(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スラスタが備える複数のノズルに対して、共通の燃焼室から燃焼ガスが供給される。各々のノズルは、指定された開度指令値に応じて制御される弁を備える。各々のノズルからその開度に応じた量の燃焼ガスが噴射されることにより、飛翔体の軌道姿勢が制御される。
【0006】
スラスタの燃焼ガスを供給する燃焼室は、圧力が一定に保たれることが望まれる。そのため、ノズルの弁開度は、燃焼室の圧力が一定に保たれるように制御される。しかし、燃焼室の圧力を一定に保つように開度指令値を入力した場合、実際には様々な攪乱要因により、燃焼室の圧力が予期しない変動を起こす場合がある。そうした攪乱要因として、機械的な誤差、弁などの熱膨張、燃料の不均一性などが挙げられる。安定した燃焼を維持するために、燃焼室の圧力を一定に保つ制御が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0008】
本発明による軌道姿勢制御装置は、開度指令値(A1
c〜A4
c)に応答して開度が制御され、燃焼室(6)から供給される燃焼ガスを噴射する複数のノズル(15−1〜15−4)と、燃焼室内の圧力の検出値(P
c)と圧力の指令値(P
com)とに応答して複数のノズルの各々の開度指令値に対する補正値であるノズル開度補正値(ΔA1
c〜ΔA4
c)を算出して、ノズル開度補正値により開度指令値を補正する制御部(17)とを備える。複数のノズルの各々のノズル開度補正値は、開度指令値に基づいて決定される。
【0009】
本発明による軌道姿勢制御方法は、燃焼室(6)から供給される燃焼ガスを噴射する複数のノズルの各々の開度について開度指令値(A1
c〜A4
c)を入力するステップと、燃焼室内の圧力の検出値(P
c)と圧力の指令値(P
com)とを用いて複数のノズル(15−1〜15−4)の各々の開度指令値に対する補正値であるノズル開度補正値(ΔA1
c〜ΔA4
c)を算出する算出ステップと、複数のノズルの各々のノズル開度補正値を開度指令値に基づいて算出し、算出されたノズル開度補正値により開度指令値を補正するステップとを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、燃焼室の圧力を一定に保つことを可能にする軌道姿勢制御装置、軌道姿勢制御方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[スラスタの構成]
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本実施の形態における姿勢制御装置の断面図である。この姿勢制御装置を搭載する飛翔体は、紙面に記載の座標軸のx軸方向に概ね軸対象な外形を有し、概ねx軸方向に推進する。
図1のA−A断面におけるダイバートスラスタ8の断面図を
図2に示す。
【0013】
姿勢制御装置の本体2の内部に、固体燃料4が配置される。飛翔体が飛翔するとき、固体燃料4が燃焼し、本体2の内部の燃焼室6が燃焼ガス6で充満する。燃焼室6の内部の圧力は燃焼圧力センサ7により検出される。燃焼ガスの比較的少ない一部は、姿勢制御スラスタ10に供給される。姿勢制御スラスタ10は、x軸を中心とする円筒座標系の半径方向(
図1のx軸上の点を起点としてyz平面内の方向)を向く複数のノズルからなる。複数のノズルの各々はロータリ弁12を備える。ロータリ弁12の開度は電気信号により制御される。姿勢制御スラスタ10に供給される燃焼ガスが、複数のノズルの各々からロータリ弁12の開度に応じた量噴射することにより、飛翔体の姿勢が制御される。
図1の右下に、ロータリ弁12の開口部の形状14と、ロータリ弁12の弁体の角度とスロート面積の関係を示すグラフとを示す。
【0014】
燃焼室6の燃焼ガス6の比較的多くは、ダイバートスラスタ8に供給される。ダイバートスラスタ8は、x軸を中心とする円筒座標系の半径方向(
図1のx軸上の点を起点としてyz平面内の方向)を向く複数のノズル15−1〜15−4からなる。複数のノズル15−1〜15−4はそれぞれピントル弁16−1〜16−4を備える。
【0015】
飛翔体の外部から無線通信によって、あるいは飛翔体が備える記憶装置に格納されたデータに基づいて、ピントル弁16−1〜16−4の各々に関する開度指令値が与えられる。制御部17は、その開度指令値と燃焼圧力センサ7が検出した燃焼室6の圧力の検出値とに基づいて、アクチュエータ18を制御する。アクチュエータ18により、ピントル弁16−1〜16−4の開度が制御される。ダイバートスラスタ8に供給される燃焼ガスが、複数のノズル15−1〜15−4の各々からピントル弁16−1〜16−4の開度に応じた量噴射することにより、飛翔体の姿勢が制御される。
図2の右下に、ピントル弁16−1〜16−4の開口部の形状と、ピントル弁16−1〜16−4の各々の弁体の位置とスロート面積の関係を示すグラフとを示す。
【0016】
図3を参照して、本実施の形態の背景となるダイバートスラスタ8の開度配分方法について説明する。固体燃料4の燃焼が安定しているとき、生成される燃焼ガスの単位時間当たりの生成量は概ね一定である。従って、燃焼室6から外部に供給される燃焼ガスの流量は概ね一定に保たれることが望まれる。特に、噴射量の多いダイバートスラスタ8から噴射される燃焼ガスの流量は概ね一定に保たれることが望まれる。そのために、ダイバートスラスタ8が備えるピントル弁16−1〜16−4のスロート面積の合計が一定(この一定量を100%とする)に保たれるように各ピントル弁の開度が制御される。こうした制御により燃焼室6の燃焼圧力が一定に保たれ、燃焼圧力の過渡的な変動が抑制される。
【0017】
図3(a)〜(d)には、4つのピントル弁16−1〜16−4とそれぞれのスロート面積のパーセンテージ、及びピントル弁16−1〜16−4からの噴射の合力が描かれている。
図3(a)に示すようにピントル弁16−1を100%の開度に開き、ピントル弁16−2〜16−4を全閉とすると、図の上方向(z軸負方向)に合力が働き、飛翔体の軌道はその合力の反対方向に変えられる。
図3(b)に示すようにピントル弁16−1、16−2をそれぞれ開度50%とし、ピントル弁16−3、16−4をそれぞれ全閉とすると、合力は斜め右上に働き、飛翔体の軌道はその合力の反対方向に変えられる。ダイバートスラスタの噴射による合力を小さくしたい場合は、
図3(c)に示されるように、一方向のピントル弁とその反対方向のピントル弁とを同時に開ける。例えば
図3(c)では、z軸正方向にピントル弁16−3が10%の開度で開けられ、z軸負方向にピントル弁16−4が60%の開度で開けられる。その結果、z軸負方向にスロート面積50%の開度でピントル弁を開いたときの合力と同じ力が得られる。ダイバートスラスタ8による軌道変更を行わないときは、
図3(d)に示されるように、ピントル弁16−1〜16−4の内、互いに対向するもの同士が同じ弁開度に設定される。
【0018】
[参考例]
まず、本発明の実施の形態を説明するための参考例を示す。
ピントル弁16−1〜16−4を一定の総開度指令値で制御した場合、ダイバートスラスタ8の機械的な誤差、弁などの熱膨張、燃料の不均一性などの攪乱要因により、燃焼室6の燃焼圧力は必ずしも一定とならない。そのため、燃焼室6の圧力が一定となるように、燃焼圧力センサ7の検出値を用いて、ダイバートスラスタ8の総弁開度のフィードバック制御が行われる。
【0019】
図4は、燃焼室6の圧力の検出値が設定値よりも小さくなって、ダイバートスラスタ8の総開度を小さくする制御が行われる場合の制御の参考例を示す。総開度を小さくすることにより、噴射される燃焼ガスの量が減少し、燃焼室6の圧力が大きくなる。
【0020】
図4(a)は、ダイバートスラスタ8の総開度指令値が100%であり、それがピントル弁16−1に70%、ピントル弁16−2〜16−4にそれぞれ10%分配されている場合を示す。この状態で燃焼室6の圧力の検出値が設定値よりも小さくなり、総開度指令値に−10%の総補正値が加えられて90%に変更されたとする。この例においては、総補正値が全てのピントル弁16−1〜16−4に均等に分配される。
図4(b)に示すように、−10%の総補正値を全てのピントル弁16−1〜16−4に均等に割り当てることにより、合力の向きは同じに保ちながら、燃焼室6の圧力を上げることが可能である。
【0021】
逆に、燃焼室6の圧力の検出値が設定値よりも大きくなって、ダイバートスラスタ8の総開度を大きくする制御が行われる場合は、正の総補正値を加えることにより(総開度を大きくすることにより)、噴射される燃焼ガスの量が増加し、燃焼室6の圧力が小さくなる。この場合は、ピントル弁開度の補正値(
図4(b)の−2.5%)の符号を逆にすることで、燃焼室の圧力を一定に保つ制御が可能である。
【0022】
[実施の形態]
次に、本発明の実施の形態における制御について説明する。
図5は、燃焼室6の圧力の検出値が設定値よりも小さくなって、ダイバートスラスタ8の総開度を小さくする制御が行われる場合の制御の一例を示す。
図5(a)は、ダイバートスラスタ8の総開度指令値が100%であり、それがピントル弁16−1に70%、ピントル弁16−2〜16−4にそれぞれ10%分配されている場合を示す。この状態で燃焼室6の圧力の検出値が設定値よりも小さくなり、総開度指令値が90%に変更された場合が
図5(b)に示されている。
【0023】
この例では、開度指令値の総補正値が、それぞれのピントル弁16−1〜16−4の補正前の開度指令値に比例するように分配される。
図5(a)の例では、ピントル弁16−1〜16−4の開度指令値は70:10:10:10である。従って総補正値が−10%であるとすると、
図5(b)に示されるように、各ピントル弁16−1〜16−4に−7%:−1%:−1%:−1%の割合で補正値が分配される。
【0024】
こうした制御は、以下のような効果を有する。制御の攪乱要因として、熱膨張によるダイバートスラスタ8の噴射量の変動が寄与していると考えられる。熱膨張の影響を近似的に、ピントル弁16の付近の部材が均一に膨張することによると考えたとする。すると、ピントル弁16の開度が大きいほど熱膨張によるスロート面積の増大量が大きく、従って熱膨張による噴射量の増加量が大きい。
【0025】
この噴射量の増加を適切に抑制するためには、開度指令値の総補正値を、開度が大きいピントル弁により多く分配することが適切であると考えられる。
図5(b)の例では、総補正値を各ピントル弁の開度指令値に比例して分配することにより、より大きく熱膨張している弁の開度がより多く補正されるという望ましい制御が実現される。
【0026】
図6は、上記の制御を実現するための制御部17の構成を示す。制御部17に、無線通信により、又は記憶部に格納されたデータに基づいて、ピントル弁16−1〜16−4のそれぞれに対する開度指令A1
c〜A4
cが入力する。これらの値は、ピントル弁16−1〜16−4のそれぞれに対する開度指令の補正値ΔA1〜ΔA4で補正される。制御部17は、補正された開度指令をピントル弁16−1〜16−4のそれぞれのアクチュエータ18−1〜18−4に出力する。アクチュエータ18−1〜18−4が駆動し、ピントル弁16−1〜16−4の開口面積がそれぞれA1〜A4に設定され、総開口面積A
tが決まる。各々のノズル15−1〜15−4からの噴射により、以下の推力が得られる。
F1=P
c・A1・Cf
F2=P
c・A2・Cf
F3=P
c・A3・Cf
F4=P
c・A4・Cf
P
cは燃焼室6の圧力、Cfは推力係数である。F1とF3の差によりz軸方向の推力Fzが決定される。F2とF4の差によりy軸方向の推力Fyが決定される。
【0027】
燃焼室6の圧力P
cは燃焼圧力センサ7により検出される。制御部17が備える計算機は、記憶部に格納されたデータに基づいて与えられる検出された圧力P
cと燃焼圧力目標値P
comとの偏差ΔP
cに基づいて、典型的にはPID制御によるフィードバック制御を行うために、総開口面積A
tについての補正量である総補正値ΔA
tを算出する。
【0028】
制御部17の計算機は、総補正値ΔA
tを、各ピントル弁16−1〜16−4の補正値ΔA1〜ΔA4に分配する。この分配は、以下の式によって行われる。
ΔA1=ΔA
t×f(A1
c)/{f(A1
c)+f(A2
c)+f(A3
c)+f(A4
c)}
ΔA2=ΔA
t×f(A2
c)/{f(A1
c)+f(A2
c)+f(A3
c)+f(A4
c)}
ΔA3=ΔA
t×f(A3
c)/{f(A1
c)+f(A2
c)+f(A3
c)+f(A4
c)}
ΔA4=ΔA
t×f(A4
c)/{f(A1
c)+f(A2
c)+f(A3
c)+f(A4
c)}
f(開度指令)は、
図6の下部に描かれているような開度指令の単調増加関数である。特にf(開度指令)が比例関数の場合、
図5で説明した制御となる。これらの補正値がピントル弁16−1〜16−4のそれぞれに対する開度指令A1
c〜A4
cの補正値として用いられることにより、開度がより大きい弁に対してより大きい補正量を与えて燃焼室6の圧力を一定に保つ制御が実現される。
【0029】
[加速度の測定値により開度を補正する制御]
以上、燃焼室の圧力変化に応じたダイバートスラスタの制御の例について説明した。一方、飛翔体が指令に従った軌道を正確に飛翔するためには、飛翔体の加速度の測定値を用いたフィードバック制御が行われることが望まれる。
図7は、そうした制御の例を示す。
【0030】
軌道姿勢制御装置は、加速度センサ部を備える。加速度センサ部は、
図1、
図2に示される座標軸のy軸方向の加速度を測定するy軸加速度センサと、z軸方向の加速度を測定するz軸加速度センサとを含む。
【0031】
制御部17に、無線通信により、又は記憶部に格納されたデータに基づいて、ピントル弁16−1〜16−4のそれぞれに対する開度指令A1
c〜A4
cが入力する。これらの値は、ピントル弁16−1〜16−4のそれぞれに対する開度指令の補正値ΔA1〜ΔA4で補正される。制御部17は、補正された開度指令をピントル弁16−1〜16−4のそれぞれのアクチュエータ18−1〜18−4に出力する。アクチュエータ18−1〜18−4が駆動し、ピントル弁16−1〜16−4の開口面積がそれぞれA1〜A4に設定され、総開口面積A
tが決まる。各々のノズル15−1〜15−4からの噴射により、以下の推力が得られる。
F1=P
c・A1・Cf
F2=P
c・A2・Cf
F3=P
c・A3・Cf
F4=P
c・A4・Cf
P
cは燃焼室6の圧力、Cfは推力係数である。F1とF3の差によりz軸方向の推力F
zが決定される。F2とF4の差によりy軸方向の推力F
yが決定される。推力F
y、F
zにより、飛翔体にy軸加速度、z軸加速度が発生する。
【0032】
y軸加速度センサ、z軸加速度センサは、y軸加速度G
y、z軸加速度G
zをそれぞれ検出する。制御部17が備えるオブザーバ32は、これらの加速度に基づいてダイバートスラスタの開度指令値を補正する。オブザーバ32の記憶装置は、飛翔体の慣性モデルを記憶する。オブザーバ32は、この慣性モデルと、入力したy軸加速度G
yとz軸加速度G
zにより、y軸方向の推力F
yeと、z軸方向の推力F
zeとの推定値を算出する。
【0033】
オブザーバ32は、ピントル弁開度指令A1
c〜A4
cを、予め記憶した計算式又はテーブルにより、y軸方向の推力の指令値とz軸方向の推力の指令値に変換する。オブザーバ32は更に、この推力の指令値と推力の推定値F
ye、F
zeとの偏差ΔF
y、ΔF
zを算出する。偏差ΔF
zが小さくなるように、第1群のピントル弁16−1、16−3の相対的な開度の差の補正値ΔA
zが計算される。偏差ΔF
yが小さくなるように、第2群のピントル弁16−2、16−4の相対的な開度の差の補正値ΔA
yが計算される。
【0034】
ΔA
y、ΔA
zを、それぞれ対向するピントル弁に対して均等に分配すると、各ピントル弁に対して以下の補正量が分配される。
ΔA1 : +ΔA
z/2
ΔA2 : +ΔA
y/2
ΔA3 : −ΔA
z/2
ΔA4 : −ΔA
y/2
【0035】
更に、燃焼室6の圧力の検出値の変動に対する本実施の形態の制御方法で関数f(開度指令)が比例関数の場合を適用すると、各ピントル弁の開度補正値ΔA1〜ΔA4は以下のように決定される。
ΔA1=ΔA
t×A1
c/(A1
c+A2
c+A3
c+A4
c)+ΔA
z/2
ΔA2=ΔA
t×A2
c/(A1
c+A2
c+A3
c+A4
c)+ΔA
y/2
ΔA3=ΔA
t×A3
c/(A1
c+A2
c+A3
c+A4
c)−ΔA
z/2
ΔA4=ΔA
t×A4
c/(A1
c+A2
c+A3
c+A4
c)−ΔA
y/2
【0036】
ダイバートスラスタの噴射方向についての加速度の検出値のフィードバック制御が行われることにより、飛翔体の軌道を正確に制御できる。更に、燃焼圧力を安定化する制御が可能である。