(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予測データ管理手段は、運転整理案の提案およびその承認あるいは非承認を含むイベントが起こる毎に、提案された前記運転整理案と該運転整理案が承認されたか否かの承認結果とに基づいて、前記運転整理パターン情報を更新する、請求項1に記載の運転整理装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
本実施形態による運転整理装置は、乗降場で乗り降りする乗客を輸送する鉄道の列車、バス、その他の乗物の運転を管理し、整理する装置である。本実施形態の説明では鉄道の列車を例示するが、本発明は他の乗物にも同様に適用することができる。
【0012】
図1は、本実施形態による運転整理装置の概略構成を示すブロック図である。運転整理装置100は、予測データ管理装置101、支障情報管理装置102、乗物優先順位管理装置103、および運行管理装置104を有している。
【0013】
運転整理装置100は、乗物(列車)の運転を管理するとともに、状況に応じて運転整理を行う。
【0014】
支障情報管理装置102は、列車の走行する経路上にある信号等の現場設備から受信から、現場で発生した支障に関する情報である支障情報を受信する。支障情報を受信すると、支障情報管理装置102は、その支障情報に基づいて、発生した支障が列車の運行に及ぼす影響を表す支障レベル(CL:Conflict Level)を判断する。典型的には、予想される遅延時間が長いほど、支障レベルが高いものとなる。
【0015】
乗物優先順位管理装置103は、各列車の乗客の混雑率である乗物混雑率(列車混雑率)と各乗降場(駅のホーム)の乗客の混雑率である乗降場混雑率(ホーム混雑率)との両方あるいは一方の即時的な情報である乗客情報と、各列車の即時的な存在位置(在線位置)に基づく存在位置情報(在線情報)とを列車と駅の設備からそれぞれ取得する。乗客情報と在線情報を取得した乗物優先順位管理装置103は、それらの情報に基づいて、支障に対する運転整理における各列車の優先順位(PL:Priority Level)を示す乗物優先順位情報(列車優先順位情報)を生成する。
【0016】
なお、ここでは、乗客情報と在線情報とに基づいて乗物優先順位情報を生成する例を示したが、本発明がこれに限定されることはない。更に、当該列車が特急列車か普通列車かといった列車の種別を、乗物優先順位の決定に用いてもよい。
【0017】
予測データ管理装置101は、過去において承認されたか否かに基づいて運転整理案を支障レベルと乗物優先順位情報とに対応づけて記録した運転整理パターン情報を管理しており、その運転整理パターン情報を参照することにより、支障情報管理装置102で判断された支障レベルと、乗物優先順位管理装置103で生成された乗物優先順位情報とに基づいて、予測ダイヤの変更における各列車に対する運転整理案を作成する。作成された運転整理案は、ディスプレイ画面への表示などによって、指令員に提示される。指令員は、運転整理案を見て、その案を承認するか否かを決定することができる。承認されれば、その案によって運転整理が行われる。各列車の実際の運行は運行管理装置104によって管理される。
【0018】
以上の構成によれば、発生した支障に対して提案する運転整理案を決定するときに、支障レベルに加えて乗客情報および存在位置情報も用いるので、運転整理の支援において状況に良好に適合する運転整理案を提案することが可能である。
【0019】
また、運行管理装置104は、支障によって各列車に実際に生じた遅延を示す実績遅延情報を記録する。予測データ管理装置101は、発生した支障に対して見込まれる各列車の遅延時間である遅延見込み時間を予測し、その遅延見込み時間に基づいて、遅延見込み時間を見込んだ予測ダイヤである遅延見込み予測ダイヤを生成する。支障情報管理装置102は、支障情報と、遅延見込み予測ダイヤおよび実績遅延情報との関係に基づいて支障レベルを決定する。これによれば、遅延の見込みと実績を考慮して、遅延の影響度である支障レベルを決定するので、高い精度で支障レベルを決定することができる。
【0020】
また、乗物優先順位管理103は、各列車の即時的な在線位置から得られる列車の間隔に基づいて、所定の領域(例えば、線路上の所定範囲)における列車の密度である列車密度を算出し、在線情報に含めて乗物優先順位管理装置103に通知するダイヤ管理装置(不図示)を有していてもよい。その場合、乗物優先順位管理装置103は、列車密度を用いて各列車の優先順位を決定する。これによれば、列車のある領域における列車の密度を考慮して優先順位を決定するので、高い精度で優先順位を決定することができる。
【0021】
また、予測データ管理装置101は、運転整理案の提案およびその承認あるいは非承認を含むイベントが起こる毎に、提案された運転整理案とその運転整理案が承認されたか否かの承認結果とに基づいて、運転整理パターン情報を更新することにしてもよい。これによれば、運転整理案が提案され、その承認あるいは非承認のいずれかが行われると、その結果に基づいて運転整理パターン情報を更新するので、運転整理パターン情報を最新状態に維持できる。
【0022】
図2は、本実施形態による運転整理装置の動作を示すフローチャートである。
【0023】
運転整理装置100は、過去において承認されたか否かに基づいて運転整理案を支障レベルと乗物優先順位情報とに対応づけて記録した運転整理パターン情報を予め保持しているものとする。
【0024】
運転整理装置100は、現場設備から支障情報を受信すると(ステップS101)、その支障情報に基づいて、発生した支障が乗物の運行に及ぼす影響を表す支障レベルを判断する(ステップS102)。
【0025】
また、運転整理装置100は、乗客情報と在線情報とを取得し(ステップS103)、それら乗客情報と在線情報に基づいて、支障に対する運転整理における各列車の列車優先順位情報を生成する(ステップS104)。その際、運転整理装置100は、支障が発生したときに乗客情報および在線情報を取得することにしてもよく、あるいは、一定周期で乗客情報および在線情報を取得しており、支障が発生したときにその情報を用いることにしてもよい。
【0026】
続いて、運転整理装置100は、運転整理パターン情報を参照することにより(ステップS105)、ステップS102で判断した支障レベルと、ステップS104で生成した列車優先順位情報とに基づいて、予測ダイヤの変更における各列車に対する運転整理案を作成する(ステップS106)。作成された運転整理案は指令員に提示され、指令員によって承認あるいは非承認される。
【0027】
最後に、運転整理装置100は、指令員による承認あるいは非承認の結果に基づいて、運転整理パターン情報を更新する(ステップS107)。
【0028】
以上、本実施形態について概略的に説明したが、以下、より具体的な実施例について図面を参照して説明する。
【0029】
図3は、本実施例による列車運行管理システムの構成を示すブロック図である。
【0030】
図3を参照すると、列車運行管理システムは、運転整理端末6、予測データ管理装置1、運行管理装置5、支障情報管理装置4、および列車優先順位管理装置3を有している。予測データ管理装置1に、運転整理端末6、運行管理装置5、支障情報管理装置4、および列車優先順位管理装置3がそれぞれ接続されている。予測データ管理装置1のマンマシンインタフェース27が運転整理端末6と接続されている。
【0031】
予測データ管理装置1は、予測データデータベース16および過去運転整理実績データベース20を備え、それらに蓄積されたデータを用いて、予測演算機能10、運転整理提案機能25、およびパターンマトリックス作成機能23を実行する装置である。
【0032】
予測演算機能10は、運行管理装置5から与えられる計画ダイヤ13および実績ダイヤ12と、運転整理端末6から入力された遅延見込み時間11とに基づき予測ダイヤを生成する機能である。遅延が見込まれていれば、それを考慮した遅延見込み予測ダイヤ14も生成される。
【0033】
予測演算機能10においては、ある列車について最後に実績出発時刻が取得された駅における計画出発時刻とその駅での実績出発時刻とから、その列車に生じている遅延時分を算出する。更に、その遅延時分と、各駅での到着および出発の計画時刻と、最小停車時分と、最小駅間走行時分と、最小列車続行時分とから、予測ダイヤ15が算出される。最小停車時分は、列車が駅に最低限停車している必要がある時分である。最小駅間走行時分は、列車が駅間を走行するのに最低必要な時分である。最小列車続行時分は、続けて走行する列車間に最低限あけるべき時分である。この予測ダイヤ15の算出は、一定周期で行われるとともに、指令員が運転整理端末6から運転整理の実行を入力したときにも行われる。
【0034】
生成された予測ダイヤ15は、予測データデータベース16に蓄積される。その他に、予測データデータベース16には、支障情報管理装置4で作成された支障レベル情報17と、列車優先順位管理装置3で作成された列車優先順位情報18とが蓄積される。
【0035】
パターンマトリックス作成機能23は、過去運転整理実績データベース20に蓄積された、過去に提案された運転整理案およびその承認あるいは非承認の結果に基づき、マトリックス形式の運転整理パターン情報(パターンマトリックス)を作成する機能である。
【0036】
運転整理提案機能25は、予測データデータベース16に蓄積されている各種予測情報19と、パターンマトリックス作成機能23によって作成したパターンマトリックス情報24とに基づいて、現場での支障および設備の状況と列車および駅の乗客の状況に適合する運転整理案を作成する。その運転整理案を含む運転整理提案情報26はマンマシンインタフェース27を介して運転整理案端末6に通知され、指令員に提案される。運転整理提案機能25による運転整理案の作成は、予測演算機能10による予測ダイヤの算出が行われるのと同一周期で行われる。
【0037】
運行管理装置5は、計画ダイヤ52および実績ダイヤ51を管理しており、各ダイヤの情報と運転整理情報28とに基づいて、列車の運行を管理する装置である。その際、運行管理装置5は、取得した実際の列車の遅延の実績を、実績ダイヤ51に反映するとともに、実績遅延情報41として支障情報管理装置4に通知する。
【0038】
支障情報管理装置4は、発生した支障に関する支障情報と、運行管理装置5からの実績遅延情報41を蓄積する支障情報データベース42を備え、蓄積したデータを用いて、支障レベル情報作成機能43を実行する装置である。支障レベル情報作成機能43は、発生した支障についての支障レベルを決定する機能である。支障レベルは、支障情報と、遅延見込み予測ダイヤ14と、実績遅延情報41との関係に基づいて決定される。
【0039】
列車優先順位管理装置3は、乗客情報管理装置31およびダイヤ管理装置33を有し、列車優先順位作成機能36を実行する装置である。
【0040】
乗客情報管理装置31は、乗客情報を管理する装置であり、列車の設備から乗客情報を取得する。乗客情報は、各列車の乗客の混雑率である列車混雑率と各駅のホームの乗客の混雑率であるホーム混雑率との即時的な情報である。ダイヤ管理装置33は、列車運行のダイヤを管理する装置であり、駅の設備から在線情報を取得し、ダイヤの管理に利用する。在線情報は、各列車の即時的な在線位置に基づく情報である。在線情報は、各列車の即時的な位置を示す情報であってもよく、あるいは各列車の即時的な位置から求まる列車密度を示す情報であってもよく、あるいはそれらの両方を含む情報であってもよい。乗客情報管理装置31は乗客情報32を列車優先順位情報データベース35に格納し、ダイヤ管理装置33は在線情報34を列車優先順位情報データベース35に格納する。
【0041】
列車優先順位作成機能36は、列車優先順位情報データベース35に蓄積されている情報を用いて、運転整理における各列車の優先順位を決定し、列車優先順位情報18として予測データ管理装置1に通知する。
【0042】
以下、本実施例による列車運行管理システムの構成について更に説明する。
【0043】
ダイヤ管理装置33は、運行管理装置5にて管理されている計画ダイヤ52に含まれる各列車の列車種別情報をデータベースにて管理する。例えば、この列車種別には、特急列車、普通列車、快速列車といった営業列車の区分と、回送列車、貨物列車といった非営業列車の区分とが含まれる。また、ダイヤ管理装置33は、現場設備から取得できるリアルタイムな列車の在線位置を示す在線情報を取得し、列車の在線間隔あるいは在線列車数から列車密度を算出し、列車密度情報をデータベースにて管理する。このようにして列車種別情報と列車密度情報は、在線列車情報34として列車優先順位情報データベース35に蓄積される。
【0044】
一方、乗客情報管理装置31は、各駅のホーム上に設置したカメラで撮影した映像から、画像処理のパターンマッチング処理技術によって人物認識をし、駅ホームにいる乗客の人数を計測するという手法を用いて、ホーム混雑率をリアルタイムで計測する。乗客情報管理装置31も同様の手法を用いて、カメラで撮影した列車内の映像から、画像処理によって乗客の人数を計測してもよい。あるいは、乗客情報管理装置31は、列車に設置された重量センサーにより車両内の乗客の人数を算出し、無線を使って車上からデータを受信するという手法を用いて、各列車の列車混雑率をリアルタイムで計測することにしてもよい。このようにしてホーム混雑率および列車混雑率は、乗客情報32として、列車優先順位情報データベース35に蓄積される。
【0045】
列車優先順位情報データベース35は、ダイヤ管理装置33から列車種別情報と列車密度情報を含む在線列車情報34を受信し、乗客情報管理装置31からホーム乗客数、ホーム混雑率及び列車混雑率の各情報を含む乗客情報32を受信し、列車、駅、区間別に保持する。さらに、列車優先順位管理装置3は、列車優先順位作成機能36により、列車優先順位情報データベース35のデータをそれぞれパラメータとしてもつ重み関数を設定し、各々の列車の列車優先順位を算出する。算出された結果は列車優先順位情報18として、予測データ管理装置1の予測データデータベース16に送られる。
【0046】
一方、支障情報管理装置4には、支障レベル情報作成機能43と支障情報データベース42が設けられている。支障情報データベース42は、現場設備から受信する支障情報と、運転整理端末6から受信する遅延見込み時間11とに応じて、予測データ管理装置1の予測演算機能10で予測演算された遅延見込み予測ダイヤ14と、運行管理装置5で取得した実績遅延情報41を更新する。ここで、遅延見込み時間11は、列車進路において発生した支障の状況から、支障が復旧するまでに要する回復時間であり、指令員が推測した値である。支障レベル情報作成機能43は、支障情報データベース42で管理される支障情報をもとに列車、駅、区間別に支障レベルを算出する。
【0047】
そして、列車優先順位管理装置3からの列車優先順位情報18と、支障情報管理装置4からの支障レベル情報17が予測データデータベース16に蓄積される。
【0048】
運行管理装置5では、列車の走行実績を含む実績ダイヤ51と、予め定められた各駅での列車の着発時刻を含む計画ダイヤ52とが保持されている。ここで、計画ダイヤ52は、指令員が運転整理のために行う入力により、運転整理情報28にしたがって変更されることがある。また、実績ダイヤ12と計画ダイヤ13は、予測データ管理装置1に送信され、予測演算機能10による各列車の予測時刻の算出に使用される。さらに、運行管理装置5は、実績ダイヤ51と計画ダイヤ52から各列車の遅延時間を含む実績遅延情報41を作成し、支障情報データベース42に送信する。
【0049】
予測データ管理装置1におけるマンマシンインタフェース27は、指令員が運転整理端末6から行う計画ダイヤ13を変更する運転整理の入力を受け付ける。また、マンマシンインタフェース27は、運転整理提案機能25によって生成された運転整理提案情報26に対する指令員の承認63あるいは非承認64の入力情報を取得する。この承認あるいは非承認の結果を示す承認・非承認情報21は、過去運転整理実績データベース20で管理され、次回以降に指令員に対して運転整理の提案62を決定するための要素として使用される。
【0050】
また、指令員が遅延見込み入力60を入力したとき、その入力情報はマンマシンインタフェース27で受信され、予測演算機能10における遅延見込みの予測演算に使用される。
【0051】
さらに、指令員は、ダイヤ検証61により、提案62を承認63した場合のダイヤの変更結果を運転整理端末6上で確認することができる。
【0052】
パターンマトリックス作成機能23では、過去運転整理実績データベース20から提案実績情報22を取得し、各々の列車に対する支障レベルと列車優先順位との組合せに対して、過去に提案され、最も承認された割合(承認率)が高い運転整理案を抽出し、承認率の最も高い運転整理案を支障レベルと列車優先順位とに対応づけて、パターンマトリックス情報24として生成する。このパターンマトリックス情報24は、当該列車の支障レベルと列車優先順位とに対応する適切な運転整理案を特定するためのマトリックスである。尚、本システムで提案する運転整理案は、列車に対する時刻変更91、順序変更92、番線変更93、運転線路変更94、運転休止95、折返変更96及び新列車設定97である。
【0053】
運転整理提案機能25では、各列車の予測ダイヤ15と支障レベル情報17と列車優先順位情報18とを予測データデータベース16から、予測情報19として取得する。そして、予測情報19を列車優先順位の高い列車の順にソートし、支障レベルと列車優先順位とを検索キーとして、パターンマトリックス情報24を検索することにより、提案すべき運転整理案を決定する。運転整理案は、運転整理提案情報26として、マンマシンインタフェース27を介して運転整理端末6に送られ、指令員に提示される。
【0054】
運転整理提案情報26は、マンマシンインタフェース27を経由して運転整理端末6に一覧表示される。指令員は、その提案内容をみて承認あるいは非承認を選択する。運転整理案が承認63されると、その運転整理案によって、支障による列車の遅延回復にむけたダイヤ変更が可能となる。このとき、運行管理装置5は、予測データ管理装置1のマンマシンインタフェース27を介して受信する運転整理情報28に対して、ダイヤ変更の最終的な合理性チェックを行う。この合理性チェックでは、列車の順序に矛盾が無いか、列車が利用する番線の競合が無いか、到着あるいは出発の時刻に矛盾が無いか、及び運用が未定の事項が無いかチェックする。
【0055】
また、指令員は、提案62された運転整理案を採用しない場合、非承認64を選択とすることができる。予測データ管理装置1は、非承認64とされた運転整理案の提案内容を運行管理装置5に送信することはない。また、運転整理案が非承認とされると、過去運転整理実績データベース20には、非承認の運転整理案として記録される。
【0056】
また、列車が計画ダイヤ通りに運行されている間は、運行管理装置5がダイヤ通りに信号設備を自動制御するので、予測データ管理装置1から指令員に対して運転整理案が提案されたり、指令員が運転整理を実施したりすることはほとんど無く、指令員は主に運転整理端末6を監視だけをしていればよい。
【0057】
本実施例によるシステムの動作の流れについて説明する。
【0058】
図4は、過去運転整理実績データベース20に記録されたデータの一例を示す図である。
図4を参照すると、過去に提案された運転整理案と支障レベル(CL)と列車優先順位(PL)とを対応づけ、その組み合わせにおける提案承認率が記録されている。支障レベルは、支障情報管理装置4によって生成されたものであり、列車優先順位は、列車優先順位管理装置3によって生成されたものである。過去運転整理実績データベース20の内容は、運転整理案が提案され、承認あるいは非承認が行われる毎に更新される。
【0059】
予測データ管理装置1は、パターンマトリックス作成機能23によって、この過去運転整理実績データベース20の内容に基づいて、マトリックス形式の運転整理パターン情報であるパターンマトリックスを作成する。
図5は、パターンマトリックスの一例を示す図である。
図5を参照すると、支障レベルを縦軸に列車優先順位を横軸にもつマトリックスであり、各象限には過去の提案承認率が最も高い運転整理案の分類が設定されている。
【0060】
どこかで支障が発生すると、支障情報管理装置4が支障レベル情報17を生成して予測データ管理装置1に通知し、列車優先順位管理装置3が列車優先順位情報18を生成して予測データ管理装置1に通知する。
図6は、各列車の支障レベルと列車優先順位とを表す情報の一例を示す図である。例えば、Aレの列車は支障レベル(CL)が1であり、列車優先順位(PL)が2である。
【0061】
予測データ管理装置1は、運転整理提案機能25によって、
図6の情報に示された各列車を列車優先順位が高い順にソートする。
図7は、
図6における列車を列車優先順位が高い順にソートした情報を示す図である。
図7を参照すると、例えば、列車優先順位が高いBレの列車が先頭に来ている。そして、予測データ管理装置1は、列車優先順位が高い列車から順に運転整理案の作成を行う。列車優先順位が高い順に運転整理案が作成されるので、遅延を早期に回復させたい列車から優先的に運転整理を行うことができる。運転整理案の作成においては、予測データ管理装置1は、指令員に承認される可能性が高く、状況に適した運転整理案を選択する。その際、予測データ管理装置1は、支障レベルと列車優先順位を検索キーとして、
図5に示したようなパターンマトリックスを検索することにより、提案する運転整理案を決定する。
【0062】
なお、本実施例では、パターンマトリックスの各象限には承認率が最も高い1つの運転整理案だけが設定されている例を示したが、本発明がこれに限定されることはない。他の例として、各象限に承認率の高いものから順に複数の運転整理案が設定されてもよい。その場合、最初に最も承認率の高い運転整理案を提案し、それが非承認とされたら、次に承認率の高い運転整理案を提案することにしてもよい。
【0063】
また、本実施例では、パターンマトリックスの各象限に設定する運転整理案は承認率によって決定しているが、本発明がこれに限定されることはない。他の例として、採用した場合に見込まれる列車の遅延時間が最も短い運転整理案を設定することにしてもよい。
【0064】
次に、運転整理案の具体例として、列車の順序を入れ替える順序変更の提案が行われる過程について説明する。
【0065】
図8A〜Cは、運転整理案の提案が行われる過程を説明するための図である。
【0066】
ここでは、β駅において、列車優先度の低い列車(Aレ)に支障レベルの低い遅延が発生しているものとする。
図8Aを参照すると、Aレの列車は、現在時刻において、ある実績遅延をもってβ駅に到着している。この状況における通常の予測ダイヤは、
図8Aの現時刻線以降に示されている通りである。すなわち、Aレの列車は、ある遅延見込みだけ遅延してβ駅を出発し、その後、β駅にBレの列車が到着する。Bレの列車は、計画ダイヤ通りの時刻にβ駅に到着し、出発するが、Aレの遅延の影響を受けて、計画ダイヤよりも遅い速度でα駅まで走行することになっている。
【0067】
ここでは
図6、7に示したようにAレよりもBレの方が列車優先順位が高く、Bレを計画ダイヤ通りに運転するという要求が高いため、今回と同じ支障レベルおよび列車優先順位における過去の実績として列車を順序変更する運転整理案の承認率が高かったものとする。
【0068】
このとき過去の運転整理案の提案とその承認あるいは非承認の実績から、Bレを計画ダイヤ通り運転させるように、Aレに対して、α駅においてAレがBレの後順になるような順序変更が提案される。
図8Bには、順序変更の提案内容によるダイヤ(提案ダイヤ)が示されている。
図8Bを参照すると、Aレの列車が、ある実績遅延だけ遅延して現時点にβ駅に到着している。Aレの提案ダイヤは、Bレの列車がβ駅を通過するまで、Aレはβ駅に停車しており、そのあとで発車するというものである。この提案ダイヤを指令員が承認すると、提案ダイヤが新たな計画ダイヤとなる。
図8Cには、提案ダイヤが計画ダイヤに変更された後のダイヤが示されている。
図8Cを参照すると、計画ダイヤは、AレはBレがβ駅を通過するまでβ駅に停車し、その後で出発するというものとなっている。
【0069】
その他の場合として、例えば、Aレの実績遅延が小さく、かつAレの遅延見込みも小さいような支障レベルが低い支障が起きた場合、運転整理案としては時刻変更によって、Aレのα駅−β駅間の走行時分を短くするという対処が適切となる場合が多い。また、いずれかの駅の構内において列車の進路上に支障が発生した場合や、ある列車の先行列車が遅延したため、計画ダイヤ通りの同一番線の使用が困難になった場合には、番線変更によって、列車が使用するホームの番線を変更するのが有効である場合が多い。
【0070】
このように、支障レベルが低い場合に多く用いられる運転整理案には傾向がある。具体的には、時刻変更、順序変更、番線変更は、支障レベルが比較的低い場合に多く用いられる。
【0071】
一方、例えば、ある列車の走行する予定となっていた区間が大規模な破損により、長時間にわたり列車が走行できない状態になるような支障レベルの高い支障が起きる場合がある。このとき、複々線などの代替経路が存在していれば運転整理案として運転線路変更が有効となる。代替経路が存在していなければ、運転整理案として折返変更を採用し、上下線の列車をそれぞれ支障発生箇所の手前の駅で折り返すのが有効となる。ただし、そのときは、折返しを行う駅が折り返し運転の可能な駅である必要がある。また、運転線路変更や折返変更を行う場合、走行予定区間の運転休止も並行しての提案することになる。また、大規模な列車の停止や遅延が長時間続く場合、駅におけるホーム混雑率が高くなることがある。そのような場合には、運転整理案として新列車設定を採用し、ホーム混雑率の低減を図るというのが有効となることがある。
【0072】
このように、支障レベルが高い場合に多く用いられる運転整理案にも傾向がある。具体的には、運転線路変更、運転休止、折返変更、新列車設定は、支障レベルが比較的高い場合に多く用いられる。
【0073】
本実施例では、
図6に示したパターンマトリックスの各象限には、全ての運転整理案を候補として、承認率の高いものを設定することにしたが、本発明がこれに限定されることはない。他の例として、支障レベルに応じて、パターンマトリックスの象限に設定する運転整理案の候補を限定することにしてもよい。例えば、支障レベルが所定値以下の象限には、支障レベルが低い支障において用いられることが多い複数個の運転整理案だけが設定され得るというようにすればよい。
【0074】
以上、本実施例によれば、支障の発生により列車の遅延が拡大していく状況において、各列車の支障レベルと列車優先順位に基づき、過去の運転整理案の提案とその承認あるいは非承認の結果の実績から、同様の支障状況に対して、指令員が採用する可能性の高い運転整理案を提案することで、支障発生時における指令員の作業軽減、列車運用の効率化、列車群の遅延の早期回復が可能となる。
【0075】
なお、上述の実施形態および実施例では、典型的なものとして鉄道の列車運行管理システムを例示したが、本発明がこれに限定されることはない。他の例として、バスなど、乗客を輸送する用途に用いられる乗り物に広く適用することができる。
【0076】
また、上述の実施形態および実施例は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態や実施例のみに限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。