【実施例】
【0066】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例1
[1−1]歯胚由来上皮系細胞と間葉系細胞の単一化細胞の調整
C57BL/6Jマウスの胎齢14.5日の胎仔下顎臼歯歯胚を50 U/ml Dispase (BD, Franklin Lakes, NJ, USA)及び35U/ml Deoxyribonuclease I (DNase I, Sigma, St. Louis, MO, USA)を含むphosphate buffer saline (PBS)で室温4分間の酵素処理を行った後に、上皮組織及び間葉組織を25G針を用いて分離した。
歯胚上皮組織は、100U/ml Collagenase I (Worthington, Lakewood, NJ, USA) と35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて、37℃ 15分間の酵素処理を2回行い、その後0.25% Trypsin (Sigma)と35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて、37℃で5分間の酵素処理を行い、単一化細胞にした。歯胚間葉細胞は0.25% Trypsin, 50U/ml Collagenase Iと35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて、37℃で15分間の酵素処理を行い、単一化細胞にした。
【0068】
[1−2]再生歯胚作製とIGF-1 添加
歯胚上皮組織ならびに歯胚間葉組織から採取した単一化細胞を、それぞれシリコンコートした1.5 mlマイクロ遠心管 (Watson, Parsippany, NJ, USA)に入れ、2500rpmで3分間遠心し、その上清をGELoader Tip 0.5-20μl (Eppendorf, Hamburg, Germany)で完全に除去し、上皮細胞及び間葉細胞のそれぞれの高密度細胞懸濁液を調製した(上皮細胞懸濁液及び間葉細胞懸濁液の細胞密度は、それぞれ、5×10
8 cells/ml)。次にシリコンコートした35mmペトリディッシュの上に30μlのタイプIコラーゲンゲルをドロップ状に形成し、ハミルトンシリンジ(Osaka chemical,Osaka,Japan)を用いて0.05μlの間葉細胞の高密度細胞懸濁液をゲル内に注入することにより、間葉細胞の凝集体を作製した。続いて0.05μlの上皮細胞懸濁液を間葉細胞の凝集体に接合させるようにして注入し、上皮細胞と間葉細胞が高密度で区画化された再生歯胚を作製した。IGF-1添加群には4μg/mlとなるようIGF-1が添加されたゲルを用いて再生歯胚を作製した(実施例1−1)。IGF-1を添加していないゲルを用いる以外、上記と同様の操作を行い、再生歯胚を作製した(比較例1−1)。当該再生歯胚の作製方法の概略図を
図13に示す。
【0069】
[1−3]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚の調整
上記[1−2]で得られた再生歯胚を24-well cell culture plates (BD)に設置した0.4μm pore diameter cell culture inserts (BD)上で、10% FBS (MP Biomedicals, Solon, OH, USA), 100μg/ml ascorbic acid (Sigma), 2mM L-glutamine (Sigma), Dulbecco’s modified eagle medium (DMEM, Sigma)を用いて器官培養を行った。さらにIGF-1添加群には、100ng/ml となるようIGF-1を添加した上記培地を用いて培養した。
培養1日目で上皮細胞と間葉細胞の境界面に上皮・間葉相互作用の指標であるTranslucent zoneが形成され、培養14日目には鐘状期に相当する再生歯胚へと発生した。また、位相差顕微鏡像で、
図1(B)に示すようにIGF-1添加群(実施例1−1)においてサイズの増大が観察された。
【0070】
[1−4]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚との比較
上記[1−3]の器官培養を行い、位相差顕微鏡像で再生歯胚のサービカルループを結んだ線と直交する歯胚の最大径を長径、長径と直交する歯冠部の最大径を幅径とし、14日目の時点の長径と幅径を計測した。
図2(A)に示すように長径は培養14日目においてIGF-1添加群で944μm、対照群で857μmであった。また
図2(B)に示すように、幅径は培養14日目においてIGF-1添加群で969μm、対照群で814μmであった。これらの結果から、再生歯胚の作製過程でIGF-1を添加することによって再生歯胚の長径および幅径の増大が起こることが示唆された。
【0071】
[1−5]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚の組織学的標本の作製
上記[1−3]の培養14日目に歯胚を4%パラフォルムアルデヒド(PFA)にて固定し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて脱灰し、パラフィン包埋した後に、厚さ8μmの連続切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて組織学的評価を行った。HE染色において対照群、IGF-1添加群共にエナメル質、象牙質の形成がみとめられ、鐘状期後期まで発生していることが観察された。
【0072】
[1−6]IGF添加による形態を増大させた発生歯胚の調整
C57BL/6Jマウスの胎齢14.5日の胎仔下顎臼歯歯胚を外科的に摘出した。シリコンコートした35mmペトリディッシュの上に30μlのタイプIコラーゲンゲルをドロップ状に形成し、その中に歯胚を位置づけた。IGF-1添加群には4μg/ml IGF-1を添加したゲルを用いて再生歯胚を作製した(実施例1−2)。再生歯胚を24-well cell culture plates (BD)に設置した0.4μm pore diameter cell culture inserts (BD)上で、10% FBS (MP Biomedicals, Solon, OH, USA), 100μg/ml ascorbic acid (Sigma), 2mM L-glutamine (Sigma), Dulbecco’s modified eagle medium (DMEM, Sigma)を用いて器官培養を行った。さらにIGF-1添加群には,100ng/ml IGF-1を添加して培養した。位相差顕微鏡像で、
図3(B)に示すように14日目にはIGF-1添加群においてサイズの増大が観察された。
【0073】
[1−7]IGF添加による形態を増大させた発生歯胚とIGF非添加の発生歯胚との比較
上記[1−6]の器官培養を行い、位相差顕微鏡像で歯胚のサービカルループを結んだ線と直交する歯胚の最大径を長径、長径と直交する歯冠部の最大径を幅径、幅径と直交する歯冠部の最大径を歯冠長径とし14日目の時点の長径、幅径、および歯冠長径を計測した。
図4(A)に示すように、長径は培養14日目においてIGF-1添加群で937μm、対照群で857μmであった。また
図4(B)に示すように、幅径は培養14日目においてIGF-1添加群で1084μm、対照群で947μmであった。さらに
図4(C)に示すように、歯冠長径は培養14日目においてIGF-1添加群で588μm、対照群で459μmであった。これらの結果から、発生歯胚はIGF-1を添加することで長径、幅径および歯冠長径が増大することが示唆された。
【0074】
[1−8]IGF添加による形態を増大させた発生歯胚とIGF非添加の発生歯胚の組織学的標本の作製
上記[1−6]の培養14日目に歯胚を4%パラフォルムアルデヒド(PFA)にて固定し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて脱灰し、パラフィン包埋した後に、厚さ8μmの連続切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて組織学的評価を行った。
図5のようにHE染色において対照群、IGF-1添加群共にエナメル質、象牙質の形成がみとめられ、鐘状期後期まで発生していることが観察された
実施例2
[2−1]IGF添加による形態を増大させた再生歯胚の腎皮膜下移植
腎皮膜の圧力の影響を回避する目的で、再生歯胚移植のためのスペーサーを用いて移植を行った。OneTouch tips 200 (Sorenson BioScience,Salt Lake City, UT, USA)を内径1.3mm、高さ2.3mmになるようリング状に切断してスペーサーを作製し、内部にコラーゲンゲルを満たして使用した。コラーゲンゲルはIGF-1添加群(実施例2−1)と対照群(比較例2−1)で再生歯胚作製時と同様のものをそれぞれ使用した。上記[1−2]で得られた再生歯胚は、歯根方向への伸長を促すためスペーサーの壁面に歯冠側を近接させるよう配置した。5mg/mlペントバルビタールを腹腔内注射した全身麻酔下で、7週齢C57BL/6マウスの両側腎皮膜下に再生歯胚を含むスペーサーを移植した。
【0075】
[2−2]腎皮膜下移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚とのマイクロCT解析
上記[2−1]で移植した移植サンプルは、移植30日目の時点で摘出し、マイクロCT (In vivo Micro X-ray CT System; R_mCT, Rigaku, Tokyo, Japan)にて撮影を行った。画像データは、統合画像処理ソフト (i-VIEW-3DX, Morita, Osaka,Japan)を用いた。
図6に示すように移植した再生歯胚は石灰化が起こり、歯槽骨が形成され、歯根膜腔も認められた。
図7に示すように、IGF-1添加した再生歯胚は、腎皮膜下移植によって、非添加の再生歯胚と比較して、サイズの増大(B)が認められた。
【0076】
[2−3]腎皮膜下移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯とIGF非添加の再生歯とのマイクロCT解析による大きさの比較
移植30日目の再生歯の最大径を長径、長径と直行する歯冠部の最大径を幅径とし、両者を計測した。
図7(A)に示すように、長径はIGF-1添加群で1.37mm、対照群で0.95mmであった。
図7(B)に示すように、幅径はIGF-1添加群で0.49mm、対照群で0.41mmであった。IGF-1を添加して培養した再生歯胚は腎皮膜下移植後に長径および幅径が増大することが示唆された。
【0077】
[2−4]腎皮膜下移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚と正常歯のヌープ硬度
ダイヤモンド圧子 (19BAA061; Mitutoyo, Tokyo, Japan)と微小硬さ試験機 (HM-102; Mitutoyo, Tokyo, Japan)にて上記[2−2]の移植後30日目の再生歯のエナメル質および象牙質のヌープ硬度を測定した。測定は3週齢マウスの上顎第一臼歯(天然歯)、腎皮膜下移植30日の再生歯の対照群、IGF-1添加群それぞれの歯に対し5点行った。測定条件は、エナメル質に対して25gの圧力10秒間、象牙質に対して10gの圧力10秒間で行った。
図8に示すようにエナメル質(A)、象牙質(B)のヌープ硬度はともにIGF-1添加群と対照群では、同等の硬度が認められた。
【0078】
実施例3
[3−1]口腔内移植における動物モデルの作製
3週齢C57BL/6マウスの上顎第一臼歯を抜歯し、3週間の治癒期間を設けた。その後、同部の歯肉切開・剥離を行い、歯科用マイクロモーター(PAL; Morita)を用いて歯槽骨を切削し、近遠心径0.8mm、頬舌径0.8mmの移植窩を形成した。上記[1−2]で得られた再生歯胚を7日間器官培養したものを顎骨移植窩に埋入し、8-0ナイロン縫合糸 (BEAR Medic, Chiba, Japan)で歯肉縫合した。
【0079】
[3−2]口腔内移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚とのマイクロCT解析。
【0080】
上記[3−1]で移植した再生歯の移植サンプルは、移植90日目の時点でマイクロCT (In vivo Micro X-ray CT System; R_mCT, Rigaku, Tokyo, Japan)にて撮影を行った。画像データは、統合画像処理ソフト (i-VIEW-3DX, Morita, Osaka,Japan)を用いた。
図9(A)に示すように、IGF-1を添加して培養した再生歯胚は顎骨内移植後に萌出し咬合平面まで到達することが示唆された。
【0081】
さらに再生歯の最大径を長径、長径と直行する歯冠部の最大径を幅径とし、両者を計測した。
図10(A)に示すように、長径はIGF-1添加群で1.49mm、対照群で1.21mmであった。
図10(B)に示すように、幅径はIGF-1添加群で0.64mm、対照群で0.48mmであった。IGF-1を添加して培養した再生歯胚は幅径が増大することが示唆された。IGF-Iを添加した再生歯は咬頭形態が明瞭で、大きさも増加していた。
【0082】
[3−3]口腔内移植における、IGF添加による形態を増大させた再生歯胚とIGF非添加の再生歯胚と正常歯のヌープ硬度
ダイヤモンド圧子 (19BAA061; Mitutoyo, Tokyo, Japan)と微小硬さ試験機 (HM-102; Mitutoyo, Tokyo, Japan)にてエナメル質および象牙質のヌープ硬度を測定した。測定は3週齢マウスの上顎第一臼歯(天然歯)、顎骨内移植後90日の再生歯の対照群、IGF-1添加群それぞれの歯に対し5点行った。測定条件は、エナメル質に対して25gの圧力10秒間、象牙質に対して10gの圧力10秒間で行った。
図11に示すようにエナメル質、象牙質のヌープ硬度はともに天然歯と比較してIGF-1添加群および対照群ともに有意差は認められなかったものの、やや高値である傾向が示された。
【0083】
実施例4
[4−1]IGF添加による増殖能を上昇させた歯胚由来の間葉系細胞
胎齢14.5日のマウス胎仔の下顎臼歯歯胚の間葉組織から、0.25% Trypsin, 50U/ml Collagenase Iと35U/ml DNase Iを含むPBSを用いて15分間の酵素処理し、歯胚間葉細胞を単離し10% FBSを添加した DMEM培地にて培養し、第一継代目の細胞について増殖能を測定した。測定はIGF-1添加群、対照群、LY294002 (Promega, Madison, WI, USA)処理してIGF-1添加を行った群(阻害剤処理・IGF添加群)について行った。阻害剤処理は細胞懸濁液に10μM LY294002を添加し、37℃で30分放置する方法を用いた。96 well plate (BD)に臼歯歯胚間葉細胞を1000cells/wellで播種し、10% FBSを添加した DMEMを用いて培養を行った。さらにIGF-1添加群には,100ng/ml IGF-1を添加して培養した(実施例4−1)。IFG-1を添加しないこと以外、上記と同様にして対象群の培養を行った(比較例4−1)培養10日目に増殖能を測定した。増殖能の測定はCell counting kit-8 (WST8; DOJINDO, Kumamoto, Japan)を用いた。WST8 10μl/well添加後、37℃で3時間放置し、LS-PLATE manager (Wako, Osaka, Japan)を用いて測定波長450nm、参照波長620nmで吸光度測定した。
【0084】
[4−2]IGF添加による増殖能を上昇させた歯胚由来の間葉系細胞のWST8による増殖能の解析
図12に示すように、IGF-1添加群が対照群と比較して増殖能が上昇していることが認められた 。このことからIGF-1添加により歯胚間葉細胞の増殖が促進することが示唆された。さらにLY294002処理・IGF-1添加群でIGF-1添加群にみられた歯胚間葉細胞の増殖の促進は認められず、対照群との間に有意差が認められなかった。このことから、PI3キナーゼ経路を阻害することで歯胚間葉細胞におけるIGF-1の増殖促進効果が阻害されていることが示唆された。
【0085】
実施例5
ゲル中のIGFの濃度を、それぞれ、0.5μg/ml, 1μg/ml, 2μg/ml, 4μg/ml及び8μg/mlとする以外、上記[1−1]〜[1〜3]に記載の方法に従い、歯胚由来上皮系細胞と間葉系細胞の単一化細胞の調整、再生歯胚作製及び器官培養を行った。0.5μg/ml, 1μg/ml, 2μg/ml, 4μg/ml, 8μg/mlで大きさの増大が認められ、歯冠と咬頭の形態を制御することができた。また、これらの濃度のなかでも、0.5〜4μg/mlの濃度のゲルを用いて作製した再生歯胚で、特に大幅な大きさの増大が認められた。