特許第6000249号(P6000249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6000249鎖末端近傍に湿気硬化性官能基クラスターを有する硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6000249
(24)【登録日】2016年9月9日
(45)【発行日】2016年9月28日
(54)【発明の名称】鎖末端近傍に湿気硬化性官能基クラスターを有する硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/00 20060101AFI20160915BHJP
   C08F 4/44 20060101ALI20160915BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20160915BHJP
【FI】
   C08F2/00 A
   C08F4/44
   C08F20/18
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-526056(P2013-526056)
(86)(22)【出願日】2011年8月22日
(65)【公表番号】特表2013-536303(P2013-536303A)
(43)【公表日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】US2011048562
(87)【国際公開番号】WO2012027246
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2014年8月21日
(31)【優先権主張番号】12/868,159
(32)【優先日】2010年8月25日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514056229
【氏名又は名称】ヘンケル アイピー アンド ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】ロデリック・コッフィー
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル・シャール
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ジー・ウッズ
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・エフ・ジャコバイン
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−272714(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0204361(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0241265(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0148734(US,A1)
【文献】 特表2010−539265(JP,A)
【文献】 特表2011−524942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 2/60
C08F 4/00− 4/58
C08F 12/00−34/04
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル重合性化合物、開始剤、配位子および触媒を含む組成物で精密ラジカル重合を行い、該精密ラジカル重合が、単一電子移動リビングラジカル重合(SET−LRP)であり、そして、触媒が、Cu(O) であることを特徴としており、
該精密ラジカル重合反応を、完全転化に至る前の所望の転化レベルに達するまで進行させて中間重合生成物を得て;
該中間重合生成物を開始剤の当量を超える反応体とさらに反応させて、ポリマー鎖の各末端近傍にペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを提供するか、またはポリマー鎖の少なくとも1つの末端近傍にペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスタ−およびさらに少なくとも1つのフリーラジカル硬化部を提供することを含む、複数の末端およびペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマーを提供する精密ラジカル重合の方法。
【請求項2】
上記ペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターが複数のペンダント湿気硬化性官能基を含む請求項1の方法。
【請求項3】
さらに、上記重合性化合物がモノマー、コポリマー、ブロックコポリマー、グラディエ
ントポリマーおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項1の方法。
【請求項4】
上記ペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマ-がさらに少なくとも一種のフリーラジカル硬化部を含む請求項1の方法。
【請求項5】
上記開始剤が、ジエチルmeso−2,5−ジブロモアジペート;ジメチル2,6−ジ
ブロモヘプタンジオエート;エチレングリコールビス(2−ブロモプロピオネート);エ
チレングリコールモノ−2−ブロモプロピオネート;トリメチロールプロパントリス(2
−ブロモプロピオネート);ペンタエリスリトールテトラキス(2−ブロモプロピオネー
ト);2,2−ジクロロアセトフェノン;メチル2−ブロモプロピオネート;メチル2−
クロロプロピオネート;N−クロロ−2−ピロリジノン;N−ブロモスクシンイミド;ポ
リエチレングリコールビス(2−ブロモプロピオネート);ポリエチレングリコールモノ
(2−ブロモプロピオネート);2−ブロモプロピオニトリル;ジブロモクロロメタン;
2,2−ジブロモ−2−シアノアセトアミド;α,α’−ジブロモ−オルト−キシレン;
α,α’−ジブロモ−メタ−キシレン;α,α’−ジブロモ−パラ−キシレン;α,α’
−ジクロロ−パラ−キシレン;2−ブロモプロピオン酸;メチルトリクロロアセテート;
パラ−トルエンスルホニルクロリド;ビフェニル−4,4’−ジスルホニルクロリド;
ジフェニルエーテル−4,4’−ジスルホニルクロリドブロモホルム;ヨードホルム四塩
化炭素;およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項1の方法。
【請求項6】
上記配位子が、σ結合で遷移金属に配位する一個以上の窒素、酸素、リン及び/又は硫
黄原子を含む化合物を含むか、またはπ結合で遷移金属に配位し得る二個以上の炭素原子
を含む化合物を含む請求項1の方法。
【請求項7】
上記配位子が、一級のアルキルまたは芳香族アミン、二級のアルキルまたは芳香族アミ
ン、三級のアルキルまたは芳香族アミン、線状ポリアミン、分岐状ポリアミン、樹状ポリ
アミン、ポリアミドおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項1の方法。
【請求項8】
上記配位子が、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン(Me6−TREN)、ト
リス(2−アミノエチル)アミン(TREN)、2,2−ビピリジン(bpy)、N,N
,N,N,N−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)およびこれらの組み
合わせからなる群から選ばれる請求項1の方法。
【請求項9】
末端近傍のペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターが、鎖末端から、10%の範囲内(1鎖末端の場合)、または5%範囲内(2鎖末端の場合)にある、請求項1の方法。
【請求項10】
上記反応進行工程がさらに、中心領域から外向きにポリマー分子の中心から離れたとこ
ろで少なくとも一種のポリマーを形成させることを含む請求項1の方法。
【請求項11】
ポリマーが、その一つの末端に硬化性反応性サイトをさらに有する、請求項1の方法。
【請求項12】
ポリマーが、その二つの末端に硬化性反応性サイトをさらに有する、請求項1の方法。
【請求項13】
ペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマーが、ビニルポリマーである、請求項1の方法。
【請求項14】
精密ラジカル重合方法を経る、複数の末端およびペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマーを含有する硬化性組成物の製造方法であり:
ビニル重合性化合物、開始剤、配位子および触媒を含む組成物で精密ラジカル重合を行い、該精密ラジカル重合が、単一電子移動リビングラジカル重合(SET−LRP)であり、そして、触媒が、Cu(O) であることを特徴としており、
該精密ラジカル重合反応を、完全転化に至る前の所望の転化レベルに達するまで進行させて中間重合生成物を得て;
該中間重合生成物を開始剤の当量を超える反応体とさらに反応させて、ポリマー鎖の各末端近傍にペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを提供するか、またはポリマー鎖の少なくとも1つの末端近傍にペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスタ−およびさらに少なくとも1つのフリーラジカル硬化部を提供し、複数の末端およびペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマーを提供することを含み;そして
上記で得られたポリマーを含有する硬化性組成物を提供すること、
を含む上記製造方法。
【請求項15】
複数の末端およびペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマーを提供する精密ラジカル重合方法を経る、硬化反応生成物の製造方法であり、
ビニル重合性化合物、開始剤、配位子および触媒を含む組成物で精密ラジカル重合を行い、該精密ラジカル重合が、単一電子移動リビングラジカル重合(SET−LRP)であり、そして、触媒が、Cu(O)であることを特徴としており、
該精密ラジカル重合反応を、完全転化に至る前の所望の転化レベルに達するまで進行さ
せて中間重合生成物を得て;
該中間重合生成物を開始剤の当量を超える反応体とさらに反応させて、ポリマー鎖の各
末端近傍にペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを提供するか、またはポリマー鎖の少なくとも1つの末端近傍にペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスタ−およびさらに少なくとも1つのフリーラジカル硬化部を提供し、複数の末端およびペンダント硬化性反応性サイトの複数のクラスターを有するポリマーを提供することを含み;
上記で提供されたポリマーを含有する硬化性組成物を提供すること;および
上記で提供された硬化性組成物を硬化すること、
を含む上記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密ラジカル重合により得られ、複数の鎖末端近傍に湿気硬化型官能性クラスターを有するポリマーに関する。より詳細には、本発明は、ポリマー鎖の複数の末端近傍に主鎖の一部に沿って存在する湿気硬化性クラスターを有するポリアクリレートに関する。
【背景技術】
【0002】
単一電子移動リビングラジカル重合(以下、SET−LRP)や原子移動リビング重合(以下、ATRP)などの精密ラジカル重合(以下、CRP)は、いろいろなポリマー生成物を、高収率で、非末端部が官能性を有して、高分子量で、また低い多分散指数で製造する方法である。したがって、CRPはいろいろなポリマー生成物の設計に用いられている。しかしながら、CRPで典型的に製造される、このようなポリマー生成物は、その末端に官能基を有する硬化性生成物をもたらした。
【0003】
既知のCRPポリマーは、硬化速度に限界があり、また剪断弾性率値が多くの用途に決して望ましくない。また、これらのCRPポリマーは、柔軟性、耐熱性、流体抵抗および他の望ましい物理化学的性質を必要とする用途への適合性能が低い。したがって、既知のCRPポリマーと較べて硬化に対する硬化性が高く、より高い柔軟性、耐熱性、流体抵抗、剪断弾性および強度を示すCRPポリマーに対するニーズがある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施態様は、硬化のための物理的性質および化学的性質が良好な、CRPで製造されたポリマー生成物を提供し、これにより従来技術の問題を解決する。この硬化性の改善は、ポリマー鎖の機能性末端の近傍あるいはここに隣接するところに所望モル比のクラスター状の硬化性官能基を導入することで達成される。このようにして、このポリマーの各末端での官能性が維持され、全体として官能性が増加し、より大きな架橋度を可能にする。
本発明の別の側面では、式[A]−(A(式中、Aは、ホモポリマー、コポリマーまたはブロックコポリマーセグメントであり;Bは、湿気硬化性基の少なくとも一個のクラスターを含む、望ましくは一個より多いクラスターを含むポリマーセグメントであり、いくつかの実施態様では、Bのいくつかのセグメントが異なる官能基を、即ちヒドロキシル基、エポキシ基及び/又はアルコキシ基を含んでいてもよく;n+z(x+y)は、ポリマー単位の総数であり;n、x、yおよびzは、これらが注目させるそれぞれのセグメントの数平均重合度であり;望ましくは、いくつかの実施態様では、x≧0;16<z>2;y>2であり;また式中、モル%B=y(100)/[n+z(x+y)]<10.0であり;モル%A+B=(x+y)(100)/[n+z(x+y)]<20.0である)で表されるポリマーを含む硬化性組成物が提供される。
【0005】
本発明のまた別の側面においては、式[A]−((A)−C)(式中、Aは、ホモポリマー、コポリマーまたはブロックコポリマーセグメントであり;Bは、湿気硬化性基の少なくとも一個のクラスターを含む、望ましくは一個より多いクラスターを含むポリマーセグメントであり、いくつかの実施態様では、Bのいくつかのセグメントが異なる官能基を、即ちヒドロキシル基、エポキシ基及び/又はアルコキシ基を含んでいてもよく;Cは、セグメント(A)の最後の単位であって、硬化性基、例えば特に限定されずに、(メタ)アクリル基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、アルコキシ基およびこれらの組み合わせから選ばれるフリーラジカル硬化性基を含むようにさらに反応させるものであり;n+z(x+y)は、ポリマー単位の総数であり;n、x、yおよびzは、これらが注目させるそれぞれのセグメントの数平均重合度であり;望ましくは、いくつかの実施態様では、x≧0;16≦z≧2;y>2であり;また式中、モル%B=y/n+z(x+y)<0.1であり;モル%A+B=x+y/n+z(x+y)<0.2である)で表されるポリマーを含む硬化性組成物が提供される。
【0006】
上式中のA、BおよびCは、本明細書中でそれぞれ規定される材料のいずれから選ばれても、またいずれの有用な組合せから選ばれてもよい。
【0007】
本発明のさらに別の側面においては、重合性化合物、開始剤、配位子、触媒および湿気硬化性基のクラスターをもつ反応体からの精密重合反応生成物を含む組成物であって、該反応生成物が、ポリマー鎖および該ポリマー鎖の複数の末端近傍にある反応性サイトのクラスターを含む組成物が提供される。この反応生成物の一部にフリーラジカル部も存在し、反応生成物が、デュアル硬化することが、即ち湿気とフリーラジカルの両メカニズムで硬化することが望ましい。
【0008】
以下の図面および詳細な説明により、本発明をさらによく理解できるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の高分子構造を確認するためのNMR分析のグラフである。
【0010】
図2】実施例3の高分子構造を確認するためのNMR分析のグラフである。
【0011】
図3】対照試料と本発明の試料の弾性率測定値を硬化時間の関数として表したグラフである。
【0012】
図4】対照試料と本発明のブレンド組成物の弾性率測定値を硬化時間の関数として表したグラフである。
【0013】
図5】異なる樹脂比率の3種の本発明のブレンドの弾性率測定値を硬化時間の関数として表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の目的において、「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレートとアクリレートを包含することとする。
【0015】
本明細書中で使用される「硬化」という用語は、ある材料の状態、条件、及び/又は構造の変化をいい、部分硬化と完全硬化を含む。湿気硬化性「ポリマー」および「プレポリマー」は置き換え可能に使用され、湿気により硬化され得るポリマーを意味する。この湿気硬化性ポリマーは、いろいろな高分子繰返し基または主鎖を持つことができる。
【0016】
「クラスター」という用語は、少なくとも2個の硬化性官能基をもつペンダント基を意味する。このクラスターは、その上に一種以上の官能基を持っていてもよい。
【0017】
本発明は、新規のポリマー生成物およびその製造方法に関する。本発明は、硬化性クラスターがポリマー鎖の複数の末端付近に導入されるように、硬化性クラスターの導入を制御し、これにより、より大きな官能性を付与し、硬化速度が大きく作業可能な粘度をもつポリマーを与える。
【0018】
本発明のポリマー生成物および方法は、SET−LRP及び/又はATRPなどの精密ラジカル重合で得られる。精密重合法またはリビング重合法は、ポリマー成長反応と比較すると連鎖移動反応や停止反応が実質的に存在しない方法である。これらの方法の開発の結果、正確で定量的な官能性を示すポリマーの製造および特有の化学反応性をもつ機能性ポリマーの開発が可能となった。本発明の方法は、ポリマーの加工において、また、続く共重合、連鎖延長反応、架橋反応、分散された固体などの基材との相互作用などの材料形成反応でのポリマーの構成単位あるいは成分としての利用において、材料エンジニアに与えられている制御レベルを広げる。
【0019】
精密ラジカル重合を、できる限り、環境的に温和とし、かつ低コストでの機能性材料の製造方法とするための努力が継続的に行われてきた。このような方法を設計し実行するに当り、ポリマーの分子量、分子量分布、組成、構造および官能性の制御などの要素を考慮することが重要である。本発明の方法は、よりよく最終ポリマー生成物を制御可能であり、最終生成物に所望の鎖長、多分散度、分子量および官能性を容易にもたらすることができる。したがって、本発明は、分子量分布、低い官能性、ポリマーレオロジー、および望ましくない多分散度についての制御不良を克服する。また、本発明の方法は制御可能であるため、高予測精度で大規模に実施でき、最終ポリマー生成物の特性を調整可能で、またこれらの特性が向上した配合を可能にする。また、本発明の方法はポリマー形成時に停止することが少ないため、得られる高分子構造がより正確となる。さらに、反応を進めるのに必要な触媒の量が非常に少量であるため、最終生成物の精製が容易であり、場合によっては不要となる。さらに、本発明の方法で用いられる成分を最適化することにより、モノマーの(共)重合をさらに正確に制御することができる。
【0020】
本発明の方法では、硬化のさらに高い利益を提供するように、単一ポットSET−LRP精密ラジカル重合生成物を末端官能化させる。得られるポリマーは、共存する他の末端官能基に加えて、当該ポリマーのポリマー鎖に沿ってあるいは当該ポリマー鎖の複数の末端近傍に官能基化クラスターを有していてもよい。
【0021】
SET−LRPで製造されるポリマー生成物を反応させて、ポリマー鎖の複数の末端近傍にペンダント硬化性官能基、例えば湿気硬化性官能基をクラスター状に導入してもよい。このようにすると、さらにクラスター状官能基を提供しても、得られるポリマーの末端基(これも、望ましくは官能基である)が元のままで存在する。得られた本発明の機能性ポリマーをその後、湿気硬化型組成物に配合してもよい。このような湿気硬化型組成物は、優れた硬化時間および他の有利で好ましい特性を示す。本明細書の実施例中の流動度測定で示されているように、周囲の湿気で、良好な硬化が完了した。
【0022】
本発明の一つの側面は、精密ラジカル重合の方法である。この方法は、重合化合物ならびに開始剤、配位子および触媒に対して精密ラジカル重合を行う工程;当該重合を所望の転化レベルに達するまで進行させる工程;および当該中間重合化合物を複数の反応性サイトをもつ反応体とさらに反応させて、ポリマー生成物の複数の末端近傍に複数の反応性サイトのクラスターを持つ硬化性反応生成物を提供する工程を含む。いくつかの実施態様において、所望の転化レベルは、完全転化に至る前である。他の実施態様では、所望の転化レベルは、実質的な完全転化であり、例えば98%以上の転化率である。得られる硬化性ポリマーは、このクラスターの一部として一個以上のペンダント湿気硬化性官能基を有していてもよい。また、湿気硬化性基及び/又はフリーラジカル硬化性基などの反応性基が末端基として存在していてもよい。
【0023】
本発明で用いられる重合化合物は、望みにより、モノマー、コポリマー、ブロックコポリマーの一種以上から、またこれらの組み合わせから選ぶことができる。好適なモノマーには、アクリレート、ハロゲン化アクリレート、メタクリレート、ハロゲン置換アルケン、アクリルアミン、メタクリルアミド類、ビニルスルホン類、ビニルケトン類、ビニルスルホキシド類、ビニルアルデヒド類、ビニルニトリル類、スチレン類、及び他の電子吸引性置換基を有するあらゆる活性化及び非活性化モノマーが含まれる。これらのモノマーは、置換されていてもよく及び/又は触媒の他の酸化状態への不均化を助ける官能基を任意に含んでいてもよい。官能基は、特に限定されず、アミド、スルホキシド、カルバメート、またはオニウムが含まれてもよい。ハロゲン置換アルケンには、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、三フッ化塩化エチレン、またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニルエステルが含まれる。これらのモノマー、コポリマーおよびブロックコポリマーの組合せを用いてもよい。
【0024】
具体的には、モノマーは、例えば、以下のものの一つ以上であってよい:アルキル(メタ)アクリレート;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル;ビニリデンクロリド;スチレン系モノマー;アルキル及びアルコキシアルキルフマレート及びマレエート、及びこれらのハーフ−エステル、シンナメート;およびアクリルアミド;N−アルキル及びアリールマレイミド(メタ)アクリル酸;フマル酸、マレイン酸;桂皮酸;およびこれらの組み合わせ。
【0025】
より具体的には、本発明の実施態様でポリマーの合成に使われるモノマーは、いずれか特定のものに限定されず、いろいろなモノマーが含まれ、例えば:(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸−エチレンオキシド付加物、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロエチル−2−ペルフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペルフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジペルフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロメチル−2−ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ペルフルオロデシルエチル(メタ)アクリレートおよび2−ペルフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩などのスチレン系モノマー;ペルフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンなどの含フッ素ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシランなどのケイ素含有ビニルモノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸モノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、およびシクロヘキシルマレイミドなどのマレイミドモノマー;アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなどのニトリル含有ビニルモノマー;アクリルアミドおよびメタクリルアミドなどのアミド含有ビニルモノマー;ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルピバレート、ビニルベンゾエートおよびビニルシンナメートなどのビニルエステル;エチレンおよびプロピレンなどのアルケン;ブタジエンおよびイソプレンなどの共役ジエン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が含まれる。上記モノマーは単独で用いても、順次用いても、あるいは組合せで用いてもよい。生成物の物理的性質の望ましさからは、一種以上のモノマーの使用が好ましい。
【0026】
このようなモノマーのポリマー及び/又はコポリマー等も、所望であれば、本方法で使用可能なものとして考えてもよい。重合化合物を、開始剤、配位子、触媒、および必要なら溶媒などの他の成分と共に、精密ラジカル重合プロセスで、例えばSET−LRP及び/又はATRP法で重合し、重合生成物または硬化性ポリマー最終生成物に重合化合物を組み入れる。
【0027】
本方法の開始剤はフリーラジカル反応を開始させてよく、このため、成長するポリマー鎖の数に寄与するものと考えることができる。好適な開始剤には、例えばハロゲン含有化合物が含まれる。開始剤の例としては、クロロホルム、ブロモホルム、ヨードホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、六ハロゲン化エタン、モノ−ジ及びトリハロアセテート、アセトフェノン、ハロゲン化アミド、ナイロンなどのポリアミド、ハロゲン化ウレタンおよびポリウレタン(そのブロックコポリマーも含む)、ROハロゲン化イミド、アセトン、ならびにATRPおよびSET−LRPなどの従来の金属触媒リビングラジカル重合で働くことが分っているいずれか他の開始剤などがあげられる。広範囲の開始剤が、本発明での使用に好適である。ハロゲン化化合物が、特に本発明の使用に好適である。このような開始剤には、式R−Xまたは“R’C(=O)OR”(式中、Xはハロゲンであり、RはC−Cアルキルである)の化合物が含まれる。例えば、この開始剤には、ジエチルmeso−2,5−ジブロモアジペート;ジメチル2,6−ジブロモヘプタンジオエート、エチレングリコールビス(2−ブロモプロピオネート);エチレングリコールモノ−2−ブロモプロピオネート;トリメチロールプロパントリス(2−ブロモプロピオネート);ペンタエリスリトールテトラキス(2−ブロモプロピオネート);2,2−ジクロロアセトフェノン;メチル2−ブロモプロピオネート;メチル2−クロロプロピオネート;N−クロロ−2−ピロリジノン;N−ブロモスクシンイミド;ポリエチレングリコールビス(2−ブロモプロピオネート);ポリエチレングリコールモノ(2−ブロモプロピオネート);2−ブロモプロピオニトリル;ジブロモクロロメタン;2,2−ジブロモ−2−シアノアセトアミド;α,α’−ジブロモ−オルト−キシレン;α,α’−ジブロモ−メタ−キシレン;α,α’−ジブロモ−パラ−キシレン;α,α’−ジクロロ−パラキシレン;2−ブロモプロピオン酸;メチルトリクロロアセテート;パラ−トルエンスルホニルクロリド;ビフェニル−4,4’−ジスルホニルクロリド;ジフェニルエーテル−4,4’−ジスルホニルクロリドブロモホルム;ヨードホルム四塩化炭素;およびこれらの組み合わせが含まれていてもよい。いくつかの実施態様においては、開始剤は、アルキル、スルホニル、または窒素ハライドであってもよい。窒素ハライドは、ハロゲン化ナイロン、ハロゲン化ペプチド、またはハロゲン化タンパク質であってもよい。あるいは、活性ハライド基を含むポリマー、例えばポリ(ビニルクロリド)、ポリクロロメチルスチレンのクロロメチル基および他のこのようなポリマーやコポリマーを開始剤として使用することもできる。
【0028】
本発明で有用な配位子は、一般的には窒素含有配位子であり、この配位子は、金属触媒を当該配位子で溶解させ得る程度まで、触媒の抽出を助けるものであるので、その触媒を配位子で溶解させて、高酸化状態で存在させる。したがって、配位子は当該配位子が分子レベルで反応混合物のいろいろな成分の混合を促進するまで、重合反応を進めることが望ましい。広範囲の窒素含有配位子が、本発明での使用に適している。このような化合物には、一級、二級、及び三級のアルキルアミンまたは芳香族アミンや、線状、分岐状、または樹状のポリアミン、および線状、分岐状、または樹状ポリアミドが含まれる。本発明での使用が好適な配位子には、一個以上の窒素、酸素、リン及び/又は硫黄原子を有し、かつ遷移金属にσ結合で配位し得る配位子、および2個以上の炭素原子を有し、かつ遷移金属にπ結合で配位し得る配位子が含まれる。好適な配位子としては、例えばトリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン(Me6−TREN)、トリス(2−アミノエチル)アミン(TREN)、2,2−ビピリジン(bpy)、N,N,N,N,N−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、さらには他のN配位子が挙げられる。
【0029】
配位子は、遷移金属のレドックス共役体と可溶性の錯体を形成することが望ましく、即ち高酸化状態の遷移金属が、得られるポリマー生成物の分子量分布をより狭くする活性錯体、即ち成長ラジカル鎖の失活に関与する錯体を形成することが望ましい。
【0030】
有用な触媒としては、特に制限はないが、当該技術分野で既知のものであり、例えば、Cu(0);CuS;CuTe;CuSe;Mn;Ni;Pt;Fe;Ru;V;およびこれらの組み合わせ等があげられる。同様に、例えば、Au;Ag、Hg、Rh、Co、Ir、Os、Re、Mn、Cr、Mo、W、Nb、Ta、Zn、およびこれらの一つ以上を含む化合物などの他の触媒を本方法で使用してもよい。特に効果的な触媒は、元素状の銅金属およびその誘導体である。触媒は、一つ以上の形状をとってもよい。例えば、触媒は、ワイヤ状であっても、メッシュ状、スクリーン状、削り屑状、粉体状、チューブ状、ペレット状、結晶形、または他の固体形状であってもよい。触媒表面は、前述のように一種以上の金属であっても金属合金であってもよい。触媒は、上述の一種以上の形状の銅または銅遷移金属であることが望ましい。触媒は、2009年6月17日に出願の米国同時継続共同出願のPCT/US2009/047579に記載のように、反応器外部の容器中で用いられる銅スクリーンの形状であることが最も望ましい。なお、同出願の全体を参考文献として引用する。
【0031】
例えば反応混合物の粘度を低下させ、配位子の転化を増加させ、及び/又は触媒の高速不均化を促進して超高速重合を容易にするために、本発明においては任意に、溶媒が含まれていてもよい。また、連鎖移動反応、副反応または触媒の毒作用を防止するために、溶媒は非反応性である必要がある。望ましい本方法の溶媒としては、双極性溶媒、プロトン性溶媒または非プロトン性溶媒が挙げられる。このような望ましい溶媒としては、水、アルコール、天然または合成高分子アルコール、双極性非プロトン性溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、イオン性液体、またはこれらの混合物が挙げられる。このような溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、テトラエチレングリコール、グリセリン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、フェノール類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、イオン性液体、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートがあげられる。好適なアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、他の天然及び合成のOH基含有ポリマーが挙げられる。選ばれる溶媒または溶媒ブレンドは、反応中にポリマー生成物の沈殿を引き起こさないことが望ましい。
【0032】
空気中に存在する酸素による副反応及び/又は反応媒体の酸化を防止するために、精密ラジカル重合反応を不活性雰囲気下で行ってもよい。反応容器を置換するために及び/又は体積を制御するために適当なガスは、例えばアルゴンや窒素である。特定の反応状態を促進するために反応温度を制御することも望ましい。ジャケット、水槽、熱コンバータ等を用いて、5℃、10℃、15℃または20℃などの低温に維持してもよい。同様に上記装置を使用して室温、50℃、60℃または70℃に近い高温に維持してもよい。より高温で、即ち室温付近、あるいは望ましいなら80℃、100℃、150℃などの高温で重合プロセスを完結させることもできる。
【0033】
中間重合生成物は、一般的には精密ラジカル重合が進行しているが、完了にまでは至っていない中間相にある最終ポリマー反応生成物をいう。望ましいなら、反応プロセスでの転化レベルを測定するために、いろいろな手段および装置で、具体的にはFTIR、NMR、GPC、IR、分光分析、HPLCなどで、ポリマー生成物の転化を追跡することができる。望ましくは、転化レベルを決定するための反応混合物のIR試験を行うために、少量の試料が精密ラジカル重合プロセスから抜き出される。IRを、鎖長の測定に、また試料中の未反応重合化合物(例えば、モノマー)の量の測定に用いてもよい。
【0034】
中間重合化合物が所望の転化レベルにまで達した後で、反応混合物に複数の反応性サイトをもつ反応体を添加することができる。複数の反応性サイトをもつ反応体は、一般的には、少なくとも2個、望ましくは2個より多い官能基を持つ化合物であって、その官能基が湿気硬化性及び/又はUV硬化性などの有利な硬化性を有していることを特徴としているものをいう。したがって一般に、複数の反応性サイトをもつ組成物には、複数の硬化性官能基をもつ重合化合物が含まれる。
【0035】
したがって、精密ラジカル重合反応が進行すると、系内には、未反応の(まだ反応していない)重合生成物に加えて中間重合生成物が形成される。出発原料からポリマー生成物への所望の転化レベルに基づいて望ましい中間重合生成物が形成されると、複数の反応サイトを含有する反応体、即ち複数の反応サイトのクラスターをもつ反応体を加えて、当該反応体をペンダント基として導入し、これにより、残る複数の反応サイトが硬化性官能基を与えるようにする。このペンダント基は、最終ポリマー反応生成物の末端基とは異なることを意図されるものではなく、即ち、ペンダント基は末端エンド生成物(terminal end product)ではないが、そこに近いペンダント基である。しかし望ましくは、最終ポリマー反応生成物の末端基もまた硬化性基である。
【0036】
クラスター上で及び/又は末端基として用いられる硬化性反応基としては、限定されないが、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基およびカルボキシ基が挙げられる。このような基の組合せであってもよい。このような基は、末端官能基として及び/又はペンダントクラスター基として存在してもよい。硬化性反応基は、例えば湿気硬化メカニズム及び/又はフリーラジカルメカニズムで硬化可能であってよい。最終ポリマー反応生成物は、精密フリーラジカル重合で形成されたポリマーであって、複数の末端と、当該末端の近くのペンダントクラスターとの両方に湿気硬化性基をもつポリマーであることが望ましく、デュアル硬化性ポリマーが形成されるように、さらにUV硬化性部を含むものも好ましい。
【0037】
所望の転化レベルに到達した後、例えば反応体の最終ポリマー生成物への完全なまたはほぼ完全な転化の後、次いで、さらなる重合化合物と反応性サイトのクラスターを持つ反応体とのさらなる混合物を添加できることも注目すべきことである。このようなさらなる混合物は、所望鎖長のポリマー生成物に既知のモル比の各成分が付加されるように、予め形成されてもよい。
【0038】
本発明の方法では、組成物がポリマー鎖に導入されるとき、反応体上にある反応性サイト(硬化性官能基)のペンダントクラスターが無傷で活性のままであることが望ましい。反応性サイトのクラスターをもつ組成物を選択して、鎖末端の早過ぎる停止反応を回避しながら、転化まで継続的に精密ラジカル重合プロセスを促進してもよい。複数の反応性基を含む反応体の量を、所望量の官能基が最終重合性化合物に付加されるように選ぶことができる。本発明の組成物を形成するに当り、(上述の)セグメントAが、まず所望程度の転化率で製造される。次いで、第二のモノマー単位Bが添加される。この反応は、Bといずれかの未反応のセグメントA形成モノマー(または反応体)が、ランダムな状態でポリマー鎖に付加されるように進行する。Bと未反応のAのポリマー鎖への付加は、このように形成されるポリマー鎖の末端の近く及び/又は末端で起こる。このようにして、形成されるポリマーの中間の鎖セグメントと較べると、複数の鎖末端は反応性基が豊富になる。
【0039】
最終ポリマー反応生成物の複数の末端近傍及び/又は当該末端に導入されるペンダント基は、「クラスター状官能基」、「架橋性基のクラスター」または「ペンダント硬化性基のクラスター」と、相互互換的に呼ばれることがある。重合性化合物(A)のクラスター状官能基含有反応体に対するモル比は、最終ポリマー生成物の所望の機械的性質に悪影響を及ぼさないなら、いずれのモル比であってもよい。本発明者らは、例えば、クラスター状官能基をもつ反応体(B)は、(A)ブロック(式中のxとyは後述の通りである)の「クラスター」長の5%〜約100%であってよいものと考える。クラスター状官能基含有反応体の割合は(A)ブロックの約1重量%〜約50重量%が望ましい。より望ましくは、クラスター状官能基含有反応体の割合は(A)ブロックの約5重量%〜約35重量%である。また、ポリマー鎖のクラスター状官能基ペンダントは、ポリマー鎖の複数の末端あるいはそれらの近傍で、ポリマー鎖に沿って設けられていることが望ましい。したがって、末端側に架橋性官能基のクラスターをもつ最終ポリマー反応生成物は、より大きな潜在的精密架橋能により、優れた硬化性を示す。
【0040】
本発明において、重合を進行させるとは、総転化率が増加するように、重合を継続させることである。また、「させる」とは、副反応および非官能性末端での停止反応等を制限しながら、重合プロセスのパラメーターを最適化して、継続する重合プロセスを促進することを意味することがある。このようにして「重合を進行させる」ことにより、中心領域から外側に向けてポリマー分子の中心から離れたところでポリマー鎖が形成される。精密ラジカル重合で進行するとき、重合性化合物は、ペンダント官能基に加えて末端官能基を持つことが望ましい。精密ラジカル重合は、一般的に認められているメカニズムである原子移動ラジカル重合、単一電子移動リビングラジカル重合、またはこれらの組み合わせにより進行する。
【0041】
最終ポリマー反応生成物は、ポリマー鎖の複数の末端近傍にまたは当該末端にクラスター状硬化性官能基を持つポリマー生成物を含んでいてもよい。当該官能基は、ポリマー生成物の架橋の増加およびより制御された硬化、例えばより高速での硬化に寄与することが望ましい。クラスター状硬化性官能基は、上記の特徴を促進するとともに、最終ポリマー反応生成物の機械的性質を維持及び/又は改善することも望ましい。
【0042】
本発明の最終ポリマー反応生成物は、いろいろな用途に使用可能であり、特に限定されずに、例えば接着剤、封止剤、埋込用組成物、保持用組成物および塗料として使用できる。特に有用な用途は、粘着性保持時間が長く、一旦完全硬化しても最終の接着性をまだ保持する触圧接着剤である。本発明のポリマーはまた、優れた耐油性、耐熱性、接着性および柔軟性を示し、自動車分野、エレクトロニクス分野、消費者分野および一般工業分野など多くの用途を持っている。
【0043】
本発明の別の側面では、式:[A]−((A)−C)のものを含む硬化性組成物が提供される。なお式中、Aは、ホモポリマー、コポリマーまたはブロックコポリマーセグメントであり;Bは、湿気硬化性基の少なくとも1個のクラスター、望ましくは1個より多いクラスターを含むポリマーセグメントであり、いくつかの実施態様では、Bのいくつかのセグメントは異なる官能基、即ちヒドロキシル基、エポキシ基及び/又はアルコキシ基を含んでいてもよい;Cは、セグメント(A)の最後の単位であって、硬化性基、具体的には、特に限定されることなく、例えば(メタ)アクリル系基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、アルコキシ基およびこれらの組み合わせから選ばれるフリーラジカル硬化性基を含むようにさらに反応させる単位であり;n+z(x+y)は、ポリマー単位の総数であり;n、x、yおよびzは、これらが注目させるそれぞれのセグメントの数平均重合度であり;望ましくは、いくつかの実施態様では、x≧0;16≦z≧2;y>2であり;また式中、モル%B=y/n+z(x+y)<0.1であり;モル%A+B=x+y/n+z(x+y)<0.2である。
【0044】
A、BおよびCは、本明細書に重合成分および反応性クラスター含有成分それぞれとして記載した上記成分のいずれか、およびいずれかの組合せから選ばれる。
【0045】
したがって、本発明で製造される重合性組成物は、ポリマー鎖の末端あるいはその近傍における湿気硬化性基のクラスター(その湿気硬化性基は、ポリマー鎖上で同一であっても異なっていてもよい)およびポリマー鎖の末端の近傍または末端における上述のようなフリーラジカル硬化基、特に(メタ)アクリル系の基などの他の硬化性基の両方を含んでいてもよい。硬化性組成物は、特に限定されず、ATRP、SET−LRPおよびこれらの組み合わせなどの精密ラジカル重合の生成物であってよい。
【0046】
セグメントAは、少なくとも一種のモノマー、少なくとも一種のポリマー、少なくとも一種の(コ)ポリマー、およびこれらの組み合わせの一種以上から選ばれてよい。望ましいなら例えば、Aは、上記のものの一種以上からなるポリマーセグメント及び/又はある長さのポリマー主鎖を含んでいてもよい。セグメントAは、本発明の方法で有用である上記のモノマー、ポリマーまたはコポリマーのいずれかから形成されてよい。
【0047】
セグメントBはさらに、ポリマー鎖の一部に沿って分散した官能基のクラスターを持つポリマーセグメントを含んでいてもよい。なお、BはAとは異なる。あるいは、Bは、ポリマー鎖の一部に沿って分散したクラスター状官能基を持つポリマー鎖を含んでいてもよく、その場合、Bのポリマー鎖はAと同じである。Bの硬化性官能基が最終の硬化性ポリマーの機械的性質に悪影響を及ぼすことがなく、むしろ機械的性質を改善することが望ましい。望ましくは、A:Bのモル比は約0.01:約1〜約1,000:約1である。例えば、ポリブチルアクリレート(PBA)は、SET−LRPプロセスを用いて重合してもよい。重合反応の際にPBAが所望転化レベルに達したと確認されたら、反応混合物に官能化アクリレートを添加して、複数の反応性サイトをもつ反応体の重合性化合物に対するモル比を一定にすることができる。複数の反応性サイトをもつ官能化反応体の一例として、例えば3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートが挙げられる。
【0048】
セグメントCはさらに、硬化性組成物の末端基を含んでいてもよい。Cは硬化性末端基を含むことが望ましい。末端封止により、あるいは望ましいなら置換反応により、最終ポリマー反応生成物の複数の鎖末端上に末端セグメントCを配置してもよい。重合化合物上の適当な末端基には、特に限定されないが、(メタ)アクリロキシアルキルトリ(アルコキシ)シラン、(メタ)アクリロキシアルキルジアルコキシシラン、および上述の硬化性基が含まれる。
【0049】
AおよびBは、本明細書中、重合成分および反応性クラスター含有成分として、それぞれ記載された上記成分のいずれかから選ばれてよい。
【0050】
最終の重合性反応生成物およびその組成物は、湿気硬化性、UV硬化性、これらの組み合わせを有する。
【0051】
本発明の接着剤組成物は、湿気の存在下、室温で硬化可能である。本明細書に記載のこのような組成物は、塗布後約4〜約8時間で十分に硬化されることが望ましい。また、本明細書に記載のこのような組成物は、約48から約72時間後に完全に硬化される。
【実施例】
【0052】
反応スキームの一例として、反応の開始のための二官能性開始剤を用いて、SET−LRP法によりn−ブチルアクリレートを重合させた。このポリマーは、中心から外向きに成長した。モノマーからポリマーへの転化率が所定の転化レベル、例えば50〜100%の転化率、望ましくは80−99%に達したら、クラスター状官能性基をもつポリアクリレートを反応混合物に添加した。クラスター状ポリアクリレート官能基を最終のポリマー反応生成物の複数の末端またはそれらの近傍でポリマー鎖に導入しながら、完全に転化が終了するまで重合を継続した。
実施例1
複数の鎖末端がトリメトキシシラン基で高度に濃縮されたポリ(n−ブチルアクリレート)の合成
【化1】
【0053】
スキーム1.精密ラジカル重合条件(SET−LRP)下でのブチルアクリレートと3−(トリメトキシシリル)−プロピルメタクリレートの二段逐次重合
【0054】
アルゴンで置換した、ステンレス鋼プロペラ翼とシャフト、ドライアイス凝縮器、熱電対、ATR赤外(IR)検出器プローブおよびアルゴンパージラインを備えた500mLのジャケット付きガラス反応器に、n−ブチルアクリレート(248.16g;1.94モル)、銅粉(0.174g;2.74ミリモル、<10μm粒径)、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン(0.63g;2.73ミリモル)(Me−TREN;M. Ciampolini, Inorg. Chem. 1966, 5(1), 41に記載のように製造)および無水メタノール(110g)を入れた。この混合物を5℃に冷却し、50torrの真空下で10分間脱気させた。アルゴン下で真空を開放し、この真空脱気サイクルを繰り返した。次いで粉末状のジエチルmeso−2,5−ジブロモアジペート(4.94g;13.73ミリモル)を、陽圧のアルゴン下、攪拌されている混合物中に加えた。上述のようにしてこの反応器を真空脱気し、混合物を次いで35℃に加熱した。穏和な発熱が観測され、温度が最高で48℃にまで達し、溶液が緑色を呈した。次いで20分間かけて混合物を20℃に冷却した。その時のモノマー転化率は96%であった(IR分析)。この混合物をさらに3時間攪拌し、モノマーを実質的に全て消費させた(99%転化率)。3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(16.63g;0.067モル)を添加し、混合物を16時間20℃で攪拌した。さらに銅粉(0.061g;0.96ミリモル)とMe−TREN(0.30g;1.30ミリモル)を添加し、混合物をさらに6時間混合した。この時のメタクリレートの消費量は60%と推測された。この粗製ポリマー溶液をテトラヒドロフラン(THF)(500g)で希釈し、ドライ窒素雰囲気下で2ベッドの中性アルミナ(各々200g)を通して濾過した。溶媒と残存モノマーを真空下、蒸留で除き(3.5時間、70℃、650ミリトル)、末端トリメトキシシリル濃縮ポリマーを得た(193.93g;73%回収率)(スキーム1)。
複数の鎖末端がトリメトキシシランで濃縮されたポリ(n−ブチルアクリレート)の分析
【0055】
このモノマーのIRスペクトルは、約810cm−1にアクリレート二重結合に起因する孤立した吸光帯を有している。この吸光度はモノマー濃度を直接測定するものであり(ランベルト・ベールの法則)、ポリマーには存在しない。したがって、モノマーの転化率は、反応時のいずれの時点においても、その時点の吸光度を初期の吸光度と比較することにより、即ち、%転化率=100(1−A/A)(式中、Aは反応中または反応後の吸光度であり、Aは重合開始前の初期吸光度である)により測定することができる。
【0056】
重合は二段の逐次工程で実施した。先ず、精密ラジカル重合条件(SET−LRP)下でブチルアクリレート(BA)を99%転化率まで重合し、ジブロモ末端のマクロ開始剤を得た。次いで3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(TMSPMA)を、マクロ開始剤および残存するブチルアクリレート(BA;初期量の1%または0.02モル)の溶液に加え、第二の工程でTMSPMAとBAの共重合を、IR分析でモノマーのさらなる転化が検出されなくなるまで行った(スキーム1)。したがって、得られたポリマーはポリ(n−ブチルアクリレート)の中心セグメント1個およびポリ[3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート−コ−n−ブチルアクリレート]の末端セグメント2個からなるバイナリトリブロック構造(Q−T−Q)をもつ。Tが、上記一般式の[A]に相当し、Qが一般式の(A)に相当する。TのQブロックに対する相対比は、1段階目で消費されたBA(1.94モルの99%=1.92モル)の2段階目で消費された総モノマーの量(0.086モルの60%=0.05モル)(0.067モルTMSPMA+0.019 BA)に対する割合から計算され、即ち1.92/0.05または38.4である(下のNMRデータ参照)。仮に2段階目でTMSPMAとBAが同じ比率で消費されるとすると、末端ブロックのコポリマー組成は78%TMSPMAと22%BAとなる。従って、この高分子構造では、TMSPMA基は末端セグメント中に高度に濃縮されている(下のNMR参照)。
【0057】
このポリマーの分子量と多分散度をGPC分析(THF溶液、RI検出器;PMMA標準)で測定したところ、それぞれ24,100(数平均、Mn)と1.09であった。各セグメントの予想される分子量を次式により計算した。
【数1】
式中、Mnは、ポリマーセグメントの数平均分子量であり、MWは、モノマー(1段階目)の分子量または併用モノマー(2段階目)の重量平均分子量であり、[M]と[I]は、それぞれモノマーと開始剤(1段階目ではジエチルmeso−2,5−ジブロモアジペート;2段階目ではマクロ開始剤)の初期モル濃度であり、fconvは、転化率(第1及び第2の工程でそれぞれ0.99と0.60)であり、MWは、開始剤またはマクロ開始剤の分子量である。したがって、このポリマーの中心セグメントのポリ(n−ブチルアクリレート)の分子量は18,300であり、末端セグメントの分子量の合計は800(各セグメントが400)である。この末端封止ポリマーの総分子量の期待値は、従って19,100である。第2工程のモノマーブレンドの重量平均分子量は211[即ち128(0.22)+234(0.78)]であるため、末端ブロックは、平均して2個のモノマー単位(二量体)をもち、それぞれが末端当り平均して1.5個のアルコキシシラン単位をもっている。
【0058】
ポリマー主鎖中の繰返し単位の平均数を定義する数平均重合度(DP)は、次式で計算される:
【数2】
【0059】
したがって、このポリ(n−ブチルアクリレート)中心セグメントのDP値は140繰返し単位であり、シラン濃縮末端セグメントのDPは約3.8である。末端セグメントの78%がTMSPMAに由来するため、また鎖が線状である(即ち2個の末端をもつ)ため、鎖末端当りのトリメトキシシラン基の平均数はおよそ1.5[即ち3.8(0.78)/2]であり、BA繰返し単位のシラン末端基に対する比率は約47(即ち140/3.0)である。
【0060】
分子量の測定値と計算値が近く、分子量分布が理論限界の1.01(1+1/DP)に近いため、この反応は精密リビングラジカル重合メカニズムで起こり、第二の重合段階でトリメトキシシラン基が複数のポリマー末端に濃縮されたと結論づけることができる。
【0061】
このポリマーの構造をH−NMR分析で確認した(図1:分取GPCで精製後の実施例1のポリマーのH−NMR化学シフトの帰属(CDCl;300MHz)。少量の試料(約50mg)をまず分取ゲル浸透クロマトグラフィー(分取GPC)で精製して、残存する低モル質量成分によるこの高分子材料の汚染がないようにした。分取GPC前後のスペクトルはほぼ同じであり、最後の溶媒蒸留後には、有意なあるいは測定可能な量のアクリレートまたはメタクリレートモノマーは存在していなかったことを示した。このスペクトルは、δ3.6にトリメトキシシリルの特徴的なシグナルを、またδ0.7にケイ素に隣接するメチレンの特徴的なシグナルを示す。このようなシグナルは、ポリマー結合アルコキシシラン基のみに起因するものであり、中間の1段階目ポリマー(マクロ開始剤)のTMSPMAによる末端官能化が二段階目の反応の間に起こっていることを示す。トリメトキシシラン末端基によるシグナル(シグナルb;δ3.6)の積分値とポリ(n−ブチルアクリレート)単位のエステル側鎖中の−OCH2−に由来するシグナル(シグナルC;δ2.3)の積分値との比較から、BA/TMSPMA単位のモル比は42である。この結果は、化学量論的な考察と上述のIR分析から求められた値の47に非常に近い。
【0062】
スペクトル分析とクロマトグラフィー分析の両方から、このコポリマーの構造が、分子量が約18,300のポリ(n−ブチルアクリレート)の長い中心セグメント1個と、分子量がそれぞれ約400で、セグメント当り平均して1.5個のトリアルコキシシラン基をもつ短い末端セグメント2個とを有する末端濃縮のトリブロックであることがわかる。
実施例2
複数の鎖末端がトリメトキシシラン基で少し濃縮されたポリ(n−ブチルアクリレート)の合成
【0063】
アルゴンで置換した、ステンレス鋼プロペラ翼とシャフト、ドライアイス凝縮器、熱電対、ATR赤外(IR)検出器プローブおよびアルゴンパージラインを備えた500mLのジャケット付きガラス反応器に、n−ブチルアクリレート(248.16g;1.94モル)、銅粉(0.174g;2.74ミリモル、<10μm粒径)、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン(0.63g;2.73ミリモル)(Me−TREN)および無水メタノール(110g)を入れた。この混合物を5℃に冷却し、50torrの真空下で10分間脱気させた。アルゴン下で真空を開放し、この真空脱気サイクルを繰り返した。次いで粉末状のジエチルmeso−2,5−ジブロモアジペート(4.94g;13.73ミリモル)を、陽圧のアルゴン下、攪拌されているこの混合物中に加えた。上述のようにしてこの反応器を真空脱気し、次いでこの混合物をゆっくりと約1時間かけて35℃に加熱した。発熱が観測され、温度が最高で66℃に達し、溶液が緑色を呈した。次いで30分間かけてこの混合物を50℃に冷却した。その時のモノマー転化率は90%であった(IR分析)。3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(17.94g;0.072モル)を添加し、この混合物を3時間50℃で攪拌した。この時、メタクリレートと残存するアクリレートの総消費量は60%と推測された。この粗製反応混合物から減圧下の蒸留でメタノールを部分的に除き(20分間、450mbar、75℃)、得られた溶液をテトラヒドロフラン(THF)(約1L)で希釈した。この希釈溶液を、ドライ窒素雰囲気下で2ベッドの中性アルミナ(各々200g)を通して濾過した。溶媒と残存モノマーを真空下、蒸留で除き(3.0時間、75℃、650ミリトル)、末端トリメトキシシリル濃縮ポリマーを得た(202g;76%回収率)(スキーム1)。
【0064】
実施例1に記載のようにして、このポリマーの構造と組成をGPCと1H−NMR分析で確認した。反応の化学量論とIR分析からシラン基による末端濃縮度が27%と計算された。中心のポリ(n−ブチルアクリレート)の分子量は16,600と計算され、二つの末端セグメントの合計分子量は2,500で、実施例1の分子量に似た総ポリマー分子量の19,100が得られた。GPC分析から、ポリマーの平均Mnが22,600であり、ポリ(メチルメタクリレート化)標準に対する多分散度は1.07であった。中心セグメントの重合度は127と計算され、末端の重合度は各末端セグメントで6と計算された。したがって、各末端セグメント中のトリメトキシシラン基(官能基)の平均数は、およそ1.6[即ち6(0.27)]であり、BA/TMSPMAのモル比は42である。この値は、実施例1に記載のようにして分取クロマトグラフィーで精製したポリマーの1H−NMRスペクトルから求めた数値の38に非常に近い。
実施例3
チオプロピルトリメトキシシランエーテル末端基を持つ、二官能性の5/3/2のエチルアクリレート(EA)/2−メトキシエチルアクリレート(MEA)/ブチルアクリレート(BA)三元重合体の合成
(a)中間体のジブロモ末端三元重合体の合成
【化2】
【0065】
ドライアイス凝縮器、機械的攪拌器、熱電対、FTIRプローブ、アルゴンパージ、ゴムセプタム付き投入口および真空ラインを備え、ペリスタポンプにより反応器に連結されている外部触媒槽をもつ3−Lのジャケット付き重合反応器に、エチルアクリレート(854.4g;8.53モル)、2−メトキシエチルアクリレート(666.3g;5.12モル);n−ブチルアクリレート(437.5g;3.41モル)、ジメチルスルホキシド(541.5g)およびトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン(1.356g;5.89ミリモル)を入れた。この反応混合物を撹拌し、5℃に冷却し、ロール状の銅金網(30×30スクリーン;33.4cm×15.4cm×0.03cm)を触媒槽に取り付けた。真空脱気によりモノマー溶液から酸素を除き(45分間、20torr)、アルゴンでパージした(26mL/分)。この反応混合物にジエチル−meso−2,5−ジブロモアジペート(42.38g;0.118モル)を添加溶解し、脱酸素工程を繰り返した。約500mL/分の速度で、反応器の内容物を連続的に触媒槽を通してポンプ輸送した。ポンプ輸送を70分間した後、発熱が観測され、反応器内の反応温度が24℃に上昇し、その後上昇が収まった。この温度上昇は、アクリレート二重結合のよるIR吸光度の低下と溶液粘度の上昇に対応した。ポンプ輸送速度が200ml/分に低下し、反応混合物が20℃に温まった。11時間後、モノマー転化率が>99%となり(IRスペクトル中の1635cm−1の吸光帯の消失)、反応器を大気で換気した。この粗製ポリマー溶液をジクロロメタン(2L)で希釈し、1ベッドの中性アルミナ(1kg)で濾過して溶解銅塩を除いた。この濾床をジクロロメタン(1L)で洗い、合わせた濾液を水で抽出(600mLずつ6回)して混合物からDMSOを除き、活性モレキュラーシーブと無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。これらの乾燥材を濾過で除き、溶媒を減圧下、蒸留して除いて、初期の供給液中のモノマー比率に相当する組成をもつジブロモ末端のポリアクリレート三元重合体を、無色の粘稠な液体として得た(1.8kg;90%回収率)。この生成物の構造と組成を、赤外とH−NMRスペクトロスコピーと、後述のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で確認した。
IR(ATRモード):IRでは、アクリレート二重結合のピーク(約1661cm−1と約1637cm−1)の消失が認められる。
H−NMR (300MHz;CDCl): δ4.28、t、δ3.90−4.30にショルダー[−CH(COOR)Br];δ3.90−4.30、350H (−OCH−);δ3.53、m、103H (−CHOMe);δ3.32、s、148H (−OCH);δ2.29、ブロードm、178H {主鎖α−メチン[(−CH(COOR)CH};δ1.26−1.97、m;{主鎖β−メチレン[(−CH(COOR)CH、−CHCH−ブチルとアジペート};δ1.21、t、(−CHエチル);δ0.90、t、92H
SEC (THF;1mL/min;RI検出器):平均Mn(PMMA校正)=20,000;多分散度=1.2(単峰性分布);Mn(理論値)=17,000
(b)プロピルトリメトキシシラン末端の5/3/2−EA/MEA/BA三元重合体の合成
【化3】
【0066】
熱電対、機械的攪拌器、ドライアイス凝縮器、アルゴン供給ラインを備えた500mLのジャケット付きガラス反応器に、上述のようにして製造したジブロモ末端の5/3/2−BA/MEA/BAポリアクリレート三元重合体(125g;6.25ミリモル)とテトラヒドロフラン(THF;250g)の溶液を加えた。循環温度を50℃に調整し、この混合物が透明溶液となるまで攪拌した。ヘッドスペースをアルゴンで置換して空気を除き、ジベンゾ−18−クラウン−6(1.12g;3.11ミリモル)、無水炭酸カリウム(5.18g;3.75ミリモル)および3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(7.36g;3.75ミリモル)をこの攪拌混合物に加えた。この混合物を16時間50℃で攪拌し、周囲温度に冷却し、1ベッドの中性アルミナを通して濾過して不溶性塩を除いた。溶媒を濾液から除いて、α,ω−ビス(3−チオプロピルトリメトキシシラン)末端の三元重合体(94.6g;76%)を得た。このポリマーの構造は、H−NMRで確認した(図2)。
実施例4
本発明のポリマーを用いる湿気硬化型組成物
【0067】
本発明の硬化性組成物(樹脂)を配合して湿気硬化型組成物とし、物理的性質を試験した。下の表Iは本発明の組成物1〜3を示す。組成物1は本発明の実施例3(b)からの樹脂を使用している。組成物2は本発明の実施例1の樹脂を、組成物3は本発明の実施例2の樹脂を使用している。
【表1】
本発明の組成物1と2の物理的性質を試験し、その結果を表IIに示した。
【表2】
【0068】
物理的性質の改善は、複数の末端でのまたはそれらの近傍でのクラスターを形成する反応の有効性を示している。このような配合物はさらなる最適化が可能であるが、安価で効果的なポリマー末端官能基濃縮方法を与えることができることを示す。
【0069】
組成物3(本発明の実施例2の樹脂)を混合し、次いで特性評価用のレオメータ上に載せた(8mmの板、25℃、r=1%、w=30rad/s、Fn=0)。図3に示すように弾性率を時間の関数としてプロットして、本発明の樹脂を含まない市販の湿気硬化型ポリアクリレート樹脂カネカOR110Sと比較した。クラスター状の官能基をもつ組成物3(本発明の樹脂2)は、市販のカネカ樹脂と較べて、より短時間のうちにより高弾性率が得られることで示されるように、有意に速く硬化し、このカネカ樹脂より高い最終弾性率を与えた。
実施例5
デュアル硬化型ブレンド組成物(UV及び水分硬化性)
【0070】
上記の湿気硬化型組成物2を、市販のUV硬化性樹脂(カネカRC220C)および光開始剤(ダロキュア1173)と混合して、3種の異なるデュアル硬化型組成物A、BおよびCを形成した。下の表IIIは、組成物A〜Cそれぞれの成分の相対重量を示す。
【表3】
【0071】
デュアル硬化系Aは、1:1の比のUV硬化部と湿気硬化部を有していた。UV硬化部は、市販のカネカRC220Cと1.5重量%ダロキュア1173(UV開始剤)を含むUV部配合物(総量4.16g)であった。湿気硬化部は、表IVに示す成分を含む調合された湿気部配合物(総量4.18g)であった。
【表4】
【0072】
1:1比のUV:湿気デュアル硬化系(組成物A)を、25℃で8mm板と1mm間隙を用いてレオメータにより分析した。60秒間103mW/cmでUV照射を行った。適用された歪量(γ)=1%であり、角振動数(ω)=30rad/sであった。対照試料のRC220C/OR110Sと比較しながら、これらの結果を図4に示す。
【0073】
デュアル硬化系(組成物B)のUV:湿気硬化部比は1:2であった。UV硬化部は、カネカRC220Cと1.5重量%ダロキュア1173を含むUV部配合物(3.01g)であった。湿気硬化部は、表Vに示す成分を含む調合された湿気部配合物(総量6.182g)であった。
【表5】
【0074】
ジブチル錫ジラウレート以外の全成分を混合し、容器を窒素ガスで置換し、暗所で一夜保存した。翌日、ジブチル錫ジラウレートを添加し試料をかなり濃縮したが、ゲル化しなかった。デュアル硬化系Bを、8mm板、1mm間隙、90秒間103mW/cmでのUV照射(γ=1%、ω=30rad/s)を用いてレオメータで分析した。
【0075】
デュアル硬化系(組成物C)のUV:湿気硬化部比は2:1であった。UV硬化部は、5.90gのカネカRC220Cと0.092gのダロキュア1173(UV開始剤)であった。湿気硬化部は、表IVに示す成分を含む調合された湿気部配合物(総量3.556g)であった。
【表6】
【0076】
UV硬化部と湿気硬化部の両方を高速ミキサーで混合し、得られたデュアル硬化系Cを、8mm板、1mm間隙、90秒間103mW/cmでのUV照射(γ=1%、ω=30rad/s)を用いてレオメータで分析した。
【0077】
図4および図5に、デュアル硬化型組成物の分析を示す。このような図から、クラスター状官能基を持つSET−LRPポリアクリレートが、対照のカネカOR110Sと較べてより速やかに硬化し、より高い最終弾性率を与えることがわかる。デュアル硬化系A(1:1)、B(1:2)およびC(2:1)のレオメータでの試験結果を図5に示す。
図1
図2
図3
図4
図5