Japan)を用いた。
図6に示すように移植した再生歯胚は石灰化が起こり、歯槽骨が形成され、歯根膜腔も認められた。図7に示すように、IGF-1添加した再生歯胚は、腎皮膜下移植によって、非添加の再生歯胚と比較して、サイズの増大(B)が認められた。
【0076】
[2−3]腎皮膜下移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯とIGF非添加の再生歯とのマイクロCT解析による大きさの比較
移植30日目の再生歯の最大径を長径、長径と直行する歯冠部の最大径を幅径とし、両者を計測した。図7(A)に示すように、長径はIGF-1添加群で1.37mm、対照群で0.95mmであった。図7(B)に示すように、幅径はIGF-1添加群で0.49mm、対照群で0.41mmであった。IGF-1を添加して培養した再生歯胚は腎皮膜下移植後に長径および幅径が増大することが示唆された。
【0077】
[2−4]腎皮膜下移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚と正常歯のヌープ硬度
ダイヤモンド圧子 (19BAA061; Mitutoyo, Tokyo, Japan)と微小硬さ試験機 (HM-102; Mitutoyo, Tokyo, Japan)にて上記[2−2]の移植後30日目の再生歯のエナメル質および象牙質のヌープ硬度を測定した。測定は3週齢マウスの上顎第一臼歯(天然歯)、腎皮膜下移植30日の再生歯の対照群、IGF-1添加群それぞれの歯に対し5点行った。測定条件は、エナメル質に対して25gの圧力10秒間、象牙質に対して10gの圧力10秒間で行った。図8に示すようにエナメル質(A)、象牙質(B)のヌープ硬度はともにIGF-1添加群と対照群では、同等の硬度が認められた。
【0078】
実施例3
[3−1]口腔内移植における動物モデルの作製
3週齢C57BL/6マウスの上顎第一臼歯を抜歯し、3週間の治癒期間を設けた。その後、同部の歯肉切開・剥離を行い、歯科用マイクロモーター(PAL; Morita)を用いて歯槽骨を切削し、近遠心径0.8mm、頬舌径0.8mmの移植窩を形成した。上記[1−2]で得られた再生歯胚を7日間器官培養したものを顎骨移植窩に埋入し、8-0ナイロン縫合糸 (BEAR Medic, Chiba, Japan)で歯肉縫合した。
【0079】
[3−2]口腔内移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚とのマイクロCT解析。
【0080】
上記[3−1]で移植した再生歯の移植サンプルは、移植90日目の時点でマイクロCT (In vivo Micro X-ray CT System; R_mCT, Rigaku, Tokyo, Japan)にて撮影を行った。画像データは、統合画像処理ソフト (i-VIEW-3DX, Morita, Osaka,Japan)を用いた。
図9(A)に示すように、IGF-1を添加して培養した再生歯胚は顎骨内移植後に萌出し咬合平面まで到達することが示唆された。
【0081】
さらに再生歯の最大径を長径、長径と直行する歯冠部の最大径を幅径とし、両者を計測した。図10(A)に示すように、長径はIGF-1添加群で1.49mm、対照群で1.21mmであった。図10(B)に示すように、幅径はIGF-1添加群で0.64mm、対照群で0.48mmであった。IGF-1を添加して培養した再生歯胚は幅径が増大することが示唆された。IGF-Iを添加した再生歯は咬頭形態が明瞭で、大きさも増加していた。
【0082】
[3−3]口腔内移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚と正常歯のヌープ硬度
ダイヤモンド圧子 (19BAA061; Mitutoyo, Tokyo, Japan)と微小硬さ試験機 (HM-102; Mitutoyo, Tokyo, Japan)にてエナメル質および象牙質のヌープ硬度を測定した。測定は3週齢マウスの上顎第一臼歯(天然歯)、顎骨内移植後90日の再生歯の対照群、IGF-1添加群それぞれの歯に対し5点行った。測定条件は、エナメル質に対して25gの圧力10秒間、象牙質に対して10gの圧力10秒間で行った。図11に示すようにエナメル質、象牙質のヌープ硬度はともに天然歯と比較してIGF-1添加群および対照群ともに有意差は認められなかったものの、やや高値である傾向が示された。
【0083】
実施例4
[4−1]IGF添加による増殖能を上昇させた歯胚由来の間葉系細胞
胎齢14.5日のマウス胎仔の下顎臼歯歯胚の間葉組織から、0.25% Trypsin, 50U/ml Collagenase Iと35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて15分間の酵素処理し、歯胚間葉細胞を単離し10% FBSを添加した DMEM培地にて培養し、第一継代目の細胞について増殖能を測定した。測定はIGF-1添加群、対照群、LY294002 (Promega, Madison, WI, USA)処理してIGF-1添加を行った群(阻害剤処理・IGF添加群)について行った。阻害剤処理は細胞懸濁液に10μM LY294002を添加し、37℃で30分放置する方法を用いた。96 well plate (BD)に臼歯歯胚間葉細胞を1000cells/wellで播種し、10% FBSを添加した DMEMを用いて培養を行った。さらにIGF-1添加群には,100ng/ml IGF-1を添加して培養した(実施例4−1)。IFG-1を添加しないこと以外、上記と同様にして対象群の培養を行った(比較例4−1)培養10日目に増殖能を測定した。増殖能の測定はCell counting kit-8 (WST8; DOJINDO, Kumamoto, Japan)を用いた。WST8 10μl/well添加後、37℃で3時間放置し、LS-PLATE manager (Wako, Osaka, Japan)を用いて測定波長450nm、参照波長620nmで吸光度測定した。
【0084】
[4−2]IGF添加による増殖能を上昇させた歯胚由来の間葉系細胞のWST8による増殖能の解析
図12に示すように、IGF-1添加群が対照群と比較して増殖能が上昇していることが認められた 。このことからIGF-1添加により歯胚間葉細胞の増殖が促進することが示唆された。さらにLY294002処理・IGF-1添加群でIGF-1添加群にみられた歯胚間葉細胞の増殖の促進は認められず、対照群との間に有意差が認められなかった。このことから、PI3キナーゼ経路を阻害することで歯胚間葉細胞におけるIGF-1の増殖促進効果が阻害されていることが示唆された。
【0085】
実施例5
ゲル中のIGFの濃度を、それぞれ、0.5μg/ml, 1μg/ml, 2μg/ml, 4μg/ml及び8μg/mlとする以外、上記[1−1]〜[1〜3]に記載の方法に従い、歯胚由来上皮系細胞と間葉系細胞の単一化細胞の調整、再生歯胚作製及び器官培養を行った。0.5μg/ml, 1μg/ml, 2μg/ml, 4μg/ml, 8μg/mlで大きさの増大が認められ、歯冠と咬頭の形態を制御することができた。また、これらの濃度のなかでも、0.5〜4μg/mlの濃度のゲルを用いて作製した再生歯胚で、特に大幅な大きさの増大が認められた。
図1
図2
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図5
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図8
図9
図10
図11
図12
図13