特許第6000033号(P6000033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000033内包物質に耐熱性を与えたリポソーム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000033
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】内包物質に耐熱性を与えたリポソーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/14 20060101AFI20160915BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20160915BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20160915BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20160915BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   A61K8/14
   A61K8/65
   A61K9/127
   A61K37/12
   A61Q19/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-204133(P2012-204133)
(22)【出願日】2012年9月18日
(65)【公開番号】特開2014-58468(P2014-58468A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月4日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399091120
【氏名又は名称】株式会社ピカソ美化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】市川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉川 研一
(72)【発明者】
【氏名】石崎 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】中部屋 恵造
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−119120(JP,A)
【文献】 特開平03−181415(JP,A)
【文献】 特表2002−508765(JP,A)
【文献】 特開2005−179313(JP,A)
【文献】 特表2009−545587(JP,A)
【文献】 特開2009−255019(JP,A)
【文献】 特開2013−209320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/14
A61K 8/65
A61K 9/127
A61K 38/17
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未変性の易熱変性物質を内包するリポソームの製造方法であって、
水相に接するかたちで油相を配置した水/油界面に、第1脂質膜を形成する第1工程、
易熱変性物質を含有する水溶液が第2脂質膜に内包された液滴を形成する第2工程、
前記液滴を前記油相に導入し、これを、前記易熱変性物質を含有する水溶液と前記水相との比重差により水相に移行させるとともに、内層脂質膜となる前記第2脂質膜の外側を前記第1脂質膜で覆い外層脂質膜を形成する第3工程であって、前記比重差が前記易熱変性物質により付与される工程、
を備えることを特徴とするリポソームの製造方法。
【請求項2】
前記液滴を、前記易熱変性物質の変性温度未満で作成する工程を含むことを特徴とする請求項に記載のリポソームの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程及び第2工程を前記易熱変性物質の変性温度未満で行うことを特徴とする請求項又はに記載のリポソームの製造方法。
【請求項4】
前記未変性の易熱変性物質が、3重らせん構造を有するコラーゲンであることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のリポソームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易熱変性物質が内包され耐熱性を与えたリポソーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧品分野では、美白、保湿、抗酸化効果を有する有効成分を肌へ届ける手段として有効成分をリポソームに内包させることがよく行われている。リポソームとは、主にリン脂質から成る脂質二重層あるいは多重層であり、細胞膜に類似した構造を有している。有効成分のカプセル化は、水溶性薬物の場合はリポソームの内水相に取り込まれるか、脂溶性薬物の場合は脂質層に組み込まれることが多い。
【0003】
このリポソームの製法としては、種々の方法が知られている。例えば、(1)脂質を有機溶媒に溶解し、溶媒を減圧除去して薄膜を形成した後、緩衝液等の水溶液を加えて振とう膨潤させ、さらに機械的撹拌手段により薄膜をはがすことで調製する方法、(2)脂質をエーテル又はエタノール等の有機溶媒に溶解し、緩衝液等の水溶液中に注入した後、溶媒を除去することにより調製する方法、さらに、機械的な方法として、(3)超音波処理による方法(特許文献1)、(4)高圧ホモジナイザーや高速回転分散機による方法(特許文献2)、(5)ポリカーボネイト製メンブランフィルターを用いた高圧ろ過による方法、(6)水相の上部に脂質を溶解させた油相を用意し、油相に液滴を導入し、遠心分離による力で液滴を水相に引きずり込む方法等が知られている。そのほかに、(7)脂質をエタノール等の水と相溶する有機溶媒に溶解した後、透析膜を介して水と置換する方法(特許文献3)等が挙げられる。
【0004】
しかし、上記の(1)(2)の方法は有機溶媒の残留、(3)の方法は超音波照射により溶液温度が上昇し、薬物、脂質の分解や変性が見られること、超音波照射にムラが見られること等の欠点を有していた。(4)(5)の方法も、脂質の相転移温度以上の温度で処理するため薬物、脂質の分解や酸化等の恐れがある等の欠点がある。(6)については、遠心機による力学的ストレスにより、リポソームが破壊されてしまうことがある。さらに、これらの方法は、操作が煩雑で工業的でなかったり、特別な装置を必用とする等の問題がある。(7)は簡便な方法であるが、やはり、有機溶媒が残留したり、有機溶媒を除去するために、高温を必要とする等の欠点があった。
【0005】
一方、自然界にある元の構造を保持した成分は熱に弱いものが多く、保管の際は冷蔵・冷凍保管を要したり、あるいは耐熱性や安定性を向上させるために誘導体化が必要であった。例えば、化粧品原料として最も配合されている保湿成分であるコラーゲンは、生物由来の原料であり元々生物に存在しているときは3重らせん構造をとっているが、3重らせん構造を保持した状態のまま原料化することは技術的に難しく、酸処理や熱処理等することによって化粧品原料化されていた。
【0006】
また、ビタミンCは、美白作用、コラーゲン合成促進作用、過酸化脂質抑制作用等の化粧品原料としての多くの機能をもっているが、酸化安定性が悪く着色しやすいためにそのまま皮膚外用剤に配合することは難しく、過去さまざまな誘導体が開発されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−41869号公報
【特許文献2】特開平11−139961号公報
【特許文献3】特開平01−224042号公報
【特許文献4】特開2012−097030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、例えば、コラーゲンにおいては3重らせん構造を保持した状態のまま原料化する技術が開発され、3重らせん構造を保持している成分の方が3重らせん構造を保持していない成分より効果が優れていることが発見されており、化粧品市場ではそのような有効成分の元の構造を保持した成分をそのまま適用することの要求が強まってきている。
【0009】
本発明は、有機溶剤等の有害成分の混入を抑えて、特に低温で変性しやすい易熱変性物質からなる有効成分を、元の構造を保持したまま含有したリポソーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、水相上に油相を配置した水/油界面に、第1脂質膜を形成し、続いて、易熱変性物質を含有する水溶液が第2脂質膜に内包された液滴を形成した後、これを油相に導入して液滴を水相に移行し、内層脂質膜となる第2脂質膜の外側を第1脂質膜で覆い外層脂質膜を形成することにより、熱に弱い有効成分を元の構造を保持したままリポソーム化することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)未変性の易熱変性物質が内包されているリポソーム。
(2)易熱変性物質の変性温度が、10〜50℃であることを特徴とする(1)に記載のリポソーム。
(3)(1)又は(2)のリポソームを含有する化粧料、医薬品又は食品。
(4)未変性の易熱変性物質を内包するリポソームの製造方法であって、水相に接するかたちで油相を配置した水/油界面に、第1脂質膜を形成する第1工程、易熱変性物質を含有する水溶液が第2脂質膜に内包された液滴を形成する第2工程、液滴を油相に導入し、これを水相に移行させるとともに、内層脂質膜となる第2脂質膜の外側を第1脂質膜で覆い外層脂質膜を形成する第3工程、を備えることを特徴とするリポソームの製造方法。
(5)液滴を、易熱変性物質の変性温度未満で作成する工程を含むことを特徴とする(4)に記載のリポソームの製造方法。
(6)第1工程及び第2工程を易熱変性物質の変性温度未満で行うことを特徴とする(4)又は(5)に記載のリポソームの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特に低温で変性しやすい易熱変性物質の有効成分を、有機溶剤等の有害成分の混入を抑えて、元の構造を保持したまま含有したリポソームを製造することができる。しかも、熱に弱い有効成分をリポソームに内包することで耐熱性を向上することができるため、有効成分を含む化粧料、医薬品、食品等の常温保管が可能になり、保管管理の手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】蛍光顕微鏡により観察したコラーゲンを含有する本発明のリポソームを示す図である。
図2】蛍光顕微鏡により観察したコラーゲンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本発明のリポソームは、易熱変性物質を含有することを要する。易熱変性物質とは、例えば、比較的低温で、熱により構造の一部又は全体が変化してしまうものである。なお、この構造変化とは、易熱変性物質の適用により得られる効果が失われる変化であれば、一次構造のみならず、二次構造、三次構造、四次構造の変化をも包含する。
【0016】
これら易熱変性物質の変性温度としては、広い温度範囲のものが利用でき、80℃以下のものであれば問題なく利用できる。変性温度は高ければ高いものを使用するほど安定性という面では好ましい。しかしながら、本発明によれば、比較的変性温度の低い有効成分まで、リポソーム化することが可能であり、室温付近のもの、例えば、10〜50℃、あるいは、30〜40℃のものまでも使用することができる。
【0017】
本発明の易熱変性物質として望ましいのは、美白、保湿、抗酸化効果や医療効果を有する有効成分であって、具体的には、例えば、水溶性のコラーゲン、プラセンタエキス、エラスチン、絹タンパク質等のタンパク質、ビタミン類、DNAあるいはRNA等の核酸類、酵素等が使用できる。
【0018】
コラーゲンは、真皮、靱帯、腱、骨、軟骨等を構成するタンパク質のひとつで、多細胞動物の細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分である。従来、牛、豚等由来のものが主であったが、魚由来、くらげ由来等のコラーゲンも最近増えてきた。どの動物から採ったかで、その変性温度が変わり、例えば、牛では40℃、豚では40℃、ヨシキリザメでは29℃、ピンクサーモンでは19℃である。
【0019】
プラセンタエキスは、哺乳動物の胎盤抽出物で上皮成長因子(EGF)等の成長因子を含んでおり、従来より、美白効果を期待して、化粧料用として広く使われてきた。使用される哺乳動物の正常分娩胎盤は、ブタ、ウシ、ウマ、ヒト又はヒツジ等の哺乳動物から取得するが、好ましくはヒト又はブタの正常分娩胎盤がよい。ブタのプラセンタは、その分子構造が、ヒトの分子構造に最も近いから有効である。
【0020】
エラスチンは、靭帯や動脈等の伸縮性や弾力性を有する組織に存在するタンパク質である。また、皮膚の弾性に関与する成分としてコラーゲンとともに真皮結合組織に僅かではあるが存在しており、加齢や紫外線による皮膚中のエラスチンの減少や変性は、皮膚のシワやタルミの一因である。そのため、エラスチンは化粧品や健康食品分野を中心に、現在多くの製品に適用されている。一方、エラスチンは、通常、生体内においては、3次元の網目構造の不溶性のタンパク質として存在しているため、酸又はアルカリで加水分解したり、酵素で処理することによって、水溶性エラスチンが得られることは広く知られている。
【0021】
絹糸昆虫が産生する家蚕繭や野蚕繭等から、抽出手段により得られる絹タンパク質を健康増進のための飲食品に利用するほかに、化粧料成分として利用することが試みられてきている。絹タンパク質は細胞生育性、抗酸化性、抗菌性、アルコール消化性、抗血液凝固性等、多様な機能を有することが明らかにされた。絹タンパク質は、成分の分子形状により、球状タンパク質(アルブミン、カゼイン、グロブリン、ゼラチン、核・糖・色素・リンタンパク質)と硬タンパク質(フィブロイン、セリシン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン)に分類される。しかし、それらの機能が絹タンパクのどのような部位又は構造に起因するかについてはまだすべて明らかになってはいないが、例えば、絹フィブロインの特定の部位のペプチド鎖に細胞生育促進機能があることが知られており、また、セリシンは、しっとり感(保湿性)があり、抗酸化作用(美白効果)も有する化粧料として用いられる。
【0022】
ビタミン類としては、水溶性ビタミンの、ナイアシン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC及びビオチン等が使用できる。ビタミンCは代表的な化粧品成分の一つで皮膚表面の色素細胞のメラミン合成を阻害する作用や、しわと関係の深いコラーゲンの合成を助ける役割を持っている。
【0023】
酵素としては、化粧料に使用されるさまざまな酵素が、特に限定されることなく使用できる。例えば、活性酸素除去酵素(スーパーオキシドディスムターゼ:SOD)、ペルオキシターゼ、チオレドキシンリダクターゼ等が使用できる。
【0024】
本発明のリポソームの製造方法は、水相上に油相を配するとともに、油水界面にリポソームの外層脂質膜となる脂質単分子膜(第1脂質膜)を形成しておき、続いて、油相中にリポソームの内層脂質膜(第2脂質膜)で覆われた、易熱変性物質を含有する水性溶液液滴を導入し、該液滴を水相中に移行させ、内層脂質膜の外側に外層脂質膜を形成することを特徴とする。
【0025】
ここで、内層脂質膜に覆われた液滴を外層脂質膜となる脂質単分子膜が形成された油水界面を通過させ、水相中へ移行させるために、液滴及び水相を形成する水性溶液各々の比重差、すなわち重力を利用することが好ましい。重力による液滴の水相中への移行は、非常に穏やかな条件下で行われるため、リポソームの形成時に発熱を伴わず、易熱変性物質が変性することがなく、また、力学的ストレス等も加わることがないので、形成されたリポソームが破壊されることがない。また、重力による液滴の移行では、例えば透明容器内で操作を行うことで、リポソームの形成過程を視認することもできる。
【0026】
以下に、本発明のリポソームの製造方法を詳述する。
【0027】
水相と油相の間の油水界面に形成した脂質単分子膜(第1脂質膜)は、油相中に各種リン脂質等の脂質成分を添加することにより容易に形成することが可能である。油相中に添加された脂質成分は、各脂質分子の疎水基部分が油相側になり、親水基部分が水相側になるように油水界面において整列し、全ての脂質分子が一定方向を向いた脂質単分子膜が油水界面に形成される。
【0028】
続いて、上記油相中に内層脂質膜で覆われたW/O液滴を導入する。このW/O液滴は、易熱変性物質が含有された水性溶液の液滴の周囲に内層脂質膜(第2脂質膜)を形成したものであり、内層脂質膜は、親水基部分が内側を向き、疎水基部分が外側に向くように各脂質分子が整列した単分子膜として形成される。W/O液滴は、別途作製したものを油相中に導入してもよいし、油相中で形成するようにしてもよい。
【0029】
油相中にW/O液滴を導入すると、重力によってW/O液滴は沈んでいき、油水界面に到達する。油相を構成する油に比べて液滴を構成する水性溶液の方が重いからである。ただし、W/O液滴と水相はいずれも水性溶液により構成されているので、例えばW/O液滴の液滴を構成する水性溶液と水相を構成する水性溶液が同じである場合、W/O液滴はそれ以上降下することができず、水相中に移行させることができない。
【0030】
そこで、本発明においては、W/O液滴の液滴を構成する水性溶液と水相を構成する水性溶液に比重差を付与し、重力によってW/O液滴が水相中に移行するにようになすのがよい。W/O液滴が油水界面を通過する際には、周囲に脂質単分子膜(第1脂質膜)を巻き込む形になり、当該脂質単分子膜が外層脂質膜となって脂質2分子膜を備えたリポソームが形成される。比重差は、W/O液滴の液滴を構成する水性溶液に易熱変性物質を溶解させることで付与できるが、その他水溶性の物質をさらに加えても構わない。
【0031】
リポソームの脂質膜を構成する脂質膜成分には、少なくともリン脂質、糖脂質、ステロール類、グリコール類、カチオン性脂質、ポリエチレングリコール(PEG)基を有する脂質(例えばPEG−リン脂質)等が含まれる。なかでも、リン脂質及び/又は糖脂質が好ましく使用される。
【0032】
使用できるリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホシファチジン酸、ホスファチジルグリセリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジセチルホスフェート、リゾホスファチジルコリン(リゾレシチン)、卵黄レシチン、大豆レシチン又はこれらの水素添加リン脂質等が特に限定されることなく使用できる。
【0033】
上記リン脂質は、1種又は2種以上を併用することも可能である。また、内層脂質膜と外層脂質膜の組成が異なる非対称性脂質2分子膜を備えるようにしてもよい。
【0034】
糖脂質としては、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質等を挙げることができる。
【0035】
リポソーム膜の構成成分として、上記脂質の他に必要に応じて他の物質を加えることもできる。例えば、脂質膜安定化剤として作用するステロール類、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、又はラノステロール等が挙げられる。また1−O−ステロールグルコシド,1−O−ステロールマルトシド又は1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体もリポソームの安定化に効果があることが知られている。これらの中で、特にコレステロールが好ましい。
【0036】
ステロール類の使用量として、リン脂質(PEG―リン脂質を含まず)/ステロール類のモル比が100/60〜100/90、好ましくは100/70〜100/85である。このモル比は、PEG−リン脂質を除くリン脂質量を基準としている。モル比が100/60未満であると混合脂質の分散性を向上させるステロール類による安定化が充分に発揮されない。
【0037】
上記ステロール類の他にリポソーム膜の構成成分として、グリコール類を加えてもよい。リポソームを作製する際に、リン脂質等ともにグリコール類を添加すると、リポソーム内での水溶性化合物の保持効率が上昇する。グリコール類として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。グリコール類の使用量として、脂質全質量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の割合が望ましい。
【0038】
本発明のリポソームは、目的とする対象器官に、目的とする薬効を有す有効成分を到達させるドラッグデリバリーシステム(DDS)に広く適用可能である。目的に応じ、経口あるいは血管を通じて、本発明のリポソームを含む薬剤を人体に投入できる。また、皮膚外用剤としては、美白、肌質改善、そばかす改善、肌の若返り、肌の引き締めを目的とした、化粧水、乳液、クリーム、パック剤、ピーリング剤等の化粧品だけでなく、毛髪用洗浄剤、浴用剤等の医薬部外品、薬品等の医薬品、健康の保持増進に役立つ健康食品等の食品のいずれにも好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
(使用試薬)
コラーゲン:3重らせん構造を保持した状態の原料で、変性温度は約37℃のものを使用した。
リン脂質:レシチン
【0041】
(評価コラーゲンの準備)
3重らせんコラーゲンのアミノ基に蛍光試薬(NBD Chloride)を常法に従い結合させ、0.3重量%水溶液を作成した。
【化1】
【0042】
(W/O液滴の作製)
リン脂質(レシチン)を、濃度が7.5mg/mLとなるようにミネラルオイル溶媒に溶解した。マイクロチューブ容器に、リン脂質溶液を1000mg、蛍光試薬を結合させたコラーゲン水溶液を50mgで混合した。さらに、この混合液をボルテックスミキサーで撹拌した。
【0043】
(リポソームの作製)
サンプル瓶に、水相となる精製水を4000mg入れ、その上に濃度が7.5mg/mLのリン脂質を含むオイル相1000mgをのせた。このリン脂質は外層脂質膜となる。さらに、オイル相に作製したW/O液滴を添加した。W/O液滴が重力によりオイル相から水相まで油水界面を介して自発的に移行することで、脂質2分子膜が形成されたリポソームを作製した。
【0044】
前述で作製したコラーゲン内包リポソームを含有する水相を取り出した。水相をホットプレートにのせ、蛍光顕微鏡観察しながら45℃になるまで加温し、写真撮影を行った(図1)。一方、比較例として、リポソームに内包していない、蛍光試薬で修飾したコラーゲンについて同様の観察を行った(図2)。
【0045】
コラーゲンが内包されたリポソームの場合、45℃でも3重らせんコラーゲン由来の蛍光がリポソーム内にのみ確認された。45℃でも、3重らせん構造を維持しているものと考えられる。一方、コラーゲン単独の場合は、蛍光は消失したことが確認された。コラーゲン分子をリポソームへ内包することで、熱エネルギーによるコラーゲン分子運動が抑制されたものと考えられる。
図1
図2