(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明する。
なお、本明細書において、蛋白質の精製及び解析、並びに抗体の作製等の手法は、特に明記しない限り、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)、Antibodies − A Laboratory Manual(E.Harlow, et al., Cold Spring Harbor Laboratory(1988))等の一般的実験書に記載の方法またはそれに準じて行うことができる。
【0015】
本明細書において、Cochlinとは、非症候性遺伝性難聴DFNA9の原因遺伝子として同定された遺伝子COCHによりコードされる蛋白質である(N.G.Robertson, Nature Genet., 20,299−303(1998))。例えば、ヒトCochlinのアミノ酸配列は、Nature Genet., 20,299−303(1998)に記載されている。そして、CTPとは、CochlinのN末端側フラグメントからなる約16kDaのアイソフォームである。CTPは、ヒトをはじめ、ウシ、ブタ、モルモット、ラット、マウス等の幅広い動物種において確認されているが、ヒトCTPが好ましい。ヒトCTPのアミノ酸配列を配列番号1に示す。該アミノ酸配列においてアミノ酸番号1〜24で表される部分はシグナル配列である。
【0016】
1.未変性CTPに反応する抗体
本発明の抗体は、配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドに含まれる抗原決定基(以下、これを「エピトープ」と称することがある)を認識し、未変性CTPに反応することを特徴とする。そして配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドを含む蛋白質以外の蛋白質には反応しない抗体であることが好ましい。なお、本発明の抗体は未変性CTPに反応する限り、さらに変性CTPに反応してもよいし、さらに配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドを含むCochlinのアイソフォームに反応してもよい。ここで、配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドを含むCochlinのアイソフォームとしては、CTP以外にp63が知られており(Ikezono et al., Biochem.Biophys.Acta, 1535,3,258−265(2001))、それに反応してもよい。
未変性のCTPとは、タンパク質の3次構造が著しく変化するような変性処理を施していないCTPを指す。変性処理としては、たとえば、タンパク質変性剤(SDS等の界面活性剤、DTT等の還元剤、尿素、アセトンなど)の添加や加熱処理等が挙げられる。なお、免疫測定法におけるサンプル希釈液等では、低濃度の界面活性剤等が含まれている場合もあるが、このような条件は変性処理とは言わない。
【0017】
抗CTP抗体は、例えば、配列番号1のアミノ酸番号118〜132からなるポリペプチド(以下、これを「抗原ポリペプチド」と称することがある)を免疫原として作製することができる。抗原ポリペプチドは、公知の方法に従って化学的に合成された合成ポリペプチドでも、遺伝子組み換え等により産生されたものでもよい。
【0018】
抗体の作製は、それ自体公知の通常用いられる方法を用いて行うことができる。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。具体的には、例えば、ポリクローナル抗体を作製する場合には、KLH(キーホール・リンペット・ヘモシアニン)、BSA(牛血清アルブミン)、豚甲状腺グロブリン等の担体蛋白に、カルボジイミド、マレイミド等の適当な縮合剤を用いて前記抗原ポリペプチドを結合させ、免疫用の抗原(免疫原)を作製する。ここで、担体蛋白への抗原ポリペプチドの結合は、それ自体公知の通常用いられる方法により行えばよいが、例えばKLHを担体蛋白として用いて、マレイミド化により抗原ポリペプチドを結合させる方法の場合には、KLHに、好ましくはSulfo−SMCC(Sulfosuccimidyl 4−(N−maleimidomethyl)cyclohexane−1−carboxylate)等の二官能性の縮合剤を反応させてマレイミド化し、これにN末端またはC末端のうち結合を生じさせたい方の末端にシステインを付加した抗原ポリペプチドを反応させれば、チオールを介して容易に結合して免疫原を調製することができる。選択した抗原ポリペプチドのアミノ酸配列中にシステインが含まれる場合には、これを利用して結合させることもできる。また、カルボジイミド化されたKLHを用いた場合には、抗原ポリペプチドとの脱水縮合によりペプチド結合を形成させて結合させることができる。本発明においては、抗原ポリペプチドのN末端側に担体蛋白を結合させることが好ましい。
【0019】
このように調製した免疫原を含む溶液を、必要に応じてアジュバントと混合し、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ等、通常抗体の製造に用いられる動物の皮下または腹腔に2〜3週間毎に繰り返し免疫する。免疫後、適宜試験的に採血を行って、ELISA法、ウエスタンブロッティング法等の免疫学的方法により力価(抗体価)が十分に上昇していることを確認することが好ましい。十分な力価の上昇が確認された動物から採血を行い、血清を分離することによって抗血清が得られる。ニワトリの場合には、鶏卵から採取した卵黄から水溶性の画分を分取して卵黄抽出液を調製し、これも抗血清同様に用いることができる。
【0020】
本発明においては、得られた抗血清等を精製することなくそのまま用いることもできるが、以下の方法により精製して用いることが好ましい。例えば、Protein Aを用いた精製法、硫酸アンモニウムを用いた塩析による方法、イオン交換クロマトグラフィー等によって、イムノグロブリン画分を精製する方法、あるいは、特定のポリペプチドを固定化したカラムを用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーによって精製する方法等が挙げられるが、このうち、Protein Aを用いた精製法とアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いる方法を、いずれかもしくは組み合わせて行うことが好ましい。ここで、カラムに固定化する精製用のポリペプチドとしては、用いた抗原ポリペプチドのアミノ酸配列に応じて、それと同じ配列、もしくはその一部の配列を含むポリペプチドを選択して用いればよい。
【0021】
また、モノクローナル抗体を作製する場合には、上記と同様にして免疫した動物の脾臓から抗体産生細胞を採取し、常法によって、同系動物等由来のミエローマ細胞等の培養細胞と融合させてハイブリドーマを作製(Milstein et al., Nature, 256, 495(1975))する。培養を行って、適宜ELISA法等により抗体価を確認して、目的のエピトープを認識するモノクローナル抗体を産生し、かつ、抗体産生能の高いハイブリドーマを選択すればよい。かくして選択されるハイブリドーマの培養上清から、目的のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0022】
かくして得られる抗体は、未変性CTPを特異的に認識する抗体である。このことは、外リンパ等のCTPが存在することが知られている試料を適当な動物種から採取し、試料中の未変性CTPとの反応性を解析すること等によって確認できる。
【0023】
なお、本明細書で抗体と言う場合、全長の抗体だけではなく抗体の断片も包含する。抗体の断片とは、抗体の抗原結合領域またはその可変領域を含む機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab')
2、Fab'、Fabなどが挙げられる。F(ab')
2、Fab'とは、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素(例えば、ペプシンまたはパパイン等)で処理することにより製造されるもので、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体断片である。
【0024】
例えば、IgG1をパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びVH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fab'
という。またIgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFab'がヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab')
2という。
【0025】
また、本発明の抗体は、固相担体などの不溶性担体上に担持された固定化抗体として使用したり、標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。このような固定化抗体や標識抗体は全て本発明の範囲内である。
【0026】
固定化抗体とは、不溶性担体に物理的吸着あるいは化学的結合等によって坦持された状態にある抗体を言う。これらの固定化抗体は、試料中に含まれるCTPを検出または定量するために用いることができる。抗体を担持させるのに使用できる不溶性担体としては、例えば、(1)ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂あるいはナイロン樹脂等からなるプラスチックや、ガラス、ラテックス、金属化合物、磁性体等に代表されるような水に不溶性の物質からなるプレート、試験管若しくはチューブ等の内容積を有するもの、ビーズ、ボール、フィルター、あるいはメンブレン等、並びに(2)セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体あるいは多孔性シリカ系担体等のようなアフィニティークロマトグラフィーに用いられる不溶性担体を挙げることができる。
【0027】
標識抗体とは、標識物質で標識された抗体を意味し、これらの標識抗体は、試料中に含まれるCTPを検出または定量するために用いることができる。本発明で用いることができる標識物質は、抗体に物理的結合または化学的結合等により結合させることによりそれらの存在を検出可能にするものであれば特に限定されない。標識物質の具体例としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジンあるいは放射性同位体等が挙げられ、より具体的には、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、
3H、
14C、
125I若しくは
131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、または化学発光物質が挙げられる。標識物質と抗体との結合法は、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法または過ヨウ素酸法等の公知の方法を用いることができる。
【0028】
ここで、放射性同位体及び蛍光物質は単独で検出可能なシグナルをもたらすことができるが、酵素、化学発光物質、ビオチン及びアビジンは、単独では検出可能なシグナルをもたらすことができないため、さらに1種以上の他の物質と反応することにより検出可能なシグナルを生じる。例えば、酵素の場合には少なくとも基質が必要であり、酵素活性を測定する方法(比色法、蛍光法、生物発光法あるいは化学発光法等)に依存して種々の基質が用いられる。また、ビオチンの場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。必要に応じてさらに該基質に依存する種々の発色物質が用いられる。
【0029】
2.未変性のCTPに反応する抗体のスクリーニング方法
本発明の未変性のCTPに反応する抗体のスクリーニング方法は、未変性CTPに反応する第1の抗体で捕捉した未変性のCTPを用意し、該未変性のCTPを認識する第2の抗体を選別する工程を含む。ここで、第1の抗体としては、上記配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドに含まれる抗原決定基を認識し、未変性CTPに反応する抗体であることが好ましい。
すなわち、上記本発明の抗体を用いることにより、未変性CTPに反応する新たな抗体を得ることができる。例えば、ELISA法において、第1の抗体として上記本発明の抗体を用い、第2の抗体として抗CTP抗体のライブラリーを使用し、スクリーニングを行うことにより、未変性CTPに反応する新たな抗体を選別することができる。なお、スクリーニング方法で得られる抗体は未変性CTPに反応する抗体である限り、特に限定されないが、高次構造や配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチド以外の領域に含まれる抗原決定基を認識する抗体であることが好ましい。
【0030】
3.配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドを含む蛋白質の測定方法
本発明の測定方法は、上記本発明の抗体を少なくとも一つ使用して配列番号1のアミノ酸番号118〜132で表されるポリペプチドを含む蛋白質、好ましくはCTPを免疫学的に測定する工程を含む。なお、定性的な測定も定量的な測定も含まれる。
【0031】
本発明のCTPの測定方法は、外リンパ瘻の検査に好適に使用される。
本発明において、外リンパ瘻(Perilymph fistula)とは、内耳組織に存在する外リンパが何らかの要因により内耳窓(正円窓、卵円窓のいずれかまたは両者)あるいはfissura ante fenestram(内耳と中耳の間の骨裂隙)から鼓室内(中耳)に漏出して聴覚・平衡感覚の障害を生じる疾患である。該疾患は、外リンパが中耳へ漏出していることを確認することにより検出することができる。本発明の外リンパ瘻の検出方法は、該疾患に罹患していることが疑われる患者の中耳に存在し得る体液のうち、外リンパのみに存在するCTPの存在を検出して、該患者が外リンパ瘻に罹患している可能性の指標とすることを特徴とする方法である。本法によれば、外リンパ瘻発症の要因や機構によらず検出を行うことができる。
該疾患に罹患していることが疑われる患者には、突発性難聴、内耳性難聴、メニエール病、前庭神経炎、頭位めまい症、内耳性めまい等の患者も挙げられる。厳密に言えばこれらは症候診断名であり、原因診断名である外リンパ瘻が、上記の疾患の原因となっていることは以前から指摘されている。したがって、本発明の方法により外リンパ瘻を検査することでこれらの疾患の検査も可能である。
【0032】
本発明の外リンパ瘻の検出方法に供せられる試料としては、外リンパ瘻に罹患していることが疑われる患者の中耳に存在する体液を含む試料が用いられる。ヒトの中耳内に存在し得る体液としては、例えば、外リンパ、脳脊髄液(Cerebro−Spinal Fluid;以下、これを「CSF」と称することがある)、血液、唾液、中耳粘膜より産生される中耳粘液等が挙げられる。例えば、CSFは、手術等により内耳道の第8脳神経の経路もしくは蝸牛小管を通って内耳に流入したものが中耳へ流入したり、外傷、骨折、内耳の奇形等によっても流入することが知られている。血液は、外傷による出血、中耳粘膜からの出血等により中耳に存在し得る。唾液は、上咽頭に存在するものが耳管から逆流することにより中耳に流入することが知られている。また、滲出性中耳炎患者では中耳滲出液、慢性中耳炎患者では耳漏(膿)等も存在し得る。これらの体液を目視により判別することはできないが、これらを採取して解析を行い、該試料中のCTPの存在を解析することにより、試料として採取された体液に外リンパが含まれるか否かを判別することができ、外リンパ瘻の可能性の指標とすることができる。上記体液を含む試料としては中耳洗浄液、鼻腔ぬぐい液、上咽喉ぬぐい液などが挙げられる。
【0033】
中耳内に存在する体液の採取方法としては、できるだけ血液、薬剤等を混入させず、また、他の蛋白質等を混入させずに採取できる方法であって、患者への侵襲度の低い方法であればいかなる方法でもよい。例えば、鼓膜を微小に切開し、シリンジ等を挿入してそのまま該体液を吸引して採取してもよいし、綿棒等を挿入して存在する体液をぬぐい取ることにより採取してもよい。採取されるべき体液が極微量である場合には、シリンジ等を用いて生理食塩水等の適当な溶液を適量注入した後、該溶液ごとシリンジ等で回収する方法が好ましく用いられる。本発明においては、このような方法により回収された溶液を「中耳洗浄液」と称する。ここで用いられる溶液としては、組成、pH、温度等において生理学的に許容され、患者に与える負担の少ない溶液が選択される。また、中耳は耳管を経由して上咽頭、中咽頭と通じていることから、耳管を通じて上咽頭、中咽頭に達した中耳由来の体液を採取してもよい。具体的には、例えば、口腔または鼻腔から綿棒等を挿入し、上咽頭もしくは中咽頭に存在する体液をぬぐい取ることにより採取することができる。これらは、鼓膜切開により採取した中耳洗浄液よりも、より低侵襲で簡便に採取することができる。
【0034】
本発明のCTPの測定方法は、頭頚部外科手術中の診断にも好適に使用される。
例えば、真珠腫性中耳炎や外耳腫瘍、中耳腫瘍、聴神経腫瘍等では骨破壊により外リンパ瘻をきたすことが知られており、この病変の深さがどの程度であるかを本検査により診断できる。すなわち、病変が骨を破壊し内耳に至っていれば、中耳に存在する体液からCTPが検出され、それよりも浅ければCTPは検出されない。また、鼓室形成術、アブミ骨手術等では、正円窓や卵円窓に外科的処置を加えることがあり、手術操作によりこれらを損傷したか否かを本測定により判断できる。さらには、人工内耳手術において、人工内耳の電極挿入部位を決定するのにも役立つ。特に内耳、中耳奇形を有する症例ではその有用性が高い。これらの検査においては中耳洗浄液、あるいは病変部位や手術操作部位からの漏出液を直接採取して検査に供することができる。
【0035】
測定に使用する試料としては、この他にもCTPを含む限り特に制限されず、細胞培養液等でもよい。また、実験動物の病態把握等のために、ヒト以外の動物由来の試料を用いてもよい。実験動物としては特に制限されないが、例えば、モルモット、ラット、マウス、チンチラ等が挙げられる。
【0036】
かくして採取された体液は、採取後、直ちに解析に供されることが好ましいが、4〜−80℃、好ましくは−20〜−70℃等の低温条件下で保存しておくこともできる。保存に際しては、必要に応じて蛋白質の変性等を抑制するような保存剤や、腐敗を防止するための防腐剤等を添加してもよい。また、これらの試料は、必要に応じて、血球や組織片等の除去や、濃縮、精製等の前処理を行ってから解析に供してもよい。これらの具体的手法は、それ自体公知の通常用いられる蛋白質の濃縮、精製等の手法を用いればよい。
【0037】
CTPの存在を検出するための方法は、前記未変性CTPを認識する抗体(以下、これを「抗未変性CTP抗体」と称することがある)を用いた免疫学的方法である。免疫学的に蛋白質の検出を行う方法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法)、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫クロマトグラフィー等の標識抗体を用いた免疫測定法、あるいは、非変性条件でのウエスタンブロッティング法、ラテックス凝集法、免疫比濁法等のそれ自体公知の通常用いられる方法であればいかなる方法でも用い得るが、この中でも、操作の簡便性や測定精度の点から、標識抗体を用いた免疫測定法が好ましく用いられる。術中診断のためには、迅速に結果が得られることが望まれているため、酵素免疫測定法(ELISA法)や免疫クロマトグラフィー等が特に好ましく用いられる。
【0038】
本発明の検出方法を、酵素免疫測定法(ELISA法)、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、または放射免疫測定法等の標識抗体を用いた免疫測定法により実施する場合には、サンドイッチ法または競合法により行うこともできる。サンドイッチ法の場合には固相化抗体及び標識抗体のうち少なくとも1種が、抗未変性CTP抗体であればよい。
ELISA法による測定では、発光シグナルの定量化により、外リンパの中耳への漏出量を定量的に測定することが可能となる。CTPアナログを用意する必要がないため、異なるエピトープでCTPを認識する2種類の抗体を用いたサンドイッチ型測定が特に好ましい。
【0039】
サンドイッチ法で用いる固相担体としては、抗体を担持させるのに使用できる不溶性担体であればよく、例えば、(1)ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂あるいはナイロン樹脂等からなるプラスチックや、ガラス、ラテックス、金属化合物、磁性体等に代表されるような水に不溶性の物質からなるプレート、試験管若しくはチューブ等の内容積を有するもの、ビーズ、ボール、フィルター、あるいはメンブレン等、並びに(2)セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体あるいは多孔性シリカ系担体等のようなアフィニティークロマトグラフィーに用いられる不溶性担体を挙げることができる。
【0040】
測定の操作法は公知の方法(例えば、日本臨床病理学会編「臨床病理臨時増刊特集第53号 臨床検査のためのイムノアッセイ−技術と応用−」,臨床病理刊行会,1983年,石川榮治ら編「酵素免疫測定法」,第3版,医学書院,1987年,北川常廣ら編「蛋白質核酸酵素別冊No.31 酵素免疫測定法」,共立出版,1987年)に準じて行うことができる。
【0041】
例えば、固相化抗体と試料を反応させ、同時に標識抗体を反応させるか、または洗浄の後に標識抗体を反応させて、固相化抗体−抗原−標識抗体の複合体を形成させる。そして未結合の標識抗体を洗浄分離して、結合標識抗体の量より試料中の抗原量を測定することができる。具体的には、酵素免疫測定法(ELISA法)の場合は標識酵素にその至適条件下で基質を反応させ、その反応生成物の量を光学的方法等により測定する。蛍光免疫測定法の場合には蛍光物質標識による蛍光強度を、放射免疫測定法の場合には放射性物質標識による放射線量を測定する。化学発光免疫測定法の場合は発光反応系による発光量を測定する。
【0042】
本発明の検出方法を、ラテックス凝集反応、または免疫比濁法等の場合のように免疫複合体凝集物の生成を、その透過光や散乱光を光学的方法により測るか、目視的に測る測定法により実施する場合には、溶媒としてリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液またはグッド緩衝液等を用いることができ、更にポリエチレングリコール等の反応促進剤や非特異的反応抑制剤を含ませてもよい。
【0043】
抗体を固相担体に担持させて用いる場合には、固相担体としては、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル類ポリマー、ラテックス、ゼラチン、リポソーム、マイクロカプセル、赤血球、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属化合物、金属、セラミックスまたは磁性体等の材質よりなる粒子を使用することができる。
【0044】
この担持の方法としては、物理的吸着法、化学的結合法またはこれらの方法の併用等の公知の方法を使うことができる。測定の操作法は公知の方法により行うことができるが、例えば、光学的方法により測定する場合には、試料と抗体、または試料と固相担体に担持させた抗体を反応させ、エンドポイント法またはレート法により、透過光や散乱光を測定する。
また、目視的に測定する場合には、プレートやマイクロタイタープレート等の容器中で、試料と固相担体に担持させた抗体を反応させ、凝集の状態を目視的に判定する。なお、目視的に測定する代わりにマイクロプレートリーダー等の機器を用いて測定を行ってもよい。
【0045】
上記した方法を用いて患者の中耳内に存在する体液を試料とした解析を行い、該試料中にCTPの存在が検出された場合に、該患者が外リンパ瘻に罹患している可能性があると判定することができる。また、それ自体公知の通常用いられる蛋白質の定量法によって定量を行い、該体液におけるCTPの存在量を求めることもできる。
【0046】
4.CTP測定キット
本発明のCTP測定キットは、上記本発明の抗体を含む。該試薬キットを用いれば、本発明の外リンパ瘻の検出を必要時に簡便・迅速に行うことができ、その結果を、他の疾患との鑑別や、治療方針の決定等に役立てることができる。
【0047】
キットに含まれる試薬の形態は特に限定されず、固体でも液体(溶液、懸濁液など)でもよい。液体の場合には適当な溶媒(抗体を安定に保存できる緩衝液など)に上記抗体を溶解または懸濁することによって試薬を調製することができる。
【0048】
本発明のキットは、本発明の検出方法を行うことのできるものであればいかなる構成であってもよい。例えば、標識抗体を用いた免疫測定法を用いてCTPの検出を行う試薬キットの場合には、少なくとも担体固相化抗体及び/又は標識化抗体として、未変性CTPと反応する抗体を含む。その他に、任意の要素として、酵素基質、希釈液や洗浄液等の緩衝液、陽性コントロール等を含めることができる。このように、本発明の試薬キットは、少なくとも試料中の未変性CTPと反応する抗体を含み、それ自体公知の通常用いられる試薬等を組み合わせて作製することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
≪実施例1≫ 抗CTP(E.coli)モノクローナル抗体の作製
ヒトCTPのシグナル配列を除いた配列番号1のアミノ酸番号32〜132に相当するアミノ酸のN末端側にポリヒスチジンタグを融合させて大腸菌内で発現させ、これを免疫原としてモノクローナル抗体を作製した。
まず、ヒトCochlinのヌクレオチド配列を参考にして大腸菌発現用ベクターに組込み、これを大腸菌に形質転換させた。大腸菌にIPTGを加えることによって組込まれたベクターにコードされたrCTP(リコンビナントCTP)を誘導発現させた。誘導発現した菌体を遠心集菌し、超音波処理によって菌体を破砕した。破砕後、遠心分離によって可溶性画分と不溶性画分に分画した。得られた発現タンパク質は不溶性凝集体を形成したので、不溶性画分を尿素にて可溶化し、ニッケルカラムにてアフィニティー精製した。得られたrCTPをマウスに免疫し、モノクローナル抗体を得た。抗体のスクリーニングは、ELISA法によりrCTPとの反応を確認することにより行い、最終的に得られたモノクローナル抗体とヒトCTPとの反応はウェスタンブロット法により確認した。
【0051】
(1)大腸菌によるrCTPの発現
CTPのシグナル配列を除いたORFの5'末端に翻訳開始コドンを付加するためのプライマー(5'−
ATG ATC ACA TGT TTT ACC AG−3':配列番号9)、および3'末端に終止コドンを付加するためのプライマー(5'―TAT TCA
TTACTC CTG TGT ACT ACT−3': 配列番号10)を用意し、COCH遺伝子を含むイメージクローン(IMAGE:27789)(クラボウ 大阪)を鋳型としてPCR増幅を行った。この項で示した配列では、開始コドンおよび終止コドンを下線で示した。
得られたPCR産物を、pCR T7/NT−TOPO TA Expression Kit(Invitrogen社)の添付文書に従って大腸菌用発現ベクターpCR T7/NTに組込んだ後、キット添付の大腸菌BL21(DE3)pLysS株に形質転換して、rCTP発現用組換え大腸菌を得た。
得られたrCTP発現用組換え大腸菌をアンピシリン添加LB培地1500mlに接種し、37℃で振とう培養した。培養液の600nmの吸光度が0.5に到達した時点で、培養液にIPTGを終濃度0.1mMとなるように添加し、引き続き37℃で3時間振とう培養した。
【0052】
(2)大腸菌発現rCTPの精製
該培養液を、4℃、3000rpmで30分間遠心分離し、沈澱した菌体を回収し、10mlの破砕用緩衝液(50mM Tris−HCl pH8.0、50mM NaCl、1mM EDTA)に懸濁した。氷冷しながら菌体懸濁液を超音波破砕機にて処理することにより菌体を破砕し、これを4℃、3000rpmで30分間遠心分離した。その沈殿を封入体洗浄液(0.5% TrironX−100、1mM EDTA)に懸濁し、これを4℃、3000rpmで30分間遠心分離するという洗浄操作を3回繰り返した。洗浄後の沈殿を8M尿素に溶解し、封入体溶液とした。
得られた封入体溶液を変性結合緩衝液(8M Urea、500 mM NaCl、20 mM Sodium Phosphate pH 7.8)で平衡化させたNi−NTA Agaroseに加え、室温で1時間反応させた。反応後の樹脂をグラスフィルター付ロートで回収し、これを樹脂容積の5倍量の変性結合緩衝液で洗浄した後、さらに樹脂容積の5倍量の変性洗浄緩衝液(8M Urea、500 mM NaCl、20 mM Sodium Phosphate pH 6.0)で洗浄した。洗浄後の樹脂に変性溶出緩衝液(8M Urea、500 mM NaCl、100mM imidazol、20 mM Sodium Phosphate pH 6.0)を樹脂容積の5倍量加え、室温で1時間反応させた。該反応液をグラスフィルター付ロートで回収し、大腸菌発現rCTPを得た。
【0053】
(3)モノクローナル抗体の作製
大腸菌発現rCTPをKLHで架橋したものを抗原として、該抗原をC57BL6マウスに50μgずつ2週間おきに3回投与した。最後の免疫感作から1週間後に、大腸菌発現rCTP固定化プレートを用いたELISA法により抗体価が上昇していることを確認した上で、採取した脾臓を細胞融合用ミエローマ(P3U1)とPEG法にて融合した。得られたハイブリドーマをHAT培地にて選択し、抗体産生ハイブリドーマを得た。
【0054】
(4)スクリーニング
96穴プレートに免疫原である大腸菌発現rCTPを固相化し、それとハイブリドーマ培養上清との反応を確認した。検出には、Rabbit anti Mouse IgG/HRP(ZYMED社)を使用した。同時に、ブランクとしてβアクチン固相プレートとの反応も確認し、ブランクとは反応せず、大腸菌発現rCTPに反応する抗体を選別した。最終的に得られた陽性株は1種のみであった(これを「抗CTP(E.coli)抗体」と称することがある)。
【0055】
(5)ウェスタンブロット法によるヒトCTPとの反応性確認
試料として用いたヒト外リンパは、患者に対して採取および研究目的の使用について十分な説明を行い、同意を得た上で用いた。
試料を3×Loading buffer(150mM Tris−HCl pH6.8、300mM DTT、6%SDS、0.3% bromophenol blue、30% glycerol)と混合し、100℃で5分間加熱した。該試料を15% polyacrylamide(PAGEL、ATTO社)にアプライし、running buffer(25 mM Tris、192mM Glycine、0.1% SDS)を使用して、20mAで2時間、電気泳動を行った後、セミドライ法によりPVDF膜(Immobilon−PSQ、Millipore社)に転写した。転写後のPVDF膜に、一次抗体として抗CTP(E.coli)抗体を反応させた後、二次抗体としてHRP−Rabbit anti−Mouse IgG(H+L)(ZYMED社)を反応させた。その後、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケア社)を使用してCTPに由来する16kDaのバンドを検出し、抗CTP(E.coli)抗体がヒト生体試料中のCTPを認識することを確認した。
【0056】
≪実施例2≫ ポリクローナル抗体の作製
抗LCCL抗体、抗LCCL1抗体、抗LCCL2抗体および抗LCCL3抗体は、特開2004−85552号公報に記載のものを使用した。また、これらとは別のポリペプチドを抗原として、新たに3種類の抗体を作製した。得られたポリクローナル抗体とヒトCTPとの反応はウェスタンブロット法により確認した。
【0057】
(1)抗原ポリペプチドのアミノ酸配列の選択
新たな抗原ポリペプチドとしては、配列表の配列番号1のアミノ酸番号34〜49に相当するアミノ酸よりなるポリペプチド(これを抗原ポリペプチドとして作製した抗体を「抗CTP−A抗体」と称することがある)、同じくアミノ酸番号91〜108に相当するアミノ酸よりなるポリペプチド(これを抗原ポリペプチドとして作製した抗体を「抗CTP−B抗体」と称することがある)、更にアミノ酸番号118〜132に相当するアミノ酸よりなるポリペプチド(これを抗原ポリペプチドとして作製した抗体を「抗CTP−C抗体」と称することがある)をそれぞれ選択した。
【0058】
各抗体の免疫動物と抗原ポリペプチドを表1に、これらの抗原ポリペプチドの配列番号1に記載のアミノ酸配列上の位置関係を
図1に記載する。
【表1】
【0059】
(2)ポリクローナル抗体の作製
上記(1)において選択されたアミノ酸配列からなるポリペプチドを合成した。ここで、抗CTP−B抗体、抗CTP−C抗体作製用抗原ポリペプチドについては、該アミノ酸配列中にシステインが含まれていないので、それぞれの配列のN末端にシステインが付加されたポリペプチドを合成した。システインを介し、キャリア蛋白質としてウシサイログロブリンを結合させて免疫原とした。
免疫は、ウサギ1羽に対して1〜2週間おきに免疫原を100μg投与することにより行った。8回免疫後、採血を行い、血清を分離しこれを抗血清とした。これらの抗血清は、実施例1(4)と同様なELISA法により、それぞれ、各免疫原である抗原ポリペプチドおよび大腸菌発現rCTPとの反応を確認した後、別途作成した抗原ポリペプチド結合カラムを用いて精製した。
【0060】
(3)ウェスタンブロット法によるヒトCTPとの反応性の確認
一次抗体に抗CTP−A抗体、抗CTP−B抗体、または抗CTP−C抗体を使用し、二次抗体としてImmunoglobulins/HRP[Goat Polyclonal Anti−Rabbit](DAKO社)を使用した以外は、実施例1(5)に記載の方法で行い、各ポリクローナル抗体は、いずれもヒト生体試料中のCTPを認識することを確認した。
【0061】
≪実施例3≫ 未変性CTPとの反応性確認(免疫沈降)
実施例1および実施例2で作製した抗体が、ウェスタンブロット法によりCTPを検出できたことから、変性されたCTPもしくは変性条件下にあるCTPは検出可能であることがわかった。そこで、これらの抗体が未変性のCTPも検出可能であるかを確認するために、以下の検討を行った。
実施例1および実施例2で作製した各抗体をプロテインG固定化担体に結合させた後、ブタ外リンパ又はヒト外リンパと反応させた。反応後、遠心分離により沈殿(プロテインG固定化担体に結合した抗原抗体複合体)および上清(抗体未反応画分)を回収し、それぞれSDS−PAGE後にウェスタンブロッティングを行った。どちらの画分にCTPが検出されるかを調べることで、各抗体が未変性CTPを認識するか否かを確認した。
具体的には、PBSで平衡化した20μgのProteinG on Sepharose 4B(GEヘルスケア)に各抗体30μgを反応させた後、未結合抗体を除去した。この抗体結合体に、PBSで10倍に希釈したブタ外リンパまたはヒト外リンパの20μlを添加し、4℃で一晩振盪反応させた。反応後、4℃、3000rpmで2分間遠心分離し、上清と沈殿をそれぞれ回収した。
ウェスタンブロッティングは、一次抗体に抗LCCL3抗体を使用し、二次抗体としてImmunoglobulins/HRP[Goat Polyclonal Anti−Rabbit](DAKO社)を使用した以外は、実施例1(5)に記載の方法で行った。その結果を表2に示す。未変性CTPと結合したものを○、結合しなかったものを×で示した。抗CTP−C抗体のみが、外リンパ中の未変性CTPを認識できることが確認された。
【0062】
【表2】
【0063】
≪実施例4≫ 未変性CTPを認識するモノクローナル抗体の作製
未変性CTPを認識するモノクローナル抗体の作製のため、抗CTP(Baculo)モノクローナル抗体の作製を試みた。
ヒトCTPの全長にあたる配列番号1のアミノ酸番号1〜132に相当するアミノ酸のC末端側にFLAGタグを融合させてカイコ体内で発現させ、これを免疫原としてモノクローナル抗体を作製した。
まず、ヒトCochlinのヌクレオチド配列を参考にしてトランスファーベクターに組込み、組換えバキュロウイルス株を樹立した。これをカイコ蛹に感染させることによって、カイコ体内にrCTPを生産させた。このカイコ体液から、抗FLAG担体にてアフィニティー精製した。得られたrCTPをマウスに免疫し、モノクローナル抗体を得た。抗体のスクリーニングは、ELISA法によりrCTPとの反応を確認すると共に、実施例3で作製した抗CTP−C抗体に補足させた未変性のヒトCTPとの反応を確認することにより行った。
【0064】
(1)カイコ発現rCTPの調製
ヒトCTPのORFの5'末端にBglII認識部位を付加するためのプライマーおよび3'末端にNheI認識部位を付加するためのプライマーを用意し、COCH遺伝子を含むプラスミドを鋳型としてPCR増幅を行った。このPCR産物をBglIIとNheIで消化し、プラスミドpM23(片倉工業)のBglIIとXbaI認識部位に挿入し、CTP組換えバキュロウィルス発現系を樹立させた。このCTP組換えバキュロウィルスをカイコ蛹に感染させた。感染後のカイコ体液を抗FLAG抗体カラムに吸着させた後、トロンビンによりFLAGタグを切断することで、カイコ発現rCTPを得た。
【0065】
(2)抗体作製
カイコ発現rCTPを抗原として、該抗原をBalb/cマウスに50μgずつ隔日で4回フットパッド免疫した。その後、採取したリンパ細胞をミエローマ細胞(P3U1)とPEG法にて融合した。得られたハイブリドーマをHAT培地にて選択し、抗体産生ハイブリドーマを得た。
【0066】
(3)スクリーニング
実施例1(4)と同様なELISA法により、免疫原であるカイコ発現rCTPとハイブリドーマ培養上清との反応を確認した。検出には、Goat anti−mouse IgG−POD F(ab')
2(MBL社)を使用した。
その結果を表3に示す。11種のハイブリドーマにおいて、カイコ発現rCTPとの反応が確認された。
【0067】
(4)ヒトCTPとの反応性の確認
EIAプレート(MAXISORP、Nunc社)に5μg/ml抗CTP−C抗体を100μl/well添加し、4℃で一晩静置した。翌日、25%ブロックエース(大日本住友製薬)を300μl/well添加し、37℃で2時間ブロッキングした。各ウェルを洗浄用緩衝液(0.05%Tween−20、20mM PBS pH7.4)で洗浄後、PBSで40倍希釈したヒト外リンパを100μ/well添加し、室温で1時間振盪反応させた。各ウェルを洗浄した後、一次抗体としてハイブリドーマ培養上清を100μ/well添加し、室温で2時間振盪反応させた。各ウェルを洗浄した後、二次抗体として、10%ブロックエースで2000倍希釈したRabbit anti−mouse Immunoglobulins/HRP(Dako)を添加し、室温で1時間振盪反応させた。各ウェルを洗浄した後、SureBlue Reserve TMB microwell substrate(KPL社)を100μ/well添加し、室温で15分間反応させた後、stop solutionを添加して反応を停止させた。マイクロプレートリーダーで波長450nmの吸光度を測定した。
得られた11種のハイブリドーマとヒト外リンパ中のCTPとの反応性を確認した結果を表3に示す。3C10、7C1、および7G1において、ヒト外リンパ中の未変性CTPとの反応が確認された。また、ハイブリドーマにより、カイコ発現rCTPとヒト外リンパ中のCTPとで、反応の強弱に違いが認められた。
【0068】
【表3】
【0069】
従来のスクリーニング方法では、免疫原をプレートに固相するため、大量な試料の入手が困難なヒト外リンパあるいはヒト外リンパ中のCTPを使用することはできなったことから、免疫原として用いたrCTPをプレートに固定した実験方法しか行えず、更に、免疫原をプレートに固定するため、該免疫原が変性されている恐れがあった。このように、変性条件でのCTPを認識する抗体しか無かった場合には、免疫原として用いたrCTPとの反応がより良好なハイブリドーマを選別するしかないため、未変性のCTPを認識する抗体を作製することが難しかったが、未変性のCTPを認識する抗体を固相抗体として用いたサンドイッチELISAでスクリーニングすることにより、未変性のCTPとより良好に反応する抗体を選別することができることがわかった。
【0070】
≪実施例5≫ サンドイッチELISA法によるヒト外リンパ中の未変性CTPの測定
固相抗体として抗CTP−C抗体を用い、実施例4で作製した3C10抗体とのサンドイッチELISAにより、PBSを用いて段階希釈したヒト外リンパ中のCTPを測定した。測定は実施例4(4)と同様に行った。その結果を
図2に示す。ヒト外リンパ中の未変性CTPを濃度依存的に測定できることを確認した。