(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無段変速機(T)はシフト・バイ・ワイヤによりシフトレンジを切り換えられ、前記シフトレンジ検出手段(Sa)が走行レンジから非走行レンジへの切り換えを検出して前記偏心部材(19)が360°の回転を開始した後、前記シフトレンジ検出手段(Sa)が非走行レンジから走行レンジへの切り換えを検出したとき、前記偏心部材(19)が回転開始時の位相に復帰するまで前記無段変速機(T)のシフトレンジが非走行レンジに保持されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
回転角検出手段(Sb,Sc)が検出した前記偏心部材(19)の回転角θが0°<θ≦180°である間に、前記シフトレンジ検出手段(Sa)が非走行レンジから走行レンジへの切り換えを検出したとき、前記変速比制御手段(U)は前記偏心部材(19)を回転開始時の位相まで逆転させることを特徴とする、請求項2に記載の車両用動力伝達装置。
前記無段変速機(T)は運転者によるシフトレバーの操作に機械的に連動してシフトレンジを切り換えられ、イグニッションオフ検出手段(Sd)がイグニッションキーの操作でイグニッションオフになったことを検出したときに、前記変速比制御手段(U)は前記変速アクチュエータ(23)を駆動して前記偏心部材(19)を前記偏心カム(18)に対して360°回転させることを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
前記変速比制御手段(U)が前記偏心部材(19)の360°の回転を開始した後、回転角検出手段(Sb,Sc)が検出した前記偏心部材(19)の回転角θが0°<θ≦180°である間に、前記イグニッションオフ検出手段(Sd)がイグニッションキーの操作でイグニッションオンになったことを検出したときに、前記変速比制御手段(U)は前記偏心部材(19)を回転開始時の位相まで逆転させることを特徴とする、請求項4に記載の車両用動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の無段変速機を備える車両は、停車中に偏心部材の偏心量をゼロに制御しておき、この状態から偏心部材の偏心量を増加させることで発進を行うようになっている。偏心部材の偏心量をゼロから増加させて車両が発進するとき、偏心部材の偏心量を変更するピニオンおよびリングギヤのギヤ歯が噛合する部分に大きな負荷が加わるため、偏心部材の偏心量がゼロのときに噛合する特定のギヤ歯が異常摩耗して耐久性が低下する可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、クランク式の無段変速機を備える車両用動力伝達装置において、偏心部材の偏心量を変更するギヤの特定のギヤ歯の異常摩耗を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する無段変速機が、前記入力軸に一体に設けた偏心カムと、前記偏心カムの外周に相対回転自在に嵌合するリングギヤが形成された偏心部材と、前記入力軸と同軸に配置されて変速アクチュエータにより回転する変速軸と、前記変速軸に設けられて前記リングギヤに噛合するピニオンと、前記出力軸に設けたワンウェイクラッチと、前記偏心部材および前記ワンウェイクラッチのアウター部材に接続されて往復運動するコネクティングロッドと、前記変速軸を前記入力軸に対して相対回転させて前記偏心カムに対する前記偏心部材の位相を変化させることで、前記入力軸の軸線からの前記偏心部材の偏心量を変化させて変速比を変更する変速比制御手段とを備え、前記リングギヤの歯数が前記ピニオンの歯数の整数倍と異なる値に設定された車両用動力伝達装置であって、運転者が選択したシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段を備え、前記シフトレンジ検出手段で検出したシフトレンジが非走行レンジであるとき、前記変速比制御手段は前記変速アクチュエータを駆動して前記偏心部材を前記偏心カムに対して360°回転させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記無段変速機はシフト・バイ・ワイヤによりシフトレンジを切り換えられ、前記シフトレンジ検出手段が走行レンジから非走行レンジへの切り換えを検出して前記偏心部材が360°の回転を開始した後、前記シフトレンジ検出手段が非走行レンジから走行レンジへの切り換えを検出したとき、前記偏心部材が回転開始時の位相に復帰するまで前記無段変速機のシフトレンジが非走行レンジに保持されることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、回転角検出手段が検出した前記偏心部材の回転角θが0°<θ≦180°である間に、前記シフトレンジ検出手段が非走行レンジから走行レンジへの切り換えを検出したとき、前記変速比制御手段は前記偏心部材を回転開始時の位相まで逆転させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記無段変速機は運転者によるシフトレバーの操作に機械的に連動してシフトレンジを切り換えられ、イグニッションオフ検出手段がイグニッションキーの操作でイグニッションオフになったことを検出したときに、前記変速比制御手段は前記変速アクチュエータを駆動して前記偏心部材を前記偏心カムに対して360°回転させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項4の構成に加えて、前記変速比制御手段が前記偏心部材の360°の回転を開始した後、回転角検出手段が検出した前記偏心部材の回転角θが0°<θ≦180°である間に、前記イグニッションオフ検出手段がイグニッションキーの操作でイグニッションオンになったことを検出したときに、前記変速比制御手段は前記偏心部材を回転開始時の位相まで逆転させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0011】
尚、実施の形態の偏心ディスク19は本発明の偏心部材に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態のクランク回転角検出手段Sbおよびピニオン回転角検出手段Scは本発明の回転角検出手段に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の変速比制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、車両用動力伝達装置の無段変速機は、入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する偏心部材と、出力軸に設けたワンウェイクラッチのアウター部材とをコネクティングロッドで接続して構成したので、入力軸が回転してコネクティングロッドが往復運動すると、ワンウェイクラッチが間欠的に係合することで出力軸が間欠的に回転して駆動力が伝達される。その際に、変速比制御手段が変速アクチュエータで変速軸を入力軸に対して相対回転させ、ピニオンでリングギヤを回転させて偏心カムに対する偏心部材の位相を変化させることで、入力軸の軸線からの偏心部材の偏心量を変化させて変速比を変更することができる。
【0013】
リングギヤの歯数がピニオンの歯数の整数倍と異なる値に設定されており、シフトレンジ検出手段で検出したシフトレンジが非走行レンジであるとき、変速比制御手段は変速アクチュエータを駆動して偏心部材を偏心カムに対して360°回転させるので、回転前と回転後とでリングギヤのギヤ歯に噛合するピニオンのギヤ歯を異ならすことができ、ピニオンの特定のギヤ歯が摩耗するのを防止することができる。しかも偏心ディスクの360°の回転は、シフトレンジが非走行レンジであって車両が停止しているときに行われるので、その間に無段変速機の変速比が一時的に変化しても支障はない。
【0014】
また請求項2の構成によれば、無段変速機はシフト・バイ・ワイヤによりシフトレンジを切り換えられるので、無段変速機を非走行レンジから走行レンジに切り換えるタイミングを遅らせて車両の発進を規制することができる。シフトレンジ検出手段が走行レンジから非走行レンジへの切り換えを検出して偏心部材が360°の回転を開始した後、シフトレンジ検出手段が非走行レンジから走行レンジへの切り換えを検出したとき、偏心部材が回転開始時の位相に復帰するまで無段変速機のシフトレンジがシフト・バイ・ワイヤにより非走行レンジに保持されるので、運転者がシフトレバーを非走行レンジに操作した後に直ちに走行レンジに操作したような場合に、偏心部材が360°の回転の途中にあって変速比が変化している状態で車両が発進する事態を未然に回避することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、回転角検出手段が検出した偏心部材の回転角θが0°<θ≦180°である間に、シフトレンジ検出手段が非走行レンジから走行レンジへの切り換えを検出したとき、変速比制御手段は偏心部材を回転開始時の位相まで逆転させるので、偏心部材をそのまま360°回転させるよりも短時間で偏心部材を回転開始時の位相に戻すことができ、車両の発進の遅れを最小限に抑えることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、無段変速機は運転者によるシフトレバーの操作に機械的に連動してシフトレンジを切り換えられるので、無段変速機を非走行レンジから走行レンジに切り換えるタイミングを制御により遅らせることができず、偏心部材が360°の回転の途中にあって変速比が変化している状態で車両が発進する可能性がある。しかしながら、イグニッションオフ検出手段がイグニッションキーの操作でイグニッションオフになったことを検出したときに、変速比制御手段は変速アクチュエータを駆動して偏心部材を偏心カムに対して360°回転させるので、無段変速機のシフトレンジが走行レンジに切り換えられても車両が発進する事態を未然に回避することができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、変速比制御手段が偏心部材の360°の回転を開始した後、回転角検出手段が検出した偏心部材の回転角θが0°<θ≦180°である間に、イグニッションオフ検出手段がイグニッションキーの操作でイグニッションオンになったことを検出したときに、変速比制御手段は偏心部材を回転開始時の位相まで逆転させるので、偏心部材をそのまま360°回転させるよりも短時間で偏心部材を回転開始時の位相に戻すことができ、イグニッションオンにより車両が発進可能になったときに車両の発進の遅れを最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1〜
図12に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0020】
図1〜
図5に示すように、自動車用の無段変速機Tのミッションケース11の一対の側壁11a,11bに入力軸12および出力軸13が相互に平行に支持されており、エンジンEに接続された入力軸12の回転が6個の伝達ユニット14…、出力軸13およびディファレンシャルギヤDを介して駆動輪に伝達される。中空に形成された入力軸12の内部に、その入力軸12と軸線Lを共有する変速軸15が7個のニードルベアリング16…を介して相対回転可能に嵌合する。6個の伝達ユニット14…の構造は実質的に同一構造であるため、以下、一つの伝達ユニット14を代表として構造を説明する。
【0021】
伝達ユニット14は変速軸15の外周面に設けられたピニオン17を備えており、このピニオン17は入力軸12に形成した開口12aから露出する。ピニオン17を挟むように、入力軸12の外周に軸線L方向に2分割された円板状の偏心カム18がスプライン結合される。偏心カム18の中心O1は入力軸12の軸線Lに対して距離dだけ偏心している。また6個の伝達ユニット14…の6個の偏心カム18…は、その偏心方向の位相が相互に60°ずつずれている。
【0022】
偏心カム18の外周面には、円板状の偏心ディスク19の軸線L方向両端面に形成した一対の偏心凹部19a,19aが、一対のニードルベアリング20,20を介して回転自在に支持される。偏心ディスク19の中心O2に対して偏心凹部19a,19aの中心O1(つまり偏心カム18の中心O1)は距離dだけずれている。即ち、入力軸12の軸線Lおよび偏心カム18の中心O1間の距離dと、偏心カム18の中心O1および偏心ディスク19の中心O2間の距離dとは同一である。
【0023】
軸線L方向に2分割された偏心カム18の割り面には、その偏心カム18の中心O1と同軸に一対の三日月状のガイド部18a,18aが設けられており、偏心ディスク19の一対の偏心凹部19a,19aの底部間を連通させるように形成されたリングギヤ19bの歯先が、偏心カム18のガイド部18a,18aの外周面に摺動可能に当接する。そして変速軸15のピニオン17が、入力軸12の開口12aを通して偏心ディスク19のリングギヤ19bに噛合する。
【0024】
本実施の形態では、ピニオン17の歯数は18であり、リングギヤ19bの歯数は32であり、リングギヤ19bの歯数32がピニオン17の歯数18に整数倍にならないように設定されている(
図9参照)。
【0025】
入力軸12の一端側はボールベアリング21を介してミッションケース11の一方の側壁11aに直接支持される。また入力軸12の他端側に位置する1個の偏心カム18に一体に設けた筒状部18bが、ボールベアリング22を介してミッションケース11の他端側の側壁11bに支持されており、その偏心カム18の内周にスプライン結合された入力軸12の他端側は、ミッションケース11に間接的に支持される。
【0026】
入力軸12に対して変速軸15を相対回転させて無段変速機Tの変速比を変更する変速アクチュエータ23は、モータ軸24aが軸線Lと同軸になるようにミッションケース11に支持された電動モータ24と、電動モータ24に接続された遊星歯車機構25とを備える。遊星歯車機構25は、電動モータ24にニードルベアリング26を介して回転自在に支持されたキャリヤ27と、モータ軸24aに固定されたサンギヤ28と、キャリヤ27に回転自在に支持された複数の2連ピニオン29…と、中空の入力軸12の軸端(厳密には、前記1個の偏心カム18の筒状部18bの軸端)にスプライン結合された第1リングギヤ30と、変速軸15にスプライン結合された第2リングギヤ31とを備える。各2連ピニオン29は大径の第1ピニオン29aと小径の第2ピニオン29bとを備えており、第1ピニオン29aはサンギヤ28および第1リングギヤ30に噛合し、第2ピニオン29bは第2リングギヤ31に噛合する。
【0027】
偏心ディスク19の外周には、ローラベアリング32を介してコネクティングロッド33の一端側の環状部33aが相対回転自在に支持される。
【0028】
出力軸13はミッションケース11の一対の側壁11a,11bに一対のボールベアリング34,35で支持されており、その外周にはワンウェイクラッチ36が設けられる。ワンウェイクラッチ36は、コネクティングロッド33のロッド部33bの先端に連結ピン37を介して枢支されたリング状のアウター部材38と、アウター部材38の内部に配置されて出力軸13に固定されたインナー部材39と、アウター部材38の内周の円弧面とインナー部材39の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されて複数個のスプリング40…で付勢された複数個のローラ41…とを備える。
【0029】
図6および
図8に示すように、偏心ディスク19の中心O2に対して偏心凹部19a,19aの中心O1(つまり偏心カム18の中心O1)は距離dだけずれているため、偏心ディスク19の外周と偏心凹部19a,19aの内周との間隔は円周方向に不均一になっており、その間隔が大きい部分に三日月状の肉抜き凹部19c,19cが形成される。
【0030】
次に、無段変速機Tの一つの伝達ユニット14の作用を説明する。
【0031】
図5および
図7(A)〜
図7(D)から明らかなように、入力軸12の軸線Lに対して偏心ディスク19の中心O2が偏心しているとき、エンジンEによって入力軸12が回転するとコネクティングロッド33の環状部33aが軸線Lまわりに偏心回転することで、コネクティングロッド33のロッド部33bが往復運動する。
【0032】
その結果、
図5において、コネクティングロッド33が往復運動する過程で図中右側に押されると、スプリング40…に付勢されたローラ41…がアウター部材38およびインナー部材39間の楔状の空間に噛み込み、アウター部材38およびインナー部材39がローラ41…を介して結合されることで、ワンウェイクラッチ36が係合してコネクティングロッド33の動きが出力軸13に伝達される。逆にコネクティングロッド33が往復動する過程で図中左側に引かれると、ローラ41…がスプリング40…を圧縮しながらアウター部材38およびインナー部材39間の楔状の空間から押し出され、アウター部材38およびインナー部材39が相互にスリップすることで、ワンウェイクラッチ36が係合解除してコネクティングロッド33の動きが出力軸13に伝達されなくなる。
【0033】
このようにして、入力軸12が1回転する間に、入力軸12の回転が所定時間だけ出力軸13に伝達されるため、入力軸12が連続回転すると出力軸13は間欠回転する。6個の伝達ユニット14…の偏心ディスク19…の偏心方向の位相が相互に60°ずつずれているため、6個の伝達ユニット14…が入力軸12の回転を交互に出力軸13に伝達することで、出力軸13は連続的に回転する。
【0034】
このとき、偏心ディスク19の偏心量εが大きいほど、コネクティングロッド33の往復ストロークが大きくなって出力軸13の1回の回転角が増加し、無段変速機Tの変速比が小さくなる。逆に、偏心ディスク19の偏心量εが小さいほど、コネクティングロッド33の往復ストロークが小さくなって出力軸13の1回の回転角が減少し、無段変速機Tの変速比が大きくなる。そして偏心ディスク19の偏心量εがゼロになると、入力軸12が回転してもコネクティングロッド33が移動を停止するために出力軸13は回転せず、無段変速機Tの変速比が最大(無限大)になる。
【0035】
入力軸12に対して変速軸15が相対回転しないとき、つまり入力軸12および変速軸15が同一速度で回転するとき、無段変速機Tの変速比は一定に維持される。入力軸12および変速軸15を同一速度で回転させるには、入力軸12と同速度で電動モータ24を回転駆動すれば良い。その理由は、遊星歯車機構25の第1リングギヤ30は入力軸12に接続されて該入力軸12と同一速度で回転するが、それと同一速度で電動モータ24を駆動するとサンギヤ28および第1リングギヤ30が同一速度で回転するため、遊星歯車機構25はロック状態になって全体が一体に回転する。その結果、一体に回転する第1リングギヤ30および第2リングギヤ31に接続された入力軸12および変速軸15は一体化され、相対回転することなく同速度で回転するからである。
【0036】
入力軸12の回転数に対して電動モータ24の回転数を増速あるいは減速すると、入力軸12に結合された第1リングギヤ30と電動モータ24に接続されたサンギヤ28とが相対回転するため、キャリヤ27が第1リングギヤ30に対して相対回転する。このとき、相互に噛合する第1リングギヤ30および第1ピニオン29aの歯数比と、相互に噛合する第2リングギヤ31および第2ピニオン29bの歯数比とが僅かに異なるため、第1リングギヤ30に接続された入力軸12と第2リングギヤ31に接続された変速軸15とが相対回転する。
【0037】
このようにして入力軸12に対して変速軸15が相対回転すると、各伝達ユニット14のピニオン17にリングギヤ19bを噛合させた偏心ディスク19の偏心凹部19a,19aが、入力軸12と一体の偏心カム18のガイド部18a,18aに案内されて回転し、入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εが変化する。
【0038】
図7(A)は変速比が最小の状態(変速比:TD)を示すもので、このとき入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εは、入力軸12の軸線Lから偏心カム18の中心O1までの距離dと、偏心カム18の中心O1から偏心ディスク19の中心O2までの距離dとの和である2dに等しい最大値になる。入力軸12に対して変速軸15が相対回転すると、入力軸12と一体の偏心カム18に対して偏心ディスク19が相対回転することで、
図7(B)および
図7(C)に示すように、入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εは最大値の2dから次第に減少して変速比が増加する。入力軸12に対して変速軸15が更に相対回転すると、入力軸12と一体の偏心カム18に対して偏心ディスク19が更に相対回転することで、
図7(D)に示すように、ついには入力軸12の軸線Lに偏心ディスク19の中心O2が重なり合って偏心量εがゼロになり、変速比が最大(無限大)の状態(変速比:UD)になって出力軸13に対する動力伝達が遮断される。
【0039】
図10は変速アクチュエータ23を駆動する電動モータ24の制御系を示すもので、マイクロコンピュータよりなる電子制御ユニットUには、運転者がシフトレバーを操作して選択したシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段Saと、エンジンEのクランク回転角を検出するクランク回転角検出手段Sbと、変速軸15に設けたピニオン17…の回転角を検出するピニオン回転角検出手段Scとが接続される。
【0040】
クランク回転角検出手段Sbおよびピニオン回転角検出手段Scは、偏心ディスク19の回転角を検出する回転角検出手段を構成する。なぜならば、クランクシャフトの回転角は入力軸12の回転角に一致するため、クランク回転角検出手段Sbで検出した入力軸12の回転角およびピニオン回転角検出手段Scで検出したピニオン17の回転角の差分が、入力軸12と一体に回転する偏心カム18に対するピニオン17の相対回転角となる。そしてピニオン17の相対回転角が分かれば、ピニオン17の歯数およびリングギヤ19bの歯数から、偏心カム18に対するリングギヤ19bの回転角、即ち偏心ディスク19の回転角を知ることができる。尚、回転角検出手段として、偏心カム18に対するリングギヤ19bの回転角を直接検出するものを用いても良い。
【0041】
次に、ピニオン17…の特定のギヤ歯の異常摩耗を防止するための制御を、
図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0042】
先ず、ステップS1でシフトレンジ検出手段Saが運転者がシフトレバーを操作してパーキングレンジを選択したことを検出すると、ステップS2で電子制御ユニットUからの指令で電動モータ24が駆動されてピニオン17が回転し、ピニオン17にリングギヤ19bを噛合させた偏心ディスク19が偏心カム18まわりに回転を開始する。ステップS3でクランク回転角検出手段Sbで検出した入力軸12の回転数およびピニオン回転角検出手段Scで検出したピニオン17の回転数から偏心ディスク19の回転角θを算出し、その回転角θが360°に達すると電動モータ24が停止する。このように、シフトレバーでパーキングレンジが選択される度に、偏心ディスク19が偏心カム18まわりに1回転する。
【0043】
図9(A)に示すように、車両が停止すると無段変速機Tの変速比は無限大のUDに戻されるため、偏心ディスク19の偏心量εはゼロの状態になり、このときピニオン17の一つのギヤ歯aがリングギヤ19bに噛合しているとする。
図9(B)は、
図9(A)の状態からピニオン17により駆動された偏心ディスク19が時計方向に90°(ギヤ歯8個分)回転した状態を示し、
図9(C)は、
図9(B)の状態からピニオン17により駆動された偏心ディスク19が時計方向に更に90°(ギヤ歯8個分)回転し、偏心ディスク19の偏心量εが最大のTDになった状態を示している。このとき、ピニオン17のギヤ歯aは、1回転よりも2歯分少ない角度だけ回転した状態になる。
【0044】
図9(D)は、
図9(C)の状態からピニオン17により駆動された偏心ディスク19が時計方向に更に90°(ギヤ歯8個分)回転した状態を示し、
図9(E)は、
図9(B)の状態からピニオン17により駆動された偏心ディスク19が時計方向に更に90°(ギヤ歯8個分)回転し、偏心ディスク19の偏心量εが回転開始前のゼロの状態に復帰してUDになった状態を示している。このとき、ピニオン17のギヤ歯aは、2回転よりも4歯分少ない角度だけ回転した状態になる。
【0045】
このように、偏心ディスク19が1回転する間にピニオン17は2回転弱しか回転せず、当初リングギヤ19bに噛合していたギヤ歯aの代わりに、別のギヤ歯b(
図9(E)参照)がリングギヤ19bに噛合する状態となる。よって、シフトレバーがパーキングレンジに操作される度にピニオン17の異なるギヤ歯がリングギヤ19bに噛合することで、ピニオン17の特定のギヤ歯だけが異常摩耗して耐久性が低下する事態を未然に回避することができる。しかも偏心ディスク19の360°の回転は、シフトレンジがパーキングレンジであって車両が停止しているときに行われるので、その間に無段変速機Tの変速比が一時的に変化しても支障はない。
【0046】
それに対し、
図12に示す比較例は、リングギヤ19bの歯数を24に設定し、ピニオン17の歯数を12に設定したもので、リングギヤ19bの歯数はピニオン17の歯数の整数倍(2倍)になっている。よって、ピニオン17が2回転して偏心ディスク19が
図12(A)の状態から
図12(E)の状態へと1回転したとき、ピニオン17の同じギヤ歯aがリングギヤ19bに噛合することになり、そのギヤ歯aが異常摩耗して耐久性が低下する虞がある。
【0047】
次に、
図13のフローチャートに基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0048】
第2の実施の形態の無段変速機Tは、シフト・バイ・ワイヤにより制御される。即ち、無段変速機Tは、前進走行レンジ、後進走行レンジ、パーキングレンジおよびニュートラルレンジを切り換える不図示のレンジ切換手段を備えており、運転者のシフトレバーの操作を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて不図示のアクチュエータを駆動することで、前記レンジ切換手段を作動させて前進走行レンジ、後進走行レンジ、パーキングレンジおよびニュートラルレンジを切り換えることができる。
【0049】
パーキングレンジにおいて偏心ディスク19が回転を開始してから、偏心ディスク19が360°回転して元の位相に復帰するまでに1秒ないし2秒の時間が必要である。運転者がシフトレバーを前進走行レンジから一旦パーキングレンジに操作して偏心ディスク19が回転を開始した後、偏心ディスク19の360°の回転が完了する前に運転者がシフトレバーをパーキングレンジから前進走行レンジあるいは後進走行レンジに操作してしまうと、変速比が大きい状態で車両が予期せずに発進してしまう可能性がある。本実施の形態は、このような事態を回避するためのものである。
【0050】
図13のフローチャートのステップS11でシフトレバーがパーキングレンジに操作されると、ステップS12でシフト・バイ・ワイヤにより無段変速機Tのパーキングレンジ以外のレンジへの切り換えが禁止され、ステップS13で偏心ディスク19の360°の回転が開始される。ステップS14で偏心ディスク19の回転角θが既に180°(半回転)以上になっていれば、ステップS15で偏心ディスク19の回転をそのまま継続し、ステップS16で偏心ディスク19の回転角θが360°に達すれば、ステップS17で偏心ディスク19の回転を停止し、ステップS18でシフト・バイ・ワイヤにより無段変速機Tのパーキングレンジ以外のレンジへの切り換えが許可され、車両の発進が可能になる。
【0051】
一方、前記ステップS14で偏心ディスク19の回転角θが180°(半回転)未満であり、かつステップS19でシフトレバーがパーキングレンジ以外のレンジに操作されると、ステップS20で偏心ディスク19の回転方向を逆方向に切り換え、ステップS21で偏心ディスク19の回転角θが0°に戻れば、ステップS22で偏心ディスク19の回転を停止し、ステップS23でシフト・バイ・ワイヤにより無段変速機Tのパーキングレンジ以外のレンジへの切り換えが許可され、車両の発進が可能になる。
【0052】
以上のように、運転者がシフトレバーを前進走行レンジから一旦パーキングレンジに操作して偏心ディスク19が回転を開始した後、偏心ディスク19の360°の回転が完了する前に運転者がシフトレバーをパーキングレンジから前進走行レンジあるいは後進走行レンジに操作した場合、偏心ディスク19の回転角θが180°以上であれば、そのまま回転させてUD状態に復帰させ、偏心ディスク19の回転角θが180°未満であれば、逆転させてUD状態に復帰させるので、偏心ディスク19を最短時間でUD状態に復帰させて車両の発進の遅れを最小限に抑えることができる。
【0053】
次に、
図14および
図15に基づいて本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0054】
第1、第2の実施の形態の無段変速機Tはシフト・バイ・ワイヤによりシフトレンジが切り換えられるものであるが、第3の実施の形態の無段変速機Tはマニュアル操作によりシフトレンジが切り換えられるものである。即ち、運転者によりシフトレバーが操作されると、その動きがワイヤーやリンクを介して油圧制御装置のマニュアルバルブに機械的に伝達され、油圧により作動するアクチュエータにより無段変速機Tの前進走行レンジ、後進走行レンジ、パーキングレンジおよびニュートラルレンジが切り換えられる。よって、パーキングレンジで偏心ディスク19の360°の回転が行われている間に、運転者がシフトレバーをパーキングレンジから前進走行レンジあるいは後進走行レンジに操作した場合、無段変速機Tが前進走行レンジあるいは後進走行レンジに切り換えられるのを電気的に規制することができないため、変速比が大きい状態で車両が発進してしまう可能がある。第3の実施の形態は、このような事態を回避するためのものである。
【0055】
図14は第3の実施の形態に係る変速アクチュエータ23の電動モータ24の制御系を示すもので、
図10に示す第1の実施の形態に対し、運転者によるイグニッションキーのオフ操作を検出するイグニッションオフ検出手段Sdが付加されている。
【0056】
図15のフローチャートのステップS31でシフトレバーがパーキングレンジに操作され、かつステップS32でイグニッションオフ検出手段Sdによりイグニッションキーのオフ操作が検出されると、ステップS33で偏心ディスク19の360°の回転が開始される。ステップS34で偏心ディスク19の回転角θが既に180°(半回転)以上になっていれば、ステップS35で偏心ディスク19の回転をそのまま継続し、ステップS36で偏心ディスク19の回転角θが360°に達すれば、ステップS37で偏心ディスク19の回転を停止する。
【0057】
一方、前記ステップS34で偏心ディスク19の回転角θが180°(半回転)未満であり、かつステップS38でイグニッションオフ検出手段Sdによりイグニッションキーのオン操作が検出されれば、ステップS39で偏心ディスク19の回転方向を逆方向に切り換え、ステップS40で偏心ディスク19の回転角θが0°に戻れば、ステップS31で偏心ディスク19の回転を停止する。
【0058】
以上のように、無段変速機Tがマニュアル操作でシフトレンジが切り換えられる場合には、イグニッションキーがオフされたことを条件に偏心ディスク19の360°の回転が開始されるので、偏心ディスク19が360°の回転を完了する1秒ないし2秒の短い期間にエンジンEが始動しないことが保証され、仮に偏心ディスク19の360°の回転が完了する前に運転者がシフトレバーをパーキングレンジから前進走行レンジあるいは後進走行レンジに操作しても、車両が予期せず発進するのを防止することができる。
【0059】
また偏心ディスク19の回転角θが180°未満の状態でイグニッションキーがオンされてエンジンEが始動したときには、偏心ディスク19を逆回転させて速やかにUD状態に戻すことで、車両の発進の遅れを最小限に抑えることができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0061】
例えば、本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、電動モータ等の他の駆動源であっても良い。
【0062】
また実施の形態ではリングギヤ19bの歯数を32に設定し、ピニオン17の歯数を18に設定しているが、リングギヤ19bおよびピニオン17の歯数はこれに限定されず、リングギヤ19bの歯数がピニオン17の歯数の整数倍でなければ良い。