特許第6000071号(P6000071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000071
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】蒸気タービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 11/00 20060101AFI20160915BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20160915BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20160915BHJP
   F01D 25/26 20060101ALI20160915BHJP
   F16J 15/24 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   F01D11/00
   F01D25/00 M
   F01D25/24 P
   F01D25/26 E
   F16J15/24 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-244685(P2012-244685)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2014-92133(P2014-92133A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 民暁
(72)【発明者】
【氏名】西勝 秀
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−271608(JP,A)
【文献】 実開平4−88563(JP,U)
【文献】 特開平11−159304(JP,A)
【文献】 実開昭59−115803(JP,U)
【文献】 特開2001−200938(JP,A)
【文献】 特開昭62−9089(JP,A)
【文献】 特開昭60−93102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 11/00
F01D 25/00 − 25/26
F01D 9/06
F02C 7/28
F16J 15/16 − 15/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンにおいて、
導入孔を有する内車室と、
前記導入孔に挿入され、前記内車室内のノズル室に蒸気を供給するインレットスリーブと、
前記内車室又は前記ノズル室の内周面と前記インレットスリーブの外周面との間の環状隙間に介装され、外周面が前記内車室又は前記ノズル室の内周面と接触する、少なくとも一つの外側リングと、
前記内車室又は前記ノズル室の内周面と前記インレットスリーブの外周面との間の環状隙間に介装され、内周面が前記インレットスリーブの外周面に接触する、少なくとも一つの内側リングと、を有し
前記環状隙間は、前記インレットスリーブと前記ノズル室との間に形成された第1の環状隙間、及び、前記第1の環状隙間から前記インレットスリーブの長さ方向にて離間し、前記インレットスリーブと前記内車室との間に形成された第2の環状隙間とよりなり、
前記第1の環状隙間および第2の環状隙間の各々において、前記少なくとも1つの外側リングと前記少なくとも1つの内側リングが前記インレットスリーブの長さ方向に交互に介装されており
前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングの少なくとも一方は、仮想矩形の前記外周面側又は前記内周面側の一辺を部分的に欠損させた断面形状を有し、
前記仮想矩形の前記一辺の長さLに対する、前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングのうち少なくとも一方の前記断面形状のうち前記車室、前記ノズル室又は前記インレットスリーブに接触する部分の長さLの比は、0.3以上0.7以下であり、
前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングの少なくとも一方は、前記内車室の内周面、前記ノズル室の内周面又は前記インレットスリーブの外周面と平行なランド部を有し、前記ランド部は、前記内車室の内周面、前記ノズル室の内周面又は前記インレットスリーブの外周面に接触可能であり、
前記仮想矩形の前記外周面側又は前記内周面側の前記一辺を部分的に欠損させるように、前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングの少なくとも一方は、前記ランド部の両側に円錐台形状のテーパ面を有し、
前記ノズル室に、前記第1の環状隙間に面した第1段差面が設けられ、
前記内車室に、前記第2の環状隙間に面した第2段差面が設けられ、
前記蒸気タービンは、前記ノズル室及び前記内車室にそれぞれボルトにて固定された押え材を更に有し、
前記第1の環状隙間において、前記少なくとも1つの外側リング及び前記少なくとも1つの内側リングは、前記インレットスリーブの長さ方向にて、前記第1段差面と前記押え材との間に配置され、
前記第2の環状隙間において、前記少なくとも1つの外側リング及び前記少なくとも1つの内側リングは、前記インレットスリーブの長さ方向にて、前記第2段差面と前記押え材との間に配置されている
ことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項2】
前記仮想矩形の面積Sに対する前記断面形状の面積Sの比は0.95以上であることを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービン。
【請求項3】
前記テーパ面の前記一辺に対してなす角度は、1度以上10度以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気タービン。
【請求項4】
前記第1の環状隙間を規定する前記インレットスリーブの第1の部分は第1の外径を有し、前記第2の環状隙間を規定する前記インレットスリーブの第2の部分は、前記第1の外径よりも大きい第2の外径を有することを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の蒸気タービン。
【請求項5】
前記インレットスリーブと前記内側リングとは、ともにマルテンサイト系鋼で形成され、
前記内側リングの前記断面形状は、該断面形状の前記インレットスリーブに密着する部分の長さLが前記一辺の長さLに対して0.3倍以上0.7倍以下になるように、前記内側リングの前記仮想矩形の前記内周面側の前記一辺が部分的に欠損した形状であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の蒸気タービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンの主蒸気入口管等の蒸気配管と車室との間の環状隙間に、スタックリングを介装してなるシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンの外車室に設けられた蒸気入口部には、高温高圧の蒸気が外車室と内車室と間に区画されている低圧蒸気通路に漏洩するのを防止するため、インレットスリーブが設けられている。インレットスリーブの先端は内車室に穿設された導入孔に挿入され、インレットスリーブの外周面と、インレットスリーブ外周面に対向する内車室の内周面との間の環状隙間にスタックリングが設けられ、該環状隙間をシールしている。従来のスタックリングの構成を図8により説明する。
【0003】
図8において、外車室102に形成された主蒸気入口管104のインレットスリーブ106が内車室108へ向かって延設され、インレットスリーブ106の下端は、内車室108の蒸気入口部に穿設された導入孔に挿入されている。インレットスリーブ106の外周面と内車室108の内周面108aとの間に形成される環状隙間sに、スタックリング100が介装されている。スタックリング100は、インレットスリーブ106の熱膨張を許容しつつ、環状隙間sをシールしている。
【0004】
スタックリング100は、矩形断面を有する複数の外側リング100a及び内側リング100bで構成されている。外側リング100aと内側リング100bとは、微小に径が異なり、外側リング100aは内側リング100bより微小差で大径に形成されている。外側リング100a及び内側リング100bは、インレットスリーブ106の軸方向に交互に配置されている。外側リング100aは内車室108の内周面108aとシール面を形成するために設けられるが、常温では、内車室108の内周面と僅かな隙間を有するように設計される。内側リング100bはインレットスリーブ106の外周面との間でシール面を形成するために設けられるが、常温では、インレットスリーブ106の外周面との間に僅かな隙間を有するように設計されている。
【0005】
外側リング100aの線膨張係数を内車室108の線膨張係数より大きくすることで、蒸気タービンの運転時には、外側リング100aの外周面と内車室108の内周面108aとが密着し、蒸気の漏洩を防止する。同様に、インレットスリーブ106の線膨張係数を内側リング100bの線膨張係数より大きくすることで、蒸気タービンの運転時には、インレットスリーブ106の外周面と内側リング100bの内周面とが密着し、蒸気の漏洩を防止する。
【0006】
外側リング100aの上下面と内側リング100bの上下面とは互いに接してシール面を形成し、蒸気の漏洩を防止している。外側リング100aの内周面とインレットスリーブ106の外周面との間、及び内側リング100bの外周面と内車室108の内周面との間は、常温時及び運転時とも、隙間が形成されている。内車室108の上端に押え材110が固定され、押え材110によってスタックリング100の最上端を押えている。
【0007】
特許文献1には、インレットスリーブが外車室と別体に形成され、スタックリングが環状隙間sから抜け出すのを防止し、かつインレットスリーブの回り止め機能を有する機構を備えた蒸気タービンが開示されている。特許文献2には、スタックリングを構成する外側リングと内側リングとの間に隙間ができ、該隙間から蒸気が漏洩するのを防止するため、外側リングと内側リングとの接触面を球面に加工した構成が開示されている。さらに、特許文献2には、外側リングと内車室との間で線膨張係数に差をもうけることで、蒸気タービンの運転時に両者を密着させると共に、内側リングとインレットスリーブとの間で線膨張係数に差をもうけることで、蒸気タービンの運転時に両者を密着させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭59−115803号公報
【特許文献2】特開2001−271608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、スタックリングの外側リングは、線膨張係数が大きいオーステナイト系鋼が使用され、インレットスリーブ及び内車室には、線膨張係数が中程度のフェライト系鋼が使用されていた。また、内側リングには、線膨張係数が小さいマルテンサイト系鋼が使用されていた。しかし、近年、蒸気タービンの出力を向上させるため、蒸気温度を高温化させる必要が生じた。そのため、インレットスリーブの高温強度を向上させる必要が生じ、そこで、インレットスリーブの材質を内側リングの材質と同種のマルテンサイト系鋼に変更することとなった。そのため、内側リングとインレットスリーブとの間で線膨張係数の差が小さくなり、シールに必要な面圧が確保しにくくなった。
【0010】
この対策として、内側リングにマルテンサイト系鋼より線膨張係数が小さい超合金を使用することが考えられるが、超合金を使用するとコストアップとなる。別な対策として、内側リングとインレットスリーブとの間の隙間を小さくすることが考えられる。しかし、この場合、精密な加工精度が要求され、コストアップになると共に、組立も容易でなくなるという問題がある。なお、特許文献1には、内車室の内周面に接する外側リングの接触面、及びインレットスリーブの外周面に接する内側リングの接触面が面取りされていることが図示されている。しかし、面取りしたことで、シールに必要な接触面圧を確保することはできない。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、コストアップを招かず、スタックリングのシール面の面圧を増加させることで、蒸気タービンの蒸気配管と車室間のシール性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明の蒸気タービンは導入孔を有する内車室と、前記導入孔に挿入され、前記内車室内のノズル室に蒸気を供給するインレットスリーブと、前記内車室又は前記ノズル室の内周面と前記インレットスリーブの外周面との間の環状隙間に介装され、外周面が前記内車室又は前記ノズル室の内周面と接触する、少なくとも一つの外側リングと、前記内車室又は前記ノズル室の内周面と前記インレットスリーブの外周面との間の環状隙間に介装され、内周面が前記インレットスリーブの外周面に接触する、少なくとも一つの内側リングと、を有し、前記環状隙間は、前記インレットスリーブと前記ノズル室との間に形成された第1の環状隙間、及び、前記第1の環状隙間から前記インレットスリーブの長さ方向にて離間し、前記インレットスリーブと前記内車室との間に形成された第2の環状隙間とよりなり、前記第1の環状隙間および第2の環状隙間の各々において、前記少なくとも1つの外側リングと前記少なくとも1つの内側リングが前記インレットスリーブの長さ方向に交互に介装されており、前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングの少なくとも一方、仮想矩形の前記外周面側又は前記内周面側の一辺を部分的に欠損させた断面形状を有し、前記仮想矩形の一辺の長さLに対する、前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングのうち少なくとも一方の前記断面形状のうち前記内車室、前記ノズル室又は前記インレットスリーブに接触する部分の長さLの比0.3以上0.7以下であり、前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングの少なくとも一方は、前記内車室の内周面、前記ノズル室の内周面又は前記インレットスリーブの外周面と平行なランド部を有し、前記ランド部は、前記内車室の内周面、前記ノズル室の内周面又は前記インレットスリーブの外周面に接触可能であり、前記仮想矩形の前記外周面側又は前記内周面側の前記一辺を部分的に欠損させるように、前記少なくとも1つの外側リング又は前記少なくとも1つの内側リングの少なくとも一方は、前記ランド部の両側に円錐台形状のテーパ面を有し、前記ノズル室に、前記第1の環状隙間に面した第1段差面が設けられ、前記内車室に、前記第2の環状隙間に面した第2段差面が設けられ、前記蒸気タービンは、前記ノズル室及び前記内車室にそれぞれボルトにて固定された押え材を更に有し、前記第1の環状隙間において、前記少なくとも1つの外側リング及び前記少なくとも1つの内側リングは、前記インレットスリーブの長さ方向にて、前記第1段差面と前記押え材との間に配置され、前記第2の環状隙間において、前記少なくとも1つの外側リング及び前記少なくとも1つの内側リングは、前記インレットスリーブの長さ方向にて、前記第2段差面と前記押え材との間に配置されている
【0013】
本発明において、前記スタックリングを構成する外側リング又は内側リングの断面形状として、仮想矩形を想定する。想定される仮想矩形の面積は、外側リング又は内側リングが、内車室の内周面又は蒸気配管のスリーブ部の外周面との間で、必要な接触面圧を発生させるために必要な剛性を得る観点から設定される。次に、仮想矩形の外周面側又は内周面側の一辺を部分的に欠損させることで、接触面との面圧を増加できる。特に、欠損部との境界領域において、接触面圧を大幅に増加できる。そのため、内車室の内周面又は蒸気配管のスリーブ部の外周面との接触面圧を増加でき、シール性能を向上できる。さらに、L/Lを0.3以上0.7以下としたことで、シール性能の向上と共に、内側リングでスリーブ部を安定支持できる。
【0014】
従って、特殊な材質のスタックリングを用いることなく、従来使用していた材質のスタックリングを使用でき、コストアップとならない。また、スタックリングとの隙間を小さくしなくても、接触面圧を高めることができるので、従来の加工精度で済み、コストアップとならず、かつ組立も容易である。
【0015】
本発明においては、必要面圧を発生させるために必要な外側リング又は内側リングの剛性を確保するため、仮想矩形の面積Sに対する前記断面形状の面積Sの比は0.95以上であるとよい。
【0016】
また、前記断面形状は、仮想矩形の一辺の両端部をテーパ状に欠損させて形成されるテーパ面を有するとよい。テーパ面とすることで、該テーパ面との境界付近の接触面圧を増加できると共に、外側リング又は内側リングの剛性の低下を最小限に抑えることができる。また、仮想矩形の一辺の両端部にテーパ面を形成することで、仮想矩形の中央域にスリーブ部に対する支持面を形成でき、スリーブ部を安定支持できる。さらに、スリーブ部の挿入時にスリーブ部をテーパ面に沿わせることで、スリーブ部の挿入が容易になる。
【0017】
さらに、接触面に対してテーパ面のなす角度を1度以上10度以下とするとよい。これによって、テーパ面との境界付近の接触面の接触面圧を高く維持しつつ、外側リング又は内側リングの剛性の低下を最小限に抑えることができる。
【0021】
本発明において、スリーブ部と内側リングとが、比較的近い線膨張係数を有するマルテンサイト系鋼で形成された場合でも、内側リングの断面形状が、該断面形状のスリーブ部に密着する部分の長さLが一辺の長さLに対して0.3倍以上0.7倍以下になるように、内側リングの仮想矩形の内周面側の一辺が部分的に欠損した形状することで、内側リングのスリーブ部に対する接触面圧を高く維持でき、内側リングとスリーブ部との間のシール性能を向上できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コストアップとならずに、蒸気配管のスリーブ部の外周面及び内車室の内周面との接触面圧を増加させ、車室とスリーブ部との間に形成される環状隙間のシール性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係るシール構造を適用した蒸気タービンの一部を示す正面視断面図である。
図2図1中のA部拡大図である。
図3】第1実施形態のスタックリングの断面形状を示す説明図である。
図4】第1実施形態のスタックリングの接触面圧を示す線図である。
図5参考例1に係るシール構造の断面図である。
図6参考例2に係るシール構造の断面図である。
図7参考例3に係るシール構造の断面図である。
図8】従来の蒸気タービンの蒸気配管のシール構造を示す正面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0025】
(実施形態1)
本発明の第1実施形態を図1に基づいて説明する。図1において、外車室12に形成された主蒸気入口管14のインレットスリーブ16が内車室18へ向かって延設されている。インレットスリーブ16の下端は、内車室18の蒸気入口部に穿設された導入孔に挿入されている。インレットスリーブ16の外周面16aと内車室18の内周面18a間に形成される環状隙間s1に、スタックリング10Aが介装され、スタックリング10Aで環状隙間s1をシールしている。内車室18の上端面に押え材22がボルト24で固定され、押え材22でスタックリング10Aの最上端を押えている。
【0026】
インレットスリーブ16は、内車室18に形成された導入孔を貫通し、ノズル室20の内部に導設されている。インレットスリーブ16の外周面16aとノズル室20の内周面20aとの間に形成された環状隙間s2に、本実施形態に係るスタックリング10Aが介装され、環状隙間s2をシールしている。ノズル室20の上端面に押え材26がボルト28で固定され、スタックリング10Aの最上端を押えている。
【0027】
また、主蒸気入口管14の近くの外車室12に、補助蒸気入口管30が設けられている。蒸気タービンの出力を増加させるため、補助蒸気入口管30から内車室18に補助蒸気が供給される。補助蒸気入口管30のインレットスリーブ32は、内車室18側へ延設され、内車室18に穿設された導入孔に挿入されている。インレットスリーブ32の外周面32aと、内車室18の内周面18bとの間に環状隙間s3が形成されている。環状隙間s3にスタックリング10Aが介装され、環状隙間s3をシールしている。内車室18の上端面に押え材34がボルト36で固定され、押え材34でスタックリング10Aの最上端を押えている。
【0028】
以下、環状隙間s1に介装されたスタックリング10Aを例に取って、スタックリング10Aの構成を図2及び図3により説明する。スタックリング10Aは、矩形断面を有する複数の外側リング10a及び内側リング10bで構成され、外側リング10aは内側リング10bより微小差で大径に形成されている。環状隙間s1に、外側リング10aと内側リング10bとが上下方向に交互に配置されている。外側リング10aは、常温では、内車室18の内周面18aと僅かな隙間を有するように設計され、内側リング10bは、常温では、インレットスリーブ16の外周面16aとの間に僅かな隙間を有するように設計されている。
【0029】
外側リング10aは、例えばNi・Co・Cr合金などの、線膨張係数が大きいオーステナイト系合金で構成されている。内車室18及びノズル室20は、線膨張係数が中程度のフェライト系鋼又は線膨張係数が小さいマルテンサイト系鋼で構成されている。このように、外側リング10aの線膨張係数を内車室18及びノズル室20の線膨張係数より大きくすることで、蒸気タービンの運転時には、外側リング10aの外周面と内車室18の内周面18a及びノズル室20の内周面20aとが密着し、蒸気の漏洩を防止する。また、インレットスリーブ16は、蒸気タービンの出力増加によって、例えば9%Cr・1%Mo鋼などの、高強度で線膨張係数が小さいマルテンサイト系鋼が用いられている。内側リング10bは、インレットスリーブ16と同様に、線膨張係数が小さいマルテンサイト系鋼で構成されている。
【0030】
外側リング10aの上下面と内側リング10bの上下面とは互いに接してシール面を形成し、蒸気の漏洩を防止している。外側リング10aの内周面とインレットスリーブ16の外周面との間、及び内側リング10bの外周面と内車室18の内周面18aとの間は、常温時及び運転時とも、隙間が形成されている。これによって、外側リング10a及び内側リング10bを環状隙間s1に挿入する作業を容易にしている。
【0031】
図3に示すように、内側リング10bの断面形状を決定する場合、まず、必要剛性を有するように断面積が設定された仮想正方形BCDEを設定する。内側リング10bの内周面は、中央にインレットスリーブ16の外周面16aと平行なランド部40と、ランド部40の上下両側にテーパ面42及び44が形成されている。ランド部40の内周面が接触面を構成する。ランド部40及びテーパ面42、44の上下方向長さは、ランド部40がテーパ面42又は44の2倍である。例えば、内側リング10bの上下方向全長L=14.0mmのとき、ランド部40の接触面の上下方向長さL=7.0mmで、テーパ面42、44の上下方向長さL又はL=3.5mmである。また、テーパ面42、44の端部における傾斜量tは、t=0.5mmである。外側リング10aの断面形状も内側リング10bと同一の手法で決定され、外周面にランド部とテーパ面とが形成される。
【0032】
図4は、内側リング10bの中央部(番号1)から最上端(番号15)までの接触面圧の解析値を示す。接触面圧解析値Xは、内側リング10bの断面形状を、本実施形態のようにテーパ付き面FGHIDE(図3参照)としたときの接触面圧であり、接触面圧解析値Yは、断面形状を仮想正方形BCDE(フラット面)としたときの接触面圧の解析値である。テーパ付き面のほうが全般に接触面圧が、フラット面より約1.5倍ほど高くなり、特にテーパ面42の始点付近であるG点で接触面圧が突出していることがわかる。内側リング10bの中央部(番号1)から下側の接触面圧は、中央部(番号1)を中心に上下対称の解析値となっている。また、内側リング10aでも同様の傾向を示す結果となっている。
【0033】
本実施形態によれば、スタックリング10Aを構成する外側リング10a及び内側リング10bの接触面圧を増加でき、特に、テーパ面42,44との境界付近の領域で、突出した接触面圧を形成できる。そのため、スタックリング10Aのシール性能を向上できる。また、インレットスリーブ16と内側リング10bとは、比較的近い線膨張係数を有するマルテンサイト系鋼で構成されているのにかかわらず、高い接触面圧を得、高いシール性能を得ることができる。従って、内側リング10bの材料として線膨張係数の小さい高価な材料を使用する必要がないので、コストアップとならない。また、対向面との隙間を特に小さくする必要がなくなり、従来の加工精度で済み、コストアップとならず、かつ組立も容易である。
【0034】
また、ランド部40が外側リング10a及び内側リング10bの上下方向中央部に形成されているので、上下方向で中央部を中心に対称の接触面圧が発生する。そのため、外側リング10a及び内側リング10bが、上下方向で傾きが生じない。従って、外側リング10aと内側リング10bとの間に形成されるシール面のシール性能を常に良好に保持できる。さらに、ランド部40の両側にテーパ面42、44を形成しているので、インレットスリーブ16を挿入しやすいという利点がある。
【0035】
なお、本実施形態において、上下方向全長Lに対して、内車室18の内周面18a又はインレットスリーブ16の外周面16aに密着するランド部40の接触面の上下方向長さLの割合が0.3以上0.7以下のとき、十分な接触面圧とシール性能とを得られることがわかった。また、仮想正方形BCDEの断面積Sに対して、本実施形態の外側リング10a又は内側リング10bの断面積Sが0.95以上であれば、外側リング10a及び内側リング10bの剛性が低減せず、良好なシール性能を得られることがわかった。
【0036】
また、ランド部40の接触面に対してテーパ面42、44の角度θが1度以上10度以下であっても、テーパ面42,44との境界付近のランド部40で大きな接触面圧を発生でき、良好なシール性能を得られることがわかった。従って、角度θを前記範囲とすることで、外側リング10a及び内側リング10bの剛性を確保し、かつ大きな接触面圧を得ることができる。
【0037】
参考例1
次に、参考例1図5に基づいて説明する。本参考例において、スタックリング10Bでは、内車室18の内周面18aに対向する外側リング50aの対向面は、上下方向中央に内車室18の内周面18aと平行な平坦面を有するランド部52と、ランド部52の上端で段差54aを介して接続され、内周面18aと平行な平坦面54と、ランド部52の下端で段差56aを介して接続され、内周面18aと平行な平坦面56とで構成されている。
【0038】
ランド部52及び平坦面54、56の上下方向長さは、ランド部52が平坦面54又は56の2倍である。例えば、外側リング50aの上下方向全長L=14.0mmのとき、ランド部52の上下方向長さL=7.0mmで、平坦面54、56の上下方向長さL又はL=3.5mmである。また、段差52a、54aの高さtは、t=0.5mmである。内側リング50bの内周面の構成も、外側リング10aの外周面の構成と同一である。
【0039】
参考例によれば、第1実施形態と同様に、外側リング50a及び内側リング50bの接触面圧を増加でき、シール性能を向上できる。特に、ランド部52の上下端領域において、第1実施形態よりも、接触面圧を高くすることができる。また、本参考例においても、仮想正方形BCDEの接触面の上下方向全長Lに対して、内車室18の内周面18a又はインレットスリーブ16の外周面16aに密着する部分の長さLが0.3以上0.7以下のとき、十分な接触面圧とシール性能とを得られることがわかった。また、仮想正方形BCDEの断面積Sに対して、本参考例の断面形状の断面積Sが0.95以上であれば、外側リング50a及び内側リング50bの剛性が低減せず、良好なシール性能を得られることがわかった。
【0040】
参考例2
次に、参考例2図6により説明する。本参考例において、スタックリング10Cは、内車室18の内周面18aに対する外側リング60aの接触面、及びインレットスリーブ16の外周面16aに対する内側リング60bの接触面に、複数の円弧状断面を有する凹部62を形成したものである。複数の凹部62は、水平方向にかつ等間隔に配置されている。凹部62は、外側リング60a及び内側リング60bの接触面の上下両端にも形成されているので、該上下両端に形成されていた面取りが不要になる。
【0041】
参考例によれば、シール性能を向上できるほか、外側リング60a及び内側リング60bの上下方向で、接触面圧が均等に発生するので、内車室18又はインレットスリーブ16とのシール面を安定して形成できる。また、外側リング60a及び内側リング60bが内車室18の内周面18a又はインレットスリーブ16の外周面16aに対して傾くおそれがないので、外側リング60aと内側リング60b間のシール面のシール性能も良好に維持できる。
【0042】
参考例3
次に、参考例3図7により説明する。本参考例において、スタックリング10Dは、内車室18の内周面18aに対する外側リング70aの接触面、及びインレットスリーブ16の外周面16aに対する内側リング70bの接触面に、複数の矩形状断面を有する凹部72を形成したものである。凹部72は、水平方向にかつ等間隔に配置されている。本参考例によれば、参考例2と同様の作用効果を得られるほか、凹部72が矩形状断面であるので、凹部72の形成が比較的容易であるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、コストアップを招かず、スタックリングのシール面の面圧を増加させることで、蒸気タービンの蒸気配管のスリーブ部と車室との間に形成された環状隙間のシール性能を向上できる。
【符号の説明】
【0044】
10A、10B、10C、10D、100 スタックリング
10a、50a、60a、100a 外側リング
10b、50b、60b、100b 内側リング
12,102 外車室
14,104 主蒸気入口管
16、32,106 インレットスリーブ
16a、32a 外周面
18,108 内車室
18a、108a 内周面
20 ノズル室
20a 内周面
22,26、34,110 押え材
24、28、36 ボルト
30 補助蒸気入口管
40、52 ランド部
42,44 テーパ面
54,56 平坦面
54a、56a 段差
62、72 凹部
s、s1、s2、s3 環状隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8