(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000211
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】自動尻拭き装置
(51)【国際特許分類】
A47K 7/08 20060101AFI20160915BHJP
【FI】
A47K7/08
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-192636(P2013-192636)
(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2015-58091(P2015-58091A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大澤 文明
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝純
(72)【発明者】
【氏名】山田 龍三
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕之
(72)【発明者】
【氏名】新美 清明
【審査官】
油原 博
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−065095(JP,U)
【文献】
特開2011−062532(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3029012(JP,U)
【文献】
特開平09−047379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/08、10/34
E03D 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な支軸回りに中心を回転可能に支持された円形体と、当該円形体を回転駆動する駆動手段と、前記円形体の少なくとも外周部を構成し、使用者の肛門付近の尻表面に圧接させられて肛門付近の尻断面に沿うように変形させられる弾性部材と、前記円形体の回転に伴って前記弾性部材の外周面上に引き出され、弾性部材に背後を支持された状態で前記尻表面に圧接しつつ通過させられる尻拭き材とを具備し、前記円形体の外周部における前記弾性部材の自由状態での断面形状をその周方向で異ならせたことを特徴とする自動尻拭き装置。
【請求項2】
前記弾性部材の断面形状を略三角形として、その外周先端の頂角を周方向で異ならせた請求項1に記載の自動尻拭き装置。
【請求項3】
水平な支軸回りに中心を回転可能に支持された円形体と、当該円形体を回転駆動する駆動手段と、前記円形体の少なくとも外周部を構成し、使用者の肛門付近の尻表面に圧接させられて肛門付近の尻断面に沿うように変形させられる弾性部材と、前記円形体の回転に伴って前記弾性部材の外周面上に引き出され、弾性部材に背後を支持された状態で前記尻表面に圧接しつつ通過させられる尻拭き材と、前記円形体の外周部における前記弾性部材の断面形状を変化させる形状変更手段とを備える自動尻拭き装置。
【請求項4】
前記弾性部材を複数の弾性チューブで構成し、前記形状変更手段を、前記弾性チューブに所定圧の圧空を供給して前記弾性チューブを変形させる圧空供給機構で構成した請求項3に記載の自動尻拭き装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器に着座した用足し後の使用者の尻を自動的に拭く自動尻拭き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病人や介護老人が簡易トイレ等で用を足す際に、排泄された汚物を処理する装置は例えば特許文献1や特許文献2に示されている。特許文献1では汚物収納袋を便器上で開口させ、用済み後は上記開口を閉じて汚物収納袋を汚物収納ボックス内へ離脱収納するようにしている。また、特許文献2では巻き取られたロールから不織布を引き出し、排泄物等を不織布上に受けた後、排泄物等を固形化して不織布をカバーし、熱融着で封をした後に不織布を巻き取るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−314349
【特許文献2】実用新案登録第3029012号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、病人や介護老人にとって用足し後の尻を拭く作業は、トイレットペーパーを掴んで中腰になり、あるいは腰を捻った姿勢で行う必要があるため体力的に困難な場合があり、また介護人による作業も難渋するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、用足し後の尻拭きを自動で行うことによって病人や介護人等の労力負担を軽減することができる自動尻拭き装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、本第1発明では、水平な支軸(43)回りに中心を回転可能に支持された円形体(41)と、当該円形体(41)を回転駆動する駆動手段(45)と、前記円形体(41)の少なくとも外周部を構成し、使用者の肛門付近の尻(H)表面に圧接させられて肛門付近の尻断面に沿うように変形させられる弾性部材(44)と、前記円形体(41)の回転に伴って前記弾性部材(44)の外周面上に引き出され、弾性部材(44)に背後を支持された状態で前記尻(H)表面に圧接しつつ通過させられる尻拭き材(33,34)とを具備し、前記円形体(41)の外周部における前記弾性部材(44)の自由状態での断面形状をその周方向で異ならせたことを特徴とする。
【0007】
本第1発明において、円形体の周方向において異なる断面形状に形成された弾性部材を、円形体を回転させて適宜選択して、選択された最適形状の弾性部材で尻を拭うことによって、拭き残りの生じない効率的な尻拭き作動を自動で実現することができる。特に、弾性部材を略三角断面とし、その先端頂角を順次小さくしていくことによって、効率的な尻拭き作動が可能となる。
【0008】
本第2発明では、前記弾性部材(44)の断面形状を略三角形として、その外周先端の頂角(θh)を周方向で異ならせる。
【0009】
本第2発明においては、外周先端の頂角が大きなものから小さなものへ順次弾性部材を選択使用することによって、より効率的な尻拭き作動が可能となる。
【0010】
本第3発明では、水平な支軸(43)回りに中心を回転可能に支持された円形体(41)と、当該円形体(41)を回転駆動する駆動手段(45)と、前記円形体(41)の少なくとも外周部を構成し、使用者の肛門付近の尻(H)表面に圧接させられて肛門付近の尻断面に沿うように変形させられる弾性部材(44)と、前記円形体(41)の回転に伴って前記弾性部材(44)の外周面上に引き出され、弾性部材(44)に背後を支持された状態で前記尻(H)表面に圧接しつつ通過させられる尻拭き材(33,34)と、前記円形体(41)の外周部における前記弾性部材(44)の断面形状を変化させる形状変更手段(81〜85)とを備える。
【0011】
本第3発明においては、弾性部材の形状を順次変化させて最適形状の弾性部材で尻を拭うことによって、拭き残りの生じない効率的な尻拭き作動を自動で実現することができる。
【0012】
本第4発明では、前記弾性部材(44)を複数の弾性チューブ(445〜447)で構成し、前記形状変更手段を、前記弾性チューブ(445〜447)に所定圧の圧空を供給して前記弾性チューブを変形させる圧空供給機構(81〜85)で構成する。
【0013】
本第4発明によれば、弾性部材を容易に最適形状へ変形させることができる。
【0014】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の自動尻拭き装置によれば、用足し後の尻拭きを自動で効率的に行うことによって病人や介護人等の労力負担を大きく軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態における自動尻拭き装置を備えた簡易トイレ装置の全体斜視図である。
【
図2】便器を取り去った状態の簡易トイレ装置の全体斜視図である。
【
図3】自動尻拭き装置のゴム部材装着部の拡大断面図である。
【
図4】三角断面の頂角70°のゴム部材で尻拭きを行った場合の静拭率の変化を示すグラフである。
【
図5】三角断面の頂角150°のゴム部材で尻拭きを行った場合の静拭率の変化を示すグラフである。
【
図6】円形体外周に設けたゴム部材の分割状態を示す概念的断面図である。
【
図7】三角断面の頂角が次第に小さくなるゴム部材分割片で尻拭きを行った場合の静拭率の変化を示すグラフである。
【
図8】三角断面の頂角が次第に大きくなるゴム部材分割片で尻拭きを行った場合の静拭率の変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の第2実施形態におけるゴムチューブで構成されたゴム部材の断面図である。
【
図10】各ゴムチューブへの圧空供給系統を示す図である。
【
図11】ゴムチューブで構成されたゴム部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1には本発明の自動尻拭き装置を備えた簡易トイレ装置の外観を示す。簡易トイレ装置は基台1を備えており、当該基台1上に着座式の便器2が設置されている。便器2は基台1上に載置された筐体21と、筐体21の上方開口の周縁に設置された環状の便座22およびカバー体23で構成されている。基台1の一端部には尻拭き部材を供給する供給部3が設けられている。
【0018】
供給部3に上下二段に軸体31,32が架設されて、これら軸体31,32にそれぞれ尻拭き部材としてのトイレットペーパー33,34のロール体35,36が回転可能に支持されている。上下のトイレットペーパー33,34は便器2に向けて各ロール体35,36から引き出され、途中でローラ37を経由する間に重ねられて、ガイド部材38を経て、筐体21内に位置する後述の尻拭き機構へ供給されている。
【0019】
図2には便器2を取り去った状態の簡易トイレ装置を示す。尻拭き機構4は厚肉の板状円形体41を備えている。円形体41は、U字形の支持架台42の左右の側壁421(一方のみ示す)間に架設された支軸43によって起立姿勢で回転可能に支持されている。円形体41の外周中央部には全周に一定厚の弾性部材としてのゴム部材44が設けてある。ここで、ゴム部材44は周方向の複数個所(本実施形態では3か所)で小間隙をおいて分離されており、分離されたゴム部材の各分割片は後述するようにその断面形状が互いに異ならせてある。
【0020】
円形体41は駆動手段たる駆動モータ45によって支軸43と一体に後方(
図2の矢印方向)へ回転させられる。この回転に伴い後述の構造によってロール体35,36から引き出されたトイレットペーパー33,34は、ローラ37を経由する間に上下に重ねられて、
図2の鎖線で示すようにガイド板38を経て円形体41の上半周のゴム部材44上に至る。
【0021】
ガイド板38は円形体41の外周に向けて斜めに立ち上がるように配設されており、その両側縁が下方へ向けて湾曲した略逆U字断面をなしている。そして、その頂部の幅が円形体41に向けて漸次狭くなっている。重ねられたトイレットペーパー33,34はガイド板38の下面に沿って円形体41方向へ引き出される間にガイド板38の断面形状に沿って幅方向の中央部が湾曲させられて、ゴム部材44を覆うように引き出される。
【0022】
円形体41の両側面(
図2には一方のみ示す)に沿って周方向へ一定間隔で、径方向へ延びるリンク棒51が配設されており、その外方端には抑え片52が起倒可能に連結されている。リンク棒51の内方端は支軸43周りに設けられた円形のカム板53の内側面に形成されたカム溝内に摺動可能に係合している。
【0023】
円形体41の外周に至ったトイレットペーパー33,34は、転倒した抑え片52の抑え板によって円形体41の外周面との間に挟持され、円形体41の後方への回転に伴って引き出される。引き出されたトイレットペーパー33,34は円形体41が略半周回転して抑え板521が起立させられると、外周面との間での挟持が解消されて、円形体41から離れて下方へ垂れ下がり、基台1側に設けた切断機6に供給される。
【0024】
円形体41から垂れ下がって切断機6のガイド板61,62間に供給されたトイレットペーパー33,34は、離間した切断刃63,64の間を下方へ通過する。切断刃63が切断刃64へ向けて両者が上下で重なるように進出させられることによって幅方向の中央から両側縁に向けて切断される。
【0025】
円形体41を支持する支持架台42は昇降台71上に設置されている。昇降台71は垂直姿勢で配設された72に結合されて、ネジ軸72の正逆回転に伴って昇降可能である。円形体41を支持する支軸43には6軸力覚センサ(図示略)が設けられて、後述する尻拭き時の力とモーメントが検出される。ネジ軸72は移動体(図示略)上に設けられて水平方向へ正逆移動可能である。
【0026】
図3には、自動尻拭き装置を使用する場合の使用者の尻Hの断面とこれに接近した上記装置の円形体41外周のゴム部材44の断面を示す。ゴム部材44は外周方向へ尖った、頂角がθhの三角断面となっており、尻拭き時には昇降台71(
図2)上に設けられた円形体41が上昇させられて、ゴム部材44の断面先端部がトイレットペーパー33,34を介して尻Hの表面に圧接する。この状態で、円形体41を水平方向(
図3の紙面前後方向)へ移動させることによって尻拭き動作が行われる。
【0027】
尻Hの表面に便を模擬するスキンケアクリームを塗布し、その除去の程度によって尻拭き動作の良否を判定する。良否判定のために、n回目の尻拭き終了時点での静拭率ηnを下式(1)によって算出する。
【0028】
【数1】
上式(1)において、Mは尻表面に付着したスキンケアクリームの総量であり、miは、i回目の尻拭き動作によってトイレットペーパー33,34に付着させられた、すなわち尻表面から拭われたスキンケアクリームの質量である。したがって、N回(例えば5回)の尻拭き動作終了時にスキンケアクリームが全て尻表面から拭われているとηN=1となる。
【0029】
図4は上記尻拭き装置のゴム部材44を自由状態で頂角θhが70°の三角断面として上述の尻拭き動作を行った場合の実験結果を示す。これによると5回の尻拭き動作を行っても静拭率ηNは0.9程度であり、拭き残しが生じる。
【0030】
図5は上記尻拭き装置のゴム部材44を自由状態で頂角θhが150°の三角断面として上述の尻拭き動作を行った場合の実験結果を示す。この場合においても、5回の尻拭き動作を行っても静拭率ηNは0.9程度であり、拭き残しが生じる。
【0031】
そこで、本実施形態では
図6に示すように、円形体41外周のゴム部材44を120°間隔で周方向へ等分に三分割して、ゴム部材44の各分割片441〜443の自由状態での三角断面の頂角θを、順に150°、110°、70°に設定した。
【0032】
このような構造によれば、円形体41を回転させて各分割片441〜443を選択的に上方に位置させることによって、異なる断面形状の分割片441〜443によって尻表面を拭うことが可能になる。本実施形態では、5回の尻拭き動作のうち、初回は分割片441を使用して行い、2回目は円形体41を回転させて分割片442で行い、残る3回はさらに円形体41を回転させて分割片443で尻拭き動作を行った。すなわちこの場合のゴム部材の断面頂角は150°→110°→70°→70°→70°となる。その結果を
図7に示す。これによれば、5回の尻拭き動作で静拭率ηNはほぼ1となり、拭き残しが生じない。
【0033】
これに対して、5回の尻拭き動作のうち、初回は分割片443を使用し、2回目は分割片442で行い、残る3回は分割片441を使用して、ゴム部材の断面頂角を70°→110°→150°→150°→150°と変化させて尻拭き動作を行うと、
図8に示すように、5回の尻拭き動作後の静拭率ηNは0.9程度に留まり、拭き残しを生じる。
【0034】
以上より、頂角θhを徐々に小さくすることによって尻表面の隙間を効率よく確実に清拭することができることが分かる。なお、ゴム部材の断面形状は必ずしも正確な三角形状とする必要はない。
【0035】
(第2実施形態)
図9には本発明の他の実施形態を示す。
図9は円形体41の外周に設けられるゴム部材44の断面を示すものである。本実施形態のゴム部材44は、リング状断面のゴム外皮444内に断面変更手段を構成する三個の弾性チューブとしてのゴムチューブ445,446,447を円形体41外周の幅方向(図の左右方向)へ隣接させて配設したものである。各ゴムチューブ445〜447は
図10に示すように、圧空供給機構を構成する電空レギュレータ81,82,83に接続されており、各電空レギュレータ81〜83にはコンプレッサ84から圧縮空気が供給されている。電空レギュレータ81〜83には制御装置85からの圧力信号85a〜85cがそれぞれ入力しており、電空レギュレータ81〜83は圧力信号85a〜85cで指示された圧力の圧空をゴムチューブ445〜447に供給する。
【0036】
このような構造により、中央のゴムチューブ446に圧空を供給してこれを拡径させれば(
図9(2))ゴム部材44は扁平な断面(
図9(1))から略三角断面に変形する。また、端部のゴムチューブ445に圧空を供給してこれを拡径させればゴム部材44は略片流れ断面となり(
図9(3))、また両端部のゴムチューブ445,447に圧空を供給してこれを拡径させればゴム部材44は略凹断面となる(
図9(4))。
【0037】
さらに
図11に示すように、中央のゴムチューブ446をスペーサ448上に設けて、左右のゴムチューブ445,447に圧空を供給してゴム外皮444の表面が略面一になるようにし(
図10(1))、あるいは3つのゴムチューブ445〜447を略同径に拡径させて、ゴム部材44を頂角が鈍角の略三角断面に変形させ(
図11(2))、さらには中央のゴムチューブ446のみを拡径させて、ゴム部材44を頂角が鋭角の略三角断面に変形させるようにもできる(
図11(3))。
【0038】
このような構造によれば、円形体外周のゴム部材の断面形状を、使用者の尻の断面形状に最適に合致させて、尻拭い作業をより効果的かつ効率的に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
33,34…トイレットペーパー(尻拭き部材)、41…円形体、43…支軸、44…ゴム部材(弾性部材)、445,446,447…ゴムチューブ(弾性チューブ)、45…駆動モータ(駆動手段)、81,82,83…電空レギュレータ(圧空供給機構)、84…コンプレッサ(圧空供給機構)、85…制御装置(圧空供給機構)、H…尻。